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へっぽこ冒険者と虚無の魔法使い 第5話(前編)

第五話「ワルドの夜明け(悪い意味で)」

夜、ルイズは目を覚ました。
「……」
寝起きが悪い彼女にしては、珍しく意識がはっきりしているようで、むくりと起き上がる。
暫く中空を見つめていると、ぽつりと呟いた。
「何で今更あんな夢を……」
まだ小さかった頃、父親が決めた婚約者との最後の語らい。
彼、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが魔法衛士隊に入隊して以来、もう10年も会っていない。
今こうして夢に見るまで存在を忘れていたほどだ。
「う~ん……いけません、クリス兄さん……無銭飲食は邪悪です……むにゃ」
突然の声に驚き振り向く。そこには幸せそうな顔をして眠るイリーナがいた。
流石に床に寝かせ続けるのは忍びないので運び込んだベッドの上で、すぅすぅと寝息を立てている。
その様子を見て、ルイズはため息を吐くと、あることを思い出し唸る。
「やっぱり、シュヴァリエの称号勢いで辞退したの、早まったかしら……?」
割と未練がましいルイズであった。


土くれのフーケを捕らえてから七日が経ち、イリーナたちの待遇も随分と変化した。
なんと食事の際、席に着くのを許されのた。
普段ルイズの隣に座っているマリコルヌは恨みがましい目で見ていたが、イリーナが怖いのか結局何も言わなかった。
ヒースは相変わらず文字の勉強を続け、授業でもメモを取っているが、以前のような真面目な姿勢は伺えず、どこか適当だ。
イリーナ曰く、やる気がやっと尽きたらしい。
「そこで俺様は岩をも溶かす炎を吐く九本の首を持った大蛇に果敢にも近寄り、魔法でその動きを封じたのだ」
そのヒースがいつもの法螺を吹く。
イリーナとヒースがハルケギニアよりずっと遠い、ロバ・アル・カリイエより遥かに遠い場所から来たということは既に周知の事実となっている。
無論、異世界ということを知るのはヒースとオールド・オスマンだけなのだが。
彼は授業が始まる前の間、ああして一部の生徒たちに今までしてきた冒険の数々を話している。
所々法螺や誇張が混じり、その度にイリーナから突っ込まれているが大体事実を話しているので、生徒たちは話半分だが珍しい異国の話を興味深げに聞いている。
あのタバサまでも本を読みながらではあるが、その話を聞いているのだから驚きだ。
ルイズがそんな様子を横目で見ていると、教室の扉が開き、真っ黒な人物が現れる。歓談していた生徒たちは慌てて席に着いた。
現れたのはギトーである。メイジとしては優秀なのだが事あるごとに最強は風、と強弁しその風貌も相まって生徒たちからは評判があまりよろしくない。
「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は疾風、疾風のギトーだ」
教室が一斉に静まり返る。その様子に満足げに頷くと、ギトーは言葉を続けた。
「最強の系統は知ってるかね?ミス・ツェルプストー」
「虚無じゃないんですか?」
キュルケのその言葉に、ギトーはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているのだよ」
引っかかる言い方をするギトーにキュルケは少しだけかちんと来たが、不敵な笑みを浮かべ言い放った。
「火に決まっていますわ、ミスタ・ギトー」
その言葉にギトーは目を細める。
「ほほう、どうしてそう思うね?」
「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱。破壊が火の系統の本領、そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、その杖でキュルケを指す。
「試しに、この私に君の得意な火の魔法をぶつけてきたまえ」
そう言い放つと、驚いているキュルケにギトーは言葉を続けた。
「どうしたね?きみは確か火の系統が得意なのだろう?同じトライアングルクラスだ、有名なツェルプストー家の赤毛が伊達でないのを証明してみたまえ」
「火傷じゃ、すみませんわよ」
キュルケはギトーの挑発を受けると、胸の谷間から杖を抜き、振った。
小さな火の玉が現れると、キュルケはさらに詠唱を続ける。小さな火の玉は膨れ上がり、直径1メイルはあろうかという大玉へと変化した。
火と火の二乗、フレイムボールである。
キュルケとギトーを挟む、射線上の生徒たちが慌てて射線から避難する。
「構わん、本気で来たまえ」
ギトーがそういうと、キュルケはフレイムボールを押し出した。唸りを上げ、巨大な火球がギトーへ迫る。
迫る火球にギトーは慌てるそぶりもせず、手にした杖をなぎ払うように振るう。
烈風が巻き上がる。
「ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」
「あ」
突如、金髪縦ロールという珍妙なカツラを被ったコルベールが教室に入ってきた。
ギトーの間抜けな声があがると、火球が掻き消え、同時にコルベールのカツラが烈風で舞い上がる。
「あ」
さらに僅かに残った火球の炎で引火。
金髪のカツラは一瞬で燃え上がり、キュルケは烈風で吹き飛ばされながらもその様子が目に入ったのか、ギトーと同じ声をあげた。
一瞬の沈黙の後、教室内に爆笑の嵐が巻き起こる。ギトーも、プルプルと震え笑うのを堪えている様子だった。
イリーナが笑いを我慢しながらも、倒れたキュルケを助け起こす。
「わ、私のカツラが……ええい!黙りなさい!黙りなさい小童どもが!大口を開いて下品に笑うとはまったく貴族にあるまじき行ない!
貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!!」
コルベールの剣幕にひとまず静まる教室。ギトーが咳払いをし、言葉を発した。
「あー、ミスタ・コルベール。授業中です」
「うおっほん!本日の授業は全て中止であります!」
教室から歓声が巻き起こる。
「えー皆さんにお知らせですぞ。本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
コルベールが歓声を抑えるかのように両手を振ると言葉を続けた。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、
この魔法学院に行幸されます」
教室がざわめいた。
「なぁ、アンリエッタって誰だ?」
ヒースが小声でギーシュを突付く。
「トリステインのお姫様だよ。美しく、可憐で、ああ、そのお姿を表現するには万言を尽くしたところで足りないお方だ……」
うっとりとした様子でギーシュが語る。モンモランシーの顔が険しくなるのをヒースは見て、やれやれと肩をすくめる。
「従って、粗相があってはいけません。急なことですが授業は中止し、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒たちが緊張した面持ちで一斉に頷いた。


