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ゼロのアトリエ-31


ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式は、
ゲルマニアの首府ヴィンドボナで行われる運びであった。式の日取りは来月、ニューイの月の一日に行われる。
そして本日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は新生アルビオン政府の客を迎えるために、
艦隊を率いてラ・ロシェールの上空に停泊していた。
後甲板では、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵が、国賓を迎えるために正装して居住まいを正している。
その隣では、艦長のフェヴィスが口ひげをいじっていた。
アルビオン艦隊は、約束の期限をとうに過ぎている。
「やつらは遅いではないか、艦長」
イライラしたような口調で、ラ・ラメーは呟いた。
「自らの王を手にかけたアルビオンの犬どもは、犬どもなりに着飾っているのでしょうな」
そうアルビオン嫌いの艦長が呟くと、見張りの水兵が大声で艦隊の接近を告げた。
「左上方より、艦隊!」
なるほどそちらを見やると、雲と見まごうばかりの巨艦を先頭に、
アルビオン艦隊が静かに降下してくるところであった。
「ふむ、あれがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン』級か…」
感極まった声でラ・ラメーが呟いた。あの艦隊が、姫と皇帝の結婚式に出席する大使を乗せているはずであった。
「しかし…あの先頭の艦は巨大ですな。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように見えますぞ」
艦長が鼻を鳴らしつつ、巨大な艦を見つめて言った。
「ふむ、戦場では会いたくないものだな」
降下してきたアルビオン艦隊は、トリステイン艦隊に併走する形になると、旗流信号をマストに掲げた。
「貴艦隊ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長」
「こちらは提督を乗せているのだぞ。艦長名義での発信とは、これまたコケにされたものですな」
艦長はトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見守りつつ、自虐的に呟いた。
「あのような艦を与えられたら、世界をわが手にしたなどと勘違いしてしまうのであろう。
よい。返信だ。『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令長官』、以上」
ラ・ラメーの言葉を控えた士官が復唱し、それをさらにマストに張り付いた水兵が復唱する。
するするとマストに、命令どおりの旗流信号がのぼる。
どん!どん!どん!とアルビオン艦隊から大砲が放たれた。礼砲である。弾は込められていない。
しかし、巨艦『レキシントン』号が空砲を撃っただけで、辺りの空気が震える。
その迫力に、ラ・ラメーは一瞬あとじさる。よしんば砲弾が込めてあったとしても、この距離まで届く事はない。
それがわかっていながらも、実戦経験もある提督をあとじらせるほどの、
禍々しい迫力を秘めた『レキシントン』号の射撃であった。
「よし、答砲だ」
「何発撃ちますか?最上級の貴族なら、十一発と決められております」
礼砲の数は、相手の格式と位で決まる。艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。
「七発でよい」
子供のような意地をはるラ・ラメーを、にやりと笑って見つめると、艦長は命令した。
「答砲準備!順に七発!準備出来次第撃ち方始め!」


アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の後甲板で、艦長のボーウッドは、
左舷の向こうのトリステイン艦隊を見つめていた。
隣では、艦隊司令長官及び、トリステイン侵攻軍の全般指揮を執り行う、サー・ジョンストンの姿が見える。
貴族議会議員でもある彼は、クロムウェルの信任厚い事で知られている。
しかし、実戦の指揮は取った事がない。サー・ジョンストンは政治家なのであった。
「艦長…」
心配そうな声で、ジョンストンは傍らのボーウッドに話しかけた。
「サー?」
「こんなに近づいて、大丈夫かね?長射程の新型の大砲を積んでいるんだろう?もっと離れたまえ。
私は、陛下より大事な兵を預かっているのだ」
クロムウェルの腰ぎんちゃくめ、と口の中だけで呟いて、ボーウッドは冷たい声で言った。
「サー。新型の大砲といえど、射程いっぱいで撃ったのでは当たるものではありません」
「しかしだがな、何せ、私は陛下から預かった兵を、無事にトリステインに下ろす任務を担っている。
兵が恐がってはいかん。士気が下がる」
恐がっているのは兵ではないだろう、とボーウッドは思いながら、ジョンストンの言葉を無視して命令を下す。
空では自分が法律だ。
「左砲戦準備」
「左砲戦準備!アイ・サー!」
砲甲板の水兵たちによって大砲に装薬が詰められ、砲弾が押し込まれる。
空の向こうのトリステイン艦隊から、轟音が轟いてきた。トリステイン艦隊旗艦が、答砲を発射したのだ。
作戦開始だ。その瞬間、ボーウッドは軍人に変化した。
政治上のいきさつも、人間らしい情も、卑怯なだまし討ちであるこの作戦への批判も、全て吹っ飛ぶ。
神聖アルビオン共和国艦隊旗艦『レキシントン』号艦長、サー・ヘンリ・ボーウッドは矢継ぎ早に命令を下し始めた。
艦隊の最後尾の旧型艦『ホバート』号の乗組員が準備を終え、
『フライ』の呪文で浮かんだボートで脱出するのがボーウッドの視界の端に映った。


