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フーケのガンパレード 2

杖を振るって作り出したゴーレムで向かってくるガーゴイルの攻撃を受け止め、
フーケは音高く舌打ちをした。
ついてない。まったくついてない。
ここまでは順調だった。
内乱中の為に警備兵の数も少なく、抜け道から宝物庫へ抜けるのも容易にできた。。
誰にも見つからぬはずだった。
妹分の訓練にはちょうどいいと思っていた。
なぜならここは、この屋敷は幼い日の自分たちの遊び場だったのだから。
歯軋りと共に苛立たしげな叫びが洩れる。

「なんだってこんなとこにいるのさ――――ミョズニトニルン!」



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怖い。
怖い。
怖くて堪らない。
目深に被ったフードに顔を隠し、ティファニアは震える唇をかみ締めた。
ともすればそらしがちな目を無理やり前に向かせる。
ここで目をそらすことなど出来ない。
目をつぶることなど出来ない。
だってマチルダ姉さんは、ずっとこんな世界で戦ってきたのだから。
汗ばむ手をローブで拭き、杖を握りなおす。
今までわたしたちのために、何も言わずに泥を被ってきてくれた姉さんのために、
わたしがここで逃げることなんて出来はしない。
自分は今まで何も知らなかった。
知ろうとも思ってなかった。
貴族でなくなったマチルダ姉さんがわたしたちのために送ってくれたお金を、
どうやって稼いでいたかなんて。
今まで迷惑をかけていてごめんなさいと謝ったわたしに、姉さんは言った。

「わたしは土くれのフーケだからね。泥を被るのがお似合いさ」

なんでもないことのように笑う姉さんを見ながら、思ったのだ。
マチルダ姉さんのように、強くなりたいと。



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新たなガーゴイルに命令を下しながら、シェフィールドはにやりと笑った。
敵はどうやらトライアングルクラスのメイジらしいが、戦う場所が悪かった。
なぜならここはシティオブサウスゴータの宝物庫なのだから。
全てのマジックアイテムを意のままに操る力を持った彼女にとっては自分の庭も同然の場所だった。
ふふん、と鼻を鳴らして唇を舐める。
自分の勝利を信じて疑わない顔だった。
さてそうなると気になるのは相手の素性である。
気位だけ高い貴族派の連中が内乱の最中に宝を盗むなんて真似をするとはとは思えないし、
王党派の連中にそんな余力がある筈もない。
と言うことは、目の前のゴーレム使いはそのどちらにも属していない第三勢力、つまりは宝目当ての盗賊だろう。
だがなかなかどうして、メイジ崩れの盗賊にしてはやけに手馴れているじゃないか。
ゴーレムの使い方といい、的確な状況判断といい。
これは、いっそ手駒に引き込んだ方がいいかもしれないねぇ。

「ちょいと、そこのあんた! 
 勝ち目はないってそろそろ解ってるんだろう!?
 さっさと降伏しちまいな!」

それは過信ではなく、ある意味事実である。
マジックアイテムを好き放題に使えるシェフィールドと、己が精神力で魔法を使うメイジ。
精神力に限りがある以上、持久戦になればメイジに勝ち目はなかった。
もっとも相手がそれを理解しているかどうかは疑わしい。
だがシェフィールドはこれほどの腕前の者が情勢を理解していないとは思わなかったし、
もし理解せずに戦闘を続けるのなら容赦なく殺すつもりだった。
ガーゴイルに攻撃を止めさせて声を上げる。

「あんたほどの凄腕を殺すにゃ惜しい。
 もしよければあたしの部下にならないかい?
 誰かに雇われてるってんなら、その十倍は出すよ!」

一瞬の間が空き、杖が床に転がる音がした。



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土くれのフーケ、と言うのがマチルダ姉さんの名前だったらしい。
貴族を専門に襲う盗賊。捕まれば縛り首は間違いない大悪人。
数日前、いきなりやってきた姉さんが教えてくれた。
姉さんが、悪人だってこと。
わたしが、虚無の魔法の担い手だってこと。

「人間の伝承で言えば、“四つの四が揃ったとき、「始祖の虚無」が復活する”
 エルフの伝説なら、“四つの悪魔が揃いしとき真の悪魔は目覚め、大災厄をもたらす”
 解るかい、ティファニア。あんたはこれから、いろんな連中に狙われることになる。
 その時になってからじゃ遅いんだよ」
「こんなできそこないのわたしが、伝説? いやね、姉さん。冗談が上手いわ」
「冗談なんかじゃないさ。全てを失くしたその時に、それはその者の胸に燦然と輝きだす。
 ゼロと呼ばれた少女には介添え役がついた。無能と呼ばれた男は世界を敵にした闘争を開始した。
 ティファニア、今度はあんたが選ぶ番さ」

