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幽“零”楽団 第二楽章

 プリズムリバー三姉妹がルイズの使い魔となって、早くも一週間が経過した。
 召喚の翌日、ルナサがギーシュ・ド・グラモンを打ち倒したせいか、学院内では彼女達姉妹の事を知らない者は誰もいなくなっていた。
 いけ好かないキザな態度と本人がモテる事もあり、ギーシュへの男子からの評判は、彼に近しい一部の友人達以外にはあまり良いとは言えない。そんな彼を倒し、その上標準以上の器量を持つ――有り体に言えば美少女であるルナサには、男子達から彼女のファンと称する者が現れる事となった。男というのは人外が相手でも見境が無い。
 一方のメルランとリリカも、彼女達の明るい気性と奏でられる陽気な音楽に惹かれる者も増え始め、結果三人は、今学院で最も注目を浴びる人気者となっていた。本人達は至って気にしていないようなのだが。
 その事が気に食わないのが、三姉妹の主であるルイズだった。
 彼女は自分の使い魔が注目される分には構わなかった。事実、当初三姉妹に向けられていた畏怖の視線はルイズの虚栄心を満足させるに足るものだった。
 しかし、最近の使い魔達は変に人気が出たおかげで、ルイズよりも他の者といる時間が多くなり、そのせいで生来独占欲の強い彼女は自分の使い魔を取られてしまったように感
じていた。そして、使い魔は凄くても相変わらずゼロのままの自分も気に入らなかった。
 ルイズは枕に膨れた顔を埋めながら、ベッドをばしばしと叩いた。埃が舞い上がって咽る。苛立ちはさらに募る。その時、ここ一週間で聞きなれたトランペットの音が外から響いてきた。メルランだ。

「おはよ~。ルイズ」

 ルイズは窓が開かれる直前、布団を被り直して寝たふりをした。そしてメルランが窓を開けて、こちらに声をかけてきた瞬間にむくりと起き上がった。

「……おはよう。メルラン」

 ここ最近、朝にルイズを起こすのは専らメルランの役目となっていた。彼女の奏でる音は精神の高揚効果があるため、非常に爽やかに目を覚ます事が出来るからだ。最も、今朝に限っては彼女が来る前に既にルイズは起きていて、しかも爽やかどころではない心中だったのだが、メルランには知る由もない。

「ルナサとリリカは?」
「姉さんはお空で演奏の練習中。リリカは洗濯場でメイドと話していたわね」
「……そう」

 三人もいるのだから、仕事は分担してやるものだ。頭では分かっているルイズだったが、どうしてもこの場にいない二人の使い魔に彼女は怒りを禁じえないのだった。

 ――ルナサはともかくリリカは何でメイドなんかと話してるのよ。私の使い魔の癖に!

 リリカは今朝のじゃんけんで負けたため、洗濯を請け負ったのでメイドと話していたのだが、ルイズの耳には、主を蔑ろにしてメイドを優先しているように聞こえたようだ。

「むー……」
「あら? 今朝はご機嫌斜めね。一曲いっとく?」
「……いい。気分じゃないわ」
「そーお?」

 メルランの提案を断り、ルイズはベッドから降りて寝汗に濡れたネグリジェを脱いだ。残った下着も取り払うと、すかさずメルランが新しい下着を差し出す。最早手馴れたものだった。
 綺麗に洗濯された下着を受け取って身に着ける。召喚してから数日は、ルイズもメルランに着替えを手伝わせようとしていた。しかしニコニコと嬉しそうに服を着せ替えようとするメルランを見ると妙に落ち着かないため、自分で着替えることに決めたのだった。
 他の二人と言えば、リリカは着替えを手伝おうとしないし、ルナサはそもそも起床係には向かない。朝っぱらからあの演奏を聞いたため、起きられなくなった事があるからだ。
 着替えを終えて最後にマントを羽織ると、ルイズは扉を開けて廊下に出た。
 ルイズは最初の授業がある教室へ向かいながら、考え事をしていた。何とか使い魔達と一緒に過ごす時間を増やせないものか、と。

