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宵闇の使い魔 第拾壱話

お姫様の密命で向かうは「白の国」アルビオン。
高度3000mに浮かぶ国。
やたらと相性の悪そうなところだ。
加えて何処に行ったか分からんマチルダに、メイジを襲う自称物取り。
色々ときな臭い展開になってきたもんだ―――


宵闇の使い魔
第拾壱話:奥の手


赤い月が白い月の後ろに隠れ、一つになった月が青白く輝く夜。
《女神の杵》亭にほど近い建物の屋根に、二人の人影が現れた。
黒いローブを頭から被った人物と、貴族然とし黒マントに白い仮面をつけた人物。
《土くれ》のフーケと、彼女を脅して協力させている人物である。

「乗り気ではなさそうだな――《土くれ》」
「ふん。首筋が冷たいままで乗り気になれる奴が居るなら、是非お目にかかりたいものだね」

男の言葉に、フーケは皮肉気に答えた。
これから彼らの居る宿を襲撃しなければならないと思えば、口調も荒くなるというものだ。
小娘達は兎も角、彼に本気で敵に付いたと思われれば、下手をすると命が無い。
名前を明かしたくらいで、どの程度の信頼を得られているか――
そして、隣のこの男が何時までこっちに張り付いているか――

「まぁ、やるしかないのなら、やるさ―――」

彼女はそう呟くと、ゴーレムを作るために意識を集中させた。



その頃"彼"こと虎蔵は、一階の酒場での騒ぎから抜け出して、葉巻を手に二階のテラスへとやってきていた。
今夜は双月が重なり、彼の元居た世界の如く一つに見えている。
もっとも、だからと言って郷愁に駆られるような性質ではない。
むしろ月とは相性が良くないのだから。
葉巻を吹かしながら、やっぱり吸いなれてんのが良いなぁ、などと全くどうでも良いことを考えていた。

「トラゾウ――こんな所に居たのね」
「ん?」

背後から声をかけられ振り返れば、神妙な様子のルイズが其処に居た。
彼女は隣までやってくると、虎蔵と同じように月を見上げる。

「月を見てるの?―――トラゾウの居た世界は、月が一つなんだったわね」
「ん―――あぁ。それがどうかしたか?」
「ホームシックにでもかかったんじゃないかと思ってね」
「真逆。吸いなれてる煙草が欲しい、ってだけだ」

ルイズの言葉に虎蔵は肩をすくめる。
確かに彼の立場でこの月を見上げていれば、そう思われても仕方の無いことだが。
ルイズは答えを聞くと、呆れたように小さく笑って「ほんと、そんなのばっかね――」と言った。

「けど、ほんとそんな事ばっかり言ってる奴が、《閃光》のワルドを倒しちゃうなんて思わなかったわ」
「倒したって、別に向こうも本気じゃなかったからな」
「それでもよ」

虎蔵は肩をすくめる。
正直、ルイズが何を良いに来たのかが分からなかった。
煙をルイズにかからないように吐き出してから、彼女に視線を向ける。

「なんだ、婚約者を倒した文句でも言いに来たのか?」
「違うわよ―――昨日の夜にね、ワルドに結婚を申し込まれたの」
「ほう――そりゃめでたいな」
「淡白な反応ね――」

虎蔵の反応に、ルイズは何故か苛立ちにも似た感情を持った。
淡白ではあるが、祝福をしてくれているのに、だ。
もしかしたら、自分はワルドのことを好きではなくなったのだろうか?とすら考える。
だが、学院で久しぶりに見たときの胸の高鳴りは、今でも確かに覚えている。

「婚約者と聞いてたからな―――んで、なんだ。結婚報告か?」
「―――違うわよ。私が結婚したら、貴方が使い魔でいるのは不味いとか考えないの?」
「まぁ、あいつにしちゃ面白くないかもしれんね」

そう言って肩をすくめる虎蔵に、ルイズも頷いた。
今の状況にしたって、面白くはないとは思うのだが。
まぁ、何も言ってこないのならば、虎蔵が気にすることではないだろう。
もしかしたら、昼間のアレにそんな意図があった可能性はあるのだが。

