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虚無の使い魔と煉獄の虚神-1

男は死を迎えようとしていた。
剣でもって腹から背骨までを貫かれた身体。あまりにも失われ過ぎた血液。銃弾により撃ちぬかれた胸郭。
深く暗い海中へと沈みゆく身にあっては一切の救援も期待できず、呼吸すらも許されず、ただ数秒後に迫り来る完全な死を待つのみであろう。
だが、神無きゆえに奇跡も無いはずの地獄にて死を受け入れんとしていた男の身を、一つの奇跡が救った。
輝く銀の盤。丸い鏡のような平面が、海底へと沈み行く男の下に現われたのだ。
傷だらけの身体が銀盤の中へと沈み、そして消え去る。
彼を飲み込んだ銀盤もまた、一瞬の後に消えうせた。

己が身に起こった異変に気が付いたのか、ただ一瞬だけ意識をかすかに取り戻した男の視界に映りこんだものは、自分を覗き込む澄んだ湖水のような瞳のおぼろな印象。
それだけを見て、彼の意識は再び深い闇の中へと沈んでいった。

「ああ良かった、気がついたのね」

金髪のメイド少女、ローラが嬉しそうな声をあげる。
秘薬まで使って行われた『治癒』の魔術による治療を受けてから丸一日、まったく意識が戻らなかった男が目を覚ましたのだ。
看病の手伝いを任されていた少女にとって、喜ばしいのは当然だった。
ベッドの上で薄く目を開けた男の、灰色の視線がローラの瞳と結ばれる。
と、同時に二人を結ぶ、銀の糸のような何か。

「え? えっ!?」

不思議な現象に少女が困惑している間に、その銀弦は消えていた。
ローラには何がおこったのか、さっぱり理解できない……むしろ、何も起こっていないように思える。
不思議がる少女。彼女が首を捻っている間に、男は上半身をベッドから起こしていた。

「あっ、まだ起きない方が良いですよ。治癒の魔法を使ってもらってても、完全には治って無いぐらい凄い傷だったんですから」
「いや、もう大丈夫だ」

そう告げて男はベッドから立ち上がる。
メイド少女はその姿に思わず目を細めていた。
ほんの少し前まで昏睡していたとは思えない、しっかりと背筋を伸ばした姿。
整ってはいるが美男では無い、鋭さを感じさせる目鼻立ち。灰色の髪と灰色の眼。
そのいずれもが、まるで内側から光を放っているかのような眩しさを感じさせる何かを内包していた。
年のころは30代の半ばだろうが、溢れんばかりの活力とにじみ出る強靭な意思が彼を中年と呼ぶ事をためらわせる。
特にその瞳。
灰色という、本来ならばどっちつかずの曖昧さの代名詞ともなる色彩でありながら、あまりにも鮮烈な、黒と白の間にこれほど強い色があったのかと感嘆させずにはいられない程の強烈な力に満ちた双眸は、男の姿をしてまるで太陽の化身のように感じさせた。

「それよりも今は私を召喚したというメイジに逢いたい。案内を頼む」
「は、はい。先程まで付きっ切りで貴方を看病されていたんですが、今は昼食のために食堂の方に行っておいでで、待っていれば戻って来られると思いますけど、あの、でも、お急ぎでしたら食堂にご案内しますね」

並みの貴族では及びもつかない威厳に訳も無く恐れ入ってしまって緊張しながらも、ローラは男を先導するため部屋のドアノブに手をかける。
そんな風に緊張して余裕の無い少女だったから、気がつかなかった。
自分が何の説明もしていないのに、男は自分がメイジに召喚されたのだと知っていた事。
男がベッドサイドに掛けられたボロボロの黒いローブ――召喚された時に男が着ていた物――を手に取り羽織った時には、まるで新品になったように疵も破れ目も無くなっていた事。
そして彼の身体に付けられていたはずの、『治癒』の魔術をもってしても回復させきれなかった怪我が、ほぼ完全に消えうせている事実に。

「シエスタの連れて来てた男の子が? 貴族と決闘!?」

二人が到着する直前、食堂ではちょっとした事件が起こっていた。
給仕を手伝っていた平民の少年と貴族の少年がなにやら諍いを起こし、広場に場所を移して決闘をするという騒ぎにまで発展したのだという。
その決闘の当事者の一人がルームメイトの連れて来た友達だと同僚のメイドから聞いて、ローラはそのルームメイト、シエスタの事を心配していた。
相手は貴族で自分達は平民。決闘の結果と貴族のきまぐれいかんでは、貴族にケンカを売った累が友人にも降りかかるかもしれず、そうなった時に抗うすべなど平民には無いのだから。
ハルケギニアにおいて、ことトリステイン王国において、貴族と平民の間にはそれほど絶対の差があるのだ。

