あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ぶんぶんぜろしんぶん

≪号外 文々。新聞≫

『メイドは見た! 魔法学院の薔薇、気高く咲いて美しく散る』

 先日未明、魔法学院二年生に進級した自称薔薇の君こと『青銅』のギーシュ・ド・グラモン氏が食堂で起こし、後に学院全体を巻き込んだ通称薔薇事件とその顛末を語る。
 事の起こりは昼食後のデザートの時間にある。普段の様に級友と歓談していたギーシュ氏は、懐からあるものを落とした。彼と熱愛が噂される同級生の女子Mさんから貰ったといわれる彼女謹製の香水壜だ。それを拾った同級生の男子は、自身に恋人が居ない
僻みかその事を囃し立てたのだ。そこに現れたのがまたギーシュ氏との熱愛が噂される一年生のKさんだった。泣きながら説明を求めるKさんに慌てて言い訳をするギーシュ氏であったが、そこにMさんまで現れ、女子二人で口論を始めた事で事態がややこしくなった。
 デザートの配膳中、現場近くでその様子を目撃した学院付きメイドのSさんはこう語る。

「えっ? 私ですか? えぇ、確かに見ていましたよ。K様が凄いパンチを放ったんです。
 アルヴィーズの食堂中に響き渡るような轟音を立てる凄まじい踏み込み。全くカウンター を恐れていませんでしたねあれは。その拳がグラモン様の顔を貫いたんです! 恐ろしい 光景でした。人間って凹むんですね。さらにM様も凄かったです。Kさんのパンチに続いて 高速で放たれたローリングソバットはまさに芸術品でした。グラモン様はキリモミ状態で 食堂の隅まで吹き飛ばされたんです。あの光景は夢にまで出てきそうでした」

 全身傷だらけになりながらも果敢に立ち上がったギーシュ氏は、取っ組み合いになった二人の女子の間に入り、仲裁を図った。既に前衛芸術とも呼べる顔で涙ながらに謝罪する
ギーシュ氏に心を打たれたのか、落ち着きを取り戻したMさんとKさんの様子に事態は沈静化すると思われた。しかしそうは問屋が卸さず、ある生徒が茶々を入れてしまったのだ。
これがある意味薔薇事件の直接的な発端とも言えるだろう。

「ところで、結局どっちと付き合ってるんだよギーシュ」
「マリコルヌゥゥゥッッ!」

 空気が読めないギーシュ氏の友人の発言のため、二人の女子には再び険悪なムードが漂った。ギーシュ氏は冷や汗を流しながら言い訳するも、薔薇は多くの人を楽しませるためにあるだの、特定の相手を持たないからこそ希少価値が云々と意味不明の発言をしたため、Mさんの手により食堂の床へと沈められた。
 結局、MさんとKさんの決闘へと事は運び、勝利した方が恋人になる権利を得ると、ギーシュ氏不在のまま話は進んだ。しかしそこでどう話が歪められたのか。決闘の場所に指定され
たヴェストリの広場には、ギーシュ氏の恋人を決めるトーナメントが行われるという話に発展していたらしく、MさんとKさん以外に十数名の生徒が名乗りを上げたのだ。

 ところで、読者諸兄は薔薇の暗喩するところをご存知だろうか。花言葉では『愛情』、『嫉妬』、『美』などの華やかな意味を持つ薔薇であるが、実は裏にはある意味が隠されている。
それは――ゲイ、である。
 広場に集まった生徒は女子だけではなかった。というより女子は最初の二人以外居なかった。ほとんどはそのケの性癖を持つ人物――当然男性――に埋め尽くされていたのである。ギーシュ氏は黙ってさえ居れば紅顔の美少年とも言え、集まったその手の先輩方はいつも彼の臀部を狙っていたらしいとのことだ。前述したとおり、薔薇には隠された意味があり、よく薔薇を咥えていたギーシュ氏には当然その趣味があるものと彼らは誤解していたらしい。

