しばらく互いに無言のまま『アルヴィーズの食堂』に着いた。
主従二人が連れ立って豪華な食堂に入れば、多数の好奇の視線が向けられる。
主従二人が連れ立って豪華な食堂に入れば、多数の好奇の視線が向けられる。
平民の子供? 東方の悪魔使い? そんなバカな、ゼロのルイズだぜ? くすくすくす… きもーい!
いろいろな囁きが聞こえるが、気にせずスルーする。この手の中傷には二人とも慣れているのだ。
ルイズは仏頂面全開で、そっとメイドを呼んで耳打ちする。
ルイズは仏頂面全開で、そっとメイドを呼んで耳打ちする。
「ここでは、朝からこんなに豪勢な食事なのか?」
「日々の食事は、食卓での礼儀作法の勉強でもあるの。
この学院は魔法だけじゃなく、貴族たるべき教育全般をするのよ。
私だって公爵家のレディなんですからね」
テーブルの上には、最高級の西洋料理や高価な果物が所狭しと並べられている。食器だって金銀宝石作りだ。
流石はブルジョワ貴族様である。庶民の血税を無駄に食い散らかしているようだ。
「日々の食事は、食卓での礼儀作法の勉強でもあるの。
この学院は魔法だけじゃなく、貴族たるべき教育全般をするのよ。
私だって公爵家のレディなんですからね」
テーブルの上には、最高級の西洋料理や高価な果物が所狭しと並べられている。食器だって金銀宝石作りだ。
流石はブルジョワ貴族様である。庶民の血税を無駄に食い散らかしているようだ。
「ああ、来た来た。でもあんたはこっちだから。はい、安心なさ~い」
さっきのメイドが持ってきたのは、粗末なスープと固そうなパン。
しかもわざわざ床に置かれた。犬扱いか。
「当ったり前じゃない。あんたは貴族ではなくて『使い魔』なんだから。
本来はこの食堂の中にも入れないのよ? 感謝して頂くことね」
そう答えると、ルイズは始祖ブリミルにお祈りをした後で、優雅に食事をし始める。
さっきのメイドが持ってきたのは、粗末なスープと固そうなパン。
しかもわざわざ床に置かれた。犬扱いか。
「当ったり前じゃない。あんたは貴族ではなくて『使い魔』なんだから。
本来はこの食堂の中にも入れないのよ? 感謝して頂くことね」
そう答えると、ルイズは始祖ブリミルにお祈りをした後で、優雅に食事をし始める。
(さっき馬鹿にしてくれたお返しよ。
最低限の衣食住が保証されることの有難さを噛み締めなさい!)
最低限の衣食住が保証されることの有難さを噛み締めなさい!)
なんたる差別! なんたる人権の冒涜! 蟹工船!
ああブルジョワジー!! ブルジョワーヌ!!
今すぐ闘争的人民裁判を起こして、徹底的に自己批判させてやろうか。
そのマイナス胸にプラカードをくくりつけて、腐った卵塗れにしてやろうか。
ご自慢のピンクの髪に、赤いペンキと鳥の羽根を浴びせて、半分にそり上げて、
裸馬に後ろ向きに乗せて街中を走らせてやろうか。
万国の平民よ、土人よ、使い魔よ、団結して決起せよ。一部特権階級の横暴を許すなかれ。
プロレタリア革命万歳!! 千年王国万歳!!
ああブルジョワジー!! ブルジョワーヌ!!
今すぐ闘争的人民裁判を起こして、徹底的に自己批判させてやろうか。
そのマイナス胸にプラカードをくくりつけて、腐った卵塗れにしてやろうか。
ご自慢のピンクの髪に、赤いペンキと鳥の羽根を浴びせて、半分にそり上げて、
裸馬に後ろ向きに乗せて街中を走らせてやろうか。
万国の平民よ、土人よ、使い魔よ、団結して決起せよ。一部特権階級の横暴を許すなかれ。
プロレタリア革命万歳!! 千年王国万歳!!