そう言い切る姉さんの目は真剣で、冗談や嘘の欠片も見えなかった。
わたしはごくりと自分の喉が鳴るのを感じた。

「わたしが、選ぶの?」
「そうだよ。何も知らない振りをして、その時が来るまで子供たちと暮らすのか。
 それとも、虚無の担い手として杖を手に取るか」

何も言えないわたしに、姉さんは悲しそうに微笑んだ。

「ひどいことを言ってるのは解ってるよ。
 あんたは戦いなんて向いてない。
 けどね、わたしがいつもあんたを守ってやれればいいんだけど、
 正直その自信もなくてね」

解らなかった。
なぜ、わたしや姉さんが戦わないといけないのか。
そんなもの、貴族や騎士さまに任せておけばいいのに。
わたしの知っている姉さんは、戦いなんて出来る人じゃないのに。

「一人の女の子と会ったのさ」

杯を掲げ、何かに捧げるように姉さんは言った。

「どこにでもいるような子だった。
 貴族に生まれなければ、幸せになれただろう子だった。
 貴族に生まれても、それを意識しなければ幸せでいただろう子だった」
「それ?」

姉さんは黙って自分の胸を叩いた。
大事なものはそこにあるのだと態度で示すかのように。

「その子はいつも一人で、胸を張って、嘘をつくのさ。
 貴族として生まれる人なんて誰もいない。
 人は自分の意思で貴族になるんだって。
 何が彼女にあったのか、そこまでは知らない。
 けれどわたしの知ってるその子は、きっと決めたのさ。
 泣くのはやめた。戦おうと」

胸の奥がざわついた。
姉さんの語るその女の子。
まだ会ったことのないその子が気になった。
わたしの知らない姉さんを知っているその子が。
姉さんを変えてしまったのだろうその子が。

「だからって、姉さんが危ないことをする必要はないじゃないの」
「必要なのさ。
 誰かがそれをする必要がある。そしてわたしはそれを知った。
 だからわたしも決めたのさ。戦おうってね」

そして姉さんは目を細め、睦言のようにわたしに囁いた。

「それにね、ここで逃げれば世界が滅ぶ。
 それだけの力があるのさ。あの聖地、“彼のもの”の遺跡にはね」



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物陰から出てきた姿を見て、シェフィールドは目を細めた。
宝物庫に忍び込んできたからには盗賊だろうし、ならば男だと思っていたのだが、
まさか女だとは思っていなかったのだ。

「土のメイジで盗賊。まさか、“土くれのフーケ”かい?」
「答える必要はないね」

その女は胸を張ってそう言った。
その後ろにはもう一人の人影と、その手に持った杖が見えた。

「自慢じゃないが、わたしは高いよ。
 ついでに言えば、今の報酬は金じゃない。
 あんたとその主人にそれが払えるかい?」
「ふぅん? 
 さすがメイジ、金じゃ動かないってかい。
 じゃあ一体何なら動くってのさ」

女は懐から布袋を取り出すと、そっと口元を覆うようにして口を開く。

「誇りさ」

答えは簡潔で、何の迷いもなく、そして何より力強かった。
全ての悲しい現実と理不尽をふみ砕いて、その女は堂々とその言葉を口にした。

「人としての誇りさ。
 本物の悪党より小悪党を選ぶ権利をわたしは貰った。
 そしてそれで充分だ」

次の瞬間、風が吹いた。
素手で一体目のガーゴイルを破壊し、二体目を投げ飛ばし、三体目を吹き飛ばして獰猛な笑みを浮かべる。

「貴様――――!?」
「魔法だけに頼ってると、そういうことが良くある。
 呪文よりも剣が、詠唱よりも拳が早いことを忘れる。
 戦うのは、魔法を使うのは、いつだってただの人間なのさ」

宝物庫だけあって魔法人形の数には事欠かない。
しかし、シェフィールドが全力で操るそれらの攻撃を、
その女は鮮やかに回避してのけた。

「……ベルカナ・マン・ラグー……!」

後ろから現れた人影が杖を振るう。
女に攻撃をしかけようとしたガーゴイルが、
まるで何をすべきか解らなくなったように攻撃を止めるのを見て、
シェフィールドは驚愕に顔を引きつらせた。
ミョズニトニルンである自分の力を阻害できる魔法など系統魔法には存在しない。

「まさか……!?

四大の系統にはない魔法の使い手と、それを守るかのように戦う女。
素手でガーゴイルを砕き、およそ常人とは思えぬ力を見せるその姿。
彼女はそれに心あたりがあった。
そんなことが出来る存在を知っていた。

