あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 4

「あの爆発を起こせるならば、並以下の妖魔なら倒せると思うぞ」
「…………」
廊下を歩くのは、ルイズとイレーネの二人だ。
少し時間が遡るが、鳩尾に蹴りが決まったシュヴルーズが目を覚ますと、その惨状に愕然とし、何とか自分を取り戻すと惨状を引き起こした張本人に掃除を命じようとした。
…のだが。ルイズの側に立っていたエルフことイレーネと目が合った。
「すまん、左腕を失っているもので抱える余裕が無かった」
イレーネ自身は、言葉のまま『悪い』と言ったのだが
エルフという色眼鏡で見られている事と、左腕が無い事。あと、これは仕方ないが威圧感のある目でちょっと違う風に受け取ったようだ。

先住魔法使ってまで助けてやったんだから…後は分かるな?

と、何か凄まじい誤解をしている。
「え、ええ構いません!ここ、これでは授業は出来ませんね…!きょ、今日の授業は中止にひます!」
ものっそい声が裏返っているが生徒達は授業が潰れた事にそれなりに嬉しそうであった。

そして今になる。
イレーネ自身は、あの爆発を失敗と思っていない。
むしろ、武器になると思っている。
今はまだ、あの程度だったが鍛えれば下位の覚醒者ぐらいなら倒せる程になるのではないかと。
そう思ったからこそ出た言葉だったが、長年これを繰り返してきたルイズの琴線に触れるには十分だった。

「…ぅるさい!魔法が使えるあんたには分からないでしょうけどね、こっちは何百回も練習したのに爆発しか起こせないのよ!?」
「使えない…と言ったはずだが」
「嘘おっしゃい!魔法もなしにどうやったらあんなに早く動けるってのよ!」
「…いいだろう、ここの最高責任者に話してからのつもりだったが…説明しておいてやる」
「聞きたくないわよ!えせエルフの言い訳なんて!!」
「おい、どこに行く!」
「放っといて!」
ルイズがその場を走り出すと残ったのはイレーネ一人だ。
ふぅ…と息を吐く。扱いにくい年齢なのだろうとは思うが、言い出したら話を聞かないのはクレアといい勝負だ。

見た目こそ20代だが、実のところ年齢は結構上。
成長はするが老化はしない。半人半妖の影響だ。
亀の甲より年の功…まぁさすがにそこまでというわけではないが、人の扱い方というもののそれなりに知っている。
あのようなタイプは熱くなっている時にどんな風に諭しても悪い方向にしか受け取らない。
つまりは放っておくのが一番なのだ。
「さて…ルイズの頭が冷えるまで…洗濯でも済ますか」

ルイズの部屋に戻り、籠を片手に…片手しかないが水場を探そうとしたが、まだ詳しくないので場所がよく分からない。当然、外にあるのだろうが
ふと窓の下を見るとシエスタが歩いていた。
結構な高さのため、今から階段を使っても間に合わないだろうとして…窓から自然に飛び降りる。
壁の引っかかりを使い一定の速度で降りていく。そのまま適当な高さまで下がると一気にシエスタの目の前に着地した。
「聞きたい事がある」
ふつーにそう言ったが、空から人が降ってきたのでシエスタは目を点にして固まっている。
「え、えっと…やっぱり魔法使えたんですか?」
「いや、使えんが…ああ、ルイズの部屋から飛び降りただけだ。途中で足場は利用したが」
「魔法より凄いですよ、それ…」
「それで、水場の場所を聞きたい」
片手に持った籠を見て目的を理解したが、飛び降りた時にマントが引っかかって少し破れてイレーネの左腕が無い事に気付いた。
「その腕…どうされたんですか…?」
「昔…な」
しまったと思ったがもう遅い。
イレーネとて、あまり説明したいものではないのだ。

