のどかな田園風景の中を、ガタゴトと馬車に揺られてはや3日。気分がドナドナだったのはすでに過去の話。こうまで長時間馬車に
乗っていると無我の境地に達してくるから不思議だ。ライダーズ・ハイとでもいえば良いのだろうか?
ま、それでも一緒にきゃわゆい女の子でも乗っていれば話は別だろう。うふうふあはは胸が当たってます当ててんのよの世界が展
開されて、いっそ目的地に着く必要はないと感じるだろう。
しかし、残念だが現実は非情である。同乗しているのはおっさんであった。しかも変な仮面をかぶっているやつに、モノクルを嵌めた
オッサンだ。馬車のドアを開ければオッサン臭が周囲5kmを汚染しそうではないか。
「いつになったらつくんだろうか?」
心の底から嫌気が差したという感じで、げんなりしたバビル2世が呟く。魔法学院を出てすでに2日目の朝を迎えていた。そろそろラ・
ヴァリエール家の領地に入るらしいのだが、一向にそんな気配はない。進んでも進んでも終わりが見えない。どれだけ離れているんだ
ろうか。
「ラ・ヴァリエール家はトリステインでは名門中の名門。私が予想しますに、おそらく領地に入ってもまだかかるでしょう。」
しれっと残月が言う。全く疲弊した様子がない。よく考えたらこいつはやんごとなき、一国の皇太子。こんな領地を持つ貴族とも付き
合いがあったはずだ。慣れているのだろう。というか、あるいはこういう領地を持っていたやつなのかもしれない。くそ、ブルジョワめ。
バビル2世は後部窓の外をぼんやりと眺める。仰々しい形をした馬車が見える。いかにも金持ちが乗っています、という雰囲気だ。
バビル2世立ちの馬車より一回り大きい、二頭立てのご立派なブルームスタイルの馬車だ。
何を隠そう、この馬車こそ、トリステイン有数の名門貴族、ラ・ヴァリエール家のものなのだった。うわー、おでれーた。
たぶん自動車で言うならロールスロイスやベンツに相当するものなのだろう。造りからしてどっしりと重量感があり、並大抵のことで
は壊れそうにない。いたるところに透かし彫り浮き彫りといった彫刻が施され、いわば動く美術品といった雰囲気だ。
ちょっと中も覗いてみよう。
なんということでしょう。中は外にも増して豪華だ。これ一つで家が建つんじゃね?という雰囲気の宝玉がちりばめられ、いかにも高
いですと主張する絵や皿、金銀細工がところ狭しと飾られている。それだけあればもうちょっと中が狭苦しそうなものだが、むしろ逆。
居住性は最新式のRV車に勝るとも劣らない。
その中にいるのは当然ルイズだ。おや、おや、おや?だがいつもと様子が違うぞ。
「まったくあなたが勝手なことをして!戦争?あなたが行ってどうするの!」
見事なブロンドの女性がルイズを叱りつけているではないですか。どことなく顔立ちがルイズに似ている。ただし、顔のつくりはルイ
ズを3割り増しできつくしたという感じだ。ルイズの強気部分を煮詰めて、成長させたらこんな顔になる気がする。美人といえば美人だ
が、あまり傍にいて欲しくないタイプの美人だ。
この、どう見てもルイズの血縁者な女性こそ、ルイズが絶対に頭の上がらない4人の1人、長姉エレオノールである。ルイズより11歳
年上の長女は、男勝りの気性と王立魔法研究所アカデミーの優秀な研究員として知られている。
