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マジシャン ザ ルイズ 3章 (12)

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マジシャン ザ ルイズ (12)復讐の連鎖

(父さま…父さま………父さまっ!)
誰かが泣いている。
胸を締め付ける子供の泣き声が響く。
こんな真っ暗闇の中で、誰が泣いているんだろう。
力になってあげたい、そう思ったタバサは泣き声の主を探してみることにした。
闇のほかにも何も無い、空虚な世界。
こんな場所で泣いているなんて、あまりにも可哀想と思ったからだ。
小さな声を標にして近づいていく。

幸い、すぐに声の主の元にたどり着くことが出来た。
そこには床に倒れた人が一人と、それに縋りついてなく少女の姿。
顔は―――闇に隠れて見えない。
(父さまっ……ひっく、ひっく…父さま…)
こちらに気付かぬまま泣き続ける小さな女の子、タバサはそのそばに近寄ると、そっと背中を抱いてあげた。
「悲しいの…?」
(うん…父さまが…死んじゃった…どうして、どうしてっ)
「…そんなに、泣かないで」
タバサは精一杯の言葉を尽くして、少女を慰めようとする。
けれど、その口から出てくるのはたどたどしい言葉ばかり。
母を襲った悲劇の日から、シャルロットは感情と言葉を捨ててタバサとなった。
誰にも頼れぬ孤独の中で、己の心を凍てつかせてタバサとなった。
そんなタバサの口からでは、思ったような慰めの言葉をかけてやることもできない。
だから、ほんの少しだけ、あの頃の自分に戻ることにした。
「私も、一緒に泣いてあげるから、そうして一杯泣いたら、その後は、元気に笑って」
(うっ…えっぐ……ひっく…)
しゃくりあげながら、女の子が振り向いてタバサを見た。

そうして顔を向けた少女は、なんと五年前のタバサ自身であった。
(一緒に泣いてくれる…?父さまの為に泣いてくれるの…?)
「え…ええ」
何ということだろうか、過去の自分に現在の自分が哀れみをかけるなどとは。
(嘘つきっ!!)
突然に浴びせられる少女の罵声。
唐突な思いもよらぬ言葉に目を瞑るタバサ。
再び目を開いた時、そこにいたのはシャルロットではなく、別の少女であった。
(人殺しっ!人形娘!あんたには人の心が無いんでしょう!?だからこんなことが出来るんだわっ!)
そう彼女を糾弾したのは自分と同じ青い髪をした娘、イザベラ。
そして、いつの間にか横たわる人影は、ガリア国王ジョゼフへと変わっていた。
イザベラ、父を謀殺し母を狂わせた仇敵ジョゼフの娘。そして、自分のたった一人の従姉妹。

「私は………殺して、無い…」
(見殺しにしたのが殺したのと、どう違うのよっ!)
「―――」
(あんたは自分の復讐を果たしたのよっ!
 どう!気分は爽快かしらっ!満足?ねぇこれで満足なの!?さぞや満足でしょうね!
 あんたにとっては憎い憎い仇だものね、私の父上は!)
タバサの心のいたるところに振り下ろされる、刃物のような言葉の数々。
続いて黙って聞くことしか出来ないタバサに、悪鬼の如き形相のイザベラが、獣のような敏捷性を発揮して飛び掛った。
そうして馬乗りになったイザベラは、タバサの白くほっそりとした首に手を回す。
(あんたが復讐したのなら、私にもそうする権利があるっ!あんたがそうしたように、あんたを殺して復讐を果たす権利があるっ!
 「自分の復讐は綺麗な復讐、私のする復讐は汚い復讐」だなんて思っては無いでしょうねっ!
 あんたも父上と同じ、所詮は人でなしよっ!)
タバサの口がパクパクと開く、それは空気を求めるようでも、何かを伝えようとするようでもあった。
(命乞いっ!?許すわけが無いでしょうっ!私の父上を殺したあなたなんかを!)
窒息しかけるタバサ、けれどその口は懸命に何かを伝えようとしていた。
(死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死んでしまえっ!)

霧散していく意識の中、必死に手を伸ばす。

タバサはただ一言を伝えたかっただけなのだ。


「ごめんなさい」と。







「――――――ッッ!!」
タバサが勢い良くベットから上半身を起こした。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ―――!」
浅い呼吸を細かく何度も繰り返す、酸素を求めて何度も何度も。
首には、今も生々しくイザベラに締められた手の感触が残っている。

