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宵闇の使い魔 第拾話

婚約者であるワルドが同行してくれる事になった。
でも何故だろう――――
彼に抱かれていても、何かすっきりとしない。
何かが、胸の奥で引っかかっている―――


宵闇の使い魔
第拾話:《暴風》対《閃光》


ルイズは夢を見ていた。
生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷が舞台だった。
彼女は夢の中で、出来の良い姉たちと比較され、しかられ続けていた。
そして彼女は自身が"秘密の場所"と呼ぶ中庭の池に向かうのだ。
心に受け続ける傷を少しでも癒すために。
彼女は池に浮かぶ小船の中に逃げ込んだ。

「泣いているのかい、ルイズ」

暫くすると、年のころは16歳程の、マントを羽織った立派な貴族が現れた。
ワルドだ。彼女にはすぐ分かった。
これが夢だと理解しているルイズには、久しぶりに見かけた婚約者が夢に出てきてしまうなど恥ずかしかったが、夢の中の幼いルイズはそんなことをお構い無しに声をかけた。

「子爵さま、いらしてたの?」
「あぁ。君のお父上に、あの話のことで呼ばれたのさ」

ワルドは笑う。恐らくは今も変わっていないであろう、爽やかな笑みだ。
そして彼は手を差し出して晩餐会へと誘ってくる。
しかられたばかりの幼いルイズは躊躇するが、彼がとりなしてくれると言う言葉に、その手を握ろうとした――だが、

「きゃっ!?」

突然の突風が吹き、思わず目を閉じるルイズ。
次の瞬間には、自らの身体は今現在のものと変わってしまい、目の前に居た筈のワルドは消えてしまっていた。
それどころか、係留されていた筈の小船が乗り場から徐々に離れて行っている。
《フライ》の使えないルイズには困ったことになってしまう。

「あ、そんな―――誰か!」

ルイズは助けを求めて声を上げる。
すると、先ほどワルドが立っていた場所に、黒尽くめの隻眼の男が、咥え煙草で立っていた。

「何してんだ。流されてるぞ?」
「分かってるわよ。助けなさいッ!」

飄々とした様子で分かりきった事実を口にする虎蔵に、思わず叫んでしまうルイズ。
だが彼は何処吹く風で煙を吐き出した。
池に吸殻をポイ捨てし、踵を返す。

「なに言ってやがる。そんなん使い魔の仕事じゃねえだろ――」
「そんな――やだ、行かないでよ!!」

手を伸ばすルイズ。
だが届く距離ではない。
すると虎蔵は、肩越しに振り返って、こう告げた。

「だいたい、まだ飛べば間に合う距離だろ。そんくらい、自力でなんとかすんだな」


「――ッッ!?」

ガバッと音を立ててルイズは跳ね起きた。
なんて夢だろう、これは。
ワルドとの再開、彼との婚約の話、ワルドが虎蔵に変わり、虎蔵は去りかけ、私に対して言葉を―――
何かを暗示しているとでも言うのだろうか。
酷く喉が渇いている。
ソファーでぐっすりと寝ている虎蔵を起こさないように水を飲むルイズ。
彼女が再び眠りに落ちるには、暫くの時間が必要だった。




そして時刻は早朝。
アンリエッタからの"お願い"を果たすために、
ルイズとギーシュはアルビオン行きのフネが出る港町ラ・ロシェールへ向かうための馬を用意していた。
虎蔵は部屋を出る際に「ちょいと野暮用だ」などと言って何処かへ行ってしまい、彼の分の馬はギーシュが代わりに用意している。

その準備の最中に、ギーシュが使い魔もつれていきたいと言い出した。
巨大モグラのヴェルダンデである。
ルイズは空に浮かぶアルビオンに、モグラなど連れて行けるわけもないと説得しだしたのだが、ヴェルダンデはそんな事はお構いなしでルイズを押し倒した。
原因はルイズの右手に光る《水のルビー》だ。
昨夜、アンリエッタからせめてものお守りであると言って託された物。
この巨大モグラは宝石の類が大好きなのだそうで、その《水のルビー》に鼻をすり寄せている。