「いいこと?しっかりお母様とお父様に叱ってもらいますからね!」
お母様、という単語を聞いてルイズがビクッと身を縮める。しかし、健気にも、
「で、でも……」
と言い返そうとする。だがしかし、無駄な抵抗といわんばかりに頬をつねられる。
「でも?『上の口から糞を垂れ流す前と後ろにイエス、マムをつけろ』といったでしょ、おちび!おちびルイズ!」
完全にルイズを子ども扱いするエレオノール。ルイズはまったく逆らうことができずに、
「ふぇ、うぇ、あだ、あねさま、ほっぺあいだだ……あぅ……」
と、情けない声をあげるのであった。
さて、魅惑の妖精亭で働いていたはずのルイズがなぜこんなところに?と疑問をもたれるだろう。
話は遡って2週間ほど前。何十年かぶりに、遠征軍が編成されることとなったのである。向かう先はもちろんアルビオン。正式な布告
は先だが貴族階級には様子を見る目的もあり、あらかじめ仮の段階で布告されたのである。税率の上昇に伴い落ちていく王女アンリ
エッタへの支持率と、上っていく厭戦気分。ここで「やりまっせ」と布告することで、消えかかっている戦争へのエネルギーを与えようと
いう思惑があっての仮布告であった。
当然、情報収集活動中のルイズにもその情報はもたらされた。急遽活動を中止しするようにとの伝書フクロウがやってきて、かわっ
て侵攻作戦にあたり特別任務が与えられた。
意気揚々とルイズは店をやめ、実家に『祖国のため、王軍の一員として白伐に加わります。』と報告したのだ。白伐、白の国アルビ
オンを占領した不忠者を伐つという意味で、今回の遠征につけられた名前だ。そのいかにも自分たちは正義の軍隊であることを示す
名称から、多数の人間が好んで使うようになった名称だ。
ルイズの手紙に、実家は激怒した。「従軍はまかりならぬ」という手紙が届き、無視をしたらエレオノールがやってきた。
当然といえば当然なのだ。ヴァリエール家はルイズが虚無の使い手であることを知らないのだから、お前が行ってなんになるんだ、
と思うのはあったり前田のクラッカーなのだった。いや、そもそもヴァリエール家は、白伐自体に反対の姿勢をとっているのだった。
そんなこんなでルイズを説得すべく、というか拉致すべく、エレオノールが学院にやってきたのは一昨日の朝であった。ちょうど酒場
から撤収し、学院に戻ったばかりのルイズはほとんど寝る間もなくたたき起こされた。
ルイズを馬車に押し込めたエレオノールは、使い魔がいると聞いてバビル2世を呼び出した。なにごとかと出てきたバビル2世を学院
に用意させた従者用の馬車に押し込み、さらに「従者が1人では格好がつかない」と思わずおっぱいに見とれていた残月をも馬車に放
りこんだのだった。もうちょっと人選をしろ、と言いたい。
さらに「バトラーっぽい」という理由でアルベルトも捕まった。たしかに執事といわれればそうだが、こんなにド迫力のある執事などい
るのだろうか?こんなのに出迎えられたらあまりの衝撃にぶっ倒れるかもしれない。
そんなわけでルイズと愉快な仲間たちは、誘拐同然にヴァリエール家へと帰省とあいなったったった。
乗っていると無我の境地に達してくるから不思議だ。ライダーズ・ハイとでもいえば良いのだろうか?
