あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-06

やや落ち着きを取り戻しつつある食堂奥の厨房内、そこで空になったシチュー鍋を前に
一人と一不定形が満足そうな表情を浮かべていた。
「馳走になった」
「てけり・り!」
無論、九朔とランドルフである。
そしてそんな彼等の前にはシエスタがにこにこと頬杖をつき、初めて見る恰幅の良い男が
腕を組んで笑っていた。
「いやあ、お前さん達の食いっぷりを見ているとまったく清清しいぜ。しかもシエスタ達の
 洗濯の手伝いまでしてくれてたとか言うじゃねえか。いやぁ、本当にお前達はいい奴だ!」
「そうでもないと思うが」
「いいや謙遜するない。お前さんは良い奴だ、いい男だ!」
がははと笑いながら恰幅の良いコック長マルトーは九朔の肩をたたきランドルフを
揉みしだく。
「てけり・り」
本来ならば見るだけでトラウマっぽいものを植えつけるはずのショゴス。
だがしかし、どうやらここの人間は総じて耐性が高いらしく、少し暇のできたメイド達が
こちらにやってきてはランドルフのぷるぷるむっちりバディをつんつん突っついたりして
遊んでいた。
「てけり・りぃ」
そして、そんな彼等の好奇心の対象である当の本人(?)はと言うと、マルトーの指使いが
よっぽど心地よかったのかさっきからずっと気持ちよさげに揉まれた箇所を蠕動させている。
「しっかし坊主も大変だな。貴族に召喚だったか? そんな事で呼び出されて使い魔に
 されちまうなんて悲劇以外のなんでもねえや」
首を振り苦々しく言うマルトー、周りも同情の表情でうんうんと頷く。
「だが俺たちもお前さんと同じ平民、もし飯とか何かで困ったらここに来い。平民同士
 協力できる事は何でもするぜ!」
そういってガッシリと九朔の手を握るマルトー。
それに続くようにシエスタもその手を握る。
「そうです! 私たちもお洗濯手伝ってもらいましたし何か手伝えることがあったら
 いつでもぜひ!」
「あ、ああ………何かあったら……頼むとしよう」
真剣な表情で力説する二人に少々たじろぎながら答える九朔。ただ昼食を恵んでもらおうと
思っていただけなのに、余りの好待遇に悪い気がしてならない。
無論、彼等としてはただでさえ貴族に虐げられている平民なのに、それがよりにも
よって貴族本人に召喚されて使い魔にされてしまった九朔に同情の念を
禁じえなかったという理由があるのだが知る由もない。
「っと、そういや貴族の坊ちゃん達にデザートを配る時間だな。運んでくれるか」
「はい、分かりました!」
立ち上がる二人、周りに居たメイドや料理人たちもそれぞれの仕事に戻ろうとする。
そこに取り残される九朔とランドルフだが、彼等もまた立ち上がる。
これほどの好待遇を受けておきながら何もしないではいられない。
食器の洗い場へ向かうランドルフとは別に九朔はシエスタへと歩み寄った。
「シエスタ、我にもデザート配りを手伝わせてくれぬか?」
「そんな悪いですよ! 朝あんなに手伝っていただいたのに!」
申し訳ないといった顔で首を横に振るシエスタだが、九朔も引き下がるつもりはない。
「あれくらいどうという事はないさ。むしろ昼時に汝等より先に昼食を頂戴したのだ、
 手伝わないでは夢見が悪い」
肩をすくめて笑む九朔にシエスタはマルトーにどうしたものかと目配せする。
「坊主よ、俺たちの仕事をまた手伝ってくれると言うのか?」
「ああ、もちろんだ。汝等から受けた恩、返さずにはいられぬよ」
平然と、しかも淀みなく言ってのける九朔に真剣な顔をしたマルトーは再び破顔した。
「そうかそうか!」
心底嬉しそうに九朔の肩を叩いて笑う。
「良し、分かった! だったらシエスタ達を手伝ってやってくれ!」
「良いんですかマルトーさん?」
「構わねえ。こんな良い奴がやると言ってくれてるのを無下にできねえ!」
シエスタににやりと笑むマルトー、変わった口ぶりに奇妙な装束をした平民の少年だが
その心意気は彼の眼鏡にかなったようだ。
「それじゃ、坊主。ここにあるケーキをあの小憎ったらしい貴族の坊ちゃん連中に
 もってってやってくれ。シエスタ、運び方とか色々教えてやりな」
「あ……はい、分かりましたマルトーさん。九朔さんこっちですよ」
「あ、ああ」
機嫌の良いマルトーにつられて上がったテンションはシエスタにも伝染したらしい。
にこにこ笑いながら九朔の手を引っ張りケーキへと案内する。
そんな彼等のやりとりの向こうではランドルフが触手を数十本にも伸ばして蠢かして
食器を洗っていた。
その見事な洗いっぷりに、後ほどメイドと料理人たちからランドルフは
『我等の洗濯王』と呼ばれ唄まで作られたのだが、それはまた別の話。

