「ミス・ヴァリエール……カービィさん……」
校長室から決闘を見ていたオールド・オスマンとコルベールが、伝説の使い魔・ガンダールヴについて談義を交わしている頃。
シエスタは顔面蒼白のまま、厨房の椅子に座っていた。
あの時、自分がギーシュの言う通り機転を利かせていれば。
あの時、自分がすべての責任を負っていれば。
あの時、ルイズとカービィを止めていれば。
様々な考えが泡のように浮かんでは消えてゆく。
メイド仲間やマルトーが慰めようと何度か話しかけてはいるが、「大丈夫」と苦笑いするだけで一向に誰とも話そうとしなかった。
そして今頃ギーシュにボロボロにされているであろうカービィのこと、カービィを傷つけられ悲しむルイズのことを考え、シエスタは胸が引き裂かれるような思いに苛まれていた。
同時に、ルイズの言葉を信じ、本当になんとかなるのではないかと思っている節目もあった。
しかしそれはあまりに絶望的な確率の話。
メイジに逆らって無事でいられる筈がないのだ。
「私が……私のせいで……」
もしかしたらルイズは、カービィが傷つけられた責任を自分に問うかもしれない。
それも仕方のないことと、罰を甘んじて受けようと覚悟していた。
「シエスタ!」
シエスタの耳にルイズの声が入って来る。
彼女にはそれが死刑宣告のように重く聞こえたという。
「シエスタ! どこ!? カービィが、カービィが!」
(ああ……カービィさん……)
シエスタの頭に無残なカービィの姿が浮かび上がる。
それだけで彼女はもう泣き出してしまいそうだった。
「勝ったのよ!」
(………………えっ?)
全く予想していなかった一言に顔を上げ、シエスタは急いで食堂へ出てみた。
すると、食堂の入り口にはルイズと――
「ぽよー♪」
――元気に手を振るカービィの姿が見えた。
一見しただけでも目立った外傷はなく、想像していた無残な姿とは程遠い。
それもそのはず、カービィは決闘後、水のメイジに治療してもらっていたのだ。
柔軟性のお陰で打撲は思ったより酷くなく、痕も残らなかった。
「シエスタ! もう凄かったのよ! こうズババーンって! それからドババーンというか!」
校長室から決闘を見ていたオールド・オスマンとコルベールが、伝説の使い魔・ガンダールヴについて談義を交わしている頃。
シエスタは顔面蒼白のまま、厨房の椅子に座っていた。
あの時、自分がギーシュの言う通り機転を利かせていれば。
あの時、自分がすべての責任を負っていれば。
あの時、ルイズとカービィを止めていれば。
様々な考えが泡のように浮かんでは消えてゆく。
メイド仲間やマルトーが慰めようと何度か話しかけてはいるが、「大丈夫」と苦笑いするだけで一向に誰とも話そうとしなかった。
そして今頃ギーシュにボロボロにされているであろうカービィのこと、カービィを傷つけられ悲しむルイズのことを考え、シエスタは胸が引き裂かれるような思いに苛まれていた。
同時に、ルイズの言葉を信じ、本当になんとかなるのではないかと思っている節目もあった。
しかしそれはあまりに絶望的な確率の話。
メイジに逆らって無事でいられる筈がないのだ。
「私が……私のせいで……」
もしかしたらルイズは、カービィが傷つけられた責任を自分に問うかもしれない。
それも仕方のないことと、罰を甘んじて受けようと覚悟していた。
「シエスタ!」
シエスタの耳にルイズの声が入って来る。
彼女にはそれが死刑宣告のように重く聞こえたという。
「シエスタ! どこ!? カービィが、カービィが!」
(ああ……カービィさん……)
シエスタの頭に無残なカービィの姿が浮かび上がる。
それだけで彼女はもう泣き出してしまいそうだった。
「勝ったのよ!」
(………………えっ?)