ま、それでも一緒にきゃわゆい女の子でも乗っていれば話は別だろう。うふうふあはは胸が当たってます当ててんのよの世界が展
開されて、いっそ目的地に着く必要はないと感じるだろう。
しかし、残念だが現実は非情である。同乗しているのはおっさんであった。しかも変な仮面をかぶっているやつに、モノクルを嵌めた
オッサンだ。馬車のドアを開ければオッサン臭が周囲5kmを汚染しそうではないか。
「いつになったらつくんだろうか?」
心の底から嫌気が差したという感じで、げんなりしたバビル2世が呟く。魔法学院を出てすでに2日目の朝を迎えていた。そろそろラ・
ヴァリエール家の領地に入るらしいのだが、一向にそんな気配はない。進んでも進んでも終わりが見えない。どれだけ離れているんだ
ろうか。
「ラ・ヴァリエール家はトリステインでは名門中の名門。私が予想しますに、おそらく領地に入ってもまだかかるでしょう。」
しれっと残月が言う。全く疲弊した様子がない。よく考えたらこいつはやんごとなき、一国の皇太子。こんな領地を持つ貴族とも付き
合いがあったはずだ。慣れているのだろう。というか、あるいはこういう領地を持っていたやつなのかもしれない。くそ、ブルジョワめ。
バビル2世は後部窓の外をぼんやりと眺める。仰々しい形をした馬車が見える。いかにも金持ちが乗っています、という雰囲気だ。
バビル2世立ちの馬車より一回り大きい、二頭立てのご立派なブルームスタイルの馬車だ。
何を隠そう、この馬車こそ、トリステイン有数の名門貴族、ラ・ヴァリエール家のものなのだった。うわー、おでれーた。
たぶん自動車で言うならロールスロイスやベンツに相当するものなのだろう。造りからしてどっしりと重量感があり、並大抵のことで
は壊れそうにない。いたるところに透かし彫り浮き彫りといった彫刻が施され、いわば動く美術品といった雰囲気だ。
ちょっと中も覗いてみよう。
なんということでしょう。中は外にも増して豪華だ。これ一つで家が建つんじゃね?という雰囲気の宝玉がちりばめられ、いかにも高
いですと主張する絵や皿、金銀細工がところ狭しと飾られている。それだけあればもうちょっと中が狭苦しそうなものだが、むしろ逆。
居住性は最新式のRV車に勝るとも劣らない。
その中にいるのは当然ルイズだ。おや、おや、おや?だがいつもと様子が違うぞ。
「まったくあなたが勝手なことをして!戦争?あなたが行ってどうするの!」
見事なブロンドの女性がルイズを叱りつけているではないですか。どことなく顔立ちがルイズに似ている。ただし、顔のつくりはルイ
ズを3割り増しできつくしたという感じだ。ルイズの強気部分を煮詰めて、成長させたらこんな顔になる気がする。美人といえば美人だ
が、あまり傍にいて欲しくないタイプの美人だ。
この、どう見てもルイズの血縁者な女性こそ、ルイズが絶対に頭の上がらない4人の1人、長姉エレオノールである。ルイズより11歳
年上の長女は、男勝りの気性と王立魔法研究所アカデミーの優秀な研究員として知られている。
「いいこと?しっかりお母様とお父様に叱ってもらいますからね!」
お母様、という単語を聞いてルイズがビクッと身を縮める。しかし、健気にも、
「で、でも……」
と言い返そうとする。だがしかし、無駄な抵抗といわんばかりに頬をつねられる。
「でも?『上の口から糞を垂れ流す前と後ろにイエス、マムをつけろ』といったでしょ、おちび!おちびルイズ!」
完全にルイズを子ども扱いするエレオノール。ルイズはまったく逆らうことができずに、
「ふぇ、うぇ、あだ、あねさま、ほっぺあいだだ……あぅ……」
と、情けない声をあげるのであった。
さて、魅惑の妖精亭で働いていたはずのルイズがなぜこんなところに?と疑問をもたれるだろう。
話は遡って2週間ほど前。何十年かぶりに、遠征軍が編成されることとなったのである。向かう先はもちろんアルビオン。正式な布告
は先だが貴族階級には様子を見る目的もあり、あらかじめ仮の段階で布告されたのである。税率の上昇に伴い落ちていく王女アンリ
エッタへの支持率と、上っていく厭戦気分。ここで「やりまっせ」と布告することで、消えかかっている戦争へのエネルギーを与えようと
いう思惑があっての仮布告であった。
当然、情報収集活動中のルイズにもその情報はもたらされた。急遽活動を中止しするようにとの伝書フクロウがやってきて、かわっ
