翌朝。召喚されてから二日目。
松下の朝は意外と早い。
なにしろ魔術研究のために、寝食を忘れて何日でも徹夜するし、何日も山の中を駆け回って「少しくたびれた」で済ます男だ。
時間は無駄にしない。伊達に8歳で高等魔術を修めてはいないのだ。
松下の朝は意外と早い。
なにしろ魔術研究のために、寝食を忘れて何日でも徹夜するし、何日も山の中を駆け回って「少しくたびれた」で済ます男だ。
時間は無駄にしない。伊達に8歳で高等魔術を修めてはいないのだ。
それでもさすがに欠伸をしながら、ルイズの汗(と何か?)が染みた衣服を手に水場を探す。
洗濯など身の回りの世話を召使いに任せていた松下にとっては、誰かにやってもらうのが手っ取り早いのだが…。
洗濯など身の回りの世話を召使いに任せていた松下にとっては、誰かにやってもらうのが手っ取り早いのだが…。
折りもよく、メイド姿の黒髪の少女が水場で洗濯をしているではないか…。
「おはよう。きみはここの使用人かな?」
メイドは洗濯を一時中断して立ち上がり、「おはようございます」と挨拶を返した。
「はい、そうですが…あの、どなたかのご子弟で?」
「おはよう。きみはここの使用人かな?」
メイドは洗濯を一時中断して立ち上がり、「おはようございます」と挨拶を返した。
「はい、そうですが…あの、どなたかのご子弟で?」
貴族でも平民(使用人)でも、学院に10歳未満の子供などいない。
教師か学生の子弟が泊まりにでも来ていたのか? と彼女、シエスタは判断する。
格好は妙だが、松下の放つオーラというか、威厳というか、妖気は、平民のものではない気がした。
自然と敬語になってしまうのだ。こんなに小さいのに。
教師か学生の子弟が泊まりにでも来ていたのか? と彼女、シエスタは判断する。
格好は妙だが、松下の放つオーラというか、威厳というか、妖気は、平民のものではない気がした。
自然と敬語になってしまうのだ。こんなに小さいのに。
「昨日、ルイズ嬢の使い魔になった松下という者だが」
「あぁ、ミス・ヴァリエールの呼び出された使い魔の方でしたか。噂は聞いていますよ」
既に噂は広まっていたらしく、シエスタはほっとして納得した。
松下も学院内をうろついている時、ひそひそ呟く声や不躾な視線を感じてはいた。
「あぁ、ミス・ヴァリエールの呼び出された使い魔の方でしたか。噂は聞いていますよ」
既に噂は広まっていたらしく、シエスタはほっとして納得した。
松下も学院内をうろついている時、ひそひそ呟く声や不躾な視線を感じてはいた。
(さて、この噂をどういう具合に変えてやろうか…)
群衆の心理は意外と操りやすいのだ。特に学校のような閉鎖空間では。
群衆の心理は意外と操りやすいのだ。特に学校のような閉鎖空間では。
「私はシエスタと申します。今後ともよろしく…
それで何か御用でしょうか? マツシタさん。
…あ、洗濯物ですね?」
「うむ、ぼくはあまりやったことがないので、きみに頼めるかな?」
「はい、結構ですよ。お任せください。
でもそろそろミス・ヴァリエールを起こされた方が良いかもしれませんね。
朝食に間に合わなくなってしまいますから」
それで何か御用でしょうか? マツシタさん。
…あ、洗濯物ですね?」
「うむ、ぼくはあまりやったことがないので、きみに頼めるかな?」
「はい、結構ですよ。お任せください。
でもそろそろミス・ヴァリエールを起こされた方が良いかもしれませんね。
朝食に間に合わなくなってしまいますから」
受け取ったルイズの洗濯物を、他の洗濯物とまとめながら、シエスタは建物の方を見る。
そこに食堂があるというのだろう…。
「そうだな、彼女を起こしに行くか。じゃあ洗濯が終わったら、部屋に届けてくれ」
松下は答えると、踵を返して飄々と寮へ向かい立ち去った。
ホテルのルームサービスでも使うような、人使いの慣れ方だ。
そこに食堂があるというのだろう…。
「そうだな、彼女を起こしに行くか。じゃあ洗濯が終わったら、部屋に届けてくれ」
松下は答えると、踵を返して飄々と寮へ向かい立ち去った。
ホテルのルームサービスでも使うような、人使いの慣れ方だ。
「相当変わった子ね…」
シエスタは、松下に会った人の9割が抱く感想を呟いたという。
シエスタは、松下に会った人の9割が抱く感想を呟いたという。
松下はルイズの部屋に戻ると、洗面器に水を汲み、自分とルイズの洗顔・整容の準備をする。
それから、まだ眠りこけている主人を起こしにかかった。
「さあ起きろ、もうすぐ朝食の時間だぞ」
カーテンと窓を開け、朝の爽やかな光と風を入れてやる。
太陽はさすがに一つだけのようだ。
それから、まだ眠りこけている主人を起こしにかかった。
「さあ起きろ、もうすぐ朝食の時間だぞ」
カーテンと窓を開け、朝の爽やかな光と風を入れてやる。
太陽はさすがに一つだけのようだ。
そうするうちに、ルイズはどうにか身を起こし、寝ぼけ声で「着替え…手伝って…」と告げる。
「トリステインの貴族は赤ん坊同然か」
「だっ、誰が赤ん坊よ! 御主人様に対して!」
小童に赤ん坊呼ばわりをされ、怒ったルイズはすぐ覚醒した。
「ぼくだって、着替えくらいは自分でするからな」
「貴族はねえ、従者がいるときは普通一人で着替えたりはしないの! 世の中そーいうもんなのよ!!」
「トリステインの貴族は赤ん坊同然か」
「だっ、誰が赤ん坊よ! 御主人様に対して!」
小童に赤ん坊呼ばわりをされ、怒ったルイズはすぐ覚醒した。
「ぼくだって、着替えくらいは自分でするからな」
「貴族はねえ、従者がいるときは普通一人で着替えたりはしないの! 世の中そーいうもんなのよ!!」
信頼関係の構築は少し後退した。ああ、いやな世の中だ。
「やれやれ仕方がない、着替えさせてさしあげますよ『御主人様』サマ」
「サマが一つ余計よ! あんたねえ、慇懃無礼って言葉知ってる?
