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宵闇の使い魔 第拾伍話

風龍に乗って城から離れていく俺たちの遥か後ろでは、砲撃の音が鳴り始めている。
どれだけ粘れるものやら―――まぁ、俺の知ったことじゃないな。
あぁ、無駄に疲れた―――本気で畳が恋しい。


宵闇の使い魔
第拾伍話:サウスゴータの恩讐


「重過ぎる。少し休まないと駄目―――」

《レコン・キスタ》の偵察を警戒してシルフィードを出来る限り低空で飛行させていると、タバサが口を開いた。
風龍の表情を読み取ることは出来ないが、確かにスピードが落ちてきている。
しかし、それも仕方の無いことではあるのだ。
シルフィードは巨大な風龍とはいえ、まだ幼体である。
そのため通常は乗せるとしても四人程度。
そこに六人+一匹も乗せていれば、その重量はかなりの体力を奪っていく。

「これだけ乗ってれば仕方ないわよねぇ―――適当に森の中にでも降りて休みましょ」
「―――此処でかい?」
「街からも離れてるし、丁度良いじゃない。ねぇ?」

なぜかちらちらと眼下の森を眺めていたマチルダが問う。
あまり乗り気ではないようだが、キュルケの言う事はもっともである。
キュルケに話を振られた虎蔵は「お任せ」と言って肩を竦めた。
タバサは反対がない事を確認すると、シルフィードをゆっくりと森の中へとおろした。

全員が背中から降りると、シルフィードはぐったり――とまで言うほどではないが、その身体を大地に横たえた。
タバサがよしよしと言った感じで撫でている。

「この先のロサイスは奴等の占領下だからね。下手に動き回るんじゃないよ?」
「うーん―――水場でも探したい所だけど、仕方がないわね」

マチルダは辺りを見回すと、地面に腰を下ろす彼女たちに向かったそう声をかけた。
それには流石に全員が素直に頷いた。
虎蔵が居る以上、ちょっとした斥候程度なら口封じも可能だろうが、此処に来て厄介事は避けたい。
一行はシルフィードの身体に背を預けて、静かに休息を取ることにした。

「じゃ、アタシはちょっと周りを見てくるとするよ―――」

マチルダはそう言い残すと、足音を残さず森の中へと消えていった。
流石に協力してワルドを倒しただけあって、もはやネガティブな想像をしている者は居ない。
樹に背中を預けていた虎蔵だけがやや目を細めてその背中を見送る。
彼は僅かに何か考え込んだ様子を見せると、面倒そうに肩を竦めて森の中へと足を向ける。

「あら、何処へ?」
「花摘みだ」
「―――花?」

キュルケがそれに気づき、問う。
虎蔵は何時もの調子で答えるのだが、流石に通じない。
当たり前だが。

「あぁ。トイレだよ、トイレ」
「あら、ごめんなさい」

説明されると、キュルケは僅かに顔を赤くして視線を逸らす。
ギーシュが何で花?と言った感じで首をかしげているが、虎蔵は気にせず森へと入っていった。

暫く歩くと、マチルダはすぐに見つかった。
先程の虎蔵がしていたように、樹に背中を預けてはぼーっと空を見上げている。
彼女は虎蔵に気づくと、複雑な表情で笑みを浮かべた。
少し苦しげなと言っても良いかもしれない。
虎蔵は彼女の隣に立って、同じように樹に背中を預けた。

「―――アイツを殺しに戻るとでも思ったのかい?」
「真逆。そもそも、もう死んでるだろうさ―――」
「だろうね」

マチルダは自嘲気味に笑うと、凡そ10サント程高い虎蔵をちらりと見上げる。
アレだけだだ漏れの殺気をウェールズにぶつけていて、虎蔵が気づかない筈はない。

「理由、聞かないんだ」
「聞いて如何にか出来る事だとは思えないんでな―――まぁ、あそこで手を出さなかった事は感謝してるさ」
「流石に、連続で裏切るわけには行かないだろ?」

笑みを浮かべて肩を揺らすマチルダ。
虎蔵は虎蔵で、お気遣いどうも、などと言っては肩を竦めた。
そして訪れる、静寂。
彼女はゆっくりと口を開いた。

「――――良いかな」
「慰めが得意に見えるか?」
「真逆。ただ、そう――――誰かに聞いて欲しいのさ。果たせなくなっちゃった、復讐をさ―――」


マチルダ・オブ・サウスゴータ。
彼女は昔、ここアルビオンの貴族であった。
現在地も含むサウスゴータ地方を治める太守の娘である。
だが今から四年前、ある事件が起こった。

マチルダの父が使えていたアルビオンの王弟で財務監督官でもあった大公が、
エルフの女性を妾としていた事が発覚したのだ。
無論その王弟は投獄されたのだが、大公家へ強い忠誠心を持っていたマチルダの父はそのエルフと彼女の娘を匿った。
しかしそうそう隠し通せるものではなく、サウスゴータの屋敷は、アルビオン国王―――
即ちウェールズの父であるジェームズ一世によって派遣された騎士や兵隊によって襲撃を受ける。
その結果、マチルダの父は殺され、マチルダにも良くしてくれた執事やメイド達も殺され――家名は取り潰された。
唯一救いがあるとすれば、王弟とエルフの間に出来た娘、ティファニアだけは救えたことである。
父の行為が完全に無駄になることだけは、防げた。


