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るいずととら第三章-10


「陛下、こ、これは一体どういうことですか――」

ルイズは声を震わせた。
ずらりと自分ととらを包囲した魔法衛士隊のメイジたち……彼らは揃って杖を引き抜き、ぴたりとこちらに向けて構えている。
二重の包囲の後方、何人もの屈強な兵士に守られた向こうに、アンリエッタが立っていた。

「大丈夫です、安心して。ルイズ・フランソワーズ……」

アンリエッタはルイズに向かって、安心させるようににっこりと微笑みかける。ぞくりとルイズの背中に震えが走った。

「すぐにその悪魔を殺してあげますから――アルビオンを滅ぼし、我が国にも災いをなさんとする『白面の者』の使いを……」

アンリエッタは笑顔のまま――そう言った。


遡って、ルイズたちがタルブの村から帰ってくる前日……。
トリステイン王宮の謁見室では、アンリエッタとオールド・オスマンが向かい合っていた。アンリエッタは婚礼を控え、王宮は慌しさに包まれていた。
当然、アンリエッタ自身も多忙の身である。しかし、それをおしてオールド・オスマンが謁見を求めたのは、ルイズがタルブの村に向かったのをしってのことである。

オスマンの語る「白面」と「霊槍」に、アンリエッタは息を飲んだ。

「……あのルイズが……白面の者と戦う役目を……? そう仰るのですか、オスマン学院長……」
「さよう」

あのルイズ・フランソワーズが……とアンリエッタは呟く。
日ごろアンリエッタの脳裏に浮かぶ幼馴染の姿は、魔法が苦手で気丈ながらも泣き虫であった頃のルイズである。
そのルイズが槍を振るって伝説の怪物と戦う……アンリエッタは溜息をついた。自分の知っているルイズとは違うのだ。そう、あの金色の使い魔を召喚した時から……

「ずっと、このことを秘密としてきた事をお許し下され。実のところ……この老いぼれ自身も、あの使い魔が召喚されるまでは信じられなかったものですじゃ……
 しかし、あの使い魔を見たとき、疑いは確信となりましたぞ。金色の毛に巨体、雷と炎を操る韻獣――
 六十年前、あの小さな村の寺院で出会った『役目』の精霊――その予言通りの姿でしたからの……」


オールド・オスマンが謁見室を辞してからも、しばらくの間アンリエッタはぼんやりと椅子に座っていた。
にわかには信じがたい――そう思うほどにオスマンの話は驚きだった。だが、あの使い魔……金色の幻獣のことを考えるとやはりオスマンの言葉は正しいのだろう。

「大変な使い魔を呼び出したものねえ、ルイズ・フランソワーズ……」

そう小さく呟いて、アンリエッタはくす、と笑った。
乗りたい風に乗り遅れた者は間抜けという――使い魔の言葉をそっと繰り返してみる。アンリエッタはぎゅっと手に力を込めると立ち上がった。
ルイズ・フランソワーズを助けよう。自分のちっぽけな運命がなんだろう。世界の存亡という重荷を背負わされてしまった幼馴染の少女を、自分でなくて誰が手助けして上げられるのか。

(そう――ルイズ・フランソワーズ、あなたが私の風なのでしょう。私の大切なお友だち……)

執務に戻ろうと、アンリエッタは謁見室の扉に手をかける――その時であった。


風――

ひゅう、と風がアンリエッタの頭に吹いた。

「…………」

無言で扉に手をかけたままでいたアンリエッタは、ぼんやりとした目で謁見室を振り返る。
なぜ、私は謁見の間に来たのだろう?
オールド・オスマンが謁見した――微かにそんな気がした。だが、一体何について話したというのだろう?

(何か、大切なことだった気がするけれど――)

不可解な気持ちで、アンリエッタは謁見室を出る。
……それきり、アンリエッタは思い出さなかった。
ルイズ・フランソワーズの担った使命のことも、その金色の使い魔のことも。


一方、トリステイン魔法学院。

結局、ルイズたちはタルブの村に一晩泊ったきりで魔法学院に帰ってきた。
元々、今回の旅の本来の目的は、タルブに出現するオーク鬼の討伐である。とらが婢妖たちと一緒にオーク鬼も残らず殺したため、これ以上タルブに留まる意味もなかった。
ただ、シエスタだけは、休暇の予定を繰り上げそのまま村に残ることになった。

「ちょっと早いお休みですけど……マルトーさんにもお話ししてありますから」

破壊された寺院を横目で見ながら、シエスタは苦笑した。見事に壁やら天井やらを破壊された寺院は、槍の刺さっていた祭壇だけを残し、哀れな惨状を晒している。

「ごめんね、シエスタ。そのとらがぶっ壊しちゃって……」
「いえ、いいんです。もともと誰も近づかないような場所でしたし、村のみんなもオーク鬼がいなくなったので大喜びしています」