「くっ、こら姫様から頂いた大切な指輪に――きゃっ、もうっ!こんなと時にトラゾウは居ないしッ!
「ほら、ヴェルダンデ。其処までだよ。その指輪は彼女の大切な―――」

二人分の馬の準備を終えたギーシュが、
細腕で何とかヴェルダンデを押し返そうとしているルイズを生暖かい視線で眺めながら、パンパンと手を打った。
が、その瞬間―――強い風が吹き付け、ヴェルダンデが吹っ飛ばされた。

「きゃあぁッ!?」
「誰だッ!!」

突風に悲鳴を上げるルイズと、溺愛する使い魔を吹き飛ばされて激昂するギーシュ。
すると朝靄の中から、すらりとした長身の男があらわれた。
見事な羽帽子を被った凛々しい貴族―――アンリエッタの馬車の護衛をしていた男である。
ルイズがハッと息を呑むが、ギーシュは激昂したままに薔薇の造花を掲げた。

しかし―――

「僕は敵じゃあないよ、ギーシュ・ド・グラモン」
「なッ、速い――――それに、なんで僕の名前を―――」

貴族の男が杖を引き抜き、薔薇を切り落とした。
彼はふっと笑って杖を収めると、帽子を取って一礼した。

「姫殿下より、君たちに同行することを命じられた。魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。
 ギーシュ君。使い魔の事は申し訳なかったが、婚約者が襲われているとあっては頬っておけなくてね。
 まぁ、それに――傷は付けていないつもりだ」

確かにヴェルダンデは吹っ飛びこそしたが、柔らかい地面に転がされただけですんでいる。
ワルドの視線を受けると、わたわたと地中に逃げて行ってしまったが。
ギーシュはそれをみてふぅっと安堵の息をついた。
確かに、止めるのが遅かったのは事実なので、ギーシュは杖をを収めた。
収めるまでも無く切り落とされていたが。



「ワルド様―――」

一方、ルイズは彼の登場に昨夜の夢の冒頭部分を思い出してはぼーっとした視線を向けるが、スカートが捲れ上がって半ば下着まで見えかけた自らの状態に気付くと、慌てて立ち上がった。
ギーシュは初めて見るルイズの乙女チックな様相に、珍しいものを見た――と言った表情を隠せない。
これはどちらかと言えば《微熱》の役割だ。
だが、ルイズもワルドもそのようなギーシュの感想など知る由も無く、

「久し振りだね、ルイズ!僕のルイズ!ははっ、相変わらず君は羽のように軽いな」
「えぇ、お久し振りです、ワルド―――もう、恥ずかしいので下ろしてください」

などと言った調子で、ワルドがルイズを抱き上げている。
ルイズの口調も心なしかおかしい。いや、女らしくなっているだけなのだが。
そこに虎蔵も、葉巻を咥えながらやってきた。

「おいおい、なんの騒ぎだこいつぁ―――」
「ん――やぁ、トラゾウ。彼はワルド子爵。魔法衛士隊のグリフォン隊隊長で、彼女の婚約者だそうだ」

虎蔵に向けて手を上げるギーシュ。
決闘こそした彼らではあったが、虎蔵が昼間にベッドを借りたりしている間にそこそこ会話を交わすようになっていた。
虎蔵はふーん、と葉巻をふかしながら答える。
割とどうでもよさ気な感じだ。
ギーシュも短い付き合いながら、仮に彼女が虎蔵にご執心になることがあっても、その逆はありえないと感じていたので、その薄い反応にも気を止めずに居る。