全く予想していなかった一言に顔を上げ、シエスタは急いで食堂へ出てみた。
すると、食堂の入り口にはルイズと――
「ぽよー♪」
――元気に手を振るカービィの姿が見えた。
一見しただけでも目立った外傷はなく、想像していた無残な姿とは程遠い。
それもそのはず、カービィは決闘後、水のメイジに治療してもらっていたのだ。
柔軟性のお陰で打撲は思ったより酷くなく、痕も残らなかった。
「シエスタ! もう凄かったのよ! こうズババーンって! それからドババーンというか!」
ルイズはシエスタの姿を見つけると、畳み掛けるように話し出した。
未だ興奮覚めやらぬようで、自分でも何を言っているのか分かっていない。
「それで、それでね!」
「ミス・ヴァリエール、カービィさん」
「ん?」
「ぽよ?」
シエスタはカービィを抱き上げると、ルイズと一緒にキツく抱きしめた。
「ちょ、し、シエスタ?」
「ぽょ」
「良かった……お二人とも無事で……」
シエスタが腕の力を強める。
彼女の胸がルイズに当たったが、ルイズが感じたのはコンプレックスからくる嫌悪感ではなく、意外なことに安心感だった。
(………ちいねえさま)カービィとはまた違った柔らかさに、ルイズは自分が敬愛する姉の面影を見出していたのだ。
シエスタの暖かさが、優しさが、すぅっとルイズの心に染み込む。
ルイズはそれに安堵感を覚えつつ、シエスタが慌てて2人を離すまでその感触を味わっていた。
「す、すみません! あまりにその、嬉しかったもので……」
「いいわよ、気持ちは分かるから」
こういう所はまるで違うけど、と、ルイズは心の中で微笑んだ。
「ところでシエスタ、ちょっといいかしら?」
「は、はい。なんでしょう、ミス・ヴァリエール?」
直立し、身構えるシエスタ。
恩人であるルイズとカービィの頼みとあらば、何があろうと協力しようという意思の表れらしい。
力みすぎてとても不自然に映る。
「そんなに身構えなくていいわよ………ねぇ、厨房にまだ食べ物は残ってる? それもたくさん」
「たくさんかは分かりませんが……賄いの残りやパンならまだあると」
「それ、全部カービィに食べさせてあげて! 今日のご褒美よ!」
「ぽょぉ! ぽよぽよぉ♪」
ルイズの言葉に飛び跳ねて喜ぶカービィ。
全身を使って喜びを表現する彼を見て、シエスタは思わずクスクス笑ってしまった。
「そういうことならお任せください。賄いだけじゃ足りないでしょうから、料理長や厨房のみんなと腕に腕によりをかけた料理を作らせていただきます!」
「えっ、いいの?」
「はい。きっと料理長も快く引き受けてくれると思いますよ」
ルイズとカービィに一礼し、シエスタは厨房へと駆けていった。
未だ興奮覚めやらぬようで、自分でも何を言っているのか分かっていない。
「それで、それでね!」
「ミス・ヴァリエール、カービィさん」
「ん?」
「ぽよ?」
シエスタはカービィを抱き上げると、ルイズと一緒にキツく抱きしめた。
「ちょ、し、シエスタ?」
「ぽょ」
「良かった……お二人とも無事で……」
シエスタが腕の力を強める。
彼女の胸がルイズに当たったが、ルイズが感じたのはコンプレックスからくる嫌悪感ではなく、意外なことに安心感だった。
(………ちいねえさま)カービィとはまた違った柔らかさに、ルイズは自分が敬愛する姉の面影を見出していたのだ。
シエスタの暖かさが、優しさが、すぅっとルイズの心に染み込む。
ルイズはそれに安堵感を覚えつつ、シエスタが慌てて2人を離すまでその感触を味わっていた。
「す、すみません! あまりにその、嬉しかったもので……」
「いいわよ、気持ちは分かるから」
こういう所はまるで違うけど、と、ルイズは心の中で微笑んだ。
「ところでシエスタ、ちょっといいかしら?」
「は、はい。なんでしょう、ミス・ヴァリエール?」
直立し、身構えるシエスタ。
恩人であるルイズとカービィの頼みとあらば、何があろうと協力しようという意思の表れらしい。
