あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-09


 起床。
 視界良好。

 ベッドから立ち上がる。
 起立、歩行に問題なし。

 両手を握りこむ。
 左右双方ともに動作に支障無し。

 大きく息を吸い、顎をグッと噛み締める。
 痛み、無し。

『 Condition ALL GREEN. 』
 脳からの情報伝達、上々。


    ごっち~ん♪
「───────────────ッ~!!!」
 右足小指痛覚神経、及び脊椎その他神経系伝達、絶好調。


「……何やってんの?」
「……ストレッチ」

 とりあえず誤魔化しておいた。色々と。


 すっかり回復したクロードを呼びに来たのは、シエスタとは別のメイドだった。
 何でも、彼女の話では最近どうもシエスタに元気が無いらしいのだが、
 ここ数日の殆どをリハビリに当てていたクロードに思い当たるフシがあるわけも無く、首を捻るばかり。
 一歩前を行く彼女が肩を竦めていたように見えたのは気のせいだろうか。

 ……知らぬは本人ばかりなり。

「ったく、シエスタも難儀ねえ……って、今はそんなことはどうでもいいんだった!
 夕方になったら、何も言わずに食堂に来てね!」
「え、ちょ、ちょっと!」

 それだけを告げると踵を返し、鼻歌交じりに去っていく。
 あっけに取られたクロードは追いかけることも出来ず、立ち尽くすばかり。
 右足がまだ痛いから走りたくないし。

「なんだったんだよ、もう……
 とりあえず、ルイズのところに行かないとな」





 クロードくんの回想、今日の一日。

 ルイズに怒鳴られました。
 ミセス・シュヴルーズに説教されました。
 ルイズに怒鳴られ(以下略
 教室が爆発しました。
 ルイズに(略
 片づけを手伝わされました。
 ル(ry


「何だろ、前にもこんな日があったような……」
 もっとも、今日は決闘は起こりませんでしたけどね。

 ドッと疲れた顔をして、足取り重く食堂へと向かうクロード。
 正直言って、これから宴会等の準備を手伝ってくれ、というのは御免被る。
 一言詫びを入れて、さっさと帰って休もう。
 もっとも、帰ったところで待つのは硬くて冷たい石畳だが。

 そんなことを考えながら、クロードは食堂のドアに手をかけて───


「おおっ!『我らの剣』の到着だ!」

 巻き起こる万来の拍手。

 テーブルにこれ見よがしに盛り付けられたご馳走の数々。



「え、え、ええっ!?」
 思わぬ歓迎に回りを見渡せば、今朝のメイドも観衆に混じって舌を出している。
 観衆の中心に居るのは恰幅の良い中年の男。
 厨房の責任者であるマルトーと興奮気味に名乗り、くう~っ、と喉を鳴らして目頭を押さえて捲し立てる。

「いやあ、魔法無しで貴族相手にあんな大立ち回りを演じるとはな!
 俺ァ感動して泣いちまったぜ、こん畜生め!」
「え、ええ? あ、あの、あれは、その───」
「謙遜なんてするもんじゃねえって!」
 豪快に笑うマルトーとは対照的に、予想だにしない展開に戸惑いを隠せないクロード。


 そも、貴族と平民の違いとは何か。
 前者は『持てるもの』後者は『持たざるもの』と分類するのが最も一般的なのではないだろうか。
 それは魔力という概念において、ハルケギニアにおいても例外ではない。

 では、翻ってクロードはどうか。
 父は不惑を前にして異例の早さで提督に就任した軍人。
 母は紋章学の第一人者である学者にして、超一流の格闘家。
 そして、両者とも先のレゾニア戦争終結における最大の功労者、英雄である。

 そんな彼を知るものに問えば、100人中95人はこう答えることだろう。
 クロード=C=ケニーは、生まれながらにして『持てるもの』である、と。
 そのことはクロード本人もまた嫌と言うほど自覚していた。
 そう。言葉通りに、嫌と言うほどに。

「そんな、僕はそんなつもりじゃ───」
 クロードの表情に陰が差す。
 彼は貴族を毛嫌いし、その貴族を倒したクロードがただの平民であると思い込んでいる。
 それがまるで彼を騙しているようで、胸が痛んだ。