「親の敵の息子―――か」
「そういうこと―――まぁ、良いのさ。ほっといても殺されるのは間違いない。
 下手したら、奴らの命令でアタシの家を襲撃した騎士に、奴らが殺されてる可能性だってあるんだ。
 そうなってくれたらお笑いだろ?」

そこまで言い切って、マチルダは笑みを浮かべた。
自嘲と、悲しみと、怒りの混ざった――――なんとも悲しい笑みだ。
虎蔵は何も口にしない。


「―――笑ってよ――――ねぇ」
「――――あぁ、ま、悪かったな」

かみ合ってない会話だと、マチルダはそう言おうとして口を開き――――嗚咽が漏れ出してしまった。
慌てて口元を押さえるが、涙がぽろぽろと流れ出てくる。
止まらない。
四年間、たった一人で抱えてきた物が溢れ出してくる。
虎蔵の胸にもたれかかる様に顔を押し付けた。
涙を見られるのは、避けたかったのだ。

虎蔵はマチルダに胸を貸しながら、片手で器用にポケットから煙草を取り出して咥えた。
やはり片手でライターを使い、火をつける。
どちらもこの世界では貴重品だが、こういう時くらいは良いだろう。
マチルダに灰が落ちない様に明後日の方向を向きながら、ゆっくりと煙を吸い込んだ。

暫くして落ち着いたのか、彼女はゆっくりと離れる。
復讐を誓ったあの日に封印した筈の涙を流したことが大きいのか、果たせなくなったことが大きいのかは解らない。
だが―――思っていた以上に、あの暗い思いは重かったらしい。
少しだけ軽くなった。そんな気がする。
もちろんまだ貴族は憎い。アルビオン王家に自ら引導を渡せなかったことは悔しい。
だがこれからはもう少しだけ、自分やティファニアの事を考えられる。
そんな事を感じながら、涙の後を手で拭う。
流石に涙を見せてしまったことは恥ずかしいらしく、僅かに頬に朱がさしていた。

「ねぇ―――それ、アタシにも一本頂戴」
「女が煙草呑むのは関心せんがな―――」
「良いじゃないか―――こういう時くらいさ」

頬の色をごまかすかのように、彼女は虎蔵の咥えている物を指差した。
肩を竦め、ポケットから改めて煙草を取り出す虎蔵。
パッケージから一本だけ飛び出させて、マチルダへと差し出す。
彼女はすらりとした綺麗な指でそれを摘み、口元へと運んだ。
空になったそれをクシャっと潰してポイ捨てすると、今度は火を出そうと再度ポケットに手を突っ込むのだが―――

「――これで良いよ」

マチルダはそう言うと、風に揺れる髪を手で押さえながら顔を近づけてきた。
煙草を咥える唇と、涙の後が僅かに残る目元がいやに映える。
彼女はそのまま顔を近づけて、虎蔵の煙草から直接火を受け取った。
傍から見れば、まるでキスシーンだったかもしれない。
他の四人から離れていたのは幸いである。

「―――口の中で溜めて、ゆっくりと吸い込め」

顔が離れると、吸い方を知らないであろうマチルダにアドバイスを出す。
互いに照れるような柄ではない。年齢的にも。
彼女は最初の数回こそ咽はしたが、すぐにコツを掴んだようである。

「あぁ、こいつは悪くないね―――」
「そいつぁ重畳」

マチルダがほんのりと恍惚にも似た笑みを浮かべて煙を吐く。
二人は暫くの間、無言のまま紫煙を燻らせていた。




その後、煙草を消して皆のところに戻ろうかと言うところで、虎蔵が急に木々の間に視線を向けた。

「―――誰だ?」
「敵!?」

かなり気を抜いていたマチルダも、慌てて自らの杖に手を伸ばす。
だが、敵意を感じないどころか、虎蔵に気づかれたことに「ひっ」と短い悲鳴が聞こえたほどである。
随分遠くからだ。
よく気付いたもんだ、と虎蔵をちらりと見るマチルダ。
だが彼女には、その悲鳴にわずかながら聞き覚えがあった。

「おい、とって喰いやしねえよ。出てきな」

虎蔵が一言そういうと、樹の影からおずおずと一人の少女が出てきた。
美しい金髪の、作り物めいた可憐さを持つ少女だ。
粗末で丈の短い、草色のワンピースを纏い、耳まですっぽりと隠れるような帽子を被っている。

「ティファニア―――」
「マチルダ姉さん―――なの?」

マチルダが軽く後悔したような口調で呟き、その少女は驚きに目を見開いていた。
ティファニア。
先程聞いたばかりの、エルフの血を引くと言う娘。
だとすれば、あの帽子は耳を隠すためのものだろう。

