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Mr.0の使い魔 第十七話

 アンリエッタ一行はそのまま一泊し、翌日宮殿に戻るらしい。教師達
は王女や枢機卿、そして護衛の衛士隊の寝床を確保する為に四苦八苦し
ていた。全ては書類の処理を滞らせたオスマンに責任がある、のだが、
誰もその事には触れなかった。学院長室に女っ気がないと仕事が遅れる
のはいつもの事だからである。
 生徒達には、王族に何か粗相があってはならぬ、と翌朝まで寮内待機
が命じられた。当然ながら、使い魔も出歩く事はできない。というより、
主人が命じれば、基本的に使い魔は言う事を聞いておとなしくしている。
 あくまで“命じれば”であり、“基本的には”であるのだが。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第十七話


「なぁ、旦那。部屋を出るのはまずいと思うんだが」
「指示があったのは生徒に対してだけだ。それに、ルイズは何も言わなかっただろう」

 デルフリンガーを携え、クロコダイルは寮を抜け出していた。
 先ほどの青年は姫の護衛であるから、明日になればこの学院を去って
しまう。それはつまり、相対して評価するチャンスを一つ失うという事
だ。こうして巡り会った機会をフイにするのはもったいない。
 なお、この独断行動にルイズが何も言わなかったのは、部屋に戻って
からも相変わらず惚けたままだったからである。決してクロコダイルの
行動を容認したわけではないと、彼女の名誉の為に付け加えておこう。

「次の機会があるかどうか、怪しいからな。とりあえず挨拶ぐらいはしておきたい」
「理由はどうすんだ? 役に立つかどうか試しに来ました、なんて直球だと間違いなくキレるぜ」
「主人を見ていたのが気になった、とでも言えばいいさ。これでも一応、使い魔だからな」


 月明かりに照らされた中庭の一角。
 件の青年は、思ったよりも早く見つかった。

「やあ、ミスタ・クロコダイル。こんな所におられましたか」

 というより、向こうもクロコダイルの事を探していたらしい。笑顔で
手を挙げる様子はいたって普通の好青年であるが、裏で何を企んでいる
かわかったものではない。野心の一端を垣間見た事もそうだが、対外的
にはルイズの使い魔で通る筈のクロコダイルに、わざわざ敬称をつけて
呼びかけたのだ。おまけにどこで聞いたのか、名前まで知っている。

「これはこれは。まさか姫殿下直属の護衛の方に声をかけていただけるとは」
「そう畏まらないでください。第一僕の方が若輩のようですし、遠慮は不要ですよ」
「そうか……では、まず名前を教えてもらえないか。こちらだけ知られているのも不公平だろう」
「これは失礼。僕はワルド、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 魔法衛士隊でグリフォン隊の隊長を任されている、風のスクウェアメイジです」

 羽帽子を脱ぎ、優雅に一礼するワルド。
 一方で、クロコダイルは聞き覚えのある名前に記憶を手繰った。

「ワルド……確か、一年前のワイバーン討伐の候補も同じ名前だったな」
「おや、その話をご存知でしたか。恥ずかしながら、僕なのですよ」

 照れくさそうに笑ったワルドは、一転してまじめな顔つきになった。

「実は、少しお手合わせ願えないかと思いましてね」
「手合わせ?」
「強いと噂の人がいると、どうにも自分より上か気になってしまって。
 スクウェアの【固定化】を打ち破ったあなたの力、ぜひ見せていただきたい」


 朝方デルフリンガーの検証を行った平原で、クロコダイルとワルドが
対峙する。彼我の距離、およそ10メイル。
 いち早くサーベルのような杖を抜き放ったワルドは、全く身構えない
クロコダイルに眉根を寄せた。

「杖を構えないのですか?」
「残念ながら、おれはメイジじゃない。期待に添えるよう努力はするがね」
「……わかりました。手加減は、なしですよ」
「いいだろう」

 冷たく静かな夜の空気に包まれた二人は、互いに闘気を滲ませ、眼前
の敵を睨みつける。
 溢れる気迫を汲み取ったデルフリンガーが、鞘の中でぶるりと震えた。

——……ォーン

 澄んだ風に乗って、どこからか獣の遠吠えが響く。
 それが、引き金。

「はぁッ!」

 風を纏ったワルドが飛び出した。【フライ】を使い、地表すれすれを
滑るように飛ぶ。二つ名の『閃光』のごとき鋭い突きが、クロコダイル
めがけて繰り出された。

「ふん!」

 突きが胸に達する寸前、クロコダイルが左手を振るう。あまりに遅い
迎撃は、普通ならばよくて相打ちだ。しかしクロコダイルにとっては、
この距離こそが必殺の間合い。
 杖の切っ先が、クロコダイルの胸を貫く。
 ワルドは目を見開いた。杖は一切の抵抗を感じさせる事なく、相手の
体を貫通したのだ。しかも左手のかぎ爪は止まる気配を見せない。