「あの……ミスタ、申し訳ないのですが……」

チラチラと上目遣いに自分が案内してきた黒ローブの男へと視線を向けるローラ。
自分の仕事を考えれば彼の主人である貴族の元へ彼を送り届ける事を優先すべきなのだが、仲の良い有人であるシエスタの巻き込まれた事件の方がどうにも気になってしまう。
そんなローラの気持ちをくみとったのか、男は広場の方へと歩き出した。

「古来よりの類例なき使い魔として召喚された人間。その一人が私であり、もう一人がその少年であるのなら、わたしにとっても興味深い。ゆこう」

そう言って、けれど急ぐ様子も無く、見慣れない場所を楽しんで歩く旅行者のようにゆったりと、ローラを従えて男はヴェストリの広場へと歩を進めてゆく。

それは決闘などとは呼べない、一方的な蹂躙だった。
当事者、どちらにとっても。

青銅の人形にパーカー姿の少年が何度も殴り倒される。
戦女神を模した人形の動きは多少優秀な戦士のそれとそう変わらない程度ではあったが、少年の身体能力は明らかにそれより劣っていたし、なにより人の拳では青銅を砕く事などできはしない。
少年は大した反撃も出来ず、8度殴られ8度地に倒れた。
全身から出血し、左腕の骨は折れ、その姿は誰が見ても死に体にしか見えない。
決闘を観戦していた誰もが思う。所詮平民は貴族には勝てないのだと。
貴族である生徒達は優越感と確信をもって。平民である使用人達は恐怖と諦めをもって。
だが、少年は、平賀才人は諦めを踏破して立ち上がった。
止めようとする桃色髪の主人を振り切って立ち上がり、敵であるギーシュから投げ渡された剣を手に取り―――そして一瞬の内に青銅の戦乙女を切り裂いて倒したのだ。
慌てた『青銅』のギーシュが6体の『青銅』のゴーレム・ワルキューレを呼ぶ間があったのは僥倖であったろう。
けれど、呼び出されたワルキューレは戦う余地すら与えられず、右手のルーンを輝かせる才人によって一方的に倒されていった。

「続けるか?」

顔面に蹴りをくらって倒れたギーシュの、顔の脇に剣を突き立ててサイトが問う。

「ま、参った」

震える声でギーシュが敗北を認めた瞬間、沸きあがった驚きの声で広場が揺れる。
メイジには決して勝てないはずの平民が勝利したのだ。
物見気分で決闘を見物していた学生達の心に、使用人達の心に、この事件は様々な衝撃を与えた事は間違いないだろう。

「サイト! サイト!」

偉業を成し遂げた少年はしかし、全身全霊を燃やし尽くしたように倒れて意識を失い、桃色の髪をしたメイジの手で揺すられも気がつかないぐらい熟睡していた。

「見事な意地であった、少年。挫けぬ意思は魔導師だけの物では無いのだな」

その二人へと近づき、ローラを従えた黒いローブの男は眠るサイトへと掌を向ける。
男とサイト、使い魔として召喚された人間という稀有な共通点を持った二人を銀弦が繋いだ。
次の瞬間、しかし銀弦は熱も破壊ももたらさない炎となって消えうせてしまう。

「!?」
「ちょっとアンタ、私の使い魔に何をしてるのよ!」

驚きに顔をこわばらせた男に食って掛かる桃色髪のメイジ、ルイズ。
その剣幕に気がつかず、男は眠るサイトへと視線を固定したままだ。
更にルイズを無視するように、呟くような声が男の背後からかけられる。

「みつけた」

振り向けば身長よりも長い杖を手にした小柄な少女がそこに居た。
食事を終えた後、決闘騒ぎには興味も示さず、校舎の医務室から薬草をもらって部屋に帰り、入れ違いに居なくなっていた使い魔を探しに来ていたメイジ。
男の召喚主である、青い髪の貴族である。

「娘よ、そなたがわたしの恩人か?」
「タバサ」

問い掛ける男に対し、瀕死の男を召喚し、咄嗟の機転で凍結魔法を使って出血と生命活動を極限まで低下させて半ば冷凍保存する事でその命をこの世に繋ぎ止め、
学園へと運び込みギリギリの状態で矢継ぎ早に治癒の呪文を使って、彼の一命を取り留めさせた優秀な魔術師である少女は、何の説明もなく、端的に名前だけを名乗る事で答えた。
メガネ越しに男へ向けられる、厳冬の澄んだ湖水を思わせるタバサの瞳。
灼熱の太陽を宿した灰色の瞳がそれを見つめ返す。
いつのまにか、見詰め合う二人の胸を繋ぐ銀の糸。
更に、銀弦は周囲に広がり、生徒達へ、使用人達へ、眠るサイトへ、大地や木々や校舎へと男を中心として結ばれ、広がり、あたり一面を覆っていた。
タバサの名乗りを受けて、使い魔たる男は自らの名乗りをもって返す。

