あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

幽“零”楽団 第一楽章

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            ≪ 幽“零”楽団 ~ Magical Ensemble ≫

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 トリステイン魔法学院にて、二年生の進級に必要な春の使い魔召喚試験が行われていた。
 既に召喚を終えた生徒達は気怠そうな様子で、未だに召喚に成功していないたった一人の生徒――ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールを眺めていた。
 現在十回目の挑戦である。自らの起こす爆発によって髪は解れ、服は埃にまみれている。
 目は血走り、息は荒く、しかし全く諦める事の無いその様子に、コルベールは胸中からエールを送り続けていた。授業進行の妨げになっているが、余りにも真摯な態度の生徒に、教師として感動を覚えていたのだ。
 ルイズへと熱い視線を送るそんなコルベールに向かって、生徒達は犯罪者を見る目で見ていた。生温いコルベールの眼差しを無視し、ルイズはさらに杖を振るう。大仰な呪文を唱え必死に。

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!  私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、答えなさいっ!!」
 周囲に響き渡る轟音、凄まじい閃光。周囲はまた失敗かと呆れていたが、当のルイズは全く違う考えだった。

 ――手応えがあった!

 期待に胸を膨らませるルイズは、巻き上がる煙が晴れるのを今か今かと待った。そして、その視線の先にあった者は――薄っすらと光る人型の何か×3だった。

「なっ、なんじゃこりゃあっ!?」
「ゼロのルイズが変なもん呼び出したぞ!」
「私には分かる。あれはプラズマです」

 途端騒ぎ出すクラスメイトを他所にルイズはその物体? に視線を向け、深く考え込んでいた。どう見ても尋常の生物ではない。そもそも生物なのだろうか?
 実技が全滅な分、座学が優秀で、今までにも様々な文献を読み漁ったルイズの知識にもその存在は記憶に無かった。もしかして、今までに誰も見つけたことの無いような新種なのでは?
 兎にも角にも召喚には成功したのだ。次はコントラクト・サーヴァントを終えなければならない。そう思って一歩「それ」に近づいて、ルイズはふと気が付いた。

「口はどこよ?」

 コルベールは騒がしい生徒達を一括して黙らせると、ルイズが召喚したものをまじまじと眺めた。彼の約四十年の人生でも、始めてみる使い魔だ。知的好奇心が刺激されさらに観察を進めると、何やら消えかけている。未契約のせいか?
 これはいかんとルイズを見れば、「それ」の前で腕を組み唸っている。どうやらどこに口付けすれば良いか分からないらしい。

「ミス・ヴァリエール! 何処でもいいから早く済ませてしまいなさい! 使い魔が消えかけている!」
「え、えぇっ!?」

 コルベールに急かされ、ルイズは急ぎ呪文を唱える。
 本当にどこでもいいのかよ? と思いながら、彼女はどんどん薄くなる「それ」に顔を突っ込んだ。すると「それ」は眩い光を放ち、あまりのまぶしさにその場にいた全員が目を閉じた。
 光が収まるとそこには――。


 わけが分からない。この状況に陥ってルナサが初めに思った事がそれだ。
 ライブを終え、最期の未練も無くして消滅に向かい、意識が薄れていった事は覚えている。にもかかわらず、何故か自分は存在し、確かに生きている。霊に分類される身で、生きていると表現するのもおかしいのだが。
 隣を見れば妹達が目を回して気絶していた。そして目の前には全く見覚えの無い少女がぼーっと突っ立っている。辺りを見回せば、どう見ても先程までいた洋館ではない。そこは広い平原で、遠くには幻想郷では少ない洋風の建物が見える。
 そして、天には太陽が昇っている。ライブ中は深夜だったはずなのに。
 考えがさっぱりまとまらない中、目の前の少女が慌てた様子で口を開いた。

「ああ、あんた達、何?」

 こう尋ねられたので――

「私達は騒霊演奏隊、プリズムリバー楽団。お祭り、宴会など祝い事の際には是非一声どうぞ。いつでも、どこでも、盛り上げます」

 ――普段の営業文句を返しておいた。
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 ラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズの朝は早くもなく遅くもない。いつも通りの時間に起きると、ベッドの上で大きく背伸びをし、大口を開けて欠伸をする。
 貴族の子弟を預かる学院寮の部屋は広い。何となくがらんとした部屋を見回して、ルイズは半覚醒の頭を振った。

 ――……さっきのは夢?