「いいってこといいってこと!」
 そんな辛気臭い弁明は聞く耳持たぬと言わんばかりに、マルトーはクロードの背中を豪快に叩く。
 衝撃でクロードは咳き込み、おっとすまねえ、と頭を掻いて今度は肩に手を乗せた。

「俺はな、貴族野郎相手に一歩も引かねえ兄ちゃんの戦いっぷりに感動したんだ!
 兄ちゃんが魔法を使わずに、あのガキに勝ってくれたことが嬉しかったんだよ、俺は!
 要するに俺が勝手にやってるこった。兄ちゃんは好きに飲み食いしてくれりゃあ、それでいい」

 知らず肩を掴んだ手に力が入り、目の端に涙さえ浮かべて熱弁するマルトー。
 滾る思いは伝染し、クロードの胸にも熱いものが込み上げる。
 そうか、この人も僕のことを認めてくれているんだ。
 いい加減に理解しなきゃ。ここは地球とは違う。
 ここでは誰かの影に怯える必要なんて無いんだから─────


『ぐきゅるるる~……』


 どうやら、胸よりも先に腹が音を上げたようだった。
 食堂は笑いに包まれ、クロードは赤面する。
 考えてみれば、三日三晩寝込んでいて
 その後の療養生活でも顎を痛めて碌なものを食べていなかった。
 内臓が抗議の声を上げても何の不思議も無い。

 クロードが改めてマルトーの様子を伺う。

 いいんですか?
 やっちまえ。



 肉を一切れ。
 スパイスに彩られた肉汁が口の中に広がる。

 サラダを一口。
 シャキシャキした食感に、さっぱりとした酸味と塩味が心地よい。

 ワインを一含み。
 少しキツ目の口当たりの後に、喉から昇ってきた芳醇な香りが鼻腔を突き抜ける。


(WARNING! WARNING! WARNING! WARNING!)

『た、大変だ! 欲望が一人歩きし始めたぞォーッ!』
『満腹中枢のリミッターが解除されています! 非常コード───駄目です、受け付けません!』
『くっ、止むを得ん! 肝臓、緊急フルドライブ! 対アルコール戦闘用意!
 そのほか各消化器官に伝令! 我らはこれより修羅に入る、各員の奮闘に期待する!』






 ……数時間後。




「何も、全部食べてしまわなくてもよかったのに……」
 苦笑するシエスタに、クロードは壁に背を任せて返す言葉も無くただ力無く手を振る。
 積み上げられた皿の山と、空になったワインの瓶の林が、宴会の様相を物語っていた。
 向こうではへべれけになって潰れた蛙のようになっているマルトーが、メイドやコックたちに介抱されている。
 よほど嬉しかったのだろうか、いきなりゲラゲラと笑い出しては周りをドン引きさせている。
 そんな働き者たちも半数近くが撃沈し、残り半分は倒れたまま動けなかったり、
 桶に顔を突っ込みっぱなしで顔色が伺えなかったり、調子っ外れながらも独創的な歌を披露していたり。
 その様相、まさに死屍累々。宴の凄まじさが伺えよう。

「あんなに喜んで作ってくれてたみたいだし、残しちゃ悪いと思ってさ……うぷ」
 嫌~な擬声とともに口元を押さえるクロードに、水の入ったグラスを片手に慌てて駆け寄るシエスタ。
 三日間サボり倒していた内臓をいきなりこれだけ酷使すれば無理もない。
 何とか暴発だけは最後に残された気合と根性で押さえ込むが、
 今度はアルコールの海を漂う脳が激しく揺らされる。
 肝臓打ちからガゼルパンチのコンビネーション、これは本格的にマズイ。
 このまま突っ立っていれば、無限大の連打でマットに沈むのは確定だ。
 クロードは差し出された水を一息に流し込むと、大きく息を吐いて立ち上がった。

「じゃ、じゃあルイズの部屋に戻るよ……」
「大丈夫ですか? ここで休んでいった方がいいんじゃ……」

 この場で眠ってしまうという選択肢が無いわけでもないのだが、
 流石に復帰初日に朝帰りというのは気が引ける。
 既に説教確定コースの気もするが、それはそれ。

「それに、危なそうですし……送りましょうか?」
「大丈夫。それに、シエスタは仕事が残ってるだろ?」

 真っ青な顔に引きつった笑みを浮かべ、親指を立てるクロード。
 何処からどう見てもちっとも大丈夫でない彼なりの気遣いなのだが、
 シエスタの表情が曇っていることに気付いていないあたりが何ともはや。
 もっとも、この状況でそのとような機微に気づけという方が無茶な注文だろうが。
 壁伝いによろよろと歩くクロードの背中を眺めつつ、溜息を吐いて立ち尽くすシエスタであった。