「心よりの感謝を、タバサ。私は相似大系魔導師、グレン・アザレイ。人はわたしを『神に近き者』と呼ぶ、そなたらもそうしろ」

苛烈な太陽を思わせる威厳を纏った男の名乗りに、誰もがあっけにとられた。
服装からして貴族にも見える、けれど平民のように杖も持たない、相似大系などという聞いた事も無い魔術系統を名乗る、使い魔として召喚された男の、
不遜とも自惚れともとれる仰々しいセリフに、笑うべきなのか畏れるべきなのか判断もつかなかったのだ。
だが、広場を覆わんばかりに伸びる銀弦が男の仕業なのは間違いないだろう。
この糸がどんな意味をもつかは判らないが、判らないからこそ不気味でもあるのだ。
そんな沈黙の中で、グレンの名乗りを正面から受けた小さな少女は。

「そう」

それだけ言って、興味が無いかのように背を向けた。
歩きながら、タバサはゴソゴソとマントの下から本を取り出して読みはじめる。
そんな様子に気分を害した風も無く、グレンはタバサの後についてその場を去っていった。

いつのまにか銀弦が消えていた広場に残るのは、なんとも言い難い沈黙に包まれた野次馬達。
完全に無視されて呆然とするルイズと、話しかけるタイミングを逸して佇むギーシュ、そしてグースカと寝息を立てるサイトの姿であった。


【虚無の使い魔と煉獄の虚神1・北風と太陽】


グレン・アザレイは相似世界に生まれ育った魔導師である。
彼の生まれた相似世界では、似ている物同士は影響しあい、干渉しあうために物理法則が一定しなかった。
これは彼の世界だけではなく、彼が知る1千を越える魔法世界の全てにおいて見られる物理法則の揺らぎの一形態である。
周期運動が一定しない円環世界ではその揺らぎを観測して操る円環魔術が、時間の流れすらゆらぐ再演世界では再演大系が生み出されたように、相似世界の人々は似ている物を同じ物として操る魔術大系を発達させた。
ローブの損傷を無傷のベッドシーツと『相似』させて修復したのも相似魔術なら、自身の怪我を健康体のローラと『相似』させて完全回復させたのもグレンの魔術であり、
そのついでに脳と脳を『相似』させる事で彼女の記憶から自分の置かれた状況やこの世界の言語、 ローラが知る限りの国際情勢などを読み取ったのも魔術によってであった。
尤も、目覚めた瞬間は自分がどれほどの危険度がある状況下に在るか不明であったから記憶を読み取るような無作法を行ったのであり、
基本的に理由も無く他者の記憶を探るような行為を良しとしない良識は、グレンも持っている。

なので、自分が召喚された世界の事をより知るため、頻繁に読書をしているグレンの姿は学園の図書館等で頻繁に見かけられていた。
タバサと一緒の時もあれば、一人の時もあった。
時にはタバサの部屋で並んで本のページを捲っていて、そんな時には、知らず知らずの内にグレンとタバサの間を銀弦が結んでいる事もあった。
『似た』もの同士を結びつける相似大系魔術における魔力の源たる銀弦だが、それ自体はなんら現象を起こすわけでも無く、
そもそも相似魔術師以外には見る事が出来ても干渉する事は出来ないので、タバサはまったく気にする事無く、目撃した周囲の人間も気にしなくなっていく。
静かに、なんの事件も無く、ただ学園の片隅でページをめくるメイジと使い魔。
グレン・アザレイなる使い魔が貴族なのか平民なのか、そもそも何者なのかは判らないが、「メイジを知りたければ使い魔を見よ」という格言は本当なのだと、
学生や教師達は呆れ半分にタバサとその使い魔の存在に馴れていくのだった。

一方、いつも騒がしいのがもう一組の使い魔と主人である。
召喚された翌日の決闘騒ぎに始まって、主人であるルイズをからかうサイト、サイトを折檻するルイズの姿はそこら中で目撃されていたし、
失敗魔法の爆発を放ちながら追うルイズと、死に物狂いで逃げ回るサイトの追いかけっこも、女子寮の廊下では3日とおかずに繰り広げられている。
寮に響く高らかな鞭の音やサイトの悲鳴にはもう皆が慣れっこになっているし、昨日の教室ではサイトが思春期らしい寝言を言ってクラスメイト達を爆笑させ、
その夜にはルイズがキュルケというメイジの少女と盛大なケンカをしていたらしいと、噂になっていた。
なんと言っても年頃の少年少女が詰め込まれた、それでいて娯楽に乏しい学園内であるからして、その手の騒動は無聊を慰める話題として面白おかしく話題にのぼり、
憶測と脚色に彩られて広まる事となる。