本当にありがとうございました、と言ってシエスタは深々と頭を下げたのであった。

「――ってシエスタは言ってたけど……なんだか、私たち何しに行ったのかしらねぇ……結局、全部とらがなんとかしちゃったわけだし」

タバサの部屋でソファーに寝転んだキュルケは、ふわふわとあくびをつく。ソファーを奪われたタバサはベッドに腰掛けて、いつものように本を読んでいた。
二人とも、特に何をするでもなくタルブと魔法学院を往復するハメになったのであった。

「ねえ、聞いてるの、タバサー?」
「……解決したなら、それが何より」

ぼやくキュルケをやんわりと諭しながら、タバサはパラ、と本のページを捲った。あらつまんない、とキュルケは部屋の隅に目を転じる。
鏡の前で熱心に毛づくろい――もとい、髪の毛をとかす妙齢の美女。タバサの使い魔、シルフィードであった。
長い髪がさらさらと揺れる。タバサの髪と同じく、見事なまでに青い色を湛えた髪である。自分の燃えるような赤毛に少なからず自信を持つキュルケも思わずほう、と息を吐いた。

「ずいぶんご熱心じゃない? シルフィード、急にどうしたの?」
「いいことキュルキュル、シルフィは決意しました。必ず近いうちにとらさまと結婚します、きゅいきゅい!」
「あらまあ」

ずいぶん雪女と人間の結婚式に影響を受けたらしい。「恋に種族は関係ない」というのがシルフィードの出した結論だとか。
実は、タルブから帰る道すがら、キュルケとタバサは、散々シルフィードの話を聞かされたのである。

(まあ、雪の精霊と結婚する人がいるんだもの、結婚なんて気持ちしだいだと言えばそうかもね)

帰ってきてからというもの、シルフィードは大はしゃぎで髪をとかしたり服を着飾ったりしているのであった。もちろんタバサの服は小さすぎるので、キュルケがだいぶ服を提供したのだが。
嬉しそうにキュルケの服を身に着ける風韻竜――実はかなり露出度が高いのだが、キュルケはそれが普通だと思っているし、タバサは無関心である。
シルフィードに至っては裸の状態が基本なので、露出度など気にするはずもない。

……というわけで、世の男が見たら、10人に8人は鼻血を流しそうな……そんな着せ替えショーが大騒ぎで続くのであった。


夜……

「とら?」

ベッドに腰掛けたルイズは、部屋の隅に向かって声をかけた。
ほどなく、暗がりの中からぼんやりと使い魔の姿が現れてくる。背中に布に包んだ「槍」を背負った使い魔が答える。

「……どうした、るいず」
「あ、その。いるかなって……」
「なんだ、それァ……」

とらが鼻を鳴らす。ルイズはそっと立ち上がり、カタカタと机の引き出しを開けた。そこには、時逆のくれた櫛が入っているのだった。

「とら、これ……『時逆』って妖魔がくれたの……。ねえ、これも『白面』戦うための武器なの?」
「……貸してみな」

ルイズは櫛をとらに手渡す。とらは櫛をつまみ揚げると、静かに月明かりにかざした。
使い魔の目が、少しだけ優しくなったような――それでいて、どこか痛みに顔をしかめるような。なんともいえないとらの表情に、ルイズはとらを覗き込む。

「知ってるの……?」
「ああ、うしおのハハオヤの櫛だ」

(また、知らない名前……)

俯くルイズにとらが笑った。

「るいず、ちょっと頼みがあるんだが……」

頼み?
はっとルイズは顔を上げる。何だろう? とらがルイズに頼みごとをするなんて、今まで一度もなかったことだった。
とらは櫛をルイズに返した。

「その櫛で――わしの髪を梳いてくれねェか……? 自分でやってもいーんだが、コイツを持ってると邪魔でなァ」

とらがガシャガシャと槍を包んだ布を振る。なるほど、とらは髪で「槍」を持っているせいで、櫛を髪で操るのも難しいだろう。

「わかったわ」

頷いてルイズは櫛をとらの髪にあてる。改めて間近で見てみると、とらの髪は本当に見事な金色であった。
知らず知らずのうちに自分の頬が熱くなっているのに気がついて、ルイズは訳もなく顔を赤らめる。

しゅ、しゅ、とルイズが手を動かすと、櫛は引っかかることもなく進む。普段のとらから考えても、「髪をとけ」なんて、なんだが変な頼みだった。

(でも――こうしてると、なんだか落ち着いてくる。不思議……)

ルイズは微笑んだ。窓から差し込む月の光が、優しく金色の使い魔と小さな主人を照らしていた。


同刻、トリステイン宮殿――


「何者です――!」

月明かりの下でアンリエッタは身構えた。とっさにベッドから起き上がり、衛士を呼ぼうとするアンリエッタに、侵入者は深々と礼をした……。

『これは失礼をいたしました、私はあなた様に害をなすものではありませぬ――アンリエッタさま……』
「私は何者か、と訊いたのです。いったい、どこからこの部屋に――――ハッ……!」

アンリエッタは驚きに目を見張った。
目の前の女は、先ほどからゆらゆらと宙に浮かんでいるのだった。だが、呪文を唱えた様子はなく、杖を持っているようにも見えない。

『私は人間ではありません――『白面の者』を滅ぼすため、霊となった存在……「役目」、そう呼ばれております……』
(まさか――精霊――?)