「そうなったら、貴方どうするのかな、って。ほら、一応御主人様としては、其の辺りも気にしないと―――
 なんだったら、私からワルドに頼んで一緒に―――」
「なに、適当にどうにでもするさ。こっちの事は気にしなくてかまわんて」

ワルドと結婚しながら、虎蔵とも一緒に居られる。
少女特有のわがままさと独占欲を口にするルイズだが、虎蔵に遮られてしまう。

――――どうにかって、どうする気よ―――

ルイズは自分の使い魔ではなくなった虎蔵を想像してみる。
キュルケが捕まえるだろうか。今までと比べると割と本気っぽい。
タバサと居るかもしれない。最初にフーケのゴーレムが出たときの連携は絶妙だった。
もしかしたらミス・ロングビル?なんだか良く話をしていて、仲が良いみたいだ。
厨房で食事を出してるメイドってこともないとはいえないだろう。
まったく根拠のない想像が幾つも浮かんでしまう。
虎蔵ならば、一人で何処かに行ってしまう可能性が一番高いというのが、頭で分かっているのに、だ。

そんな嫌なイメージばかりが頭に浮かんで、ルイズは思わず顔を伏せる。
だが其の時、足元がさっと陰った。
テラスを照らしていた月明かりが、何かに遮られたようだ。

「なッ―――フーケ?こいつぁ、どういう事だ――」

なんだろう、と視線をあげたルイズが見たのは、重なり合った月を背後に立つ巨大な岩ゴーレムであった。
虎蔵がわずかに緊張した声をあげる。
そう、フーケの30m級だ。
肩には黒いローブと、黒マントの人影が見える。
前者はフーケだろうが、後者は誰か――――

「随分と珍しい所で会うな―――《土くれ》さんよ」

虎蔵がやたらと皮肉げに告げる。
ゴーレムの身体で月明かりが遮られ、よく見えないが―――フーケから何か悔しそうな雰囲気が感じられた。
気のせいかもしれないが。

「こっちも"命がけ"なもんでね―――すまないね」
「ちッ――訳が分からんな―――合流するぞ」

ゴーレムが腕を振り上げ、テラスの柵を破壊する。
岩だからなのか、前回よりも動きが硬く見えた。
虎蔵は飛び散る破片からルイズをかばうと、強引に担ぎ上げて室内へと飛び込んだ。


ルイズを荷物のように肩に担いだまま一階に降りると、そこでも修羅場が発生していた。
いきなり玄関から現れた傭兵の一隊が、酒場で飲んでいたワルドたちを襲ったらしい。
四人がテーブルを盾にして魔法で応戦しているが、傭兵たちはメイジとの戦いに慣れているのか、ぎりぎり魔法の射程外から矢を射掛けてくる。

「こりゃまた、凄い事になってんな――無事か?」
「あぁ。しかし参ったな。明らかに僕達を狙っている上に、精神力切れを狙っているようだぞ――このままではジリ貧だ」
「場所が場所だから、あまり大規模な魔法も使えないしね――」

虎蔵が彼らの元に滑りこんで安否を確認する。
全員無傷のようで、抱えたままのルイズがほっと安堵の息をついたのが分かる。
とはいえ、ワルドの言うとおりこのままではジリ貧なのは確実だ。
矢を撃つ傭兵とは別に、剣や斧を手にした傭兵達が待機しているのが見える。
時間を掛けて精神力を減らしてから、接近戦を挑むつもりのようだ。
ならば―――

「こっちから仕掛けるか―――こいつ頼むわ」

そう言ってルイズをワルドに預けると、テーブルの影から一息に跳躍。
空間の上下を無視したかのように天井を蹴り、一瞬のうちに傭兵達へ肉薄した。

『ッ――!!』

あまりにも異常な動きに息を呑む傭兵たちだが、すぐさまワルド達に向けていた矢を虎蔵へと向ける。
だが、虎蔵は手近な傭兵を強引に引き寄せ、首をへし折りながら盾代わりにする。
哀れな傭兵は一瞬で絶命し、死して更に矢の雨に晒された。
虎蔵は使い終わった盾を傭兵達の集団へ向けて軽々と投げ捨てる。