タバサにしてもグレンにしても、その手のゴシップには興味の無い性格ではあるが、彼等とて人間であり食べる物は食べないと生きてはいけない。
アルヴィーズの食堂の隅で椅子を引いてタバサを座らせ、自身も食卓についたグレン達の耳にも少年達が大声で、あるいは少女達がヒソヒソと話す噂話は飛び込んでくるのであった。
ちなみに、今朝も床に座って硬パンと薄いスープを食べさせられているサイトと違い、グレンの食事は生徒達のそれと同じものが用意されている。
ルイズのように使い魔への躾云々を考えなければ同じものをもう一人分用意してもらうように厨房に頼む方が本当は手間無く簡単なので、まるっきりこだわりの無いタバサはそのようしたから。
そんなワケで主が始祖ブリミルへの祈りを短く呟き、その隣で神に似た者と称された使い魔が彼自身の世界の神に祈りを捧げる間にも、
『平民のサイト』『ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール』ついでに『キュルケ・フォン・ツェルプストー』という名は白いテーブルクロスの上を跳ね回り、二人の耳の中にも跳び込んで来るのだった。
共にフォークを手に取る主従は普段食事の時にもあまり会話を交わさないのだが、聞くともなしに聞いてしまった噂話の名前に誘われてだろう、珍しくタバサの方から口を開く。

「あの時彼に何をしたの?」

唐突で短い問いは普通の者なら意味を汲み取れるかどうかの瀬戸際と言った所だが、グレンはその意思を正確に汲み取った。
タバサはグレンが目覚めた日、サイトに銀弦を繋いで炎を上げたのはなんだったのか、と聞いているのだ。

「何もしてはいない。いや、わたしはあの悪鬼の少年に対して何も出来ないと言うべきであろう」
「悪鬼?」
「彼はおそらく、私があの時居たのと同じ世界から召喚された。魔法に満ちた千の世界の中、唯一神の恩恵を与えられぬ、魔法無き世界。
 我等魔法使いは地獄と呼ぶ世界の、我等が悪鬼と呼ぶその世界の住人は、ただ認識するだけであらゆる魔法を消去する」
「魔法を消去……」
「我等の魔法は、わたしの身につけた相似大系を始めとして円環大系、完全体系、神音体系、聖痕体系など多岐に渡るが、法則の歪みを『観測』する事から始まるという点では一千魔法世界ことごとくの魔法大系が同一のものだ。
 それぞれの世界に特有の自然秩序のゆらぎを観測し、ねじ伏せる事から魔法は始まる。だが、地獄には世界の揺らぎが無い。ゆえに、かの世界には魔法が無く、その住人は魔法を観測する事が出来ない。
 出来ない結果――悪鬼が五感のいずれかにでも観測した魔法は崩壊し、魔炎となって消滅させられる。
 だからこそ我等は神の恩恵たる魔法無きその世界『地球』を地獄と呼び、住人達を悪鬼と呼びならわした」
「……消えてない」
「そう。過日、あの悪鬼の少年が気絶し、認識が途切れている間にわたしが繋いだ相似魔術の銀弦は彼の少年に認識されず繋がったが、
 治癒と言う影響を与えようとした瞬間にその変化を『感じ取った』肉体そのものが銀弦を魔炎へと変えた。
 つまり、あの少年が悪鬼である事は間違いない。だが、この世界の住人が使う魔法は少年が観測しても消えていない、悪鬼の魔法消去の影響を受けていない
 ……そもそも、この世界の魔法大系は『法則の歪みを観測する事から始まる』という我等の魔法とは、その基本則からして異質なものだ。
 ならば、わたしにとっての魔法とこの世界の魔法は、まるで違うものなのだろう」
「なぜ?」
「違うという事に違うという以上の意味は無いものだ。
 わたし自身、この世界のような『世界』の存在は知らぬし、我等の知る魔法世界『群』と、はるか断絶した場所にこの世界はあるのだと推測する。でなければ、世界の狭間を渡ることの出来るわたしが、この世界から出てゆく方法がわからぬ理由が無い」
「そう」
「このハルケギニアには魔法が存在する。だが、我等魔法世界の住人にとって魔法は誰もが例外なく持つもの。個々の力の差はあれども一つの世界の住人の中で持てる者と持てぬ者に分かれる事は無い。
 そもそも自然秩序に歪みが無いと言う点では、この世界は地獄にこそ『似て』いる。だがそなたらも、そなたらが平民と呼ぶ住人達も悪鬼では無い……」
「そう」

