あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 10

「やめて、ルイズ!
 ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮を突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! 
 ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。
 昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、
 あなたにまで、よそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」

眼前に展開する寸劇を見ながら、ブータは横で同じようにそれを見守るギーシュに問いかけた。

「ギーシュよ、なんとも芝居がかって仕方がないように見えるのは、これはわしが老いた所為かね?」
「違いますよ、ブータニアス卿。これがトリステイン流なのです」

声を潜めた師の言葉に、弟子は苦笑しつつもそれに答えた。
聞こえてくる会話から察するに、ルイズと王女は昔馴染みのようではあるが、
それでも警戒するに越したことはない。
猫神ブータの存在を極力秘密にすることはオスマンやコルベールの厳命であるし、
そもそもブータ自身がそれに賛成しているのだ。
ギーシュがそれを守らぬ法はない。

「……なるほどな」

弟子とその手に持った薔薇の造花を見やるとブータは器用にも肩を竦めた。
こやつと言いルイズと言い、どうも自分の世界に没頭する癖があると思ってはおったが、
それが国風だと言うのなら仕方がないのだろう。
なにしろ貴族の頂点に立つ筈の王族にしてからが未だにブータとギーシュの存在に気がつかないのだから。
正体を隠している身としては、アンリエッタがいる間は講義も出来ない。
仕方ないのでブータは開き直って寸劇を鑑賞することにした。

「思い出したわ! わたくしたちがほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」

ブータは眠そうな目であくびをして答えた。
韻が踏まれていない。20点。

「姫様の寝室で、ドレスを奪い合った時のことですね」

ブータは腹を見せて転がった。
二人しかいないのに包囲戦か? 15点。

「その調子よ、ルイズ! ああいやだ、懐かしくて涙が出そうだわ!」

ブータは丸い瞳をあっちこっちにやった。
うむ。だが心だけはこもっていよう。31点だ。

「……あ、あら嫌だ。ごめんなさい、ルイズ。もしかしてお邪魔だったのかしら?」

気づくのが遅い。落第点だ。

「そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? いやだわ、わたくしったら。懐かしさにかまけて、とんだ粗相をしてしまったみたいね」

その言葉にルイズの顔が見事なまでに紅潮した。
そんなことは今まで欠片も考えてはいなかったのだろう。
その見事なまでの顔色の変わりっぷりに、ブータは満点を与えることにした。

「残念ですが、姫殿下。僕とルイズはいまだ友人の間柄ですよ」

にこやかに笑ってギーシュが言った。
さりげなく薔薇を握った手をアンリエッタの目に入るように動かしている。

「“いまだ”なのですか? まぁまぁ! では、わたくしはあなたの求愛を邪魔したのかしら?」
「とんでもない。いまだこの未熟なこの身としては、ルイズ姫の寵愛を受けるには役者不足もいいところです故。
 今は雌伏の時期と心得、じっと華が咲くのを待ちわびているのです」

いけしゃあしゃあと心にもないことを述べるギーシュに、何か悪いものでも食ったかとルイズが白い目を向けた。
ギーシュにしても実に不思議だった。
少し前までの自分であったならば、王女殿下の前に出ただけで緊張のあまり倒れてもおかしくはなかった筈なのに。
何故だろうと心の隅で考え、あっさりと結論を出す。
平民だろうと貴族だろうと平等に接する小さな少女に感化されただけだろう。
常に自然体のルイズの姿勢は、相手が王女殿下だろうが変わらないのだから。
つまりは自分はルイズ症候群に感染してしまったということなのだろう。

「あら嫌だ、わたくしったら、まだあなたのお名前すら伺っては降りませんわ!
 初めましてかしら? トリステイン王国第一王女アンリエッタですわ。
 お名前をお聞かせ願えないかしら? ご立派な殿方」
「グラモン家四男、ギーシュ・ド・グラモンと申します。お見知りおきを」
「まぁ。グラモン元帥の! わたくし、元帥やその息子様方の武勇伝はよく女官たちから聞いておりますわ!
 戦場のものは勿論、それ以外のものまで!」

