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幽“零”楽団 プロローグ

 幻想郷の片隅、湖の近くにある廃洋館。
 そこに住まう騒霊・プリズムリバー三姉妹は、館のロビーで二人の珍客を迎えていた。
 一人は幻想郷の誰もが恐れるスキマ妖怪、八雲紫。三姉妹の方から白玉楼に演奏へ出向く時に会うことはあるが、紫の方からわざわざ会いに来るのはこれが初めてだ。
 もう一人は、その激務から滅多に顕界を訪れる事の無い地獄の裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥだった。何時ぞやの花の異変時に説教をされて以来、彼女は姉妹にとってあまり会いたくない人物のトップに君臨するお方でもある。
 滅多に見ない組み合わせに、三姉妹の長女ルナサは困惑していた。普段は来客があろうと気にせず演奏の練習でもしているのだが、幻想郷でも指折りの強者が二人も訪れてはそうもいかない。渋る妹達を引き連れ、何事かと客の前へ姿を現したのだった。

「一体何の用件かしら。演奏の依頼なら、現在は受け付けていないわ」
「ただ今無期限休業中~」
「再開の目途は立っておりませーん」
「そう警戒しないで。私はただお話をしに来ただけです」
「私の用件は後でいい。まずは閻魔の話を聞くといいわ」

 訝しむルナサと陽気な次女メルランと三女リリカに対し、映姫は優しく答えた。紫は紫で、普段通りの不気味な笑顔を振りまきつつ、一歩後ろに下がる。
 この時点で、ルナサには相手の用件が何なのか大体の見当をつけた。スキマ妖怪は知らないが、閻魔が自分達に話す事など決まっているからだ。

「私がここに赴いたのは他でもない、貴方達の存在についてです」
「……そう」
「分かっているようですね。その通り。用件は今にも消えかかっている貴方達の事」

 映姫の静かな言葉に、三姉妹はお互いの体を仰ぎ見た。彼女らの姿は透き通り、今にも消えてなくなりそうだった。
 これが、依頼を受けられない理由だった。根城である洋館を離れると、ただでさえ薄くなった彼女達を誰も見つけられなくなるのだ。
 原因ははっきりしている。彼女達の拠り所の不在と、力が尽きかけている事。
 そして――

「拠り所を失った貴方達は、今までは騒霊らしく『騒ぐ』事で、何とかその曖昧な存在を確立させてきましたね。ですがそれも既に限界。たった一人の人間の力で生み出された霊的存在が、顕界であり続ける事は非常に難しく、実際にもう消えかかっている」
「今更な事ね。確かにあなたの言う通り。だけどそれがどうしたって言うの?」
「消えるのは残念だけど、最後はせめてハッピーに逝きたいわね~」
「メルラン姉さんはいつもハッピーじゃないの。まあ、私も同意見だけど」

 そして、彼女達を世界に繋ぎ止めるための迷いが、一切無くなってしまった事が、存在を薄める事に拍車をかけた。
 迷いの無くなった霊は成仏する。しかし彼女達三姉妹は通常の霊とは違う。最初から霊として生まれ、輪廻転生の環より外れている彼女達は霊のまま死に、最期には消滅する。或いは暴走する可能性もあったが、彼女達はそれを選ばなかったようだ。
 映姫は以前より、そんな姉妹達が哀れに思えてならなかった。今日訪れたのも、消滅に際して不安になっていないのかと、短い休暇を縫って来たのだった。
 しかし、ルナサも、メルランも、リリカも、誰一人として迷いは見られない。その潔い様子に悲しげな微笑を送って、映姫は再び口を開いた。

「……覚悟は決まっているようですね。理解していると思いますが、貴方達は極楽にも地獄にも行けない。そのまま消滅するだけです」
「知ってるよ」
「勿論私も」
「……レイラに会えないのは悲しいけど」

 レイラとは彼女達の創造主だ。レイラは生き別れた姉達を模して騒霊三姉妹を作り上げ、天寿を全うして死んだ。彼女の魂は既に極楽へと渡っているだろう。
 本当の姉妹ではなくとも、彼女達は間違いなく家族だった。寂しがりやな末の妹レイラに死後も再会できなくなるのは、姉達にとっては少し辛い事だった。

「貴方達の妹は幸せ者ですね、死後もこんなに想ってもらえるとは。心配はいりません。いずれ彼女も輪廻の環に乗り、生まれ変わるでしょう」
「そう。ならいいわ。あの娘なら次の人生で幸せになるだろうし」
「……私の話はこれで終わりです。裁判所に来られない貴方達が最期に思い残した事があるなら、白黒はっきりつけてあげようと思っていましたが、その必要は無いようですね。――今のまま、迷う事なく進みなさい。それがあなた達に出来る善行よ」
「じゃあ、次は私の番かしら?」