ハルケギニアの住人からすれば壮大過ぎるスケールの話を相変わらずの無表情で聞いて、雪風の二つ名を持った少女は黙々とハシバミ草サラダを口に運ぶ。
だが、グレン・アザレイの言葉に秘められたもう一つの意味、そしてグレン・アザレイがこの世界に呼ばれる直前に行った行為を知っていれば、流石のタバサとて恐れを感じただろう。
魔法の全てが燃え尽き、奇跡滅びる荒野・地球。
その地球を地獄と蔑み、その住人を悪鬼と恐れながら、なぜ魔法使い達はその世界を目指したか。
それは、魔法を更なる高みへと研鑽するため、実験と実証を行うため、物理法則の安定した実験場、自然秩序にゆらぎの無い地球の環境が必要だったからだ。
そうして、魔法使い達は一部の者だけが地獄の国家と結びつき、悪鬼達には秘密裏に実験場を利用する特権を有した『協会』を作り出した。
その枠組みを正義で無いと断じ、たった一人で一千世界、総人口5億を超える魔術組織を相手に宣戦布告し、たった一人で地獄の悪鬼60億を皆殺しにして地球を魔法世界の万民に解放しようとした血まみれの英雄こそがグレン・アザレイ。

「わたしは天より神に近き力を与えられ、神に似た心を求め、神の如く成すべき事を求めて魔法世界を放浪し、辿り付いた地獄世界の解放こそを我が使命と思い定め戦い敗れ
 ……その果てに、自然秩序が安定し、かつ悪鬼の棲まぬこの世界へと呼び出された。これは、あるいは天命であるか?」
「……?」

何者をも焼き尽くす太陽を魂とする男の呟きが持つ本当の意味を、冷たい北風で感情を凍りつかせた青い髪の少女は、まだ知らない。

グレン・アザレイは雪風のタバサの使い魔である。
使い魔ではあるが、同時期に召喚されたゼロのルイズの使い魔、平賀才人のように掃除や洗濯などの労働を課せられているわけではない。
そもそも、学園生徒の身の回りの世話は学園付きのメイドが行っているのだ。
ルイズのように『メイジとして使い魔を従える事』に拘らないのなら、元来必要の無い行為。そしてタバサは大抵の事に拘らない少女である。
ついでに『メイジとして使い魔を常に傍らに連れて歩く』事にも拘らなかった。
その結果として、グレン・アザレイは本日、主人の居ない魔法学園の中庭を一人で歩いていた。
何処に居ても翳る事の無い太陽のように威風堂々とした歩みで、とても使い魔としてこの学園に居るのだとは思えない王者のような風格を纏って闊歩する姿。
あまりに堂々としているため、教師のみが閲覧を許されるはずの『フェニアのライブラリー』から書籍を借り出すことをメイジである当直の司書が断ることが出来ない程だった。
そうして数冊の本を小脇にタバサの私室に向かって歩むグレンを呼び止めたのは、燃えるような紅い髪の女生徒である。

「あら、ミスタ・アザレイ。貴方のご主人様はどうしたのかしら?」
「雪風の娘は私用で学園の外へ出かけている、微熱の魔術師よ」

中庭に設えられたテーブルで、メイドに用意させた紅茶と焼き菓子を前に、優雅な昼下がりを楽しんでいるらしい『微熱』のキュルケ。
タバサの数少ない……と言うか、ほぼ唯一の友人である彼女とグレンは、一応程度にお互いを見知っている。

「残念。サイトはヴァリエールと一緒に馬で何処かへ出かけちゃうし、ペリッソンもステックスもマニカンもエイジャックスもギムリもつまらない事でギャンギャン煩いし、
 せっかくの虚無の曜日に無為な時間を過ごす事になるなんて、まったく嫌になるわ……ねぇミスタ、よろしければ午後のお茶をご一緒しませんこと?」
「いただこう」

キュルケも高速で空を飛べる手段――例えば竜のような――でもあればルイズとサイトを追っていただろうが、残念な事にそのようなツテは無い。
魔術師ならぬ者にとってみれば飛行魔法で飛んでゆけばと思うのだろうが、
馬で走るような距離を飛べばすぐに精神力が尽きてしまうし、疾走する馬に追いつけるような使い手などそうそう居ないのだ。
まして火の系統を得意とするキュルケにとって、風の系統である『フライ』は、あまり得意な魔術では無かった。
そんなワケで『微熱』のキュルケは、最近恋の炎を燃やしている相手・サイトが先祖代々の宿敵ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールと二人きりでお出かけしている休日の午後、たった一人で気だるげにお茶をたしなむしかなくなってしまったのである。
とは言え、結果として無聊を囲って友人の使い魔をお茶に誘うハメになってしまったのは、昨夜サイトに迫っている最中に闖入してきた男友達を得意の『火』でブッ飛ばしたキュルケの自業自得なのだが。

そんな事情はしらず、見る者を引きつける魅力的な笑顔でキュルケの差し向かいに座ながら、グレンは軽く指を動かす。
紅茶の満たされたキュルケカップと、中身の入っていないカップが銀弦で結ばれ、そこから『強制的に結果を似せられた』因果が働いき一瞬でカラのカップに紅茶が満たされた。
結果を用意して原因を自然秩序に強制する『概念魔術』は、相似大系の中でも高等技術に分類されるが……
グレン・アザレイはその魔術をたかが紅茶を注ぐ事だけに使用する。使用出来る。
相似魔術の天才、相似世界の至宝とまで呼ばれ、産まれたばかりの闇の中で魔術を使ったという男は、呼吸をするように自然に魔術を使うのだ。