アンリエッタの歓迎式典は恙無く行われ、無事終了した。
夜中にイリーナはいつも通り中庭で剣を振るい、汗を流すと部屋に戻ろうとする。
「……何やってるんですか?」
するとそこには鈴なりの形でルイズの部屋の扉に聞き耳を立てているギーシュとヒース、キュルケが居た。タバサはその横に座り本を読んでいる。
三人は慌てて人差し指を唇にあて、静かにしろというジェスチャーをしたが、イリーナには悪い意味で通じなかった。
「いけませんよ!盗み聞きするなんて!」
イリーナが怒鳴ると室内でどたどたと音がし、勢い良く扉が開けられる。
内開きなため、三人は鈴なりの姿勢のまま室内へ転がり込んだ。
「あんたたち……いつから盗み聞きしてたの?」
ルイズが杖を片手に闖入者を睨む。三人は、あはは、と誤魔化し笑いを浮かべた。
「い、いやそのね?あなたがお姫様をチョークスリーパーで締め落とした、って話辺りから?」
「殆どじゃない!」
キュルケがそういうと、ルイズが叫ぶ。イリーナが室内を見やると、一人の女性が膝を折り、祈りを捧げていた。
「おお、始祖ブリミルよ。これも試練なのですか……?」
「お姫様?」
きょとんとしてイリーナがその女性を見つめる。そうして、昼間見たアンリエッタ姫殿下だと気付き、慌てて頭を下げる。
「し、失礼しました!」
そういうとイリーナはヒースとギーシュの首根っこを掴み、部屋から引きずり出す。
「ああっ、イリーナ待ってくれたまえ!姫殿下!あなたが仰った任務!是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう!」
「グラモン?あのグラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
ギーシュはイリーナに首根っこを掴まれたままなので、格好がつかないが恭しく一礼する。
「あなたも、わたくしの力になってくれるというのですか?」
「任務の一員に加えてくださるというのなら、これはもう、望外の幸せにございます」
その言葉にアンリエッタは笑顔で答えた。
「ありがとう……あなたは立派で勇敢な貴族であるお父上の血を受け継いでおられるようですね。ではお願いします、この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」
アンリエッタがそういうと、ギーシュは感激のあまりえびぞりし、さらに鼻血を流して失神した。
イリーナが気持ち悪そうな顔をして、ギーシュを放す。
「ええっと……話が見えないんですが」
「うむ、俺様が説明しよう。どうやら現在アルビオンという国がクーデターの真っ最中でな、現体制が崩壊寸前らしい。
そしてクーデターが成功した場合、次はトリステインが狙われる。それを防ぐためにお姫様は隣のゲルマニアって国の王様と結婚して同盟を結ぶんだが、
以前お姫様が送った一通の手紙がアルビオンの王子の手元にあり、それがクーデター起こしてる連中の手に渡ったら同盟計画が破棄されかねんらしいのだ。
そこでお姫様は幼馴染であり信頼出来るイズに手紙の回収を依頼した、というわけだ」
はぁ、と良く分からなかったのかイリーナが気の抜けた返事をする。
「そんなわけで、キュルケ、あんたも来るのよ」
「へ?わたしも?」
突然ルイズに言われ、キュルケが動揺する。
「当然よ。正直あんたなんかと一緒に行きたくないけど、知っちゃったんだもの、おいてはいけないわ。よろしいですね?姫さま」
「え、ええ……ルイズが認める人ならば信頼できるのでしょうし……」
アンリエッタは困惑した様子で頷く。キュルケがしょうがないわね、と呟くと今まで黙っていたタバサが本を閉じ、立ち上がった。
「私も行く」
一斉にタバサに視線が集まり、ルイズは怪訝な顔をする。
「どうしてよ。あんた別に聞き耳立ててたわけじゃ……」
「今聞いた」
「あ゛」
ヒースが思わず声を発し、ルイズに睨まれる。
「あ~……あんたの風竜は足速いものね。急ぎの任務だからそう考えれば悪くはない、かしらね」
雪達磨式に増えていく同行者に、思わずルイズはため息を吐く。アンリエッタは内心、本当に大丈夫だろうか、と考え頬が心なしか引き攣っていた。
「で、ではよろしくお願いしますね、ルイズとその友人の皆様。ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル城に立て篭もり、陣を構えていると聞き及んでます」
「了解しました。明日の朝、アルビオンへ向け出立いたします。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがありますので、地理は明るいかと存じます」
その言葉にアンリエッタは頷くと、机に座り、さらさらと一通の手紙をしたためる。
最後に、躊躇う様子を見せ、末尾に何かを書き加えた。
「始祖ブリミルよ……愚かな姫のわがままをお許しください……」
そう呟くと、アンリエッタは手紙を巻き、杖を振るった。すると手紙に封蝋がなされ、花押が押される。最後に、いとおしげに手紙に接吻すると、手紙をルイズに手渡す。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょうから。それと……これは母君から頂いた水のルビーです。
せめてものお守りに持ってください。旅の資金が不安ならば、売り払っても構いません」
アンリエッタは右手の薬指から抜いた指輪をルイズに手渡すと、ルイズを抱きしめる。
「ルイズ、優しいルイズ。このような危険な任務に、大切なおともだちであるあなたを送り出すわたくしを許してください……」
目尻に涙を浮かべたアンリエッタを、ルイズは優しく抱きしめ返す。
「姫さま、困っているときに助けるからこそ、おともだちなんですよ?お任せください、見事、任務を果たしてまいります」
ルイズはそういうとアンリエッタを放し、深々と頭を下げた。