 先程まで見ていた、召喚の儀式と、その後の夢。思わず頭を抱えたくなるような内容を思い出し、ルイズは顔を顰めた。その瞬間。

「おっはようございまーーーす!」

 手に持ったキーボードをじゃかじゃか鳴らしながら、茶髪の少女がいきなりルイズの目の前に顔を突き出した。天井から、頭を逆さにして。
 ルイズは乙女らしからぬ絶叫を上げて飛び起きた。


 遠くから聞き覚えのある声が響いたような気がして、ルナサは顔を寮の方へ向けて首を傾げた。
 現在は『主人』の衣類を手に洗濯へ向かうところだ。ルナサを初め、三姉妹の誰もが洗濯などやった事が無かったのだが、ジャンケンに負けてしまったのだから仕方が無い。同じくジャンケンに負けたリリカは今頃主人を起こしているだろう。一人勝ちしたメルランは、やる事が無いと言って朝から空の散歩だ。
 ルナサは洗濯場を探しながら昨日の事を振り返った。突然現れた――向こうからすれば逆なのだが――主と名乗る少女ルイズとの契約を。そして左手に浮かんだ刻印を見つめる。
 どうやら消えかかった自分達は、使い魔の契約を拠り所にして存在を保っているらしい。復活した今、妹の館がある幻想郷に帰りたいでもなかったが、折角盛大に送り出してもらったのに、出戻りするのは何か微妙な感じがする。
 妹達は新たな世界で新たな音を探せると喜んでいたし、幻想郷に帰ったところでする事は変わらない。ならばここにいるのも構わないだろうと、使い魔になる事を承諾したのだった。
 ……メルランは何か勘違いをしていたが。

『つまり、私達楽団との専属契約を結びたいのね?』
『ちっがーーう! 使い魔の契約よ! 楽団は関係無い!』
『分かったわ。私のソロライブでハッピーになりたいのね? じゃあいくわよ~』
『うーるーさーいー!』

 妹と主の頭痛を催す会話を思い出し、ルナサは深く溜息を吐いた。この長女、苦労人である。考えているうちに、噴水のある洗濯場らしい所に着いた。
 さて、ここからが問題だ。霊の一種であり、衣服の交換を必要としなかった彼女達に洗濯の習慣は無い。誰か分かる人間がいれば聞くために、近くに誰か丁度良い者はいないか辺りを見回す。すると噴水の裏手で、使用人らしい少女が洗濯板を使って大量の衣服をごしごしと擦っている。
 成る程、ああするのか。やり方を理解したルナサは、今度は洗濯板を貸してもらおうと、その少女に向かって『噴水を飛び越えて上から』話しかけた。

「……もし」
「はい?」

 少女は後ろや横に頭を振り、声の主を探そうとした。当然誰も見つからずに、少女は眉を顰めて洗濯に戻る。
 声が小さかったかな? ルナサはもう一度、今度は声を大きめに話しかけた。上から。

「……もしもーし」
「もう、何なの……っひ!」

 そう言えば、とルイズからは魔法を使うのは貴族だけだと聞いた事を思い出した。そして魔法を使えない者を平民とし、彼らは貴族を恐れている。
 ルナサはこちらを見て固まった少女の様子に、今更ながらに思った。飛んで近づくのはまずかったかなと。

 突然頭上に人が現れて陰気に話しかけてくるという状況は、魔法がどうのという以前の問題なのだが、ルナサは気付かなかった。
 結果、少女は乙女チックな悲鳴を上げて後ろ向きに倒れた。



 遠くから聞き覚えの無い声が響いてきたが、メルランは気にせずに空の散歩を続けた。トランペットを吹きながら。
 近くを飛んでいた竜は迷惑そうな顔をしている。


 ルイズは自室にて、憤懣やる方がないといった様子で服を着替えていた。
 先程使い魔の一人、リリカに脅かされたせいで、多少水分が漏れ出てしまったのだ。
 羞恥のあまり、即座にリリカを追い出し、彼女に着替えをやらせる事を忘れてしまった。濡れた下着など触らせるつもりは無かったから、結果的には変わらないのだが。

