あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

真白なる使い魔04


 学院長の執務室は中央棟の最上階にある。中央棟は1階から大食堂、舞踏会場、宝物庫、そして長い長い階段を経て、ようやく頂上階の学院長室へと到達するという構造だ。
 さすがにトリステインを代表する施設の中枢だけあり、その姿は流麗にして優雅であるといえよう。
 ルイズに案内されて訪れたマシロは、半ば緊張しつつその扉を潜った。部屋の形は半円、入ってすぐの所にある受付の先、部屋の中央のソファーの辺りに、コルベール教師と妙齢の女性、そして立派な白髭を蓄えた貫禄ある老人の姿がある。おそらくこの老人がこのトリステイン魔法学院の学院長オールド・オスマン翁なのだろう。
「ほうほう。コルベール君から聞いてはおったが、これはなかなかのべっぴんさんじゃのう。わしがこの学院の長を勤めるオスマンじゃ。」
 開口一発、出会い頭のオールド・オスマンの言葉は他の何でも無く、そんななにげない一言だった。かかる非常の事態において尚、こうした平常心を保てるとは流石は一機関の長とでも言うべきか。
 その時、足下に小さい影が走るのに気付き、思わず飛び退くマシロ。一瞬秘書とおぼしき女性が眉をひそめる。オスマンは、その小さい影に手を差し出すと、影の主である一匹のハツカネズミを手に乗せ耳元に近づけると、ふむふむと頷いた。
「白か。うむ、実に似合っておるのお。ほっほっほ」
 訂正。ただのエロ爺の様だ。オスマン学園長の隣に控えていた緑の髪の妙齢の女性が、この好色老人をけたくり回す様子を見ながら、本来ならば悲鳴を上げるべきなのだろうが、性別がいきなり変わってしまった衝撃もあって、すっかり気疲れをしていたマシロは、恥ずかしさに顔を赤く染めつつも、余りにも余りなその光景に、ただあっけに取られるばかりだった。
 その脇では召喚の際に立ち会っていたコルベールが困惑と共にメガネを直している様子が見受けられ、この人物の若禿は、この上司による心労の賜であろうかとマシロには思われてならないのであった。