 こうした『選手』の中にはトライアングルクラスの実力を持つ者も存在し、集まった野次馬と学院建造物を巻き込む盛大な魔法合戦と化した決闘は、『眠りの鐘』を持ち出したコルベール教諭によって終わりを告げた。
 叩き起こされたギーシュ氏は学院長室に呼び出され、一週間の謹慎と壮絶な説教を頂戴したようだ。自業自得とは言え、踏んだり蹴ったりである。この事件は、閉鎖された学院の中に潜む貴族社会の歪んだ性と、愛憎がからんだ非常に悲しい出来事だった。思わぬファンの存在を確認したギーシュ氏は、今も眠れぬ夜を過ごしているという。男性読者には警告を発したい。哀れな彼のようにならないため、決して薔薇を咥えたりしないようにと。

(射命丸 文)



「――と、こんなことが書いてある訳ですが。どうですか?」
「どうって、後半ほとんど事実と違ってない? 決闘はモンモランシーと、一年生のあの子だけで終わったじゃないの」
「多少の脚色は認めますよ」
「どこが多少なの……大体何よ薔薇事件って。名前負けにも程があるわ」

 二つの月が天に輝く深夜、眠りにつこうとしていたルイズ・フランソワーズは、己の使い魔である少女が持ってきた羊皮紙に目を落とし、溜息をついた。彼女の言うシンブンとやらは、世間で起こった出来事について、事実や解説を広く社会に伝えるものらしいのだが――

「そもそもこれ、『事件』ってほどのものじゃないし、嘘ばっかりだし。食堂にいた人は皆事実を知ってるから意味無いじゃない。しかも一週間も前の出来事よ?」
「我が文々。新聞では、迅速で正確な情報を売りとしております」
「とりあえず、シンブンってのは役に立たないというのがよく分かったわ……」
「書きにくい羊皮紙に、慣れない横書きじゃ字も滲んでますしね」
「見た目の問題じゃないわよ! それ以前にあんたの字は読めない」

 自称、異世界からの来訪者である彼女――射命丸文はこちらの字が書けなかった為、先程も文自身が新聞の内容をルイズに読み聞かせていたのだった。眠い目を擦りながら、ルイズにとって限りなくどうでもいい話を聞かされたせいで、彼女の機嫌は文の口が閉じる頃にはすこぶる悪いものとなっていた。

「使い魔の癖に昼間中顔も見せなかったと思ったら、こんなもんを書いてたなんて」
「こんなもんとは酷いですね。それに、使い魔の代わりに鴉は置いていきましたよ」

 鴉というのは文が召喚された時に連れていた鳥の事だ。契約は済ませたものの、使い魔業に難色を示した彼女が置いていったのがこの鴉である。鴉の彼――彼女かもしれない――は言葉を解するほどには賢く、確かに命令も聞くのだがルイズにとっては全く面白くない事だった。

 春の使い魔召喚の儀式において、クラス最後の召喚を行っていたルイズが呼び出したのは、スクウェアクラスも真っ青になるほどの威力の暴風だった。後ろにいたコルベール以
下生徒達は、ルイズ以外の全員が遥か遠くまで吹き飛ばされた。そして目を丸くしたルイズの前に、きょろきょろと辺りを見回す不思議な格好の少女が『空から降りてきた』のだ。
 空から降りてきたという事は、もしやこの少女はメイジ? しかし杖は持っていないようだ。だとすると、まさか先住の魔法だろうか。ならば先程の暴風も彼女によるものに違いない。人というのが気になるが、強力な使い魔である事は確かだ。そうルイズの脳内では即座に判断が下された。
 思わぬ大当たりに喜んだルイズは、油断していた彼女の隙を突き、契約の口付けを交わしたのだった。
 だが、当の文はそれを良しとしなかった。契約の直後にルイズは空へ吹き飛ばされ、空中で首根っこを掴まれた上に、散々脅かされ、この『世界』について説明させられ、使い魔としてではなく文が故郷へ帰るまでの現地協力者となることを認めさせられたのだ。

「確かにこの子、お使いは聞いてくれるけどね……使い魔には主人を守る役目もあるんだけど」
「ま、帰る方法が分かるまではあなたに死なれてもちょっと困りますし、いざって時は助けてあげてもいいですよ」