「すいません…なんか聞いちゃいけないことを聞いちゃったみたいで…」
「気にするな、ある物が無ければ大抵聞かれる」
「お詫びといってはなんですが…その洗濯物はわたしがやっておきます。そのマントも直さないといけないみたいですし」
「問題無いよ。この前まで一人でやってきた事だ」
「で、でも…貴族の下着とかを扱うには、その…片手では破いてしまう恐れが…」
籠の中身を見るが…確かに片手では少し持て余す代物だ。
「…分かったよ、頼もう」
その言葉と同時にちょっと沈んでいた顔が明るくなる。
シエスタなりに左腕の事を聞いてしまった事に責任を感じていたようだ。
「それじゃあ、そのマントも直しておきますので」
マントを外すと、イレーネの四肢…もとい三肢が明確になるが…
クピ…
何かを飲み込むような音がした。
長身ながら華奢といえる程だったが、それでいて鍛えこまれた体。
一般的なものより、さらに白く透き通るような肌。
その色に合う、陽光を反射する銀色の長髪。
(……かっこいいなぁ)
別に百合っぽい花が咲いたわけではない。素直にそう思っただけだ。
片腕が無いという表現だとなんかアレだが隻腕の戦士という表現だとかっこよく見えるから不思議だ。
「直して貰う分は私の借りだな。何かやっておく事はあるか?」
「そうですね…厨房の皆が昼食に使う時の薪が足りないって言ってたんで、それをお願いできますか?」
言ってまたしまったと思った。なんせ隻腕だったからだが
「任せておけ」
と返事が返ってきたので任せる事にした。

厨房近くで薪を割る事になったが…
「こんなもので事足りるだろうな」
昼頃には綺麗に割られた薪が山のように積み上げられていた。
まぁ元の腕と大剣があれば、こんなものでは済まなかったろうが…
乾燥させる必要はあるが5秒もあれば大木一本を丸々バラす事が可能だったが、鉈とこの腕ではこんなものだろう。
それでも、その妖魔や覚醒者との戦闘にも耐えうる動体視力で
転がっている薪を足で垂直に立てるのに3秒、鉈を躊躇無く薪の中心点に振り下ろすのに2秒、真っ二つに割った薪を蹴り飛ばし一箇所に集めるのに3秒
一本あたり計8秒の早業で薪を量産していった結果が…イレーネの後ろの山だ。
もちろん積み上げるのにそれなりに時間はかかったが。

そうこうしていると、預けたマントを抱えたシエスタが、なにやら慌てた様子で走ってきた。
「た、大変ですイレーネさん!…ってこんなにやったんですか!?」
「む…足りんか?」
「いえ…これだけあれば、一ヶ月ぐらいは大丈夫だと思いますけど…」
「そうか。で…何かあったのか?」
「え、ええ!ミス・ヴァリエールがミスタ・グラモンと決闘をするってヴェストリの広場に…!」
戦士同士の揉め事というのは珍しくなかったし、戦士同士が互いの全力で手合わせをするという事もあったので、その辺りあまり重要視していなかった。
「手合わせだろう?放っておいても問題あるまい」
「……ご存じなかったんですね。ミス・ヴァリエールの二つ名は『ゼロ』
   …魔法が使えないんです。それなのに魔法が使える貴族を相手にして…殺されるかもしれないんです!」
「…爆発は魔法ではないのか?」
「ミス・ヴァリエールの爆発は失敗なんです!」
(アレが失敗だと?……並以下の妖魔なら吹き飛ばせる威力と見たが)
「生きる意味か…まだ私にはテレサの言っていた事は分からんが…とりあえずルイズに付き合っていれば分かるかもしれん。広場はどこだ?」
「と、止めるってイレーネさんが止めるんですか!?無茶ですよ…平民が止めるなんて…!教師の人達に知らせて止めてもらうのが…」
「どうにでもなるさ『エルフ』…らしいんでな」
殆ど変わらない表情のまま淡々と言い、マントを受け取り片手で器用に留めると広場に向かい歩き出した。