――などという煽動文句が一瞬脳裏をよぎった気がしたが、別にそんなことはなかった。
味の薄いスープに固いパンを浸し、数分で食べ終わると、
ルイズに蔑みの一瞥をくれて、無言で食堂を去る松下であった。
彼は貧乏人を救いたいだけで、無用な争いはしないのだ。多分。
味の薄いスープに固いパンを浸し、数分で食べ終わると、
ルイズに蔑みの一瞥をくれて、無言で食堂を去る松下であった。
彼は貧乏人を救いたいだけで、無用な争いはしないのだ。多分。
大体松下は、コーヒー一杯で何日間も行動できる燃費のよさを誇る。
多少食事を抜いたところでどうという事も無いが、
今後の事も考えると、あの囚人以下の食事ではさすがに体が持たない。
どうしたものか。待遇改善を求めて早めに労使交渉をしておくか…?
多少食事を抜いたところでどうという事も無いが、
今後の事も考えると、あの囚人以下の食事ではさすがに体が持たない。
どうしたものか。待遇改善を求めて早めに労使交渉をしておくか…?
「あらマツシタさん、どうかされましたか?」
と、背中に声が掛けられる。
驚いて振り向けば、今朝方の黒髪メイド――シエスタが立っていた。
「あぁ、今朝の人か。なあに、主人に用意された食事が少なくてね」
「あの貴族様ですから…ねえ。そうだ、賄いでよろしければ如何ですか?」
「いや、ぼくは」
「まあまあ、たくさん食べないと大きくなれませんから」
「じゃあ朝は少しでいいよ。どうせ三食碌なものを寄こさないだろうし、
きみ達の食事を分けてくれればそれでいい」
「分かりました」
と、背中に声が掛けられる。
驚いて振り向けば、今朝方の黒髪メイド――シエスタが立っていた。
「あぁ、今朝の人か。なあに、主人に用意された食事が少なくてね」
「あの貴族様ですから…ねえ。そうだ、賄いでよろしければ如何ですか?」
「いや、ぼくは」
「まあまあ、たくさん食べないと大きくなれませんから」
「じゃあ朝は少しでいいよ。どうせ三食碌なものを寄こさないだろうし、
きみ達の食事を分けてくれればそれでいい」
「分かりました」
やはり平民の方が、妙な貴族の面子などなくて、付き合いやすいし扱いやすい。
例外はいるだろうが、ぼくのような異邦人にも親切だ。
(彼女や厨房の人たちには、何か恩返しでもしてやらねばな)
無論、革命的な意味で。
例外はいるだろうが、ぼくのような異邦人にも親切だ。
(彼女や厨房の人たちには、何か恩返しでもしてやらねばな)
無論、革命的な意味で。
朝食が終わると、午前中の授業が始まる。
教室に入り、中を見回す。大体の生徒が騒ぎながらも揃っていた。
今朝出会ったキュルケもおり、手を挙げて挨拶した。
フレイムは椅子の下で昼寝を決め込んでいたが、
その他にもフクロウやモグラ、大蛇、猫やカラスや蛙など、生徒の使い魔たちがぞろぞろといる。
見るからに幻獣らしいのも結構いるが、人間の使い魔はやはり松下だけだ。
教室に入り、中を見回す。大体の生徒が騒ぎながらも揃っていた。
今朝出会ったキュルケもおり、手を挙げて挨拶した。
フレイムは椅子の下で昼寝を決め込んでいたが、
その他にもフクロウやモグラ、大蛇、猫やカラスや蛙など、生徒の使い魔たちがぞろぞろといる。
見るからに幻獣らしいのも結構いるが、人間の使い魔はやはり松下だけだ。
松下はとりあえず、ルイズのそばの床に腰を下ろした。
とはいえ、シエスタにメモ用の羊皮紙とペンを調達してもらっており、
この世界の魔法の授業を受ける気は満々であった…。
とはいえ、シエスタにメモ用の羊皮紙とペンを調達してもらっており、
この世界の魔法の授業を受ける気は満々であった…。
「皆さん、進級おめでとう。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズは、こうやって新学期に、様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ!」
教室に入ってきた女教師は微笑みながら口を開くが、ふと、床に座っている子供に気付いた。
「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね? ミス・ヴァリエール」
すると教室中が笑いに包まれた。
このシュヴルーズは、こうやって新学期に、様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ!」
教室に入ってきた女教師は微笑みながら口を開くが、ふと、床に座っている子供に気付いた。
「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね? ミス・ヴァリエール」
すると教室中が笑いに包まれた。
「『ゼロ』のルイズ! 召喚に失敗したからといって、そのへんの平民の子供なんか連れてくるなよ!」
「あーら、あんたの貧相なフクロウより、私の使い魔のほうがずっと上よ。
『風邪っぴき』のマルコシアスさん?」
ルイズがそうせせら笑うと、野次っていた太っちょの少年は
激昂して立ち上がる。
「誰だよそれは!? 僕は『風上』の『マリコルヌ』だ! 風邪なんて引いてないぞ、『ゼロ』のルイズ!」
「ゼロゼロうるさいピザ野郎!! あんたのそのガラガラ声は、まるで風邪引いたみたいなのよ!
