あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの登竜門-01

ズドン、と何度目かわからない爆発音に、砂埃が巻き起こる。
日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。
「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」
「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」
そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。
そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。
「また失敗……」
咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。
そして振り下ろす。
すると今度は爆発しなかった。
数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。
ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。
そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。
視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。
どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。
コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない!
煙を散らすと、そこには…………

高さ一メートルほどの大きなタマゴが存在した。



自室のベッドの上にタマゴを載せ、ルイズはそれを指先でつん、とつついた。
すると、タマゴはプルプルと震える、もうすぐ生まれそうだ。
そんなタマゴに、ルイズは自分の頬が弛みまくるのを自覚していた。
こんなに大きなタマゴなのだ、一体どんなのが生まれてくるのだろう。
ドラゴンだろうか、グリフォン、いやいやヒポグリフと言うのもある。
きっと強くて格好良くて優雅な幻獣が生まれてくるだろう。それを考えると心臓が早鐘のように波打つ。
いや、そんなに贅沢は言わない、呼び出せただけでもこんなに嬉しいのだから。
早く生まれてこないだろうか………。
召喚が長引いたせいか、何度も失敗して精神力を使った所為か、次第にまぶたが重くなる。
着替えるのすら億劫になったルイズは、そのままベッドに上がって丸くなった。
とくん、とタマゴの鼓動が心を揺さぶる。
きっと、明日には生まれてくれるだろう。
とても、楽しみ。





朝、窓から差し込む陽光によって目を覚ました。
すぐさまタマゴを見やるが、プルプルと動いているがまだ生まれていない。
仕方なしにルイズはベッドから降りて新しい制服へと着替える。
ブラウス、スカートを履いてマントを着けてブローチを止める。
そして杖を持って部屋を出ようとノブに手をかけたとき。
背後から「ピキッ」という音を捉えた。
その時の首を動かすルイズの動きは、一瞬だが180度回転しているように見えた。
その手の杖を放り捨ててルイズはタマゴへと駆け寄る。
頭頂部からヒビが走る。
ピシッ……ピキッ………パリンッ
「きゃっ」
眩い光にとっさにルイズは顔を覆ってしまう。
けれど、生まれた、自分の使い魔を早く見ようと眼を細めて真っ直ぐとそれを………
「え………」
ベッドの上で、ぴち、ぴちとはねているのは、一匹の魚……だろうか。
赤い鱗にマヌケそうなつぶらな瞳、背びれは金色で、なんだかデフォルメされた王冠を彷彿させる。
長いヒゲが二本、にょろーんと伸びて、魚が、ぴたん、びたんはねるたびに揺れる。
「………み………水ーーーーー!」


まさか魚が生まれるとは思わなかった。
大急ぎで水場に連れていき、タライに水を張って放り込んだ。
そこまでやり遂げた時点で、ルイズはゼーハーと荒い息をはいて両手両膝を地面に付いた。
魚がやけに重かったのだ。しかもやたら跳ねまくってここまで連れてくるだけ一苦労。
窓から放り投げた方がどれだけ楽だっただろうかと思う。
抱き上げるのが難しいと判断し、最終的にはしっぽを掴んで引きずったほどだ。
水を得た魚は、小さなタライの中で気持ちよさそうにすいすいと泳いでいる。
魚の額にルーンが刻まれている。タマゴの時にはなかったが、ちゃんと契約できていたみたいだ。
「コッ、ココココイッココッコココイッコココイッコココッ」
魚が何かを言うが、何を言おうとしているのかはさっぱりわからない。
そうだ、名前を付けてあげよう。
名前………ジョセフィーヌ……フランシーヌ………シャルロット……クリストフ。
どれもぱっとしない。
ふと、背びれに目が行く、王冠のようなその背びれ。
「キング」
「コッ」
「キング」
「コココッ」
呼んだらはねながら返事をした、どうやら気に入ったようだ、いやきっとそうだ、そうに違いない。
「コレからよろしくね。キング」
最後のルイズの言葉にはキングは応えず、狭いタライの中をすーいと泳ぎ回る。