「まぁ、紅茶を注ぐためだけに魔術を使うなんて、随分精神力に余裕があるのね、ミスタ」
「否。相似大系の魔術は類似する形象に魔力を見出す体系なのだ、系統魔術のメイジよ。
 そなたらの言う『精神力』という概念はわたしの魔術には該当せず、ゆえに精神力の枯渇という事態は無い。」

ゆったりと紅茶を味わいながらグレンが答える。
似た形が有る限り、相似魔術師はそこに魔力を見出す。
そしてグレン・アザレイは物質を構成する原子にすら類似を見る怪物だった。
ゆえに、その魔力は無限。
たとえ千の魔術を千度行使しようとも『神に似た者』に魔力の枯渇は存在しない。

「絶倫なのねミスタ・アザレイ。
 貴方のその魔術でタバサが何処で何をしているのか調べたり、タバサの所まで飛んで行ったりは出来ないの?」
「可能だが、既に出立の時に何処に行くのかは雪風の娘自身に聞いている。聞いたが、雪風は答えず聞かれたくないように見えた。
 ならば本人が語るべきと思うまで余計な詮索はするべきではあるまい」
「……そうね。あの子が話すべきだと思ったら、話してくれるわよね」

一口紅茶を啜って、ホッと息をつきながらキュルケはこぼす。
同時にグレンを見るその目がキラリと光った。
『思ったより人間味があるし、あらためて見ればけっこうイイ男じゃない?』という光だ。
いわゆる美男ではないが、覇気と知性が調和した雰囲気と、30代半ばとは思えぬ深い思惟を湛える灰色の双眸。
放浪の旅ゆえにか鍛えられ均整の取れた体躯は、そこいらの軟弱な貴族の子弟――例えばギーシュとか――などとは比べ物にならない、大人の力強さを感じさせる。
なにより太陽を連想させる在り様は、情熱の炎をもって任じるツェルプストーの恋の相手としてふさわしい。
と、そこまで考えてキュルケは首を振った。
グレン・アザレイはタバサの使い魔だ。
恋において他人の恋人を奪う事も辞さない、ついでに宿敵ヴァリエールの使い魔なら奪う事などこれっぽっちも気にしないキュルケだったが、
相手が学園に来てから唯一と言ってよい友人のタバサとなれば話は別だった。
イイ男だけど友達の使い魔は奪えないわね。
そう結論して、グレンとは(キュルケ規準で)ごく健全なけだるい午後の会話を楽しむのだった。

『雪風』のタバサは北花壇騎士団の騎士である。
ガリア王城に咲く花々の名を付けられた東・西・南の花壇騎士団の中には、存在せぬはずの『北』花壇の騎士。
日の差さぬ影に咲く陰性のアダ花の如く人に知られる事無く、ガリアの国益のために暗躍する、半ば特殊部隊の様相を呈する裏の精鋭部隊。
騎士の名誉とは程遠く、家名を名乗ることも憚られるような任務に就くがゆえ、彼等は多くの場合騎士隊の隊士番号で呼ばれる。
青い髪の小柄な少女の隊士番号は7号。
そして、彼女と対峙する鋼鉄の男は3号。
かつて、ただの王族の姫でしかなかったタバサに戦う技術を叩き込んだ師に当たるメイジの一人であった。

「アンタ、平民を召喚したって? 笑わせるわね!
 魔法しか能が無いクセに、素質を見る使い魔召喚でそのザマじゃあ、程度が知れるってモンじゃないの!」

無表情でたたずむタバサの前で、少女が大口をあけて笑う。
タバサと同じ青い髪の、端正な顔立ちも似通った娘であった。
だが貴族の気品も何も無く、悪意に顔を歪めて笑う様子がその美しさを台無しにしている。
慈愛をもって民を睥睨すれば美しかろう青い瞳をもった双眸も、すがめるようにねめつける、貴族にあるまじき上目遣いを続けたせいか三白眼のように見えてしまうのだ。
細く長い手足に形の良い指先。やわらかな白い肌が覗く胸元は、タバサとは比べ物にならない豊かさを誇っている。ふっくらとした頬やひいでた額を見れば、
彼女が可憐に微笑めばどれほど美しい少女であるかを想像させ、それだけに残念に思わせるだろう。
そんな少女の頭上には、豪華な王冠が輝いている。
少女の名はイザベラ。ガリアの王ジョゼフの娘であった。
美男王ジョゼフ。外見ばかり不釣合いに立派な無能王とも揶揄される王の、その血を分けたガリア王女はまた、タバサの従姉でもある。
そして魔術の腕前が不自由なこの17歳の従姉姫は、15歳にしてトライアングルクラスの魔術師としても卓越した能力をもった従妹に対し、嫉妬し、憎悪していた。
たかが魔法、などというのはハルケギニアに住む者には言えない言葉だろう。
貴族とは魔術師であり、貴族とは魔法。それが平民にも貴族にも王族にも共通するこの世界の価値観。
高貴なる者ほど強力な魔法を操る力を始祖ブルミルより与えられるというのが、普段は信仰など口にしない人々の間にすらも流れる『常識』であった。
だからこそ、イザベラはタバサを憎んだ。憎んで罵り、辱め、侮辱し、それでも無表情をきめこむ様子に更に怒りを沸き立たせ、尚更に苦しめようとするという悪循環に陥っている。
今日もまた、嘲笑にも顔色を変えない人形娘を苦しめるためイザベラは酷薄な口調でタバサに、北花壇騎士団7号に命令を下した。

