あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの大魔道士-2


その日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはいつになく硬い表情をしていた。
サモン・サーヴァント。
それが本日行われるメインイベントにしてメイジの今後が決まるといっても過言ではない儀式だった。
召喚の魔法を唱え、ゲートから現れた生物を使い魔にする。
言葉にすれば僅かこれだけの作業である。
だが、たったそれだけの作業がルイズにとっては重大だった。
無能、落ちこぼれ、劣等生、そしてゼロ。
それがルイズの評価にして絶対の事実だった。
魔法が使えない。
ただその一点が彼女を苛み、心の奥底で淀みとなって沈殿し続けていたのである。

(絶対、絶対成功させて見せる!)

メイジの力を見るにはその使い魔を見よと言う。
つまり、ここで絶大な能力を持った使い魔を召喚することが出来れば自分の評価はガラリと変わるのだ。
仮に平凡な能力しか持たない生物を召喚したとしても、召喚自体は成功なのだからそれはそれで自信の源にすることが出来る。
召喚される使い魔はどうあれ、まずは召喚そのものの成功。
自分はゼロではない、それを真実とするための一歩。
それがルイズの本日の、いや現時点における人生一番の目標だった。

(行くわよ!)

手を大きく振り上げる。
高らかに宣言するように伸び上がった腕は蒼天を貫き、ピンと垂直に静止する。
ルイズは召喚の詠唱を口にし、詠う。
己の全てと誇りを賭けて。

「――我が導きに応えなさい!」

振り下ろされる手。
次の瞬間、爆音と共にその場にいる全ての者は立ち込めた土煙に視界をふさがれた。

「けほっ、けほっ」
「あー、やっぱり失敗かよ。流石はゼロのルイズ!」
「ったく、失敗しかありえないんだからやるだけむ…だ?」
「ん、どうしたんだよ?」
「あ…あれ…」

煙が晴れていく。
一人、また一人と視界が蘇る中、ある生徒が最初に『ソレ』に気がついた。
彼の名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。
風上の二つ名を持つぽっちゃり系の男子学生である。

「んなっ…ななななななな!?」
「ちょ、ちょっとまて、俺は目がおかしくなったのか!?」
「落ち着け、こういうときは素数を数えるんだと神父様から聞いた覚えがあるぞ!」
「っていうか、あれは…」
『り、竜ーっ!?』

一人の少女を除いて、その場にいた全ての人間の声がハモった。
彼らの目に映ったのは一匹の竜。
神々しい輝きを放ち、両手を隠すようにして鎮座するその竜はその場の人間の度肝を抜いた。
サモン・サーヴァントにおいて竜が召喚されることは少ない。
それは竜という種族自体の絶対数が少ないということもあるのだが、
何よりも彼らは生物の頂点に立っているといっても良いくらいの能力を持っているのだ。
故に、彼らを召喚するということは並大抵の能力ではおぼつかないのである。
今年度の儀式においては、唯一青髪の少女が風竜の召喚に成功しているが、それでさえ規格外といって差し支えはない。
にもかかわらずルイズも竜の召喚に成功した。
いや、竜としての格でいえば外見からしてタバサの風竜を上回っている。
メイジの力を見るにはその使い魔を見よ。
この言に従ってルイズを判断するならば、正に彼女は始祖ブリミル並。
下手すればそれすら超える空前絶後の才を持つメイジということになるのだ。

「あ、あは…あはははは…」

唯一声を上げなかった少女――ルイズが壊れた蓄音機のような声で笑いを上げる。
それは呆然と驚愕、そして歓喜が織り交ざった笑いだった。

マザードラゴン。
その竜の種族名をルイズが知る由もないが、詮索するまでもなく目の前の竜は最上級の生物であることは間違いない。
正直、彼女は召喚の成功すら半信半疑だった。
強く自分を信じていても、これまでがこれまでだったので、根の部分では「でも…」と言い続けていたのだ。
それが蓋を開けてみたらどうだろう。
なんと現れたのは竜、しかも物凄い神々しい。

(わ、私ってひょっとして凄い!?)