 そして、ルイズが最も気に入らないのがこれだ。協力者という事もあって、文のルイズに対する態度は表面上は丁寧な言葉遣いだが、実際はルイズを見下しているのが丸分かりなのだ。これは貴族としてのプライドが人一倍高い彼女にとって、容認しがたい事だった。
 強力な使い魔だという事はクラスの全員が理解しているため、また先住魔法を行使する使い魔の報復を恐れて、ルイズをゼロと呼ぶものはほとんどいなくなった。しかし、実際にはこの使い魔は主を舐めきっているし、彼女はゼロのまま。ドラゴンの威を借る小動物のようで、ルイズは非常に居心地が悪かった。
 せめて何とかして、この強大でいけ好かない使い魔に自分を認めさせる方法は無いかと、ルイズは召喚の日より考え続けていたが、その方法は一向に見つからないままだった。

「言語は置いといても、羊皮紙じゃ大量生産も出来ないし、本当に不便ですねえここは」
「たくさんあっても誰も読みはしないわよ、そんなの」
「あっ、酷い。これでも元の場所では大人気だったんですから」
「嘘でしょ? じゃなきゃよっぽど暇だったのね、そこの人たち」

 口から出るのは憎まれ口ばかり。これではただの嫌味な小物だ。彼女を従えるにはもっと威厳を見せなければならない。そう思ったルイズは、無い胸を可愛らしく張り、彼女なりに威厳を表現して見せた。そんなルイズを文は生温い目で一瞥すると、やれやれと肩を竦め、視線を手元のネタ帖に落とした。
 隣できーきーと騒ぐルイズを軽やかに無視し、次なる新聞のネタをまとめようと文が愛用の筆を取ったその時、彼女の耳に微かな異音が聞こえてきた。その音に特ダネの匂いを感じ取った伝統の幻想パパラッチは、ネタ帖を懐に仕舞い込み、写真機を構えて窓に向かって歩き出す。

「ちょっと、どうしたのよ。こんな時間に外に出る気?」
「面白そうな事が起こりそうですよ。あなたも行きますか?」

 小首を傾げながらも肯くルイズを抱きかかえ、窓から夜空に飛び出した文はそのまま音の発生している場所を目指した。
 学院本塔付近に到着した二人が見たものは、30メイルを越す巨大な土ゴーレムが宝物庫のある辺りをひたすら殴り続けているという、非常にシュールなものだった。

「あれ、もしかして土くれのフーケかしら?」
「ふーけ?」

 パシャパシャと写真を撮りながら疑問の声を上げる文に、ルイズは最近世間を騒がす怪盗の事を説明した。大胆な手口とその神出鬼没さで貴族達を震え上がらせているメイジである事、高度な錬金でどんな防壁も土に変えてしまう事から『土くれ』と名づけられている事などなど、巷に流れる噂を語って見せた。
 そこで文の頭に一つの疑問が浮かんだ。何故今回は壁を土に変えていないのか? と。

「そりゃあ魔法学院の建物だもの。不測の事態に備えて固定化くらいかけてあるわ」
「固定化、ですか」
「そう。あんたのシンブンはそこで一気に嘘っぽくなってるのよ。強力な固定化がかかった学院の建物は、生半可は魔法じゃあ傷つく事なんて滅多に無いもの」
「ほうほう」
「だから、いつもの手が使えないフーケはあんな風に荒っぽい手に出たって事でしょう。フーケも間抜けね。あれじゃいつまでたっても宝物庫の分厚い壁は破れないわ」

 何故か得意げに語るルイズに気を取られ、文の持つ写真機のレンズが被写体から少しズレた。ゴーレムから、ちょうど宝物庫の壁へと。それに気付かず文がシャッターを押したその瞬間、宝物庫の壁が一瞬点滅しかと思うと、赤い光が壁から遊離して彼女の写真機へと吸収された。

「あややや……」
「な、何よ今の?」

 光が消えてなくなり、一瞬ゴーレムが動きを止めてちらりとこちらを向いた。不味いと思ったルイズだが、ゴーレムは意に介さず再び壁を殴り始めた。すると、今度は宝物庫の壁が土に変わって崩れ、簡単にゴーレムの拳に破られてしまった。
 きょとんとするルイズと、若干冷や汗を流した文が宝物庫を見ると、黒いローブを着た人物が手に大きな筒を持って中から出てきた。恐らくフーケだろう。怪盗は素早くゴーレムの肩に飛び乗り、二人に向かって大きな声をかけた。