しかし、実際は虎蔵の反応の薄さには訳があった。
彼は、ワルドが同行すると言うことを事前にアンリエッタから聞いていたのだ。
彼女は、本来ならばルイズと虎蔵、そしてハプニングではあったがギーシュの三名に全てを任せたいのだが、戦力的に十分であるとしても、それ以外の面で不安であると言うこと。
そして、臣下の者を誰一人使わないというのは、最悪の場合問題になりかねないということで、マザリーニ枢機卿の覚えも良いグリフォン隊の隊長を同行させるとの事だった。
事前に虎蔵だけに打ち明けていたのは、ワルドがルイズの婚約者であるためと、ワルドも100%信用できるわけではないので虎蔵に見張って欲しいということだった。
随分と用心深いとも思ったが、王族とものなるとこんなものなのかもしれない。

暫くすると満足したのか、ワルドはルイズを下ろして二人の方へとやってきた。

「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」
「よく言われんよ―――ま、それより満足したならそろそろ出ようや。そろそろ起きてくる奴らが出んぞ」

ワルドは気さくな感じで虎蔵にも挨拶をするのだが、虎蔵は何時もの調子だ。
彼はそんな虎蔵の態度も気にした様子は無く、「それもそうだね」と頷いては、口笛を吹く。
すると、朝靄の中からグリフォンが現れて、彼はそれに飛び乗った。

「さあ、ルイズ。おいで」
「え、えぇ―――」

ワルドが恭しく手を差し出すと、ルイズは一瞬躊躇して虎蔵を見た。
その時虎蔵を見てしまったのは、きっとあの夢のせいだ。
しかし、虎蔵がこっちを気にした様子も無く馬に飛び乗ったのを見ると、ワルドの手を取った。

「では諸君、出発だ!」

ルイズを抱きかかえたワルドがそういって、グリフォンを走らせ始める。
虎蔵とギーシュがそれに続いていった。

ちなみに、ルイズが乗るために用意した馬が、正門前に寂しく取り残されていたそうな。




その日の夜、一行はラ・ロシェールの《女神の杵》亭で夕食をとっていた。
道中はこれといったトラブルも無く、時間こそ掛かったが無事に到着している。


実際は、道中で崖の上から物取りの襲撃を受けたのだが、虎蔵が何処からとも無く取り出した和弓で射掛けると、着弾点に小さなクレーターが出来るほどの威力を連射されては恐れをなし、
逃げ出そうとした所で今度はシルフィードに乗ってやって来たキュルケとタバサにあっさりと捕縛された。
ものの2,3分の出来事だ。
トラブルには入らない。
むしろ出発の瞬間をキュルケに見つかっていたことの方がトラブルだ。一応お忍びなのだから。
もっとも、二人ともギーシュよりよほど魔法の腕に長けるし、タバサにいたっては《シュヴァリエ》の称号を持つほどの実力者なのだから、そう悪いことばかりでもない。
なにより、シルフィードの存在はありがたかった。


一行は食事を取りおえ、ワイングラスを傾けながら身体を休めていた。
特にギーシュは半日以上も馬に乗り続けてへろへろである。虎蔵も、だりーなどと口に出しているくらいだ。
アルビオンへは、フネが明後日にならないと出ないとのことで、今夜は泊まることになっている。
するとワルドが三つの部屋鍵を手にやってきた。

「さて、今夜はもう寝るとしよう。部屋を取った。
 キュルケ君とタバサ君、ギーシュ君と使い魔君、そして私とルイズだ」

その言葉に、ルイズがハッとしてワルドを見た。
婚約者だから構わないだろうとワルドは言うが、ルイズとしてはまだ結婚していないのだから駄目ではないかと考えていた。
とはいえ、彼に「二人だけでしたい、大事な話があるんだ」と言われてしまえば、納得するしかない。
ちなみにキュルケは、ワルドがルイズの婚約者であることを盾にして取り付く島の無い様子に既に諦め、虎蔵へと再アプローチを開始していたので興味が無い様子である。