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 雲一つない青々とした空の下、学院の上空でルナサはヴァイオリンの練習に励んでいた。
 今日はじゃんけんに勝ったため、何もする事が無かったので空に上がってみたが、中々どうして気持ちが良いものだ、とルナサは思った。

「今日の気圧は……高くもなく、低くもなし」

 気圧の確認は重要事項である。低気圧ならば雨が降って、屋外が多い騒霊ライブは台無しになるし、上昇気流でスカートも捲れあがる。音程はずれるしテンションも下がる。
 暫く演奏を続けていた彼女だったが、不意に近くに寄ってくる何者かの気配を感じた。表情を変えないままくるりと振り向くと、身の丈6メイルを越す大きな青い竜が、そこに羽ばたいていた。ルナサの静かな目と竜のつぶらな目が合った。

「おはよう」
「きゅい」

 『彼女』はここ数日で知り合った使い魔仲間のシルフィードだ。ルナサはまだ主の方には会っていなかったが、使い魔であるシルフィードには何故か良く遭遇する。
 演奏中に限って寄ってくるので、案外ルナサの出す音が気に入ったのかもしれない。逆にメルランの場合は向こうから逃げ出すらしい。風竜にとってあのトランペットの音はお気に召さないようだ。
 折角のお客なので、ルナサはシルフィードに一曲披露する事にした。
 ヴァイオリンを構えなおしたルナサに対し、シルフィードは心なしか期待を含めた目で見つめているようにも見える。ルナサはそんな彼女に苦笑を送ると少し考えた。
 簡単な曲でも良いが、目の前の大きなお客さんは期待に胸を膨らませているようだ。あまりあっさりした曲を弾いては、がっかりさせてしまうかも知れない。
 暫し思案していたルナサは一つ肯くと、演奏を始めた。
 涼やかなヴァイオリンの音が、朝日のさす青空に響き渡る。目を閉じて聞き惚れるシルフィードだが、次の瞬間驚きの声を上げた。

「きゅい!?」

 ヴァイオリンの音が一つ『増えた』のだ。シルフィードの困惑をよそに、演奏はさらに続く。その間にも、奏でられる音は一つ、また一つと増えていく。最終的にはヴァイオリンが二つとヴィオラとチェロの旋律が同時に聞こえるようになった。差し詰め、一人弦楽四重奏とでも言えるだろうか。
 美しい音色と多彩な音階が生み出すハーモニーに、風竜はうっとりと瞳を潤ませた。
 やがて演奏が終わり、ルナサは静かにヴァイオリンの弦から弓を離した。
 風竜は前足を器用に打ち合わせ、ルナサへと拍手の真似事をしてみせた。

「即興だったけど、気に入ってもらえたみたいね」
「きゅいきゅい! すごいのねあなた! こんなの聞いたのは初めて!」
「は?」
「あ……」

 瞬間、沈黙がその場を支配した。
 その後、泣きながら『自分が言葉を話せる事は誰にも教えないでくれ』とすがってくる風竜に、ルナサはたじたじとなった。
 ルナサの演奏を聞いてもここまで興奮できるとは、この竜はかなり精神の抵抗が強いようだ。そんな事を考えながら、漸く落ち着いてきたシルフィードと秘密厳守の約束を交すルナサだった。

 ――そういえば、そろそろ授業が始まる。行かなくては。

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 リリカは洗濯場でキーボードを鳴らしながら、メイドの少女シエスタの話し相手をしていた。先のギーシュとの決闘は、元々シエスタを助けるためでもあり、シエスタはルナサと一緒に割って入ってきたリリカには好印象を抱いていた。
 ライブではメインのMCを勤めるリリカの話術は巧みで、毎日同じような日々を過ごすシエスタにとって、彼女の話は何にも変えがたい娯楽となっていた。洗濯場にリリカがくる朝は、毎回何かしらの話を彼女にせがむのが習慣となっていた。
 リリカ自身も、メイドと言えば紅魔館に住む恐ろしい吸血鬼の従者くらいしか知らなかったため、シエスタとの会話は新鮮だった。彼女にとって、新鮮さは新しい音の発見へと繋がるため、多少打算的なところもあるのかも知れない。