「え、えーと。ミス・ヴィントブルーム。まずは身の証というワケで、装身具を貸してはいただけないでしょうか?」
「あ、はい」
 ようやく平静にもどったのだろう彼の言葉に、3つのマスタージェムの指輪とティアラを差し出すマシロ。コルベールはソレを受け取ると、情け容赦なくオスマン学院長を蹴り続けていた女性、ミス・ロングビルに声を掛け制止すると、起きあがった学院長にそれらの品を手渡す。
「では、まずはこれらの品を鑑定して、質を確かめてみるかの。大体こうしたモノは、品質を視れば、その所有者の社会的な階級なども見えてくるものじゃからな。」
 わざとらしく咳をして体裁を整えると、そう言いながらオスマンはまず、受け取った品の内ティアラを手に取り、目に細工師が使うようなレンズを填め込んで注意深く観察を始めた。
「ほう・・・・」
 時折、感心するように呟きつつティアラを一通り眺めると、今度は杖を片手に何かしらの呪文を唱えた。そして、ゆっくりと机にティアラを置いて、オスマンはレンズを外し、顔を上げる。
「確かに、この品であれば王族の証たり得るのう。」
 ニヤリと口元に笑みを浮かべる老魔法使い。
「一見これは銀にも見える。だが正真正銘のプラチナじゃ。それも粉末冶金ではなく鋳造で形成されておる。すなわち、本来トライアングル級の火のメイジの協力が得られねば作り得ぬ高温で作成されたと言うことじゃ。さらにこの施された細工や填め込まれたサファイアも一級品。少なくともかなりの大貴族でなければこれだけの装飾品は得られぬじゃろうのう。ティアラですらこれだけとんでも無いわけじゃが、さて、もう一方の指輪はどの様なモノか、楽しみじゃて。」
 彼はそう言い、先程と同じ手順で指輪を調べ始めた。
「台座は同じプラチナ製か、しかし問題はこの石じゃ。それぞれサファイア クリソベリル 紅水晶なのは解る。しかしその結晶の内部にごく微少な、それも目に見えぬサイズの文様のようなモノが規則的に刻まれている。正直、これ程の物はスクウェア級のメイジでも、いや、そもそも作成の手段すら解らんな。」
「と言うことはどうなるのでしょう?」
 コルベールの問いにオスマンが答える。
「つまりは、どこぞの王侯貴族なのは確実。ただしこのハルケギニアにおいて、我々の知る地域とは情報の隔絶された、我々よりも遙かに進んだ工作技術を持つ国の出と言う事になる。」
 そこまで一息で言うと、改めてマシロの方へ向き直る。
「そこでじゃが、ミス・ヴィントブルームよろしいか?」
「はい?」
「おまえさんの国、ヴィントブルーム王国の場所を教えて貰いたいのじゃ。」
 そう言って、オスマンが杖を振るうと、脇に立てかけられていたスクロール状の大きな紙が机の上に広げられ、宙に浮いたペンが、そこにトリステイン ゲルマニア といったこの辺りの主要国と未到達地であるサハラまでを、広げられた紙の上の中心の辺りに描いていった。
 本格的な魔法の発動する姿を初めて見たマシロが、好奇心もあってただ見つめていると、やがてそのペンはごく自然に彼女の手に収まる。
『多分違う世界なんだけど、どう説明したらいいんだろ』
 そう思いつつ、改めて描かれた地図を見下ろしたとき、マシロの胸の鼓動は高まった。それまでマシロはこのハルケギニアという大陸は、月が2つもあるという事で別の惑星ではと見当を付けていた。しかし、同じなのだ。海岸線の形状がエアルのそれと全く。
 そう気付いた時、昼間のルイズの言葉が脳裏に蘇る。
『月はどちらも魔法にとって重要な意味を持つのだけど、小さい月の方は「より魔法に関係が深いのでは?」っていう学者も居るようね。』
 そして自分が思い出した失われしエアルの第二の月『媛星』の伝説。共に魔の月であり、伝承に従えば、従来の月より小さかったという類似点。さらには今地図で目にしたハルケギニアの海岸線。マシロはその事実に気付くと、一心不乱にその指に握られたペンを走らせていた。
 まず彼女の白魚のようなしなやかな指が描き出したのは大陸全域の海岸線。オスマンやコルベールは、真剣な眼差しで見つめ続ける。そこに描かれるのは、もはや行き来の途絶えた東方世界の姿。それだけでこの地図には相当の価値があると言って良いだろう。
 次いで書き込まれたのは国家名とおおまかな国境線だった。
 マシロが名称をハルケギニアのモノとは異なる文字で書き込みながら、その名を読み上げていく。

 大陸の東端の先にある弓状列島『ジパング』
 その対岸の広大な土地を支配する大国『大趙(タイユアン)』
 タイユアンの南方、東端からを領土とする『安南(アンナン)』

 アンナンの西方、南部半島からサハラに至るまでを支配する『マウリヤ』

 慌ててオスマンが別のペンを地図に走らせ、ハルケギニアの文字でその発音を記す。
 そして次に少女が書き込んだ内容に、オスマン達は絶句する事となる。


 ゲルマニア帝国と大陸東方の北部に『アルタイ公国』
 ガリア東部に『フロリンス王国』
 ガリア西部に『カルデア帝国』
 ガリア王国南部とサハラ、すなわち大陸中央南部に『エアリーズ』
 ロマリア北部に『ルーテシア・ロムルス連合王国』
 ロマリア南部に『ルーテシア・レムス連合王国』