王女はそう言いながら昔馴染みの少女を横目で見る。
生暖かい、隅に置けないわねというような言葉を言わずとも伝えるその視線に、
少女はたまらず口を開いた。

「姫さま、姫さま! 何か誤解なさってらっしゃいませんか!?」
「ああ、いいのよルイズ。あなたは既に婚約者のいる身であることはわたくしも知っていてよ。
 けれど、いえ、それ故に燃え盛る想いもあることもわたくしは知っているのですから。
 わたくしはいつだってあなたの味方でしてよ?」

言い募ろうとしたルイズが、何かに気がついたかの様に口をつぐんだ。
その言い方では、アンリエッタにも誰か意中の相手がいると言う風に取れるではないか。
ちなみに、ギーシュとブータは別の事で固まっていた。
ルイズに婚約者が既にいると言う件である。

「お待たせ、って、なによこの空気」

ノックもせずにキュルケが顔を出したのはそんな時だった。
室内の妙な沈黙に首を傾げる。
その後ろにはデルフリンガーを背中に担いだタバサの姿も見えた。
夕飯後の日課である素振りを終え、軽く風呂で汗を流してきたのだろう、
いつもは真白い雪のような頬が紅潮し、なんとも言えぬ色気を出している。
相方のキュルケはといえばこれはいつもどおりで、その豊かな胸を強調するような服装に、
おそらくはモンモランシー製であろう香水で大人びた魅力を演出していた。

「ちょっと、キュルケ! ノックくらいしなさいよ!」
「なによ今日に限ってうるさいわね。わたしたちの仲じゃないの」

このようにタバサとキュルケがルイズの部屋を訪れるのはほぼ毎晩のことである。
大体はギーシュが先に来ていて、その後にタバサが合流してブータの講義を聞いているのだ。
ノックについては、講義が始まった晩に主張したルイズが、
「ノックしないと困るようなことをギーシュとするつもり?」
と猫のように笑って言ったキュルケに撃沈されてから有名無実のものと化したという背景がある。
だが、今の部屋にはそれらのことをまったく知らない人間が一人いたのだった。

「まぁまぁ! 何でギーシュ殿が否定されるのかと思ったら、
 ルイズ、あなたまさか女性との趣味がおありなの!?」
「ありません!」

どうでもいいがこの姫さま、ノリノリである。

「喧嘩するほど仲が良い。間違ってはいない」
「大間違いよ。……ねぇ、ギーシュ、誰よこれ。王女さまに見えるけど、もしかしてマリコルヌの親戚?」
「彼も出世したものだねぇ。きっとそう言ってあげると喜ぶと思うよ」

憮然としたキュルケと、爆笑一歩寸前に追い込まれたギーシュ。
そして我関せずと超然としたままのタバサをみた王女の目が再びの驚きに見開かれた。

「それに、それに首輪だなんて! 
 女同士で、その上、首輪だなんて!
 ああ、始祖ブリミルよ、お許しください!」

――――それこそ、もう勘弁してやってはくれまいか。



/*/



一向に収まらぬ騒動を見ながら、ブータは懐かしげに髯を揺らした。
今も目を閉じれば鮮やかに思い出せる。
火の国、火の山の麓に築かれた正義最後の砦を。
袴姿の少女が暴走し不潔です不潔ですと刀を振りかざす。
これはたまらんと伊達男がぽややんの手を取って逃げ出し、
電子の巫女姫が真っ赤になってそれを追いかける。
自らの背に乗った幼女がめーなのめーなのと宥め、
道化師を筆頭とした狩人たちが月の下で珍妙な寸劇を演じていた。
輝いていた過去を想い、大猫は静かに胸を叩いた。
それは既に失われ、記憶の片隅にしか残っていなかったが、
しかし彼はそれが未だ自分と共にあるのを感じていた。
そう、それはどこにでもあるのだ。
例え世界が変わり、時代が流れようとも、
自分と仲間たちが守ったモノは、守ろうとしたモノは何時だって
子供たちの笑顔と共にあるのだから。