「くっ!」

 慌ててもう一度【フライ】を唱えながら、ワルドは全力で前に飛んだ。
互いの体がぶつかる寸前、クロコダイルの上半身が弾ける。未だに形を
保つ爪がマントに引っかかった所で、ようやく【フライ】が発動。砂塵
を突っ切って間合いを広げたワルドは、着地と同時に大きく息を吐いた。

(話半分だと思ったが……確かに、化け物じみた能力だな)

 背筋を冷たいものが奔る。【フライ】が少しでも遅れていれば、鋭い
かぎ爪がワルドの体に食い込んでいた。幸いにマントの裾が少し破れた
程度ですんだものの、へたをすれば致命傷だ。
 視界の中央に捉えたクロコダイルの体は、再び砂を集めて復元を終え
ている。ワルドは、まるでサンドゴーレムでも相手にしているような錯
覚を覚えた。それもとびきり強力なヤツを。

 振り向き様、クロコダイルが右手を振り上げる。

「【砂漠の宝刀】!」
「【ウィンド・ブレイク】!」

 攻撃は全くの同時。二人の中央で砂の刃と空気の波がぶつかり合い、
一瞬の拮抗が生まれる。しかし“面”を押し流す【ウィンド・ブレイク】
と“線”で切り裂く【砂漠の宝刀】が力のバランスを保ったのは、ほんの
僅かな時間だった。二つに分断された風がクロコダイルを、多少勢いを
減じた砂がワルドを襲う。

「ちぃ!」

 サンドバッグを殴ったような音が響き、クロコダイルの両腕、肩から
先が吹き飛んだ。瞬時に砂と化した腕はすぐに復元できたものの、受け
流していなければ肩や腕の関節を破壊されていただろう。普通の人間は
まず間違いなく戦闘不能である。

「ぐぅッ!」

 馬に体当たりされたような衝撃を喰らって、ワルドは数メイルも後ろ
に弾かれた。地面を切り裂く切っ先が、先ほどの激突で幾分鈍っていた
のが幸いだ。放たれた直後のあれを受けていたら、今頃左右真っ二つで
転がっている。

「やり、ますね。ミスタ」
「子爵もな」

 どちらからともなく、獰猛な笑みが浮かぶ。まだ、幕引きには早い。
クロコダイルが右手を、ワルドが杖をそれぞれ構え——。

「そこまでだ、御両人」

 岩陰から現れた老人の一声が、二人を止めた。


「初めまして、と言うべきだろうな。私はマザリーニ、この国の枢機卿を務めておる」

 そう自己紹介した老人——マザリーニは、一切の表情を浮かべない顔
をクロコダイルに向ける。唯一感情を読み取れる彼の目は、国の利害を
追求する冷たい眼光が見え隠れしていた。

「なるほど……貴様の差し金というわけか」

 殺気の混じるクロコダイルの視線にも動じず、マザリーニは平然とし
たものだ。随分と肝の据わった老人である。

「この年でも耳は健康でね。陰口から何から、いろいろと聞こえてくるのだよ。
 その中に、『メイジを上回る異能の平民』などという話があった。
 正直どこのほら吹きが流したかと思ったが、それでも少し気になったのだ」

 以前の本塔破壊事件については、今や学院で知らぬ者はない。出入り
する人間がその話を聞きつけたとしても、またその者が外部に噂を持ち
出したとしても、別段おかしな事ではないのだ。
 国の上層部にまで伝わっている、というのは少々驚きだが。
 この世界の情報網を甘く見ていたと気づかされ、クロコダイルは奥歯
を噛み締めた。

「そう身構えてくれるな。別に君を害するつもりはない」
「今の所は、だろう」
「そうだな。今の所は、だ」

 プレッシャーの応酬で、周囲の空気が蜃気楼のように歪む。横で二人
の対話に耳を傾けるワルドの目には、確かにそう見えた。全身が鉄の鎧
でも着せられたように重い。
 それに気づいたマザリーニが、軽く息を吐いて苦笑した。

「少しおふざけが過ぎたか。失礼した、ミスタ・クロコダイル」
「……いや。それより、用件は何だ。あまり遅くなると、主人の癇癪が爆発するんでな」

 無断で部屋を出た時点で癇癪も何もないのだが、実際がどうであれ今
のクロコダイルにはどうでもよかった。何かしら軽口を叩けるのは余裕
がある証拠で、見せ方次第では相手の対応も変わってくる。
 クロコダイルの言葉をどう受け取ったか、マザリーニはくるりと踵を
返した。

「ここでは落ち着いて話し合いもできまい。続きは部屋の方でしよう」


 マザリーニに宛てがわれていた客間は、ベッドと机と椅子があるだけ
の質素な部屋だった。生徒の部屋でももう少し何かしら物があるのだが、
彼にとってはどうでもいいようだ。木製の椅子に腰掛け、マザリーニは
ワルドに視線を送る。

