あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『醜いアヒルの子』

 本日何度目かの失敗、ゼロのルイズは春の召喚の儀式で周りから笑われながらも再度爆発を引き起こす。
 他の生徒たちが飽きてあくびをし始めたころ、ルイズはとうとう召喚に成功した。

 煙の中から現れたのは、思わす同情してしまいそうなほどみすぼらしい魚だった。

「あっはっは! 何だよあのしょぼいのは!」
「さすがゼロのルイズ、お似合いだぜ!」

 ルイズは周りの声が気にならなかった。
 いいじゃないか、見た目がボロボロでもこんなに珍しい生き物はそういない。
 何よりどう見ても魚なのに地上で平気そうにしている。

 ルイズは静かに、その醜い魚に口付けをした。


 ボロボロの醜いその魚は、とにかくのんびりしていた。
 水に浸かっても陸に上がってもとにかくボーっとしている。
 渋いものが好きなのか、ハシバミ草の抽出液を与えるときだけ目を輝かせていた。

 手入れをしていてわかったことは、この魚はボロボロなのではなく初めからこういう見た目だということ。
 ぼろい見た目のくせにかなりしっかりした甲羅のようなうろこは非常に頑強で、意外にスベスベしていた。

 それを毎日毎日磨きながら、ルイズはそのボロボロの魚を撫でる。
 まるで今の自分のような、ボロボロの醜い魚。

「大丈夫よブリジット、いつか一緒にきれいな人魚になるんだもん、ね」

 答えるようにピチピチと、そのボロボロの魚はひれを動かした。


 ブリジットは今日もハシバミ草の抽出液を飲み、ハシバミ草を固めたものを食べ、ハシバミ草のサラダをむさぼる。
 その目をむかんばかりの渋い液体をおいしそうに飲むブリジットを、ルイズは今日もキレイに磨いていた。
 青い髪の少女が己の使い魔に押し付けているハシバミ草まで横取りし、渋いサラダと渋いジュースをブリジットは今日もむさぼっていた。

 少なくともこのとき、ルイズは幸せだった。
 醜くも愛らしい己の使い魔を愛でながら、ルイズは一人微笑んでいた。

 使い魔としての役割を果たすことはできないだろう、そう思いながらも、ルイズは己の使い魔をかわいがっていた。
 視界の共有をすれば驚くほどにごった白黒の映像が映る。
 魔法の秘薬の材料を探すといってもそもそも行動範囲は狭そうだ。
 主を守ることなどどうあってもできはしないだろう。むしろこちらが守る側だ。
 それでもルイズにとってブリジットは、何より愛しい存在だった。

 だから彼女を侮辱されることは、ルイズにとって己を侮辱されるより響いたのだ。

 その魚を笑いながら蹴飛ばしたのは、三年の生徒だった。
 平民どころか生徒と教師にまで嫌われている、いわゆるダメなエリートだった。
 選民意識ばかりが高く、三年も学んだのにぎりぎりラインメイジ、努力を嫌い血筋だけで威張る典型的なダメ息子だった。

 その男はルイズの目の前でブリジットを蹴り飛ばしたのだ。
 だからルイズはその少年に杖を突きつけた。

 だが悲しいかなたとえライン崩れ、1.5程度のメイジでもゼロよりは上だった。
 ルイズは数体の土のゴーレムに殴られ、ひざを突いた。
 それでも杖は手放さなかった。
 左手の痛みは折れていなくても間違いなくヒビが入っているだろう。
 口の中が切れているし、舌の上を転がる異物は自分の歯だろう。
 初歩的な水の魔法も使えない自分ではそれらの傷を治せなくても、ルイズはただ前をにらみつけた。

 男は本当にダメな男だった。
 強いものには影でつばを吐きながら頭を下げ、弱いものにはとことん尊大になる。
 本当にダメな、長男なのに跡目争いから真っ先に外されるほどダメな男だった。

 だから回りのものが止めても嬉々としてゴーレムの拳を振り上げたし、ルイズがじっと自分をにらみつけていてもゴーレムの拳を振り下ろした。

 だからこそそれは、聞こえるはずの無い音だった。
 骨が立てる人を殴った音ではなく、何か非常に硬いものに土の塊をぶつけた音。
 殴ったゴーレムの拳が砕けるほど硬いうろこを持った、ルイズの使い魔がそこにいた。
 ルイズが声をかけるより早く、男が再びゴーレムを動かすより早く、使い魔はただ一度、ぴょんと跳ねた。

 その強靭なうろこに包まれた体が、術者の集中が途切れてもろくなっていたゴーレムを打ち砕いた。

【ブリジットは52の経験値を得た!】
【おや、ブリジットの様子が……】

 ブリジットが光に包まれる。
 思わず顔を覆うほどまばゆい光、その光の中で、あらゆる物理法則を無視してそれの持つ因子が全身の構成情報を書き換える。
 ボロボロのうろこもひれも姿を消し、その体がありえない速度で成長する。
 艶やかな体色に彩られ、鮮やかないろどりのひれが生成される。

 光が納まったとき、そこには美の女神の化身がいた。

 美そのものがそこにはあった。
 しなやかな強さがそこにはあった。
 太陽のごとき晴れやかさがそこにはあった。
 美の女神の名に恥じぬ美しさを持って、ブリジットはそこにあった。

 そしてその眼光は、確固たる強さに彩られていた。

 大きく開かれたその口の中、真っ白な何かが凝固し始める。
 『水・風・風』というトライアングル・メイジでしか行使できないはずの冷気がその口内を満たす。
 男が慌てて動かしたゴーレムは、眼前に展開された光の壁にさえぎられた。
 周囲の熱を奪い吐息を白くしていたそれが、その口の中収束される。

 シリモチを突く男に、彼女は少しも遠慮することなくその押し固められた冷気を放った。
 放たれた冷気はゴーレムを消し飛ばし、その下の地面を抉り取り、外壁をやすやすと穿ちぬき、固定化のかけられた防壁をいとも簡単に打ち砕き、男をその天井に氷付けにしてようやく収まった。

 呆然とするルイズに向かって、ブリジットはまるで天使のように美しい鳴き声とともにキラキラ光る光の粉を振りまく。
 それはルイズの傷を、疲労を、まるで元から無かったかのように癒してしまう。
 自分の体をしげしげと見つめるルイズにブリジットは優しく巻きつくと、そのほほにやわらかく口付けた。

 ルイズはただ喜びにむせび泣いた。


 後の世に名を残すことになる虚無の担い手ルイズ。
 その傍らには生涯、どんなものでもその前では光を失うとまで言われた美しき使い魔がいた。
 かつての世界でミロカロスと呼ばれた使い魔はルイズが年老いて亡くなるまでそのそばに控え、彼女の死と同時にその姿を消したという。

 その後にはただ、美しき守り神の伝説だけが残されていた。

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