 精霊――本人達曰く騒霊――を三体も召喚したと分かった時は、思わず飛び上がって喜んだルイズだったが、彼女達は一般的に先住魔法を使いこなす精霊ではなく、音楽を演奏する事しか出来ないと聞いた時は、期待と現実の落差に膝をついて落ち込んだ。
 しかも感覚の共有もできず、秘薬も知らないとなれば、はっきり言って役立たずもいい所だ。おまけに一人は暗く、一人は話が通じず、一人は話は通じるが何を考えているか分からない。
 いくら珍しい使い魔とはいっても、珍しいだけで終わっては意味がない。唯一の特技であるという音楽を昨晩聴いたが、変に気分がおかしくなったので途中で聞くのを止めた。そもそも楽器の演奏なんて誰でも出来るではないか。考えていくうちにルイズの機嫌はどんどん悪くなっていった。
 楽器一本で金管のアンサンブルが聞こえた事に疑問を持てば、あるいは彼女の評価も変わっていたかも知れない。しかし、昨晩の時点で彼女にはそんな余裕は無かったのだった。

「着替え終わったー?」
「……終わったわよ」

 部屋の外から、何を考えているか分からない使い魔のリリカから声がかかる。ルイズはマントを羽織り、部屋の扉を開けて外へ出た。
 同時に隣の部屋の扉が開き、赤い髪で豊満な体つきの少女が出てきた。彼女は背が低く幼児体系なルイズとは対照の要素を持っていた。ルイズと少女が顔を合わせる。ルイズは朝っぱらから嫌なモンを見たという顔で口をヘの字に曲げたが、少女の方は勝気そうににやりと笑った。
 お互いに挨拶を済ませると、キュルケは使い魔自慢を始めた。やれ火竜山脈のサラマンダーだ、やれブランド物で値段なんてつかないだのと、ルイズの神経を逆撫でる言葉を吐き続けた。
 暫くすると満足したのか、今度はルイズの使い魔に話の矛先を向けた。

「あなたの使い魔ってそれ?」
「そーよ」

 不機嫌そうに答えるルイズの視線の先には、先程から置いてけぼりにされて多少いじけていたリリカがいた。リリカは自分に注目が集まっている事に気付き、顔を上げた。

「それって平民……じゃないわね」
「騒霊だってさ」
「精霊!?」
「精霊じゃなくて、騒霊」
「……何それ」
 聞き覚えの無い言葉に眉を顰めるキュルケに、ルイズ自身も知らないと匙を投げた。

「良くぞ聞いてくれたわね。私達騒霊は――」

 騒がしく説明し始めるリリカを見て、キュルケは「ああ、成る程」と『騒』霊の意味を何となく理解し、ニヤけながら去っていった。
 畜生、何なんだあの女。ルイズは苛々とそう考えながら、一人で楽器をかき鳴らしながら語り続けるリリカに話しかけた。

「……ちょっと黙んなさい。それと、後の二人はどうしたのよ」
「――ええと、姉さん達? ルナサ姉さんは川へ洗濯に。メルラン姉さんは空へ散歩に」
「あ、そう。私は食堂に行くから、さっさとついてきなさい。……静かにね」

 川ってどこだよと思いながら、ルイズはリリカに背を向けて歩き出した。リリカの方はというと、静かにという言葉が不満そうだったが、一応言いつけを守ってついてきた。
 ――ほんの十歩分ほど。
 寮の廊下にルイズの怒鳴り声が響き渡る。騒霊が僅かな時間でも静かに出来るはずが無いのだった。


 ルナサは先程気絶させてしまった使用人の少女――シエスタと談笑していた。
 最初こそ、メイジと勘違いされて怯えられたが、メイジではなく騒霊だと言ったら、シエスタは笑ってルナサの所業を許した。霊という言葉でシエスタの頬が引きつっていたのだが、ルナサは気がつかなかった。
 さらに、シエスタ達使用人に言いつければ、代わりに洗濯してもらえると聞き、安心して洗濯物を任せることが出来た。その後、ルイズの衣類を洗濯するシエスタと世間話をしながら時間を潰す。
 この世界の事、魔法の事、貴族と平民の事をシエスタから聞いたり、ルナサが姉妹の事や、コンサートの事などを楽しく話しながら暫く過ごした。
 姉妹がいると話したところで、『霊に姉妹……一家心中?』とシエスタが呟いた事は追求しないでおくことにした。
 そろそろお開きにしようと、二人が分かれた後の事。リリカがルナサの元に飛んできた。次の授業で使い魔を連れて行かなければならないので、教室に来るようにとのルイズからの仰せらしい。