力みすぎてとても不自然に映る。
「そんなに身構えなくていいわよ………ねぇ、厨房にまだ食べ物は残ってる? それもたくさん」
「たくさんかは分かりませんが……賄いの残りやパンならまだあると」
「それ、全部カービィに食べさせてあげて! 今日のご褒美よ!」
「ぽょぉ! ぽよぽよぉ♪」
ルイズの言葉に飛び跳ねて喜ぶカービィ。
全身を使って喜びを表現する彼を見て、シエスタは思わずクスクス笑ってしまった。
「そういうことならお任せください。賄いだけじゃ足りないでしょうから、料理長や厨房のみんなと腕に腕によりをかけた料理を作らせていただきます!」
「えっ、いいの?」
「はい。きっと料理長も快く引き受けてくれると思いますよ」
ルイズとカービィに一礼し、シエスタは厨房へと駆けていった。
その後、カービィを主役とし、料理人やメイド達との宴会が行われた。
用意されたのはカービィも大満足な量の料理、マルトー秘蔵だと言うワインが2、3本、そして最高の歓迎体制だった。
生意気な貴族を叩きのめしたカービィは皆からもてはやされ、マルトーからは『我らの星』という名誉な称号までいただいていた。
ルイズの方もシエスタに手を差し伸べてくれた貴族として好印象を持たれ、メイド達からワインのお酌を受けたりしてた。
宴会の勢いはカービィの食欲のように止まるところを知らず、時が過ぎる毎にワインの空き瓶はその数を増やしてゆく。
遂には日が沈み、双月輝く夜となってしまった。
宴会が終わったのは月が真上に来た頃で、少し飲み過ぎたルイズと眠ってしまったカービィをシエスタが部屋へ送り届けることとなった。
「ふぃー……ふぃー……」
「ぐっすり眠っていますね、カービィさん」
「初日からいろいろあったからね、疲れたのよ」
シエスタの背で幸せそうに眠るカービィを見てルイズが呟く。
シエスタも「そうですね」と同意し、微笑んだ。
そうこうしている間に2人と1体は部屋の前に着いた。
ルイズはシエスタからカービィを受け取る。
「それでは、今日は本当にありがとうございました」
「お礼ならカービィに言って。よく考えたら、私は何もしてないもの」
「そんなことはありません。あの時ミス・ヴァリエールがお声を掛けて下さらなかったら……私、きっと自室に逃げてお二人を待つことが出来なかったと思います」
「……そう?」
「はい」
「まあ……シエスタがそう言うんなら、感謝されてあげてもいいわよ?」
せっかく礼を言われているのに突き返すのも悪いと思い、ルイズは照れ隠しに言い放った。
シエスタもそれが照れ隠しだと分かっているのか、キツいと思われる言葉を言われても笑顔だった。
「じゃあ、おやすみシエスタ」
「ふぃゅ……シエスタ……」
「ふふっ、おやすみなさいませ。カービィさん、ルイズ様」
深々と礼をし、シエスタは元来た道を戻っていた。
ルイズはその後ろ姿を見送ってから部屋に入り、カービィと一緒にすぐに寝入ってしまった。
用意されたのはカービィも大満足な量の料理、マルトー秘蔵だと言うワインが2、3本、そして最高の歓迎体制だった。
生意気な貴族を叩きのめしたカービィは皆からもてはやされ、マルトーからは『我らの星』という名誉な称号までいただいていた。
ルイズの方もシエスタに手を差し伸べてくれた貴族として好印象を持たれ、メイド達からワインのお酌を受けたりしてた。
宴会の勢いはカービィの食欲のように止まるところを知らず、時が過ぎる毎にワインの空き瓶はその数を増やしてゆく。
遂には日が沈み、双月輝く夜となってしまった。
宴会が終わったのは月が真上に来た頃で、少し飲み過ぎたルイズと眠ってしまったカービィをシエスタが部屋へ送り届けることとなった。
「ふぃー……ふぃー……」
「ぐっすり眠っていますね、カービィさん」
「初日からいろいろあったからね、疲れたのよ」
シエスタの背で幸せそうに眠るカービィを見てルイズが呟く。