「今日のアンタの仕事は裏切り者の処罰よ、7号。貴族5人を含む騎士40人を殺して脱走した北花壇騎士団3号、『石礫』のオージェを捕縛、もしくは抹殺してきなさい」
「……」

さあ恐れよと言わんばかりの、わざとらしい程おどろおどろしい口調で告げたイザベラに、タバサは黙って頷いた。
無表情のままで。
そんな様子に更なる怒りを募らせるイサベラだったが、タバサは別に彼女を怒らせようと無口無表情を貫いているワケでは無かった。
口を開けば、あるいは感情を顕にすれば、きっと目の前の従姉を殺してしまうから、その情動を押さえつけていたのだ。
父を謀殺し、母を狂わせた憎き伯父王の娘。
それだけで、その怒りが理不尽と知りながらもタバサは冷たく暗くけれど眼も眩むほど熱い殺意に囚われそうになるのだから。
背を向け、静かに退出する雪風の少女。
忌々しそうに舌打ちしてその背を見送るガリア王女は、自分が足蹴にしている氷がどれほどの薄氷であったのか、まったく自覚してはいなかった。

『石礫』のオージェは快楽殺人症を患う狂人である。
ガリアの一貴族として生を受けた男は、土のメイジとしての豊かな才能を有していた。
もし彼の精神が正常であったなら、オージェは冶金や土木の分野で平民の生活を助け、
国を豊かにする一助となっていたかもしれない。
だが、彼の興味はただ効率的な殺人にのみ向けられ、その才能も戦いのためだけに注ぎ込まれていった。
2メートルに届くかと思えるほどの体躯に、鋼鉄で出来た鎧を纏ったゴーレムのように表情の無い顔。
かすかにガリア王族の血が混じる群青の髪を短く刈りそろえ、顔にも鎧に隠された全身にも無数の傷痕が刻まれている。
その中の一つ、若い頃に決闘で付けられた傷は、オージェの性器を切断し彼を女を愛する事が出来ない身体にしたのだと言う。
その日以来、『石礫』のメイジは人間を縊り殺す事でしか絶頂を感じられなくなったのだとも。

「どうしました、シャルロット様。逃げているだけでは相手を殺せませぬぞ?」
「…………」

殊更丁寧な口調で、『石礫』はタバサを嬲る。
男が纏う鎧は鎧に見えてさに有らず。
ゴーレムを生み出す魔法を応用し、土より生み出した外骨格を鋼鉄の強度へと錬金し、
人を凌駕した運動能力と防御力を実現するという、彼自身のオリジナルスペルの産物である。
その腕力は容易く人間の首を胴からちぎり取り、拳の一撃で岩をも砕く。
現に、豪腕がタバサをかすめて当たっただけで大人が二人で手を繋いでやっと抱えられそうな太さの幹をもった大木を粉砕しているのだから。
『石礫』の魔術『アサルト・アームズ』。
この魔術による肉弾の攻撃だけで、オージェは100人を超える人間を解体してきたのだ。

「あああぁぁぁぁぁ、シャルロット様ぁ……わたくしは、わたくしは新しい北花壇騎士として連れてこられた貴女を初めて見た時から、
 この手で貴女を壊したいと思っていたのですよ! その細い手足を引き千切り、小さな頭蓋を握り潰し、
 ハラワタに手を突っ込んで子宮を引きずり出す事ができれば、どれほどの快感であることかと!!」

迫る巨漢の腕を、タバサは紙一重で避けて呪文を紡ぐ。
未だ雪の残る高山の中腹、針葉樹の生い茂る森で二人は対峙していた。
かたや欲望のために仲間すら殺し、その果てに逃亡者となった殺人鬼。
かたや愛する者を尽く奪われながら命令に従うしか無い氷の少女。
血と淫欲に溺れた、血走った眼で自分に向かってくるメイジを前に、少女はこんな任務に自分が召喚した使い魔を係わらせないようにした事を安堵していた。
―――この狂った男とて、かつての師匠でありかつての同類。
自分とて殺意に狂ってこのような怪物にならぬと、タバサは自身を信じ切る事はできない。
ならば、他の誰かにこんな戦いなど見せられようものか。
血塗られた道を歩くのは、自分独りで十分だ。

