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Mr.0の使い魔 第十一話

 クロコダイルとロングビルは、馬車を片付け終わると揃って学院長室
を訪れた。フーケの手がかりを探すと言って残った手前、形式だけでも
報告をしておかねばならない。【破壊神の槌】を磨いていたオスマンは、
入って来た二人を笑顔で迎えた。

「ただ今戻りました、オールド・オスマン」
「悪いな。フーケの手がかりは、見つけられなかった」
「いやいや、無事に戻って何よりじゃよ。生徒達もおぬしらも、この【破壊神の槌】もな」
「破壊神、か。最初に聞いた時も思ったが、そんなにご大層な代物なのか?」

 疑問を口にしたのはクロコダイル。仮にこの槌が強力な魔法の武器で
あるなら、使い方を知っておきたいと思ったのだ。この先自分の邪魔を
する敵が現れた時に、戦力として役に立つ可能性もある。

「それはわたくしも知りたいですわ。大きな槌、というだけではないのでしょう?」

 隣で微笑むロングビルも、渡りに船とばかりに口を開いた。わざわざ
情報収集する手間を考えると、この絶好の機会を逃す手はない。同時に、
最初からこうしていれば、とのやや後ろ向きな考えも浮かんだが、すぐ
さま記憶のゴミ箱に追いやった。

「ふぅむ、そこまで言われては、話さぬ訳にもいくまいな」

 秘蔵の品に興味がある、と言われれば、誰でもつい口が軽くなる。特
に、美女の頼みをオスマンが断るはずがなかった。

「ちょうど一年前の事じゃ。学院に、ある町を襲うワイバーンの討伐命令が来ての――」


 Mr.0の使い魔
  ―エピソード・オブ・ハルケギニア―

     第十一話


 その町は霧深い山の麓に位置しており、山の中腹まで広がる森の恵み
を主産物として生活していた。ところが森の奥に全長15メイル以上の
巨大なワイバーンが住み着き、キノコや果実を取りに入った人間が幾人
も犠牲になったのだ。
 希少な魔法薬の原料も取れる場所なので、嘆願を受けた王宮の対処は
素早かった。すぐさま緊急会議が開かれ、誰が行くかで二人の候補者が
選抜される。一人は魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の新任隊長ワルド
子爵。そしてもう一人が、魔法学院の主、オスマン学院長だ。
 しかし当時、ワルドは別命を受けて出立する直前であり、他の任務を
挟むのは好ましくない、と判断された。そのため、残るオスマンに勅命
が下ったのである。
 さて、学院から馬車に揺られて三日と少し。町に到着したオスマンは、
人々の歓待を受けてその日を過ごすと、翌朝、まだ暗いうちから森へと
分け入った。ワイバーンは、基本的に気温が上がる昼間活発に活動する。
従って、戦う際には夜中から明け方を狙って仕掛けるのが定石だ。


「ちょっと待ってください、オールド・オスマン」
「何じゃね、ミス・ロングビル」
「どうして夜のうちに出発しなかったのですか? 捜索時間を考えると、出発が遅いのでは」
「ん、いや、その……着いた日の宴の席で、ほんのちょびっっと、酒を飲んだんじゃが」
「……酔い潰れた、と?」
「だって、なぁ……町の綺麗どころが集まって、酌をしてくれるんじゃよ。
 飲まずにはおれんじゃろう? 素面で尻や胸を触る訳にもいかんじゃろう?」
「触るなエロジジィ!!」


