あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 9

猫用のブラシで毛並みを整えて貰いながら、ブータは満足そうに喉を鳴らした。
時刻は夜半を過ぎ、ギーシュやタバサ等の弟子たちも今は自分の部屋で休んでいる頃だろう。
こんなものかしらとブラシを置くルイズに寄り添い、礼を述べながらその顔を覗き込んだ。

「どうしたね、ルイズ。なにか気に病むことでもあったのか?」
「……やっぱり、わかる?」

まぁな、と頷いて主の寝台に上がる。
左手側からルイズの背中を通って右手側へと身体を伸ばした。

「お主は、何か悩みがあるとわしに触りたがるからな。
 気づかなかったか? キュルケとタバサがうらやましそうにしていたぞ」

図星を刺されて苦笑し、ルイズは背中をブータの身体へともたらせかけた。
頬を摺り寄せて先ほど整えたばかりの毛並みの柔らかさを堪能する。

「こうしてると、落ち着くのよ」
「わしはぬいぐるみではないのだがな」

不満そうに言う猫神に少女は頬をほころばせた。
先日、キュルケに聞いた噂話を思い出す。
ルイズをお姉さまと慕う下級生の間で猫のぬいぐるみが大流行していると聞いたら、彼は一体どう思うのだろう。
手を伸ばして喉の下を撫でてやりながらくすくすと笑う。

「ぬいぐるみというよりは、そうね。お爺さまかしら」
「……まぁ、オールド・オスマンより高齢なのは否定せぬがな」

そういう意味じゃないわよ、とルイズは懐かしそうに笑った。
ずっとずっと昔、泣いていた幼い自分をこうやって抱きしめてくれた優しいお爺さま。
何で泣いていたのかも定かではない。
魔法が使えぬことが悔しかったのか、エレオノールに苛められたのか、カトレアのペットが怖かったのか。
ただ憶えていることは、その人がこうして優しくルイズを抱きしめてくれていたその温もりだけ。
まだ小さいルイズにはその人の声も顔も覚えることは出来なかったけれど、この温もりだけは確かに心に残っている。
その人とは声も顔も、それどころか種族さえも違っている筈なのに、
しかしルイズは自らの大猫に懐かしい、優しかった祖父の思い出を感じることが出来た。

「そんなにミス・ロングビルが心配なのかね?」

告げられた問いに一瞬絶句し、苦笑しながら頷く。
この聡明な使い魔に隠し事など出来る筈もないのだから。



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オールド・オスマンの秘書であったミス・ロングビルが学院を去ったのは、
ルイズたちがトリステインの城下町に繰り出していたその日の夜の事であったそうである。
もっともそれを彼女たちが知ったのはそれよりも随分と後のことだったのだが。
その時の彼女たちの話題と言えば、武器屋で見つけた掘り出し物のインテリジェンスソードともう一つ、
破壊された宝物庫の壁に残された謎の文章だったのだから。
謎と言っても、読めなかったと言う訳ではない。
ただその内容が問題だったのだ。
貴族だけを狙うとして有名な盗賊の署名がされたそれは、
しかし宝物庫にない物品を盗んだ旨が書かれていたのである。
オールド・オスマン以下の教師陣は首を捻ったが、
有る筈の無い品物を盗まれたなどと役人に届け出ることも出来ぬし、
学院に盗賊が入り込んだと言うのも恥である。
釈然としないながらも愉快犯の犯行だろうと集会を開いて生徒を招集し、
模倣犯が出ないように呼びかけるに留めたのだった。
なお、その日に置手紙を残して学院を出奔したミス・ロングビルと盗賊との関わりを邪推した教師も存在したが、
オールド・オスマンから証拠も無いのに不確かな事を言うなと窘められるに終わった。
しかしながら状況証拠だけで騒ぎたい者もいるのが世の習いであり、

『ミス・ロングビルはフーケに盗まれた愛用の靴下を探す為に旅立ったのだ』

と真面目な顔で主張して女生徒全員から白い目で見られた剛の者も存在した。
詳しく述べるのは避けるがマリコルヌ・ド・グランドプレと言う男である。
尚この件について何事か知っている素振りを見せた大猫は黙して語らず、ただ髯を震わせるだけであった。



