あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

戴天神城アースガルズッ!-1



    熱くなれ! 夢見た明日を 必ずいつか捉まえる
    走り出せ! 振り向くことなく 冷たい夜を突き抜けろ

    何かが胸で叫んでるのに 気付かぬ振りで過ごしてた
    激しい雨と風に打たれて 鼓動が俺を呼び覚ます

    そうだ忘れられない ガムシャラ過ぎる生き方
    血潮が燃えるなら ただそれだけで何もいらない

    熱くなれ! 夢見る彼方へ 焼け付くほどに手を伸ばせ
    駆け上がれ! 瞳を逸らさず 生きている事を確かめろ

    熱くなれ! 高鳴る憧れ 炎のように燃え上がれ
    動き出せ! 戸惑うことなく 世界を変える風になれ



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 貴族でありながら、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールには魔法が使えない。
 使えない、というよりも全ての魔法が『爆発』に変換されてしまうという言葉が正しいかもしれない。フライだろうがレビテーションであろうが結果は全て同じ。例外なく待ち受けているのは爆風と失敗に対する嘲笑。
 おかしいじゃないの。彼女は思う。おかしい、絶対におかしい。炎の魔法に失敗して爆発するのはまあ、理解できる。納得はしてやらないが。だけど、風も土も、水でさえも爆発になってしまうのはどう考えてもおかしい。
 今まで出会ったどの高名な学者も、この魔法学院のどの教師も、彼女の疑問に満足な答えを出せるものは誰もいなかった。気難しげな顔付きであれやこれや言葉を並べ立てて、最後には決まってこう言うのだ。
 お嬢さん、つまりはまあ、結局あんたの失敗なんですよ、と。
 その度に彼女は大きな憤りと更に大きな失望に包まれた。それでも持ち前の負けん気で魔法の習得に励んだのは彼女の貴ぶべき強さと言っていいだろう。事実、実践の伴わない座学における魔法の理論や構成について、彼女に追随できる者は誰もいないのである。
 それでいて――――それ故に、彼女に向けられる侮蔑と哀れみは強かった。座学の秀才。実践の劣等性。これほどまでにアンバランスな存在は、まだ若い学院生たちの格好の攻撃の対象になった。
 彼女の家名の巨大さと、誇りを重んじる貴族達であるがゆえに陰湿な扱いではなかったが、それは何の救いにもならない。囃し立てられるたびに、彼女は呪うべきなにかも定まらないまま唇を噛み締めるのだった。

 そんな彼女が臨んだのは二学年に進級するための試験。使い魔の召喚であった。どちらか片方が果てるまで続く盟約を結ぶ神聖な儀式であり、けして失敗は許されない。
 メイジにとって使い魔とは一心同体の存在である。メイジの力量を知りたければその使い魔を見よ、という言葉があるほどだった。
 一度目は失敗した。笑われた。哀しいことにもう慣れていた。
 二度目も失敗した。笑われた。ますます笑いは大きくなった。
 三度目も失敗した。笑われた。どこか気まずげな笑いになった。
 四度目も失敗した。もう笑われなかった。だれもが無言で眼を逸らした。
 五度目も失敗した。もう笑われなかった。教師であるコルベールからはもうよせと言われた。
 そして六回目。最後の最後、泣きの一回というやつである。
 振り下ろした杖の先に生まれたのはやはり爆発。
 だが、今回はその桁が違った。今までのどの失敗魔法よりも勢いよく吹き荒れる爆炎。そして豪風。

「――――――――あ」

 ルイズは風に細めていた眼を見開いた。炎と砂塵の向こうに、巨大な影が映っていたのだった。
 うそ、と呟き呆然とする。
 爆炎が晴れた時、彼女とその周囲の人間にの目の前に現れたのは巨人だった。
 太く、無骨なライン。稼動限界にまで幾層にも重ねられた装甲。見る者の言葉を消し飛ばす剛毅たる力強さ。
 光を失ったその双眼は眠っているようでもあり、祈るために瞑目しているようでもあった。
 胸の中央にひとつ、手の甲と呼ぶには巨大すぎる部分に一つずつ、水晶のように透き通った材質の球体があった。
 何もかもが巨大に備え付けられたパーツ。自身が敵対者にとって絶望的なまでに強大であることを知らしめる威圧感。
 赤茶けた錆にまみれた、ゴーレムであった。
 ――――でも、優しそうだな。とルイズは何故かそう思った。