こちらヴェストリの広場。
ギャラリーがルイズと相手の金髪―ギーシュ・ド・グラモンを囲んでいる。
「ゼロにしてはよくやった方だな」
そんな声があがっているのは、ルイズが爆発で青銅のゴーレムことワルキューレを一体破壊したからだろう
だが、そこまでだ。
その次にギーシュが6体のゴーレムを作り出し、ルイズに魔法の狙いを絞らせないでいた。
「確かに、君のその爆発は威力はある。現に僕のワルキューレを一体壊してくれたのだからね」
杖を持つルイズはボロボロだ。一つに爆発を起こそうとすれば他の対応が疎かになり攻撃を受ける。
「君のせいで二人のレディの名誉が傷付いたんだ。ただ君もレディだ、一言謝罪すればそれで手打ちにしようじゃないか」
普通なら、負けを認めてもおかしくない戦況だったが…あのルイズだ。
「ふざけないで…!誰があんたなんかに!」
「仕方ないな。それじゃ終わりにしよう」
ワルキューレが6体、動きながら狙いをつけさせないようにルイズに向かい、その内の一体が拳を繰り出した。
(なにもできないなんて…!やっぱりわたしって『ゼロ』なんだ…)
受ける衝撃を予想して目を閉じたが、それは襲ってこない。
ギャラリーが騒ぎ出し、さすがに妙だと思い目を開けるとワルキューレの拳を誰かの腕が受け止めていた。
「っ…!やはり今の私の腕ではこの程度でもダメージになるな」
折れてはいないが骨にヒビが入ったようだ。
ヒビ程度なら妖力が残っていない今でも放っておけばそのうち治るだろうが…今すぐにはできない。

「な、なんで、あんたがここに!」
「それはこっちの台詞だ。しかし、酷いものだ。あの男も言っていたが…お前、謝罪して手打ちにしようとは思わなかったのか?」
「悪いのは二股の責任を人に押し付けようとしたあいつなのよ…!
   それに…人の事を『ゼロ』だって!わたしにだってプライドってもんがあるの!敵に後ろを見せない者を…貴族と呼ぶのよ!」
そう叫んだルイズを見て、イレーネが一瞬だが驚いたような顔をして目を閉じた。
「そうか…成程な…」
言いながら地面に刺さった剣に近付きそれを抜く。
「前に進むか退くか…お前も…闘う資格を持っているのだろうな」
決闘前に魔法が使えないルイズ用にとギーシュが半分戯れに作り出した物だ。
「だが、下がっていろ。ここからは私が相手をしよう」
「べ、別にいいわよ…あんなやつ、わたし一人でだって!」
「主人を守るのが使い魔の仕事なのだろ?なら私は仕事を成すだけの事だ」

ギーシュ・ド・グラモン、この場の決闘をコーディネイトした彼だったが、こんな展開は予想外だ。
ルイズの使い魔―エルフが相手になると言ってきたからだ。
今すぐにでも終わりにしたいところだが、既にワルキューレで攻撃してしまっている。
それに、ギャラリーも多数居る手前退くに退けない状況になっていた。

こちら、最上階学院長室。
コルベールがもんの凄い勢いで仙人っぽい老人に話したてていた。
「『ガンダールヴ』か…見間違いではないのかね?」
「間違いありませんぞ!オールド・オスマン!あのエルフは『ガンダールヴ』です!これは大事ですぞ!」
「確かに、同じじゃな。だが…エルフが『ガンダールヴ』になったというのは…」
厄介な問題だ。ただでさえ強力な先住魔法の使い手のエルフが、あらゆる武器を使いこなすと言われているガンダールヴになったとすれば国一つ滅びかねない。
「彼女が言うには…別の大陸から召喚されたようで…そこでは『クレイモア』と呼ばれているそうですが」
「クレイモア…大剣の事じゃな。そうだとすれば、ガンダールヴとしてはこの上ない存在なのかもしれんが…決め付けるのは早計かもしれん」
「かもしれませんが…」
そこにノックが入り話が中断される
「誰じゃ?」
「私です、オールド・オスマン」
「ミス・ロングビルか…何用かね」
「ヴェストリの広場で生徒が決闘騒ぎを起こし大騒ぎになっています」
「暇なら少しでも鍛錬をすればいいものを…性質が悪いわい。で、誰が暴れておるのかね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「女好きなところだけ親父に似よったあのバカ息子か…武勇の方も似てくれるとまだマシなんじゃがの。して相手は?」
「ミス・ヴァリエールです」
「ふむ…彼女か…」
魔法が使えない『ゼロ』と呼ばれているルイズとドットとはいえ、メイジだ。
止める為の言葉を吐き出そうとしたが、続くロングビルの言葉にその言葉を飲み込んだ。