キングの様子を、丁度そこにやってきたメイドに言いつける。
よくはねるから、タライから外に出てたら戻しなさい、と。
なお「蹴っ飛ばしても良い」と付け加えると、メイドは慌てて首を振った。
貴族様の使い魔を蹴るなんてとんでもない、と。
従順なその態度に好感を覚えつつ、食堂へ。
いつものようにキュルケと口論しながら食事を取る。
そういえば、いつもゼロと言ってバカにするのに、今日に限っては「よかったじゃない」と言ってくれた。
すこし嬉しかった。けれどいつものように悪態をつく。
食事を摂ったら土の授業、今日の授業はそれだけでそれ以後は使い魔とコミュニケーションの時間。
でも、ミセス・シュヴルーズが錬金をして見ろと言ったからやった、でも爆発した。
召喚は出来たんだから出来るようになってると思ったのに、魔法は相変わらずみたいだ。
そう言えば、自分の系統はなんなんだろう。
キングは魚だから、水………なのだろうか?
しかし得意系統以外の魔法が使えるのは珍しくない。
例えば、土系統のギーシュは風系統のフライを使える。
もしわたしが水系統だったとしても、なんで爆発するんだろう……。
教室の片付けを適当にさらっとこなして使い魔の元へ行く。
寂しがっているだろうから。
別に、わたしが寂しい訳じゃない、あくまで使い魔が寂しがっているといけないから、行くだけだ


キングのところへ行くと、案の定タライの外でぴち、ぴち。
ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち。
ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち。
あのメイドは……戻しておけと言ったのにほっぽいてどこへ行ったんだ……
と思ったが、その行方はすぐしれた。
広場の真ん中で土下座している、相手は……グラモンのバカか。
「こらはねないの」
キングをタライの中に戻して、メイドのところへ行く。
「ちょっと」
仁王立ちでメイドを見下ろす。
「あ……み、ミス・ヴァリエール……」
「キング見ててって言ったのになにやってんのよ、タライの外に出てたじゃない」
「も、申し訳ありませんっ。ミス・ヴァリエール」
「なるほど。あの赤いマヌケそうな魚は君の使い魔か」
マヌケそうな、と言ったギーシュの言葉にルイズの眉がつり上がる。
「あんたほどじゃないわよ。おおかた二股がばれてそれをメイドに言いがかり付けてるだけでしょ。いい加減そう言うのやめなさいよ、バカに見えるわよ」
「なななななな何をいってるんだっ! 彼女が軽率に香水を拾ってしまったから。その事で罰を与えているだけなんだ。ゼロのルイズは引っ込んでいたまえ!」
「あいにくこっちが先約なのよ、使い魔見ておくように言っておいたのは朝のうちだからね」
ふん、と胸を張ってギーシュを睨み付ける。
「二股してたのは事実でしょ! だったらメイドに言いがかり付けてないで相手の女の子にとっとと謝ってきなさい!」
「ぜ……ゼロのルイズがぼくに意見する気か!」
「もうゼロなんて言わせないわ! わたしは、ちゃんとキングを召喚したもの!」
ギーシュの言葉に、ルイズはキングのいるタライを杖で指した。
「………なにもいないが」
「えっ?」
ギーシュの言葉にルイズは慌てて振り返って確認、そこにはタライしかなかった。
「ウソッ! さっきまでいたのよ、一体何処に」
「はははははは。さすがゼロのルイズ、使い魔にまで逃げらぶべっ!?」
ギーシュの言葉は途中で途切れ、直度ズドンと衝撃音が広場を襲う。
「キング!?」
ルイズがギーシュを見やると、その腹の上でびたんびたんとはねているキングの姿があった。
どうやら、ルイズがいじめられているとでも判断したのだろうか。
タライのところからはねて、頭上からギーシュに突撃したようだ。
キングの体長は1mもないが、重さは10㎏ある。そんな物が激突してはただではすまない。
あっけなくギーシュは意識を手放し、口から泡を吐いてピクピクと痙攣していた。


「……あんた結構凄いのね」
はねるだけで人垣を飛び越え、ピンポイントでギーシュをスナイプしたその底力が、である。
泡を吹いて倒れたギーシュは医務室に運ばれ、目覚めたときには何があったの記憶が曖昧になっていたらしい。
タライを部屋まで運ぶわけにはいかないから、キングは水場で毎日過ごすことになる。
泳ぐのは結構早い、だが魚だから普通の使い魔みたいにあちこち連れ回すわけにはいかないだろう。
「………わたしがいじめられてるって思ったのかしら。使い魔としての心構えはあるみたいね」
主を守る、という使い魔にとっては最重要とされるポイント。
キングはギーシュを倒すことでそれを証明して見せたのだ。
「ご褒美上げる。東方から仕入れたあめ玉なんだけど、成分解析してもよく判らない貴重品なのよ。でもとても美味しいんだって」
そう言ってルイズは大きなあめ玉をキングに食べさせる。
するとキングは嬉しそうにぴちぴちとはねる。
「きゃっ。もうそんなに美味しかったの? じゃぁもう一個あげる」
二個目、包装をほどいてキングの口の中に放り込む。
大喜びするキングに、ルイズは頬を弛ませる。
役立たずでも良い。ただキングがずっと使い魔でいてくれたら。
もっとがんばれる気がした。
気付いたら、あめ玉を軽く10個も上げてしまっていた。



