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Mr.0の使い魔 第十三話

 砂嵐の下の硬貨を【レビテーション】でかき集め、ロングビルは掌に
並べた。相変わらずミイラを削るクロコダイルを横目に、枚数を数える。
エキュー金貨が二枚、新金貨が三枚、銀貨七枚に銅貨九枚。

「しめて4エキュー7スゥと9ドニエ。普通の買い物なら十分だけど、ね」

 ロングビルは皮肉を込めて苦笑した。人殺しそのものに嫌悪感を抱い
たわけではない。そんな甘い感性は、とっくの昔に捨てている。
 だが、クロコダイルの殺し方はあまりに普通でなかった。極限の乾き
で死ぬなどと言う事は、そこそこ湿潤なトリステインでは滅多に見られ
ない現象である。それを意図的に行ったクロコダイルの技能もまた異質。
 と、すれば。クロコダイルの告げた”買い物”とやらも、普通の品物を
買うだけで済むのか怪しいものだ。日用雑貨の類いや往来を堂々と持ち
歩けるものに限らず、盗品や禁制品にも手を出しそうである。そういう
品は押し並べて高く、金貨で百枚千枚がざらにある。今集めた金額では
逆立ちしても届かない。

「物取り二人にしては上出来だが……どうせなら、もう少し欲しいところだな」

 そう呟くと、クロコダイルは砂嵐の回転を早めた。既に赤子ぐらいに
縮んでいた二つのミイラが、あっという間にすり切れる。毛も皮も骨も
全てが微細な粒に還元されて、砂の渦に溶け込んだ。
 用向きが済んだ砂嵐が収まると、それまで渦巻いていた干物の粉末が
足下に積み上がる。人体の七割が水分である、というのは、この世界で
も同じ事。ならば、ここにある”残りカス”は三割。一人あたりの体重が
60キロだと仮定した場合、二人分でおよそ36キロだ。混ざった砂と
合わせると40キロ前後か。
 赤錆の山のようなそれを一瞥すると、クロコダイルは再びロングビル
に呼びかけた。

「この残骸から剣とか斧とか、そういう武器の類いを【錬金】できるか?」
「多少不細工でもよければ、それなりには。あんたが使うのかい?」
「いいや。売り払って資金の足しにする」

 骨までしゃぶるってこういうのを言うのかね。
 頭の片隅でそんな事を考えながら、ロングビルは杖を振った。


 Mr.0の使い魔
  ―エピソード・オブ・ハルケギニア―

     第十三話


 さて、学院を出発したギーシュは、日が傾きかけた頃にようやく王都
へと辿り着いた。馬を預ける際に聞いてみると、クロコダイルと思しき
人物が妙齢の美女を連れて町へ入ったらしい。行き先まではわからない
そうだ。
 女性との関係には聡いと”自称”するギーシュである。無理に接触して
デートの邪魔をする事もあるまい、と結論づけて、さてどうしようかと
首をひねった。せっかく王都に来たのだし、何もせず帰るのももったい
ない。

「……そうだ!」

 何かを思いついたギーシュは、脱兎のごとく駆け出した。


 ギーシュの姿が人ごみに紛れて三分ほどしただろうか。
 空の上をついて来たルイズ達が、王都の門の外に舞い降りた。王都の
空を好き勝手に飛び回る事は、よほどの緊急時でなければ許可されない。
シルフィードに乗ったまま侵入すれば、あっという間に衛士隊が飛んで
来て取り押さえられてしまう。

「ちょっとキュルケ。あいつどっか行っちゃったわよ」
「いいのよ。ここまで来れば用済みだもの」
「この先は徒歩」

 三人は入ってすぐ、ギーシュが馬を預けた馬丁に話を聞いた。
 この短時間に二度も、それも貴族から同じ風体の人物について聞かれ
た馬丁は随分驚いた様子であったが、それでもギーシュの時と同じく丁
寧に答えた。人当たりをよくするのは商売の基本である。
 クロコダイルがロングビルらしき女性と一緒にいた事、どこに行くか
まではわからない事を知って、キュルケは腕を組んだ。後を追いかける
のは少々難しい。だからと言って、ここで待つのは彼女の性に合わない。

「……そうね。この手でいきましょう」
「へ?」
「行くわよ、二人とも」
「どこに?」

 疑問符を浮かべるルイズとタバサを引き連れて、キュルケもまた雑踏
の中へと突入した。


 町中から路地へと進んだギーシュは、あたりの看板を見回した。以前
モンモランシーの買い物につき合った際、この周辺に来た事があるのだ。

「えーと、ピエモンの秘薬屋があそこだから……あった!」

 目的の看板を見つけて、ギーシュの顔が綻んだ。素早く身なりを整え、
おかしなところがない(ギーシュ基準)と確認すると、バラの花片手に
店の扉を開いた。

「頼もう!」

 何か違う。
 中でパイプを加えていた店主はそう思ったが、口には出さなかった。
格好からして、どこぞの貴族のボンボンだとわかったからである。へた
な口をきいて打ち首にされてはたまらない。