答砲を発射し続ける『メルカトール』艦上のラ・ラメーは、驚くべき光景を目の当たりにした。
アルビオン艦隊最後尾の…一番旧型の小さな艦から、火災が発生したのだ。
「なんだ?火事か?事故か?」
フェヴィスが呟く。次の瞬間、もっと驚くべき事が起こった。
火災を発生させた艦に見る間に炎が回り、空中爆発を起こした。
残骸となったそのアルビオン艦は、燃え盛る炎と共に、ゆるゆると地面に向かって墜落してゆく。
「な、なにごとだ?火災が火薬庫に回ったのか?」
『メルカトール』号の艦上が、騒然となる。
「落ち着け!落ち着くんだ!」
艦長のフェヴィスが水兵たちを叱咤する。『レキシントン』号の艦上から、手旗手が、信号を送ってよこす。
それを望遠鏡で見守る水兵が、信号の内容を読み上げる。
「『レキシントン』号艦長ヨリトリステイン艦隊旗艦。『ホバート』号ヲ撃沈セシ貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ」
「撃沈?何を言ってるんだ!勝手に爆発したんじゃないか!」
ラ・ラメーは慌てた。
「返信しろ!『本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ』」
すぐに『レキシントン』号から返信が届く。
『タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ハ、貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス』
「バカな!ふざけたことを!」
しかし、ラ・ラメーの絶叫は、『レキシントン』号の一斉射撃の轟音でかき消される。着弾。
『メルカトール』号のマストが折れ、甲板にいくつも大穴が開いた。
「この距離で大砲が届くのか!」
揺れる甲板の上で、フェヴィスが驚愕の声を上げる。ラ・ラメーは怒鳴った。
「送れ!『砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意思アラズ』」
しかし、『レキシントン』号はさらなる砲撃で、返事をよこしてきた。着弾。
艦が震え、あちこちで火災が発生した。
『メルカトール』号から、悲鳴のような信号が何度も送られる。
『繰リ返ス!砲撃ヲ中止セヨ!我ニ交戦ノ意思アラズ!』
しかし、『レキシントン』号の砲撃はいっこうにやむ気配がない。着弾。
砲弾の破片で、ラ・ラメーの体が吹っ飛び、フェヴィスの視界から消えた。
同時に、着弾のショックでフェヴィスは甲板に叩きつけられる。
フェヴィスは悟った。これは計画された攻撃行動だ。奴らは初めから、親善訪問のつもりなどない。
自分達はアルビオンに嵌められたのだ。
艦上では火災が発生している。周りでは傷ついた水兵たちが、苦痛のうめきを上げている。
頭を振りながら立ち上がり、フェヴィスは叫んだ。
「艦隊司令長官戦死!これより旗艦艦長が艦隊指揮を執る!各部被害状況知らせ!艦隊全速!右砲戦用意!」

