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『使い魔くん千年王国』 第二十章 アルビオン

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ワルドの手が、先ほどから震えている。いや、思い起こせば昨日再会した時から変だ。
顔には脂汗がにじみ、以前より顔色も良くない。食も細く、体温も低い…。
「ワルド様、どこか、お加減でも…」
「いや、どうということはない。ちょっと頭痛が…ね」
そう言うと、ワルドは取り出した薬をあおる。何年か会わないうちに、どこか悪くしたのかもしれない。

(ご両親を早くに亡くされ、血のにじむような努力でグリフォン隊の隊長にまでなった方。
 きっと、お体を労わられることも少なかったのね…)
ルイズが悲しげな表情をする。しかしワルドは気丈に振舞う。
「しかしきみ、そのホウキは何だね? 『東方』の魔法かい?」
「ええ、そうです。ぼくはまだ『飛翔』では上手く飛べないので。小回りもききます」
松下は飄々と答えるが、どこかワルドに胡散臭さを嗅ぎ取っていた。

ともあれ、フネ(飛行船)にはたどり着いた。キュルケたちはシルフィードで追いついてくるだろうし、
もし合流できなくても彼らなら問題はない。ワルドは急ぎ出港の手続きをする。
積荷や予約席が多く、船長は乗船を渋ったが、ワルドが交渉した結果、
積荷の『硫黄』の運賃と同じだけの代価を払うこと、
および『風』のメイジであるワルドが、フネを動かす『風石』の補助をすることを条件に乗船できた。
風の魔力が詰まった『風石』を消費することで、フネは空を飛ぶのだ。

「硫黄はきっと、『王党派』の根城を砲撃するための『貴族派』の弾薬だろうがね…」
そう言うとワルドは操船の指揮を取りに行き、ルイズと松下は船室に残された。
明朝にはアルビオンに到着である。

乗員乗客の間では、行き先・アルビオンの噂で持ちきりだ。
「明後日にも王党派への総攻撃が開始されるとか」
「貴族派の軍勢は数万人、王党派はたったの数百。最初から勝ち目はない」
「今後もアルビオン貴族派とコネを作っておけば、商売繁盛…」
「戦争も、巻き込まれなければカネにはなるさ…」

翌朝。船室の窓から陽光が差し、ルイズは目を覚ました。
朝の青空の中、雲の上をフネは飛んでいく。地上から3000メイルもの高さだ。
「アルビオンが見えたぞーーっ!」
船員の声が響いた。ルイズと松下は窓の外を見る。

『浮遊大陸』アルビオン。大きさはトリステイン王国と同じぐらいだが、空中を浮遊して洋上を彷徨い、
月に何度かハルケギニアの上にやってくる。二つの月が重なる夜、最もトリステインに近づく。
大陸からあふれ出た水が白い霧になり、大陸の下半分を覆っているところから『白の国』の名がある。

と、突然見張りの船員が大声をあげた。
「右舷上方の雲中より、不審船接近!」
近づいてくる船は、舷側からいくつも大砲を突き出していた。アルビオンの反乱貴族たちの軍艦か?

「俺たちはアルビオンの『空賊』だ! 抵抗するな! 積荷をよこせ!!」
黒い船の甲板で、荒くれ男が停船を呼びかける。続いて鉤爪のついたロープが放たれ、舷縁に引っかかる。
たちまち武装した男たちがロープを伝ってフネに乗り移ってきた…。
「山には山賊、海には海賊、そして空には『空賊』か」
松下は暢気に呟いた。まだまだ前途は多難のようだ。

「なんてこと、もうすぐなのに!」
ルイズは杖を握り締めた。しかし、現れたワルドに止められた。
「止めておくんだ! 敵は水兵だけじゃない。砲門もこちらを狙っている。メイジだっているかも知れない」
空賊たちは次々と乗り込んできた。乗員乗客は後ろ手に縛り上げられ、甲板に纏められる。
誰も抵抗する者はない。悪名高いアルビオンの『空賊』である…。

全員が集められると、空賊の頭領らしき髭面の男が大声を上げた。
「おおい、船長はどこだ!? 積荷は硫黄だろう!? 全部寄こしやがれ!!」
震えながら船長が「私だ」と名乗る。頭領はにいっと笑う。
「船ごと全部買うぜ。料金はてめえらの命だ。別嬪さんは残しておいて、売り払ってやる」
下品な表情でにたつく頭領は、ワルドとルイズに気がついた。
「おや、珍しく貴族の客まで乗せてんのか。こりゃあ別嬪だなあ」