シエスタも「そうですね」と同意し、微笑んだ。
そうこうしている間に2人と1体は部屋の前に着いた。
ルイズはシエスタからカービィを受け取る。
「それでは、今日は本当にありがとうございました」
「お礼ならカービィに言って。よく考えたら、私は何もしてないもの」
「そんなことはありません。あの時ミス・ヴァリエールがお声を掛けて下さらなかったら……私、きっと自室に逃げてお二人を待つことが出来なかったと思います」
「……そう?」
「はい」
「まあ……シエスタがそう言うんなら、感謝されてあげてもいいわよ?」
せっかく礼を言われているのに突き返すのも悪いと思い、ルイズは照れ隠しに言い放った。
シエスタもそれが照れ隠しだと分かっているのか、キツいと思われる言葉を言われても笑顔だった。
「じゃあ、おやすみシエスタ」
「ふぃゅ……シエスタ……」
「ふふっ、おやすみなさいませ。カービィさん、ルイズ様」
深々と礼をし、シエスタは元来た道を戻っていた。
ルイズはその後ろ姿を見送ってから部屋に入り、カービィと一緒にすぐに寝入ってしまった。
同じ頃、窓から入る月光が照らし出す図書室内。
「………ない」
タバサはそこで幻獣や魔獣、その他諸々の生物の本を漁っていた。
彼女もキュルケに連れられギーシュとカービィの決闘の場にいた1人だった。
最初から決闘に興味がなかったため、黙々と本を読んでいるだけだったのだが。
しかし、途中急に吹き始めた強風に、タバサは読んでいた本を閉じた。
ギーシュが風のメイジではない以上、この風はカービィの吸い込みにより起こったもの。
『朝の惨劇』でカービィに少なからず興味を持っていた彼女は、その威力がどれほどの物か、風のメイジとして見極めてみようと思ったのだ。
「……!」
そして目の前で繰り広げられる逆転劇。
黄金の剣がワルキューレを微塵に切り刻み、エネルギーの刃が地面を抉る。
先住魔法にも似たその力は、タバサの興味を一気にかっさらっていったのだ。
それでこうしてこの不思議生物の正体を突き止めるため、タバサは図書室の魔法生物に関する本を引っ張り出しているというわけだ。
しかし成果はゼロ。
物を吸い込み、吸い込んだ物の特性を写し取る力。
そんな反則的な力を持った幻獣など、絶滅種にも絶滅危惧種にも存在していなかった。
「あの使い魔は、一体……」
興味のないものは基本的に冷たく切り捨てるタバサだが、一度興味を持つと意外に熱心になりやすい。
今もカービィに対する好奇心に、彼女の小さな胸は熱くなりつつあった。
「………ない」
タバサはそこで幻獣や魔獣、その他諸々の生物の本を漁っていた。
彼女もキュルケに連れられギーシュとカービィの決闘の場にいた1人だった。
最初から決闘に興味がなかったため、黙々と本を読んでいるだけだったのだが。
しかし、途中急に吹き始めた強風に、タバサは読んでいた本を閉じた。
ギーシュが風のメイジではない以上、この風はカービィの吸い込みにより起こったもの。
『朝の惨劇』でカービィに少なからず興味を持っていた彼女は、その威力がどれほどの物か、風のメイジとして見極めてみようと思ったのだ。
「……!」
そして目の前で繰り広げられる逆転劇。
黄金の剣がワルキューレを微塵に切り刻み、エネルギーの刃が地面を抉る。
先住魔法にも似たその力は、タバサの興味を一気にかっさらっていったのだ。
それでこうしてこの不思議生物の正体を突き止めるため、タバサは図書室の魔法生物に関する本を引っ張り出しているというわけだ。
しかし成果はゼロ。
物を吸い込み、吸い込んだ物の特性を写し取る力。
そんな反則的な力を持った幻獣など、絶滅種にも絶滅危惧種にも存在していなかった。
「あの使い魔は、一体……」
興味のないものは基本的に冷たく切り捨てるタバサだが、一度興味を持つと意外に熱心になりやすい。
今もカービィに対する好奇心に、彼女の小さな胸は熱くなりつつあった。