アルヴィーズの食堂、並ぶ料理は昼食に食するには充分に過ぎた豪華なものであり、
それを見れば毎日の料理がどれだけ無駄に消費されるか手に取るようにわかる。
さすが貴族、何処の世界においても無駄と豪華にかけては右に出る者はないのだな、と
嘆息し九朔は食堂内をシエスタと共に歩く。
しかしこう言う場を実際に眼にするのは初めてではない気がするのはなぜだろう、そして
これよりもっと豪華絢爛な料理を見た気がするのも何故だろうと首をかしげる九朔だが
今の彼には思い出せるはずもない。
両手に持ったケーキのトレイからシエスタがはさみでそれを生徒達に置いていく。
九朔自身は気づいてなかったが、この時多数の女子と男子が共に彼の顔を見て良からぬ
感情を抱いたのは不幸だったか幸福だったか。
男子は九朔を『可愛い平民の子女』もしくは『衆道の友』として。
女子は『中性的な平民の男子』もしくは『女装をさせてみたい』として。
双方からそのように思われていたのだが不幸だったか幸福だったか。
「ふぅ……」
そんな己の身と貞操の危険に気づくことなく、この既視感が何かを考えつつ九朔は
シエスタと共に食堂内を練り歩く。
そして、耽っていたその思考はある驚きの声で途切れる事になった。
「ん?」
気づけば、目の前では金髪巻き髪の少年に友人タチがやいのやいのと騒ぎ立てているところ。
「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
香水? むしろその怪しげと言うか致命的っぽいアレな色は毒薬か何かでは
と思うが口にはしない。
金髪巻き髪の少年は落ち着いてはいるが必死で否定をしていた。
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたと言う事は、つまりお前は今
 モンモランシーとつきあっている。そうだな?」
「違う。彼女の為に言っておくが――――――おごばぁぁぁっ!?」
彼の弁明は最後まで綴られる事なくその綺麗な顔面をストレートされた。
顔を中心に一回転して石床に叩きつけられたギーシュと呼ばれた少年、その顔には見事な
までに拳の痕がくっきりついており実に痛々しい。
そして倒れた少年の眼前、一人の少女が仁王立ちをしていた。
「お、おごご……ケ……ケティ。これは、誤解で………」
「さよなら!」
彼を思い切りぶん殴ったと思われるケティと呼ばれた少女は涙を流しながら去っていく。
ここにいるのは全員魔法使いだそうが、あの娘は格闘家あたりになったほうが良いのでは
と九朔は思った。
きっとムエタイ選手ならどんな者でも1ページ見開きで倒せる。
そんな彼女と入れ違うように今度は修羅の如き怒りの焔を纏い、金髪の少女がギーシュと
呼ばれた少年の前にやって来た。
その表情が見事なまでににこやかなのはある意味恐怖である。
ギーシュの周りに居た友人達が生命の危機を感じてズザザザと後ずさり、取り残された
ギーシュの目の前に彼女が仁王立った。
「モ、モモモ、モンモランシー、こ、これは誤解なんだ。彼女とはただいっしょに
 ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで………」
頬に刻まれた拳の痕が痛々しい彼はごく自然に、そして至極冷静に答えたつもりだったが
顔が引きつっていた。
「やっぱり、あの一年生に手をだしていたのね?」
「お願いだよ『香水』のモンモランシー……咲き誇る、その、えと、薔薇のような顔を
 そのような無表じょ………え?」
モンモランシーが微笑んだ、そう思った次の刹那、
「うそつき」
ギーシュの頭にワインの瓶が音速激突した。
砕け散るワイン瓶、ギーシュの頭蓋骨も一緒に粉砕したのではと思わせんばかりの激音に
九朔を除いた全員がひぃと呻いた。
「お………おぉ…………ぐぉぉぉ………」
床でぴくぴく痙攣するギ-シュを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしモンモランシーはそのまま
食堂を去った。
ぴくぴく震えるギーシュを中心に沈黙する一同。
約1分ほど経っただろうか、突然ギーシュは立ち上がり何事もなかったようにハンカチを
取り出すと顔をゆっくり拭いた。
何か頭のてっぺんあたりから致命的な量の血が溢れてきているような気がするのは眼の
錯覚ということにしておく。
ギーシュはワインを拭うと、シエスタにその瞳を向けた。
「さて、どうしてくれるんだねそこのメイド? 君が香水の壜なんかを拾い上げたおかげで
 二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ?」
それは自分のせいだし何よりその前に、既に絶命一歩手前の自分自身の身体をどうにかした方
が良くないか、と思う九朔。
しかしシエスタはといえば貴族からの言葉とあり顔を真っ青にしてまるで壊れたおもちゃの
ように何度も何度も頭を下げている。
「も、も、もも、申し訳ありません貴族様! 私、貴族様の物かと思って……!」
「それで許されると思っているのかい? 君のお陰でこのざまだよ? この傷の治療だって
 馬鹿にならないんだ、どうしてくれる?」
「っそそ、それは……それは………!」
「ああ分かっている、少なくともこれは全て君の責任だからね。これから先、君にはこの傷の
 治療費を払い続けてもらわなければならんなあ! それも僕が完治するまで、そして
 それから賠償もだ!」
「そんな! ああ……お、お許しください貴族様!」
ギーシュの前に跪き謝罪するシエスタ、それを彼は見下す。
その間も延々と自分は悪くないだの、君の責任だの、君の気配りができていないだのと
のたまってシエスタを罵っている。
まったく、この手合いはいつもこうだ。
胸糞悪い。
「申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした!」
「許してほしいのかい? まさか! 許すはずがないだろう!? この責任は全て
 君のせいなんだ、君は―――」
「……いい加減にせよ、汝」
シエスタを守るように、九朔はギーシュの前に立ちふさがった。
「クザクさん!?」
「ほう、何だね給仕? 君はもしかしてこのメイドをかばうつもりかい?」
シエスタは余りの事に驚き固まっている。
突如目の前を塞いだ給仕の少年、ギーシュは上から下へと視線を向ける。
なるほど、マントを羽織ってはいるが杖を持たないので平民だ。
その驕りが彼を強気にさせる。
「まさか君は貴族であるこの僕に口答えするつもりなのかね? 平民である君が」
「ああ、そのつもりだ。汝のような、己の失態を他人に擦り付ける者は気に食わぬ。
 ましてや、与えられた地位をもって他者を脅す手合いは更に、だ」
ぴくりとギーシュのこめかみが震えた。
「ほう? それはつまり僕を侮辱しているととっても良いのかな?」
「本当のことであろう? それくらい、汝でも分かると思うが」
九朔の言葉に周りにいた人だかりがどよめく。互いに顔を見合わせ、九朔に眼をやり
哀れむ視線を送る。
彼等にとって九朔は平民、そんな彼が目の前で貴族に楯突いたのだ。
無力な平民が貴族に歯向かうことが意味するのは死だ。
恐れを知らぬ蛮勇に侮蔑の視線が飛ぶ。
己で己の首を吊る愚者を嘲笑う声が飛ぶ。
だが彼等は知らない、人は決して『無力』ではないことを。『無力』に思えるものが
如何なる力を秘めるかを。
「どうやら君は、貴族に対する礼を知らないようだ」
「汝のような下郎に持つ礼などない」
互いの視線が交錯した。
「……君は、この僕が悪いとでも言うのか?」
「それ以外に在る訳なかろうが」
「言ってくれる」
そこに見えるは両者の怒りの情、不退転の意思。
「そうか、ならば口を知らない君に僕が礼儀というものを教えてやろう。その愚かさを
 身を持って知ると良い」
「ああ、そうしてもらおうか。もっとも、貴様如きにできるか不安だがな」
闘う理由は既に充分、互いが互いを敵と認識した。
ギーシュにとっては平民が貴族に逆らうその態度への怒りが、九朔にとっては己のものでは
ない力を振るう横暴への怒りが胸にある。容認できぬ怒りを持って互いを敵と為した。
「宜しい―――ならば、決闘だ!」
ギーシュの宣誓に食堂内に歓声が沸きあがる。
バサと、音を立てて彼の手からハンカチが宙へと投げられた。
落ちるそれを九朔は受け取り、ギーシュと視線を交わす。
「構わないな?」
「ああ」
その言葉にギーシュは不敵に笑んだ。
「では、この決闘は《ヴェストリの広場》で行う事としよう。僕の友人が案内してくれる
 はずだ、逃げるなよ?」
「それはこちらの台詞だ、汝」
それで良い、ギーシュは九朔に背を向けて食堂を去った。
それを見送る九朔をシエスタは顔を青ざめて見ている。
貴族に歯向かうことはつまり死ぬ事を意味する、それは想像を絶する恐怖だ。
なのに、彼は自分の為に身を挺してくれた。
「クザクさん……何で? 私のせいなのにどうして……」
「汝を見捨てるのは後味が悪い、ただそれだけだ」
「それだけで!? そんな……クザクさん、あなた殺されちゃう!」
「なに、どうとでもなるさ」
「でも……でも!」
しかし、怯えるシエスタの肩に手を置きクザクは微笑む。
「安心しろシエスタ。 ――我を、信じろ」
そう言って九朔は食堂の出口へと向かう。
その時シエスタは彼の背中に、言葉で表せない熱さを見た。苛烈なまでに気高い、
清らかな流れに似た透明な何かを感じた。
そして気づく、胸にあったはずの不安と恐怖がゆっくりと和らいでいく事に。
「クザクさん、貴方はいったい………」
呟くシエスタの先、九朔の姿は既にそこにはない。




