あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

出来損ないの魔術師と改造人間-3

「ど、どうしてまともに走らないのよぉーーー!」
「…………あー」

 ルイズがバイクの乗り方を教えて欲しいとハヤトに頼んだのは、翌朝の事だった。
 正直な所、予想はしていたが、小柄なルイズでは一人でこのバイクに跨るのは難しいのだ。
 どう理由を付けて断ろうかとシュミレートしていた矢先の出来事である。思わずハヤトは困り顔で唸ってしまった。
 当のルイズと言えば、今までに無く目を輝かせて、両手まで合わせて頼み込んで来ていたのだ。この顔を見てしまえば無下に断るのも気が引けた。
 まぁ、実際の所は電子演算機の制御によってこけぬ様にも操作できるのだが、バイクに乗るに当たって、そう甘えた考えを持たせるのも良くない。
 結局の所、自分の見ている前では絶対にサイクロンには触れないこと。
 それを念押ししながら、昼休みなどの空いた時間を使い、人気の少ないヴェストリの広場でのバイク教習が始まったのであった。
 そして、現在がその教習の三時限目という事になるのだが。

「クラッチはもっとゆっくり切るんだよ。後、ギアやブレーキまでで結構足が一杯一杯なんだから、そう無理すんな」
「……あんな風に動かせる様になるのって、いつの事よ。走る事すら出来てないじゃない、わたし」
「練習すれば誰だって上手くなるさ。そんなに焦るなって」

 まず、発進そのものが難航しているのだった。慣れの問題である為、この辺りは細かい口出しよりも数をこなさせる方がいい。
 そう思っていたハヤトだったが、ルイズという少女はどうにもせっかちなのだ。常よりも失敗が多いのは、その性格のせいかも知れない。
 だが、こうして失敗続きで愚痴を吐きながらでも、投げ出さずにきちんと向き合う姿にはハヤトも好感を得ていた。一本気な気質は彼の好むところである。
 発進、エンスト、そこからこけそうになるのを支えたりを繰り返している内、昼の休憩の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。

「今回はこれまでだな。続きは授業が終わってからだ。ルイズは先に行ってな。俺はこいつを馬小屋に入れてくる」
「うん……わかった」

 今回も発進を上手くする事が出来ず、しょぼくれ肩を落としながらハヤトの元から去るルイズ。
 その背中を見送りながら、ハヤトはサイクロンに跨り、そのハンドルを握った。
 そして、ふぅ、と息を吐いて胸を押さえる。

「つぅ……」

 いつもの鈍痛が彼の心臓を襲っていた。ゆっくりと、だが確実に彼の身体は改造手術の失敗の影響に蝕まれて行っている。幸い、まだ思う様に身体が動かぬ程ではないが。
 ハヤトは苦しむ自分の姿を、極力ルイズに対して見せぬ様にしていた。
 そう遠くない未来に、自分は彼女と死別する運命にあるのだ。
 せめてその時までは、自分を死の淵から引っ張り出し、夢の様な世界で生きさせてくれるあの少女に、辛気臭い顔は向けたくない、そう思っているからだった。

 暫くすると、痛みは引き、身体が軽くなった。
 自嘲の笑みを浮かべ、彼はバイクを引きずって歩く。
 いつまで自分は生きられるだろうか? せめて出来得る事なら、一日でも長く。そんな考えをくゆらせながら、ハヤトはルイズの元へと向かう為、歩を早めた。

「見て見て! ハヤト! ほらほら!」
「余所見するな片手を離すな! 危ないぞー!」

 ルイズがバイクを乗りこなせるようになったのは、意外にもその翌日の事であった。
 一旦発進のコツさえ覚えれば、後はトントン拍子で彼女は上達していった。ある意味では才能があったのかも知れない。
 まだ操作に迷いはあるものの、彼女が駆るサイクロンの挙動には、ハヤトは内心舌を巻いていた。まるでいつぞやの本郷の上達ぶりを見ているかの様だ。
 思い通りにサイクロンを操れるのが余程嬉しいのか、時折片手を離してはハヤトに向かって手を振ったり、笑い声を上げたりするルイズの姿は、見ていて実に微笑ましいものだった。
 それを見ると、やはりどうしても自分の世界に残してきた者が気にかかってしょうがなかった。たまに、こうして思い出に浸り、表情を落ち込ませる事がハヤトにもある。
 身体の事に関しては上手く隠せるのだが、郷愁の念に抗うのとはまた彼にとって勝手が違うのだ。
 不意に翳った彼の顔を見て、不思議そうに首を捻るルイズ。それがいけなかった。