いかに聡明なタバサといえども、動転した頭では、先ほどまでの光景が夢であったことを理解するのに時間を要した。
「タバサッ!ねえタバサッ!大丈夫!?」
だから、自分が寝かされていたのがトリステイン魔法学院の寮の自室で、心配そうに自分を覗き込んでいる少女がいることに気付くのにも時間がかかった。
「突然うなされたから心配だったけど、起こそうとしたら自分から飛び起きるんだもの。逆にこっちが驚かされたわ」
「………ここは?」
「ここ、って……魔法学院よ?もしかして倒れる前のこと覚えてないの?…それとも寝ぼけてる?」
混乱した頭が徐々に普段の冷静さを取り戻し、思考の欠片を繋ぎ始める。
ジョゼフの死、イザベラ、囚われた牢獄、脱出、飛翔。
そうしてタバサは、トリステインにつくまでの経緯を思い出し、ようやく自分が無事にガリアを脱出して目的地にたどり着くことができたという事実を理解して安堵した。
「大丈夫…思い出した」
「そう……それなら良かったわ。ちょっと待っててね、今水を持ってくるわ」
そう言って立ち上がろうとしたルイズの裾がタバサに掴まれていた。
「……母さまは?」
「お母様?あのご婦人なら、今はキュルケの部屋で休んでもらっているわ。執事のペルスランさんと、あの変なフードも一緒よ」
それを聞いて胸を撫で下ろすタバサ、その仕草を見て、ルイズはタバサがいかに母のことを想っているかが分かった。
部屋の入り口横、そこに据えられた机に置かれていた水差しを持って、ルイズが戻ってくる。
タバサの部屋には、基本的にものというものが少ない。
ベットにクローゼット、あとは小さなテーブルがあるくらい。
「それにしても、あなたの部屋って初めて入ったけど。随分と殺風景ね。机に花でも置いたらどう?」
渡されたカップに口をつけながら、タバサはルイズを横になったまま見上げる。
「………考えておく」
水を飲み、落ち着きを取り戻したタバサ、その額に浮いていた汗をルイズがそばにあった手ぬぐいで拭った。
「………看病」
「え?」
「看病、してくれたの?」
真正面から見つめ、尋ねるタバサ。
静謐な色をたたえる美しい瞳で問われたルイズは、自分の頬が紅潮していることを自覚しながら明後日の方向を見て答えた。
「別に、こんなことくらい当然でしょ。アルビオンから帰ってきた後は世話になったんだし。…それに私たち、友達、だし…」
言いながらやはり最後をごにょごにょと濁すルイズ。
そんな素直になれない同級生を見ていたタバサは、唐突に彼女に伝えなければならない用件があることを思い出した。

「ワルドが、生きてる」
「…え?」
唐突に何を言うんだろうか、この娘は。
そう思いながらタバサに向き直ったルイズ。
その目に飛び込んできたのは、一片の冗談も無く真剣を形にしたような表情。
これを見ては、流石のルイズも軽口を叩ける雰囲気ではないことを悟った。
「…幽霊、じゃ無いわよね?」
こくりと頷く寡黙な少女。
ニューカッスルの城、自分の放った暴走した虚無に巻き込まれて、跡形も無く消滅したと思い込んでいたワルドが生きている。
にわかには信じがたい話であったが、タバサが嘘をついているとも思えない。
確かに、同じように巻き込まれたはずのウルザが生きていたのだから、ワルドが生きていたという道理が通らない訳ではない。
しかし、彼が生き残ったのは異世界のメイジという彼の背景があってのことと、納得している。
その彼がワルドの死についてははっきりと明言していた。

何の背景も持たないワルドが、あの場を生き延びたということに、ルイズは引っ掛かりを覚えた。

「………ミスタ・ウルザにも伝えるべきね」
ルイズがそう呟いたのと、静まり返っていた階下が騒がしくなったのはほぼ同時であった。
誰かが大声で何かを喚いているような―――女性の金切り声。
「………何の騒ぎかしら?今の学院に人なんて…」
「……っ!母さま!」
言いかけたルイズを遮るようにして、タバサが寝ていたベットから飛び降りた。
タバサの格好は学院に到着した時のボロボロの肌着ではない、ルイズとモンモランシーの努力によって真新しいシャツが着せられている。
しかし、身に纏っているのはそれ一枚。
そんな格好で飛び出したタバサに対してルイズが慌てたのは仕方が無いことであろう。
「ちょっとタバサ!服!服っ!」
小さな体躯には似合わぬ勢いで飛び出していくタバサに遅れること一呼吸、ルイズも廊下へと飛び出した。

タバサを追いかけたルイズがたどり着いたのは、自分の部屋の隣、つまりキュルケの部屋であった。
そこには今、タバサの母親、それに執事のペルスラン、フードの女、それに今入っていったばかりのタバサがいるはずである。
開け放たれたままのドアから立ち入ったルイズは、先ほどから絶え間なく響く声の正体を知った。
キュルケのベット、そこには意識を取り戻したタバサの母の姿があった。
だが、その姿はどう見ても尋常であるとは思えなかった。
ぎょろりと開かれた瞳は光を失い、何も映してはいない。
タバサと同じ青い髪は伸び放題に伸ばされ、長いこと手入れをされていないのが分かる。
かつては美しかったであろう体は痩せこけ、死人を連想させるような病的な白さを、キュルケの部屋が際立たせていた。
「下がりなさい!無礼者!」
そう叫んだタバサの母は、ベットにあった枕を娘の頭に投げつけた。
「………」
それをぶつけられても、微動だにしないタバサ。