翌朝、まだ日が昇りきる前に準備を整え、一同は中庭に居た。
たまたま洗濯をしていたシエスタがそれを見送る形だ。
「よくわかりませんけど、頑張ってくださいね」
「はい!頑張ってきます!」
シエスタの応援にイリーナが元気に答える。
「目的地までどれぐらいかかるの?」
キュルケが眠そうな目を擦り、ルイズに尋ねる。
「とりあえず港町ラ・ロシェールだから……早馬でも二日は掛かるけど、この子なら四半日と掛からないでしょうね」
そういってルイズはシルフィードを撫でる。シルフィードはきゅるきゅると嬉しそうな声をあげた。
ギーシュは自らの使い魔であるジャイアント・モール、ヴェルダンデを連れて行くことを希望したが、只でさえ人数が居るのにでかくて邪魔なので却下され落ち込んでいる。
「アルビオンってどんな国なんでしょうね、ヒース兄さん」
「何でも空飛ぶ大陸らしいぞ」
またまたぁ、とイリーナがヒースの背中を叩く。景気の良い音が鳴り、ヒースが地面に顔からたたきつけられるが誰にも気にしない。
「遊んでないでさっさと乗って、行くわよ」
ルイズがシルフィードに跨り、イリーナたちもそれに倣う。
「目的地、あっち」
先頭に乗ったタバサがぽんぽんとシルフィードの首を叩き、伝えるときゅるきゅると返事をし、力強く羽ばたく。
「お怪我の無いよう、気をつけてくださいねー」
手を振ってシエスタがそれを見送る。イリーナが元気良く手を振り替えしそれに答えた。
すると見る見るうちにその姿は遠ざかり、僅かな時間で視界から消える。
「さて……お仕事お仕事」
シエスタは洗濯の仕事に戻る。そうして暫く洗濯を続け、時間もある程度経った頃、中庭に風が舞い上がった。
ルイズたちが忘れ物でもして戻って来たのかと思いきや、中庭には一頭のグリフォンとそれに跨る一人の男が居た。
その男は周囲を見回すと、怪訝な表情をし、シエスタへと近づいてきた。
「あの……何か?」
「すまないが……ここに桃色がかったブロンドの髪の少女がいなかったかね?旅支度をしていたと思うのだが……」
シエスタが何か粗相をやらかしたと思いびくびくしていると、男をそう口を開いた。
「ミス・ヴァリエールのことですか?それでしたら既に風竜に乗り出発しておられますが……」
「な、何?」
男はシエスタの言葉を聞き、目に見えて動揺すると慌ててグリフォンに飛び乗り、ルイズたちが消えた空へと飛んでいった。
「……なんだったんだろう?」
シエスタは、中庭で一人首を傾げた。