 そしてマシロによって最後に書かれた国名とその位置こそが、この事態をさらに悪化させるのであった。

 すなわち、トリステイン+ガリア中央の北部に記された『ヴィントブルーム』という国名が。

 目を見張るオスマン。そしてコルベールや同行していたルイズまでもが息を呑む。
「ミス・ヴィントブルーム。そここそがこの国、トリステインなのですよ?」
「ボクも、まさかとは思うんですけど、ボクの国ヴィントブルームは確かにココなんです。そして、ボクの予想が正しければ、この世界はボクの知る世界の過去なのかもしれない。そう思えて来るんです。」
 老人の目付きが鋭くなる。オスマンは呪文を唱え、マシロの額にうっすらと燐光を帯びた手をかざした。
「続けてくれんか。」
 厳たる態度のオスマンに気圧されることなく、マシロは強い眼差しで答える。
「最初にそう思ったのは、ハルケギニアの海岸線の形を見ての事でした。これはボクの居た世界であるエアルのとある地域のそれに酷似していたんです。
 それを見てふと思い出したのが、ルイズちゃんが昼間に教えてくれた二つの月についての事でした。
 『月は魔法にとって重要な意味合いがあり、特に小さい月については、より深く魔法に影響を与えるという考えがある』という事。これはボクの世界エアルにある伝承とかなり合致するモノなんです。」
 少女の澄んだ声が森厳たる静寂をもたらす。ソレを破るのは老人の声。
「だが、それだけでは、そのエアルと呼ばれる世界とこの世界が同一とは言い切れまい。そもそも、おぬし等の世界には魔法は存在しないという話じゃったが。?」
「そうですよ、エアルという世界がこの世界の未来だとして、この時代の事がエアルに残っていないと言うのはどうしても考えられない。さらに言えば貴女の使う文字と我々の使う文字の違いです。同じ世界と考えるには、余りにも違う部分が多いではありませんか。」
 オスマンに続き、コルベールも口を開く。疑問点があまりに多すぎるのだ。
「とりあえずは、その『伝承』とやらについて教えてはくれんか?」
「はい」

 マシロは、コクリと頷いた。



 それは一部のモノのみに知らされた伝説。

 一般には移民星とされる惑星エアル。 
 しかしそのエアルこそが母なる人類発祥の惑星『地球』であるという。
 そして地球と呼ばれていた時代のエアルには、かつて従来の月の他にもう一つの魔力を秘めた月があった。
 その月は、かつて『蛭子(ヒルコ)』と呼ばれ、後には『媛星』と呼ばれた。
 しかし、その月が媛星と呼ばれた時代に起こった、HiMEと呼ばれる媛星から高次物質化能力を得た少女達が相争った争いで、媛星は二つに切り裂かれ、一つは『漆黒の金剛石』と呼ばれる物となり、もう一方が『真白なる金剛石』となった。
 後に『真白なる金剛石』ヴィントブルーム王家に伝わり、正当な王位の証となり、もう一方の『漆黒の金剛石』は歴史の闇の中で行方不明になったという。
 そしてその伝承はこう伝える。
『ヴィント王家に伝わる真白なる金剛石と、失われし漆黒の金剛石。
 この二つが再び一つになったとき、媛星の力である世界を作り出す魔力が蘇るであろう』と。
 そして時は下り、真実を知って二つの貴石を求めたものが現れた。
 しかし彼は失敗し、世界は滅びの危機に瀕した。
 生き残った人々は、過去の歴史を封印し、移民星エアルという偽りの歴史をねつ造し、新たなる歴史を歩み出したのだという。
「・・・・そうして移民歴という年号が始まり数千年。さらにボクの時代の300年前に起こった十二王戦争によって、地球時代・・・・表向きは移民星エアルにやってくる以前の時代の記録の全てが失われました。ですから、過去にハルケギニア大陸という名称があったかどうか、そしてどの様な文明が栄えていたのか、どんな歴史的出来事があったのか、それらは一切解らないんです。」