食堂の出口へ向かう九朔、それに追いつくようにルイズが駆け寄ってきていた。
「あんた何してんのよ! 見てたわよ!」
「そうか」
「そうか、じゃない! なに勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」
「放っておけなかったのでな。ああいうのは胸糞悪い」
「それだけで!?」
手で頭を抑えつつ、歩みを止めない九朔をルイズは後ろから追いかける。
「謝りなさい。怪我したくなかったら今すぐによ」
「断る」
「あんたね!」
九朔は一向に聞こうとしない、自分の使い魔なのに。
しかし、止めなければ。
無力な平民がメイジに勝てる道理などありはしないのだ。何をしても無駄だと言うことを
分からせなければ。
「無理よ。平民は絶対に貴族に勝てないの、メイジだからよ? 魔法を使う相手に
 平民が勝てる道理なんてないの、絶対無理なの!」
「だから何だ?」
「無駄なの。平民がメイジに勝つなんて無理なの、そんな無駄な事しても無意味なのよ!」
「無意味……か」
「そうよ。良い? あんた達平民は無力よ、どんなに力を合わせたって勝てない。
 何度も言うけどそんな無駄な事をしても無意味なの、分かる?」
納得させるように強く言うのだが、しかし九朔は答えず真直ぐ進む。
何度も何度も言いきかせるのだが止まる気配もない。
「汝が案内役か」
「ああ、こっちだ」
ギーシュの友人に従いついて行く九朔。ただ真直ぐ、歩みを止めない。
ルイズの胸は理解できない事柄でいっぱいになる。
どうしてコイツは止まる事をしない?
どうしてこいつは抗う?
なぜ平民なのに貴族に歯向かう?
平民は貴族に従うのが道理なのだ、虐げられていたとしてもそれに抗う術はないのだ。
それなのに、この使い魔は何故闘おうとする?