ラ・ロシェールには昼頃にあっさりと着いた。
ルイズは途中妨害があるかもしれない、と思ったが考えてみれば手紙の回収を頼まれたのは昨夜だ。
あの状況で情報が漏れているとは考え難いし、万が一漏れたとしても風竜で飛ばしてきたのだから妨害が間に合うはずもない。
「あのー、ルイズ」
「何よ」
アルビオン行きのフネがあるかどうか確かめるため桟橋へ向かう途中、考え込んでいたルイズはイリーナに話しかけられ、不機嫌そうに返す。
他の面々は女神の杵亭という宿で身体を休めていた。
「ここって、港なんですよね?」
「そうよ。トリステインとアルビオンを結ぶ玄関口、それがこの港町ラ・ロシェール」
そう言いながらルイズは歩き続ける。
「でも、山ですよ?ここ」
イリーナが一枚岩を加工され作られた、アレクラストで言えば岩の街ザーンに相当する町並みを見回し、言った。
「そりゃそうよ。ここが地理的に一番近くなるんだから……ああ、時々忘れるけどそういえばあんたって他の大陸から来たんだっけ」
そういうとルイズはにやにやと笑い、すぐにわかるわよ、と告げると歩を早めた。
首を傾げつつもそれにイリーナは追従し、長い長い階段を上り終えると、目を見開いた。
山ほどもある巨大な樹木だ。それが四方八方枝を伸ばし、その枝には良く見ると何かがぶら下がっている。
「ここが桟橋。枝にぶら下がってるのがフネよ」
にやにやと、実に楽しそうにルイズはイリーナに説明する。
「船って……水、ありませんよ?」
「空飛ぶんだもの。必要ないわ」
人でごった返す桟橋を歩いて、目当ての場所を発見したのか、ルイズはいくつもある階段のうち一つに上り始める。
呆然としていたイリーナは、それを慌てて追った。
階段を上りきると、そこには帆船に鳥のような羽をくっつけた船が何本もの太いロープでぶら下がっていた。
ルイズが見当たらないのでイリーナは辺りを見回すと、ルイズはすでに船上に移動しており、船長と思しき男と何やら話し合っていた。
「アルビオン行きが出るのは明後日?こっちは急ぎの用事なのよ、もっと早く出航出来ないの?」
「そう言われましてもね。まだ風石積み込んじゃいませんし、積み込んだとしても予定量じゃアルビオンに行く途中で堕ちますぜ。
明後日の朝が最もこのラ・ロシェールにアルビオンが近づくのを知らないわけじゃありませんでしょう?」
ルイズが鼻を鳴らすと、わかったわよ、と呟き甲板からタラップを渡り枝に戻り、交渉を見ていたイリーナを顎で促して歩く。
「戻るわよ、フネは明後日にならないと出ないわ」
「そうですか……困りましたね、急ぎなのに」
肩を落すイリーナに、ルイズは不敵に笑う。
「あら、私たちには丁度良い翼があるじゃない」
イリーナは、またも首を傾げた。