「――それで、私は言ってやったわけよ。音は出ることよりも使う人の方が偉いってね」
「へ~。凄いですねえ」

 今朝のリリカの話はさっぱり理解できなかったシエスタだったが、適当に相槌を打った。理解は出来なくとも面白い事は面白いし、リリカの奏でる音はシエスタの心を楽しませた。
 感情を左右する効果は無いものの、リリカの演奏は人の心を掴んでやまない。姉二人とは違って、その楽器の形状からは想像もつかないような幻想的な音は、どこか不思議な魅力に溢れているのだ。

「ふん、ふん、ふ~ん♪」

 シエスタはその音に合わせた鼻歌を歌いながら、リズミカルに洗濯板の上の衣類を擦る。何となくこうした方が、汚れの落ちが良いと彼女は思っているからだ。
 汚れは兎も角、洗濯の効率が良い事は確かなので、シエスタはあまり深く考えていなかったが、楽しく仕事が出来れば彼女にとってはそれで良かったのだった。

「よしっ。ミス・ヴァリエールの分は終わりましたよ」
「ありがと、シエスタ」

 シエスタは最後の下着を絞り終えると、小さな籠にまとめてそれをリリカに手渡した。
 後は干すだけなので、リリカ達にも簡単に出来るのだ。

「では、次の仕事があるので、また今度」
「じゃあねー」

 ひらひらと手を振りつつシエスタを見送ると、リリカはすぐ近くに設置された干し場へと向かう。やたら面積の小さい絹の下着を干す最中、リリカはこれの持ち主の事を考えていた。

「メルラン姉さんすら珍しいという音、どうにかして聞けないかしら」

 数日前、メルランがルイズの魔法から聞いたという非常に珍しい音の話が、リリカは気になって仕方が無かった。メルランが言うには、普段リリカが扱うような『死を迎えた音』に似たものを感じたらしい。それは幻想の音の担い手としては聞き逃せない事だった。

「でも、見せてくれないのよねえ」

 音が発生する条件である魔法を使ってもらいたかったのだが、ルイズは何か拘りがあるらしく、頼んでも不機嫌そうな顔で断られてしまうのだ。
 そこで、リリカはふと思い出したことがあった。最近の自分達に対するルイズの態度である。メイドや生徒達と話しこみ、帰りが遅くなる度に嫌味を含んだ声で言うのだ「遅かったわね」と。
 単に帰りが遅いことを怒っている訳ではない。あれは寂しがっているのだ。寂しさのあまり、実の姉達を模した騒霊を作り出してしまう人物と、ルイズは同類だとリリカは確信していた。ならば話は早い。

「中々可愛いところあるじゃないの。そういう事なら――」

 極端な寂しん坊の扱いは心得ている。要は傍にいてやればいいのだ。思えば最初ほど彼女に構う時間も少なくなってきたことだし、ここは一つ主に媚びてみよう。
 奇しくもルイズの目的と重なる事を考えながら、リリカは主の待つ教室へと向かった。

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 教室内に緩やかな音楽の流れる中、教師と生徒達はリラックスした表情で授業を進めていた。
 じっと黙っている事の出来ない騒霊三姉妹に、『静かにしろ』という命令は到底無意味だと早々に悟っていたルイズは、別の命令を出す事で妥協した。
 すなわち、『授業の邪魔にならない静かな演奏をしろ』だ。
 命令を下した当初は、思うように騒げない事に難色を示した姉妹だったが、ルイズに『喧しい演奏しか出来ないんじゃしょうがないわね』と言われ、音を司る自分達に演奏できないものは無いと言い切った。そしてまんまとルイズの計略に嵌ったのだった。

 静かさを前面に押し出すため、ルナサを主旋律としたその演奏は、思わぬ効果を生み出した。例え静かな音でも、授業の妨げになるかと思われていたが、実際は学習の効率が上がったのだ。直接精神を落ち着けるルナサの演奏と勉強は、思いの他相性が良かった様だ。
 以来、教師にも認められ、教室の後ろで演奏する許しを得た姉妹は思う存分その腕を振るうのだった。生徒には若干名、未だに彼女らに怯えているものもいるようだが。

