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宵闇の使い魔 第拾弐話

キュルケ達と別れた私達は妨害もなくフネへと到達し、ラ・ロシェールを飛び立った。
正直、三人が心配で仕方がない。
けれど、今私が握っているのはトリステインの未来だ。
今は、大丈夫だという虎蔵の言葉を信じよう。


宵闇の使い魔
第拾弐話:空の浮島


「これ、乱気流とかに入ったら一発で引っくり返る気がすんだがなぁ―――」

虎蔵は月夜の空を進むフネの甲板で、のんびりと葉巻を吹かしていた。

あの後、裏口から脱出した三人は全く妨害されることなく桟橋にたどり着いた。
とてつもなく巨大な樹の枝を利用した桟橋には、まるで飛行船のような形状でフネとやらがぶら下がっている。
元の世界では中々考えられない光景に軽いカルチャーショックを受けた虎蔵だが、
ワルドが船長との交渉を終えるとすぐさま出航となった。

この世界のフネは、《風石》というアイテムで浮き上がり、帆船の要領で風を受けて推力としている。
原理的には、プロペラの変わりに帆の付いた飛行船といったところだろうか。
船体側面にも羽が付いているのだが、十分な揚力を発生させているようには見えないことから、
推力の補助と船体のバランス維持が目的だろう。

スピードは中々出ている。
聞いたところによれば、明日の昼過ぎにはアルビオンのスカボローという港につくそうだ。
接触しなければならない《王党派》は既に王都ニューカッスル付近に構築した陣を包囲されているという。
スカボローからニューカッスルまでは馬で一日。
陣中突破しか手はない。

―――なんとも面倒なこったな―――

ふぅ、と忌々しげに煙を吐き出す虎蔵。
空はゆっくりと黎明時へと移り変わっていた。



数時間後、虎蔵が仮眠を終えて甲板に出てくると、船員達が忙しなく走り回っていた。
鐘楼の上に立った見張りの船員が「アルビオンが見えたぞー」と大声を上げる。

「おはよ、虎蔵。そろそろ見えるわよ」

生欠伸をかみ殺しながらぼりぼりと頭をかく虎蔵にルイズが近づいてくる。
虎蔵はおう、とだけ返して首を回してはゴキゴキと鳴らす。
ふと視線を上に上げれば、雲の切れ間から黒々と大陸が覗いていた。
よくもまぁ、こんな物が浮いているものだ。

「落ちたら大惨事だな」
「―――不吉な事言わないでちょうだい。ただでさえ色々あるんだから」
「へいへい――」

肩をすくめる虎蔵。
昨夜のルイズはキュルケ達を心配して顔色が悪いままだったが、
軽口に乗ってくる程度には持ち直したようだ。
だがその時、鐘楼に立つ見張りが再び大声を張り上げた。

『右舷上方の雲中より、フネが接近してきます!』

船員達に緊張が走る。
見張りの言うとおり、雲の中からフネが一隻近づいてきた。
黒くタールが塗られた舷側からは二十数個の大砲が突き出していて、まるでこちらを威嚇しているかのようだ。

「いやだわ――《貴族派》の軍艦かしら」

ルイズの呟きが風に流される。
虎蔵は次々とやってくるトラブルにため息をつくのだった。


どうやらそのフネは空賊の物だったらしく、停船させられると何人もの武装した男たちが乗り込んでくる。
黒船の舷側にも何人もの男たちが弓やフリントロック銃を持って並んだ。
大砲でも狙われていることを考えれば、抵抗は得策ではない。
更には乗り込んできた水兵に驚いたワルドのグリフォンが、魔法によって眠らされてしまう。
メイジも居るようだ。


その後、虎蔵達は身代金目的ということで黒船の船倉に閉じ込められていた。
ワルドとルイズは杖を取り上げられたものの、虎蔵の武器をただの空賊が発見できる訳がなく、
彼は何も取り上げられていない。
そのため、ルイズもこれといって不安そうにはしていない。

「さて、使い魔君。頼めるかい?」
「構わんが――もう少しまとうや。どうせなら、奴さん方に陸まで運んでもらおうじゃないの」

――それに、ちょいと気になる事もあるしなぁ。ただの賊とは思えん――

暫く船倉に雑然と押し込まれた酒樽や穀物の詰まった袋、火薬樽などを眺めていたワルドが虎蔵に声を掛ける。
だが虎蔵は達観した様子で壁際に腰を下ろして身体を預け、欠伸を漏らす。
ちらりと一瞬だけルイズの指に輝く《水のルビー》を見る。
これほど見事な指輪を取り上げない賊など居るものだろうか?