 姉妹の回答に満足そうに、しかし寂しげな顔で映姫は下がる。それと同時に今度は紫が前に出てきて、姉妹に向けて話しかけた。
 映姫はともかく、紫の用件にはさっぱり見当がつかないルナサは、警戒も露わに睨みつけた。
 正直言って、紫はプライベートでは絶対に係わり合いになりたくない人物だ。こんな時に一体何をしにきたのかはルナサには分からなかったが、きっと碌な事ではあるまい。
 そんなルナサの様子に、紫はくすくすと笑いながら言った。

「そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ。用件は簡単、貴方達に最期のライブを開いてほしいの」
「演奏依頼は受け付けていないって、言わなかったかしら?」
「今から告知したって、お客が集まる頃には私達消えてるかも」
「そもそも私達、もうここから離れられないんだけど」

 意外な提案に、彼女達は少し驚きつつも冷静に返答する。既に消えかかって洋館から出られない上に、時間も余り無い。一体どうせよというのだろうか。

「お客は萃香に頼んで萃めてもらう。場所はこの洋館よ。交通が不便だけど、道は今回に限って私が何とかしましょう。後でハクタクに消してもらえばいいし」
「解せないな。最期にライブが出来るのは嬉しいけど、どうしてそこまでしてくれるの?」
「一ファンからの最後のプレゼントだと思ってくださる?」
「……まあ、そういう事にしておくわ」

 紫の真意は分からないが、意外と本当の事を言っているのかもしれない。今回ばかりはこの胡散臭い妖怪を頼ってみる事にルナサは決めた。
 話が終わって、映姫と紫は一旦帰ることになった。ルナサ達が見送る中、洋館の玄関口で、紫はたった今思い出したかのように「そうそう」と手を打った。

「ちなみに決行は今夜ね」
「早すぎるわよっ!」
「そうと決まれば練習ね!」
「最期だし、何を演奏しようかしら?」

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 草木も眠る丑三つ時、プリズムリバーの廃洋館に、沢山の人と人外が集まっていた。
 湖を根城にする妖精、紅魔館の吸血鬼とその従者と居候、永遠亭の蓬莱人に白玉楼の亡霊。神社の巫女や森の魔女、人里から多くの人間。そして鬼や大量の幽霊、その他色々。
 今夜のライブは大盛況の様子だ。

「皆、今夜は私達プリズムリバー楽団の最期の公演に来てくれてありがとう」
「もう会えなくなるのは寂しいけれど、頑張って演奏するわ~」
「じゃあ早速一曲目にいくわよ! 作曲はこの私リリカ。曲目は――」
 会場が大いに盛り上がる中で、紫と映姫は静かに酒を酌み交わしていた。そろそろライブも終了に近づいている。観衆の輪に加わらず、二人はずっと遠くから演奏を見守っていた。
 かなり早いペースで飲んでいたのか、すでに目の前の一升瓶は空になっていた。映姫はコップに注がれた酒を飲み干すと、ぽつりと紫に尋ねた。

「あの長女ではありませんが、私も疑問なんです。どうしてこんな機会を作ったのですか?」
「あら、あなた好みの善行でしょう?」
「私への点数稼ぎじゃない事は確かだと、今の言葉で分かりました」
「別に深い意味は無いわ。……ただ、幻想郷を去る彼女達に手向けを送りたかっただけよ」
「そうですか……」

 会場を見れば、既に最後の曲もあとわずか。それに伴って、演奏中は騒霊の性質でいくらかは実体を保っていた三姉妹の姿も、段々と薄れていく。
 今度こそ最期なのだろう。全ての魂に厳しく優しい閻魔と、幻想郷の全てを愛する賢者は黙ってその様子を眺める。
 ――演奏が、終わった。
 それと同時に盛大な拍手が巻き起こる。三姉妹は充実感に溢れた笑顔を浮かべ、白い光となって上空へ消えていく。
 あまりに儚いその姿に、
 『ルナサさん、好きじゃあーーーっ!』
 『めるぽー!』
 『リリカちゃーん! ちっちゃいけど最期まで頑張ってたぞー!』
 様々な観客の声援がかかる。三姉妹は姿を薄めつつもそれに笑顔で手を振り、応えた。
 既に向こうの景色が見えるほどに透けて、天へ昇っていったその時。彼女達の進路に突如光り輝く鏡のようなものが現れ三人を飲み込んだ。ほとんどの観客達はそれに気付かず、三人への別れを惜しみながら、会場を去っていった。

「今のは……あなたの仕業ですか?」
「まさか。そんな無粋な真似はしないわ」

 驚愕の面持ちで尋ねる映姫に対し、紫はどこか楽しそうな様子だった。鏡に飲み込まれた三人は一体何処へ消えたのか? 紫には知る由も無かったが、何か愉快な事になりそうな気がしてならなかった。
 顔を天に向けて、残った酒を一杯ぐいっと呷る。

「まあ、頑張りなさいな」

 物語は、異世界へと移る。

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