「三人全員で来いって言ってたけど」
「メルランはどこへ行ったのかしら……」

 ルイズの命令をこなしていた他の二人と違い、メルランは朝から行方不明だった。
 どこまでも自由奔放な次女に対し、長女と三女は溜息をつく。

「仕方が無い、二人で行きましょう」
「そうね。散歩に飽きたらメルラン姉さんも姿を見せるでしょ」

 捜索を諦め、そのまま教室に赴く事を決めた二人は飛び上がる。
 指定された時刻は過ぎている。急がなければ、気の短い主人の癇癪玉が破裂してしまう。
 そうして、学院の空を急いで飛んでいった二人が教室の窓から中を覗いた瞬間、轟音と共に窓ガラスが飛び散った。続いて苦悶の悲鳴と、馴染みのあるトランペットの旋律が耳に入ってきた時点で、二人は空へと引き返した。

「……中に入るのは止めておこうか」
「……そうだね姉さん」

 薄情なのではない。姉妹を信じているのだ。

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 メルランはルイズと共に、瓦礫だらけの教室を元の状態に戻す作業を行っていた。
 周りには二人以外誰もいない。当然だ、これは罰なのだから。
 時刻は遡る。
 二年に進級してからは初めてとなるミセス・シュヴルーズによる錬金の授業では、召喚された使い魔を連れて行くことが通例となっていた。
 シュヴルーズ自身も毎年のこの時間を楽しみにしており、教室に入ってから暫くは、使い魔と戯れる主たちの様子を微笑ましく見守っていた。そこで彼女は一つ気がついた。
 使い魔を連れていない生徒がいる。

「ミス・ヴァリエール。あなたの使い魔はどうしたのかしら?」
「……もうすぐ来ますわ」

 シュヴルーズの質問に、使い魔を連れていないルイズはバツが悪そうに答えた。
 リリカに三人を集合させるよう命令したルイズだったが、一向に使い魔達は現れず、やはり一人だけでも連れてくるべきだったかと後悔していた。
 そこに心無いクラスメイトから野次が飛ぶ。

「嘘をつくなよ、ゼロのルイズ! どうせ召喚に失敗したんだろう!」

 その言葉にルイズは立ち上がって抗議した。実際召喚は成功しているし、彼もそれを見ていたはずなのに、どんな言いがかりだというのだろう。

「ちゃんといるわよ馬鹿! ミセス・シュヴルーズ! かぜっぴきのマリコルヌが私を侮
 辱しました!」
「誰がかぜっぴきだ!」

 ぎゃーぎゃーと言い合いを始める二人に、シュヴルーズは頭を抱えて杖を振った。
 するとルイズとマリコルヌと呼ばれた少年の口に、ぴたりと赤土が押し付けられる。赤土のシュヴルーズが得意とする土魔法だ。

「みっともない口論はお止めなさい。それと、ミス・ヴァリエール。あなたの使い魔はま
 だ来ないのですか? そろそろ授業を始めたいのですが」

 ルイズはふがふが言いながら、口に張り付いた赤土を剥がして大きく深呼吸した。恐ろしい先生だ。怒らせるのは止めておこう。

「わ、私の使い魔は……」
「使い魔は?」 
「ええっと。そ、そこに!」

 慌てたルイズはつい天井に向けて指を差してしまった。教室の全員が天井へ向けて視線を送る。当然そこには何もおらず、今度はホラのルイズかよと嘲笑が巻き起こる。
 ルイズは肩を震わせながら天井を睨みつけた。誰でもいいからさっさと来なさいよ!
 彼女の想いが天に届いたのか、そこから珍妙な帽子を被った銀髪の少女が、手に持ったトランペットをぱーぷーと吹きながら姿を現した。上半身だけ。

「呼ばれて飛び出て――」

 教室内は混乱に陥った。

 暫くして、漸く落ち着きを取り戻した教師を含めたクラス一同は、ルイズとその使い魔を恨めしげに、尚且つ怯えを含んだ目で見ていた。皆幽霊は怖いらしい。
 自らに集まる畏怖の視線に、ルイズは得意気になってあたりを見回した。キュルケは使い魔の事をある程度知っていたせいか、いつも通りで気に食わないが、他の生徒達には効果覿面だったようだ。
 青い髪の小柄な女生徒はキュルケの膝元で今も震えている。流石にルイズも哀れに思い、後で謝っておこうと心の隅に置いた。マリコルヌは泡を吹いて失神していた。ざまあみろ。
 隣でにやけるルイズとは違って、先程姿を現したメルランは、常に陽気な彼女には珍しく少し不満顔だった。
 散歩の途中で誰かに呼ばれたような気がしたため、建物の中を覗いてみたら自称主人に捕まってしまった上、静かにしていろと言われたせいだ。常に騒いでいないと落ち着かない彼女にとって、この場はかなりの苦痛をもたらすのだ。 そっと脇に置いた楽器に手を伸ばす。すかさず隣のルイズがメルランの手を叩く。彼女は手を摩りながら、悲しそうに自らの楽器を見た。
 そうこうする内、授業も佳境に入ってきた。本日の肝である錬金の実践を生徒に行わせるようだ。その辺りでルイズは急にそわそわとし始めた。不審に思ったメルランが何かと尋ねるため口を開こうとする直前、シュヴルーズ先生からルイズにお呼びがかかる。