「貴様、まさか――――ガンダールヴかっ!?」

背中を冷たい汗が伝った。



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「出来た……!」

震える手で杖を握り締め、ティファニアは笑った。
こんな自分でも、姉の役に立てた。
姉を守ることが出来た。
何かを変えることが出来たのだ。

「それは、一人の少女が、諦める事を止めた物語」

ガーゴイルを打ち砕きながらフーケが口を開いた。

「それは夜の最奥で、闇の最果てで、我こそ最後と謳う歌。
 それは悲しみが深ければ深いほど、絶望が濃ければ濃いほど、心の中から沸き上がる反逆の誓い」

手から放たれた布袋が流星のごとくに宙を駆け、出現しようとしていた魔法人形を三体まとめて打ち砕く。

「それは、夜が暗ければ暗いほど、闇が深ければ深いほど、燦然と輝く一条の光。
 野望に魅入られし者よ、世界の敵よ。お前たちと戦うべき星がまた一つ産まれたぞ」



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ガーゴイルで女を牽制しながらシェフィールドは床に転がったそれに近づいた。
女の手から放たれ、三体のガーゴイルをいとも容易く破壊したそれ。
そう言えば、先ほどあの女はこれで口元を覆うようにしていたし、
その後から超人的な力を奮うようになった。
あるいはこれは何らかの力を持つマジックアイテムなのかもしれない。
ならばそれを使えばあの女に勝つことも出来るかもしれない。
呪いが掛かっているのではと言う懸念は頭に浮かばなかった。
なぜなら彼女はミョズニトニルン。
全てのマジックアイテムを支配する虚無の使い魔なのだから。
触れた手にぬちゃりと奇妙な感触が伝わった。
嫌な予感を押し殺して意識を集中し、額のルーンを発動させる。
そしてそれがいったい何なのかを理解した瞬間、
彼女は妙齢の女性に相応しい行動を図らずも取ってしまった。
すなわち。

「――――――――!!??」

生理的嫌悪感から声にならない悲鳴をあげて気絶したのである。



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「目には目を歯には歯を、伝説には伝説をってね。
 伝説の使い魔も、伝説の一年靴下には敵わなかったみたいだねぇ」
「――――マチルダ姉さん、いろいろと台無しです」



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壁面に署名を残しながら、フーケはそっと息をついた。
結果が全てとはいえ、今回は綱渡りの連続だった。
担い手として杖を取ることを決めたティファニアを今回の仕事に同行させたのにはいろいろと理由がある。
一つ目は、内乱中のために警備の兵が少ないであろうこと。
二つ目は、場所がフーケの、いやマチルダ・オブ・サウスゴータの実家である屋敷であり、抜け道を熟知していたこと。
三つ目の、一番大きな理由は、可愛い妹分にとって親の形見とも言うべき品物を渡してやりたいと思ったことだった。
だがまさか虚無の使い魔がその場所にいることまではさすがに思っても見なかったのだが。
ついでに言えば、ガンダールヴと勘違いされることも予想外だったのだが。
おそらく無能王がここに使い魔を派遣したのは自分たちと同じモノを手に入れるためだろう。
だとすれば、それを奪われなかっただけでも僥倖とするべきではあった。
やれやれと思いつつ、先ほどの会話を思い出して頬を緩ませる。
気絶したミョズニトニルンを殺そうとしたフーケにティファニアは言ったのだ。
殺したくない、記憶を奪うだけにしましょうと。
それでは禍根を残すよと言うフーケに、妹分は少し考えると口を開いた。

「じゃあ記憶と、担い手に対する忠誠心を消しましょう。
 担い手が悪人ならその下から逃げるでしょうし。
 そうじゃなかったら、この人たちはわたしたちの敵じゃないってことですよね?」

ため息をつきながらそれを受け入れた。
この少女には、ミョズニトニルン自体が悪人だったらなどということは考え付きもしないのだろう。
それは確かに甘い考えではあるかもしれないが、それでもフーケはそれを愛しく感じていた。
それは間違いなのかもしれないが、それでもフーケはその間違いを正そうとは思わなかった。
なぜなら、天は誰も泣くことを望んでいないのだから。
犠牲が少なければ少ないほどいい筈だった。

「マチルダ姉さん」
「ん? 見つかったのかい?」

振り返り、妹分の手に持たれた小さなそれを見つめる。

「ええ。これがそうです。今はわたしにも何も聞こえませんけど、間違いありません」
「ああ、指輪が必要なんだっけねぇ」

めんどくさい、と舌打ちをする。
ここに指輪がないということは、すでにアルビオン王家の指輪は王城に運ばれたという事なのだろう。
さすがに包囲された王城に二人だけで忍び込む気はフーケにもない。
もし発見された時はティファニアの身柄が危ない。
すると後残るは、

「ガリア、ロマリア、トリステイン……か。一度、学院に戻った方がいいのかねぇ?」

ガリアの指輪は無能王の下にあるだろうし、ロマリアの指輪は現在行方不明になっている。
すると残るはトリステインだが、と考えたところであることに気づいた。

「ガリア……それに、虚無……か」
「姉さん?」
「ん? なんでもないよ。さて、行くとするかね」

一歩引いて署名を確認するとマントを翻して踵を返した。
横に並んだティファニアが、未だ気絶しているミョズニトニルンにお辞儀するのを苦笑して眺める。
マントまでかけてやって、本当に優しい子だよあんたは。
二人が去った後には、ただ静かに壁面の署名が眠れる虚無の使い魔を見下ろしていた。

『始祖のオルゴール、確かに領収いたしました。

                     ――――土くれのフーケ』



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