ワルドとルイズの二人が部屋のある二階へ上がると、キュルケは部屋割りについて虎蔵とキュルケ、ギーシュとタバサの組み合わせでも良いわよね、などと提案しだした。
ギーシュはプレイボーイだが基本的には紳士ではあるし、最近はモンモランシーの調教――もとい教育もあるため、タバサと同室にしても問題ないと考えたようだ。
だがそれは、タバサの珍しく心底嫌そうな表情に没案となった。
ギーシュは割りとショックを受けていたようだったが。




翌朝、虎蔵が自室へと戻ってくると、ドアの前にワルドが立っていた。
部屋を訪ねてきたが、誰の反応もなくどうしたものか悩んでいた様子だった。
ちなみにギーシュは居るのだが、昨日の疲れが抜けずに爆睡している。
彼は虎蔵に気付くと、相変わらず気さくな様子で声をかけてきた。

「おや、早いな。散歩にでも行っていたのかい、使い魔君」
「早いっつーか、遅い?まぁ、良いだろ。なんか用かい」
「なに、ルイズから君が伝説の《ガンダールヴ》だと聞かされてね―――更に聞けば、異世界から来たとか」

虎蔵は「まあな」とだけ答えた。
別に口止めしては居なかったし、聞かれて困ることも――今の所はない筈だ。

「それに昨日の物取りを倒したときの手際やら、君が"手品"などと称する技術も含めて、興味が湧いたのだよ」
「悪いが男色の気はねえぜ」
「ははっ、面白いことを言う。僕にも無いよ。なに、ただ一度、手合わせ願いたいと思ってね」

虎蔵の物言いにも気を害することなく、気さくに話を続ける。
その様子に、虎蔵も肩を竦めて苦笑しながら答えた。

「手合わせねぇ――ま、今日は暇だから構わんけどな。何処でよ」
「この宿は昔、砦だったことがあってね。中庭が練兵場になっているのだよ」
「ふむ。なら構わんが―――昼過ぎにな」

虎蔵はそういってドアを開けると、「ちょいと腰が重いんで」などと大欠伸を残して部屋へと入っていってしまった。

ワルドはその言葉を聴くと、彼がドアを閉めてから眉を寄せて、昨夜ルイズから聞かされた彼への評価をマイナス修正した。
あんな適当な男が《ガンダールヴ》だとはな――と。



そして昼過ぎ。
たらふく食事を堪能した虎蔵は、ワルドと共に今は物置き場とかしている中庭へとやって来た。
いつの間に聞きつけたのか、ルイズをはじめ同行者全員が集まっている。

「そんな状態で大丈夫なのかね?」
「なに、腹ごなしにゃ丁度良かろう」

本当に飄々と適当な様子に、ワルドは更に虎蔵の評価をマイナスに進めた。
勿論顔には出さずにだが。
彼は「なら良いのだがね」と答えると、今度は昔話を始めた。
彼曰く、古き良き時代だそうである。
虎蔵には心底どうでも良かった。

一方、ルイズはどうにか止められない物かと説得を試みたが、あれよこれよと丸め込まれてしまった為、はらはらと使い魔と婚約者を眺めている。
しかし、それ以外の三人のギャラリーはというと、勝負の行方について盛り上がっていた。

「彼は風のスクウェア、《閃光》のワルド子爵だよ。幾らトラゾウとはいえ―――」
「でもね、ギーシュ。貴方は見てないから知らないだろうけど、ダーリンはフーケのゴーレムの足を、一撃で切り裂く寸前にまで行くのよ?そんな物を受けられると思うの?」
「それはそうかもしれないが、風のスクウェアともなれば、風の流れでトラゾウの高速移動だって見切れると思うよ。
 見切れれば、必ずしも攻撃受ける必要は無いだろう」
「どうかしら―――タバサだって殆ど全く捉えられないのよ?」
「―――始まる」