「ですが…途中からミス・ヴァリエールの使い魔のエルフが相手をする事になったようです。教師達は、決闘を止める為に『眠りの鐘』の使用許可を求めています」
思わずオスマンとコルベールが顔を見合わせる。
下手すれば明日にはギーシュの葬式だ。だが、ガンダールヴなのかどうか確かめたいという気もあった。
「ミス・ロングビル。万が一じゃ。万が一ミスタ・グラモンの命が危なくなった時は『眠りの鐘』の使用許可を出すと伝えておいてくれんか」
「ですが、それなら今すぐ止めておいた方がよろしいのでは?」
「ミス・ヴァリエールが使い魔を制御できているのかどうか確認しておきたいのでな」
「…分かりました」
一寸考えたが、ルイズの二つ名が『ゼロ』と呼ばれている事を思い出し納得したようだ。
去っていく足音が聞こえるとコルベールが唾を飲み込んで促す。
「…オールド・オスマン」
「うむ」
オスマンが頷き杖を振ると壁にかかった大きな鏡に、広場の様子が映し出された。

剣を握りギーシュに向き直ったイレーネだが、右腕が軽い事に気付いた。
おまけに、その剣が妙に馴染む。長年扱ってきた自分の印が刻まれたあの大剣のように。
2~3回剣を振ると剣を下げる。
前の腕には及ばないが、かなり力とスピードが戻っていると感じた。
(…どれ程のものか分からんが…試してみるか)

と、そこに叫び声。ご存知シエスタだ。
「だ、駄目ですイレーネさん!魔法が使えないのに貴族を相手にするなんて…それに左腕も無いのに無謀すぎます!」
左腕が使えない事はともかく、魔法が使えないという言葉にギーシュが反応した。
「魔法が使えない…エルフなのに魔法が使えないのか!『ゼロ』のルイズに相応しい使い魔じゃないか!」
そう騒ぎ立てるが、ギーシュの不幸は3つ
  • ギャラリーが居る中ちょっとテンパって教室で見せた高速移動の事を忘れていた事
  • 魔法が使えないとはいえ、エルフを倒せばモンモンとヨリを戻せると思い功名心が先に立った事
  • 最後に、エルフなんぞより余程えげつない存在である事の三つだ。

(見ていてくれモンモランシー…この僕の勇士を!)
何か悦に浸ってきたギーシュが、改めて残りのワルキューレに武器を錬成する。
剣だ。それを持たすと残り六体の内三体をジリジリとイレーネに近付けさせる。
「少し下がっていろ、巻き込む」
「先住魔法でも使う気…?魔法が使えないわたしの前で…!」
「まだ私の二つ名を言っていなかったな…『高速剣』これが私が使う技の名だ」
「技…?技ってどういう…」
そこから先は言えない。もう既にワルキューレがイレーネの目の前まで迫ってきていたからだ。
「あ、危ない!」
そう叫ぶが、腕は下に伸ばしたままで構える時間も無い。
右腕のみ妖力完全解放。
誰もが斬られる、と思った瞬間その場を風を切る音とそれに混じって聞こえる小気味良い金切り音が辺りを包んだ。

「力とスピード共に半分といったところか…しかし」
そう言いながらギーシュに向かい歩く。
半分といっても現在のNo8『風斬りのフローラ』より剣速は上だ。
当然抜き身すら見えはしない。
「どうした…?どうして動かないワルキューレ!」
ギーシュがそう叫ぶと、止まっていたワルキューレが細切れにされたかのように砕けた。
よく見ると地面にも裂け目が出来ている。
(エ、エア・カッター!?杖なんか持って無いし…数も多すぎる…や、やっぱり先住魔法…!あ、あの平民、どこが魔法が使えないだ!!)
一気に焦るギーシュだが、そんな事お構いなしにイレーネが近付いてくる。
残りの三体も向かわせようとするが、銀眼に見下ろされ戦意が一気に失せた。
「どうする、続けるか?」
「じょ…冗談じゃない…降参だ…参った…だから命だけは助けてくれ…!」
それを聞いて砕けた剣をギーシュに投げる。高速剣には耐えられなかったようだ。
「心配しなくても、我々は掟で人の命は奪わん」
半人半妖の戦士が人の側の存在である事を示す唯一にして最大の掟だ。

崩れ落ちるギーシュと悲鳴が9割、歓声が1割のギャラリーに背を向けると、呆然としているルイズ近付く。
「行くぞ。それにしてもボロボロだな…水でも浴びて来い」
そう問われて我に返り、何をやったのか問いただそうとするが、マントから覗く右腕を見て言葉を失った。
腕が途中から奇妙な方向に曲がっている。