「やつらは、やっと気付いたようですな」
ゆるゆると動き出したトリステイン艦隊を眺めつつ、ボーウッドの傍らでワルドが呟いた。
ワルドも、名ばかりの司令長官であるジョンストンにいかほどのことができるとも思っていない。
上陸作戦全般の実際の指揮は、ワルドが行うことになっていた。
「の、ようだな。子爵。しかし、すでに勝敗は決した」
行き足のついていたアルビオン艦隊は、全速で動き出したトリステイン艦隊の頭を抑えるような機動で、既に動いていた。
アルビオン艦隊は一定の距離をとりつつ、冷静に射撃を加えていく。艦数で二倍、それに加え、
こちらには新型の大砲を搭載した巨艦『レキシントン』号がいる。砲力は比べ物にならない。
トリステイン艦隊をいたぶるように、砲撃は続けられた。
十数分後、火災を発生させていた『メルカトール』号の甲板がめくれあがる。
瞬間、轟音と共に『メルカトール』号は空中から消えた。爆沈である。
他のトリステイン艦も、無傷のものは一艦たりともない。旗艦を失った艦隊は混乱し、バラバラの機動で動き始める。
全滅は時間の問題であった。既に白旗を掲げた艦も見えた。
『レキシントン』号の艦上のあちこちから、「アルビオン万歳!神聖皇帝クロムウェル万歳!」の叫びが届く。
ボーウッドは眉をひそめた。かつて空軍が王立だった頃は、戦闘行動中に『万歳』を唱える輩などいなかった。
見ると、司令長官のジョンストンまでが万歳の連呼に加わっている。ワルドが言った。
「艦長、新たな歴史の一ページが始まりましたな」
苦痛の叫びをあげる間もなく潰えた敵を悼むような声で、ボーウッドは呟いた。
「なに、戦争が始まっただけさ」

ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師31~


トリステインの王宮に、国賓歓迎の為、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の報がもたらされたのは、
それからすぐのことだった。ほぼ同時に、アルビオン政府からの宣戦布告文が急使によって届いた。
不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する非難がそこには書かれ、
最後に『自衛ノ為神聖アルビオン共和国ハ、トリステイン王国政府ニ対シ宣戦ヲ布告ス』と締められていた。
ゲルマニアへのアンリエッタの出発で大わらわであった王宮は、突然のことに騒然となった。
すぐに将軍や大臣達が集められ、会議が開かれた。しかし、会議は紛糾するばかり。
まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ、との意見や、ゲルマニアに急使を派遣し、
同盟に基づいた軍の派遣を要請すべしとの意見が飛び交った。
会議室の上座には、その様子をつまらなそうに見つめるアンリエッタの姿も見えた。
本縫いが終ったばかりの、眩いウェディングドレスに身を包んでいる。
これから馬車に乗り込み、ゲルマニアへと向かう予定であった。
会議室に咲いた大輪の花のようなその姿であったが、今は誰も気にとめる者はいない。
「アルビオンはわが艦隊が先に攻撃したと言い張っておる!しかしながら、わが方は礼砲を発射しただけというではないか!」
「偶然の事故が、誤解を生んだようですな」
各有力貴族たちの意見を聞いていた枢機卿マザリーニは頷いた。
「よし、アルビオンに特使を派遣する。ことは慎重を期する。この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が、全面戦争へと発展しないうちに…」
その時、急報が届いた。伝書フクロウによってもたらされた書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んでくる。
「急報です!アルビオン艦隊は、降下して占領行動に移りました!」
「場所はどこだ?」
「ラ・ロシェールの近郊!タルブの草原のようです!」


トリステイン魔法学院近くの草原に、マンティコアと、それに乗った…傷つき倒れた衛士が降り立った。
すぐに水のメイジによる『治療』が行われ、意識を取り戻した彼が、アルビオンの宣戦布告の報を告げる。
自分はそれを王宮に伝える伝令役のうちの一人、運悪く追撃を受け、ここまで飛んで力尽きたのだと…
コルベールはオスマン氏に許可を取ると即座に伝書フクロウを飛ばし、事実の確認を急ぐ。
間違いであって欲しい、心からそう祈っていたが、もたらされた事実は救いがたい現実を裏書きするものであった。
「アルビオンがトリステインに宣戦布告。姫殿下の式は無期延期。
王軍は現在ラ・ロシェールに向かって進軍中、したがって学院におかれましては、
安全のため、生徒及び職員の禁足令を願います、と…」
オスマン氏は深く息を吐くと、学院長室のイスに腰掛けた。
「やはり…戦争かね?」
机の上で指を組み、オスマン氏はコルベールにもたらされた書簡を受け取る。
「タルブの草原に、敵軍は陣を構築しているようです」
「アルビオンは強大だろうて」