混乱する周囲と思考の中、ルイズは感涙にむせんでいた。
思えばつらい人生だった。
ゼロと蔑まれ、バカにされる日々。
だが、その苦難の人生は今この瞬間のためにあったのだ。
これからは輝ける栄光の未来が待っている。
今までは興味なんてなかったけど、今日から日記をつけよう。
記念すべき第一文目はこうだ。

『…傷つき迷える者たちへ…
 敗北とは 傷つき倒れることではありません。そうした時に自分を見失った時のことを言うのです。
 強く心を持ちなさい。あせらずにもう一度じっくりと自分の使命と力量を考えなおしてみなさい。
 自分にできることはいくつもない。一人一人が持てる最善の力を尽くす時たとえ状況が絶望の淵でも必ずや勝利への光明が見えるでしょう…!』

なんと感動的で素晴らしい文なのだろう。
この文を読めば魔王に立ち向かうなんて無謀な挑戦をする人間ですら感涙にむせぶに違いない。
思わず自分の才能に酔ってしまいそうだ。
ルイズは人には見せられないほどのニヤけた表情でえへらえへらと妄想に耽っていた。

「ミ、ミス・ヴァリエール? 感動に打ち震える気持ちはよくわかりますが…」

恐る恐る、といった風体でルイズに近づいたのは教師のコルベールだった。
彼とて突然の竜召喚に狼狽しないでもなかったのだが、この場の責任者としての義務が彼を後押しする。

「ミス・ヴァリエール?」
「ふふふ…そして伝説へ……はっ!? な、なんでしょうか!?」
「いや、コントラクト・サーヴァントを行ってください」
「あ…」

今頃そのことに気がついたとばかりにハッとなるルイズ。
そうなのだ、召喚に成功すればそれで終わりというわけではない。
召喚した使い魔と契約――つまりコントラクト・サーヴァントをかわさなければならないのだ。
だが

「…届きません」

ルイズの声が虚しく場に響いた。
マザードラゴンは状況を把握するかのようにキョロキョロと周囲を見回している。
そのため、首は伸び上がり、口はルイズの身長ではとても届くような場所にはない。
コントラクト・サーヴァントにおいて必要な口付けを行うためにはいささか問題のある状況だった。

「ええと…」

未だ混乱する生徒たちを余所に、コルベールはでっかい汗を一つ頬に流した。
通常、サモン・サーヴァントによって呼び出された生物はゲートを潜った段階で九割方使い魔になっているといえる。
何故ならばゲートを潜るまでの段階でその生物は召喚したメイジ専用に自動的に教育、悪い言い方をすれば洗脳、改造されている。
ひらたく言えば、意思の疎通やある程度の忠誠心や友愛心。
そういった主人にとって都合がよいようなものが自動的に備え付けられるようになっているのである。
ぶっちゃけ、召喚される側からすれば非道極まりない魔法といえよう。

それはさておき。
本来ならば召喚魔法の効果でマザードラゴンもルイズに対してある程度の友愛を感じているはずである。
であるならば、ルイズの意図を汲んで首を下げるというのが自然というものだ。
にもかかわらず、目の前の竜は首を下げる様子はない。
というか、ルイズを無視すらしている。

(ま、まあそれだけ能力が高いということなんだろう)

この段階でコルベールはきな臭いものを感じたのだが、言わぬが華とばかりに沈黙を保った。
仮に自分の推測が――実は洗脳効果が発揮されてないということが当たっていたら、下手すればこの場は大惨事になる。
となれば一番の解決法はとっととルイズとこの竜の間に契約を発生させることだ。
幸い、竜は関心こそ向けてこないが、同時に敵意も向けてきていないのだから。

「……え?」

仕方なく、コルベールがフライを唱えてルイズを口元まで運ぼうと考えたその時。
竜が、マザードラゴンが動いた。
大きく翼を広げ、雄々しさと神々しさを兼ね備えた動きでふわりと浮き上がったのである。

「ちょっ…きゃあああ!?」
「うわっ!?」

至近距離にいたルイズとコルベールが羽ばたきによって起こった風に吹っ飛ばされる。
が、ルイズはすぐに何かに引っかかりなんとか吹き飛ばされるのを耐えた。
ちなみに、コルベールは赤い髪のある生徒のボインな胸元に受け止められ、後にラッキースケベの異名を得ることになる。

「ま、待ちなさい! まだ契約が! コントラクト・サーヴァントが…!」

幸せの絶頂から一転。
ルイズは焦りと混乱の中手を伸ばす。
だが、既に空に舞い上がった竜にその手が届くことはない。
マザードラゴンはルイズを、厳密にはルイズの後ろを僅かに一瞥すると、そのまま飛び去っていた。

「ね、ねえ。これって…どうなるの? 私の栄光の未来は? 輝かしい英雄への道は?」

呆然と呟くルイズ。
普通に現実逃避だった。
それはそうだろう。
召喚した生物が逃げ出すなど前代未聞の出来事である。
はっきりいって、これならまだ召喚自体を失敗した方がマシ。

「あ、あは…あはははは…」

再び笑い声をあげるルイズ。
だがそれは最初の笑いとは違い、正真正銘壊れた笑いだった。



故に彼女は気がつかなかった。
自分のお尻にしかれている――少年の存在に。


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