「ミス・ヴァリエール。あなたが手本を見せてください」

 途端、教室中がやめろーだの、死にたくないーだのという叫び声で溢れた。
 事情が分からないメルランだったが、とりあえず激励を送る事にして、楽器を構えた。
 場違いなファンファーレが鳴り響く中、ルイズは杖を掲げ、振り下ろした。その瞬間、錬金の触媒に使った石ころは弾け飛び、近くにいたシュヴルーズは吹き飛ばされた。轟音に驚いた使い魔たちは暴れだす始末。
 メルランも例に漏れず驚いて、滅茶苦茶にトランペットを吹き鳴らした。そのせいで教室にいるものはさらに興奮し、事態は混迷の一途を辿った。
 話は冒頭に戻る。

 漸く片付けが終わった。最後の瓦礫を撤去し、ルイズは大きく一息つく。最初はメルランだけに片付けさせるつもりだったのだが、彼女は要領が悪かったため何時の間にやら自分も参加していた。
 肉体労働派ではないルイズにとって、この作業はかなり辛かった。体を濡らす大量の汗と、酷い疲労感にルイズはうんざりしていた。
 そして、自分の無能を使い魔に見られた事が、彼女の心を殊更に重く沈めるのだった。きっと目の前の使い魔は、へらへらとしながらその心中では自分を馬鹿にしているに違いない。そうルイズは思い込み、さらにネガティブな思考へと深くはまり込んでいくのだった。

「何を落ち込んでいるのかしら」

 そこへ当の使い魔から声がかかる。彼女は何が楽しいのか、片付けの最中もずっとニコニコしたままだった。

「……見たでしょ。私の魔法」
「見たわよぉ~」

 トランペットを鳴らしつつ、笑顔を絶やさず見つめてくるメルランに、ルイズは苛立つ。

「ゼロってのも聞いてたでしょ。私は魔法が使えない無能だからゼロなんて呼ばれてるのよ。大体何なのあんた! さっきからニヤニヤして、あんたも私を馬鹿にしてるの!?」
「ゼロの何がいけないの?」

 思いがけない返答に、ルイズは言葉を詰まらせてしまった。こいつは何を言っているのだろう。貴族にとって魔法が使えないのは、いけないに決まっているではないか!
 絶句するルイズを見やり、メルランはさらに続けた。

「音と音の間に休符を入れることで、聴衆は響きを楽しむ事が出来る。無音<ゼロ>は音楽の流れでとても大事なものなのよ」
「魔法と音楽は全然違う!」
「私達にすれば、世界の全ては音で出来ているも同然なの。目に見える色、見えない色。肌に感じる感触、感じられない感触。降り注ぐ太陽の光や、大地を攫う風さえも、みーんな音よ。魔法だって同じ事」
 メルランの言葉はルイズにとって難解を極めるものだった。全てが音だなんて、そんな馬鹿なことがありえるはずが無い。

「私達はそんな音達を吸収して、束ねて、音楽にしているの。……あなたの魔法だって立派な音よ」
「……! そりゃ凄い音だったでしょうね!」
「ふふ、皮肉じゃないわ。爆発の直前、あなたの体から感じた音は、私も今までに聞いた事の無いような不思議な音だった。後でリリカに見せてあげなさいな。あの子は珍しい音が大好きだから喜ぶわ」
「何なのよ……?」

 言われている事は全く理解できないルイズだったが、一つだけ分かる事があった。
 この使い魔は、恐れ多くも遠まわしに御主人様を慰めているのだ。
 その事に気付いたルイズは、若干頬を赤らめてそっぽを向いた。そしてメルランは先程から変わらない笑顔で、トランペットを構えなおす。