「何だか知らんが、ありがとうよ!」
「ええと、どういたしまして?」

 ルイズはぽかんと口を開けたまま、間抜けな返答をする使い魔と大怪盗を交互に見やった。ゴーレムはそのまま悠々と立ち去り、学院を出た所でぐしゃりと崩れ落ちた。慌てて近くまで来た二人だが、既にそこには誰も居なかった。

「あんた、一体何したの?」
「いやあ、流石は河童の写真機。高性能ですねえ」

 ジト目で睨むルイズにのらりくらりと言い逃れようとしていた文だったが、結局原因と思われる写真機について漏らしてしまった。曰く、魔法や術によって生じたものは被写体以外を切り取ってしまう。曰く、今回は中々の高得点。曰く……エトセトラエトセトラ。
 半分は意味を理解できなかったルイズだが、文の持つ写真機が凄いマジックアイテムだという事は分かった。恐らくこのアイテムによって、宝物庫の固定化が切り取られてしまい、ただの壁となったために錬金されたのだろうと。そして同時に、この使い魔に吠え面をかかせる方法も思いついた。
 使い魔が失敗して気落ちしているところを主が挽回する。これできっと自分を見直し、使い魔らしくなるに違い無い。そう確信していたルイズだったが、文自身は新しい新聞のネタとしか捉えておらず、特に失敗したとは考えていなかった。幻想郷の新聞屋はこれくらいではへこたれないのだった。

 翌日、宝物庫前で教師陣と目撃者であるルイズと文が立会い、緊急の会議が行われた。責任の擦り付け合いと、無意味な怒鳴りあいにルイズがうんざりとしていた所に、学院長の秘書であるロングビルが有益な情報をもたらした。そしてオールド・オスマンの鶴の一声により、捜索隊が結成される事が決まる。
 当然、ルイズは思惑があって隊に志願し、文も面白そうだという理由でついていく事となった。



 フーケに盗まれた秘宝――破壊の杖はあっさりと見つかった。途中でフーケが作ったと思われる巨大なゴーレムが襲ってきたが、文がやはりあっさりと片付けた。改めて見る己の使い魔の強さに、思わず顔がにやけていたルイズだが、自分で解決出来なかったため、文に良い所を見せるという当初の目的を果たせなかった事に気付き少々不満顔だった。
 帰りの馬車にて、後ろの荷台で破壊の杖を抱きながら不貞寝するルイズをよそに、御者台では文とお付のロングビルが小声で話し合っていた。

「ふんふん。結局杖の使い方は分からないままと」
「ああ。あんた達なら分かるかと思ったんだけど、ハズレだったね。ところで、本当に話の相手をするだけで見逃してくれるのかい?」
「ネタになりますし」
「私は泥棒だよ?」
「幾ら泥棒しようとも、私はその事を咎めません。新聞は事件に干渉しないのです。常に第三者の目で見ないといけないのです。これからも楽しい活躍を期待してますよ?」
「今回はかなり干渉してるとおもうけど」
「襲われたのなら反撃するのは当然です」
「はあ……とんでもないのに喧嘩売っちまったよ」

 そう、ロングビルこそが怪盗土くれのフーケだった。簡単にゴーレムを片付けられ、破壊の杖も使われなかった。そうして今回は失敗かと諦め、何食わぬ顔でルイズ達の前に姿を現したのが運の尽き。昨晩に聞いたフーケの声を覚えていた文が不審に思って誘導尋問にかけたのだ。
 気の抜けていたフーケは早々に尻尾を出した。フーケは自身のゴーレムを欠伸交じりで瞬殺した使い魔に正体がばれ、恐々としていた。そこに取材が申し込まれたのだ。拍子抜けだった。

「タイトルは『貴族を騒がす美人怪盗 独占インタビューに成功!』とでもしましょうか」
「頼むから顔は出さないでおくれよ」
「目線くらいは入れておきますよ」
「はぁ……」