「さぁて――明日の朝日を拝む気の、ねぇ奴以外は退いて去れッ!!永の無聊の慰みに、そっ首引いて並べるぞ!!」

ニヤリと笑みを浮かべ、高らかに宣言すると、蹂躙を開始した。
打撃で重い鎧に守られている傭兵を吹き飛ばし、軽装の傭兵は関節技で締め落とす。
降り注ぐ矢は、気絶したり首を折られて絶命していたりする傭兵を盾にして凌いだ。
次々と無力化されていく仲間に、傭兵達の中には血相を変えて逃げ出すものまででてきた。

「糞ッ、なんだあの化け物はッ!」
「引けッ!引けーッ!!あんなの相手に出来るか。ただ餓鬼のメイジを相手にするとしか聞かされていないぞ!」

大混乱である。元々狭い所で戦っている上に虎蔵に撹乱され、放たれる矢が味方にもあたる。
接近戦を挑めば、吹き飛ばされるか盾代わりにされるかだ。
虎蔵は一方的な蹂躙を続けていった。。
そして暫くしてまともに攻撃してくる傭兵の数が減ってくると、
一団の中でも比較的良い装備の傭兵の背後に周って首に手を絡みつかせた。
部下ごと纏めて雇われた傭兵だったのか、一時的に矢の雨が止んだ。

「何もこんな所で命ァ掛けることもあるめぇ。引いてくれんかね」
「ぐっ――ぞれ、は――ぁがッ――」

しかし傭兵も、仮面の貴族に逃げれば殺すと言われているためか、すぐには頷かない。
虎蔵は肩をすくめると、恐らく部下ではない傭兵が放った矢への盾に利用すると、彼の首を玩具の様な音を立てて捩り曲げた。

――素手だとどうも調子が出んな。この世界そのものに陰気が強いのか?或いは今日が特別か――

空の重なり合う月を思い出しながら、新たに矢を放とうとしていた傭兵に死体を投げつけた。
ラ・ロシェール自体は山中にあって場としての相性が良いのだが、月の影響が強いらしい。
武器を持てば《ガンダールヴ》の効果で相殺できるか、ともすれば余剰分が出るのだが。
とはいえ―――

「―――がッ!?」

そもそも相手が並の傭兵如きでは然したる問題にはなりはしない。
また一人、哀れにも盾代わりに捕らわれた傭兵の首が圧し折られた。


数分後、宿の酒場は台風でも上陸したのかというような状況になっていた。
椅子やテーブルだけでなく、酒瓶や料理が散乱している。
虎蔵が素手で戦ったため、血が殆ど流れていないのが幸いである。
その中でギーシュがまだ息のある襲撃者を、ワルキューレできつく縛り上げている。
それを指示した虎蔵は、他の客からの恐怖の視線を受けながらも、まったく気にした様子もなく労働の後の一服を味わっていた。

一方、ワルド達は顔をつき合わせて今後の算段を練っている。
こういった事態になった以上、アルビオンの《貴族派》に密命が抜けているのは間違いない。
で、あるならば―――

「不味いな―――ここまで形振り構わないとなると、フネに急ぐべきかもしれない」
「どういうこと?」

ワルドが腕を組んで深刻そうに言うと、ルイズが数名の死体から目をそらして問う。
メイジとはいえ、貴族とはいえ、まだ16の少女だ。
死体などそう見慣れている物でもない。
それでも身体と頭を動かしやるべき事をやってはいるのだから、襲撃者たちをのした虎蔵を見て、
ただおびえているだけの周りの貴族達よりよほど優秀であるといえるだろう。
キュルケやギーシュも同様で、タバサだけは何時も通りの様子だった。

「フネを飛べなくされるかも知れないって事でしょ」
「其処までするの!?」
「可能性は十分にあるんだよ、ルイズ。彼らはあと数日僕らを足止め出来れば良いのだからね」

キュルケの言葉に驚くルイズ。
だが、確かにそうだ。
虎蔵の活躍によって、この場で一行を抑えるのが難しくなった以上、その手を取らないとは限らない。

だが虎蔵は、少し別の考え方をしていた。
この傭兵達が《貴族派》に雇われているとして、彼らが行うべきは自分たちの足止め一択である。
ワルドの言うとおり、足止めで良いのだから、わざわざ襲い掛かってくる理由は無い。フネを狙えばいいのだ。
相手にフーケが居る以上、虎蔵の実力は伝わっている筈なので「足止めで良いのに調子に乗って倒しに来た」という可能性は考えにくい。
そう、この襲撃そのものが不自然なのだ。
足止め以外の目的があるとしか思えない。

