あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 07


 ターミネーターに話しかけたメイドは、名をシエスタと言った。
 この世界では珍しい黒髪と黒い瞳、少しだけ低い鼻にそばかすをもつ、やや黄色系統の顔立ち。
 使用人という立場からわかるように平民の少女であり、学院に住み込みで働いている、健気な少女だった。

 シエスタが何時ものように、仕事として貴族達に食事等を運んでいる最中、
 ふと、見慣れない男の姿が眼の端に止まった。
 黒光りする見たことのない服を身に付け、何をするわけでもなくただ壁と平行に立つ大男。
 彼の眼は、一つの方向を食い入るようにじっと見つめている。
 なんとなく様子が気になったシエスタは、食器を積んだトレイを持つ手を止め、彼が見つめる先へと目線を泳がせてみた。

 その先にいたのはミス・ヴァリエール。
 使用人たちの間でもひそかな噂のタネとなっている、『ゼロのルイズ』であった。

 一瞬シエスタは驚き。そして、納得した。

 彼が噂の――





 ――平民の使い魔である、と。





 『ミス・ヴァリエールが平民の男を召喚した』

 これは先日の夜、床に付こうとしたシエスタの耳に同僚が飛び込ませたニュースだった。
 元々限られた範囲の学院の上、悔しくも貴族に奉仕する平民であるが故なのか、
 彼女ら使用人の結束は貴族たちの知る由もないところで非常に固くなっており、特に噂などの立ち回りは異様に早かった。
 ましてや、噂の主は彼女らの間でも笑い――憂さ晴らし――の際、必ず話しが出てくる『ゼロのルイズ』。
 公爵家の生まれながら、魔法を使えない貴族。笑い話憂さ晴らしにはもってこいの人物だ。
 そういうわけで、昼に起こった『事故』は、何時も以上の広まりの早さをみせているようである。
 ただ、シエスタは性格上そういう話はするのも聞くのも嫌いなため、
 適当に相打ちをうって一応話だけ聞き、そのときは可哀想とだけ思ってさっさと眠りに付いた。
 そのためなのか、朝目覚めたときには完全に忘れていた事だった。

 ……だが、こうして遠巻きながらに実物を見ると、心の底から可哀想だと同情できる。

 あの時は人事のようにも感じたし、だいたい噂自体がデマだと思っていた。
 魔法の歴史なんて良く知らないけど、今まで見てきた使い魔と呼ばれるものに、人はいなかったから。
 でも、彼は人。それも、同じ平民なのだ。
 しかも、彼は「召喚された」のだ、貴族によって。
 奉仕する事が仕事である以上、貴族らに接することはシエスタに限らず使用人一同には多いこと。 
 それだけでも彼等の自分勝手な振る舞いや、理不尽な言いつけに度々遭遇して心が苦しめられるというのに、
 彼はそのうちの一人と『常』に行動を共にしなければならないなど、聞くだけで心が絞められる。

 それなのに、食事においてもおそらくは貧相な食事を強いられ、人としての扱いさえされていないのだろう。
 あそこにただじっと立っているのは、そのとき文句でも言って罰を受けたように見える。
 それなのに、彼は自分の主人から片時も眼を離すことなく、切実に見守っている。
 なんと哀れな事だろうか。

(出来る限り……協力してあげよう!) 

 心の中でこぶしを握り、シエスタは早足で手(トレイ)を動かした。
 思いを決めたら行動は早い、これは彼女の長所だった。



「――――!」

 ほどなくして彼に近づいたとき、だんだんはっきりしてきた彼の身体を見て、
 思わず目を疑ぐらせ、驚いた。

 平民と言えば力の劣るもの、何事においても弱者が一番ぴったりな言葉だ。
 そのはずが、この目線の先にどっしりと佇む彼は、そのイメージから大きく逸脱している。
 平均を大きく超えた上背に、服の上からでもわかる体の筋肉の太さ。
 がっしりとした体格に見合ういかつい顔、しっかり整えられた鼻はよくもわるくもハンサムだ。
 深くくぼんだ真摯な目は、相対する全てを射抜くように鋭い光っている。
 あまりにもかけ離れていた風貌に、とてもただの平民には思えなかった。
 が、彼の手にはメイジを象徴する杖も無く、傭兵を象徴する武器――剣も縦も斧も槍も鎚も、何も持っていない。
 すぐ横にいるにもかかわらず自分に気づいていないのか、彼は視線をピクリとも動かさない。

(やはり、どんなに怖くて変わっていても、私たちと同じ平民なのね……)

 眼を瞑り、心の中で再度こぶしを握ると勇気を出して話しかけた。

「…………」

 無言で、彼のじろりとした目がこちらを見たとき、故郷で獣に遭遇した時のように体が震えた。
 彼はじっとこちらを見つめている、本能的に身体が震えた。

 近くで見て解った。

 あの威圧感は、黒尽くめの格好や身体の大きさから感じとるのもあるかもしれない。と、
 だけど、違う。本当の原因は、今自分を見つめる綺麗なその瞳にこそある! と。

 人としての――、
 綺麗だけれど――、
 まるで生気を灯していない――、
 ――ガラス玉のような眼にこそ根源的な恐怖を感じた。 

 そう、あれは静けさや温厚さを佇ませている様にも見えるけど、そっくりだ。
 平民を愚者として見、奴隷としか考えていない貴族達の冷たい瞳に。 
 見詰め合ったまま緊急停止した2人の合間を、時間だけが過ぎた。
 ターミネーターはともかくとして、すくなくともシエスタの中では長い時間が過ぎていた。



 震えた声で再度話題を切り出したのはシエスタだった。
 だが、一生懸命考えた話は即座に……一度として弾むことなく終わりを告げる。

 ただ、淡々とその言葉の意味をシエスタは理解し兼ねた。

(食性が必要ない――って、どういうことなんだろう……?)