ていうか、年上の、しかも貴族の御主人様をちゃんと敬いなさいよ!
小童のくせに見下して!!(き――――っ)」
「朝から騒がしいぞ御主人様サマ」
「朝から騒がしいわよ~ルイズぅ」(ガチャリ)
「やれやれ仕方がない、着替えさせてさしあげますよ『御主人様』サマ」
「サマが一つ余計よ! あんたねえ、慇懃無礼って言葉知ってる?
ていうか、年上の、しかも貴族の御主人様をちゃんと敬いなさいよ!
小童のくせに見下して!!(き――――っ)」
「朝から騒がしいぞ御主人様サマ」
「朝から騒がしいわよ~ルイズぅ」(ガチャリ)
「ん?」
「あら、ボクは確か…」
背が高く、褐色の肌に炎のような赤毛をした巨乳美女が、部屋の前に立っていた。
まあ胸が大きかろうが小さかろうが、松下にはどうでもよかったが。
「あら、ボクは確か…」
背が高く、褐色の肌に炎のような赤毛をした巨乳美女が、部屋の前に立っていた。
まあ胸が大きかろうが小さかろうが、松下にはどうでもよかったが。
「待ちなさいマツシ――って、キュルケ! 朝っぱらから人の使い魔に何すんのよッ!」
「別に何も。そっちこそ何時までそんな格好をしているの? もうすぐ朝食の時間よ?」
「だってコイツが!」
ルイズの友人らしい。では人脈作りをしておくか。
「はじめまして、使い魔の松下でーす」
「え、ええ、よろしくマツシタくん。あたしはキュルケよ~。(シェイクハンド)
……それにしても、ほんとに子供を使い魔にしちゃったのね…ルイズったら(クスクス)」
「た、ただの子供じゃないのよ! なんと『東方』のね…」
「はいはい、でも使い魔っていうのは、やっぱりこういうのじゃないとねえ」
「別に何も。そっちこそ何時までそんな格好をしているの? もうすぐ朝食の時間よ?」
「だってコイツが!」
ルイズの友人らしい。では人脈作りをしておくか。
「はじめまして、使い魔の松下でーす」
「え、ええ、よろしくマツシタくん。あたしはキュルケよ~。(シェイクハンド)
……それにしても、ほんとに子供を使い魔にしちゃったのね…ルイズったら(クスクス)」
「た、ただの子供じゃないのよ! なんと『東方』のね…」
「はいはい、でも使い魔っていうのは、やっぱりこういうのじゃないとねえ」
キュルケの後ろから、虎ほどの大きさをした幻獣・サラマンダー(火トカゲ)がのっそりと現れた。
地霊なら召喚実験で何度か呼んだが、サラマンダーの実物を見るのは初めてだ。
「ほほう、見事なサラマンダーだ」
「あら、ありがとー。よく知ってたわね、ボク。
そうよ、これは火竜山脈産のブランド物で、すっごい価値があるの。見て見て、この尻尾!
名前はフレイム! 燃えるように情熱的なあたしにピッタリじゃない?
メイジの実力は使い魔を見れば分かるっていうもんねぇ、ル・イ・ズ?」
地霊なら召喚実験で何度か呼んだが、サラマンダーの実物を見るのは初めてだ。
「ほほう、見事なサラマンダーだ」
「あら、ありがとー。よく知ってたわね、ボク。
そうよ、これは火竜山脈産のブランド物で、すっごい価値があるの。見て見て、この尻尾!
名前はフレイム! 燃えるように情熱的なあたしにピッタリじゃない?
メイジの実力は使い魔を見れば分かるっていうもんねぇ、ル・イ・ズ?」
「うっ、うるさいわね! ほらマツシタ、あんたも何か芸を見せなさいよ!」
「それよりさっさと顔を洗って着替えたらどうですかね、御主人様サマ」
「しつこおおおおおおおいい!!!」
「あっはははははは、なかなか楽しい使い魔くんじゃないの。 じゃあ、お先にね」
ルイズをからかえて上機嫌なキュルケは、フレイムを連れて食堂へ向かった。
「む~~~~~~~~っ……」
「それよりさっさと顔を洗って着替えたらどうですかね、御主人様サマ」
「しつこおおおおおおおいい!!!」
「あっはははははは、なかなか楽しい使い魔くんじゃないの。 じゃあ、お先にね」
ルイズをからかえて上機嫌なキュルケは、フレイムを連れて食堂へ向かった。
「む~~~~~~~~っ……」
誰も気づかなかったが、このとき松下の『右手のルーン』が鈍い光を帯びていた……。