「ああああああ! 危ない危ない危な――――!」
「え、あ、きゃ……」
「あのバカ!」

 顔を前に向けると、死角から不意に、洗濯籠を抱えたメイドが飛び出して来ていたではないか。
 小さな手と、足りない脚で思い切りブレーキを押し込んだが、とてもじゃないが時速で六十キロを越えるスピードはすぐには止めることが出来ない。
 車体を横に傾けて避け様としたが、まだそんなバランス感覚の身に付いていない彼女は、あっと言う間にそのまま車体ごとこけてしまった。
 このままでは学院の壁面にぶつかってしまう。彼女がこける前からこの事態を想定し、ハヤトは改造人間としての自分の力を完全に発揮して大地を蹴っていた。
 幸いにしてそう離れぬ様厳命していた為、一息の跳躍で足りる距離。数字で換算するに、二十メイルの間を、一瞬で詰めると、横滑りする車体ごと、ルイズの身体を全身で受け止める。

「ぐっ……!」

 ぎりりと歯を食い縛り、地面に足を埋めると、壁のギリギリ手前でその勢いを殺しきった。
 改造人間であるハヤトでなければ、とてもではないが真似出来ない事である。


 真っ先に車体を起こし、ハヤトはルイズの容態を確かめた。今は尻餅を付いてぶるぶると震えているメイドに構っている暇は無かった。
 車体に足が挟まれた為、太ももからふくらはぎにかけてに打撲の跡が見られる。
 多少の出血は認められたが、大した怪我ではない様だ。不幸中の幸いと言うべきか、地面が草原であった事がいい方向に働いていた。
 ルイズは落車のショックによってか、気を失っている。その小さな身体をよいせと背負うと、今度はへたり込んでいるメイドにハヤトは手を差し伸べた。それは彼にとって良く見覚えのある顔であった。

「シエスタ、驚かせて悪かったな……っと、大丈夫か? 怪我、ないか?」
「え、ええ……あまりに突然のことだったので、驚いてお尻を打っただけです」
「よかった、とは言い難いが、何にせよ怪我が無くて何よりだ」

 ハヤトの手を取って立ち上がったメイドはシエスタと言い、ハヤトが学院の中を散策して回っている時に知り合った女性である。
 境遇のせいか同情を受け、ハヤトは何かと彼女には世話になっている節があった、そういう付き合いだ。
 彼女はパンパンと尻についた汚れを払うと、ハヤトにぺこりと頭を下げ、地面に散乱した洗濯物を一つ一つ拾い上げていく。

「それにしても、あんな重そうな物を身体一つで受け止めるなんて凄いですね……」
「馬鹿力だけが取り柄でな」
「でも、あんなにスピードが出てたのに……って、あれ? これって」

 そんな会話をしている内に、ふとサイクロンに目をやったシエスタが怪訝な表情を浮かべた。ただ珍しいのだろう。
 それで気にかかるのだろうと思うハヤトは、これについてどう説明しようか迷った所で、シエスタの起こした行動に目を見開いた。

「すいません。ちょっと失礼します!」
「え、おい、おまえ……」

 手にした洗濯物を籠に直し、一言断りを入れてから、サイクロンのハンドルの下、そのスイッチに手をかけたではないか。
 偽装されていた車体が、一瞬にしてオフホワイトのカウルに包まれ、別個の物へと生まれ変わった。何故だ? 何故彼女がこの機能を? ハヤトにとって完全に想定外の出来事である。
 サイクロンの変形の様子に肩を震わせたシエスタは、ルイズを背負うハヤトの肩をがっしりと掴んでこう言った。

「こ、これ……うちのおじいちゃんが乗ってる物と同じ物なんですけど!」
「何ぃ!?」

 いきなりのカミングアウトである。まるで予想だにしなかった事を彼女の口から聞き、ハヤトは一瞬の思考停止状態に陥った。
 一種の興奮状態になっているシエスタはそれを知ってか知らずか、口々に言葉を発する。

「うわー、どうしてハヤトさんが……あ、そう言えばおじいちゃんから昔聞いたことが……って、そんなわけないよね。あはは」
「ちょ、ちょっと待て! どういう事だ!? おまえのおじいちゃんって何者だ!? 説明してくれ!」

 すぐさま正気を取り戻したハヤトは、ペタペタとサイクロンに触るシエスタに言った。彼女の言葉が正しければ、彼女の祖父は間違いなく……

「ど、どうしたんですか? 凄い形相で」
「頼む! 教えてくれ!」
「……わ、分かりました。ええと、その、おじいちゃんと言っても血が繋がってるわけじゃないんですけど……」

 今のハヤトにとって、こうして話すシエスタの間ですらもどかしかった。
 彼は話の流れを遮り、要点の答えだけを求めた。

「おまえのじいちゃんの名前だけでいい、名前を教えてくれ!」

 あまりにも必死なハヤトの様子に何かあると察したシエスタは、一拍の間を置き、すぅと息を吸ってこう答えた。

「タケシ。タケシ、ホンゴウです」




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