 答えは解らなかった。
 尋ねようとしたところでミス・ヴァリエールの彼を呼ぶ声が飛んできたから。
 『ターミネーター』とミス・ヴァリエールは彼を呼んだ。変な名前だと思ったけど、
 彼が何の文句も無く声に反応したので、どうやら本当に彼の本名らしい。

 遠ざかる彼の後姿、小柄なミス・ヴァリエールの後ろを歩幅をあわせて歩く姿を
 半分、シエスタはなんだかほほえましく思った。
 そして、残りの半分。
 心のどこかでターミネーターと言う名の平民が遠ざかることに、ホッとしていた。



 染めたわけでなく、生まれ着いてさらさらの金髪に少し巻きを加え、
 造花のバラを胸ポケットに携えた“いかにも”貴族らしい佇まいの一人の少年がいる。

 少年の名はギーシュ。
 軍家としての名門、『グラモン』の血を継ぐ少しキザなドットクラスのメイジだ。
 彼は今、左右を挟むようにして歩いている友人たちとともに、今誰と付き合っているのか?
 という至極お年頃の話題に花を咲かせている……のだが、
 友人たちはともかく、話の主役であるはずの彼の表情は少しばかり曇りがかっていた。

「なぁなぁなぁなぁギーシュ、なぁ。いい加減教えてくれよ~」 
「そーだ、僕たち友達じゃないのか? 教えてくれたって減るもんじゃないぜ」

 けたけたと笑う両人。ギーシュはふっとキザに微笑むと、言った。

「残念だけど、君たちに教える事は出来ないね。僕は全ての女性の為にいるんだから。
 しいて言うなら……『この世の全ての女性』だね」

 両人は茶化したように乾いた拍手を送ると、ギーシュは表面上すかした顔でそれに答えた。
 それでも、何度も言うように彼の胸中には薄暗い雲が掛かっているように、穏やかではなかった。
(くそっ! はやく別の話題に切り替えろよこいつら!
 せっかく理想的なうそ(ある意味本当)までついてやったのに、
 この二人、いつまでたっても話題から離れようとしない。イライラするな、全く!)
むしろしつこさに怒りが湧き、文句ばかりが思いついた。
 本当はこの場で罵声でも吐き出してスッキリしたいが、いかんせん人が多い。
 仮にこの2人に叫んでにしろ、嫌味をっぽく言うにしろ、それで僕に対する評価――すなわち、
 『グラモン家の名』を下げるような事があってはならない。

                 【命を惜しむな名を惜しめ】

 たとえこんな僕であろうと『グラモンの名』を下げるような事があれば、それは許される事ではないのだ。
 と……まぁそれも勿論あったのだが、この話題で怒るべきところはもっと別の部分にあったりする。


 彼が友人たちを何とかしようとおもいつつ、話に乗せられて大げさに振り返ったとき、
 半分ほど液体の入った小瓶が一つ、ポケットからポトリと落ちた。



「ねぇ」 

 道中、己が主からの突然の呼びかけに、ターミネーターはピタリとその足を止めた。

「なんだ」

 返す言葉は淡々と、感情など無く送る。

「さっきあのメイドと何話してたの?」

 対するルイズは何が苛立つのか、ターミネーターに対してやや声に重さがあった。
 苛立ちか……怒りかによって生み出されたであろう、感情の篭った声である。
 だが、ターミネーターは言うまでも無く、人間に対する詳しい感情理論を備えていない。
 簡単な感情、喜・怒・哀・楽の仕組み――特に『哀』に関してはやや高度な理論を備えている――なら大体理解る、
 しかし、人の感情とはスーパーコンピュータ並に複雑で、しかもその変化幅や組み合わせは極端なものが多い。  
 それに、少なくともこのT-800型は【感情】や【思念】といった不合理で愚かしい錯覚は持たないし、
 あっても何の意味も無いのだ。
 彼が生涯をかけて成すべき事は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』を護る、
 ただそれだけなのだから。

 今のところ。



 だから、己がルイズの怒りの原因が簡単な嫉妬だと言う事に気付かない。
 乙女心はスーパーコンピュータより、有る意味複雑なのだ。

「彼女は俺に食性が必要か尋ねた」

 正直に、ありのままを話す。
 ルイズは初めこそ信用していない目つきだったが、昨日と今日の僅かな時間を通して、
 この男は素直に物事を話すヤツだと、自分の命に逆らう様子も無いことを通して解っていた。
 まぁ、その眼だけは何を考えているのかわからないけれど、少なくとも顔つきは真面目だし、ね。


 再び歩き出した直後、すぐ後ろから『バリッ!』という何かを踏み割ったような音が、耳に届いた。



 ターミネーターを見送った僅か数分後、デザートの乗ったトレイを両手に、シエスタは頭を抱えていた。
 もちろん体はそこまでしていない、両手を含め、前進がむしろ石化したようにカチコチになっているのだが、
 心の中ではもう一人の自分的なものが具現化し、頭を抱えている。

 そしてようやく、「あぶない!」……そう思ったなら早めに言ってやればよかったと、シエスタは後悔した。
 自分の長所とも言える部分を発揮できなかったのは悔しいけど、それ以上に目の前で起こった惨事を
 間近で見ていながら止める事が出来なかった勇気の無さに顔を憂色させる。  


 目の前では、一人の貴族がターミネーターに向かって声を荒げて突っかかっていた。


新着情報

取得中です。