 ルイズはそんな演奏や、教師の説明する声も上の空で聞きながら、使い魔達と過ごす時間をどうやって増やすか考えていた。
 机に肘をつき、ペンを手の中で回しながら考え込む仕草は、公爵家の令嬢にしてははしたないものだったが、誰も注意はしなかった。今までに無いほど授業に集中した生徒達の目に、ルイズは映っていないらしい。教師も同様だ。
 使い魔が自分に構うようにするにはやはり、主への忠誠を誓わせるのが手っ取り早い。
 問題は、自我の薄い獣と違って、彼女達に意志があることだ。それぞれにマイペースな彼女達に、忠誠という言葉は不似合いだった。
 ルナサは一定の敬意を見せるがそれ以上のものは無い。メルランはやたらとルイズを子ども扱いするし、リリカに至ってはルイズを少し舐めている。先程もリリカはルイズにやたらべたべたと接してきたが、何を企んでいるのか分からないため、適当にあしらってしまった。これではいけない。

 ――やっぱり、プレゼントか何かで喜ばせるのが一番かしら。

 相手の気を引くには、贈り物が一番だとルイズは判断した。しかしそこでも問題が発生した。

 ――あいつら、何にも食べないし、物欲無さそうだし。何を贈ればいいのよ?

 霊ゆえに食事は取らず、また物も欲しがったりはしない。飲み食いは出来ない事もないが特に必要ともしないらしい。主にしてみれば非常に経済的な使い魔だったが、この場面においてはそれは意味の無い事だ。
 彼女達が唯一興味を示すものと言えば、音だ。三姉妹の音楽への飽くなき探究心は留まる所を知らず、常に新境地を開拓すべく日々努力を重ねている。
 ならば、楽器をプレゼントするか? 即座にその考えを却下した。彼女達の持つ楽器は大貴族のルイズをして見た事も無いような立派な物だ。そちらの知識に乏しいルイズが贈ろうと思っても、楽器の目利きなんて彼女には出来ない。そもそも一つの楽器で多彩な音を出す彼女達だ。余計な物は欲しがらないだろう。
 では、音楽そのものを贈るというのは? これはいい考えに思えたが、使い魔の前で歌を唄う自分を想像して、それを心の奥底に封じ込めた。これは恥ずかしすぎる。

 さっぱり考えがまとまらない為、ルイズは頭を振って黒板を見つめた。随分と授業が進んでいる。いけないいけない。使い魔にかまけて学業を疎かにしてしまっては本末転倒だ。
 優等生である彼女は、慌ててペンにインクをつけ、机に置かれたままだった羊皮紙に内容を書き付け始めた。そこでふと思いついた事があった。

 ――本末転倒……そうよ! 逆転の発想だわ!
 脳裏に浮かんだ考えに、ルイズは笑顔を禁じえなかった。これならきっと、あの娘達も喜ぶに違いない。ルイズはその明晰な頭脳で計画を練り始めた。
 まずは協力者が必要だ。計画の実行にはルイズの知識だけでは不十分だったため、彼女は自分の考えに賛同し、尚且つ計画に必要な案件に深い理解のある者を探し始めた。

 キュルケを見る。面白がって協力してくれそうであり、さらに知識もありそうだが却下だ。ツェルプストーの女に借りを作るなんてとんでもない。
 キュルケの隣にくっつき、震えている青髪の少女を見る。名前さえ知らない。当然却下だ。そういえば以前メルランが怖がらせた事を謝っていなかった。その内話してみよう。
 ルイズは次々と教室の面々を吟味し、それと同じ数だけ却下を下していった。
 教室にいる人間の四分の一を数え終わったところで、ルイズは気付いた。自分の交友関係では、捜し求める条件に相当する人物がいない事に。彼女は友達が少なかったのだった。

 頭を抱えて机に突っ伏すと、授業の終了を知らせる鐘が鳴った。教師の退出と共に、生徒達も次々に席を立つ。使い魔達も演奏を終えてルイズに近づいてきた。
 頭を上げて溜息をつくルイズの目に、教室を出て行こうとするある生徒の姿が映った。

