あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔の夢-14

「ミス・ロングビルが『土くれ』だったとは……! 」
 トリステイン魔法学院の学院長室にて、
 オールド・オスマンは戻ってきたルイズ達の報告を聞き、仰天した。

 されど、流石はトリステイン魔法学院の名立たる長。
 すぐに平静を取り戻し、コホンと咳払いをした後、厳格な顔つきをして言った。

「うむ、よくフーケを捕まえ、『星空の蝶の絵』や『狂乱の環』を取り戻してくれた。
 己が力に狂ったあやつの為に数多もの尊い人々の命が奪われていった……。
 君たちは学院の名誉だけでなくトリステインの平和をも見事に守った訳じゃ」
 巧を除いたルイズ、キュルケ、タバサの三人が誇らしげに礼をする。
「『星空の蝶の絵』は無事に宝物庫に収まり、『狂乱の環』も元々の保管先の貴族の下に返還した。
 フーケは城の衛士の精鋭達に引き渡した。これで一件落着じゃ」

 オスマンは一人ずつの頭を撫でた。
「君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。
 既にその爵位を持つミス・タバサには精霊勲章の授与を申請しておいた」
 三人の顔がぱぁっと輝いたが、只一人ルイズは退屈そうに立っている巧を見て言った。
「……オールド・オスマン。タクミには何もないんですか? 」  
 今回の一件については、フーケを追い詰め、ゴーレムを撃退した巧が一番の功労者である。
 オスマンは首を振った。
「残念ながら、彼は貴族ではない」
「し、しかし……」
「俺は別にいい」
 それまで黙り込んでいた巧が口を開いた。

 微妙な空気を変えるべく、オスマンがぽんぽんと手を打って陽気に告げた。

「さて、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。不安な物事がすべて片付いたことだし、
 予定どおり執り行うことにする」
「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました! 」
 キュルケの顔がぱっと輝く、オスマンがうんうんと頷いて言った。
「今日の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい着飾ってくるのじゃぞ」
 三人は礼をすると、ドアに向かった。ルイズは巧をちらっと見つめたが、
「先に行っててくれ、こいつに話がある」
 と言われて、名残惜しげに部屋を出て行った。

 部屋に残ったのはオスマンと巧、二人きりになった。
「何か聞きたい事がおありのようじゃな」
 オスマンは巧の方に向き直った。
「ああ」 
「言ってごらんなさい。できるかぎり力になろう。
 君に爵位を授ける事はできんが、せめてものお礼じゃ」

 使い魔の夢

 聞きたいことは山ほどあった。
 どれから質問していくべきか。

「そう緊張せんと、楽にしてくれて構わんよ」
 目の前にいるオスマンは左手を玩ばせて砕けた口調で言った。 
「ワシ個人としても君とは一度じっくり話がしたかったんじゃが、
 品評会やらコルベールの奴が倒れるやらバタバタしていて時間がとれずじまいでな」

 そんなつまらない前置きはいい。
 巧は真っ先に頭に浮かんだ疑問を切り出した。

「あの『絵』は何処で手に入れた? 」
「『星空の蝶』の絵、の事か」
「あれは蝶の絵なんかじゃない、人工衛星の写真だ」
「ジンコウエイセイ、とな? 」
 それまでのほほんとしていたオスマンの目が鋭く光った。
 ああ、間違いない。こいつは何かを知っている。
「そいつも、あの『狂乱の環』って奴も俺達の世界にあった代物だ」
「君達の世界? どういうことかね? 」
 手を組んだまま、硬い表情を崩さないオスマン。
 こいつから情報を聞き出すにはこちらも本当の事を話すしかない。
 ここに来て巧はその事実を初めて打ち明けることにした。
「俺はここの人間じゃない。ルイズの『召喚』でこの世界に呼ばれたんだ」
「なんと」
 一瞬驚きの顔をした後、オスマンは重たげに言葉を紡ぎ出した。  
「……その君のいた世界の名は『チキュウ』と言うのではないのかね? 」
「!? 」
「やはりな、あの時の彼と同郷の人間じゃったか」
 オスマンは巧の表情だけで肯定の意を読み取った。
「どういうこった、俺の他にも地球からここに呼ばれた人間がいるのか!? 」
「いや、彼の場合は呼ばれたというより降りてきたというべきか……」
 そう言って窓の方に目を向けると、オスマンは遠い目をして語り始めた。