「さて……ワルド子爵、説明を頼めるかね」
「かしこまりました」

 今まで沈黙を通していたワルドが、杖を手に【サイレント】の呪文を
唱えた。壁や床、天井に限定するよう効果を調整するその技術は、風の
スクウェアの面目躍如といった所か。最後に【ディティクトマジック】
で効果のほどを確かめると、ワルドは鋭い目つきでクロコダイルに向き
直った。

「ミスタ・クロコダイルには、僕と一緒にアルビオンに赴いていただきたい」
「アルビオンだと?」

 召喚された直後のオスマンとの対話の中で、クロコダイルはその名を
聞いた事がある。あの時目にした地図には、北西の海の上に島国として
描かれていた。

「アルビオンは、現在紛争の真っ最中です。
 王家を主君にする王党派と、その王家を叩き潰そうとする貴族派とのね。
 現在は貴族派優勢で戦況が推移しており、王党派が潰えるのも時間の問題でしょう」
「まさか、その負けそうな王様を助けろ、なんて言うんじゃあるまいな」
「いえ、これはあくまで知っておいてほしい情報です」

 あからさまにアルビオンの王を見下したクロコダイルの物言いだった
が、ワルドは気分を害した様子はなく、淡々としている。マザリーニも
同様だ。

「内紛すら手に負えない王家ではその先もたかが知れている。
 それより問題は、貴族派がアルビオンの政権を手にしてからだ」
「国としては、このトリステインよりも小さかろう。何が問題になる」
「確かに、国土や人数ではこちらが多少優位です。
 しかしかの国の軍備は、残念ながらトリステインを凌ぐ優秀な物が多い。武器も、人も。
 我が国は、連中がこちらに矛先を向けた場合に備え、隣国ゲルマニアと同盟を結ぶ事にしました」
(ゲルマニア——あのお姫様が訪問していた国だな)

 なるほど、国同士の同盟を結ぶというのは悪くない。利害関係の一致
さえ確定すれば、政治や軍事である程度の融通が利く。仮にアルビオン
がトリステインを攻めたとしても、利益が認められる間はゲルマニアが
援護してくれるだろう。過剰な期待は禁物だが、少なくとも牽制ぐらい
にはなる。

「このパレードは、ゲルマニアと同盟を結びに行った帰りというわけか」
「そうです。が、この同盟締結にあたって懸念事項が見つかりました」
「懸念?」
「実は、同盟にあたってゲルマニアの皇帝と、姫様が結婚する事が条件となったのですが」
「政略結婚ぐらい、別に珍しくもなかろう……まさか、御破算になるようなスキャンダルでも?」
「その火種が、アルビオンに眠っているのですよ。姫様の愛を綴ったラブレター、という形でね」

 アンリエッタがアルビオンの皇太子、ウェールズ王子に宛てた手紙。
それを回収しに行くのだ、とワルドは言う。現在ワルドは貴族派の内部
にスパイとして潜り込んでおり、潜入はそう難しくない、とも。
 たかが手紙と侮るなかれ。邪魔な人間のマイナスイメージを強調して
追い落とす、というのは、意外に役に立つ戦術なのだ。クロコダイルの
アラバスタ乗っ取り計画——【ユートピア作戦】でも、偽の王と王軍を
仕立てて町を破壊させ、反政府感情をとことん煽った。
 だが、とクロコダイルは考える。その程度の事は相手も考えつく筈。
仮にその手紙が存在していなくとも、偽の手紙をでっち上げれば同盟の
妨害は可能である。実物がない場合でも、口先三寸で揺さぶりをかける
程度の事は簡単にできるのだ。
 処分が容易いならそうするにこした事はないが、わざわざ戦地に潜り
込んで回収するほどのものではない。クロコダイルが自分の考えを口に
すると、ワルドは「う」と言葉に詰まった。

「どうした、子爵」
「いや、その……まいったな。枢機卿、申し訳ない」
「どういう事だ」

 クロコダイルの殺気のこもった視線が、マザリーニを貫く。
 しかしマザリーニはまるで気にした風もなく、笑みを浮かべた。

「見事。そこまで考えが及ぶとは……少々君を侮っていたようだ」
「一度ならず二度までもおれを試した、というわけか。
 それで、認めてくれたのか? これ以上試験を続けるつもりなら、おれは降りるぞ」
「わかった、わかった。正直に話そう」

 両手を挙げて降参の意を示したマザリーニの顔から、表情が消える。

「本当に回収して欲しいのは手紙ではなく、王党派が持つ指輪とオルゴールなのだ」
「婚約指輪や恋人からの贈り物、なんて笑えん冗談じゃあなかろうな?」
「そんなガラクタではないさ。
 各国王家に伝わる始祖の秘宝……『風のルビー』と『始祖のオルゴール』だ」


   ...TO BE CONTINUED

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