て侵攻作戦にあたり特別任務が与えられた。
意気揚々とルイズは店をやめ、実家に『祖国のため、王軍の一員として白伐に加わります。』と報告したのだ。白伐、白の国アルビ
オンを占領した不忠者を伐つという意味で、今回の遠征につけられた名前だ。そのいかにも自分たちは正義の軍隊であることを示す
名称から、多数の人間が好んで使うようになった名称だ。
ルイズの手紙に、実家は激怒した。「従軍はまかりならぬ」という手紙が届き、無視をしたらエレオノールがやってきた。
当然といえば当然なのだ。ヴァリエール家はルイズが虚無の使い手であることを知らないのだから、お前が行ってなんになるんだ、
と思うのはあったり前田のクラッカーなのだった。いや、そもそもヴァリエール家は、白伐自体に反対の姿勢をとっているのだった。
そんなこんなでルイズを説得すべく、というか拉致すべく、エレオノールが学院にやってきたのは一昨日の朝であった。ちょうど酒場
から撤収し、学院に戻ったばかりのルイズはほとんど寝る間もなくたたき起こされた。
ルイズを馬車に押し込めたエレオノールは、使い魔がいると聞いてバビル2世を呼び出した。なにごとかと出てきたバビル2世を学院
に用意させた従者用の馬車に押し込み、さらに「従者が1人では格好がつかない」と思わずおっぱいに見とれていた残月をも馬車に放
りこんだのだった。もうちょっと人選をしろ、と言いたい。
さらに「バトラーっぽい」という理由でアルベルトも捕まった。たしかに執事といわれればそうだが、こんなにド迫力のある執事などい
るのだろうか?こんなのに出迎えられたらあまりの衝撃にぶっ倒れるかもしれない。
そんなわけでルイズと愉快な仲間たちは、誘拐同然にヴァリエール家へと帰省とあいなったったった。
ようやく領地に入ったのはその日の昼であった。
だがここからでも屋敷につくのは夜遅くとのこと。ルイズの実家の領地とやらはちょっとした大き目の市ぐらいの大きさがあるらしい。
どこが小国なんだろうか、とバビル2世は1人ごちるのだった。
昼に小休憩にある旅籠へ寄ることになったバビル2世たちを出迎えたのは、ヴァリエール家の貴族ッぷりを示す出来事であった。な
にしろ馬車を降りようとしただけで、従者用の馬車にまで村人が群がってきたのだ。そして降りたバビル2世たちに最敬礼。こまごまと
した世話までやこうとする始末。末端にまで顔が知れ渡りこの対応、恐怖政治でも領地に敷いているのかと疑いたくなる対応だ。
従者にすぎないバビル2世たちですらそのありさまだから、ルイズたちへの対応は推して図るべきである。もう世辞以外の言葉が出
てこないありさまだった。
しかし、ある不用意な言葉が、その嵐を黙らせた。
「エレオノール様はご婚約なされたんだっけか?」
その瞬間、周囲の温度が3度も下がった。
エレオノールの眉が、ぴくん、と動き、空気が重たくなる。なにやら禁忌に触れたらしい。
ルイズが、そんな姉の気をほぐそうと、口を開いた。
「ね、姉さま、エレオノール姉さま。ご婚約、おめでとうございます。」
その瞬間さらに温度が5度は下がった。もうやめて、旅籠の空気のHPは0よ!エレオノールはにこっと、笑い、ルイズの頬を思いっき
り摘み上げた。
「あいだ!ほわだ!でえざば!どぼじで!あいだだだ!」
「あなた、わざと知ってて言ってるのね?婚約は解消よ。解消!か・い・し・ょ・う!」
「な、なにゆえにっ!」
聞くまでもない、愚問を発するルイズ。エレオノールが指を離し、
「さあ?バーガンディ伯爵さまに聞いて頂戴。なんでも『もう限界よ!バーガンディのHPは0よ!』だそうよ。どうしてなのかしら?」
オーバーアクションで婚約解消時の実況を行った。きくまでもなかろうよ!と今まさに婚約解消の理由を目の当たりにしているではな
いか。思わずバーガンディだかバカルディだかに同情してしまう。とにかく婚約を解消されたエレオノールは、八つ当たりのターゲットを
ルイズと定めたようである。エレオノールが再び、ルイズの頬をつねろうと腕を伸ばした。
その腕を、誰かがガシッと掴んだ。
なにごとと、とエレオノールが腕を掴んだ人間を見る。
「そのへんにしておけ。」
エレオノールの腕をひねり、降ろさせる。渋い声をしたその男は、
「あ、アルベルト!?」
ルイズがぽかんと口を開けて、自分をかばった男を見た。モノクルをつけた、ずいぶん迫力のある男、その名はアルベルト。いったい
いつの間に!?