「数年前のことじゃ。
 このトリステインの国境沿いに空から隕石が落ちて来たと報告があってな。
 たまたま近くにいたワシと知り合いの貴族はその近辺の調査の命を受けたのじゃ。
 その道中、ワイバーンに襲われての。
 逃げ回っていたワシ等を救ってくれたのがあの『狂乱の環』の持ち主じゃ。
 錠を環に填めて鎧を纏うとな、たちどころにワイバーンを蹴散して、ばったりと倒れおった」

「目を覚ました彼に話を聞いたところ、
 自分は空より遥か上の宇宙のジンコウエイセイとやらで作業をしていた所を白い光に包まれ、
 この違う世界の上の宇宙に飛ばされて、
 何とかそこから仲間の助けを借り船に乗ってトリステインの地に降りてきたと語った。
 どうにも要領のつかめぬ話じゃったし、普通なら世迷いごとをと笑い飛ばす所じゃが、
 彼の服装、所持品、雰囲気全てがこのハルケギニアでは到底お目にかかれぬものであったこと、
 助けられたという恩も加えて、嘘をついてるようにはとても思えなんだ。
 彼はこうも言っておった。ここはチキュウではないのか、我々の世界ではないのか、とな。
 おそらくは君と同じ世界にいた人間じゃろう」

「そいつは今、どうしてるんだ? 」
 巧は口を挟んだ。
 生きているのならそいつに会うことで元の世界に戻る手がかりを見つけられるかもしれない。

「学院に運び込んで手厚く看護したんじゃがの、死んでしまったよ。
 最後に『狂乱の環』を使ってはいけない、もし使ってしまえばその人間は狂気に支配され
 破壊と殺戮を繰り返す悪鬼と成り果ててしまうだろう、と言い残してな」
 それからの部分をオスマンは躊躇して言った。
「……全身が灰になって崩れ落ちていったのじゃ」
 まさか、そいつは……その死に方は……!
「オルフェノク……!? 」
「!? どうかしたかの? 」
 オスマンが巧の方に首を傾ける。
「いや、何でもない。続けてくれ」 
「それからワシが彼の持っていた書類を、知り合いの貴族が『狂乱の環』をそれぞれ保管する事となったのじゃ。
 書類の資料にあった文字はまるで異国の文字のようでな、全く解読する事ができなんだ。
 じゃが、その中にあった一枚の星空を写した絵にワシは特に目を引かれての。
『固定化』の呪文をかけて、宝物庫に保管することにしたのじゃ」

 畜生、何なんだよ。
 一つ謎が解けたと思えば、またすぐに次の謎が出てきやがる。
 頭ん中がこんがらがってきた。

 そんな巧を尻目にオスマンは話を続ける。

「ここから先はワシの憶測に過ぎんがの。
 彼をこの世界に導いた白い光、これは『サモン・サーヴァント』の光ではないかと踏んでおる」
「ちょっと待ってくれよ、それは普通ここの生き物を呼び寄せるだけの魔法なんだろ!? 
 そいつとデッカい衛星ごとハルケギニアの宇宙に呼び出すなんてこと、できるのかよ!? 」
 召喚された夜、巧はルイズから自分を呼び出したその魔法について嫌というほど聞かされた。 
 幾らなんでもそんなことはありえないだろう。それこそこの世界は何でもありになってしまうじゃないか。
「有りえない話ではない、召喚された者の周りの物まで呼び寄せてしまう事はな。
 現に君は鉄の馬の形をした乗り物に跨って現われたとコルベールに聞いているが? 
 それに使い魔として呼び出された者が必ず呼び出した者の目の前に現われるとは限らない。
『サモン・サーヴァント』は未だアカデミーでもその全貌を解き明かすことのできない未知の魔法じゃ。
 何が起こっても不思議ではない」

 そして、オスマンは巧の左手に目を向けた。
「後ワシが分かっているのは、君の左手にあるそのルーン。それは伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印じゃ」
「『ガンダールヴ』? 」
 伝説の使い魔か、随分と大げさなモンだ。
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。
 ギーシュや生徒達との決闘の時、銃や剣を持っていつもより上手く動けたとか感じたりせんかったかの?」
「そいつは俺も感じていた」
 にわかにだけどな。
 しかしこの爺、俺の事をずっと見張ってたのか? あんまりいい気分がしない。
「……じゃが、『私』はこう思っておる。『狂乱の環』を使いこなした事に関しては『ガンダールヴ』とは違うとな」
 一人称を改めたオスマンは、全てを突き詰めるべく目線を鋭くした。
「最後にこの老いぼれの方からも一つ聞かせてもらえんかの、
 人の身では使えないハズの『狂乱の環』を何故君は使いこなすことができたのか?」