 ――気を取り直して。
 ほろ酔い加減で森に入ったオスマンは、しかしというかやはりという
か、なかなかワイバーンを見つける事ができなかった。
 必死で薙ぎ倒された木々や踏み荒らされた茂みの跡を辿っていると、
だんだんと森の中が白くなり始めた。この山の名物とも言える霧である。
 この状況は非常にマズい。ワイバーンは視覚よりも聴覚が発達し、音
で獲物を探し当てる。おまけに、連中は目に見えない魔力の波を感じる
感覚器官を持っている。【サイレント】で音を消しても、今度は魔法を
発動している事を嗅ぎ付けてやってくるのだ。霧の中で襲われたならば、
ほぼ確実にアウト。空気の揺らぎを感じ取れる風系統の熟練者ならば別
だが、生憎とオスマンはそこまで得意ではない。
 一旦戻ろうかと考えている間に、霧がさらに酷くなった。3サント先
も見えないほどの濃霧である。足下すら覚束ない状況では、へたに動き
回るとかえって危ない。それに、これだけ霧が出るのは空気が相当冷え
ている証拠である。自分も身震いするほどの寒さの中、ワイバーンは身
動きすら取れまい。そう考えてたオスマンは、その場にしゃがみ込んだ。
 と、下ろした手が土や草とは違う、固いものに触れた。しばらく手触
りを確かめるに、円筒形の物体、おそらく倒木だろう。これ幸いと腰掛
けて、オスマンは霧が晴れるのを待つ事にした。


 五分後。


 ようやく霧が消え始めて、安堵のため息をこぼすオスマン。
 刹那、彼の耳が”もう一つのため息”を捉えた。しかも、場所は自分の
すぐ隣。ハッとして振り向いたオスマンは、自分と同様に腰掛ける人物
を見つけた。

 身の丈ほどもある杖を背負った、年の頃十七、八の青年。

 顔面から突き出した長い鼻を見て、オスマンは下の町で聞いた伝承を
思い出した。

『この山にはプッソウという森の守護神がおると言い伝えられておりましてな』
『プッソウ、とな?』
『人間そっくりの体躯、20サントほど突き出した木の枝のような鼻。
 片手で大岩を砕く剛力に、天気すら変えてしまう魔法の持ち主と伝えられとります。
 山にかかる深い霧は、侵入者から山を守るためにプッソウが生み出しとる、とも。
 まぁ、実際に姿を見た者はおらんので、古い絵巻物ぐらいしか資料がありませんが』

 仮に目の前の青年がその『プッソウ』だとすれば、ワイバーンよりも
危険かもしれない。ゆっくりと傍らの杖に手を伸ばしつつ、オスマンは
口を開いた。

「おぬし、何者じゃ。よもやと思うが、森の神プッソウか」
「ぷ、ぷそ?」
「何じゃ、違うのか?」
「い、いや、その……そう!!」

 問いかけに対して青年は一瞬戸惑ったようだが、不意に立ち上がって
両手を大きく広げた。

「よくぞ気づいた、人間よ! 我が名はプッソウ、この森に住まう神であるぞ」
「なんと、伝承は真じゃったのか。ならばプッソウよ、おぬしに折り入って頼みがある」
「ほぅ。私にできる事であれば、頼まれるのもやぶさかではないが」

 態度はでかいが意外と話のわかる相手のようだ。オスマンはこれ幸い
と自分の受けた任務について説明し、協力を頼み込んだ。

「まぁ、そういうわけで。そのワイバーンを倒すのに力を貸してほしいのじゃ」
「はっはっは、任せたまえ! 時に御老人」
「何かな、プッソウ殿?」
「すまないが、私はあなた方の使う単位がよくわからないのでね。
 身の丈15メイルというのがどのくらいの大きさなのか、教えてもらえるかな」
「ふむ、そうじゃな……」

