あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-07


「……我々は、思い上がっていたのかもしれませんな」
「だとしても、まず責を問われるはこの老いぼれであろうよ」

 一部始終を見届けたコルベールとオールド・オスマンが呟く。
 何度と無く殴られ、倒され、その度に起き上がるクロード。
 クロードがどれほど痛めつけられても、ギーシュが戦いそのものに恐怖を感じ始めていても、
 自分たちはそれを『遠見の鏡』で暢気に見物を続けていたのだ。
 いずれ発現するであろう『ガンダールヴ』の力を待ちわびて。

 まず始めに血相を変えたキュルケとタバサが、その数分後に半狂乱になったルイズとギーシュが。
 そしてそのまた数分後に気を利かせて『レビテーション』でクロードを運んできた生徒たちが。
 口を揃えて治療師を呼んでくれと怒鳴り込んできた。

 そこで、ようやく気付いた。
 その瞬間まで、忘れていた。

 本来ならば、これは教師である自分たちが止めねばならない争いであったことに。
 本気で決闘を止めようとしていたのは、ルイズただ一人であったことに。
 自分たちの天秤は、生徒の安全よりも知的好奇心に傾いていたことに。
 『夢見の鐘』を使って、決闘を止めることも出来たはずなのに。
 教師として、大人としてそうすべきはずだったのに!

 クロードは生徒ではないから関係が無い?
 馬鹿なことを! 彼も生徒たちとさほど変わらない年齢の少年ではないか。
 ミセス・シュヴルーズは、見所のある生徒が入ってきたとそれは喜んでいたのだ。
 彼女は言った。
 クラスでも孤立しがちなミス・ヴァリエールの友人としても、彼には期待をかけているのですよ。
 素行と服装には、少しばかり問題があるかもしれませんけれど。

 彼は本当に彼女の使い魔なのですよ、と言ったときの、
 彼女の困ったような笑顔が胸に突き刺さる。
 それは今の自分にはあまりに眩しく、己に教師の資格など無いと断ざれているようで。

 それに、ギーシュの安全も保証されていたわけではない。
 最後にクロードがワルキューレを吹き飛ばした光が、
 ギーシュに直接当たっていたら彼も無事では済まなかっただろう。

 溜息とともに、手元の診断書に目を落とす。
 治療師が見立てたクロードの怪我の全容は以下の通り。

 右手首から先を複雑骨折、右鎖骨骨折に眼窩骨折、肋骨4本と下顎骨に亀裂。
 右足首と左手首を捻挫、擦り傷切り傷無数、トドメに重度の肉体疲労。

 よくもまあ、こんな状態で決闘を続けていたものだ。
 内臓に損傷が無かったのが、救いと言えば救いか。
 それこそ、そんなことになっていたらいよいよ命が無かったそうだが。
 何にせよ、学生同士の決闘で負う怪我ではない。

 ここまで彼を痛めつけたのは、ギーシュ一人ではない。
 あの状況を傍観し続けた自分たちも、立派な共犯者だ。
 溜息をつくコルベール。

「自分を責めるなとは言わぬ。だが、それは自分を貶めることと同義ではあるまい」
 オールド・オスマンの言葉に思わずハッとなる。
 なおも老人は語る。年寄りの独り言よ、と前置きをして。

「人は常に臆病で卑怯なもの、それは年を経てもそう簡単に変わるものではない。
 それを知るからこそ、自分が生徒たちの『先を生きる者』たる資格があるものか、常に己に問い続ける。
 時には誤ることもあろう、人であるが故には避けられぬことよ。
 しかし子どもたちを相手にする限り、それを見せてはならぬ。
 生徒にとって、教師は教師であり続けなければならぬ。毅然と立ち続けねばならぬ」

 難しいことよな、と締めくくるオールド・オスマン。
 自らをも戒めるように、静かな笑みを湛えて。
 やはりこの人には敵わないな、とコルベールは苦笑する。
 この人の前では、まるで自分が一生徒に立ち戻るような気にさせられる。

「我らの足が地に付いておらねば、生徒はなおさら落ち着けまい。
 己の行為を悔やんでも、その迷いを生徒に気取られぬようにな」
「肝に銘じましょう。まあ、それはそれとしてです。
 彼が最後に放った光のことですが」
「うむ、それは儂も気になっておった。
 何でもミス・ヴァリエールの話では、魔法ではないと言っていたそうじゃが」
「ええ、実は……」

 コルベールが事情を説明する。
 曰く、治療中も左手のそれを手放す気配が無く、結局調べることは出来なかったのだ。
 クロードの最後に残った意識、或いは執念か。
 詳しい話は本人から直接聞くしかないだろう。

「あれだけボロボロになっていても離さなかったものです。
 おそらく、よほど大切なものなのか、それか───」
「よほど危険なものか、であろうな」

 眉間に皺を寄せて、二人の教師は目を伏せた。





「……僕は……」
 一人呟くギーシュ。
 その様子を一言で言うならば、心ここにあらず。
 声が震えているのは気のせいではないだろう。

 本当なら、今すぐにでもモンモランシーとケティ、
 そして因縁をつけた使用人の彼女に詫びに行かなければいけないはずなのに。
 体が動かない。何を言えばいいのかわからない。
 何より、今の自分にそんな資格があるように思えない。

 父が言っていた。戦場の空気は人を狂わせると。
 狂気に喰われた者がもたらすものは、死と破滅だけだと。

 父の言葉を聞いて、そうはなるまいと思った。
 けれど、僕は何もわかっていなかった。
 その言葉の本当の意味を、まるで理解していなかったんだ。

 ギーシュは自分の両手を見つめる。
 それがまるで血に塗れているように見えて、ぶるるっ、と身を震わせた。

 あの時、自分は何を思っていた?
 彼を叩き伏せ、痛めつけながら、何を考えていた?