コルベールは、悲しげな声で言った。
「敵軍は、巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十数隻。上陸せし総兵力は三千と見積もられます。
わが軍の艦隊主力は既に全滅、かき集めた兵力はわずか二千。未だ国内は戦の準備が整わず、
緊急に配備できる兵はそれで精一杯のようです。しかしながらそれより、完全に制空権を奪われたのが致命的です。
敵軍は空から砲撃を加え、わが軍を難なく蹴散らすでしょう」
「現在の戦況は?」
「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです。同盟に基づき、
ゲルマニアへ軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか…」
オスマン氏はため息をついて言った。
「見捨てる気じゃな。敵はその間に、トリステインの城下町をあっさり落とすじゃろうて」

学院長室の扉に張り付き、聞き耳を立てていたルイズは、戦争と聞いて蒼白になった。
そのルイズの手を脇に立っていたヴィオラートが掴み、ルイズを引きずってゆく。
「どこに行くのよ!」
「タルブの村」
「な、何しに行くのよ!」
「決まってるでしょ?シエスタちゃんと、アンリエッタさんを助けに行くんだよ」
ルイズはヴィオラートの腕を振りほどこうとして、もがいた。
「ダメよ、戦争してるのよ!私達が行ったって、どうにもならないわ!」
「なるよ」
ヴィオラートは見た目とは裏腹に強靭な腕でルイズをがっちりと掴み、きっぱりと、そう言い放った。
ルイズの動きが止まる。
「…何よ、何がどうなるってのよ」
「あたしとルイズちゃんがいれば勝てる。大丈夫だよ、あたしを信じて」
そう言ってルイズを見たヴィオラートの瞳にいつもの『本気』を見て取って、
結局ルイズはヴィオラートの希望通り、追従の言葉を口に出してしまう。
「ああ、いつものアレね…わかったわ、ダメだって言っても、結局あなた一人でもやっちゃうんでしょ?」
「ごめんね…」
「いいわよもう。使い魔に協調するように、私ってば条件付けられてるから。ああ、なんてかわいそうな私」
その自虐的なもの言いに、思わずヴィオラートがルイズを覗き込むと、
ルイズはニヤニヤしながら、ヴィオラートの反応を観察していた。

二人はひとしきり笑いあうと、愛用のホウキとフライングボードに乗り込む。
「じゃ、行こっか」
「そうね」
言葉少なに、タルブを目指して飛び立つ二人。
二つの航跡が遠大な仮想の弧を描いて、どこまでも伸びて行った。


大きな風竜に跨ったワルドは、薄笑いを浮かべながらかつての祖国を蹂躙していた。
近くを、直接指揮の竜騎士隊の火竜が飛び交っている。
ワルドの誇る風竜はブレスの火力では火竜に劣るが、スピードで勝る。
指揮を執るならとあえて選んだ風竜であった。
「何でまたこんな村を焼く必要があるんだい?」
風竜の端から下を覗き込んだフーケが、不快感もあらわに問いかけた。
ワルドは眉をぴくりとだけ動かし、お優しいフーケを嘲弄するような態度で答える。
「ふん。本体到着前の露払いという面もあるが…一言で言ってしまえば、挑発行為だな」
「挑発行為?」
「そうだ。ただ漫然と上陸するだけではトリステインの奥に誘い込まれたり、対峙させられて時間を稼がれるかも知れん。
それならば、敵側を挑発して正面決戦を誘った方が時間的な効率がいい」
「そうかい」
ただの、レコン・キスタの戦略上の都合のためだけにこの村は焼かれ、灰燼と帰するのか。
フーケはそれ以上何も言わず、ただ、炎上する村をその目に焼きつけた。

