あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 11

「……それで?」
「それでと言いましても、これで終わりですわ」

不機嫌そうにこちらを見つめるマザリーニ枢機卿の視線を受け、
アンリエッタは居心地悪そうに身体を揺らした。
魔法学院にある客室の一つである。

「殿下、殿下。私は尋ねましたな、
 アルビオンの貴族たちにつけいられる隙はございませんかと。
 その時の殿下のお答え、まさか忘れたなどとは申されませんな?」
「え、ええ。勿論です」
「では、ワルド子爵に命じられたと言う任務は何ですかな」

なぜこうなったのだろう。
アンリエッタは自問した。
ルイズの部屋を出た後、魔法衛士隊のワルド子爵を召し出してルイズたちへの同行を要請した。
それは間違っていない筈だ。
ルイズたちだけでは心配だったし、ワルドはルイズとも浅からぬ縁である。
助っ人としては上出来だと自画自賛していたのだ。
なのに、なぜ自分はマザリーニに問い質されているのだろう。

「殿下。
 最初からこの鳥の骨めにそのことを打ち明けられておられれば、
 ワルド子爵のみにアルビオンに向かっていただければそれですんだのです。
 殿下のなさったことは、徒にミス・ヴァリエールとそのご友人を危険に晒しただけと心得られよ」

言葉もなく身を縮ませる主君を見やり、
マザリーニはこの度の任務に従事すると言う面々に関する記憶を頭の隅から掘り出した。
魔法学院に行幸するに当たり、教師と生徒の大まかな情報は調べ上げてある。
トライアングルメイジであるキュルケとタバサは戦力として申し分ないし、
ギーシュもドットではあるがその魔法は戦闘向きだと聞いている。
魔法が使えないルイズは不安材料であるが、彼女を欠いてはキュルケやタバサが参加する名分が立たない。
二人のトライアングルメイジの助力が得られるならば多少の不安は甘受すべきだった。
してみると後は各人の政治的背景だけか。
ルイズ及びギーシュの両名ならばまぁよかろう。
トリステインの貴族でもあるし、王女の命を受けても問題はない。
キュルケもよしとしよう。ゲルマニアの貴族であるが、ツェルプストーとヴァリエールの仲の悪さは有名だ。
ルイズへの対抗心から志願したと言えば大問題にはなるまい。
問題はもう一人、タバサと呼ばれる少女である。
雪風のタバサ、その本名をシャルロット・エレーヌ・オルレアンと言うガリアの王族であり、
世が世なればアンリエッタ同様、一国の姫として君臨すべき存在でもあった。

「で、では、改めてワルド子爵だけに……」
「それこそまさかです。
 一度口に出した言葉はもはや口には戻りません。
 まして王族の言葉なればそれは絶対。万難を排してでも実現させねばならぬものです。
 殿下、ご自身の言葉の重さ、まさか理解されておらぬとは仰りませぬな?」

アンリエッタの言葉を軽くいなしながら思考を進める。
現王ジョゼフ派にして見れば彼女は目の上のたんこぶであり、
出来ればこの世から消えて欲しいと願っている存在でもある。
だからこの任務で死亡したとしても問題はあるまい。
では今も尚ガリアに残るオルレアン派とでも言うべき貴族たちにして見ればどうか。
もしこの任務でタバサが死ねば、その一事を持ってトリステインへの宣戦布告の大義名分となすかも知れぬ。

「そもそもですな、殿下。
 ワルド子爵は魔法衛士隊グリフォン隊の隊長であり殿下の近衛であります。
 その隊長が何も言わずに居なくなれば、どれだけの混乱が起こると思うのです。
 それを殿下は誰にも秘密にせよとワルド子爵に仰られた。
 子爵が混乱しつつも私に相談しなかったら、
 彼には職場放棄あるいは間者の疑惑がかかっていたかもしれぬのですぞ」