ギーシュはワルド派、キュルケは虎蔵派のようだ。
タバサの一言で、二人は間に数枚のコインを置いて、視線を中庭の中央へと向けた。



中庭中央。
レイピア状の杖を取り出すワルドに対して、虎蔵が取り出したのは何故かデルフだった。

「―――いや、良いんだよ。もうね。蔑ろにされるのも慣れたよ。あぁ、慣れたともさ」

なにやらやさぐれていた。
だが、虎蔵が「ほれ、使ってやるから刃を潰せ。できんだろ、それくらい」と言うと、やはり使われることは嬉しいのかすぐに言うことを聞く。
まるで駄目男をヒモにしてる女みたいだな、と思ったが、流石に可哀想なので口には出さなかった。

「インテリジェンスソードとは、変わった得物だね」
「だろ?こいつは刀身をある程度自由に変化させられるみたいでな――今回は便利だ」
「真剣でも構わんよ。全力でね。我々、魔法衛士隊は常にそういった訓練をしている」
「さよけ。じゃあ、ま―――得物以外は全力で行くぜ」

ニヤリと笑みを浮かべる虎蔵。
久し振りに骨のある相手だ。

『――ッ!!』

二人の呼気が漏れた瞬間、虎蔵がデルフを構えて一気に間合いを詰める。
しかし、ワルドはそれを予想していたかのように自らも前に出て、金属音を鳴らした。
鍔競りあう二人―――だが、単純なパワーの差でじわじわと押されていくワルド。

「くッ―――たいした力だッ!」
「そりゃどうも。お前さんも、ただの生っちょろい魔法使いじゃねえな」

ニヤリと笑いあう二人。
ワルドは虎蔵に押される力を利用して後ろに飛び、間合いを取る。
だが――

「なッ!?」

遅い。
虎蔵を相手にするのに、その動きは遅すぎる。
空気の爆ぜる音を残して彼が掻き消えると、背後から殺気。

慌てて身を捻るワルド。
鋭い音が耳元を切り裂き、辛うじて回避できたことに気付くが、その瞬間には思いっきり蹴り飛ばされてしまった。


「――――――ッ」
ギャラリーの四人は、呼吸も忘れるほどに見入っていた。
これが、真に実力あるもの同士の戦い。
手合わせなどと言っていたが、飛び交う殺気がその程度の物でないことをありありと伝えてくる。

「凄いわね―――子爵が閃光だというのなら、ダーリンの荒々しい攻撃は――」
「暴風――」

キュルケとタバサが、まるで無意識の如く呟いた。

蹴り飛ばされたワルドだが、すぐに体制を立て直して杖を振った。
魔法かと思ったが、違う。
虎蔵が高速で斬り掛かって来たのを受けたのだ。
余程頑強な杖なのか、砕け散るということは無かったが、両手で辛うじて止められたといった感じだ。