 言われて、オスマンは辺りを見回した。すると、ちょうど自分の背後
に大きな岩がある。

「この岩が、だいたい10メイルというところかの。じゃから、おおよそ1.5倍じゃ」
「……そそそそ、そうかね。まぁ、私にかかれば雑作もなろう」
――ルルルル……

 心無しか、声が震えているようだ――いや、今のは彼の声ではない。

「……時に、御老人」

 ぐらりと揺れた、倒木“だと思ったもの”。
 それは、太く立派な“尾”。

「……何かな、プッソウ殿」

 むくりと持ち上がった、大岩“だと思ったもの”。
 それは、赤茶けた鱗に覆われた巨大な“胴体”。

「ワイバーンとは……ひょっとして、そこで起き上がったドラゴンもどきかね」

 強靭な二本の後足で立ち上がり。

「うむ……炎や吹雪を吐かんから、ドラゴンよりはマシな相手じゃがの」

 前足と一体化した翼を大きく広げ。

――グルルオォォオォオオオッ
「「いぎゃあああああッッ!!?」」

 頭をもたげたワイバーンの咆哮が、森の中に響き渡った。


 すっかり霧の晴れた森の中、並走する二つの影。

「なななな、何だよアレは!?」

 一つは長鼻の青年、プッソウ。

「わわわわ、ワイバーンじゃよ!」

 一つは白髭の老人、オスマン。

――グルォオオオオッッ!!
「「来たぁ!」」

 邪魔な木々をへし折り踏みつけて迫るワイバーンから、必死で逃げる
二人であった。

「爺さん魔法使いなんだろ! あいつの動きを止めるくらいできないのかよ!」
「そ、そうじゃった! えーと、えーと……」

 人間、パニックに陥ると簡単な事も忘れてしまうものである。
 オスマンはようやく魔法を使う事に思い至り、何の呪文を唱えようか
と頭を悩ませた。が、まことに運悪く、彼の足下には木の根が張り出し
ていた。下方への注意が疎かになっていたオスマンは、足を引っ掛けて
盛大にすっ転んでしまう。

「ぎゃぼッ!」
「爺さん!?」

 距離をつめるワイバーンの大きく開いた顎、ずらりと並んだ鋭い牙。
 オスマンは、思わず死を覚悟した。

「こうなったら……ウソ、じゃない、プッソウ・輪ゴ~ム!」
――グアァッ!?

 高らかな声が響いたのは、その時だ。直後にワイバーンのうめき声。
 目を見開いたオスマンの前で、ワイバーンが頭を振り乱して苦しんで
いた。振り向くと、プッソウが弓を射るような姿勢で固まっている。何
か先住の魔法を行使したのだろうか。

(め、目玉に当たったのか!? ラッキー!!)

 彼が内心こんな事を考えていたかどうかは定かではない。
 ともかく、足を止めたワイバーンの前に立ちはだかったプッソウは、
右手に巨大な槌を、左手に巻貝の殻を携えていた。どこから取り出した
のか、オスマンが瞬きする間の早業である。

「私は森の神、プッソウなり! ワイバーンよ、貴様の暴虐許しがたい。
 我が盟友、破壊の神より受け継ぎしこの鉄槌で、貴様を成敗してくれようぞ!」

 もがくワイバーンに向かって、プッソウは左手の貝殻を投げつけた。
同時に駆け出し、槌を大きく振りかぶる。

――グウゥ、ォオオオオオオッ!!

 ようやく痛みの収まったワイバーンが、怒りを露に吠え立てた。口を
大きく開き、プッソウを飲み込まんとする。

「うおぉぅッ!」

 牙の並んだ上顎と下顎が合わさる寸前で、プッソウは大きく跳躍した。
獲物を逃したワイバーンの口は、まっすぐ飛んだ貝殻を捉えただけ。口
を閉じ、隙だらけになった敵の眉間へ、巨大な槌が叩き付けられる。

「プッソウ・パウーンド!!」
――グヴッ!?

 耳に響く打撃音と共に、ワイバーンの頭が大きく揺れた。
 軽やかに着地するプッソウの背後で、巨獣は白目を剥いて崩れ落ちる。
かすかに痙攣した後、ワイバーンは完全に動かなくなった。

「や、やったのか?」
「ふふ、はーっはっはっ! この破壊神の槌を喰らった者は、二度と立ち上がる事はない!」
「おお! さすがは森の守護神、プッソウ殿!」

 悦に入って高笑いまで始めるプッソウに、オスマンは心からの賛辞を
贈った。森に居座っていたワイバーンは、めでたく退治されたのだ。
 ところが、話はこれで終わらない。
 オスマンが起き上がろうとした瞬間、またしても濃霧が立ちこめたの
である。慌てて、オスマンはプッソウの名を呼んだ。

