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マジシャン ザ ルイズ 3章 (9)

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マジシャン ザ ルイズ (9)イゼット・エンジン

緑にも青にも見える不可思議な光が周囲の壁に灯り、空間全体を照らし出している。
浮遊大陸アルビオン、その下層部に存在する広大な空間に、一体の赤いドラゴンがいた。
それはその巨体を揺らしながら、指先を器用に動かして目の前のものに細工を施している。
ドラゴンの前で向かい合うもの、それもまたドラゴンであった。
赤いドラゴンとは対照的な、モノクロのドラゴン。大きさは赤いドラゴンよりも更に大きい。

しかし、両者の区別は間違えようが無い。
そもそも、その2体は生ける竜と生けざる竜の違いがあった。モノクロのドラゴンは生物ですらない、機械の竜である。

機械仕掛けの竜を弄る赤い竜、その背後に男の声がかけられた。

「やあ、竜殿。お元気そうで何よりだ。それで、頼んでいました準備はどの程度進んでいますかな?」
呼ばれた赤竜が首をぐるりとまわし、背後の契約者、ワルドを見やった。
「ワルドか、…予定より早いのではないか?」
人語を解する竜、ハルケギニアで韻竜と呼ばれる幻獣こそが、この火竜であった。
全身を覆う赤い鱗は暴虐の力を発散させているが、それらは彼の瞳に宿る知性の輝きを少しも損なっていない。

「予想以上にゲルマニア帝国の反撃が厳しいのでね、早々に追加兵力の投入が必要になりそうなのです」
「ふん、それで催促に来たというわけか」
「ああ、申し訳ないのですが、その玩具をどうにか使えないものかと思いまして。
 勿論、兵器として使えるなら、あとはどう弄ってもらっても構わないのですが」
「口の減らん奴め。
 お前が我に与えたこれらの遺物が無ければ、炭も残さず焼き尽しているところだ」
「ははは、ということは気に入っていただけているようで何よりです。
 それで、どうですかな?
 アルビオンを移動要塞として使えるようにして頂いたのは予定外の出来事でしたが、本命のそちらの方は調子は」
ぐるるると一声唸り、竜は機械竜へと向き直り、説明を始めた。
「これらはどうやら機械生物として設計されたもののようだ。
 動力と思われるクリスタルに損傷があり、今は完全に機能を停止している。
 無粋な無能者がクリスタルを修復し、再起動させようとしたようだが、結果は見ての通りだ」
火竜が周囲の空間を首を巡らして指し示す、周囲には火竜が弄っている機械竜と同じものが何体も放置されていた。
「それで、偉大な竜殿はどうするおつもりですか?」
「ふん、一万年を生きたこの我を、間抜けどもと一緒にするな。
 我は一度完全にクリスタルを取り除き、それを別のエネルギー培養体と融合させることで、新たな動力源の精製に成功した。
 見ろ、これこそがそのサンプル、ミジリウム・クリスタルだ」
火竜は誇らしげにそう言うと、機械竜の構造の一部分を指差した。そこには赤と青に輝くクリスタルが設置されている。
「ということは、すぐにでも戦場に投入可能なのですか?」
「そう逸るな短命の者よ。
 クリスタルを交換し、すぐに稼動可能なイゼット・エンジンはここにある分だけだ。
 奥にある分はまた別の処置をしなくてはならん」
「イゼット・エンジン………」
その呟きを聞いて竜がギロリと火線のような視線でワルドを見下ろす。
「何か文句があるのか、ワルドよ」
「いえ、何も。
 兎も角、ここにある分だけでも、すぐに投入可能というのは朗報です」
ワルドは周囲を見渡しながら満足そうに頷いた。
これだけの数があれば、ゲルマニアとの戦いで失われた兵力を補って余りあるように感じられたからだ。
そんな様子のワルドを見据えながら、火竜が口を開いた。
「しかし、ワルド。その聖地とやらにはここにあるものを超える、興味深い遺物があるというのは本当なのだろうな」
「おやおや、まだその件をお疑いでしたか。
 ええ、聖地にある遺物は、ここにあるものなど比べ物にならぬものですよ」
「ならば何故すぐに聖地へ向かわん」
「今は聖地を回復する前にやらなくてはならない些事を片付けているだけのこと。
 片付き次第すぐに聖地へお連れいたしますよ」
竜が見分するような視線をワルドに向ける。
微動だにしないワルド。
何秒かの時間が流れると、火竜は首を前方に向け、元の作業に戻った。
「………良かろう、早くその些事とやらを済ませることだ」