ルイズは緊張感のなさに一瞬ムッとするが、すぐにそれが正論だと気づいて自分も腰を下ろした。
ワルドもそれにならう。

「しかしアレだな。杖がないと何もできんというのは中々不便なもんだな」

虎蔵が頭の後ろで腕を組んで二人に告げる。
完全にリラックスしている様子である。
はっきり言って囚われている人間の行動ではない。

「君みたいに何本も隠し持っておくというのは、有効な気がしてきたね」
「でもボディチェックされたら確実にばれるのよね――アレのやり方教えてよ」
「―――あー、気が向いたらな」

苦笑するワルドに、隠器術を羨ましがるルイズ。
虎蔵は面倒臭そうに肩をすくめる。
一朝一夕で教えられるものでもないのだ。

と、そんな話をしていると扉が開いて太った男が「飯だ」と言って入ってきた。
手にはスープの入った皿を持っている。
ワルドとルイズの視線が虎蔵に集まった。
扉に一番近いこともあり、「あ゛ー」とかなり面倒臭そうな声を出しつつ立ち上がる。
虎蔵はトレイに手を伸ばすのだが、男はひょいと引っ込めた。

「質問に答えてからだ」
「あ゛?」

虎蔵は滅茶苦茶不機嫌な声をあげて、ギロリと睨み付ける。
その瞬間、男が持っていた自らが優位にあるという思いは、一瞬にして吹き飛んだ。
視線だけで殺されるのではないかという悪寒が背筋に走り、男は「ひっ」と情けない悲鳴を上げる。

「ちょっとトラゾウ―――」

それを見たルイズがしぶしぶと立ち上がり、彼の前に出る。
ワルドもその男の情けなさにくくっと肩を揺らした。
虎蔵が軽く肩を竦めて一歩引くと、ようやく男が口を開いた。

「お、お前たち――アルビオンに何の用だ」
「旅行よ」
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい何を見物するつもりだかな――」

男はスープの皿をルイズに押し付けると、逃げるように出て行く。
鍵が閉まる音を聞くと、ルイズが虎蔵の真似か肩を竦めて見せた。


その後、暫くすると再び扉が開いて痩せぎすの男が入ってきた。
彼はルイズとワルドに向けて、アルビオン貴族なのかと聞いてくる。
彼が言うには、自分たちは《貴族派》ではないが、彼らと協力し合っているため、
アルビオン貴族であるなら安全に港まで運んでやるとの事だった。

ここでルイズがYesと答えれば丸く収まってスカボローなり何処かの港なりに運んでもらえるだろう。
だが、そこはやはりルイズである。
彼女は首を横に振って、真っ向から痩せぎすの男を睨み付けた。

「誰が薄汚いアルビオン貴族なものですか。バカ言っちゃいけないわ。私達はトリステインからの《王党派》への使いよ。
 つまりは大使なのよ。分かる?分かったら、大使としての扱いを要求するわ!」
「ふん―――正直なのは、確かに美徳だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」

きっぱりと言い切るルイズに、痩せぎすの男は呆れたように答える。
だが―――

「いや、ただじゃ済まないのはお前さんだなぁ―――」
「へ―――なッ!?」

男は硬直して、驚愕に目を見開いた。
それもそうだろう。
虎蔵はボディチェックで何も出てこなかったし、この部屋には武器の類は置いていない。
にも拘らず、彼の手には刀が握られ、それが一瞬の内に自らの首に押し当てられているのだから。

「馬鹿だな。護衛も付けずに―――死ぬか、頭の所に案内するか。どっちが良いよ?」
「――――わ、分かった。案内する。するから、これを――」
「駄目だ。大声を上げようとしたら首が飛ぶと思えよ?神様にお祈りする暇なんぞやらんぜ」


そう言って彼の首筋に刃を押し当てながら、船倉を出て行く一行。
ルイズは自らの使い魔の手際の良さに満足気である。
虎蔵は途中でワルドと交代し、船員に発見される度に一瞬で肉薄し、首筋に手刀を叩き込んで気絶させていった。

そして船長室にたどり着くと、痩せぎすの男を先頭にして中へと滑り込む。
部屋の中には豪華なディナーテーブルがあり、その上座で派手な格好の空賊が腰掛けていた。
その空賊は大きな水晶の付いた杖を弄っている。
どうやら、こんな格好なのにメイジらしかった。

「ん、なんの―――貴様らッ!?」

彼は虎蔵達に気づき、慌てて立ち上がって杖を構えようとするのだが――

「―――ぐッ!」
「残念。警戒が足らんね」
「頭ッ―――!?」

虎蔵は空賊の頭が杖を構えた瞬間に刀を投擲し、杖を弾き飛ばす。
ワルドに刀を突きつけられたままの痩せぎすの男が叫び掛けるが、ワルドが刃を首にわずかに食い込ませて押し留める。
そして虎蔵が一息にテーブルを飛び越え、男に刀を突きつければ、完全に形勢が逆転した。

