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Mr.0の使い魔 第十二話

 虚無の曜日。
 トリステイン魔法学院において、週に一度の休日と定められた曜日で
ある。学生諸子は普段の堅苦しい勉学から離れ、思い思いの心の休息を
楽しむのだ。
 もっとも、全員が穏便に休みを満喫できるとは限らないのであるが。


 Mr.0の使い魔
  ―エピソード・オブ・ハルケギニア―

     第十二話


 ルイズの虚無の曜日は、朝寝坊をする事から始まる。
 授業時間に間に合うよう早起きする必要がないこの日は、昼過ぎまで
ぐっすりと眠っても差し支えない。故にルイズは思う存分睡眠を堪能し、
連日蓄積された(主に精神的な)疲労を解消する事で翌日からの学業に
備えるのだ。
 ただ、この日はいささか状況が違っていた。

「おはようございます、師匠!」
「ふにゃ?」

 平日ならば、一限目の授業が始まってしばらく経つぐらいだろうか。
 勢いよく扉を開いて突入したギーシュに、ルイズは寝ぼけ眼をこすり
ながら挨拶らしからぬ挨拶を返した。意識は九割がた夢の中。肩ひもの
外れかけた寝間着がずり下がっている。見る者が見れば理性をかなぐり
捨てて襲いかかっているだろう。
 幸いにもギーシュは幼女趣味ではなかったので、ルイズの貞操の危機
は本人の与り知らぬところで回避された。彼はきょろきょろと室内を見
回した後、目的の人物がいないと気づいて首を傾げる。

「すまないが、ルイズ。師匠はどちらに?」
「うにゃ~、クロコダイル~?」

 問われたルイズはうつらうつらと船をこぎながらも、停止寸前の頭を
働かせた。おぼろげながら、夢の中でクロコダイルと会話したような、
していないような。

『ミス・ヴァリエール。おれはこれから出かけてくる。帰るのは夕方になると思うが』
『ふみ~』
『おい、ルイズ。聞いてるのか?』
『わぁかったわよ~……どこへでも、いってきなさいよぉ………ぅん』
『……じゃあな』

 今のギーシュの言葉からして、あれは夢ではなくて実際の会話だった
ようだ。まぁいいや、どうせ今日は用事もないし。
 クロコダイルの単独行動にはすっかり慣れてしまったルイズなので、
今更いなくてもあまり気にはならない。それよりも、安眠を妨害された
事の方が問題である。

「朝のうちに、どっか行っちゃったわ」
「行き先は?」
「知らなぁい、ぁふ」
「そうか。すまない、邪魔をしたね」

 パタンと扉が閉じられ、足音が遠ざかっていく。今から聞き込みでも
するのだろう。どうでもいいけど。
 大きなあくびをしてから、ルイズは再び布団の中に潜り込んだ。

「ルイズ、入るわよ!」

 再びドアが開いたのは、ギーシュが去って三分もしないうちであった。
続いての来訪者はキュルケ。つかつかとベッドに歩み寄ると、まどろみ
の中にいるルイズを引っ張り出す。

「ちょっと、ルイズ。彼は、ミスタ・クロコダイルはどこにいるの?」
「う~……知らないわよぉ。知ってても、あんたになんかおしえなぁい」
「このおバカ。知りたがってるのはあたしじゃなくて、タバサよ」
「たばさぁ~?」

 ぼやけた視界でキュルケの背後を伺えば、なるほど、本と杖を携えた
タバサの姿がある。普段は何事にも無関心を貫くこの小柄な少女が、何
を思ったかクロコダイルの、主にギーシュを標的にした攻撃を観察して
いるのはルイズも気づいていた。いつもキュルケが男達に向けるような
露骨なアプローチではないので、特に気にしていなかったのだが。