改めて目の前の女を見つめると、異国風の白い衣をまとった女の身体は、微かに向こうの壁を透かしている。
アンリエッタはゆっくりと杖を下ろした。

「一体、なんの用でしょう……?」
『おやすみのところ参上したのは、申し上げなくてはならぬことゆえにて……』

そう言いながら、頭を下げていた女はゆっくりと顔を上げ、上目遣いにアンリエッタを見る。

月明かりの下、『黒髪の』女は、ぞわ、と笑った……。


翌朝。
アンリエッタは兵をトリステイン魔法学院に急がせた。
突然の出兵である。アンリエッタは反対を承知で魔法衛士隊を学院に向かわせることを主張した。しかし、予想に反して、誰からの反対意見も出ることはなかった。
驚くアンリエッタに、ぽつりとマザリーニ枢機卿が言った。

「やはり――陛下のところにも現れたのでしたか」

その一言が、全てを物語ってた。


武装した兵士たちに守られながら、アンリエッタの乗った馬車は飛ぶように駆けていく。

(あのルイズ・フランソワーズが……)

馬車の中で、アンリエッタは沈痛な面持ちで昨夜のことを思い出していた。
「役目」と名乗った黒髪の女は、アンリエッタの幼馴染のルイズに悪魔が取り付いていると語ったのである。

『その悪魔こそ、アルビオンで貴族たちを殺したバケモノ――金色の体毛、牙と爪の鋭い凶暴な幻獣です……』
「で、では、ウェールズ様もそのバケモノに……!」

怒りに震えるアンリエッタに、女は頷いた。

『ええ……彼奴はワルドという男を殺し、その許婚に取り付いたのです……今度はこの国を滅ぼすために――
 バケモノは影のように娘と一緒におります……娘の名はご存知のとおり――』

アンリエッタはぐっと唇を噛んだ。

「ルイズ・フランソワーズ……! ああ、なんということでしょう……!!」
『そう……心を狂わされた彼女を救うには、そのバケモノを殺すしかありませぬ――「白面」の使いのバケモノを……お気をつけて、怪物は強力な炎と雷を放ちますゆえ……』

そう言って女は消えたのだった。

(待っていてね、ルイズ……私のお友だち……! ウェールズ様の仇を討って、私があなたを助けますから――!)

怒りと憎悪に手が震える。
馬車の中で、アンリエッタはぎゅっと杖を握り締める手に力を込めた。

「いい天気ね」

ルイズはうーんと伸びをした。トリステイン魔法学院の中庭をとらと一緒に歩いていく。
とらの朝食のために、散歩もかねて中庭を歩きながら厨房に向かっているのであった。

「シエスタが実家に戻っちゃってるけど、マルトーさんならちゃんと作ってくれてるわよ、『テロヤキバッカ』」
「だといいがよ。ああ、ハラァ空いたな……」

ルイズの肩の上にのったとらがぼやく。ルイズはくすりと微笑んだ。

気持ちのいい風が吹き抜ける。
ルイズの手には昨夜とらの髪をとかした感触がまだ残っているような気がして、ルイズはそっと手を握った。

タバサの部屋では、シルフィードがキュルケの服を着たままの姿で、タバサのベッドに潜り込んで寝息を立てていた。

そのタバサは、錫杖を片手に朝の鍛錬に出かけるため、シルフィードを起こさぬようにそっとドアを閉めたところだった。

キュルケは、どんな服がシルフィードに似合うかしら、とぼんやりベッドで思案していた。

……まったくもって、平穏な一日の始まりのように思えた。



「ああ、可哀想なルイズ・フランソワーズ! 大丈夫ですわ、すぐにその悪魔からあなたを解放してみせます。あなたには指一本たりとも触れさせはしません……」

そう叫びながら、アンリエッタは涙を浮かべて頭を振った。
突然中庭で兵士たちに包囲されたルイズは、訳が分からぬまま周りを見回す。
悪魔。
陛下は一体何を言っているのだろう? とらが悪魔? なに、それ――?