「姉さん。マチルダ姉さんよね?」
「ああ―――久しぶりだね」

久しぶりの再開なのか、躓きそうになりながらもマチルダに駆け寄るティファニア。
飛び込むように抱きついては、ぎゅっと抱きしめる。
マチルダは困ったように笑いながら、軽く抱き返した。

「もう、こっちに来るならなんで連絡してくれなかったの?」
「いや、急ぎの仕事でね―――本当は寄るつもりは無かったんだよ」
「もう―――」

「―――あー、先戻ってるぜ?」

仲良し姉妹っぷり全開の様子に、マチルダの調子がある程度戻ったことを感じると、
虎蔵はそう言ってその場を後にしようとする。
だが、その一言で虎蔵の存在を思い出してティファニアは、びくっと驚いて、マチルダの背後に逃げ込んだ。
マチルダはその反応に苦笑しながら、虎蔵を同僚みたいなものだと紹介する。

「大丈夫だよ。アイツには、ま、全部話しちまったからね」
「え、本当に―――?」
「あぁ、まぁ―――色々あってね。悪いけど、そこは聞かないでおくれ」

マチルダの背中からわずかに顔を覗かせて視線を向けてくるティファニア。
子供の相手が得意ではない虎蔵としては、肩を竦めて見せるしかない。
強面とまでは言わないが、やはり眼帯を付けた黒尽くめの格好はそれなりに怖いらしく、
マチルダの後ろから出てくることは無い。
怯えているといった感じは無いのだが。

「けど、なんでまたこんな所に居るんだい?孤児院からは結構離れている筈だよ?」
「あ、うん―――それは―――」

ティファニアの話を聞けば、彼女は薬草を摘みにきたところにドラゴンが降りてきて、
怖くなって隠れていたそうだ。
そこに誰かがやって来たので、じっと立ち去るのを待っていた。
だが暫くして話し声が聞こえてきて、それが聞き覚えのある声だと思って覗いてみれば―――
と、そこで顔を赤くして黙ってしまう。
マチルダはその反応を見て、ひくっと頬を引きつらせた。

「ちょっと待ちな、ティファニア。何か勘違いしてないかい?」
「勘違い?」
「何を見たって言うのさ。ほら、言ってみな」

マチルダが肘でティファニアを突付く。
ティファニアは赤くなったままでうーっと小さくうなり、上目遣いで虎蔵とマチルダを見た。

「――――キス」

マチルダが額を押さえて呻いた。
なるほど、そうきたか、と。
ルイズ達からには見られなかったが、予想外の伏兵だ。

「違うよ。アレはただ火を貰ってただけ。ねぇ?」
「―――ま、そういう事だな」
「火って?あ、でもほら。マチルダ姉さんだってもういい歳なんだ―――しッ」

マチルダは肩を竦めて虎蔵に同意を求めるのだが、続くティファニアの言葉にギロリと視線を向けた。
ティファニアは思わず舌を噛みそうな勢いで口を閉じる。
やはり年の事はタブーらしい。
あぅあぅと視線をそらすティファニアを見ながら、虎蔵は気をつけるべきだと心に刻んだ。

「まぁ、とにかく――――今日は仕事できているだけだから、そろそろ行くよ。
 まだ暫くこの辺りはごたごたするだろうから。気をつけるんだよ?」
「え、もうですか?」
「戦争中だからね。孤児院だって長くあけとく訳にはいかないだろ?―――落ち着いたらまた来るよ」
「そうですね――――はい、待ってます」

ティファニアは頭を撫でるマチルダが浮かべていたのは、
先程からは考えられない、穏やかな笑みだった。
きっと、このティファニアの存在が彼女を支えていたのだろう。
マチルダ自身がどの程度まで自覚しているのかはわからないが。

「いざ何かあったら、トリステイン魔法学園に来るんだ。今は、そこが職場だからね」
「―――解りました」

恐らくは迫害の事があるからだろうが、ティファニアには少し抵抗があるようだ。
マチルダも自ら口にはしたが、何も無いことを祈ってるけどね、と付け加える。
そして彼女たちは最後に軽く抱き合い、マチルダの方から踵を返して歩き出した。


「ま、邪魔したな」
「いえ。あ、その―――トラゾウさん」

虎蔵もその後を追おうと、一言だけ告げて歩き出したのだが、背後からの声に引き止められる。
あん?と振り返ると、ティファニアがしっかりと自分を見ていた。
まだ多少は恐怖があるようだが―――

「マチルダ姉さんが何をやっているのかは聞きません。
 ただ、私の恩人で、とても大切な人なんです―――だから―――お願いします」
「あぁ―――ま、適当に上手くやるさ」

虎蔵は何をとは聞かずに短く答えると、軽く後ろに手を振りながらのんびりと歩いていく。
その後姿を見るティファニアには、何故かそう遠くないうちにまた会うことになる予感を感じていた。

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