「仮にもこのあたりを治めるという領主の娘が、衆人の目の前で妹ごを嬲るなど…!」
ギンッとエレオノールを睨みつけるアルベルト。その迫力に、あのエレオノールが思わず後ずさる。
フン、とアルベルトが見るのも腹が立つといわんばかりに視線を外し、バビル2世たちのもとへ戻っていく。村人が、アルベルトを避け
て、モーゼのように道をあける。
突然腕をつかまれ、睨みつけられながら叱られたエレオノールは、しばしば放心状態に陥っていたが、やがて正気を取り戻し、
「な、な、な!へ、平民の分際で、な、な、なにを!なにを!」
「悪さをした人間が叱られるのは、平民も貴族も関係なかろう!」
アルベルトが振り返り、再び睨みつける。
「否っ!むしろ貴族であるからこそ八つ当たりなどをして品位を損ねるような真似をすべきではない!違うか?違うか?違うかー!?」
怒声をうけ、エレオノールがへなへなと崩れ落ちる。平民になど叱られたのはこれが初めてだったのだろう。予想外の出来事に頭
がパニック状態に陥ってしまったらしかった。
だが、再び生気を取り戻し、青ざめてはいるが立ち上がるエレオノール。わなわなと震えつつ、貴族に無礼な行為を働いたアルベル
トを罰そうと、杖を握り締めた。
が、その瞬間、残月のおっぱいレーダーが反応した。旅籠のドアがバターン!と開いて、桃色の風が飛び込んできた。
「まあ!見慣れない馬車を見つけて立ち寄ってみれば嬉しいお客だわ!エレオノール姉さま、かえってらしたの?」
ピンクブロンドの髪をした、かわいらしい女性。ルイズを成長させ、胸をプラスしたというのがピッタリだ。
「カトレア」と、杖を振りかぶろうとしていたエレオノールが呟く。
「ちいねえちゃん!?」ルイズの顔が悦びに輝いた。
「ルイズ!いやだわ、わたしのかわいい小さいルイズじゃないの!あなたも帰ってきたのね!」
ルイズが飛び上がってカトレアに抱きつく。
「ちいねえちゃん。おひさしぶりです!」
くるくると抱きついて回っていたルイズが身を離す。見れば見るほどそっくりだ。バビル2世がそんなルイズの傍により、「この方は?」
と小さく問うた。ルイズは耳打ちをする。
「わたしのすぐ上のカトレアお姉ちゃん。ちょっと身体が弱くって、領地で静かに暮らしてるのよ。何が原因かわからない病気なの…」
ほら、挨拶しなさいとバビル2世を送り出す。その姿を見て、
「まあ、まあ、まあ、まあまあ」
カトレアがバビル2世に近寄って、身体や顔を触りまくる。
「うふ、バビル2世発見。&hearts」
「??」
とつぜん本名を呼ばれ、戸惑うバビル2世。カトレアは周囲を見回し、
「まあ、まあ、まあまあ。こっちには衝撃のアルベルト。白昼の残月まで!幸せ…」
鼻血を垂れ流し、陶酔状態に陥るカトレア。慌てて周囲がハンカチを持ってくる。
そしてカトレアはふらふらと自分の大きなワゴン型の馬車まで近寄り、扉を開けた。
中から虎だの熊だの、犬猫鳥に爬虫類が這い出てくる。まるで移動動物園だ。
その動物が立ち去ったあと、カトレアは大きな箱を馬車から運び出してくる。それをあけると中には、
「ほら、これは今年の夏のコミケで買った怒鬼×レッド本よ!こっちはアルベルト×セルバンテス。こっちキラ×アス本で、こっちは私が