使い魔の触れ合いはとても重要だ。
わたしも、時間があればすぐ水場へと向かってキングと触れ合っている。
その度にあめ玉をせがむキングだが、あんまり上げすぎるのも良くないと思って最近は自制している。
合計で14個目を上げた途端。キングのおねだりが激しくなった。
はねるだけだったキングが、わたしにすり寄ってくるのだ。
最初こそマヌケそうに思えたその表情だったが、こうも懐かれると非常に愛着がわいてくるモノだ。
すり寄ってくることによってわたしの服が濡れるが、それは仕方がないから叱ることはしない。
そもそもキングは魚だ、言って聞くとも思えない。
今日は2個あめ玉を上げた。
月がキレイ。
ところがその時、轟音とともにゴーレムが現れたのだ。
本塔の壁を殴っている。あそこは………宝物庫?
そう思い至ったところで、土くれの話を思い出す。
貴族の館に忍び込んで宝を盗み出す薄汚い盗賊。まさかメイジが沢山居る学園を襲うだなんて!
貴族の誇りとして看過は出来ない。即座に杖を振って攻撃する。
けれど外してしまう。それどころか宝物庫の壁が爆発してしまう始末。
あれ、ちょっと……まずい、かな?
ゴーレムの肩に立っているローブの人影、きっとアイツが土くれだ。
そいつがゴーレムの腕を伝って宝物庫の中にとびこんだ。
まずい、非常にまずい、目の前で盗賊を逃がしてしまう。
そう思って何度も魔法を放つが、爆発は狙いが定められない。
ゴーレムの表面を襲い、爆発させるが破壊するには至らない。
そもそもゴーレムは土で出来ている、いくら破壊してもすぐに修復してしまう。
「ありがとよ!あんたの爆発でやっとこさ穴が開いたよ」
宝物庫から出てきた土くれがそう叫んできた。女の声、土くれは女だったのか。
「こいつはお礼だよ! 受け取りな!」
そう言って土くれはゴーレムを操作、その脚を持ち上げて………
眼前に広がるゴーレムの足の裏。右へ逃げるか左へ逃げるか。このままでは潰されてしまう。
ほんの一瞬の逡巡、しかしその一瞬は生死を分ける。
どん、と横からの衝撃にわたしはふっとばされ、ゴーレムの脚がほんの少しマントを掠った。
キングだ。キングがぶつかってわたしを飛ばしてくれたのだ。
そのキングはわたしの隣で今もはねている。
フーケのゴーレムは私達に見向きもせず学院の外へ出ていった。
途中でぐしゃりと崩れ、その後は夜の静寂が広がるだけ。



ミス・ロングビルが手綱を引く馬車に揺られ、フーケが潜むという小屋へと向かう一行。
馬車に乗るのは、ルイズと、キュルケと、タバサ。そして御者を務めるロングビル。四人だけ。
翌朝、宝物庫が破れた事で、その場に居合わせたと言うことでルイズが呼ばれた。
盗まれたのは破壊の小箱と言うらしいが、使い道はよく判っていないらしい。
使い道がわからない秘宝だが、それをおめおめと盗まれてそのままにしておく訳にはいかないらしい。
丁度ロングビルがフーケの居場所を突き止め帰ってきたことで、討伐隊を組むことになった。
しかし教師の誰も杖を揚げない、仕方なくルイズが志願したのだ。
出発するときになってキュルケに見つかり、お節介にも付いていくと言いだした。
すると隣にいたタバサも心配と言いだし、同行することになる。
ロングビルが言うには戦力は多い方が良いでしょう、とのこと。
悔しいけれど言い返せない、キュルケは炎のトライアングル。学園内ではトップクラスの実力者だろう。
タバサは……よく判らない。キュルケと一緒にいることが多いけどその実力は未知数。
でもキュルケが保証するというならば確かな実力だろう。
ロングビルが貴族の身分を追われた事を、キュルケが好奇心で聞こうとするのをルイズが窘めながら、馬車は行く。
おいてきたキングのことがちょっと気がかりだった。
あのメイド、シエスタに任せてきた。
欲しがればあめ玉をあげても良いと言い付けてきた。大人しくしてくれたらいいのだけど………。