このマルファス! マルコメ味噌! 丸子彦兵衛! マリみて!」
「あーら、あんたの貧相なフクロウより、私の使い魔のほうがずっと上よ。
『風邪っぴき』のマルコシアスさん?」
ルイズがそうせせら笑うと、野次っていた太っちょの少年は
激昂して立ち上がる。
「誰だよそれは!? 僕は『風上』の『マリコルヌ』だ! 風邪なんて引いてないぞ、『ゼロ』のルイズ!」
「ゼロゼロうるさいピザ野郎!! あんたのそのガラガラ声は、まるで風邪引いたみたいなのよ!
このマルファス! マルコメ味噌! 丸子彦兵衛! マリみて!」
醜く言い争う二人に、呆れたシュヴルーズが手にした小ぶりの杖を振る。
するとルイズとマリコルヌは突然すとん、と席に座る。いや、座らされる。
するとルイズとマリコルヌは突然すとん、と席に座る。いや、座らされる。
「ミス・ヴァリエールもミスタ・グランドプレも、幼稚な口論はおやめなさい。
お友達を『ゼロ』だの『風邪っぴき』だの『資本主義の豚』だのと呼んではいけません。
分かりましたか? 二人とも」
「ミセス・シュヴルーズ……僕の『風邪っぴき』は中傷ですけど、ルイズの『ゼロ』は事実です!
あとなんですか『資本主義の豚』って!」
お友達を『ゼロ』だの『風邪っぴき』だの『資本主義の豚』だのと呼んではいけません。
分かりましたか? 二人とも」
「ミセス・シュヴルーズ……僕の『風邪っぴき』は中傷ですけど、ルイズの『ゼロ』は事実です!
あとなんですか『資本主義の豚』って!」
教室のあちこちから、今度はくすくすと笑い声が漏れる。
シュヴルーズはため息を吐くと、また杖を振るう。
すると笑い声を漏らしている生徒たちの口に、『赤土の粘土』が押し付けられた。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
そうシュヴルーズが言い放つと、教室の笑い声はぴたりと止んだ。
一方マリコルヌは、口と鼻に『赤土』が詰められて、真赤になってもがき苦しんでいた…。
シュヴルーズはため息を吐くと、また杖を振るう。
すると笑い声を漏らしている生徒たちの口に、『赤土の粘土』が押し付けられた。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
そうシュヴルーズが言い放つと、教室の笑い声はぴたりと止んだ。
一方マリコルヌは、口と鼻に『赤土』が詰められて、真赤になってもがき苦しんでいた…。
(ここは小学校だったか?)
松下は教師の魔法には驚いたものの、生徒の程度の低さに早くも軽く失望していた…。
おまえも小学生のはずだろ、年齢的には。
松下は教師の魔法には驚いたものの、生徒の程度の低さに早くも軽く失望していた…。
おまえも小学生のはずだろ、年齢的には。
(つづく)