言いながらも、その手は一時も止まらずに幾つかの書類を作っている。
ワルドへの特別任務を命じる書状、ルイズへの書状。
そしてガリア現王ジョゼフ派への密書。
王女の任務には一言も触れず、ただ学院に居たタバサと言うガリアからの留学生がアルビオンに向かったと言うことだけを記す。
もし何か不具合があっても、ジョゼフ派がそれを知っていて見過ごしたとなれば、
オルレアン派の怒りはトリステインではなくジョゼフ派に向かう筈だからである。
あるいはそれを契機に対アルビオン貴族軍の同盟をガリアと結ぶことが出来るかも知れぬ。
打てる手を打ちながら、マザリーニは胸中で密かに悪態をついた。
先帝に拾われる前、街中で無頼を気取って過ごしていた時の様な口ぶりで。

――――これも政治か。くそったれ。
    子供の犠牲を前提においた政治なんぞ、くそったれだ。
    もっとも、それしか出来ぬ自分が一番くそったれだがな。 



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その頃、シャルロット・エレーヌ・オルレアンこと雪風のタバサは自分の得物の手入れに余念がなかった。
荷作りは既に済んでいる
ガリア北花壇警護騎士団として秘密任務に従事していた彼女には、
常日頃から荷物を纏めておく習慣があったからである。

「なぁ、さっきの姫さんの言ったこと、まだ気にしてんのかい?」
「気にしてない」

少女以外誰も居ない筈の部屋に声が生じた。
タバサは一瞬驚いたものの、その声に聞き覚えがあると思い出すと、
机の上に投げ出されたナイフに視線を向けてそっけなく言い返した。
“地下水”と呼ばれたそれは、紆余曲折を経てタバサの所有物となったインテリジェンスナイフである。

「あー、なんか顔に見覚えがあると言われて、動揺してたな」
「お、解るのかい、デルフの兄貴」
「おお、俺の力の源泉は使い手の心の震えだからな。使い手の心の機微に詳しくなけりゃあやってられねぇよ」
「さすがだねぇ、戦闘から恋の相談までなんでもござれってかい」

武器たちの話は止まらない。
そもそも食事も睡眠も必要なく、疲労すら憶えない彼らにとっての暇潰しはお喋りだけなのである。 
実は地下水がタバサの元へやってきて一番喜んだのがこれであった。
自分の退屈を理解し、お喋りにも嫌な顔一つせずに付き合ってくれる存在に出会えるとは思わなかったのだそうだ。
操る人間を変えながらガリアからトリステインまでやってきた甲斐があったとしきりに喜んでいた。
なにしろ相手も自分と同じ喋る武器で、記憶を一部失っているとはいえ自分よりも永い間存在して来た先輩である。
デルフを兄と呼ぶようになるのに時間はかからなかった。

「ま、それはそれとして。姫さんのアレな、多分、オルレアン公のことだぜ」
「……父さま?」

首を傾げる。てっきりガリア王ジョゼフの娘であるイザベラの事だと思っていたのに。
そう言うと、地下水はけけけとおかしそうに笑った。

「イザベラは、ガリアから外に出たことねぇ筈だからよ、あの姫さんだって会ったことねぇと思うぜ。
 オルレアン公はその逆で、先王の名代でいろんな国の式典に出てたからよ、
 姫さんもその時に見たんじゃねぇのか?」

そう、とタバサは呟いて鏡を見た。

「似ている……そう、わたしと父さまは似ているのね……?」

幸せそうに呟いて、少女はそっと頬を緩めた。



/*/



出発は明日と決まったが、だからと言って無断で出発して良いわけもない。
他の所はどうか知らないが、ルイズの家には規則を破るのが大嫌いなお方が居るのである。
任務とはいえ無断で学校を休んで戦地に向かったなどということが知れれば、
生きて帰ってこれても半殺しの目に遭うかもしれない。
それに、もう一つ懸念事項もあることだし。
そんな訳で、ルイズはオールド・オスマンにその旨の許可を取りに行くことにした。
夜半にも拘らずオスマン氏は未だ仕事中であり、ルイズの申請に快く許可をくれた。
ミス・ロングビルの後任の秘書は未だ決まっていない。
彼女がいつ帰ってきてもいいようにだとオスマンは言うが、
その実、後任として入った秘書が彼の痴漢行為に三日と耐えれないというのが真実らしい。
大猫に跨って自分の部屋に帰ってくると、扉の前に佇む人影が目に入った。
僧侶のような丸い帽子を被り、灰色の長衣に身を包んだ痩せぎすの男である。