/*/


しばしの後。
室内は沈黙に包まれていた。
原因となったのはまたしてもアンリエッタ王女の発言である。
と言っても今回のそれは先ほどのような暴走故のものではない。

「つまり、アルビオンに赴き、その手紙を受け取ってくれればいいのですね?」

総括していったルイズの言葉に、アンリエッタは小さく首を振ることで肯定した。
真面目な話をする内に先ほどの暴走が恥ずかしくなったのか、少し頬を染めている。
その姿を見ながら少女は誰にも聞かれぬよう舌打ちをした。
“ルイズのお友達なら大丈夫でしょう”などと言う王女の言葉など聞かず、
無理にでもキュルケたちを部屋の外に出すべきであったか。
これはトリステインを揺るがす一大事だ。
ギーシュはともかくも、キュルケやタバサまでも巻き込むべきではなかった。
“白の国”“浮遊大陸”アルビオン。
そこを支配する王家に関して、ルイズは複雑な想いを抱いている。
言うまでもなく、ミス・ロングビルに聞かされた過去の一件である。
それを考えれば王家に好感など持てよう筈もない。
だが、とルイズは思考を切り替えた。
ロングビルが知らぬだけで、あの件には他に何か理由があったかもしれない。
その一件のみで王家を悪と謗るのは不用意に過ぎるだろう。
ウェールズ王太子に会えれば、その件について詳しく知っている人も傍にいるかもしれない。
それに……

「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

考えに沈む少女に声をかけたのはキュルケだった。

「あなたが何を考えているか知らないけれどね。この話、あたしも乗らせてもらうわ。
 皇帝陛下の婚儀が、トリステインとゲルマニアの同盟がかかっているなんて聞いたら尚更よ」

そして赤毛の少女は、ギーシュの言葉を借りればルイズ症候群の感染患者であるキュルケは胸を張って言い募った。

「トリステインが堕ちれば次はゲルマニア。そしてあたしの実家の領地はトリステインとの国境よ。
 そこが最前線になるなんて耐えられないわ」
「よろしいのですか、キュルケ様。わたくしはゲルマニア皇帝を裏切っているのに……」
「無論ですわ、姫殿下。これはルイズの受け売りですが、
“その力を万民のために、名も顔も知らぬ領民のためにどこかの誰かの笑顔のために使える者こそが貴族”だそうです。
 そしてこのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、
 自らが貴族であることを常々誇りに思っているのですから」

その言葉を聞き、ルイズはそっと目を伏せて自らを恥じた。
その通り、貴族の力は自らのためではなく、名も顔も知らぬ誰かの笑顔のために奮われるべき力なのだ。
悩むことなどなにもなかったのだと。
ルイズは胸を張り、キュルケに堂々と相対した。
胸の大きさでは比べるまでもなく負けていたが、その中にあるものの大きさでは負けぬと態度で示したのだ。

「わたしの言葉を勝手に使うとはね、使用料を取るわよ、キュルケ」
「あら、世界の真理をお金に換算しようなんて、ルイズも随分ゲルマニア流に染まったようね?」

いつものようにいがみあう二人に肩を竦め、
ギーシュは首元に嵌められた猫の首輪の位置を直すタバサと目を合わせると、
仕方ないなと言う風に笑みを浮かべた。
ルイズ症候群、順調に進行中。
致死率は十割、けれど笑って死ねることだけは確実だ。

「では、僕も一枚かましてもらおう。ゲルマニア人のキュルケ嬢が参加すると言うのに、
 トリステイン人の僕が静観などできないからね」
「手伝う。鍛錬の成果も確認したいし」
「にゃー」

口々に言う生徒たちを見ながら、ブータは満足げに頬を緩ませ、自らも参加すると前脚を上げた。
そしてルイズ症候群の重体患者である三人と、むしろ病原菌に近い大猫は感染源の少女に視線を移す。
うん、と頷いた少女は満足げに微笑み、主君にして幼馴染である王女に深々と礼をした。

「――――我ら四名、およびその使い魔一同、その儀、謹んでお受けいたします」



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