ルイズに命じられた使い魔の世話を、シエスタは行う。
とは言っても。タライからでないように注意する程度だが、はねるのに慣れたキングはタライから出ても自分で戻るようになったからそれほど手がかからない。
ただ気になったのが預けられたあめ玉の瓶。
欲しがったらあげても良いと言われたがどれほど上げたらいいのだろう。
キングは瓶のあめ玉を見て催促するようにぱくぱくと口を開閉している。
あまり上げすぎても叱られるかもしれないと、シエスタの心の中は葛藤している。
「一つくらいなら………」
言い聞かせるように呟きながらシエスタは中からあめ玉を取りだし、包装紙を取り除いてキングに食べさせる。
ぱちゃぱちゃとはねながら喜ぶキングに、シエスタも笑みを浮かべた。
「おいしいですか?」
シエスタの言葉に、キングはぱくぱくとしながら次を催促する。
すこし悩んだが、シエスタはもう一つあけて、食べさせる。
再び嬉しそうに飛び跳ねるキング。
余りの喜びように、シエスタの方も嬉しくなってしまうほど。
「それじゃぁ、後一つ……」
同じように包装紙を取り除いて、シエスタはキングにあげた。
すると、さっきまで元気に動き回っていたキングの動きが、止まった。
そう、ピタリと、身動きもせず。身じろぎもせず。
キングの急変にシエスタは恐怖におののいた。
まさか、食べ過ぎて体に異変が!? まさか……死……そんな、使い魔を死なせてしまったとなったら打ち首どころか家族さえも………。
シエスタの目の前が真っ白になる。
パリッ。
「え………」
異音は、目の前のキングから。
シエスタが目を見張ると、キングの体が眩い光に包まれた。



小屋の中から破壊の小箱を奪還し、いざ帰ると言うときになってフーケのゴーレムが襲撃した。
ルイズも、タバサもキュルケも応戦するが、圧倒的な質量を持って襲うゴーレムには有効打を与えられない。
「撤退」
タバサが短くそう言うが、ルイズが反論する。
「待って、ミスロングビルがまだ」
「いいえ、今回の任務は秘宝の奪還が最優先よ。ミス・ロングビルもメイジなんだから無事よ!」
キュルケがそう言ってルイズを諭す。
「イヤよ! ここでロングビルを見捨てるわけにはいかないわ! わたしはフーケを捕まえるの。もう誰にもゼロなんて言わせない。言わせないんだから!」
キュルケの説得は無意味、シルフィードの背中から飛び降りる。
慌ててキュルケがルイズにレビテーションを駆ける。
「全くいじっぱりなんだから……仕方ないわね、付き合ってあげるわよ。タバサ、ゴーレムの周囲を飛んで。牽制するわよ」
「了解」
ルイズがふわりと着地するのを確認して、タバサをシルフィードを駆ける。
タバサの使い魔は風龍、名は風の精霊を戴くシルフィード。
その機動力は他の追従を許さない。
ゴーレムの周囲をくるくると飛び回りながら、二人は魔法を浴びせる。
しかし、その質量の前ではどれほどの効果があるだろうか。
見た限りではさほど有効打を与えてるには見えない。
「ルイズから注意をそらすのよ。こっちはなんとか避けられるけどあの子は無理だから」
「了解」
キュルケの指示にタバサは短く応える。
しかし、ゴーレムは飛び回って撃墜が難しいシルフィードを無視し、ルイズの方へゆっくりと歩み出した。



視界が真っ白になったのは、キングからの光だという事はシエスタは今になって気付く。
そしてその光はキングの体を包み、その輪郭を別な物へと変えていく。
「な、なに……いったい何が………」
「コッココッコッ………ギッ…ギョォ……………」
キングの啼き声が光の中でゆっくりと別のモノへと変わる。
キングの体の光が、ゆっくりと大きく。その輪郭も重厚で無骨な魚の鱗から、柔らかく柔軟性に富んだモノへと変わる。
そして大きくなった光はゆったりとした動作で宙へ。
変わる。
それは新たな存在の証明。青く輝くその鱗は東方に伝わる竜の証。
だれも見たことない、サファイアの如く美しき鱗をもつ凶竜。
その赤く輝く瞳はルビーのような鮮やかさ。
目の前で起こったキングの豹変にシエスタは腰を抜かしてへたり込みながら、その優美さに目を奪われている。
(なんて………綺麗)
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNN」
キングだったモノの咆吼に、シエスタは思わず身をすくませて耳を塞ぐ。
誰が想像できるだろうか。
かの世界において。その存在が暴れたとき、巨大な都市を壊滅に追いやることすらあると言うことなど。
キングはきょろきょろと首を動かし、何かを探すような仕草をする。
翼は持たぬが、それは紛れもない竜。
ある方角へ、ピタリと視線を向けたかと思うと、キングはその巨体を波打たせ高速で飛び去った。