――この使い魔が本当に異世界から来たから?

………まさか。
しかし、たとえそうだとしても決してメイジには勝てない。
そういうものなのだ、それは覆らない事実なのだ。
「ねえ、あんた。どうして無駄だって分かってるのに闘うのよ?」
諦めの気持ち混じりに、振向かない背中にルイズは尋ねた。
まるでさっきの教室と同じことをしているのだが、構いやしない。
はるか奥にヴェストリの広場が見えてくる、余り時間はない。
ややあって、九朔が口を開く気配があった。
「我にも分からぬ」
「はぁ!?」
「だがな」
そこで九朔は振り返る。その翡翠の瞳がまっすぐにルイズを射抜く。
そして、初めてルイズに微笑んで見せたのだ。
「たかが無意味なくらいで何もせぬなど、そんなこと我にはできぬよ」
「え?」
「たとえ無駄だとしても、足掻かずにいられるか。何もしないまま見てみぬふりして
 後悔する方がよっぽど後味が悪いさ」
たったそれだけのことで?
そんなことでこいつは闘うのか?
それは奇しくもシエスタが抱いた感情のそれ。
それだけのことでこの使い魔は貴族と、つまりメイジと闘う。
無駄だからと足を止めない。
何もしないなど、そんなことできない。
それはただの無謀だ、ただの愚だ。
ルイズは思う。
だが、九朔のその言葉にルイズは微かな胸の熱を覚えていた。
それは自覚することのないほどの小さな火。その意味も理由も今のルイズは
知る事はない。
ただ、今は目の前の九朔の決闘を見守るしかない彼女がいるだけ。
九朔は歩む、その場所へ。

――決闘場はすぐ目の前に


新着情報

取得中です。