「さあさ。暗い気分はこのトランペットで、全て吹き飛ばしてしまいましょう」
「ちょ、ちょっとやめなさいよ。それ五月蝿いんだから」
「れっつ、みゅーじっく!」

 メルランはルイズの言葉に聞く耳持たず、最初にルイズへ聞かせた曲と同じものを演奏し始めた。
 口では拒否しながらも、ルイズはメルランが奏でる音に、いつの間にか聞き入っているという自分に気付いた。昨晩聞いた時は、ただの喧しい曲としか思えなかった。しかし今は、体から力が湧いてくる様な気分にさせるその旋律に、ルイズの心は軽くなっていった。
 聞いている内に、何故か故郷に住む二番目の姉を思い出した。
 小さな頃は、いつも辛い事があれば必ず姉の胸で泣きはらし、最後には姉に抱かれて眠りについたものだ。そんな懐かしい思い出が、後から後から溢れ出してくる。

 ――ちいねえさまにも、きかせてあげたいな。

 ルイズは自分の口元が自然と柔らかくなって、とても優しい表情をしていることに気付かないまま、暫しその軽やかな演奏に耳を傾けていた。

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 学院本塔の最上階。学院長室の豪奢な椅子に深く座り込んだ学院長のオスマン氏は、目の前の禿げ頭を鋭い目で見つめた。いつ見てもつるつるじゃな。

「それで、ミスタ・コロラトゥーラよ。その話は確かなのじゃな」
「コルベールです。間違いありません。ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔は三体とも伝説の『ガンダールヴ』です!」
「ふむ……」

 コルベールが持ってきた、ルーンの写しと資料の本を見比べる。
 確かに、本の内容と一致する。するのだが。

「確かに、ガンダールヴのルーンじゃな。しかしなあ、ミスタ・ゴスペル」
「ちょっと近いですけどコルベールです。何か?」
「三体のルーンを横に繋げて初めて一致する。こういうのはな……こじつけと言うんじゃ大馬鹿者!」
 ルナサ、メルラン、リリカの左手甲に現れたルーンを並べてスケッチしたコルベールは、どこかで見覚えのあるその形にどうしても疑問が晴れず、先程まで教職員専用の図書館で調べていたようだ。
 しかし、三つのルーンを合わせて伝説のルーンと称するのは、流石に苦しすぎた。私の顔の一部分って王族のあの人に似てるよねレベルだった。
 部屋にいた秘書のロングビルまで追い出し、詳しい話を聞こうと久しぶりに真面目な顔をした途端これでは、オスマン氏が怒るのも無理は無い。

「し、しかしですな。これ以外に該当するルーンも無いのです。三体一緒に現れた事とい
 い、もしやあの使い魔は三体で一つなのかも……」
「ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなしたという。その使い魔達は武器を持っておっ
 たのかね」
「いえ、三体とも楽器を手にしていました」
「阿呆。そんなもんでどう戦うんじゃ」

 話にならないと、オスマン氏が手を振ったその時、学院長室にノック音が響いた。
 扉の向こうからロングビルの声が聞こえ、オスマン氏は入室を許す。
 彼女はオスマン氏に、ある報告をした。広場で決闘を始めた生徒がいると。

「誰じゃ?」
「ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔です」

 その言葉に目を細めたオスマン氏は、即座にロングビルを退出させる。コルベールが生唾を飲み込む音が、静まり返った室内に響く。
 オスマン氏が杖を振ると、壁にかかった大鏡に、決闘の舞台であるヴェストリの広場が映し出された。

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 演奏を聞き終えたルイズがメルランを伴い、食堂に着くと、そこは普段の食事時とは違う剣呑な喧騒に包まれていた。ルイズが何事かと人が特に集まっている二年生のテーブルを覗き込むと、何故か彼女の使い魔がクラスメイトのギーシュ・ド・グラモンに因縁をつけられていた。

「ヴェストリの広場で待っている。準備が出来たら、いつでも来たまえ!」

 薔薇を咥えてキザに去っていったギーシュと、それについていった観衆。残されたのはバツの悪そうな顔をしたルナサと、不機嫌そうに口を尖らせるリリカ。

「あんた達何したの?」
「別に何にもー」
「ごめんなさい、ルイズ。私の監督不行き届きだわ」

 リリカは不貞腐れて何も話そうとしないため、ルイズはルナサに事情を聞いてみた。
 何でもルナサが世話になったメイドにギーシュが言掛かりをつけて絡み、止めに入ったルナサとリリカで彼と口論になったらしい。
 やがてギーシュが、先程授業を妨害したメルランを引き合いに出し、彼女達のあるものを馬鹿にしたため、我慢できなくなったリリカが喧嘩を吹っ掛けたのが事の起こりのようだ。