「下がりなさい、下郎! 触るな!」
「ルイズ、落ち着いてくれ。刺激するな」
気が強く誇り高いルイズは、隠忍自重することができない。平民の空賊風情に侮辱されて、黙ってはいられない。
「私は、アルビオンの…」
そこまで言ったところで、頭領がルイズに当て身を食らわせ気絶させる。
「おい、この嬢ちゃんと連れの貴族、ついでにこの餓鬼を、船室に連れて来い」

ルイズたちは甲板から船室に移されると、頭領の前で縄を解かれた。ルイズもすぐ目を覚ます。
「おい、あんた方はひょっとして、『王党派』か?」
「…そうよ。貴族派でなくて、残念だったわね」
(馬鹿正直に言う密使がどこにいる。ワルドも『静音』ぐらいかけろ…ああ、杖が没収されていたのか)
松下は心中頭を抱えるが、頭領はにいいっと笑うと顔の皮…否、変装の覆面を剥いだ。

「ははははは、ならば歓迎しよう。我らが頼もしき味方よ」
髭面の覆面の下は、似ても似つかぬ金髪の凛々しい青年。空賊の頭領の正体は…。
「あ…あなたは、まさか『ウェールズ殿下』!!?」
「そう。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

「手荒な真似をして済まなかった。『空賊』でもしないと軍需物資が足りなくてね。
 積荷を貰ったら、彼らはどこかで解放するよ。それで、きみたちは…?」
ルイズたちは佇まいをただす。ようやく目的である皇太子に謁見できた。
「お初にお目見えします。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。
 トリステイン王国のアンリエッタ姫殿下より、この密書を言付かって参りました」
恭しく一礼すると、ルイズは懐から手紙を取り出す。

「少し待ちたまえ。その指輪は『水のルビー』かな? 確かめたい」
ウェールズは自らの指に光る『透明な宝石』の指輪を外すと、ルイズの指に嵌っている『水のルビー』へ近づけた。
すると二つの宝石が互いに反応し、美しい虹色の光を振りまいた…。
「殿下、これは……?」
「この指輪は、我がアルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。君のは、トリステイン王家に伝わる『水のルビー』。
 水と風は『虹』を作る。王家の間に架かる虹さ。なるほど、確かにアンリエッタが送ってきた本物の大使のようだ」

ウェールズはルイズから手紙を受け取ると、花押に接吻し、封を解いて便箋を取り出す。
そして真剣な顔付きで手紙を読み始め、読み終わると顔を上げた。
「そうか、姫は結婚するのか……あの愛らしいアンリエッタ、私の可愛い従妹は」
「はい。あの成り上がりの、野蛮なゲルマニアと…」
ウェールズもルイズも、苦々しい顔をする。キュルケの件といい、ゲルマニアはそんなに嫌か。
「姫は、私の手紙を返して欲しいと告げている。姫の望みは私の望みだ。
 …だが、あいにく今手元には件の手紙はない。我が『ニューカッスル城』にあるのでね。
 多少面倒だが、このままニューカッスルまで足労願いたい。歓迎しよう」

こうして、フネは進路を変え、直接ニューカッスルに向かうことになった…。



『貴族派』の包囲網を潜り抜け、ニューカッスルに到着。総攻撃に向け、双方緊張している。
さっそく出迎えを受けるが、念のためとして杖や武器、グリフォンは向こうに預けられる。
曳航してきたフネと積荷は戦利品だ。

ウェールズは自室に入ると、小箱から一通の手紙を取り出した。アンリエッタからの恋文だ。
もうボロボロになったその手紙に口づけ、丁寧に開くとゆっくりと読み直し始める。
やがて読み終えたウェールズは、手紙を丁寧に畳み、封筒に入れるとルイズに手渡す。
「姫から頂いた手紙、このとおり、確かに返却した…」
「殿下、有難うございます。お役目は果たせました」
ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。しばし躊躇い、ルイズは決心したように言った。