「えいっ、えいっ、えいっ」
破壊の小箱を掲げたり振ったりするが、何も起こらない。
「何よコレ! どうやって使うのよ!」
「ルイズ! 使い方がわからないって学園長も言っていたじゃない! 振ったり掲げたりするだけで使えるわけないでしょ! 良いから逃げるわよ!」
「イヤッ!わたしは逃げないわ! 貴族とは魔法を使うモノの事じゃないわ! 敵に背を向けないモノのことを言うのよ!」
「あぁもうっ、意地を張るのも大概にしなさい! 死んじゃったら意味無いでしょうがっ!」
シルフィードが低空飛行で、キュルケがルイズの腕を掴んで引っ張り上げる。
「勝てないと悟ったら撤退するのも作戦のうちなのよ! うだうだ意地張ってんじゃないわよ。あんたに死なれたって目覚めが悪いのよこっちも」
ルイズを引っ張り上げて、シルフィードはゴーレムの腕の届かない高度に達する。
「帰るわよ! 名のある貴族だって捕らえられなかったフーケをあたし達で捕らえられるわけないじゃない。生きて戻るだけでも御の字よ」
「でも………」
ルイズが反論しようとした途端。衝撃が襲う。
「きゃぁっ」
一瞬ふわりと浮遊感がしたと思ったら、体が重力にひっぱられて落ちていくのがわかった。
「くっ、なっ……!?」
とっさにキュルケとタバサがレビテーションを唱える。
ゆっくりと地面に降り立ったとき、何が起こったのか全てを把握した。
シルフィードの体に石の礫が多数突き刺さっていたからだ。
「大丈夫?」
「大丈夫、でも飛ぶのは無理」
キュルケの言葉にタバサが応えた。
そしてゆっくりと近づいてくるゴーレム。
ゴーレムが腕から石の礫を飛ばしたのだろう。
これほど巨大なゴーレムを作れるとなると、おそらくトライアングルクラス。
石の弾丸を放つ事など簡単にやってのけるだろう。
相手がゴーレムだからと言って油断した、腕の届かない高所にいれば大丈夫だと見誤ってっていた。
操っているのはメイジなのだ。
「やるしか………無いって訳ね」
覚悟を決めたのだろう。三者三様に杖を掲げ、ゴーレムを向かい打つ。
そして呪文を唱えようとした、その時だ。青い影が頭上を飛び越え、ゴーレムに突撃したのは。

その衝撃音はルイズの爆発を遥かに凌ぐ。
青い鱗が太陽の光を反射させて宝石のような美しさを魅せる。
その巨体をゴーレムに巻き付けて動きを封じている。
「なに………あれ」
キュルケのその言葉は三人の意見を統一して代弁するモノだった。
「GYAOOOOOOOOOnN」
見たこともない生物、ハルケギニアにあんな生き物がいたなんて、ルイズも知らない。
魔法が使えない故、せめて勉強だけは人一倍にしてきたルイズですら、だ。
その姿を表現するならば、青き空を飛ぶ大蛇。
ゴーレムが巻きつきを解こうと暴れるが、関節を極めるように巻き付かれていて上手くいかない。
しかし、所詮はゴーレム、土によって作られたモノでしかない。
フーケが何処からか見ているのだろう。いったんゴーレムが崩れ落ちてまた新たなゴーレムが現れる。
しかし、ゴーレムはそれを警戒するようにして動かない。
「助けてくれた………みたいね……でもなんで」
キュルケが、ルイズとタバサに視線を向けるが、二人ともふるふると首を振った。
「知らない」
「わたしも知らない。あんなの……見たこともない」
いや、とある文献で読んだことはあった。
体長10mほど、翼が無くとも空を飛ぶ。雨を呼び嵐を呼び雷を起こす伝説の存在、竜。
ルイズが思い出しながらそう言うとキュルケが驚きながら言う
「翼がないのに空をぉ!? そんなわけ………」
そこまで言ったところでキュルケは口を噤んだ。今目の当たりにしている現実を否定するほどバカじゃない。
確かに目の前の大蛇に翼がない、翼に相当するだろう場所が見あたらないのだ。
「ドラゴンとは違うの?」
「違うみたい。詳しくはわからないけど……」
その時、ルイズは大蛇と目があったのがわかった。
大きく開かれた口からはするどい牙が輝くのが見えた。
しかしそんな凶悪な顔をしているにも関わらず、その瞳はとても穏やかでルビーのような煌めきを湛えている。
なぜか、脳裏にキングの顔が浮かんだ。
「まさか………」
キングのあののんびりとした顔とは似ても似付かないはずのその表情だったが、ルイズは自分を見るその暖かな視線にキングを思い浮かべずにいられなかった。
「キング………キングなの…………? まさか………嘘でしょ」
否定か肯定か、青い竜は天に向かって高らかに吠えた。