昼を過ぎた。王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。
「タルブ領主、アストン伯戦死!」
「偵察に向かった竜騎士隊、帰還せず!」
「未だアルビオンより、問い合わせの返答ありません!」
それでも会議室では、未だ不毛な議論が繰り返されていた。
「やはりゲルマニアに軍の派遣を要請しましょう!」
「そのように事を荒立てては…」
「竜騎士隊全騎をもって、上空から攻撃させては?」
「残りの艦をかき集めろ!全部!全部だ!小さかろうが古かろうが何でも良い!」
「特使を派遣しましょう!攻撃したら、それこそアルビオンに全面戦争の口実を与えるだけですぞ!」
一行に会議はまとまらない。マザリーニも、結論を出しかねていた。
未だ彼は、外交での解決を望んでいるのであった。

生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。
先ほど、ラ・ロシェールの方から爆発音が聞こえてきたのだ。
驚いて庭に出て、空を見上げると、恐るべき光景が広がっていた。
空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中に落ちて行く。
村は騒然とし始めた。しばらくすると、空から巨大な船が降りてきた。
雲と見まごうばかりの巨大なその船は、村人達が見守る中、草原に鎖のついた錨を下ろし、上空に停泊する。
その上から、何匹ものドラゴンが浮かび上がった。
「何が起こってるの?お姉ちゃん」
幼い弟や妹たちが、シエスタにしがみついて尋ねる。
「家に入りましょう」
シエスタは不安を隠して兄弟たちを促し、家の中に入った。
中では両親が、不安げな表情で窓から様子を伺っている。
「あれは、アルビオンの艦隊じゃないか」
父が草原に停泊した船を見て言った。
「いやだ…戦争かい?」
母がそう言うと、父が否定した。
「まさか。アルビオンとは不可侵条約を結んでいるはずだ。この前領主様のお触れがあったばかりじゃないか」
「じゃあ、さっきたくさん落ちてきた船はなんなんだい?」
艦上から飛び上がったドラゴンが、村めがけて飛んできた。父は母を抱えて窓から遠ざかる。
ぶおん!と唸りを上げて、騎士を乗せたドラゴンは村の中まで飛んできて、辺りの家々に火を吐きかけた。
「きゃあ!」
母が悲鳴を上げた。家に火を吐きかけられ、窓ガラスが割れて室内に飛び散ったのだ。
村が燃え盛る炎と怒号と悲鳴に彩られていく。
父は気を失った母を抱いたまま、震えるシエスタに告げた。
「シエスタ!弟たちを連れて南の森に逃げるんだ!」

会議室に怒号飛び交う中、アンリエッタは自らの服装を省みていた。
晴れの舞台にと用意されたドレスは、現状…まとまらない会議、放置された姫…とあいまって、
滑稽なまでに『お飾り』としてのアンリエッタを際立たせていた。
思わず苦笑が漏れる。お飾りを嫌い、できる限りの努力をしてきたつもりだった。
嫌な貴族にも高貴なる笑みで答え、勉強をしろと言われれば勉強し、結婚しろと言われれば…
誰よりも『姫』たらんと、責務を果たさんと望まぬ婚姻を受け入れ、
全ての『私』を犠牲にしてトリステインに尽くすつもりだった。そのはずだった。
だが現状はどうだ?そのトリステインを支えるはずの…アンリエッタがゲルマニアに嫁いだあと、
見事国を支えて見せるとアンリエッタの目の前で誓ったはずの重臣たちが、
アルビオンの裏切り一つで蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
そう、裏切り。自分でさえ理解できる裏切り行為が、彼らには何か別の意義ある行動にでも見えているらしい。
自分の知らない外交的な決まりでもあるのやもしれぬ、と、会議…怒鳴り合いを見守っていたアンリエッタだが、
話題が三巡し、四巡し…どうやら、彼らはどうにかして戦わない理由を探そうと躍起になっていることに気付く。
馬鹿馬鹿しい。明確な敵意を持って国土を侵略してきた国に使う外交的手段などあるものか。
せいぜい相手の要求を全て受け入れ、隷属でも誓約するか。二度と逆らわないと誓い、お姫様でも差し出して…