「……マザリーニ枢機卿?」
「初めましてかな、ミス・ヴァリエール」

立ち話もなんだしと部屋に招きいれ、椅子を勧めた。
卑しくもトリステインの枢機卿がわざわざ出向いたのだ。
それ相応の理由というものがあるのだろう。廊下で話していい話題でないことは確かだった。

「さて、夜も遅いし、単刀直入に言わせて貰おうミス・ヴァリエール。
 君が……ああ、いや、君たちが、だな。姫殿下より拝命した任務についてだ」
「失礼ですが、マザリーニ枢機卿。閣下はそれをどこからお聞きになりましたか?」

うってかわって醒めた声で尋ねたルイズに、マザリーニは逆に愉快そうに頬を緩めた。
彼はルイズのこの反応は当然だと思うし、それすら出来ぬ者に任務を任そうとも思わない。
問題は、それを当然と思う者が彼の部下の中にすら少ないということだ。

「無論、姫殿下からだ。
 殿下は君たちだけにこの任務を与えるのが心配になったようでね。
 魔法衛士隊の中から一人、君たちに同行するよう命じられたのだよ」
「聞いておりませんが」
「そうだろうな」

軽く流すと、マザリーニは一通の書状を取り出した。
封はされていない。ルイズに渡して中を確認するように言う。
それは枢機卿であるマザリーニの名において秘密任務を命じる旨が書かれており、
同時に任務遂行に必要な資材の徴発権を与える旨が記されていた。

「解ってくれると思うが、この件については姫殿下は何も知らない。
 君を選んだのも、命令を下したのも、すべて私のしたことだ」
「……何か問題が起こった時、姫さまの楯になるおつもりですか」

書状を確認して懐にしまうとルイズは尋ねたが、マザリーニは軽く眉を上げることでそれに答えた。

「なんのことかな、ミス・ヴァリエール。この歳になると耳が遠くてね」
「失礼しました、マザリーニ枢機卿。
 もしよろしければ、有能な水の使い手を紹介いたしますが」
「それはありがたい。私の知り合いに水の使い手は少なくてね。
 その代わりといっては何だが、火の使い手には少々心当たりがあるのだが」

言いながら、袋に包まれた品物を取り出して机の上に置く。
その時に沈痛な表情がその顔を過ぎるのをルイズは気づかなかったが、
大猫はそれに気がついてニャァと鳴いた。
あれは、シオネに毒薬を渡した男と同じ表情だ

「その火の使い手が作った秘薬でね。
 最近ゲルマニアで開発されたばかりの物だ。
 人間など簡単に粉々に出来る爆発を生み出せる。
 使い方はこの紙に書いてあるよ」

ルイズが息を呑み、微かに顔を蒼褪めさせながらそれを見た。
この任務の危険性は承知していた。
承知していたつもりだった。
怪我をすることも、死ぬかもしれないことも知っていた。
だがこんな風に、簡単に人を殺せるモノを渡されるとは思っていなかった。

「戦で出る損害についてだが、
 私は死亡よりは行方不明の方が望みがあると考える。
 行方不明だった者が数年経って帰還した例など有り触れているからね」

言いながら、マザリーニは胸中で自らを罵り続けた。
姫殿下の御為にと言えば聞こえはいいが、その実、自分が彼女に勧めているのは自殺だ。
もし殺されそうになったら、その前に自分で死ねと言っているのだ。
まだ若い、自分の三分の一も生きているか解らない少女に、
生の意味もまだ知らぬ少女にその命を自ら散らせと言っているのだ。
王女に仮初の希望をもたらすために死を選べと言っているのだ。
そして何より許せないのは、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに関する調査が真実ならば、
彼女はそれを拒まないだろうことを確信している自分の性根の卑しさについてだった。