グリフォンに乗った男……ワルドは臍を噛んだ。
迂闊だった、まさか風竜で出発するとは。彼のグリフォンは中々に速い、しかしそれでも馬より多少速い程度だ。
風竜はグリフォンの何倍も速いのだ、とっくの昔にラ・ロシェールにルイズたちは辿り着いているだろう。
だがワルドは焦らない。アルビオンが最も近づくのは明日の夜、スヴェルの月夜だ。
商船は基本的に風石をギリギリに計算して積む。ゆえに、今頃ルイズたちは足止めを喰らっていることだろう。
宿も既に先に送り込んだ遍在によって確認している。当初と予定はずれたが修正の範囲内だ。何も問題はない。
ワルドはそう思っていた。
ラ・ロシェールに辿り着く。時間はもう夜中だ。歩を進め、ルイズへの第一声は何にしようか彼は考えていた。
そうして考えが纏まった頃には、女神の杵亭へ辿り着き、扉を開ける。
既に部屋へ引き上げているのか、一階の酒場には数名の客と店主がいるだけで、ルイズたちの姿はなかった。
「私は女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。すまないが、この宿にミス・ヴァリエールが宿泊しているな?」
突如衛士隊の人間がやってきたことに店主は驚きつつも、言葉を返す。
「い、いえ。そのお方ならば先ほどご友人方とともにお出かけになられましたが」
「こんな時間にか?」
ワルドは首を捻る。だが些細なことだと考え、店主に金貨を渡すと宿を取った。
待っていれば、そのうち帰ってくる。
その考えが間違っていると彼が気付いたのは、ルイズたちが帰って来ず、朝日が昇りきったころだった。


風を受け、乱れる髪をキュルケは押さえてぼやいた。
「昨日の朝からずーっとシルフィードに乗りっぱなしねぇ……」
「一応昼から夜まで休んだじゃないの」
ルイズがそう唇を尖らせる。飛びっ放しでたまらないのはシルフィードなのだが、彼女は健気にも文句を言わず飛んでいる。
実際はタバサに疲れた、と何度も零して我慢しろと言われ続けているのだが。
「もうすぐ夜明けだね……アルビオンにはまだつかないのかい?」
ギーシュが疲れたように呟く。
如何にメイジといえ狭い風竜の背で何時間も高空を飛び続けるというのは、精神的にかなり負担になっているようだ。
「もう時期よ、そろそろアルビオンが見えるはずだわ。……多分」
自信なさ気にルイズが答える。
「あ、見てください!朝日ですよ!」
イリーナが地平を指差す。一同がそちらを見やり、眩しさに目を細める。
「もう朝か……さすがの俺様も少し疲れたな」
「眠ったらどうですか?ヒース兄さん」
「いや、寝たら落っこちそうでなぁ」
ぽりぽりとヒースが頬を掻き、会話が途切れる。
暫し、風切り音だけが一行の耳に届く中、器用にもずっと本を読んでいたタバサが口を開いた。
「アルビオン」
ルイズたちが、一斉に顔をあげる。
「どこ?どこですか?」
「あっちよ」
「あっち?」
下を見ていたイリーナが、ルイズが指差すほうを向いた。
イリーナが息をのむ。そこには、空に浮かぶ巨大な大陸が存在していた。
「大陸が……浮いてる」
「驚いた?」
かくんかくんとイリーナが首を縦に振る。
「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上を彷徨ってて、月に何度かハルケギニアの上にやってくるの。
大きさは大体トリステインの国土と同じぐらいね。通称白の国と呼ばれ、由来は」
「大陸からあふれ出た水が白い霧になり、それが大陸の下半分を覆っているから、だろ?」
ヒースがルイズの言葉を継いで答えた。途中で説明を奪われたルイズは、不満げな顔をする。
「ヒース兄さん、知ってたんですか?」
「ああ、絵本で読んだ。こうして実物を見ると、圧巻としか言えんが……」
驚きを隠さずヒースはアルビオンを見つめる。
「で、これからどうするの?」
「そうね、とりあえず適当なところへ降りたら一度休憩して、それから王党派が陣を構えてるって言うニューカッスルまで行くわ」
「戦争中でしょ?連絡取れるの?」
キュルケにそういわれ、ルイズは押し黙る。
「何も考えてなかったの?呆れた……」
「うるさいわね!兎に角、貴族派に捕まらないようニューカッスルまで行ってどうにか連絡取るのよ!タバサ、どこかの街の近くに下りて」
ぶすっとルイズが言い返すと、タバサにそう指示する。そうして、適当に目に付いた港町へ、シルフィードは翼を強く羽ばたかせた。

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