「……一体、ギーシュに何を言われたのよ?」
「『授業の途中で聞くに堪えない下賎な音を聞かされたよ。きっと君らも酷い音楽を奏でるのだろうな』……だってさ」

 そこでリリカが口を開いた。余程腹に据えかねたのだろう。その台詞はメルランの演奏に感動したばかりルイズにとっても、到底聞き逃せるものではなかった。
 しかし、かといって貴族に決闘をしかけるなど容認できない。ルイズからすれば、どう見てもこの三人は荒事向きではない。ドットクラスとは言え、戦闘に関しては優秀と言われるギーシュでは相手が悪い。
「事情は分かったわ。でも、決闘なんて止めておきなさい。ギーシュには私からも謝っておくから」
「……悪いけど、それはできない」
「ルナサ? どうしたのよ、あなたまで」

 ルイズにとって、ルナサは姉妹の仲で最も良識のある慎重派だという認識だった。こんな決闘など容認する性格では無いとルイズは考えていたのだが……。
 聞けば、騒ぎを起こした事自体には反省しているが、彼女にとっても自分達の音楽性の否定は耐え難い侮辱だったという。決闘を止める考えは無いようだ。

「じゃあ、どうするっていうの! 相手はメイジよ!?」
「私が行くわ。元々シエスタを助けに行こうとしたのも私だし、妹を矢面に立たせて自分だけ見ているわけにもいかない。……大丈夫。百年も生きていない、人間の小僧なんかに負けたりしないわ」
「あーっ、もう! 勝手にしなさい、この分からずや!」

 頑として意見を曲げないルナサに、ルイズは怒り半分呆れ半分で言い放った。
 主の言質を取ったとばかりに、ルナサはリリカを伴って食堂を出て行く。残されたのは食堂に来たばかりのルイズとメルランだけだった。他の生徒達も見に行くらしい。
 全く暇を持て余した貴族はこれだから――
 ルイズは自分も貴族だというのを棚に上げて、心の中で愚痴っていた。
 そんな主を笑顔で見つめ、メルランは後ろから彼女を抱きかかえた。

「な、何するの」
「大丈夫よ。姉さんはあれでも、戦闘に関しては私達の中で一番強いから」

 子供に言い聞かせるような口調で、メルランは優しく言った。
 ルイズはじたばたと暴れ、メルランの手から逃れようとしたが、やたら強い力で抱かれているために振り解けない。ああ、頭に柔らかいのが。畜生羨ましい。

「そうじゃなくて。何で私は抱っこされてるの?」
「応援に行かなくちゃならないでしょ?」
「え、ちょっと――ひえーーーーーっ!?」

 ドップラー効果を残しながら、ルイズとメルランは凄まじい速度で食堂から飛び去っていった。

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 ヴェストリの広場は火と風の塔の隙間、あまり日の差さない西側の中庭である。
 普段ならあまり人の来ないこの場所は、学院敷地内では決闘に適した所だと言える。
 現在その広場には、噂を聞きつけた沢山の生徒達で溢れていた。中心にいるのは決闘の当事者であるギーシュ・ド・グラモン。そしてルナサとリリカ。

「おや、逃げなかったようだね」
「逃げる理由が無いもの」

 観衆に手を振っていたギーシュは、広場に到着した二人に気付いた。
 相変わらずキザな喋り方で、彼女達の神経を逆撫でる。

「二人がかりかい? まあ、僕は何人だろうと構わないさ。どうせならあと一人も呼べばどうだね?」
「あなたの相手は私だけ。リリカは応援よ」
「その言葉、後悔しないようにしたまえよ? さあ、ゼロのルイズの使い魔がどのようなものか、お手並み拝見といこうじゃないか……ふっ!」

 ギーシュは薔薇の花を模した杖を振るい、花びらを一枚宙に舞わせた。それはひらひらと空中を漂っていたかと思うと、甲冑を着た女戦士の人形へと変わる。「申し遅れたね。僕の二つ名は『青銅』。青銅のゴーレムでお相手させてもらう。僕はメイジだから魔法を使うが、よもや卑怯とは言うまいね?」
「ああそう。私は騒霊だから、音を使って戦うわ。まさか駄目とは言わないでしょうね?」
「は! 音なんかで、僕の『ワルキューレ』がどうにか出来るものか!」

 飄々と答えるルナサに、ギーシュは苛立ちも露わにワルキューレをけしかけた。
 対するルナサはあくまで静かに、ヴァイオリンの弦に弓を当て――引いた。
 一音。たったの一音がヴェストリの広場に響き渡った。ただそれだけで、ギーシュの作り出したゴーレムは崩れ去り、会場を沈黙に陥れた。