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「…………なんだよ、成功したと思ったら壊れたゴーレムかよ」

 どこかほっとしたように誰かがそう言った。その言葉に動かされたように、ルイズのクラスメイトがまた彼女をはやし立てた。流石はゼロのルイズだ。びっくりした、ホントに成功したかと思った。そんな言葉が続く。
 彼らとしてもルイズの落第を心底から願っていたわけではない。彼らに在るのは異端を爪弾きにするほどには悪質な無神経さであり、慰めのない不幸を嫌うほどには善良な無神経さなのだった。
 巨大すぎるために、レビテーションを唱えたコルベールに抱えられてゴーレムの顔の前にまでルイズはたどり着いた。胸の装甲の上に立ち、巨人の顔をゆっくりと撫でる。
 ガラクタを召喚した悔しさはなかった。むしろ理由の知れない満足感すらあった。
 ドラゴンを召喚すればもっと激しい喜びがあっただろう。グリフォンであれば飛び上がってはしゃいだかもしれない。
 しかし、ほかのどんな使い魔を召喚してもこんな気持ちにはならないだろうという確信があった。

「…………ミス・ヴァリエール。『コントラクト・サーヴァント』を」
「はい」

 傍らに立つコルベールに促されて、ルイズは頷いた。もう一度だけ巨人の頬を撫で、彼女は眼を閉じた。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 彼女は背伸びして巨人の額に杖を指し示すと、ゆっくりと跪いた。
 ルイズの小さく瑞々しい唇と、ゴーレムの巨大すぎる錆びた唇が合わさった。
 おぉん、と巨人が唸る。振動に各部位から錆がぼろぼろと零れた。彼の体格からは小さすぎる輝きが、左腕の中央、水晶のような球体の中央に赤く焼け付く。
 唇を合わせたまま、ルイズがびくりと身を強張らせた。
 たくさんの人間と、たくさんの亜人がこの巨人を作るために集まっている光景が見えた気がした。敵対するおぞましい存在の技術を使用することに対して苦渋に満ちた表情ばかりであった。忌み子、と誰かの呟きが聞こえる。
 猛烈に腹が立った。おそらく自分がその場にいれば怒鳴り散らしているだろうとルイズは思った。愛さないのならば何故産み出すのだと思った。
 最後に、一瞬だけ耳を掠める言葉。その建造されていくゴーレムの名であった。鉄壁にして絶対不落。その開発基項に沿うその名。
 天を戴く神の城。神々の砦。
 ――――――――――――戴天神城《アースガルズ》
 ルイズは眼を開いた。全てが幻であった。
 彼女は微笑んだ。自分が涙を流していることを自然に受け止めた。
 ゴーレムの目尻から砕けた破片がさらさらと零れた。涙のようにも見えた。

「いまのは、ほんとう?」

 訊ねたルイズに向けて、応えるようにゴーレムはちかりと一瞬だけ瞳を光らせた。
 再びルイズを抱えて地面に降り立った後、コルベールは左腕部のルーンを確認してにこりとした。誰よりも正しい貴族たらんとした彼女の、唯一にして最大の欠格はこれで消えたのだ。彼女は魔法に成功したのだから。
 手のかかるほど子ほど可愛いというのは、どこの世界でも通じる言葉だろう。

「珍しいルーンだが……うむ。きちんとできているよ、ミス・ヴァリエール」

 ぼうっとしたままルイズは頷き、その場に腰を下ろした。コルベールに促された他の生徒が、教室へ帰るために傍らを過ぎていく。
 最後に、コルベールが軽く彼女の肩を叩いて顔をこちらに向けさせた。

「ミス・ヴァリエール、君もそろそろ教室へ帰るといい。授業があるんだから」
「…………今日はもう早退します」

 呆けた表情とは裏腹にしっかりとした声だった。
 困惑気味に自分の禿頭をつるり撫で、コルベールは難しげな顔付きを作る。

「しかしだね、次の授業は使い魔の」
「教科書の『使い魔』の項は暗唱できるくらいは憶えました。図書室の禁制が掛かっていない書物は全て読みました」
「…………ああ、うむ」

 もう一度己の頭を撫でてから、コルベールは僅かに苦笑した。こうなるのも無理はなかろうと思っている。誰もが諦めかけていた儀式。最後まで諦めなかった者に対する報酬が、半日の休養だけでは少ないかもしれないとすら思っていた。