 ───言い知れぬ快感を覚えてはいなかったか?

 ───それは、狂気ではなかったか?

 ───途中からそれに気付きながら、何故止めなかった?


「ううっ、うあああっ……!」
 悪夢にうなされるようにギーシュは髪を振り乱す。
 爪が食い込むほどに我が身を抱きしめる。

 おぞましい。恐ろしい。怖い。

 確かに彼は僕の誇りを傷つけた。
 でも、それはきっかけに過ぎなかったんだ。
 もしも彼があの光で僕を止めていなければ、
 僕は本当に彼を殺してしまっていたかもしれない。

 ああ、それが僕自身の誇りならばまだいいさ!
 けれど、もしも彼が君やケティを傷つけたとしたら?
 僕の大切な人を傷つけていたとしたら!?

 ───僕は彼を憎むだろう、殺したいとさえ思うことだろう。

 そうさ、戦場ではそんなことは決して珍しいことじゃない!
 その時はきっと、僕は彼を痛めつけていたときの、あの顔をしているんだ───!


「……ギーシュ」
 聞き覚えのある声に思考が中断され、ギーシュが顔を上げる。
 そこに居たのは、豊かな金髪を巻き上げた少女。
 調子に乗って傷つけた大切な人が、そこにいた。





「……」
「……」

 静寂が部屋を支配し続けて既に数刻。
 二人の少女は言葉を交わすこともなく、ベッドに横たわる少年をただ見つめ続ける。
 全身に巻かれた包帯も痛々しく、死んだように眠るクロード。
 ルイズはクロードの傍らに座り、シエスタはその後ろに立ち尽くして。
 その間に越えられぬ壁か、或いは埋められぬ溝があるように思えたのは、シエスタの感傷だったろうか。
 1メイルも無いはずの距離が、ひどく遠く見えた。

 傷つき倒れ、痛めつけられ、それでも立ち上がり続けるクロードを前にして、
 シエスタはただ後ろで怯え、泣き、震えるだけだった。
 誰かが救ってくれることを無力な万能者に祈り、願うばかりだった。

 だが、ルイズは違った。
 一度ならず二度も、敢然と決闘に割り込んで見せたのだ。
 二度目には自分が傷つくことさえも省みずに、己が身を盾にして。
 彼を、クロードを助けるために。

 それを目の当たりにして、改めて平民と貴族の違いというものを思い知らされた気がした。
 己が傷つくことを恐れずに、誰かを守るために一歩を踏み出す勇気。
 それこそが本当の人の上に立つべき者の高貴な魂なのだと、思わずにはいられなかった。

 クロードにしてもそうだ。
 彼はあの時、ギーシュに責められる自分を何も言わずに助けてくれた。
 きっと、彼らにとってはそれが当然であり、自然なことなのだろう。
 その強さと優しさこそが、貴族と呼ばれるべき者たちへの敬意の源なのだと、シエスタは思った。

 彼がこんな目に遭うきっかけを作ったのは自分だ。
 だからこそ自分が彼の世話をしたいという気持ちはある。
 けれど、それは私には許されないこと。

 自分はあの場で、何もしなかった。
 勇気の一歩を踏み出すことが出来なかった。
 そうしようと考えることすら、出来なかったのだ。
 そのことが、彼女にこの場からこれ以上クロードに近づく資格を失わせた。

 クロードの側に居ると、どうしようもなく胸がざわめく。
 ルイズがクロードの傍に居るのを見ると、胸が潰れそうになる。
 その痛みが、まるで与えられた罰のように足を縫い止め続けていた。

『ここで退いたら、僕は君の使い魔でいることに胸を張れない』

 クロードの言葉がリフレインする。
 耳に挟んだことがある。主と使い魔は惹かれ合い、出会うべくして出会うのだと。
 二人の勇気と優しさ、それがまるで何人も侵しえぬ絆のように見えて。
 それを感じながらも、クロードに惹かれている自分を否定することが出来なくて。

「……お食事を、お持ちしましょうか」
「……」

 揺れ続ける心を誤魔化すように絞り出した言葉に、情けなさが込み上げる。
 何て白々しい声を出すのだろう、私は。
 ルイズは無言で首を振るのを確かめ、それでは、と誰も見ていない礼をして部屋を後にする。
 どうしようもない寂しさと、ほんの少しの安堵感とともに。



 取り残され、二人きりになった部屋で、ルイズは呟く。


 さっさと起きなさいよ、馬鹿。

 使い魔の癖に、主を待たせてんじゃないわよ。

 まだ、何も聞いてないじゃない。

 話さなきゃいけないこと、聞かなきゃいけないこと、たくさんあるんだから。

 ねえ、クロード─────









 窓の外には、静かに輝く月二つ。
 赤と青の光は、一時の安らぎを贈るように。
 全てに等しく、穏やかに煌々とハルケギニアの大地を照らしていた。


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