「な、何をしたんだっ。貴様!」
「ヴァイオリンを弾いただけよ」

 最初の態度を崩さないルナサに、言いようの無い不気味さを感じたギーシュは新たに杖を振るう。そして生み出されたのは六体のワルキューレだ。
 今度は油断はしないとばかりに、六体のゴーレムに編隊を組ませ、一気にルナサへ突入させた。ルナサはそれを飛び上がってかわし、空中でヴァイオリンを構える。
 再び響き渡るヴァイオリンの音。素朴な旋律から始まり、朗々と奏でられるその音は聞くもの全ての耳を奪った。
 時に激しく、時に優しく。美しく伸びやかなメロディに、誰もが聞き惚れてしまったの
だった。
 メルランが道に迷ったため、漸く駆けつけたルイズもそれを耳にし、同時に彼女の背中に鳥肌が走った。慌てて首を振り止まった足を叱咤して、決闘の様子を見ようと観衆を掻き分けた時、其れを目撃した。
 六体のワルキューレは全てその動きを止めていた。しかも、ギーシュが苦しんでいる?

 騒霊が奏でる音はただの音ではなく、音の『幽霊』だ。その音は物理的な影響のみならず、いやむしろ精神に多大な影響を及ぼす。そのため魂だけの幽霊には好まれるが、人間には刺激が強い。
 そして魔法を使うためには精神の集中が必要である。ギーシュの集中は、心を乱すルナサの演奏によって妨げられ、今やワルキューレの構成を維持するのに手一杯だった。先程も、余裕を見せていたギーシュは一瞬にして精神の集中を切らされたため、ワルキューレを崩してしまったのである。
 ルイズが見守る中、演奏は終了に近づき、そしてギーシュも倒れてワルキューレは消え去った。ルナサの勝ちである。

「あなたの負けよ」
「ぐぅっ……はぁ、はぁ……」

 息も絶え絶えのギーシュは、ルナサの勝利宣言にも答えられない。観衆は静まり返り、心なしか皆呆然としている。最初はルナサが勝ったせいかとルイズは思っていたが、どうも様子がおかしい。そこへ今まで決闘を間近で見ていたリリカが近寄ってきた。

「あー、ルナサ姉さんの演奏を聞きすぎたわね。ここの人たち」
「? どういう事よ?」

 リリカに聞いたルナサの性質についての説明に、ルイズは顔を青くした。
 聞くと心が落ち着くが、聞きすぎるとやる気を無くして鬱になる音楽って何だ。
「不味いんじゃないのそれ。どうすんのよこんなに」
「すぐに元に戻るから大丈夫だよ。問題は、私より近くで聞いてたあの男かな」

 リリカが指を差した方向を向いて、ルイズは唖然とした。ギーシュが膝を抱えて蹲り、暗い表情で何かブツブツと呟いている。近づいて聞いてみると。

 ……欝だ死のう。
 ……生まれてきてごめんなさい。
 ……父上、母上、兄上、先立つ不幸をお許しください。
 ……モンモランシーのおっぱい触りたかった。

 こんな台詞を延々と呟いていた。泣きながら。
 彼はちょっと危険な精神領域に陥っていた。
 慌てたルイズだが、精神を高揚させるというメルランの演奏をギーシュの耳元で聞かせて事無きを得た。


◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

「これは……また、何と言うか」
「ガンダールヴは全然関係無かったのう」

 オスマン氏とコルベールの前にある鏡の向こうに、今度は興奮しすぎて耳から血を吹き出すギーシュが映し出されていた。
 ガンダールヴとしての力こそ発揮しなかったものの、ルイズの使い魔はその異質な強力さを証明してしまった。誰が音楽で魔法に勝てるなどと思うのだろうか。オスマン氏達も全く予想の範囲外だった決闘の結果に、額から流れ出る汗を抑えられなかった。

「メイジの集中を乱す音。これはある意味ガンダールヴ以上の脅威ですな」
「うむ。ドットとは言えあれだけ簡単に御する事が出来るとなると、実に底が知れぬ。……この件は私が預かる。決して他言は無用じゃぞ、ミスタ」
「……承知致しました」

 厳しい顔で告げるオスマン氏に、コルベールも引き締まった表情で答える。
 学院長室の空気は緊迫していた。

「ところで、あのルーンは結局なんじゃったんじゃろな」
「……さあ?」

 一気に気が抜けた。

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