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宵闇の使い魔 第玖話

ようやく一日が終わる。無駄に疲れたな―――
荒事はまだ良いが、やたらめったら喋らされるのはもう勘弁願いたいところだ。
そう思っていても、厄介事は向こうからやってくるんだがな。


宵闇の使い魔
第玖話:王女との友情


「それで―――トラゾウ、あなたは帰りたいの?」

舞踏会の後、虎蔵はルイズの部屋にキュルケとタバサを招き、オスマン達にしたのと同じような説明を行った。
三人とも驚くほど素直にその事実を受け入れた為、逆に虎蔵の方が戸惑った位である。
その後、主にキュルケから元の世界について様々な質問を受けては適当に答えていたのだが、
唐突に真剣な声でルイズが発したのがこの問いである。

「トラゾウ。ちゃんと答えて。元の世界に返りたいわけ?」

ルイズの表情は真剣そのものだ。
当初は完全にハズレだと思っていたが、今では他のどんな使い魔よりも強いと確信している。
だがその彼が帰りたいと言いだしてしまったら、私はどうするのだろうか、と考えていた。
引き止めはするだろう。
多くの知人から素直ではないと称されるルイズだが、その点は既に認めている。誰かに告げたりしている訳ではないが。
だが―――

―――私が引き止めたとして、留まってくれるのだろうか――

人に認められることの少なかったルイズには自信が無かったのだ。

しかし虎蔵はいんやと前置きをして、オスマン達にしたようにこれといって帰りたいという欲求・理由は無いこと、
しかし場合によっては強制的に呼び戻される可能性があることを説明した。
「それじゃ、ある日突然帰るかもしれないって事?」
キュルケが首を捻る。
そんな事ができるのだろうか、といった様子だ。
「―――変なタイミングだったら迷惑」
タバサはどんな状況を想像しているのか分からない調子でキュルケに続いた。
だが虎蔵に、

「いや、あの状況で呼び出したお前らに言われてもな――」

と半目で言われてしまえば、「呼び出したのはルイズ―――」と視線をそらす。
そして当事者であるルイズは虎蔵の裸を思い出してしまってしどろもどろになり、
「いや、だって―――こっちだって狙った訳じゃないわよ!」と逆ギレした。
それをニヤニヤと笑いながらも「ま、そういうことでな。之ばっかりは俺にゃどうにも出来んよ」と肩を竦めた。
あの魔女相手には、なにをしたって無駄だ。
ルイズはまだ納得がいっていない様だが、その様子を見たキュルケがパンパンと手を叩いて、
「まぁ、なんにせよ今日はこの位ね。何度も踊ったから、流石に疲れたわ――トラゾウと踊れなかったのが残念だけど」
と話題を打ち切った。
確かに、舞踏会が終わってから話し始めたためかなりの時間になってしまっている。

キュルケとタバサが出て行くと、ルイズは寝る仕度をしてベットに上がったのだが、虎蔵は何故か部屋から出て行こうとしていた。
「え、ちょっと――何処行くのよ」
先程の話のせいか、思わず虎蔵の上着の裾を掴んでしまうルイズ。
なぜかこのまま何処かに消えてしまう気がしたのだ。
「ん?あぁ、トイレとタバコ」
虎蔵はそういって胸ポケットから一本用のシガーケースを出して見せる。
そう言われれば、ルイズは手を離すしかない。ゆっくりと名残惜しげになってしまったのは仕方がないことだった。
「行かないで」と素直に言えない自分に、少しだけ嫌気が差した。



ルイズの部屋を出た虎蔵はくるくるっとシガーケースを回して胸ポケットに戻すと、ロングビルの部屋へと足を向けた。
かなり遅くなったのだが、特に気にすることも無くドアをノックすると「遅い」と不機嫌そうなロングビルが出てくる。
「さっさと入って。誰かに見られると厄介だからね」
「へいへい」
ロングビルの部屋へと入る虎蔵。
既にドレスは着替えており、ゆったりとした普通の格好をしている。
「ネグリジェ辺りを期待してたんだがな」
虎蔵が本気か冗談か区別しにくい口調で言うと、ロングビルは「残念だったね―――過剰サービスはしない主義なの」と肩をすくめた。
「ほら、ジョークは十分だよ。さっさと本題に入ろう。夜更かしは美容の敵だからね」
そういって椅子を椅子を勧めてくる。
虎蔵は肩を竦めてその椅子に腰を下ろし、話し始めた。
「あいよ。まぁ、一応確認なんだが―――快盗なんてやってたってことは、裏社会にもそれなりに精通してるよな?」
「そりゃね」
ロングビルが問いに頷くのを見ると、彼は「死人を操る業を使うような奴が居ないか調べてくれ」と続けた。