「それは……」

 そんなの、ただの偶然だと答えるべきか。
 だけど、こいつはきっと気付いている。俺がただの人間じゃないってことを。
 知りたがっている。本当のことを。
 誤魔化すことなんてできない。
 はっきりと言うべきだ、こいつの為にも、そして、俺自身の為にも。
 自分はそれでも人間として生きていくと決めたのだから。 

「それは……俺が人間じゃないからだ」

「……!」
 オスマンの目が開かれる。 

 巧は意を決して言葉を出した。

「俺がオルフェノクだからだ」


「なぁ、本当に行かなくて良かったのかよ、相棒。
 あんな豪華なご馳走、滅多にありつけるモンじゃないぜ」
 脇に置いたデルフリンガーが口を開く。
「ああいうごちゃごちゃしたのは苦手なんだよ」
 巧はベッドの淵にもたれながら気だるそうに言った。 

 アルヴィーズの食堂の上の階にあるホールにて『フリッグの舞踏会』が行われている。
 遠くから見た所、大勢の着飾った教師や生徒達が豪勢な料理が盛られたテーブルの周りで歓談していた。
 あの中に入っていくのは非常に億劫に思われた。
 巧は一人ルイズの部屋に戻り、疲れきった心身を休めていた。

「それなら別にいいんだけどよ……、
 しかし、相棒には驚かされっぱなしだぜ。まさか人間じゃなかったなんてな」
「お前……」
「へへっ、いいじゃねぇか。
 皆、舞踏会に行っちまって、こんな所にいるのは俺とお前さん位なモンだぜ。
 他の連中には聞こえてる訳ないって」
 コイツ……、森の中に捨て置いたままの方が良かったか。
「そう睨むなって。俺とお前の仲だ、他の誰にも言わねぇよ、あの娘ッ子にもな。
 だからさ、頼むぜぇ。昼間みたいなあんな扱いはもう勘弁な」
「……考えといてやるよ」
 巧はそう言ってデルフリンガーを鞘に収め、うるさかったその剣を黙らせた。

 結局、聞いても何も分からずじまいだったな。
 分かることは分かった。だが、分かったというだけで後に続かない。
 何故、俺はこの世界に呼ばれ、その伝説の使い魔とやらに選ばれたのか。
 あの男の言っていた我々の世界とはどんな意味で言っていたのか。
 分からないことは分からないままなのだ。

「あいつも何なんだろうな」
 分からないというならあのオスマンとかいう爺もだ。
 自分がオルフェノクであること、人間ではないことを説明し終えると、
 あろうことか巧の手を取って、
『ありがとう、よくぞ打ち明けてくれた。それが聞けただけでも満足じゃ。
 君が何者であろうと構わない、生徒達と恩人の絵を取り戻してくれた。
 わしはきみの味方じゃ、ガンダールヴ。』
 と、穏やかな笑みを浮かべながら感謝の言葉を送ってくれた。

 何でそんなやり取り一つで俺という化け物を受け入れられるのか、本当に訳がわからない。
 右手で顔を覆い、ベッドに頭を寄せた。

 ざらりとした感じがした。

「……」

 右掌を見る。灰になっていたのは真ん中の辺り。

『我々オルフェノクは人類の進化形だ。
 だが、その急激な進化に身体はついていくことはできない。
 近いうちに我々は滅びの運命を辿ることになる』

「…………行かなくて正解だったな」

 舞踏会に行って、他人に見られていたらどうなっていただろう。
 あの時よりも灰になっている部分が大きい。 
 オルフェノクとしての崩壊は再び始まったのだ。

 分からないことの内の一つがわかった。
 帰る為の手がかりが見つからないのに妙に落ち着いている自分がいる理由。

 元の世界に戻る前に自分はきっとここで朽ち果ててしまうからだ。


 だけど、不思議な気分だ。
 惜しいとか悔しいとか負の感情が全然沸いてこない。

 ルイズの夢を叶えることができたからな。
 シュヴァリエというのが何の称号なのかは分からないが、
 それであいつがメイジとして多くの人に認められるのならいいことなんだろう。
 大半を無為に過ごしてきた自分の人生だが、ようやく意味がもてるようになったのだ。