もはやまともにその戦いを追えているのはタバサだけになっていた。


「ハァ、ハァッ――――驚いたな―――此処までの実力とは」
「お前さんもなかなかだ。正直、メイジって奴を舐めてたよ」

辛うじて距離を取って息も荒く言うワルドに、虎蔵はまだまだ余裕だ。
少なくとも、単純な近接戦闘では話にならない。
ワルドにもそれは十分伝わった。

「しかし、婚約者の前でこのまま終わる訳にも行かないのでね―――」

そう言ってワルドは杖を構えて虎蔵を警戒しながら、呪文を呟き始める。
それを聞くとデルフはガチャガチャと音を鳴らして警告してくる。
だが、虎蔵はそのまま動かない。

「やばいぜ相棒、魔法だ!分かってるんだろ!」
「あぁ、分かってるさ」

ニヤニヤと笑いながらも、そのままで待つ。
ワルドも、詠唱で生まれる僅かな隙を警戒していた為か、動かない虎蔵に怪訝そうな表情をする。


「ちょっと!ダーリン、何で動かないのよ」
「ボクに聞かないでくれ―――何か考えでもあるのか?」
「奥の手――」

喚くキュルケに、あまりの殺気に冷汗すら流しているギーシュ。
タバサはその一瞬を見逃さないように、しっかりと目を見開いた。

ルイズはもはや、微動だにせずに二人を見ている。
虎蔵も、ワルドも、自分の知らない誰かに見えてしまっている。

――――怖い――――

それだけが彼女の感情だった。


「良い度胸だが、命取りになるぞ!」

詠唱が終わり、杖を振りかぶるワルド。
《エア・ハンマー》―――巨大な不可視の槌が、虎蔵に迫る。
しかし彼は笑みを浮かべたまま――――


「トラゾウ!」「ダーリン!」
ルイズとキュルケの悲鳴が響く。
ギーシュとタバサも目を見張っている。
強力な《エア・ハンマー》によって砂煙が巻き上げられ、虎蔵が見えない。
しかし、避けた様子は無く―――




「なるほど。こりゃ、たいした威力だ――」
「おでれーた―――なんだ、これ」

虎蔵とデルフの声が聞こえた。
砂煙が風に流される。
其処には―――

「なんだとッ!?」
「―――悪いね」

虎蔵がワルドに向けて翳した手の周囲を、球を幾つも連ねた何か――数珠が盾の用に囲み、浮かんでいる。
虎蔵の周囲を見ると、彼の周り――その数珠による盾の後ろだけが、《エア・ハンマー》から逃れたようで、
それらより外は、地面が僅かに削られている。

「防いだ――――使い魔が――――魔法を―――ハッ!?」

あまりの事態に、一瞬だが呆然としてしまうワルド。
だが、その一瞬が命取りだ。
次の瞬間には――

「余所見はいかんね」
「まったくだ―――私の負けだよ」

デルフが首筋に触れていた。
刃は潰れているが、冷たい感触がある。
ワルドが敗北を告げて杖を収めると、虎蔵もまたデルフを下ろして、地面に突き立てた。

キュルケとギーシュが歓声を上げて駆け寄ってくる。
ワルドはそれを見て苦笑しつつ、「最後のは何か、教えてもらえるのかい?」と聞いた。
ちなみに数珠はもう消えている。何処にしまったのやら。

「"手品"さ―――おい、暑苦しいから抱きつくな!ほら、それより良いのかい。婚約者をほっといてよ」
「あぁ、そうだね。出来れば、格好良く迎えに行きたかったものだが」

ワルドはそう言って、緊張が解けて座り込んでしまっているルイズの元へと向かう。

「ほんとにおでれーた。相棒、お前ほんとに何者だ―――」

地面に突き立てられたままのデルフの声は、キュルケとギーシュにタバサまで加わった輪に阻まれ、虎蔵の耳には届かなかった。




その頃、同じラ・ロシェールの路地裏にて―――

「さぁて、ほんと―――どうしたものかね」

マチルダが、否、今は《土くれ》のフーケが頭を悩ませていた。
ある場所へ荷物を送るためにやって来たラ・ロシェールでついでに行っていた情報収集中に、仮面を付けた謎の貴族に正体を言い当てられ、逃亡しようとするも追い詰められてしまったのだ。
そこで殺られるか、捕まるか――と思ったのだが、その貴族はアルビオンのクーデター一派で、協力しろと言ってきたのだ。
首に杖を突きつけながら。
その状況で断れるわけも無く、どうやって逃げるかを考えながらとりあえずは引き受けた。
しかし、なんと驚いたことに、彼女が最初に指示されたのが、この街に来ているルイズ達の襲撃指揮であった。
既に手練れの傭兵達を貸し与えられてしまい、すぐに逃げ出す訳にも、彼らに接触する訳にも行かなくなってしまっている。

「はぁ―――男運、悪いなぁ――――」

彼女はそうぼやいて、先日虎蔵から借り受けたとあるものを服の上から撫でるのだった。

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