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「ねぇ。ブータ。あなたならどうする? 
 もしも自分の生まれ故郷が、敵に襲われているとしたら。
 戦場になるかもしれないとしたら」

さてな、と数多の世界を旅した大猫は寂しそうに笑った。
彼の故郷は既に無い。幾百の年月を戦い、幾戦の敵を殺し、幾万の誉れと死に囲まれて生きてきた。
もしも生まれた場所に戻っても、もはやそうと言われねば解らぬくらいに変わり果てているだろう。
いや、変わり果てたのは自分も同じか。
ブータは苦い笑いを頬に浮かべた。
猫として生まれ、戦神の一柱となり、災禍を狩る災厄として生きてきた。
瞼を閉じれば克明に思い出せる戦いの日々。
敵の血と怨嗟の叫び、仲間の嘆きと絶望に満ち、それでも懐かしいあの地獄。
彼がその生涯の殆どを過ごした戦場の光景。
あそこには全てがあった。
願いがあった。
誇りがあった。
輝きがあった。
そして何よりも、優しいあの大嘘つきの姫君がそこにいた。
愛も友情も、願いも誇りも、仲間さえもそこで手に入れた。
ならば、戦場こそが我が故郷。

「わしにとっては戦場こそが故郷だよ、ルイズ。敵に襲われない戦場など無いだろう?」

その言葉に少女は悲しげに目を伏せた。
ルイズは生まれ故郷を愛している。あの屋敷を、その周辺の村々を大切に思っている。
春には花の下を母さまと歩いた。
夏には大姉さまと湖で遊んだ。
秋には父さまと遠乗りをした。
冬には暖炉に当たりながらちい姉さまと雪を眺めた。
領民からすらもゼロのルイズと蔑まれ、姉たちと比較され続けはしたけれど、
それでもそこが自分にとって大切な場所であるのに違いは無かった。
領民たちのお陰で自分が生活できると言うことを忘れたことなど無かった。
いつかそこに住む者たちを守るのだと、自分に言い聞かせて歩き続けた。
懐かしいわたしの故郷。わたしの心の一部分。
もしもそこが戦場になると考えただけ、
失ってしまうと考えただけで心が痛む。
だがそれよりも何よりも、ルイズは戦場をこそ故郷と言うこの大猫の歩いた旅路を思って心を痛ませた。
そこに行き着くまでに何があったのか、何を見たのか。
それはおそらく、この世の誰にも解らない過酷な道だったのだろう。
心の痛みを、それがどうしたと押さえつけてルイズは笑った。笑ってみせた。
自分ごとき小娘の哀れみなどこの猫には侮辱でしかないだろう。
ならば過酷な道を歩き続け、それでも優しさを失わなかったこの猫に、主人と認められたことを誇りに思おう。
いつか時が過ぎ、ルイズのことを思い出した時に、それがブータにとって故郷と言えるモノであることを祈って。

「前にね、少し話したことがあるの。ミス・ロングビルはアルビオンの出身だって」
「アルビオン? 最近良く話を聞くな。内乱が起こっているのではなかったか?」

その通りよ、とルイズは深い深いため息をついた。
ロングビルから聞いた話を、王命に逆らってまでもエルフと混血の娘を守ろうとし聞いた話を思い出す。
はっきりとは明言しなかったが、あれは彼女にとって大切な人のことだったのだろう。
ルイズがその人を褒めた時、彼女は本当に嬉しそうに、涙さえ浮かべて笑ったのだから。

「そうよ。ミス・ロングビルの故郷は、今、戦場になっているの」

それも、争っているのはどちらもミス・ロングビルにとって敵である。
王家は彼女の大切な人を手にかけようとした大敵であるし、
ハルケギニアを統一してエルフに奪われた聖地を取り戻そうとする反乱軍も味方ではないだろう。
ただエルフであると言うだけで敵とみなす。
その観点から言えばどちらも同じ穴の狢でしかないのだから。