「では、夜までには自室に戻るように」
「はい」

 緩慢な動きで立ち上がり、自らが召喚した壊れかけのゴーレムの足に背を預けてもう一度座り込むルイズを確認した後、コルベールもまた学院へと戻った。



 ■□■□■□



 夜。
 ルイズは未だに学院に戻っていない。
 夜空に浮かぶ二つの月を眺めながら、ただ座っている。

「――――ねえ」

 視線は月から外さずに、ルイズは使い魔に声を掛ける。昼間に座り込んでから、始めて出した声だった。

「まだ、お礼を言ってなかったわね。私はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。私の声に応えてくれてありがとう」

 錆びた巨人は黙したまま。ただその身を震わせた。

「私はね、ゼロって呼ばれてるの。魔法の成功率ゼロ。だから、嬉しかった」

 錆びた巨人は黙したまま。ただその身を唸らせた。

「――――アースガルズっていうんでしょう? いい名前じゃない」

 ルイズは恥ずかしげに笑った。ただこの一言を言うためだけに半日かけた自分をおかしく思った。だが、この一言で言いたいことの全てが伝わればいいと思った。
 戦ったのだろう、このゴーレムは。戦い、闘い、そして、《砦》の名の通り守り抜いたのだろう。忌み子と呼ばれながら。
 彼女にはそれが何故だか少しだけ哀しかった。
 私のような失敗ばかりの女の子の召喚に応えるような優しい存在が、戦いを好むわけがないじゃない。
 ルイズは使い魔から背を離して立ち上がって少しだけ歩いた。そうしなければ彼の顔まで首を向けることが出来ないのだった。
 振り返り、呼びかける。

「うん。じゃあ帰りましょうか、アースガルズ。どう、歩ける?」

 錆びた巨人は黙したまま。その身を軋ませながらルイズに手を伸ばした。
 ぼろぼろと錆がルイズに降りかかる。

「うっぷ。こら、急に動くんじゃないわよ。指が落ちちゃっても知らないわよ!」

 一度動きを停止させた巨人は、今度はおそるおそるといった調子でルイズに手を近づける。彼の手は小さくて柔らかいものを扱うことに向いていないのだった。
 巨人は身を屈めてルイズの目の前に己の掌を置いた。きしきしと音を立てながら指が閉じては開いた。

「…………乗れって言うの?」

 ちかりと眼が光る。
 ルイズはにこりとした。



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 ルイズの隣の部屋に住むキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは顔をしかめて眼を覚ました。窓から差し込む光は未だ仄暗く、夜が明けきっていない事実を教えていた。
 寝起きのよく廻らない頭を手で押さえて、キュルケはぽつりと呟いた。

「…………地震?」

 いや、と思い直す。こんなに規則的な揺れの地震などない。ずしん、ずしん、と何かが大地を踏みしめる音。しかも近付いている。
 ふいに何かが朝焼けを遮り、部屋が暗くなる。嫌な予感を憶えながら首だけを動かして窓の外に眼を向けた。

「…………ッッ!」

 そして悲鳴を慌てて飲み込んだ。悲鳴をあげる前に、昨日の儀式でルイズが呼び出した錆だらけのゴーレムのことを思い出したのだった。
 キュルケの隣の部屋――つまりルイズの部屋――の窓の前に立ち、ゴーレムは歩みを止めていた。至高の宝玉でも扱うような恭しさでその胸の前で両手を重ねていた。
 その大きな掌の中に小さな少女がいた。彼の掌に乗った瞬間に、錆臭いわッ! と心の底から嬉しそうに文句を言い、そしてあっという間に寝入ってしまったルイズであった。
 ルイズを確認したあと、キュルケは溜息を吐いてもう一度シーツを頭から被った。その溜息はどこか優しく暖かかった。
 彼女は自分から認めようとはしないだろうが、ルイズとその使い魔がよい関係を持てた事が嬉しかったのかもしれない。

「――――――――――――」

 神々の砦たるゴーレムは、今や一人の少女の為だけの絶対守護者であるゴーレムは、黙したままルイズの部屋の前に立ち続けた。
 ぶっちゃけ困っていた。
 主人はすやすやと安らかに寝ている。このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。ベッドに寝かせようにも窓を開けるという器用な真似が彼に出来よう筈がなかった。
 内蔵するジェニミ回路(サーキット)からの回答――――器物破損率98.67%。

「――――――――――――ッ!」

 ようやく昇りきった太陽がルイズの顔を照らし、彼女が起き出すまで、アースガルズは微動だにしなかった。
 すべてのはじまりの朝であった。



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