キュルケの部屋の中にはベットに横たわるタバサの母、それから入り口近くでおろおろと立ち尽くすペルスラン、最後にベットの前で俯くタバサ、その三人がいた。
「恐ろしや、この子がいずれ王家を狙うなどと…、わたくし達は静かに暮らしたいだけなのです…」
タバサの母は誰にとも無く呟きながら、手に持った綿のはみ出した古い人形に頬ずりした。
「母さま…」


「おいたわしや、シャルロット様…」
異常な光景に飲まれたルイズが、横に立つペルスランの言葉で我に帰る。
「…何よこれ…、どういうことよ、あの人はあの子のお母様なんでしょう!?どうしてそれが、タバサにあんなことをするのよ!?
 それに、シャルロットってどういうことなの?何がなんだか分からないわ!」
「………わたくしはオルレアン家の執事を務めておりますペルスランと申します。
 失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

私は…私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。タバサの、友人よ」

ルイズは執事ペルスランに促されて、キュルケの部屋から廊下へと出た。
そして、ペルスランは廊下に誰もいないことを確認してから語り始めた。
「先ほど、ヴァリエールさまは『タバサ』、と仰いましたね」
「ええ、でもシャルロットがあの子の本当の名前なんでしょう?何であの子はタバサなんて名乗っているの?」
「お嬢様は、タバサと名乗っておいでなのですか…」
「私も偽名っぽいとは想ってたけど…、どうして偽名を使って留学してきたの?」
「留学は、お嬢様の叔父である国王の仰せです」
「叔父、ってことは、あの子はガリアの王族ってこと?」
ルイズの言葉に、ペルスランは一度切って、一息おいてから答えた。
「シャルロットさまのお父上、今は亡きオルレアン公は現国王…いえ、もう前国王でしたか。ともかく、その弟君でございました」
「今は亡きってことは、タバサのお父様は…」
「殺されたのです」
はっとしたルイズがペルスランを見上げる、そこには長い時間を苦悩と共に過ごした老人の顔があった。
「お嬢様が心許す方なら構いますまい。ヴァリエール様を信用してお話しましょう。
 オルレアン公は王家の次男でありながら長男のジョゼフ様より魔法の才に秀で、何より人望と才能に溢れておいででした。
 五年前、王が崩御された時、どちらが王の座に相応しいかということで、宮廷が真っ二つに分かれてしまったのです」
「継承問題ね…」
「左様。そんな醜い争いの中…オルレアン公は謀殺されました。そして、ジョゼフ様を王位につけた連中は将来の禍根を絶とうと、次にお嬢様を狙いました」
「五年前って、それじゃその頃タバサは…」
「はい、まだ十になったばかりの頃です。
 ある晩のこと、奥様とお嬢様は晩餐会に招かれました。しかし、その最中、とある貴族からお嬢様へと渡された杯には、毒が盛られておりました。奥様はそれを知り、お嬢様を庇って自ら毒杯を呷られたのです。
 それはお心を狂わせる水魔法の毒が仕込まれておりました。ことは公となり、その貴族は断罪されました。ですが…それ以来、奥様は心を病まれたままなのでございます」
ルイズは黙って老人の告白を聞き続ける。
「タバサというのは、奥様がお嬢様にプレゼントされた人形の名前なのです。
 そして今現在、奥様の腕の中にある人形、奥様が自分の娘だと思い込んでいるあの人形こそがタバサなのであります。
 あの日から、快活で明るかったシャルロットさまは別人のようにおなりになりました。まるで、言葉と表情を自ら封印されてしまったように。
 …わたくしは、そんなシャルロットさまに何もして差し上げることが出来ないのです。この身の不甲斐なさ、この悔しさ…筆舌に耐えがたく、わたくしは我が身を呪うような日々を送ってまいりました。けれど、お嬢様はそれ以上の苦しみを味わっておいでなのです」
言いながら涙を流すペルスラン。
聞かされたルイズは………怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。
「それじゃあ、あの子はずっと、五年間もそんなものを背負ってきたって言うの!?」

想像してみる、自分の父が殺され、母が狂ってしまった光景を。
思いつきもしない。
自分には父がいて、母がいて、厳しいけれど想ってくれている上の姉、優しくて甘えさせてくれる下の姉がいた。
自分が十歳だった時、とても幸せだった。少しばかり寂しい思いをしたのは否定しない、しかしそれがなんだというのだろう。
十歳のタバサの気持ちを想像することもできない。
ルイズは怒っていた、恵まれた自分に、そして何も言わないタバサに。
あの子はきっと一番の親友であるキュルケにもこのことを話していないに違いない。
全部、全てを一人で背負い込む気であろう、そんな彼女に猛烈に腹を立てた。
ルイズは確かに何も知らなかった、けれど「助けて」と、そう言葉にしなければ、人には伝わらないものなのだ。


「これはなんの騒ぎかね、ミス・ルイズ」

走り出そうとしたルイズにかけられる言葉。
ああ―――本当にこの使い魔はいつもなんて良いタイミングで出てくるのだろうか。
ルイズはそう思い声の主に振り返った。

                                 罪を贖うことは出来ない
                                    ―――コルベール


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