―――だが、それが何だってんだ?―――

虎蔵は舌打をしながら、咥えた煙草に火をつけた。
ふと視線を感じると、タバサが何か言いたげ様子で虎蔵を見ていた。
彼女もこの不自然さに気づいたのかもしれない。
密命の内容を知らなくても、断片的な情報から違和感に気づいたようだ。
だが、彼女も虎蔵も考えが上手くまとまらない。
虎蔵はタバサに、肩をすくめて見せるしかなかった。

「仕方が無いか――諸君、このような任務の場合、半数が目的地につけば、任務は達成とされる」
「貴方達が桟橋へ、私達はフーケ達を引き止める――と」
「そういう事だ。傭兵は使い魔君が殆ど倒してくれたようだから、フーケを引き止めるだけで良い。
 頼めるかな、キュルケ君、タバサ君、ギーシュ君」

しかし、虎蔵の思考をよそに状況は進展していく。
ワルドは自分の言わんとした内容を、すぐさまキュルケが読み取った事に満足気に頷いた。
ルイズは心配そうな表情を三人に向けるが、キュルケが優しげに笑ってルイズの肩を叩いた。

「大丈夫よ。時間稼ぐだけなんだから、上手く逃げ回ってることにするわ」
「任せて」

それにタバサとギーシュも――ギーシュは青い顔をしているが――頷く。
ワルドは三人に「武運を」と告げてから立ち上がり、店の奥へと向かった。

「トラゾウ!聞いてた?行くわよ」
「はいよ――ッと」

ルイズも虎蔵に声をかけ、ワルドの後を追った。
しかし虎蔵は、返事こそしたがすぐに彼女を追うことはせず、一度キュルケ達の元で足を止めた。
早く行かないの、といった表情を見せる彼女らに、虎蔵は小さめの声で告げた。

「詳しく説明する時間がねえから手短に行く。フーケは敵じゃない可能性が高い」
「どういうこと?」
「―――舞踏会の夜から、俺が個人的に雇ってるからだ」

虎蔵の言葉に驚きを隠せない三人。
だが、声に出さなかっただけ十分だ。
出ないほど驚いたという可能性もあるが。

「裏切った可能性も否定できんがな―――裏切る理由もそう見当たらん。むしろ、一緒に居た仮面野郎が怪しい」
「無理やり協力させられてるって事?」
「わからん。ただ、この状況で向こうから何もして来ないってのは不可解すぎるだろう」

三人は確かに、といって頷く。
傭兵が全て逃げたにもかかわらず、あのゴーレムで店ごと攻撃してこないのだ。
虎蔵は立ち上がると「まぁ、どっちにしてもやることは時間稼ぎ一択だ。無茶はするなよ」と言って、ルイズ達の後を追った。

その後、店内に残ったキュルケ達は、ゴーレムにどう対処するか相談をしていた。
吹きさらしから覗くゴーレムは、未だに動きが見えない。
虎蔵達が裏口からで言ったことに気づいてないのだろうか。
だが其の時、店の外で派手な破砕音が響いた―――



時は少し巻き戻る。
虎蔵達が宿の裏口に向かう直前。
フーケと仮面の貴族は、ゴーレムの方から次々と逃げ出していく傭兵達を見下ろしていた。

「良いのかい。アイツら、どんどん逃げていくけど」
「かまわん。脅しはしたが、期待などしていなかったからな。もっとも、予想以上に役立たずだったが」
「そりゃね―――」