 舞踏会で踊っているであろうルイズのことを思う。
 昼間、無謀にもゴーレムに立ち向かっていったように
 これまでも皆から魔法の才能がないということで疎まれ罵られて、
 ああやって周囲の目にも後ろを見せず戦って来たのだろうか。
 それに比べると、自分はどうだっただろう。
 オルフェノクという殻に閉じ篭って周りから目を背け逃げているばかりだった。
 そう考えてみると、

「凄ぇな、あいつは」
「あいつって誰のこと?」
「いや、ルイズのことだよ……って、おい!? 」

 返事がした方に頭を向ける。

「ふぅん……、あんたもようやく私に敬意を払うようになったのね」

 そこには舞踏会場にいるはずのルイズの姿があった。
 桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。
 巧は息を呑んで、今更ながらに気づいた。よく見ればこいつは中々の美少女じゃないか。

「何処を探しても見当たらないと思ったら、こんな所でのんびりしてた訳?
 ご主人様をほったらかしにしておいて? 」

 口さえ開かなければな……。

「お前の方こそ何だ、舞踏会はいいのかよ? 」
「抜けてきちゃったわ、踊れるような気分じゃなかったし」
 ルイズはうつむいて巧の隣に向いベッドに座り込んだ。
「何だよ、シュヴァリエとかいう称号も貰えたんだろ? 嬉しくないのかよ?」
「それのこと? オスマン学院長に言って取り下げてもらって来たわ」
「何でだよ? 折角お前が認められるチャンスだったのに!? 」
「自分の力で勝ち取ったものじゃないもの、私自身の実力で掴まないと意味ないじゃない」 
 そう言ったルイズの目線はきっちり前を見据えていた。
 ああ何だ、敵わないな、こいつには。

「それよりタクミ」
 ルイズは巧に向き直って言った。
「何だ? 」
「あんた、違う世界から来たって話、本当なの? 」
「! ……お前、何で……」
「気になったから、皆であんたとオールド・オスマンとの話を聞いていたのよ。
 ミセス・シュヴルーズに止められて聞く事ができたのはそこまでだったんだけど」
 そいつを聞いて安心した、俺が人間じゃないって事までは聞かれてなかったみたいだ。 
「そんなことより質問に答えて? その話、本当なの、嘘なの? 」
 ルイズは鳶色の瞳を大きくし巧に近づいて訊ねる。
「……本当だって言ったら、お前、信じてくれるのかよ? 」
「信じる信じないもないの、
 そういったことは全部ご主人様である私に一番に話すのが筋でしょう? 
 まぁ、助けてくれたから今回は許してあげるけど」
「助けたって何だよ? 」
「暴走してたゴーレムから私を助けてくれたじゃない」
 何だ、そのことか。
「いい事、今回だけは許してあげるけど
 今後、ご主人様である私に向って隠し事とかは一切認めないわ。
 他に何か隠していることがあったら、今の内に話しておくことね」
「……無ぇよ、何にもない」
 巧は手を頭の後ろで組み自然な形で右手を隠しそう答えた。 

「そう、無いならいいのよ。無いなら……、あ?」
 それまで満足の笑みを浮かべていたルイズの顔が思い出したようにハッとなった。
「どうした? 」
「一つだけ、聞いておかないといけない事があるのを忘れていたわ」
 ったく、今度は何だよ。
「タクミ、あんたの夢って何なの? 」

「何で、いきなりそんなこと聞くんだよ? 」
「だって……、ご主人さまの夢だけ聞いておいて自分だけ話さないなんて、……不公平じゃない」
 そう言ってそっぽを向けたルイズの顔は横から見ても真っ赤だった。

 さて、どうしたものか。
 今までの経験から行けば素直に話さないととんでもないことになりそうだ。 
 どう言えばこいつに納得してもらえるものか。

『世界中の洗濯物が真っ白であるように、皆が幸せで……』
 駄目だ、こんなこと、言ってるこっちが恥ずかしくなってくる。
『俺様は毎日、食っちゃ寝、食っちゃ寝……』
 俺は何処の駄目人間だ。

 やっぱ、あれしかないか。

 いつか、似たような事を聞いてきた誰かにも返したあの答。

 巧は空に浮かんだ二つの月を見上げて言った。

「……十年後、俺が生きていたら教えてやるよ」

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