「…………」

大きな杖で口元を隠すようにしたまま呪文を完成させるタバサ。
生み出された氷の矢が次々と『石礫』の装甲へとぶつかって行く。

「無駄です! 無駄、無駄、無駄なのですよぉぉシャルロット様あぁぁぁ!!」

そう。ぶつかって行くだけだ。その矢は、装甲を貫かない。
風の刃も、氷の矢も、空気の大鎚すらも弾き返す恐るべき鎧に、タバサの呪文はまるで効果をあげていなかった。

「デル・ハガラース」

外骨格によって人間では考え難いレベルまで強化された脚力を駆使し、弾丸が飛ぶかのような速度で間合いを詰めて殴りかかる男の攻撃を、
呪文を使ってタバサは避ける。
恐るべき機動力をもった敵の攻撃をこうして避け続ける事が出来ているのは、呪文の補助と卓越した先読み、
そしてなによりこの場所が森の中という、小柄なタバサにとって有利で、大柄なオージェにとって不利な場所だったからだ。
だが、それでも勝機があるようには見えない。
絶望的なタバサの悪あがき、何度も放たれるアイシクル・ランスは外骨格の表面を叩いて散るだけでしかない。
対して、『石礫』の攻撃を一発でも受ければタバサは確実に沈む。

「アヒャヒャヒャヒャヒャアァァァ! どこまで逃げ切れますかな、お嬢様あぁぁぁ!?」

木々の間を縫って逃げるタバサを、『石礫』は木々を打ち倒して追いかけ続ける。
時折その腕から放たれるのは、二つ名の通りの石のツブテ。
それとて、手足に当たればタバサの命綱とも言える素早さを奪うだろう。
ひたすら逃げ回り、氷の矢を放ちながら、刻一刻とタバサの敗北―――魔力切れは近づいていた。


だが。
先に膝をついたのはタバサではなく男の方であった。

「ば、馬鹿な……身体が……うごか……」
「これで、最後」

動けなくなった男に対し距離をとって宣言するタバサの前に浮かぶ氷の槍が、その詠唱に合わせて大きく、より凶悪に育ってゆく。
アイス・ジャベリン。
『雪風』の得意とする風の魔術の中でも、強力な攻撃魔術。

「なにをし……なにをしたのです……シャル……ロット様!」
「人間は低温に弱い。体温がわずか4度下がっただけで生命活動にすら支障をきたす。
 貴方の鎧には断熱の効果も多少あるけれど、あれだけのウィンディ・アイシクルを受ければ温度が下がる
 ―――今の貴方の冷え切った鎧は、貴方の身体を凍らせる氷の棺も同然」

めずらしく饒舌に、タバサはかつての師匠に言った。

「貫けない鎧なら、貫かずに倒す方法を考える。貴方がかつて私に教えた戦い方の一つ」
「……クッ……クククッ……くはははははは! お見事! お見事ですシャルロット様、いや北花壇騎士7号!
 貴方は最早私などより数段上の殺人者として完成されていた! 素晴らしい! 実に素晴らしいですよ!!」
「殺しはしない。このまま昏睡してもらう」

ジャベリンですら『石礫』の外骨格は貫けないだろう。
ここから更に体温を低下させ、意識を失った所で学園からここまでタバサを送迎してきた竜騎士を呼んで牢獄にでも運べば良い。
そのためのジャベリンを放つタバサ。

「では優秀な生徒に最後のはなむけを贈りましょう7号。良く見ておきなさい!!」

迫り来る槍を前に、男は自ら魔術を解除した。
むき出しにされた生身に突き刺さる氷塊は、分厚い胸板を貫通し、大量の血液を飛び散らせ、凍て付かせながら大穴を開ける。

「!?」
「こ……れが、北花壇……騎士の……誇り無き殺し屋の……末路……貴方もいずれ……こうなるのです……7号……あはは……ははははは…………」

逆流した鮮血を口から吐き出し、凄惨な笑みを浮かべて『石礫』のオージュは事切れた。
流石に顔色を失うタバサ。白い残雪の上に広がってゆく真紅。

覚悟は出来ている。
父を殺し母を狂わせた者達の首を尽く落とし、母を狂気から救い出す。
それさえ叶えば、自分がどんな無残に死のうともかまわないと、そう誓ったのだ。
だから、今更恐くなど無い。恐くないと決めた。

ブルリと震える自分の肩を、ぬくもりを求めるように強く掴んで、タバサはしばし死体の前に立ち尽くす。
抱きしめてくれる誰かなど、求めていないと自分に言い聞かせながら。



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