幾ら腕が立ったところで、所詮ただの傭兵が規格外である彼に勝てるはずが無い。
もちろん、自分自身でも同様の結果になるだろう。
この隣の男ならばどうだろうか。

「で、そろそろ動かないのかね?」
「動けと?」
「それは君が決めることだ」

嘘をつけ、と心中で毒づいた。
生殺与奪権を握っているのは"まだ"仮面の男だ。
この距離では、スピードのある向こうのほうが圧倒的に有利。
だがフーケには虎蔵から借り受けている"奥の手"があった。
奥の手を使うタイミング―――フーケはそれだけを虎視眈々と待っている。

暫くして手を腰に当てながら地面を見下ろすと、傭兵達は既に一人残らず逃げ去っていた。
だが、それ以降は誰一人として宿から出てこない。
こっちのゴーレムを警戒しているのか、あるいは何か別の理由があるのか――
フーケは対応を決めかね、仮面の男に視線を向けた。
しかし彼は、腕を組んで裏路地の方を眺めていて、フーケの事をあまり気にしていない様子だった。

「よし――俺はヴァリエールの娘を追う。後は適当に相手をしておけ」
「あ、ちょっと待ってくれるかい?」
「どうした――」

フーケの声に、ゴーレムから飛び降りようとした仮面の男が振り返る。
彼女はローブを跳ね上げ、腰裏に隠していたソレに手を掛けた。
女が持つには多少重いソレを、ずるりと引き抜いて仮面の男へと向ける。

「アタシはここで降りるよ。無理やり従わされるのは嫌いでね!」

モーゼルM712―――セレクターはフルオート。
フーケはニヤリと、まるで虎蔵がするかのような獰猛な笑みを浮かべて引き金を引いた。
やたらと重厚な、威圧感のある金属塊から、怒涛の勢いで弾丸が吐き出される。
強烈な反動によるブレは、ゴーレムの一部から伸ばした小さな腕で自らの腕を掴む事で強引に対処した。
これは虎蔵に言われたわけではなく、自らのアイデアである。

「―――ッァ――!?」

仮面の男は――表情こそ見えないが――驚愕の様子でフーケへと視線を向け、撃たれた衝撃でゴーレムの上から落ちていく。
この世界の"銃"の概念を超越した銃だ。
驚くのも無理は無い。

「おまけだよ!とっときなッ!」

だがフーケはそこで油断することはなくゴーレムの拳を振り上げると、自由落下する仮面の男目掛けて振り下ろす。
ゴーレムの拳による第一の衝撃、そして大地に叩きつけられる第二の衝撃。
更に―――ゴーレムの拳と地面にサンドイッチにされる。
仮面の男は現時点でフーケが取りうる最高のダメージを叩き込まれ―――消失した。



その音を聞きつけ、キュルケ達は周囲を警戒しながら宿から出てきた。
そこで目にするのは、地面に突き立てられたゴーレムの拳。
キュルケは杖は構えたままで、ゴーレムの肩に立つフーケを見上げた。
そこには虎蔵の言っていた仮面の男、とやらの姿は見えない。

「これは――どういう事かしら?」
「説明は後だよ、お嬢ちゃん。下がって。流石に生きてるとは思えないけどね―――」

キュルケ達はその言葉に、虎蔵の言っていた事が正しかったと確信した。
ゆっくりと拳を引き抜くゴーレム。
仮面の男とやらは、この岩ゴーレムに叩き潰されたのだろう。
だが―――

『居ない!?』

そこには死体どころか、血痕一つ残っていなかった。
アレだけの弾丸を喰らったのにも拘わらず、だ。
フーケはモーゼルを再度腰裏に収めると、油断無く辺りを警戒しながらゴーレムから飛び降り、キュルケ達の下へと着地した。
初めて近距離でフーケと対峙するキュルケ達。
彼女はフーケと、何処かで会っている気がして首をひねるが――

「ミス・ロングビル―――」

タバサの呟きに、キュルケとギーシュはぎょっとした視線をフーケに向ける。
するとフーケは肩をすくめて、黒のローブを脱ぎ捨てた。

「流石にバレるか―――ま、仕方がないね」

現れたのは確かにミス・ロングビルである。
彼女は秘書をしているときには決して見せない挑発的な笑みを浮かべた。

「さて、追いかけるとしようか。向こうもやられっ放しで済ますとは思えないからね」

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