そこまで考えが至った時、アンリエッタは思わず重臣達を見渡した。
そう、戦争を外交的手段で避けるということは、そのような選択肢もありえるということだ。
普段アンリエッタに向かって誇らしげに国家を語り、国家のために死んで見せると簡単に吐き散らしたこの者たちが…
民草のためという言い訳を用意して、自らの保身のためにアンリエッタを差し出す。
「タルブの村、炎上中!」
その急使の声にはじかれるように、アンリエッタは音を立てて立ち上がった。一斉に重臣達の視線が注がれる。
アンリエッタは大きく深呼吸すると、わななく声で言い放った。
「あなたがたは、恥ずかしくないのですか」
「姫殿下?」
「国土が敵に侵されているのです。同盟だ、特使だと騒ぐ前にすることがあるでしょう」
「しかし…姫殿下…、誤解から発生した小競り合いですぞ?」
「誤解?どこに誤解の余地があるというのですか?礼砲で艦が撃沈されたなど、言いがかりも甚だしいではありませんか」
「我らは、不可侵条約を結んでおったのですぞ。事故です」
「条約は紙より容易く破られたようですわね。もとより守るつもりなどなかったのでしょう。
時を稼ぎ、虚をつくための口実にすぎません。アルビオンには明確に戦争の意思があって、全てを行っていたのです」
「しかし…」
アンリエッタはテーブルを叩き、大声で叫んだ。
「わたくしたちがこうしている間に、民の血が流されているのです!彼らを守るのが貴族の務めなのではありませぬか?
我らは、なんのために王族を、貴族を名乗っているのですか?このような危急の際に彼らを守るからこそ、
君臨を許されているのではないですか?」
誰も、何も言わなくなってしまった。アンリエッタは冷ややかな声で言った。
「あなたがたは、怖いのでしょう。なるほど、アルビオンは大国。反撃を加えたとして、勝ち目は薄い。
敗戦後責任を取らされるであろう、反撃の計画者にはなりたくないというわけですね?
ならば、このまま恭順して命を永らえようというわけですね?」


「姫殿下」
マザリーニがたしなめた。しかし、アンリエッタは言葉を続けた。
「ならばわたくしが率いましょう。あなたがたは、ここで会議を続けなさい」
アンリエッタはそのまま会議室を飛び出ていった。
マザリーニや、何人もの貴族が、それを押しとどめようとした。
「姫殿下!お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
「ええい!走りにくい!」
アンリエッタは、ウェディングドレスの裾を、膝上まで引きちぎった。
引きちぎったそれを、マザリーニに投げつける。
「あなたが結婚なさればよろしいわ!」
宮廷の中庭に出ると、アンリエッタは大声で叫んだ。
「わたしの馬車を!近衛!参りなさい!」
聖獣ユニコーンが繋がれた、王女の馬車が引かれてきた。
中庭に控えた近衛の魔法衛士隊が、アンリエッタの声に応じて集まってくる。
アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外すと、ひらりとその上に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります!各連隊を集めなさい!」
状況を知っていた魔法衛士隊の面々が、一斉に敬礼する。
アンリエッタは、ユニコーンの腹を叩いた。
ユニコーンは、額から突き出た角を誇らしげに陽光にきらめかせ、高々と前足を上げて走り出した。
その後に、幻獣に騎乗した魔法衛士隊が口々に叫びながら続く。
「姫殿下に続け!」
「続け!後れをとっては家名が泣くぞ!」
次々に中庭の貴族たちは駆け出していく。城下に散らばった各連隊に連絡が飛んだ。
その様子をぼんやりと見つめていたマザリーニは、天を仰いだ。
どのように努力を払おうとも、いずれアルビオンとは戦になるとは思っていたが…。
未だ、国内の準備は整っていないのだ。彼とて、命を惜しんだわけではない。
彼なりに国を憂い、民を思ってこその判断だった…と、自負している。小を切っても、負ける戦はしたくないのであった。
しかし、姫の言う通りであった。彼が傾注した外交努力は既に泡と消えていた。しがみついて何になろう。
騒ぐ前に、すべき事があったのだ。
一人の高級貴族が、マザリーニに近づいて耳打ちした。
「枢機卿、特使の派遣の件ですが…」
マザリーニはかぶった球帽をその貴族の顔に叩きつけた。
アンリエッタが自分に投げつけたドレスの裾を拾い、頭に巻いた。
「おのおのがた!馬へ!姫殿下一人を行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」