「死体を、操る―――」
「ゾンビー、グール、リビングデッド―――どう呼ばれているのかは分からんが、まぁ、そんな感じの物だ。
 実際は違いもあるんだろうが、俺にゃよく差が分からん」
「グールだね―――なんだい、吸血鬼に用があるの?」
「いや、この世界のじゃなくてだな――ー元の世界に居たときに、そういう業を使う奴が俺のもってるある物をしつこく狙って来てたんよ」
「あぁ、なるほど。そいつがアンタや《破壊の杖》と同じように、こっちに来てるかもしれない―――ってことね」
理解が早くて助かる、と虎蔵が頷く。
ロングビルとしては、個人的な頼みとしては問題はないが、仕事として引き受けるのは考えてしまう内容である。
なにせ"居るかどうかも分からない人物を探す"訳だ。
悪魔の証明である。
「――一旦引き受けるのは吝かじゃないよ。ただ、本当に居るのかどうかも分からない奴を調べるってのは、
 十中八九終わりが無いんじゃないかい?」
「だろうな。だから、常に全力で調べてくれってんじゃない。休日に街に行ったときにでも情報屋を使うだとかな。
 生憎と、俺にゃそれも困難でね」
言葉は通じるが文字は読めないし、元々そういった行為は性格的に得意ではない。
ならば本業―――という訳でもないだろうが、精通した人間を使うのが道理であろう。
しかし―――

「いや、それにしたって―――アンタ、私が何時までも此処で秘書やってるつもりだと思ってる?」


ロングビルの言葉に、虎蔵は「あ゛ッ」と声を漏らした。
ロングビルが魔法学院でオスマンのセクハラに耐えながら――と言っても派手に反撃しているのだが――
秘書をしていたのは、あくまで《破壊の杖》を盗むためだ。
今となっては、此処に留まっている理由は無いのである。

ぽかんと口を開けて間抜け面を晒す虎蔵。
もし煙草を銜えていたとしたら落としていただろう。
「ッ――あはははッ――アンタ、面白い奴だね。ふふッ――妙に鋭い割りに、変な所で抜けてる」
「五月蝿ぇなぁ――」
ロングビルは虎蔵の表情が何処かのツボに入ったのか、相好を崩さんばかりに笑い出した。
虎蔵は珍しく苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
良い所を邪魔され、やり込められ、随分とからかわれもしたが―――きっとあの三人娘はさっきの様な間の抜けた表情や、
今のような苦々しい表情を見てはいないだろう。
何処までも頼りになる、クールな男とでも思っているのに違いない。
なぜだろうか。変な優越感を感じてしまった。
「もう、仕方がないね。良いよ、引き受けた。どっちにせよ、今日の明日で止めるのはおかしいからね。
 暫くは此処に居るつもりだったんだ」
相変わらず笑ったまま、パンパンと楽しげに虎蔵の肩を叩いてくる。
虎蔵はうざったそうにその手を払いのけて肩を竦めた。

暫くしてようやく彼女は笑いをとめた。
「あー、久しぶりに笑った。じゃあ、まッ――これから二人の時にはマチルダって呼んで頂戴」
突然そんなことを言い出したロングビルに「は?」と虎蔵が視線を向ける。
「私の本名さ。アンタがアタシにまで色々と説明してくれた事もあるしね。だから、アタシも秘密をひとつ明かすって訳。
 それとも何かい。こんな仕事を本名でやってるとでも思ってた?」
確かに、そういった仕事をするのに本名は使わないだろう。
虎蔵も幾つも名前を持っている。
もっとも、その場で適当に名乗ったことも少なくないが。
「貴族だった時の名前って奴か?なんでまた唐突に」
首を傾げる虎蔵に、そういうこと、と頷いたロングビル――マチルダは虎蔵のまねのように肩を竦めて答えた。
「さて、なんでだろうね―――まぁ、やられっぱなし、教えられっぱなしなのが気に障ったとかそんな感じかもね。
 仕事を引き受けるんだから、その辺り位は対等で居たいとかさ。まぁ、ほとんど気まぐれみたいな物だと思って良いわ」
「なるほど。まぁ、人前で呼ばんように注意せにゃならんがな」
笑いこそ収まったがいまだに楽しそうにしているマチルダに、虎蔵も口元に笑みを浮かべつつ「よっこらせ」と声を出して立ち上がった。
「年寄りじゃないんだから―――お帰り?」
マチルダは座ったままそれを見上げて問う。
「朝になっても戻ってなかったりすると、ご主人様が五月蝿いんでね」と肩を竦める虎蔵。
「使い魔生活も楽じゃないみたいね。もし首にされたら私の使い魔にでもなる?あんたならそこらのドラゴンなんかより役に立ちそうだよ」
マチルダの言葉に「考えとくよ」と答えながらドアへと向かう虎蔵だったが、ドアのノブに手をかけた所で何かを思い出して振り返った。
「っと、忘れてた。こいつを貸すつもりだったんだな―――」