「なぁんで、タバサの知りたい事をあんたが聞いてんのよぉ……」
「親友の恋を応援したいからに決まってんじゃない」
「こいぃ?」
「違う」

 タバサが手にした杖でキュルケの頭を叩いた。随分鈍い音がした気が
するが、空耳だろう。叩かれたキュルケが涙目でうずくまっているのも
気のせいだ、多分。

「とにかくぅ、あたしも知らないわよぉ……どっか行くって、出てったけど」
「そう」
「いたた……じゃあ、探しに行くしかないわね。ほら、ルイズも起きて、着替えて!」
「ちょ、ちょっと、わきゃぁ!?」

 この瞬間、ルイズの平穏な休日は終わりを迎えた。


 さて、ルイズの自室を後にしたギーシュは、新たな手がかりを求めて
学院内を駆けずり回るつもりだったのだが。早々に中庭、火の塔の側で
コルベールに出会った事は、彼にとって幸運だったと言えよう。

「ミスタ・クロコダイルかね? 朝会った時には、トリスタニアに行くと言っていたな」
「本当ですか!?」
「ああ。一度王都を見ておきたい、と」
「ありがとうございます!」

 馬小屋に駆けて行くギーシュの後ろ姿を見送って、コルベールは大き
くのびをした。朝クロコダイルと顔を会わせてから今の今まで、ずっと
研究室に籠りっぱなしだったのだ。ちょっと煮詰まったので気分転換に
外に出たところ、偶然にもギーシュに出くわしたのである。
 日々の授業にもあのように熱意を持ってくれればな、などと考えなが
ら、コルベールは再び研究室に戻……りかけて、はたと思い出した事が
あった。昨日、昼食後にロングビルに声をかけた時の事を。

『あの、ミス・ロングビル。明日は、虚無の曜日ですな』
『そうですわね。それが何か?』
『あ、その。よろしければ、ご一緒に遠乗りなど』
『すみません、明日は先約がありますの。書類を幾つか、王都に持って行かないと』
『そ、そうですか。それは残念です……お仕事、頑張ってください』
『ありがとうございます。ミスタ・コルベールも、次の授業、頑張ってくださいね』

「……まさか、な」


 一方、こちらはキュルケを筆頭にした探索チーム。彼女らの次の手は、
ルイズがぽろっと零したこの一言から始まった。

「そーいえば、一昨日の夜は帰ってこなかったわね」
「誰が?」
「クロコダイルが」
「何で?」
「ミス・ロングビルの晩酌につき合ったんだって」

 ぴくん、と、キュルケの勘が働いた。一昨日、すなわちフーケを取り
逃がした日の夜である。酒、男と女、朝帰り……結論は一つだ。少なく
とも、キュルケの頭の中ではそれで確定していた。

「あちゃー、盲点だったかも」
「何がよ」
「お子ちゃまにはまだ早い話よ。オ・ト・ナの関係ってやつね」
「むぅ」

 むくれるルイズを一撫でして、さてどうしたものかとキュルケは首を
ひねった。このルイズに輪をかけて幼い容姿のタバサでは、妙齢の美女
に対抗するのはいささか無理がありそうだ。タバサとクロコダイルでは、
顔立ちや体格差のせいで恋人ではなく親子に見えてしまう。

「年の差カップルも悪くはないと思うけど」
「だから違う」
「痛い、痛いって! ともかく、次はミス・ロングビルの部屋に行くわよ」

 律儀に杖を振るう親友を”照れ隠し”と捉えながら、キュルケは新たな
目的地に向かって歩き出した。
 と、最後尾で窓の外を眺めていたルイズが、「あ」と声を漏らす。

「何、トイレ?」
「違うわよ! ほら、あれ」

 ルイズが指差したのは、学院の正門。馬に跨がり出立するギーシュの
姿であった。普段ならば間違いなく弟子入りを頼み込むだろう時間に、
いったいどこに出かけようと言うのか。

「ひょっとして……タバサ。あなたのシルフィードを呼んでちょうだい」
「わかった」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「あんたも来るのよ、ルイズ」
「えぇ~!?」