ガリア王国王都リュティス、ヴェルサルテイル宮殿グラントロワ。
その地下牢獄にシャルロット・エレーヌ・オルレアンが繋がれていた。
杖を取り上げられるだけではなく、衣類まで剥ぎ取られ、その身に纏っているのは薄布一枚という格好である。
加えて、そこから伸びる白く美しい手足には、痛々しい赤い痕が何本も走っている。
明らかに貴族に対する仕打ちではないこれらは、この城の主人たる者の命令であった。


「いい格好ね、壊れた人形娘にはお似合いの格好だわ」
牢の前、豪奢な衣装を纏った美しい青髪の少女がそこに立っていた。
そう、青い髪、ガリア王家の血を引くことを示す青髪である。
彼女はイザベラ、今やガリア王国の王となった、女王イザベラ一世であった。
イザベラは鍵で牢獄の錠前を外すと、その中へ開け入り、床に伏せっているタバサに近づいた。
「起きなさいよ!誰が寝ていいと言ったの!この人形め!」
イザベラが意識を失ったタバサの胸倉を掴み、強引に引き起こした。
乱暴な手つきで起こした為、びりりとタバサの薄服が破れたが、傲慢な女王は気にせずに続けた。
「起きろって言ってるのよ!」
今度は振り上げた手を二度、三度とタバサの頬に見舞いする。
「うっ………」
そうして何度か手を張った後に、タバサは目を覚ました。
「やっとお目覚めのようね、全くあんたは愚鈍だわ」
意識を取り戻したタバサが目を開けると、そこには触れ合うほどに近づいたイザベラの顔があった。
目の前にいるのが、自分の家族を滅茶苦茶に壊した男の娘、イザベラであることが分かっても、タバサの心は何の反応も示さなかった。

「何よ、何か言ったらどうなのよ!ああ!?」
「っ!」
イザベラが引き起こしたタバサを力任せに壁に叩きつけた。
横殴りに激しく壁へ衝突したタバサの額から一筋の血が流れ落ちる。
「あははっ、人形娘でも血ってのは赤いのねぇ。
 てっきりあんたには緑色の血が流れてると思ってたわよ。ほら!!」
イザベラは右手でタバサの額から垂れた血をごしごしと擦る。
そうしてから血で赤く汚れた、自分の手のひらをタバサに突きつけた。
「御覧なさいよ!赤い血よ!?ほら!」
タバサがゆっくりとそこに目線を這わせると、イザベラの美しい手が血に染まっているのが見えた。
血は赤い、そんなことを知らない人間はハルケギニアには誰も無いだろう。
そんな風に思う、心の何処かが呆けたままのタバサに、次のイザベラの発言は冷や水を浴びせるものであった。

「そうよね、赤い血よね……、それで、父上の血はどうだったの!あんたは見たんでしょう!?
 どうだったのよ!父上の血は同じ色だった!?赤かった?あんたが思うような青い血だったの!?
 啜ってみた!?どんな味がした?こんな味だった!?こんな味がしたの!?
 答えなさいよっっ!!」
強引にタバサの口を開けさせたイザベラは、その口腔内に血まみれの指を突っ込んだ。
ぐりぐりと動かされる、自分の口の中で動かされる指の感触。
それを感じながら、タバサは目の前の哀れな少女を見て、涙した。
イザベラは、最愛の父を失ったのだ。
家族を理不尽な力によって奪われたのだ。
大切なものを突然に奪われた少女、その気持ちがタバサには痛いほどに分かった。
目の前の少女と過去の自分が重なる。
タバサはこの時、初めて自分の犯した過ちの大きさに気がついた。