「これはこれは。貴族のお坊ちゃんが、こんな場末の武器屋に何用で」
「剣が欲しいんだ。大きくて、見栄えのするやつを頼む」
「おやおや、お坊ちゃんは剣術をなさるんで」
「いや、ぼくのじゃない。師匠に贈ろうと思ってね」
「師匠?」

 幾分驚きを見せた店主に、ギーシュは気分を害する風もなく説明した。
 曰く、立派な体躯の大男である。
 曰く、超常の力でメイジすらも組み伏せる豪傑である。
 曰く、自分の慢心を取り除いてくれた恩人である。
 曰く、弟子である自分を鍛えるために厳しい修行を課してくれる。
 最初のうちこそ相づちを打っていた店主だが、次第にその師匠自慢が
メインになると顔を顰めた。うんざりした店主が「少々お待ちを」と逃
げるように店の奥に引っ込んだのも、仕方がないと言えよう。


 二、三分ほどがさごそと物音が続いた後、再び店主が姿を見せた。手
には黄金色に輝く大剣が抱えられている。鍔の部分や柄の先端に宝石が
埋め込まれたそれを見て、ギーシュの目が輝いた。

「うちで今一番の高級品といえば、コイツでさぁ」
「す、すごいじゃないか!」
「かの高名な錬金術師、シュペー卿がこしらえた一品でしてね」
「あの、ゲルマニアのかね?」
「いかにも。ごらんなさい、この柄の部分に名が刻んでありやす」

 ギーシュが視線をずらせば、なるほど確かにシュペー卿の名前が柄に
刻んである。ギーシュ自身土のメイジであるから、この剣が【錬金】の
技術を駆使して作られた名品だというのはよくわかった。

「すばらしい、これこそ師匠に相応しい剣だ!」
「ただ、それ故に値も張りやすが」

 う、とギーシュはつまった。グラモン家は戦争のたびに莫大な出費が
あるため、どちらかと言わなくても貧乏な貴族である。そこの四男坊で
あるギーシュも、やはり普段は大金と縁がない。

「……ちなみに、どのくらいするんだい?」
「きっかり2000エキュー」
「ぶふぉ!?」

 吹いた。
 豪邸と森のある庭が買える金額である。自分の持ち合わせどころか、
自由に使える金を全てつぎ込んでもそんな額は出せない。

「ちょ、ちょっと高いんじゃないかね」
「言ったでしょう、店一番の高級品だと。この宝石や金の価値を考えてくだせぇ。
 小切手でのお支払い、ご実家の方へ請求書を回す、なんて事もできやすが」

 ギーシュは唸った。これほどの剣、手に入れないのは惜しい。だが、
実家に泣きつくのは無理だ。戦と女には気前がいいが、それ以外の面で
グラモン家は基本的に金遣いが厳しい。勝手にこんな高級品を仕入れた
と知れたら、こっぴどく叱られるのは目に見えている。

「ま、分不相応な買い物はするなってこった。諦めて帰んな、坊主」
「いや、しかしだな……ん?」

 聞き慣れない声に、ふとギーシュは店内を見回した。
 冷や汗をたらす店主の声ではない。
 自分の声でもない。
 けれども他には誰もいない。

「店主、今の声は……」
「さ、さぁ、何の事で? 坊ちゃんの気のせいじゃございやせんか」
「待てこら、お前ら。俺を無視しようとすんじゃねぇよ」


 今度こそ、ギーシュは声の出所を特定した。樽に無造作に突っ込まれ
たいくつもの古びた武器、その中の一本の剣が鍔を震わせている。
 今はその技術が失われて久しいが、遥か昔のハルケギニアでは、自我
を持つ武器を作るメイジがいた――ギーシュは授業で聞いた内容を思い
出した。

「あれは、ひょっとしてインテリジェンスソードか」
「い、いかにも。やい、デル公! 商売の邪魔するんじゃねえ!」
「ケッ、商売だぁ? 見栄えで剣を選ぶような貴族が客なもんかよ」
「何だと!?」
「おう、何だ坊主。やんのか?」

 ギーシュは手にした薔薇の花を構えた。”たかが剣ごとき”から馬鹿に
されて、頭に血が上ったのである。

「このギーシュ・ド・グラモンを侮辱するとはいい度胸だ。
 威勢のよさに敬意を評して、苦しまないよう一瞬で土に還してあげよう」
「おもしれぇ、やってみろや。暇つぶしぐれぇにつき合ってやるぜ」
「……その言葉、後悔するなよ!」

 ギーシュが魔法をかけようとした、まさにその時。

「お邪魔しますわ。あら、ミスタ・グラモン?」
「……何やってんだ、てめェは」
「し、師匠!?」

 新たな客が、店の扉を開いた。


   ...TO BE CONTINUED

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