「陛下、何を仰るのですか!? 彼は……『とら』は私が召喚した使い魔です。陛下にも何度もお会いしていますわ、ちゃんとご存知のはずでしょう!?」

そう必死で叫ぶルイズに、アンリエッタはきょとんとした顔になった。
だが、『ルイズは心を狂わされた』という、『お役目』の言葉を思い出し、アンリエッタは悲しげに首を振る。

「ルイズ。貴女が何を言っているのか私にはわかりません。そのような獣を見たことなど、ただの一度もありませんわ」
「う、うそよ、だって――」

「ミス・ヴァリエール、口を慎め!」

思わず声を荒げたルイズに、魔法衛士の隊長の声が飛ぶ。
槍を構えた兵士たちが、さっとルイズに向かって穂先を突き出す。それを見てアンリエッタは厳しく命令を下した。

「お止めなさい、私の友人を傷つけることは許しません! ……さあルイズ、こちらにいらっしゃい。きっと貴女は心を操られているに違いありませんわ」

違う、違う……と虚ろに首を振るルイズは、兵士たちに両脇からがっちりと腕を捕まえられ、そのままずるずると引きずられていく。
杖と槍を向けられたとらは、その様子を黙って見つめるだけであった。
ルイズが『バケモノ』から離れたのを確認し、アンリエッタはほっと息を吐く。
その視線が金色の妖魔に向けられた。アンリエッタの目の光が憎悪を帯びていく。

(ウェールズ皇太子と、ルイズの婚約者、ワルド子爵の仇……!!)

目の前の『バケモノ』は、じっとこちらを見つめていた。3メイルに届くかと思われる巨大な体躯、金色の毛並み、凶悪な牙と爪――
すべて、あの黒髪の女のいった通りである。
アンリエッタはさっと手をかざした。

「悪魔よ!! これからおまえを地獄の炎に焼いてくれましょう! 隊長、号令を――ッ!」

はっ、と言って、隊長が声を張り上げた。

「衛士構えッ! 目標、金色の幻獣……跡形もなく焼き尽くせ!!」

火の魔法を使う衛士たちがいっせいに詠唱を始める。腕をがっちりと兵士につかまれながら、ルイズは半狂乱で叫んだ。

「やめて! やめて! とらは何もしてないわ!!」
「放てェッ!!」

ゴッ!!!!

隊長の号令のもと、一斉に杖から焔が放たれ、金色のバケモノを包んだ。
たとえ竜だろうと到底生きられないような火炎である。兵士の誰もが仕留めたと思い、歓声が中庭に広がる。

だが――

「くっくっくっく……」

燃えさかる焔の中から、低い嗤い声が聞こえてきて、アンリエッタはびくりと体を震わせた。隊長以下、衛士たちのの顔にも冷や汗が流れる。
この炎の中で生きているなどありえない――誰もがそう思っていた。その『常識』は見事に裏切られる。
炎が消えていくその中心には……全身に煙を上げながらも、ダメージを受けた様子もない『バケモノ』が立っていた。

「き、傷一つない……?」
「くっくっく……ひゃっはっはっは!! わしをこの程度の火遊びで殺せると思うかよ、ちっぽけなニンゲンどもがッ!! ローソクの火かと思ったぜ。ひゃひゃひゃ……」

ずらりと並んだ白い牙をむき出し、悪魔は大きな口を開けて哄笑する。そして、ふわ、と空中に浮かんだ。

「来な、殺さねェ程度に相手してやらァ……」
「くッ! なんとしてもあのバケモノ逃がすな! グリフォン隊続けッ!!」

隊長がグリフォンに飛び乗る。衛士たちも一斉にそれに続いた。

(やっぱり、るいずと一緒にはいられねェな……コイツが婢妖を呼ぶかぎりはなァ……)

ルイズにはそのほうがいいだろう。背中の獣の槍を見てとらは嗤った。そして、びょう、と風を唸らせて舞い上がる。

「るいずよォ――!!」

あっという間に尖塔よりも高く跳びあがったとらは、見上げるルイズに向かって大声で叫んだ。

「わりィがオメェとの使い魔の契りはなしだァ!! フツウの娘として無事にこれからの人生を生きろォ!! あばよーッ!!!」

そして、魔法衛士たちの操るグリフォンに追いかけられながら、とらは風のように飛んでいく。


ごぉおぉおおおぉおう――――!!

突風がルイズの桃色の髪を激しく揺らした。

「な、によ、それ……」

兵士に両腕を抱えられながら、ルイズはの体が震えだした。
おおきく見開かれた目から、ぽた、ぽた、とルイズの頬を大粒の涙が伝って落ちる。ルイズはとらの消えた方向に、声の限りに叫んだ。

「ふざけないでよ、ばかとらぁ――――ッ!!!」

ルイズの声は風にかき消され、飛んでいく妖怪に届くことなく消えていった……。


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