「キングぅっ!? キングってあんたの……うっそ、赤い魚だったじゃない!」
「わかんないっ、わかんないわよぉ、わたしだって何が何だか………でも何となくだけどキングと同じような気がしたんだもん」
「あれ」
キュルケの大声にルイズが狼狽する。
しかし冷静に観察していたタバサが、竜の額を指差した。
燦然と煌めく額のルーン。
それは紛れもなく、ルイズの呼び出した赤き魚に刻まれていたルーン。
「ホント……に。キングなんだ……」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNN」
突然現れた竜にとてつもなく驚いたが、それがキングであるとわかっているのなら怖がる理由など有るはずがない。
そう、キングは、自分の使い魔なのだから。
「キングッ!」
止めようとするキュルケを振り切ってルイズがキングに駆け寄る。
するとキングはゴーレムと相対するのをやめてルイズにすり寄った。
ただ、6mを超える巨体が近づいてくるという、圧迫感は消しようがなかった。
ルイズの目の前で止まり、キングはその紅い瞳を細めた。
心なしか、ルイズにはキングが笑っているように見えた。
「キング………貴方ずいぶん大きくなって………」
額の三つに分かれた冠に刻まれたルーンを、ルイズが優しく撫でる。
その時だった。
未だにその手に持っていた破壊の小箱を、キングがじいっと見つめているのに気付いた。
「これ? 使い方がわからなくて……」
ぐるん、と胴体をねじらせて、尾びれの先で小箱の横に着いている凹みをキングはつつく。
突然ピンポンと、小箱から音がしてぱかっと開く。ルイズは驚いて目を丸くした。
「キング使い方わかるの?」
ルイズの言葉にキングは行動で示す。
キングの背びれに小箱を置くと、キングは体をねじってそのするどい牙で銜える。
間違って噛み砕いたりしないように、細心の注意を払っているのがわかった。

「わざマシンを起動します………中には『はかいこうせん』が記録されています。『はかいこうせん』をポケモンに覚えさせます。よろしければもう一度ボタンを押してください。キャンセルする場合はリセットボタンを押してください」

キングは、その牙を軽く押し込んだ。

土くれのフーケは、その光景をしっかりと見ていた。
「なるほどねぇ……ああして使うのかい。他の物も同じかねぇ」
そう呟きながら、傍らにあった小箱のボタンを押す。
すると、同じようにピンポンと音がしてメッセージが流れた。
予想通りな小箱の反応にフーケはニヤリとほくそ笑んだ。
「コレで奴らは用済みっと。あの大蛇が使えたって言うのは驚きだったけど。どうでも良いか、始末させてもらうよ」
杖を振ってゴーレムを動かし、キングとルイズへと襲いかかる。



ゆっくりとキングが振り返る。
そして巨大な牙が光る口を、これでもかと開いた。
そこへ光が集まり、巨大な球状を形成する。
その場にいる誰もが目を見張った。
キングはいったい何をしようとしているのか。
あの光の玉はいったい何なのか。
それが何なのかと言うことは。その三秒後。
人間で言えば腹部に位置する部分が吹き飛ばされた事実がまざまざと教えてくれた。
キングの口から放たれた光線。それはゴーレムの胴を吹き飛ばしながらもなお留まらず。森の木々と地面を削り飛ばした。
後には、轍のような一本線が森林のど真ん中に残るだけ。
胴が無くなったゴーレムは、上半身を支えきれずにぐしゃりと崩れ落ち、土と混ざって跡形もなくなった。