「プッソウ殿、霧はもういいですぞ。プッソウ殿?」

 しかし、いくら叫んでも返答どころか霧が晴れる気配すらない。はて
どうしたものか、と腕を組んだ瞬間、唐突に霧が掻き消えた。
 その場に残されたのは呆然とするオスマンと、もの言わぬワイバーン。
そして、プッソウの使った巨大な槌だけ。長鼻の青年の姿は、文字通り
影も形もなくなっていた。


「――その後、わしはこの【破壊神の槌】を持ち帰ったのじゃ。
 後の調査でわかったのじゃが、ワイバーンは、頭の骨が内側から粉砕されとった。
 この槌でどうやったのかはわからぬが、プッソウ殿の技なのは間違いあるまい」

 長い長い昔語りが終わる頃には、既に二つの月が空に昇っていた。
 あまりに長過ぎて、クロコダイルもロングビルもあくびをかみ殺して
いる。

「ぁむ……それで、結局槌の使い方はどうなんですの?」
「いやー、それがさっぱりでな」

 ふぉっふぉっと笑うオスマンが言うには、実際に使ってみても何事も
起きなかったそうだ。片手で振り回せるほど軽いこの大槌は、体感重量
相応の威力しかないとの事。【ディティクトマジック】で調べてみても、
魔力の反応は全くなし。試しに鎧を着せた案山子を用意して叩いた時は、
鎧の尖った部分に当たった槌の鉄板が凹んでしまい、慌てて修復したの
だとか。

「つまり、全くのハリボテという事か?」
「いや、プッソウ殿が使った時は、本当にワイバーンをしとめたのじゃよ。
 じゃから、彼が使った時だけ真の力を発揮するのではないか、とわしは思う」

 オスマンは知らない。ワイバーンが飲み込んだ貝殻が、とある世界で
【衝撃貝(インパクトダイアル)】と呼ばれる特別な貝殻である事を。
ワイバーンの頭蓋骨を破壊したのは【破壊神の槌】ではなく、口中で偶
然作動した【衝撃貝】の衝撃だという事を。【破壊神の槌】が、本当は
ただのハリボテでしかない事を。
 かくして、【破壊神の槌】強奪事件はここに幕を下ろす事となったの
である。


 なお、余談ではあるが。
 人間にとってはまるで実用性のない、いうなればガラクタを盗んだ、
と知らされ、かの『土くれ』は自室でやけ酒を呷ったそうだ。

「何よぉ! あんなモン後生大事に抱え込んじゃってさぁ、ふざけんなってぇの!!」
「……で、どうしておれがお前の憂さ晴らしにつき合わされなきゃならんのだ?」
「もぅ、クロちゃん冷たいぃ~! 慰めてくれたってい~ぃじゃないのよぅ、ひっく」
(………人選を間違えたかもしれん)

 翌日、酒臭さを染み付かせて朝帰りしたクロコダイルが、ご機嫌斜め
の主人に爆破されるのもまた、完全に余談である。


   ...TO BE CONTINUED



おまけ

「ウソップ、どこ行ってたんだ? においが途切れてたから心配したぞ」
「わりいな、チョッパー。森ん中で霧が出て、その後竜に襲われちまってよ」
「竜!? 竜がいたのか!?」
「ああ。だが安心しろ、俺様が【ウソップ・パウンド】の一撃で退治した!」
「……あれ、パウンドってハリボテじゃないのか?」
「そこは俺の明晰な頭脳が活躍したのさ。
 まず【衝撃貝】を相手に引っ付けて、その上から【ウソップ・パウンド】でぶっ叩く。
 すると、俺は被害を受けずに相手にだけダメージを与えられるってわけだ」
「すっげー、かっこいー!!」
(しかし、貝を飲み込まれたのは予想外だったな。手が痺れてパウンド落としちまうし)
「改良が必要だなー……そういや、あの爺さん何者だったんだ?
 霧が晴れたら竜と一緒に消えちまってたが……本当に魔法使いだったのか?」

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