「結構、回復するもんなんだなぁ……」
 自分の消化器官と肝臓のタフさにちょびっと感心しつつ、寮内を歩くクロード、
 最初は壁伝いでないとまともに進めなかったものだが、
 今となっては微妙にふらつきながらも何とか歩ける程度にまで回復している。
 これもうわばみである母の血のなせる業か。

 所々で開いた窓から吹き込む風が火照った頬に心地良い。
 こんなに心の底から楽しんだのは何年ぶりだろう。
 或いは、生まれて初めてかもしれない。
 窓の外には夜の闇に輝く双月、その先にある星々の煌き。
 それらが地球に居た頃よりも美しく見えたのは、澄んだ大気のせいだけだろうか。

「……ん?」
 何かが引っかかったような感触───いや、引っ張られている?
 果たして、視線を落とすと見覚えのあるサラマンダーがズボンの裾に噛み付いていた。
 こちらに気付いたのを確認すると口を離し、尻尾を振り振り進んでゆく。
 炎をあしらった尻尾がまるでランタンのように揺れる。

「……僕を呼んでいるのかい?」
 宴会の熱気の余韻に浮かされたまま、怪しげな足取りで誘導されてゆくクロード。
 そして、とあるドアの前でサラマンダーは立ち止まる。
 どうやらこの部屋に入れ、ということらしい。

 ノックをするも反応は無し。
 首を捻ってノブを握ったところ、何の抵抗もなくドアは開いた。
 ドアの向こうでは闇の中で蝋燭の炎が小さく揺らめいている。
 あれ、そう言えばここって誰の部屋だっけ?

 このとき、クロードは極めて重要な情報を忘れていた。
 一つはこのサラマンダーの主について。
 そしてもう一つ、使い魔とは基本的に主の目的を果たすために行動しているということ、である。


  ───バタン
「なッ!?」
 背後に響く扉の閉まる音に思わず振り返るクロード。
 慌ててドアに触れるが、何時の間にか鍵がかかっているらしくウンともスンとも言わない。
 嫌な予感に残った酒気がスゥッと引いていくのが解る。
 これはヤバい。なんか知らんが、とりあえずヤバい。

「うふふ、そんなに慌てなくてもいいじゃない」
 薄暗い部屋の奥から聞こえてくる、聞き覚えのある妖艶な声に再びクロードは振り返る。
 暗闇に慣れ始めた瞳を凝らすと、そこには月明かりに照らされた赤い髪の娘が一人。
 細かい表情や服装まではよく見えない。

「……キュルケ?」
「いやん、私の名前覚えていてくれたのね、ダーリン!」

 ダーリン:最愛の人。愛するあなた。恋人・夫婦の間で言う。

 いやいやいやいやいやちょっと待って! 僕とアンタにそんな接点あったか!?
 悩ましく体をくねらせるキュルケに逃げ場を探してあとずさるクロードであるが、背には扉と壁。
 気付けばキュルケは目前に立ち、手を取ってクロードを部屋の奥へと招き入れようとする。
 フレイムの尾の炎を頼りに彼女をよく見れば、その服装は下着と見紛うほどに大胆なネグリジェではないか。

「私のこと、はしたない女だって思うでしょうね───」
 そう言うキュルケの頬は軽く上気し、唇はしっとりと濡れている。
 これは、その……男と女のアレか? アレなのか!?

「え、ええっと、僕は、そんな……」
「思われても仕方ないの、わかる?」
 躊躇いがちに目を伏せるキュルケ。
 絵画を切り取ったようなその美しさに、どきりと心臓が跳ねる。

「あああああああああの、その、キュルケ……?」
「私の二つ名は『微熱』───私はね、燃え上がりやすいの、松明みたいに。
 だから、こんな風にお呼びだてしたりしてしまう。わかってるの、いけないことだって」
「聞けよ、人の話!」
 ルイズといいアンタといい、この世界の貴族ってのは人の話を聞かないのがデフォですかそうですか。
 そうなんです、残念ながら。