 マシロが長い説明を終え、息をつく。オスマンはソレを見て、長い間マシロの前にかざしていた手を戻し、マシロとルイズの二人をソファーへと誘うと、秘書ミス・ロングビルに合図して少女達に水を差し出した。
「ウソでは無いのは確かなようじゃ。そして内容的にも理屈が通っておる。まあ、かなり高い確率で、このお嬢さんの国ヴィントブルームが未来のトリステインなのは確かじゃろうて。」
 マシロを安心させるという為もあるのだろう、オスマンの顔から厳しさが消える。
「で、質問なんじゃが、ミス・ヴィントブルーム。魔力の源たる月『媛星』の断片である『真白なる金剛石』はヴィントブルーム王家に王位の証として伝えられているんじゃったな。」
「はい。」
「でじゃ、そうした物が伝わっている王家にあって、『魔法』ないし『魔力』という言葉に聞き覚えは無いじゃろうか?あるのであれば、是非とも聞かせて欲しい。」
 『魔力』そして『魔法』。それらの言葉がマシロに思い出させるのは己の半身たる血を分けた双子の妹の顔。そしてこのハルケギニアへと通じる扉を潜る前に交わした言葉。自然、マシロの顔に温もりある優しさが浮かび、そして消える。
「ボクの双子の妹が魔力を持っているというウワサがありました。でも妹は・・・・・・。」
「いや、それ以上話したくないのなら話さずとも良いぞ。」
「すいません。」
 オスマンは愛用の水パイプを咥え、紫煙を深く吸い込むと続ける。
「つまり、ヴィントブルーム嬢の双子の妹さんには魔力が有ったらしいのはわかった。ならば、お主自身にも有ってもおかしくは無い。少し調べてみるとしよう。」
 そう言って壁際の戸棚からオスマンが持ってきたのは、一個のランプであった。
 真鍮の金色の鈍い輝きが、落ち着いた空気を演出している。これならばアンティークとしてもまずまずの一品と言えるかもしれない。
 マシロ達の前のテーブルにそのランプが置かれる。
「これは『魔力の灯火』というマジックアイテムでな。本来は使用者が魔力を宝玉に溜め込んで、それをここの蓋から入れる事で、長時間光を灯し続けるという、まぁ他愛の無いマジックアイテムじゃ。もっとも、ここにあるコイツは少々壊れていてな、ほれ、そこの棒をじゃ、こうして摘んで直接蓋の中に突っ込んで魔力を送り込み続けてやらんと光りゃせん。」
 オスマンの指が触れた棒が押し込まれると同時に、ランプは光を放ち始める。
 やがて光は収束して一つの像を結び始める、それは何なのだろうかと、マシロとルイズの二人が目をこらしたその時、オスマンは唐突に指を棒から離した。
「あ~まあ、長く触れていると、時折自分の心象風景やら魂の姿とでもいうモノが像として結ばれる事もあるんじゃが、人に見せるのも照れくさいからな。」
 ぽりぽりと頭を掻きながら、明後日の方向を見つつのたまう。余程見られたくないものでも写りかけていたのだろうか。
「と、とりあえずじゃ。これで魔力の有る無しや、場合によっては属性も解ったりする。そうそうさっきのような事態にはならんと思うから、これで調べてみようかの。」
 オスマンに促されるままに棒に触れるマシロ。すると小さな灯火程度ではあるが、確かにランプは輝き始めた。
「これは、一応魔力はあるという事でよろしいのでしょうか?オールド・オスマン。」
「うむ、全く魔力の集中の方法を知らない以上、まあこんなもんじゃろう。」
 コルベールの問いに答えるオスマン。そんな中でコツでも有るのかと興味を持って色々と試すマシロ。そしてそれを見た老爺はマシロの棒を持つ手に触れる。
「息は深く、指先に意識を集中して、水が身体の中を指先に向かって流れるのをイメージするんじゃ。そう、徐々にゆっくりとおちついて・・・・・・。」
 マシロのイメージの中で、小さな流れが集まりつつ、そしてやがて川となり、そこへと流れ込んでゆく。大きく息をゆっくりと吸い、それを思い浮かべつつ、指先に意識を集中。するとやがて、意識していないのにより多くの力のようなモノが、指先に集まっていくのが感じられた。ランプはそれに併せて次第に輝きを強めていき、周囲を閃光で包む。
『もうかまわん、十分じゃ、止めなさい!』
 オスマンがそう叫ぼうとした時、それは圧倒的な存在感で、巨大な像を結んだ。
 それは龍だ。それも全身に炎を纏う白い龍。何故であろうその眉間には剣の様なモノが突き立てられているが、それは一切痛々しいなどというイメージもなく、その龍の肉体の一部であるかのように、その身体に調和して存在している。
「キレイ……。」
 それまで、この部屋に入ってからずっと発言を控えていたルイズが声を漏らす。それはその場に居合わせた者のうち、マシロを除く一同に共通した感想だった。そしてマシロにとってはそれ以上に印象深い存在であった。
「あのときの黒い龍?いや、でも白い・・・・。」
 もしマシロがもっと過去の存在『チャイルド』に詳しければ、ソレをこう認識したであろう。
 それこそが真の『カグツチ』であると。
 カグツチはオスマンやコルベールといったその場に居合わせる者達の存在に気付くと、大きく首を伸ばし起立し、その胸から首へと烈光が立ち上る。
『いけない!!』
 マシロには、何故かソレが何をしようとしているのかが、手に取るように解った。それが、その龍カグツチにとって最大の攻撃手段である、プラズマ球の放出の準備態勢である事に気付き、マシロは驚きのあまり思わずそう叫んでいた。
 しかしその声を聞いたハズのオスマンの態度は落ち着いたモノ。「安心せい。」と声をかけて、むしろマシロを落ち着かせる程。
 そしてマシロやオスマンといったその姿を見ていた者達に、カグツチのプラズマ球は放たれた。
「ほう、属性は『火』か」
 平然とそう評価を下すオスマンや、一瞬険しい表情になるもすぐにいつもの表情に戻り、微動だにせずその光景を観察するコルベールとは対照的に、ミス・ロングビルは思わず杖を構え、ルイズもマシロと繋いだ手に力が入る。そしてマシロも、友となったこの少女を抱きしめんと、ランプに突っ込まれた棒から手を離す。
 その瞬間、白い身体に火炎を纏わせた巨大な龍カグツチの姿が吐きだしたプラズマ球諸共にかき消える。
 呆然として惚けるのはロングビル、マシロ、そしてルイズの三人。それに対してコルベールやオスマンは予想の範囲とばかりに、そんな三人の姿を見て微笑んでいた。
「げ、幻影?。」
 マシロがただそう一言漏らす。
「まあ、この『魔力の灯火』の結ぶ幻影はやたらにリアルじゃからな。時には頭で解っていても、勘違いしてしまうこともあるわい。」
 そんなオスマンの言葉に赤面する三人。ふとルイズが何かに気付いたかのようにコルベールの顔を凝視しているのに気付き、話しかける。
「どうしたの?」
「ああ、あのね。オールド・オスマンはともかく、ミスタ・コルベールもあのとき落ち着いてたなって。もしかしてミスタ・コルベールも実はスゴイ人なんじゃないかって、ふと思ったわけなのよ。まあ、あり得ないけどね。」
 その声が聞こえたのか、コルベールは照れて鼻の頭を掻いていた。
「なに、私の場合は、最初からそういう物だと知っていたから、とりだててキケンと思う必要もなく最初から最後まで平然としていられたんですよ。」
「まあ、そういうことじゃ。」
 マシロはふと二人の言葉に違和感を感じたが、取り立てて気にする必要もないかと、手元のコップに手を付けるのであった。