書いたマーグ×マーズ本。バビル×ヨミ本もあるわよ。ああ、本物に会えるなんて……ハッピー」
鼻血が噴出し、カトレアがぶっ倒れた。腐ってやがる、早すぎたんだ!あわてて村人が駆け寄り介抱をするが、うわごとのようにバビル×マーズってのもいいわね、とかカトレアは呟いている。
しばし呆然とその光景を見ていたバビル2世がルイズに、
「……身体の病気じゃなくて、心の病気の間違いじゃないかい?」
ルイズは違うとは言いきれず、頭を抱えていた。
だがここからでも屋敷につくのは夜遅くとのこと。ルイズの実家の領地とやらはちょっとした大き目の市ぐらいの大きさがあるらしい。
どこが小国なんだろうか、とバビル2世は1人ごちるのだった。
昼に小休憩にある旅籠へ寄ることになったバビル2世たちを出迎えたのは、ヴァリエール家の貴族ッぷりを示す出来事であった。な
にしろ馬車を降りようとしただけで、従者用の馬車にまで村人が群がってきたのだ。そして降りたバビル2世たちに最敬礼。こまごまと
した世話までやこうとする始末。末端にまで顔が知れ渡りこの対応、恐怖政治でも領地に敷いているのかと疑いたくなる対応だ。
従者にすぎないバビル2世たちですらそのありさまだから、ルイズたちへの対応は推して図るべきである。もう世辞以外の言葉が出
てこないありさまだった。
しかし、ある不用意な言葉が、その嵐を黙らせた。
「エレオノール様はご婚約なされたんだっけか?」
その瞬間、周囲の温度が3度も下がった。
エレオノールの眉が、ぴくん、と動き、空気が重たくなる。なにやら禁忌に触れたらしい。
ルイズが、そんな姉の気をほぐそうと、口を開いた。
「ね、姉さま、エレオノール姉さま。ご婚約、おめでとうございます。」
その瞬間さらに温度が5度は下がった。もうやめて、旅籠の空気のHPは0よ!エレオノールはにこっと、笑い、ルイズの頬を思いっき
り摘み上げた。
「あいだ!ほわだ!でえざば!どぼじで!あいだだだ!」
「あなた、わざと知ってて言ってるのね?婚約は解消よ。解消!か・い・し・ょ・う!」
「な、なにゆえにっ!」
聞くまでもない、愚問を発するルイズ。エレオノールが指を離し、
「さあ?バーガンディ伯爵さまに聞いて頂戴。なんでも『もう限界よ!バーガンディのHPは0よ!』だそうよ。どうしてなのかしら?」
オーバーアクションで婚約解消時の実況を行った。きくまでもなかろうよ!と今まさに婚約解消の理由を目の当たりにしているではな
いか。思わずバーガンディだかバカルディだかに同情してしまう。とにかく婚約を解消されたエレオノールは、八つ当たりのターゲットを
ルイズと定めたようである。エレオノールが再び、ルイズの頬をつねろうと腕を伸ばした。
その腕を、誰かがガシッと掴んだ。
なにごとと、とエレオノールが腕を掴んだ人間を見る。
「そのへんにしておけ。」
エレオノールの腕をひねり、降ろさせる。渋い声をしたその男は、
「あ、アルベルト!?」
ルイズがぽかんと口を開けて、自分をかばった男を見た。モノクルをつけた、ずいぶん迫力のある男、その名はアルベルト。いったい
いつの間に!?