「そうだ! アイツなら!」
「ルイズ?」

 叫び声を上げるルイズに、何事かと尋ねるルナサ。そんな彼女にルイズは先に部屋へ戻るように命令し、階段状になっている教室を駆け下りていった。

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「ギーシュ!」
「誰だい。僕を情熱的に呼び止めるいけないレディは――って、ひぃ! ルイズ!」

 教室を出てすぐの廊下で、ギーシュ・ド・グラモンは自分を呼び止めたルイズに怯えを露わにした。しきりにキョロキョロと周りを見渡して、何かを探している。

「心配しなくても、あの娘達はいないわよ」
「な、なんだ……」

 先の決闘での一件は、彼に少なからず心の傷を与えたようだ。ルナサ達がいないと聞き、一旦は平静を取り戻したかに見えたが、そうではなかった。その口に咥えられた薔薇は小刻みに震え、額にはだらだら脂汗を流している上、足が分裂して見えるほどに膝が笑っている。
 その情けない様子に呆れながら、ルイズは自分の用件を告げた。

「怖がりすぎよあんた……。ちょっと相談事があるのだけど」
「いいい、一体何だね?」
「それはね――」

 ルイズの持ち出した意外な提案に、ギーシュは恐怖も忘れ、目を丸くした。
 暫く考えていた彼は、ルイズに了承の意を伝える。

「ふむ……確かにそれならば、僕にも協力できそうだ」
「本当!?」
「ああ。しかし一体どういう風の吹き回しだい?」
「べべ、別にあんたには関係ないでしょ? たまにはあいつらを労ってやろうとしただけよ!」
「そうか。明日は丁度予定も空いている。以前の謝罪もかねてエスコートさせてもらおう」

 明日は虚無の曜日で、休日だ。そんな日に予定が無いとは彼にしては珍しいが、どうせまた女子に振られでもしたのだろう。
 優雅に去る彼の背中を見てそんな事を考えながら、ルイズは意気揚々と自室へと戻っていった。
 そんな彼女を物陰から見つめる視線があった。キュルケだった。

「ルイズとギーシュがデート? どういう組み合わせよ?」

 首を捻りながら、キュルケはスキップで寮へ向かうルイズを見つめた。
 翌日の昼前に、ルイズは校門の前でギーシュと待ち合わせ、馬を二頭借りて学院の外へ出た。目指すは王都トリスタニアの城下町、チクトンネ街だ。
 三姉妹には目的地を告げていない。ただ城下町へ出かけるのだという旨を昨晩伝え、特にやる事も無かった彼女達はそれを了承した。しかし、ギーシュも同行する事を教えていなかったため、ルナサはともかく、リリカは若干険悪な眼差しで合流した彼を睨みつけた。二人にはまだわだかまりが残っているようだ。
 表面上は普通だったギーシュだが、彼の肩が震えていたのをルイズは見逃さなかった。
 情けない男めと思いながら、ルイズは使い魔達の演奏をバックに馬を走らせた。

 そんな彼女らを、上空から見つめる者がいた。シルフィードに乗ったキュルケだった。彼女の横には、シルフィードの背びれにもたれかかる少女、この風竜の主であるタバサが本を読んでいた。
 キュルケは自室の窓から、ルイズとギーシュが出かけるのを見つけ、面白がって追いかけようとしているのだ。足に使おうとしたのは親友であるタバサの使い魔シルフィード。当初は無表情な彼女にしては珍しく、嫌そうな顔でキュルケの申し出を拒否するタバサだったが、いつの間にか口八丁手八丁で丸め込まれてしまっていた。
 今も、タバサは手元の本を捲りながら、隣で騒ぐキュルケを他所に不機嫌そうにしている。

「あの幽霊もどき、馬と同じ速さで飛んでも全然ペースが落ちないわね。……あ、こっち見た」

 キュルケの言葉に、タバサはびくりと背筋を伸ばし、頭にフードを被ってシルフィードの背中に張り付いた。ルイズの使い魔が怖いらしい。
 いつに無く可愛らしい相方の様子に、キュルケは苦笑した。

「冗談よ」
「……」

 タバサは無言でシルフィードに命令を下した。
 『急加速、急降下、急旋回、急上昇』
 空の上に間抜けな悲鳴が響き渡ったが、幸いルイズ達には気付かれなかった。


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