「う、腕折れてるじゃない!」
「ヒビが入ったまま使ったからというのもあるが…」
確かに力とスピードは上がっていたが、それだけだ。筋力その物が上がっているわけではない。
ただ、剣を振るうだけなら問題無いが、抜き身すら見えない剣速の高速剣を使うには些か強度不足と言えた。
骨折の他にも結構な箇所で肉離れなどを引き起こしている。
(気軽に使える技ではなくなったという事か…使えないよりマシだが痛し痒しだな)
ふとルイズを見るが瞳を潤ませている。
「この程度で泣くな。よくある事だ」
「泣いてないわよ!誰が…!ほら…早く治癒の魔法をかけにいくわよ…!わたしのせいで使い魔が怪我したなんて許さないんだから!」
「…そう言いながら私の右腕を引っ張っているのは矛盾というのだぞ」
「…ああ、あんた左腕が無いじゃない!ほほ、ほら早く行く!」
焦ったルイズが慌てて手を離すが、一般的に重症と呼ばれる右腕を掴まれても顔を少し顰めただけなのはさすがである。

オスマンとコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
コルベールの声が心なしか震えている。
「オールド・オスマン…見えましたか…?ワルキューレを切り裂いた物を…やはり先住魔法でしょうか?」
「ふむ…」
オスマンが目を閉じ白い髭を触りながら黙っていたが、しばらくしてカッ!と目を開いた。
「ミスタ・コルベールには見えなかったようじゃの」
オスマンには見えていたのか、とコルベールが驚く。齢百歳とも三百歳とも言われているこの言われたメイジの事を改めて尊敬した。

したのだが、次の言葉で即撤回するハメになる。
「惜しいのぉ…あのマントから覗く脚…この年寄りにもしっかり見えたぞ」
やっぱりただのエロ爺だ。驚いた事を後悔した。こんなのが上司だから私の大切な髪の毛が抜けるんだ。
「モートソグニルを使ってミス・ロングビルのスカートの中を確認するのもいいが…ああいう…なんじゃろうな、チラリズムっていうのもいいものだと思わんかね!」
ちなみに、現在のイレーネの服装は前と変わらず、マントを除けば各所をベルトで固定し左脚と右肩に皮当てを装備している状態だ。
胴体部分は布製の服だが、水着のような感じの形なので脚の付け根あたりは生である。
続けて力説するオスマンにドン引きのコルベールだが、後ろに気配を感じ後ろを振り向くとロングビルがそこに居た。
「ミスタ・コルベール、少々後ろを向いていて頂けますか?」
何かビキビキと音を立てていたので慌てて後ろを向く。
「やはり、あのネズミはモートソグニルでしたか。今度やったら王室に報告しますから」
落ち着いた口調だが、音は止まらない。多分血管の音だ、決して何かが解放されている音じゃない。
「カッカしなさんな…そんなんだから婚期を逃すんじゃ。白より黒の方がいいと思うがどうかねミス…」
その瞬間、コルベールの後ろから恐ろしい速度で何かを蹴る音が聞こえた。

一分後、少しスッキリした顔のロングビルが部屋を出ると、ボロボロになったオスマンが椅子の上でグッタリとしていた。
「あだだ…年寄りに乱暴じゃのぉ…」
「自業自得です。それより…やはり彼女は『ガンダールヴ』でしょうか」
「あらゆる武器を使いこなすとあったが…肝心の武器を使う所を見てないから分からんよ
  もちろん他言無用じゃ。王室のボンクラ共に知れて戦でも引き起こされてはかなわん。なぁ、ミスタ・コルベール」
「…学院長の深謀には恐れ入ります」
戦と聞いて口調を落としたコルベールを後ろに、オスマンが杖を手に取り窓際に向かい感慨深げに呟いた。
「別の大陸か……どんな者達が暮らしておるのかの…」
実際は違う上に大した違いは無いのだが。
「妖魔と呼ばれる種族が居るらしいですが…見てみたいものですなぁ」
コルベールが夢見るように呟いたが、見たら見たで永遠に夢の世界に旅立つ事になるが、それは知る事の無い事だった。

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