 休日という事もあり、王都トリスタニアの往来は多くの人々で賑わい
を見せていた。その中で、周囲とは少し雰囲気の違う男女二人組がいる。

「こうも狭苦しいとは思わなかったぞ」

 人ごみをかき分けるように歩きながら、クロコダイルはうんざりした
顔で呟いた。規模としては、あのレインベースと同じくらいだろうか。
ただ、道幅が狭い。端から端まで5メートルかそこら、おまけに両側に
露天が並ぶものだから、実際歩ける場所は3メートルにも満たないのだ。
荷車一台でも乗り入れたら間違いなく道が塞がる。
 隣を歩くロングビルは、慣れない風のクロコダイルを見てくすくすと
忍び笑いを漏らした。

「あら、これでも王都一の通り、ブルドンネ街ですわよ」
「これで王都一?」
「ええ。ちなみに、まっすぐ進めば王宮に突き当たりますわ。
 麗しき女王陛下に、拡張工事の嘆願でもしてみますか?」
「冗談。だいたい、おれは王族が大嫌いだ」

 不敬罪でしょっぴかれそうなクロコダイルの台詞は、喧噪に溶けて他
の人には聞こえなかったらしい。ただ、すぐ隣にいたロングビルだけは、
口の端を三日月のようにつり上げた。

「奇遇だね、あたしもさ」


 オスマンのしたためた書状、主に学院の予算関係の書類を役所に提出
すると、ロングビルの用件は完了した。後はクロコダイルの見物につき
合わされるだけである。

「さて、わたくしの仕事は終わりですけど……ミスタは、これからどうなさるの?」
「まずは、小遣いを稼ぐ」
「あら、こんなお昼から賭博?」

 クロコダイルはそれに答えず、人気のない路地裏へ向かう。
 後に続いたロングビルだったが、入ってすぐに顔を顰めた。大通りと
全く異なる淀んだ空気。何がいるかなど考えずともわかる。
 彼女の予想を裏付けるように、奥の暗がりから二人の男が姿を表した。
痩せぎすの男と少し太ったひげ面の男。どちらも口元に厭らしい笑みを
張り付けて、主にロングビルへと視線を注いでいる。

「お二人さん、こんな場所で逢い引きかい?」
「願わくば、俺達にも少しばかりお裾分けして欲しいもんだなぁ」

 そう言って、何がおかしいのかげらげらと笑い合う男達。
 ロングビルはますます嫌悪で顔を歪めた。目の前の二人以外に、誰か
が潜んでいる気配はない。ならば、一思いに魔法で始末しても――考え
ながら杖に手を伸ばしかけた彼女を、クロコダイルの手が引き止めた。

「生憎だが、お前らの思惑とは正反対だ」
「あン?」
「どういう意味だ?」

 疑問というより、苛立ちを顔に出す男達。
 クロコダイルは大仰に両手を広げ、小馬鹿にするように告げる。

「お前らの持ってる金をおれに渡せと、こう言ってるのさ」


 この一言で、男達の感情はただでさえ低い沸点を容易く突破した。

「……ふざけんのも大概にしろよ、おい」

 痩せぎすの男が懐から粗末な木の枝を取り出し、クロコダイルの目の
前に突きつける。
 メイジの中には、身を持ち崩して物取りなどの犯罪者になる者もいる。
目立つところに派手な杖を見せびらかす貴族と違い、彼らは小さくても
必要最低限の魔法が使える杖を、それとわからない形で忍ばせる場合が
多いのだ。強力な攻撃呪文を使わずとも、少しだけ幻覚を見せる、ある
いは着衣の裾を少し切り裂く程度で、人ごみの中の財布や宝石は簡単に
奪えるのである。命を奪う時には、幻覚を見せている間にナイフで胸を
貫いたり、切り裂く場所を喉笛にずらしたりするだけでよい。
 この痩せぎすの男が持つ木の枝も、そういう目的専門の杖なのだ。

「俺は風のメイジなんだ。【エア・カッター】でお前の頭を切り飛ばしてもいいんだぜ?」
「できるものなら、やってみろ」
「な、めるなぁッ!」

 男の頭に血が上った。呪文の詠唱は三秒で終わり、杖の先から不可視
の風の刃がクロコダイルに襲いかかる。クロコダイルの頭は、ご丁寧に
顔の傷跡にそって半ばまで断ち割られていた。
 ふん、と息を吐いた男は、傍らのロングビルが俯き、肩を震わせる様
に少しだけ溜飲を下げる。