父を殺した男の復讐を思った、あの男がガリア王ジョゼフを殺す瞬間、タバサには止めに入る選択肢があった。
けれど、それをしなかった。
憎むべき父の仇、それをとってくれる男の存在をタバサは許容した。
それはジョゼフ殺しにしたのと変わらない。

けれど、憎むべき仇にも愛し愛される者がいたのだ。
自分だけが持つと思っていた、正当な権利が今、イザベラの手にある。
復讐が生む復讐の連鎖。
誰よりも苦しんだと思っていた自分が、こんなことにも気付かなかったことに、タバサは悔しさと悲しさで涙した。

「はは、はははっ!あんたの泣き顔なんて始めて見たわ!
 そうよ、その表情よっ!それが見たかったのよ!」
イザベラは歓喜の表情でそう言い放つと、タバサの口に詰めていた指を引き抜いた。
「だから、その顔に免じて今日はこれで勘弁してあげるわ」
タバサの唾液に塗れた指を、服の袖で粗野に拭いながらイザベラが言った。

「ねぇ?私を見なさい―――シャルロット。
 今や私はこの国の女王、全てを手に入れたわ。
 これからは何もかもが私の思い通りになる、ガリアの女王だもの。
 ………でもね、私は何で私が女王になったか分からないの」

ぞっとするような虚ろな瞳、怖気が走るような冷気の言葉。
タバサは床に這い蹲りながら涙と鼻水と涎で濡れた顔で、イザベラを見上げた。

「全部、ぜーーーーんぶ、私のあずかり知らぬところで進んだこと。
 私はいつの間にか女王にされて、いつの間にかトリステインと戦争を始めさせられていたわ。
 まるで悪い夢のよう。
 私はこの世界の歯車、誰かが決めた通りに動く為のつまらないピース。
 女王なんて嘘っぱち。
 私は人形、誰かの決めた通りに動く人形。

 ねぇ、あんたもこんな気持ちだったの?」

「………」



タバサはイザベラが去った牢獄の中、一人考えていた。
自分のこと、父のこと、イザベラのこと、ジョゼフのこと。
ぐるぐると思考がループし、終りの無い迷宮に迷い込んでしまったようだった。
そんなタバサを、本日二人目の来訪者が現実に引き戻した。

長身をローブで覆っている、手には杖、顔は白い仮面で分からない。
「そんなところから出たくは無いかしら?シャルロット・エレーヌ・オルレアン」
「………フーケ」
「…ありゃ、すぐにばれちまったね」
片手で白い仮面を外すと、その下から現れたのはタバサの指摘どおり土くれのフーケであった。
「まあ、別にばれたって構いやしないけどね、所謂演出よ、演出。
 それで?出たいの?出たくないの?お姫様」
「………」
「あー、やっぱそれか。何を企んでるのって顔ね。
 はいはい、白状するわよ」
「………別に何も言ってない」
「目を見りゃ分かるわよ。
 で、理由なんだけど…すごい陰謀を予想してくれてそうなところ悪いけど、単なる気まぐれだよ、気まぐれ」
「…気まぐれ?」
「そう気まぐれさ。強いて言うなら、今のワルドが気に入らないから、ささやかな反抗をしてみるってところかな」
「…ワルド、…あれ、本当に?」
「ああ、正真正銘本物だよ。バケモノみたいな力をどこからか仕入れてきたみたいだけどね。
 あいつがあんたを捕まえたのは、ご執心の桃色娘をおびき寄せる餌にする為さ」
タバサの脳裏に桃色の髪をした同級生の少女の姿が思い浮かんだ。
「あと、今起こってる戦争についてもあいつの差し金。
 あたしはもうそんなやり方にはついて行けないから、早々に抜けさせて貰おうって算段な訳。
 でも、何にもしないで逃げるってのも癪だから、あんたを逃がすの。
 ついでだから、あんたが逃げる途中、どっか適当なところまで使い魔で運んでくれると凄く助かるわ」
懐から取り出した鍵の束を左右に振りながら、悪戯好きの少年のような笑顔でフーケが言う。


「………わかった」
力強く、そう答えるタバサであった。




                「車輪付きのエンジンより、脚付きのものの方がずっと生き生きして見えるのはどうしてかな?」
                「生まれてきたからだろう」


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