へなへなとへたり込んだルイズに、キュルケが歓びのあまり抱きついた。
キングの顔が怖かったからである。
「やったじゃないルイズッ、ゴーレムをやっつけたのよ! どうしたのよあんたの使い魔がやっつけたのよ? もっと喜びなさいよ」
「あ……はは……ちょっと気が抜けちゃって……」
ゴーレムの胴を吹き飛ばし、更に森林破壊まで簡単にやってのけたキングの「はかいこうせん」の威力に力が抜けてしまったのだ。
「もうなにやってんのよ、ほら」
キュルケがルイズに手を伸ばすと、ルイズはその手取ろうか取るまいかすこし悩んだが、結局掴んで立ち上がった。
攻撃を済ませたキングが戻ってきて、ルイズに頬ずりする。
顔は厳つくなったが、それでもキングはルイズをしたっている。
ルイズはそれがとても嬉しくて、とても愛おしくなった。
「それにしても。その………キング。一体何者なの? ゴーレムを吹き飛ばす魔法なんて……
キュルケのその言葉に、ルイズはたぶん違うと思っていた。
破壊の小箱からアナウンスされた意味のわからない単語。ただ『ポケモン』と言う単語だけ聞き取ることが出来た。
きっとあの小箱は特定の生き物に有効なアイテムなのだろう。
そしてそれを使えたキングは、『ポケモン』に分類される生き物。
おそらく、このハルケギニアとは違う文化圏に存在する生き物なのだろうと、何となく思っていた。
ただ、あんな小さな小箱を使うだけで、あれ程の力を発揮できるようになるなんて………
まさしく「はかいこうせん」だ。
「タバサ、シルフィードは」
「休ませてる」
「そう……」
キュルケの問いにタバサは短く答える。
「ロングビルは無事だと良いけど……」
その時だ、草木の影がガサリと音を立て、ロングビルが姿を見せたのは。
「ミス・ロングビル! 無事だったのね。フーケは何処からゴーレムを操って………」
ルイズがそこまで言ったところでその手に破壊の小箱が握られているのを気付いた。
「ミス・ロングビル……それ」
「ご苦労様」
「え………どういう」
「さっきのゴーレムを操っていたのはわたし」
ロングビルからの告白に場が凍り付く。
ロングビルが眼鏡を外すと、柔和だった目がつり上がって猛禽類のような目つきに変化する。
「そう、わたしが『土くれ』のフーケさ。しかしとんでもない威力ね。破壊の小箱。わたしのゴーレムが一撃じゃない……動くんじゃないよ!」
杖を構える三人を、フーケはその手の小箱を見せつけて制する。
「破壊の小箱は複数あったのさ。わかったなら全員杖を遠くへ投げなさい」
三人は言われるがままに杖を放り投げる、コレで三人とも魔法を唱えることが出来ない。
「実はね、盗み出したは良いけれど使い方がわからなかったのよ。討伐に来る奴に使わせて、知ろうと思ったのよ」
「わたし達の誰も知らなかったらどうするつもりだったの?」
「その時はゴーレムで全員踏みつぶして新しい人が来るのを待つだけよ。まぁその手間は省けたわね。こうして使い方もわかったんだし」
そう言ってフーケは小箱を起動する。
しかしフーケは気付いていなかった。
その小箱は人間に使えないことを。
その手に持っている小箱にヒビが入っていることを。
ヒビが入っている故、不良品故に人間に使えてしまうと言うことを。
そして、形は同じでもそれは破壊の小箱とは全く違う事を。
アナウンスの言葉の意味をわからなかった、それがフーケの敗因だった。