「それは……確かに。
 最新式の秘薬ですか。随分と頼もしいことですね」
「許しは乞わんよ、ミス・ヴァリエール」

恐怖を抑えてルイズは笑い、マザリーニの苦悩はまた深くなった。
泣いてくれれば、罵ってくれれば、憎んでくれれば、
彼は自分を誤魔化す事も出来ただろう。
だがルイズはそれをせず、ただ笑って受け入れただけだった。
それを僥倖とは思わなかった。
自らに罪がないなどと思うことなど出来なかった
先帝の死後、自らの手を汚してでもこの国を支え続けた男の誇りがそれを許さなかった。
彼に出来たのはただいつもの様に告げることだけだった。

「だが、後悔はさせんつもりだ」
「それで充分ですわ」

ルイズはそっと目を伏せた。
ああ、ここにも貴族が一人居た。
自らを悪に任じても、それでも誰かの為に力を尽くす者が居た。
ならば自分はそれでいい。
それだけで、自分は死地へと行けるだろう。
だが、仲間たちまでそれにつき合わせることもあるまい。

「もう一つだけ約束していただけますか、マザリーニ枢機卿。
 もしもタバサとキュルケとギーシュとわたしが死ぬことも許されず捕虜になった場合ですが」

みなまで聞かずに、いいだろうとマザリーニは言った。
捕虜の引渡しとなればどのような要求がくるか解ったものではない。
だがそれがなんだと彼は思った。
目の前の小さな貴族のためならどんなことでもしてやるつもりだった。

「順番は言った通りでいいのかね?」
「はい。タバサはトリステイン人でもゲルマニア人でもありませんし。
 キュルケはトリステイン人ではありません。
 ギーシュはトリステイン人ですがわたしに巻き込まれたようなものですから」

その言葉に、マザリーニは微かに胸を押さえた。
ガリアとの関係を考慮すればタバサを一番にしているのは好ましいと、
少しでも思った自分が許せなかった。

「いいだろう。必ず助けてやる。
 ミス・ヴァリエール。君と、君の仲間たちが生き残ったならば、
 どんな手を使ってでも助け出してやる。
 これは約束だ。始祖ブリミルに誓って果たされるべき約束だ」

ルイズは嬉しそうに頭を下げた。
彼女は今までマザリーニのことをよくは知らなかった。
平民の血も混じっていると言う噂のある彼の風評はお世辞にもいいものとは言えず、
マリアンヌ大后の後ろ盾を良いことに国政を操る奸雄だというモノが殆どだった。
だが、そんな噂など全て嘘だった。
ルイズはずっとずっと昔にあの人から聞いた言葉を思い出した。
世界は嘘に満ちている。最後に残るものこそが真実だ。

「マザリーニ枢機卿。魔法が使えないわたしは貴族として半人前ですが」

そして、ルイズは華やかに顔をほころばせて笑った。

「あなたは、本当に貴族らしいと思いますわ」

面と向かって言われたマザリーニは我知らず赤面する自分を自覚した。
今まで、そんなことを言われたことなど一度として無かったのだから。
退去する旨を伝えて席を立ち、扉の前で足元に視線を移す。
門番のようにそこに座っている大猫を見やると口を開いた。

「ミス・ヴァリエール。確か、あなたの姉のカトレア殿は動物がお好きだと聞いていたが」
「ええ、その通りですわ」
「この大猫、あなたの使い魔をお見せすれば、カトレア殿はたいそうお喜びになると思うのだが、どうだろう」

最後にそう言い残し、未だ耳の赤みが抜けぬ枢機卿は部屋を辞した。
それを見送ったルイズはブータと顔を見合わせて苦笑する。

「なんとも不器用な男だな」

髯を震わせて大猫が言った。
最後の言葉に隠されたマザリーニの真意を読み取れぬほど彼らは鈍感ではなかった。


すなわち――――“必ず生きて帰れ”



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