「くッ―――武器は全て取り上げた筈じゃなかったのか?」
「俺ァちょいとばかし"手品"が得意でな」

憎々しげに呟く男に虎蔵がニヤリと笑みを浮かべる。
ルイズは弾き飛ばされた杖を拾い上げると、彼に向けて突きつけた。
そして精一杯胸を張り、堂々と告げる。

「卑しい空賊。私はトリステインからアルビオンへの特使です。
 貴方たちの小金稼ぎに付き合っている暇はありません。命が惜しければ、今すぐにフネを最寄の港へ。
 無駄な殺生は好みません。そうすれば命は助けます」

その言葉を聴いた頭の顔色が変わった。
彼の探るような視線がルイズに向けられる。
ルイズはソレを正面から睨み返す。
婚約者の威風堂々とした仕草が嬉しいのか、ワルドは笑みを零している。

「頭―――」
「ん?お前―――その指輪は―――」

男はルイズの指に輝く《水のルビー》に気づき声を漏らした。
ルイズは《水のルビー》を軽く掲げる。
その凛々しい佇まいと相まって、それはとても輝いて見えた。

「これは姫殿下より頂いたものよ。これがどうかしたのかしら」
「いや、これは失礼したね。大使殿――」

男の口調ががらりと変わり、三人とも目を見張る。
彼は刀を突きつけられたまま黒髪をはぐ。カツラだったようだ。
眼帯を取り外し、汚らしい髭をびりっと剥がす。
見事な変装だったようで、現れたのは凛々しい金髪の若者であった。
痩せぎすの男が「で、殿下―――」と呻く。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官―――そしてアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。
 ようこそ、アルビオン王国へ―――出来れば、剣を引いて欲しいのだけど。駄目かな?」

その男、ウェールズは首筋に触れる刃を恐れることなく、微笑んだ。
ルイズはぽかんと口を開いて、唖然としている。
それもそうだ。薄汚い空賊の男が、突然王子様に代わってしまったのだから。
虎蔵は虎蔵で、彼の言っていることが真実か分からないのでどうしたものかとルイズに視線を向ける。
ワルドだけが興味深そうにウェールズを見ていた。

「と、トラゾウ。収めて!」
「あいよ」

ハッと我に返ったルイズが慌てて虎蔵に命令する。
虎蔵はスッと刀を納めて、何処ともなく"隠して"しまう。
ワルドも痩せぎすの男を開放して、刀を虎蔵に返した。

「大変失礼を―――」
「いや、あんな格好をして居たのだからね。仕方のないことだ。
 こちらも大使殿を船倉などに閉じ込めてしまった訳だから、お互いに水に流すという事でどうかな?」
「分かりました―――しかし、なぜこの様なことを?」
「敵の補給路を立つのは戦の基本。だが、まっとうにやってはあっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまうからね」

ウェールズの言葉になるほど、と頷くルイズ。
痩せぎすの男がすっとウェールズに耳打ちすると、全員に一礼して出て行った。
来る途中に気絶させてきた船員達を起こして、事情を説明しに行くのだろう。
確かに、よくよく見れば身なりこそ空賊らしいが、立ち振る舞いからは粗野な感じがしない。

「して、御用向きは何かな」
「はい――アンリエッタ姫から密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。君は?」
「私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。
 そしてこちらが姫殿下より大使の任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔に御座います」

ワルドがすっと歩み出て、見事な作法で挨拶をする。
ルイズはそれに習うが、虎蔵はいつもの如く何処吹く風で壁際に下がった。
ルイズは胸のポケットから密書を取り出すと、恭しくウェールズに近づくのだが、途中で足を止める。

「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」
「まぁ、さっきまでの格好を見れば無理もない。そうだな―――
 これなら信用して頂けるかな。アルビオン王家に伝わる《風のルビー》だ。
 君のその《水のルビー》に近づけると―――」
「まぁ、これは――」

二つの王家に伝わるルビーが近づくと、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。
ルイズは思わず驚きの声を漏らす。

「水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ―――」

ウェールズは今や風前の灯となったアルビオン王家を思ってか、何処か寂しそうに呟いた。



「そうか。結婚か。あの愛らしいアンリエッタが―――私の可愛い、従兄弟は」

その後、アンリエッタからの手紙を呼んだウェールズはそう呟き、微笑む。
ルイズにはそれが心からの笑みには思えなかった。
彼はアンリエッタからの手紙を丁寧にたたんで胸のポケットにしまう。

「だが残念ながら、あの手紙は今手元に無くてね。ニューカッスルの城にあるんだ。
 多少面倒だが、ニューカッスルの城まで足労願いたい」

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