「わざマシンを起動します……ザザッは『ねザザザッ』が記録ザザッています。『ザッむる』をザザッモンに覚えさせザザッ。よろし……」

メッセージを最後まで聞かないでフーケはボタンを押した。
その直後フーケは糸が切れたように崩れ落ちた。

突然眠ってしまったフーケを縄でぐるぐる巻きにして、今三人はキングの背に乗っている。
全身に傷を負ったシルフィードはキングが口にくわえて輸送している。
相当嫌そうだったが、タバサが説得して渋々と納得した様子だった。
未だにシルフィードはきゅいきゅいと鳴いている、どうやらキングに必死で何かを伝えているようだ。
おおかた「食べないで」とか「噛まないで」と言った類だろう。
たまにキングがべろんと舐めているようだ。「きゅいいいいいーーー」と悲鳴が上がる。
「ねぇ、ルイズ。あんたどう思う?」
「どうって、なにが?」
「このキングと……後あの破壊の小箱の事もよ。なんでロングビル……フーケは急に眠ったのかしら」
キングは強力な光線魔法を放ったのに、とキュルケは続ける。
そんな事言われてもルイズに詳しいことは判らないのだから答えようがない。
「フーケを引き渡すときにオールド・オスマンに聞いてみるわよ。何か判るかもしれないし」
「私も気になる」
タバサが会話に乱入してきた。
タバサが言うには、あれだけの破壊力を持つ魔法は四大系統にも存在しないとのこと。
その事はルイズの方が良く知っていた。
風、水、火、土の四つの系統。
その中で最も破壊力のあるとされる火のスクウェアクラスでも30mもあるゴーレムの吹き飛ばすことは出来ないだろう。
「竜………か。これって、大当たりなのかしらね」
ルイズのそんな言葉にキュルケがツバを飛ばしながら、
「大当たりに決まってるでしょ! あんな魔法、使い魔どころか、どんなメイジだって出せないわよ」
と言った。



フリッグの舞踏会は通常通り執り行う事になった。
着飾ったルイズが会場に入った途端、ざわめきが覆い尽くす。
しかし、ルイズは男性からのダンスの誘いを全て断り、一直線にベランダへと向かった。
「キング」
そう短く呼ぶと、頭上から凶悪な顔が姿を見せた。
「あ……あの、ミス・ヴァリエール………」
「ん?」
突然後ろから声をかけられてルイズは振り返る。
「あの、その……あめ玉をあげて良いと言われたので、三つほど挙げたのですが、そしたら……」
シエスタはぽつりぽつりと告白する。
「あぁ、その事。いいのよ。キングには助けてもらったし、あげても良いって言ったのは私だし、律儀ねあなた」
恐縮するシエスタの仕草に、ルイズは思わず笑みを浮かべた。
ベランダから顔を覗かせるキングを、ルイズは撫でる。
「確かに驚いたけど………この子はキングよ、他のなんでもないわ……私を助けてくれた。私の可愛い使い魔」
そこで、ルイズは悪魔的な笑みを浮かべてシエスタをみやる
「ただ………そうね、可愛かったキングをこんなに怖い顔にした罰は与えようかしら」
「な、何なりと。申しつけ下さい。如何なる罰でも」
「本当に?」
ルイズのその言葉にシエスタは思いっ切り頭を垂れてふるふると震える。
そんなシエスタに背を向けて、ルイズはドレスのままベランダの手すらに手をかけて上る。
ルイズの意図をいち早く察したキングは、そのしっぽをルイズの前に差し出した。
ドレスのため動きにくそうにするが、なんとかしっぽに飛び移ると。それを補うようにキングはしっぽを頭の位置へと運ぶ。
ルイズは、キングの頭に飛び移り、額の冠にしがみついた。
「ほら、シエスタ。貴方も来なさい」
「え……」
ルイズの意図を把握したキングは、もう一度手すりにしっぽを向ける。
「着飾った途端にしっぽを振ってくるような安い人には興味は無いわ。一緒に月夜の浪漫飛行と行きましょう。命令よ」
命令、と言う言葉にシエスタはビクリと肩をすくませたが、やがておずおずと手すりに手をかけて昇り、そのしっぽへと飛び移る。
キングは同じように頭の上へと移す。
ルイズがシエスタへと手を差しのばす。
汚れのない真っ白なグローブがシエスタの目に映った。
おずおずと伸ばされたシエスタの手を、ルイズの方からも手を伸ばしがっしりと掴んだ。
そして、シエスタもキングの頭へと飛び移る。
「さ、キング、高く高く飛びなさい! 息苦しい地表から離れた、空と月しかない場所へ!」
ルイズの命令に、キングは嬉しそうに叫んだ。
その咆吼で会場の窓硝子に一斉にヒビが入る。
しかし後に残ったモノは、ドップラー効果で遠ざかる、対照的な少女の悲鳴と歓喜の声だった。




コレは、とある少女と、蒼き竜の物語。
役立たずと蔑まれ、誰からもバカにされた、少女と竜の物語。
雨を呼び。津波を起こし。雷を呼び。吹雪を起こし。大地を揺らし。炎を吐いた破壊の竜の物語。
誰が想像しうるだろうか。役立たずと言われた彼女らが、一万年の後にすら伝説として語り継がれることになるなど。



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