「確かにそうかも知れんがね、お前さんが思い悩むのとそれとどう関係があるんだね?」

不思議そうにルイズの手を鼻先でつつきながらブータが尋ねた。
ルイズはトリステインに仕える公爵家の生まれであり、アルビオンとの関係は薄い。
先祖を探せば彼の国との血縁も見つかるかもしれないが、ルイズが悩む理由にはならない。
それは、と告げようとして少女は口をつぐんだ。
理由など無い。強いて言えば内乱に巻き込まれているかもしれないロングビルの身が心配だというだけのことである。
だが、自分にそれを口にする資格があるのか。
自分よりも大人で、自立した女性で、しかも魔法の使えるロングビルを、
子供で、自分の力でお金を稼いだことも無く、魔法の使えないゼロのルイズが心配する。
それは失礼この上も無いことで、なによりもロングビルに対する侮辱ではないだろうか。
それに何より、全てが杞憂かもしれないのだ。
ロングビルはアルビオンではなく、全く別の場所にいるのかもしれないのだから。
俯いて唇を噛む少女に、老いた大猫は優しく話しかけた。

「お前は優しいな、ルイズ。優しくて、そして強い」
「わたしは強くなんてないわ。魔法も使えないし、自分ひとりでは何も出来ない」
「弱さを認めるのも強さのうちだよ。本当に弱い者は、嫌なことからは目をそらすものだ」

千年単位の時間を生き続け、万の単位の人々を見続けた大猫は目を細めると、
主の肌に傷をつけぬようにそっとその頬を舐め上げた。

「何も出来ぬと言ったが、それはお前が知らないだけだ。
 わしは戦神だが、戦場以外ではただの猫に過ぎぬ。
 ただの猫でもお前を慰め、涙を拭うことが出来る。
 ただの猫でそうなら、貴族であるお前には何が出来るのだろうな」

少女は涙を流してなどいなかったが、
それでも猫の優しさを心地よく受けいれた。一つ頷いてブータの腹に顔を埋める。
猫神の豊かな毛並みは、少女の顔を隠して余りある。
なぜだか、不意に恥ずかしくなったのだ。
変なことを考えて、何の証拠も無いのに思いつめて、
それを使い魔に心配されて、そして慰められている自分が、
とてもとても恥ずかしかったのだ。
けれど、とルイズは思った。
確かに恥ずかしくて、ブータの顔も見れないけれど、
なのに、なんでわたしはそれを嬉しいと思うんだろう?

「そうね、何か出来るようになったら……それは、きっと素敵なことなのでしょうね」

胸の奥に暖かいモノを愛しく感じながら少女は微笑んだ。
この猫は、いつも自分が本当に欲しい言葉をくれる。
魔法についてもそうだ。
オーマやリューンなどと言う意味はよく解らなかったけれども、
自分が系統魔術ではない別の術が使える可能性を教えてくれた。

「何か出来ることが素敵なのではないよ、ルイズ。
 誰かの為に何かをしようと思えることが素敵なのだよ。
 お前がいつも言っているだろう?
 誰かの為に力を奮えるのが貴族なのだと」

夜の冷たい空気に、猫の暖かい体温が心地よい。
優しい使い魔の言葉に、身体だけでなく心までもが温かくなってくる。

「そしてな、お前の友達はみな貴族さ。
 キュルケ、タバサ、ギーシュ。それにわしやシエスタもいる。
 みなお前の為に力を貸してくれるだろう。
 だから、時には甘えてみてもいいのだぞ?」



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その日、ルイズは夢を見た。
屋敷の中庭の、池の真ん中の小さな島で。
大猫と遊ぶ夢を見た。
目を隣にやれば青い髪の女の子が猫を枕に本を捲っており、
黒髪の侍女がお茶の用意をしてくれている。
金髪の少年がモグラと遊び、赤い髪の女の子が花輪を作ってルイズの髪に飾ってくれた。
眼鏡をかけた女性が、金髪の知らない少女と一緒に歌を歌っている。
誰もが笑い、泣いている者など一人もいない。
有りえなかった、けれどどこかで見たような。
見たこともない、けれどどこか懐かしい。
そんな、素晴らしい、夢を見た――――



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