 破壊の杖を取り戻した翌日、ロングビルが辞表を残して失踪するということがあったが、概ね魔法学院は平和だった。今日も今日とて新聞作りに励む文は、片手間にルイズに図書館から借りてきてもらった子供向けの本を読んで字の勉強をしていた。日本語以外は話した事の無かった文だが、本人も驚くような速さで学習は進んだ。ハルケギニア言語版の文々。新聞が発行されるのもそう遠い日ではなさそうだ。
 文の隣には機嫌が良さそうにルイズが座っている。フーケこそ取り逃がしたものの、杖の奪還により学院の名誉を守った事となった。それにより学院長及び教師一同からも評価されたルイズは勲章を授与される事が決定した。また、文が彼女に文字を学びたいと言ってきた事もある。普段馬鹿にされている分、いざ頼りにされると嬉しいらしい。
 そんなルイズの様子に文は苦笑すると、作業の手を止めて大きく伸びをした。文は何かとやかましい自称主の事が嫌いではなかった。実力も無いのにいちいち突っかかってくる様子はとある氷精を思い出させて微笑ましかったし、からかえば良い反応をしてくれる。何だかんだで相性が良いのかも知れない。
 そんな事を考えながら、文は次なる課題を思い浮かべた。

「言葉の壁は順調。あとは紙ね」

 長生きをしているだけあり、文は植物から作る紙の製法を知っていた。材料さえ揃えばすぐにも作れるだろう。羊皮紙が主流の世界で製紙技術を伝えるのは革命的な事だが、本人にそんな自覚は無かった。彼女はただ気持ち良く新聞を作りたいだけなのだ。
 新聞作りに気を取られた文は、既に自分から望郷の念が消えている事に気付いていなかった。恐るべきは虚無のルーンの力なのだが、その時点で彼女にそれを告げるものは誰も居ないのだった。
 こうして、今後百年以上にわたってハルケギニア中を騒がす、無自覚に仲の良い虚無の主従が誕生した。 


 資料が少なく、姿が曖昧という事で知られる初代虚無の使い手こと、始祖ブリミル。それとは逆にやたら資料が多く、そのせいで余計にイメージが滅茶苦茶になっているという事で、二代目の虚無の使い手ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは知られている。『絶壁』だの『豊満』だの、『美女』だの『ちんちくりん』だのと。
 後年、おもにいい加減なルイズの資料を残したのは彼女の使い魔だという説が主流となっている。その根拠とされる使い魔が残した『文々。新聞』は、その内容の突飛さから新聞というよりはフィクション小説として、今も高値で取引されているからだ。
 ルイズの使い魔とされる「アヤ」は、遥か東方の地より安価な製紙技術と出版技術をもたらし、出版界に革命を起こした事でも有名である。そのせいで羊皮紙製造に携わっていた世界中の皮ギルドが倒産し、暴動が起こった事件もあるがこれはまた別の話。

 虚無の使い魔にはガンダールヴ、ヴィンダールヴ、ミョズニトニルンと謎の四体目がいる事も、アヤの残した資料で分かっているが、アヤ自身はどの使い魔なのかは明記されていない。研究者によればアヤは最後の四体目ではないかとされている。何故ならば、彼女がもたらした新聞文化により発生した各地の新聞社が、アヤについて細かく書いた新聞を発行しようとした途端、編集長や責任者のスキャンダルが暴かれたのである。さらにあること無い事を他の新聞で言いふらされてしまい、次々と世間から消えていった。

『人間の新聞屋が私を記事にしようなんて、千年早いわ』

 この事からアヤについては新聞社を初め出版界ではタブーとなった。彼女が成した歴史的事実はともかく、個人的な事情まで筆が及ぶと報復を受けるのだ。まさに、記すことさえはばかられる。記す前に記されてしまうのだから。
 アヤを語る点でも最も重大な事は、彼女は人の姿をしていたが人ではなかったということだ。一説によれば『テング』という未知の種族らしいが、そのような生物はハルケギニアのどこを探しても見つからず、未だ論争の種となっている。

 正体不明の使い魔アヤと、虚無の使い手ルイズが織り成す物語を記したドキュメンタリーは、アヤが編集した中では数少ない『事実』を記した書物として今でも世界中で愛されているベストセラーだ。

 そのタイトルは『文々0新聞』といった。        了

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