「倒れても倒れても立ち上がって、ボロボロになっても最後には勝って見せた。
 あなたのその姿を見て以来ずっと、私の『微熱』は『情熱』になって、この胸を焦がし続けているの!」
「……いや、それはわかったんだけどさ」
 何よ、もう。せっかく良い雰囲気なのに。
 ムードぶち壊しの微妙なツラをしているクロードに促されると、そこには。

「キュルケ、その男は誰だ!」
「ペリッソン! えっと、2時間後に」
「話が違うわなにをするやめ」

 窓の外に浮かぶ男子目掛けて杖を振り、問答無用に火球で撃ち落すキュルケ。
 あまりと言えばあまりな光景にクロードがポカンとしていると、今度は別の男子が。
 次々と撃墜しては現れる男子たちのその姿、まるで椀子蕎麦の如し。

 さようならベリッソン。
 そしてスティックス、マニカン、エイジャックス、ギムリ。
 君たちのことは忘れないよ。
 キュルケが覚えてるかどうかまでは知らないけど。

「これでもう邪魔は入らないわ。ねえ、ダーリン……?」
 ホンマかいな、と突っ込む暇も無く、キュルケは振り向いてクロードの胸元にしなだれかかり、潤んだ瞳で上目遣いに見つめる。
 鳩尾の辺りに感じる、熱くて柔らかな感触。
 あんだけアレな状況の後であっさり切り替えるキュルケ、げに女とは恐ろしきもの也。

「うっ……」
 キュルケの全身から漂う色気に肺は締め上げられ、心臓は慌しく不規則なダンスを踊りだす。
 至近距離で交錯する視線に、自分の中の雄が呼び覚まされつつあることをクロードは自覚しつつあった。
 まずい、このままでは本格的に理性が銀河の彼方まで吹き飛ばされる。

「ぼ、僕は──────ッ!」
 ここで流されるな、クロード・C・ケニーッ!!
 己の貞操を守るため、魂の底から、彼は叫んだ。





「僕は、お淑やかで家庭的な女の子が好きなんだーッ!!」






「ふうん……」

 クロードにとってなおのこと不幸だったのは、
 この発言のタイミングを見計らっていたかのように、主が彼の背に立っていたことである。
 日が沈んでも戻って来る気配の無い使い魔を探して延々と校内を歩き回っていたものだから、
 機嫌は最悪を通り越してレッドゾーンをぶっちぎり。
 その行き着いた先が、よりにもよって憎きキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの部屋。
 その背からは怒気を通り越し、殺気さえ漏れ出で始めていた。

「あ、あの、これは───ッ!」
 慌てて振り返り、キュルケの肩を押して密着状態にあった体を離すクロードであったが、
 そんなことで収まるほどルイズの怒りは生易しくない。
 言うなれば、今の彼女は『微熱』に浮かされた愚者を粉々に吹き飛ばす『爆炎』そのもの。

「夕方から姿が見えないと思ったら、随分と結構な御身分になったものねぇ……」
「ちょ、ちょっと待ってルイズ! 誤解だってば!」
 古今東西を問わず、一体何人の人間がこう口走ったことだろうか。
 そして、この言葉が信じられたことが、真偽を問わず一度でもあっただろうか。


「問答無用、死ねぇっ!!」

「ごぶううううううッ!!」


 ドゴォォッ! という重厚な擬音を伴ったボディブローが深々と突き刺さり、体がくの字に折れ曲がる。
 その破壊力たるや、隻眼のトレーナーや影道の総帥が滂沱の涙を流すこと請け合いだ。
 豚のような悲鳴をあげて崩れ落ちるクロード。

「……うぶ」
「……え?」
「……あン?」

 ルイズは知らなかった。
 クロードがほんの数十分前まで、宴会でたらふく腹に食事を詰め込んでいたことを。








(ただいま映像が乱れております。しばらくお待ちください)




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 どうやらしばらく収まりそうもないため、
 翌日以降のことについて若干の説明を付け加えて今回の話を終るとしよう。
 とっぺんぱらりのぷう。


 ルイズ:新たな称号を得ました。

 クロード:ギーシュほか多数の男子生徒におちょくり倒されました。

 キュルケ:しばらくの間、タバサの部屋で寝ることになりました。

 シエスタ:元気を取り戻したようですが、今度は上の空で仕事が手につかなくなることが多くなり、
      罰として同僚の実家から送られてきた激辛ジャムを押し付けられました。


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