「あんたも綺麗な顔に傷をつけたくなけりゃ、おとなしく――」

 ところが。

「……くくっ、あは、あははは! 駄目、もう我慢できない!!」

 ロングビルは何を思ったのか、突然笑い出したのだ。
 気でも触れたか、と男達が顔を見合わせたのもつかの間、聞こえる筈
のない低い声に二人の体が凍り付いた。

「切り飛ばすんじゃなかったのか?」

 ぎょろりと動いたクロコダイルの瞳が、恐怖に固まる痩せぎすの男に
向けられる。ぱっくりと開いた裂け目から溢れているのは、深紅の飛沫
ではなく黄色い砂粒だ。
 無造作に伸ばされた右手に首を掴まれるに至って、ようやく男は自分
がどれほど無謀だったかに気がついた。目の前にいるのは人間ではない。
人の形をしているが、本性は異質な化け物だ。逃れようと必死にもがい
ても、彼の首は万力で固定されたようにびくともしない。
 もう一人、小太りの男は、愕然として相方を眺めるしかできなかった。

「あんたも人が悪いね。わざわざ煽って、仕掛けさせるなんて」
「身の程を理解できてねェ奴は嫌いでな。
 自分で宣言した通りに頭を飛ばせれば生かしておこう、と思ったんだが……期待はずれだ」
「た、助けッ!」
「死ね」

 呟くと同時に、男の体がビクンと痙攣した。続いて肌が張りを失い、
顔から生気が消え失せる。眼球は落ち窪み、頬は痩け、手足は枯れ枝の
ように萎びて……三十秒もしないうちに、くたびれた服を纏った一体の
ミイラができあがった。クロコダイルが手を離すと、二周りほど小さく
なった体がくしゃりと頽れる。

「ひ、ひっひいぃいィイィッッ!!」

 眼前で行われた奇怪な処刑に、恐怖が限界を迎えたのだろう。小太り
の男は金切り声をあげ、路地の奥へ逃げ込もうとした。だが、その行動
はあまりにも遅い。

「まぁ待て。おれは『お前ら』と言った筈だぞ」
「いッ!?」

 狩人に背を向けた獲物、辿る末路は一つだけ。
 クロコダイルの掌から噴き出した砂の奔流が、男の背から覆い被さる。
黄色い津波が寄せて返した後には、新たに完成したミイラが石畳の上に
転がっていた。
 クロコダイルは続けて小さな砂嵐を生み出すと、二つのミイラを引き
込み、舞い上げる。渦巻く風の中、ミイラは無数の砂に揉まれ始めた。
結構な速度で回転する砂粒はヤスリの役割を果たし、脆くなった四肢が
端から順にちりちりと削られていく。
 途中、破れた服の穴から数枚のコインがこぼれ落ちた。風に乗り損ね
た硬貨は、小さな鈴のような音をたてて石畳に転がる。二十枚ほどの金、
銀、銅貨を吐き出すと、それきりミイラ達からは何も出てこなくなった。

「これだけか……おい、ロングビル。これでいくらだ?」
「え、あ、うん」

 声をかけられて、立ちすくんでいたロングビルはようやく我に返った。
 乾燥した地域では、死体が何日もかけてミイラ化する事がままある。
知識としては知っていても、目の前で、人間がミイラになる過程を実演
されるとは思いもよらなかった。
 クロコダイルは人を二人殺したのに何喰わぬ顔で、なおもミイラ達を
砂のヤスリで削っている。全く無感情に砂嵐を維持している姿からは、
特に何かを行おうという意思が感じられない。単に暇つぶし程度の感覚
で死体を弄んでいるように思える。
 ロングビルは畏怖の念を感じると共に、先日の『ミイラになりそう』
という不安がある意味当たっていた事に気づいて、小さく身を震わせた。


   ...TO BE CONTINUED

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