 それからの時間は、両者にとって気楽な時間であった。
 マシロが魔力を持ち、魔法の習得が可能と解った事もあり、『1学年への編入生』というありふれた身分に確定した事で、ごく事務的な内容の作業が残ったが、それもすぐに済み、あとはマシロが居た世界の話をいくばかりか交わした程度。話の途中で用事を言いつけられたコルベールが名残惜しそうに中座したのが印象的ではあったが、同じ場所にいれば、言葉を交わすこともあろうという考えに至り、とりだててマシロはなんら行動を起こそうとも思えなかった。
「まあ、そういう事で、しばらくはミス・ヴァリエールから文字を習うなりして待っておるように。やがて王宮の方でもう一度審問があるじゃろうが、ソレさえ済めば比較的自由に行動する事が可能となるじゃろうしの。あと、制服については明日の朝にでも用意するので待っていてくれると助かる。とりあえず、元の世界に戻る方法はこちらで探しておくので安心していてくれ。」
 締めの言葉とばかりにオスマンが語りかけるのを聞き、ふと、重要な事を言い忘れていたと気付く。
「あの、戻るまでの事なんですが。」
「ん?どうしたんじゃね」
 緊張からか、ゴクリと唾を呑むマシロ。
「戻るまでの間、ルイズちゃんの使い魔をやらせてはもらえませんか?
 なんでも『使い魔が居ないと落第』って事みたいじゃないですか。ボクが来たせいでルイズちゃんに迷惑が掛かるのはちょっと‥‥。」
 あきれ顔のオスマン。ぷっと吹き出し返事を返す。
「いや、重要なのは『呼び出す』という事の方じゃからまあ落第にはならんよ。もっとも使い魔の役割を果たしてもらえると言うのならば、こちらとしては感謝こそすれ、断る意味など無いからのう。」
 二人の顔がぱっと輝く。
「ありがとうございます」
 どちらともなく声を合わせ、二人は頭を下げた。オスマンはそんな二人を見てヨイヨイと手を振り、学院長室から送り出し、かくして、学院長によるマシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームの審問は終了した。



 夜の闇の中ランプの光がオスマンの顔を照らし出していた。すでにミス・ロングビルも退室した頃、コルベールが学院長室に戻る。
「用件は済ませてくれたかね?」
「ええ、二人とも快く引き受けてくれましたよ。」
「そうか、では酒宴とでもいくか、二人きりのではあるが」
「いいですね。」
 指でメガネを直すコルベール。
 オスマンは口元に笑みを浮かべ、戸棚から年代物のワインの瓶を取り出す。もう片手には二つのワイングラスが握られていた。



つづく


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