「そろそろこの辺りのかたはついたな。後を頼む」
ワルドはそう言い残すと、フーケに向かって不気味な笑みを浮かべ、
空を飛べる部隊員を引き連れ、フーケに後を託して、残存するトリステイン竜騎士隊の掃討のために飛び立った。
「後を頼む…ねえ」
ワルドが消えた後、ワルドの指揮下にあった急造の寄せ集め部隊のそのまた残りカスは一気に統制を失い、
人気のない周辺の民家に押し入ると、そこに残された金目の物、甚だしきに至っては野菜や穀物まで持ち出し、
抜け目なく荷車まで盗み出してせっせと運び始めた。そして…その後の指示さえ、ワルドは残して行かなかった。
後を頼むと言われても、これで一体どうしろと言うのか。
それに、何だかさっきから妙な焦燥感が脳裏をかすめてならない。あの、ワルドの不気味な笑み…
その正体が何なのかつかみかねて、フーケは燃え上がる民家をよそに、じっと思考の海に沈んでいたのだが…
「なあ、いくらなんでも全部焼く事はねえんじゃねえの?」
「なあに、勝った後に何もかもトリステインのせいにすりゃいいのよ」
略奪に加わった兵士のその言葉を聞いた瞬間、フーケの脳内で全ての事象の糸が繋がった。
ワルドは…もしかしたらレコン・キスタは、その罪を全部私に負わせる気だ。
わざわざ私を風竜に乗せて連れてきたのも、全てはそのため…
土くれのフーケという元盗賊がごろつき兵どもを扇動し、略奪行為を行わせたという捏造のため。
勝利の後、フーケに罪を着せて処断する事で彼ら自身の『公正さ』でもアピールするつもりか。
まずい。あまり考える時間は残されていない、どうする、どうする…
自らの危機に思わず爪をかんだフーケに天啓を与えたのは、やはり無防備に放たれた兵士の会話だった。
「なんだ、もう何もねえな。本陣戻るか…」
「ちょっと待った。村の平民どもはどうやら森の方にいるらしいじゃねえか」
「らしいが、どうした?」
「肌身離さず持ってる貴重品…あるだろ?」
「おお、お前頭いいな」
「へへへ…ココの出来が違うのよ」
これだ。フーケの名を上手く使えば、一気に逆転の目が見えてくる。 
今まで貴族だけを狙ってきたのは単なる趣味の問題であり、また貴族の方が物を持っていたからだ。
だが幸いにして平民の物は何一つ、パンの一つさえ奪ってはいない。ここで…
村に火を放ち、略奪をし、その上逃げおおせた村人に害をなそうとする『貴族』を相手に大立ち回りでも演じてやれば…
『土くれのフーケ』の評価が、変わってくる。少なくとも生き残った村人が肯定的な証言をしてくれるだろう。
たとえ平民でも、証言は証言だ。
その後、フーケの真の名…マチルダ・オブ・サウスゴータの名を使って上手く立ち回れば…
わずかな、そして実現不可能かと思えるほどの微かな希望だが、とにかく目指す方向は決まった。
ワルドの、そしてレコン・キスタの薄汚いシナリオを大幅に修正してやろう。
「今までと何一つ変わりゃしない…気に入らない腐れ貴族の滑稽な顔を見てやるとするさ」
フーケ…いや、マチルダ・オブ・サウスゴータは、未来に確かな希望の光を見て、一歩を踏み出した。
まるで太陽に祝福されたかのように、その背後に傾き始めた陽を背負って。


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