「殿下……もはやアルビオン王軍に、勝ち目はないのですか?」
「ないよ。我が軍は三百、敵は五万以上。万に一つの可能性もない。物資も圧倒的にあちらが多い。
我々にできることは、せいぜい勇敢な死に様を連中に見せ付けることだけだ」
「な、ならば、せめてお逃げください。我がトリステインに亡命なさってください!」
ルイズは思わず叫んだ。衷心からの言葉に、ウェールズは苦笑する。

「駄目だな。私がトリステインに亡命しても、貴族たちにトリステイン侵攻のいい口実を与えるだけだ。
 それに、ゲルマニアとの同盟も水泡に帰する。だから、降伏も亡命も出来ない相談だ。
 アンリエッタに、トリステイン王国に迷惑がかかる。この機密文書は焼き捨てるよ」
「でも……姫様は……」
ウェールズはにっこりとルイズに笑いかけ、そっと『風のルビー』を指から抜くと、手渡した。
「私の形見に。アンリエッタに渡してくれ……勇敢なる大使殿。
 そして、王子は勇敢に戦って死にましたと、彼女に伝えてくれればいい」
ルイズはとうとう耐え切れず、泣き出してしまった…。

王党派の貴族たちはここぞとばかりに着飾り、テーブルには豪華な料理が並ぶ。
決戦の前夜、城のホールで行われたパーティ。ルイズたちも参加させられる。
「明日で終わりなのに、なぜ、この人たちはこんなに明るいの……?」
「終わりだからこそ、ああも明るく振舞うのだよ。僕のルイズ」
ワルドが答えた。着飾りながらも泣き腫らした目のルイズは、目を伏せる。
「明日死ぬのに、勝ち目が無いのにあんなに朗らかだなんて……私には理解できないわ。
 あの人たちは、どうしてわざわざ死を選ぶの? 姫様が逃げてって、亡命してって言っているのに」

「ルイズ。戦場で散る事は、王侯貴族の男児としての、名誉であり誇りであり、また義務なのさ」
「わからない。わからないわ…」
「皇太子もアンリエッタ殿下に迷惑が掛からないよう、ここで死のうとしている。
 …愛しているからこそ、さ」

「王侯貴族は面倒なものですね。森の中でゲリラ戦を仕掛けるなり、ゲルマニアとやらへ亡命すればよかろうに」
三文オペラに退屈しきった表情で、グラスを傾けながら松下が呟く。悲劇に酔う趣味はない。

(悪政を布いているのでなければ、平民には誰が首長になろうと変わりない。
 王制でも寡頭制でも共和制でも民主制でも、結局は独裁政治に流れるだけではないかな…)



轟音が鳴り響き、ニューカッスル城が揺れる。敵艦『レキシントン号』の威嚇砲撃である。
ルイズはその夜、眠れなかった。キュルケやタバサからも、連絡はない。

翌朝、貴族派の総攻撃から逃れるため、非戦闘員が続々と『イーグル号』に乗り込む。
ルイズたちも脱出するために中庭に集まっていた。杖は返され、グリフォンもいる。
見送りにはウェールズが立ち会う。今生の別れである。

「お忙しい中の見送り、ありがとうございます。殿下」
「いや、構わないよ。最後の『客人』だ、丁重にお送りしなければね」
ウェールズが微笑む。その微笑を見て、ルイズの顔が曇る。彼はもうすぐ死ぬのだ。
「そんな顔をしないでくれたまえ。我らはここで犬死にするのではない。
 あの愚かな野望を抱く叛徒どもに、『ハルケギニアの王家は弱敵ではない』と示すのだから。
 無論、それであの者たちがつまらぬ野望を捨てるとは思えぬが…それでも、『無駄』ではない」

「いいや、『無駄』だね殿下。あなたはここで、無様な死に様を晒すのだ」
突如、ウェールズの胸板を背後から鋭い剣…いや『杖』が貫く。
「それが我が『レコン・キスタ』の望み」
下手人は……ワルド子爵であった。杖が引き抜かれ、皇太子は断末魔も上げず、血を噴いて絶命する。
「ワルド様!? な…なぜ…あなたが『レコン・キスタ』などに」
突然の舞台暗転。ルイズは力が抜け、へたり込む。松下は『占い杖』を抜く。
「さあルイズ、きみも僕と一緒に来るんだ。共に『永遠』を生きよう!」

振り向きざまに見開かれたワルドの瞳は狂気に、いや、絶望に赤く輝いていた……!!
その背後に、巨大な『眼』がいるように、二人には感じられた。

(つづく)

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