「仮にもこのあたりを治めるという領主の娘が、衆人の目の前で妹ごを嬲るなど…!」
ギンッとエレオノールを睨みつけるアルベルト。その迫力に、あのエレオノールが思わず後ずさる。
フン、とアルベルトが見るのも腹が立つといわんばかりに視線を外し、バビル2世たちのもとへ戻っていく。村人が、アルベルトを避け
て、モーゼのように道をあける。
突然腕をつかまれ、睨みつけられながら叱られたエレオノールは、しばしば放心状態に陥っていたが、やがて正気を取り戻し、
「な、な、な!へ、平民の分際で、な、な、なにを!なにを!」
「悪さをした人間が叱られるのは、平民も貴族も関係なかろう!」
アルベルトが振り返り、再び睨みつける。
「否っ!むしろ貴族であるからこそ八つ当たりなどをして品位を損ねるような真似をすべきではない!違うか?違うか?違うかー!?」
怒声をうけ、エレオノールがへなへなと崩れ落ちる。平民になど叱られたのはこれが初めてだったのだろう。予想外の出来事に頭
がパニック状態に陥ってしまったらしかった。
だが、再び生気を取り戻し、青ざめてはいるが立ち上がるエレオノール。わなわなと震えつつ、貴族に無礼な行為を働いたアルベル
トを罰そうと、杖を握り締めた。
が、その瞬間、残月のおっぱいレーダーが反応した。旅籠のドアがバターン!と開いて、桃色の風が飛び込んできた。
「まあ!見慣れない馬車を見つけて立ち寄ってみれば嬉しいお客だわ!エレオノール姉さま、かえってらしたの?」
ピンクブロンドの髪をした、かわいらしい女性。ルイズを成長させ、胸をプラスしたというのがピッタリだ。
「カトレア」と、杖を振りかぶろうとしていたエレオノールが呟く。
「ちいねえちゃん!?」ルイズの顔が悦びに輝いた。
「ルイズ!いやだわ、わたしのかわいい小さいルイズじゃないの!あなたも帰ってきたのね!」
ルイズが飛び上がってカトレアに抱きつく。
「ちいねえちゃん。おひさしぶりです!」
くるくると抱きついて回っていたルイズが身を離す。見れば見るほどそっくりだ。バビル2世がそんなルイズの傍により、「この方は?」
と小さく問うた。ルイズは耳打ちをする。
「わたしのすぐ上のカトレアお姉ちゃん。ちょっと身体が弱くって、領地で静かに暮らしてるのよ。何が原因かわからない病気なの…」
ほら、挨拶しなさいとバビル2世を送り出す。その姿を見て、
「まあ、まあ、まあ、まあまあ」
カトレアがバビル2世に近寄って、身体や顔を触りまくる。
「うふ、バビル2世発見。&hearts」
「??」
とつぜん本名を呼ばれ、戸惑うバビル2世。カトレアは周囲を見回し、
「まあ、まあ、まあまあ。こっちには衝撃のアルベルト。白昼の残月まで!幸せ…」
鼻血を垂れ流し、陶酔状態に陥るカトレア。慌てて周囲がハンカチを持ってくる。
そしてカトレアはふらふらと自分の大きなワゴン型の馬車まで近寄り、扉を開けた。
中から虎だの熊だの、犬猫鳥に爬虫類が這い出てくる。まるで移動動物園だ。
その動物が立ち去ったあと、カトレアは大きな箱を馬車から運び出してくる。それをあけると中には、
「ほら、これは今年の夏のコミケで買った怒鬼×レッド本よ!こっちはアルベルト×セルバンテス。こっちキラ×アス本で、こっちは私が
書いたマーグ×マーズ本。バビル×ヨミ本もあるわよ。ああ、本物に会えるなんて……ハッピー」
鼻血が噴出し、カトレアがぶっ倒れた。腐ってやがる、早すぎたんだ!あわてて村人が駆け寄り介抱をするが、うわごとのようにバビル×マーズってのもいいわね、とかカトレアは呟いている。
しばし呆然とその光景を見ていたバビル2世がルイズに、
「……身体の病気じゃなくて、心の病気の間違いじゃないかい?」
ルイズは違うとは言いきれず、頭を抱えていた。