翌日。
なにやらトリステインの王女がやってくるらしく、学院はちょっとした騒ぎになっていた。
学院生は正装をしてに正門の内側に勢ぞろいしている。
その王女、アンリエッタは国民からかなりの人気があるようで、殆どがトリステイン国民である生徒達は我先にと集まっていた。

とはいえ、真に全員がそうであるかと言えば、当然例外も居る。
ゲルマニアからの留学生であるキュルケ、こういったことに興味が無いらしいタバサ―――そして虎蔵である。
学院としての正式な歓迎式典との事であるから、面倒そうにしながら列の一番後ろに並んではいるが、
馬車から降りてきたアンリエッタを見ては、
「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃない。ねぇ、ダーリン」
「あー、まぁ―――トントンじゃないか?」
などと話をやめる気配が無い。
それどころか、キュルケが不満そうに「えー」と虎蔵の腕に抱きついては、
「ほらほら、絶対あたしの方が"ある"わよ~」
と言って、その豊かな胸を押し付けてきた。

だが、普段ならこういった状況になればまっさきにルイズが引き剥がしに来るのに、なぜか何時までたっても反応が無い。
二人は思わずその体制のまま顔を見合わせて、何事かとルイズの方を見た。
なにやら頬を朱に染めて、王女とは異なる誰かを見ているようだ。
その視線を追うと、そこには見事な羽帽子を被った凛々しい貴族がいた。
「あら――――」
キュルケもその貴族を見て目を奪われてしまう。
虎蔵の腕を抱きかかえたままで、だ。
虎蔵は「一目惚れは結構なんだが、出来れば手を離して欲しいぞ――」とぼやくが、彼女の耳には届かない。
彼はため息をついて、地面に座り込んで本を読んでいるタバサに「助けてくれんか」と声をかけてみるが、
「無理」と素気無く断られたのだった。


そしてその日の夜。
ルイズは昼間から変わらずぼーっとベッドに座っていた。
一目惚れにしてはあまりに長くこんな状況が続いているので、虎蔵にもかすかながら疑問も浮かんだが、問いかけた所で反応が無い。
ちなみに午後は、平民ということで王女御一行への対応から外れて暇そうな――もっとも混ざりたくも無かっただろうが――
マチルダに捕まっては、貴族に対する嫌味と愚痴を散々聞かされた。
結構な厄日かもしれない。
こういう日はさっさと寝てしまうかとソファー―――床の上から改善された――に向かおうとした所で、ドアが規則正しく叩かれる。
始めに長く二回、それから短く三回。
ルイズはそれを聞くとはっとして立ち上がり、急いでブラウスを身につけてドアを開いた。

そこに立っていた真っ黒な頭巾を被った少女は、そそくさと部屋に入ると魔法の杖を取り出して《ディテクトマジック》を唱える。
虎蔵は僅かに警戒を示してルイズの傍に立つが、彼女はその黒い頭巾の少女の正体に気付いたようだ。
「まさか―――そんな――――」
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
そういって頭巾をとる。
少女の正体は、あろうことかアンリエッタ王女がその人であった。

「姫殿下!」
ルイズは慌てて膝をつく。
虎蔵は当然それに習うはずもなく、どうしたもんか――といった感じでソファーに腰を下ろした。
「あぁ、ルイズ、ルイズ。懐かしいルイズ」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて――」
「ああ!ルイズ、ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな!あなたとわたくしはお友達じゃないの!」
「もったいないお言葉でございます。姫殿下――」
なにせこんな調子だ。
とうとう抱き合いだした。
正直、見ているほうが疲れる。
どうやらルイズはこの王女の――アンリエッタの子供の頃の遊び相手だったようで、昔話に華をさかせている。
だが、あまりにも芝居がかった様子に虎蔵は
――なんの寸劇だ、これ――
などと思ってしまう。
だが芝居がかってはいるのに演技をしている様子は無い。
これが素なのだろうが、正直見ていて微妙な気分にならざるをえない。

「あー、席外すか?」

とうとう話題が王女という身分の不自由さにまで及ぶと、思わずそう声をかけてしまっていた。
するとアンリエッタは今気付いたとでも言うように虎蔵に視線を向ける。
「あら、ごめんなさい―――お邪魔だったかしら?」
「お邪魔?どうして?」
「だって其処の彼、貴女の恋人なのでしょう?嫌だわ、私ったら、懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」
どうやら姫様はたいそう思い込みが激しいようだ。
一人でどんどんと妄想の翼を広げていっている。
ルイズやギーシュにも多少その気が見えることもあるし、もしかしたらトリステイン貴族の特徴なのかも知れない。
「違います!」
「あら、では何でこんな時間に――?」
「トラゾウは―――彼は私の使い魔なのです」
ルイズの言葉に、しげしげと虎蔵を値踏みするアンリエッタ。
――流石王女様、遠慮がありませんな―――
そう思った虎蔵だが、ルイズの手前、一応黙っておいた。
なんだろう、最近大雑把になってきたかと思えば、稀に余計な気遣いをするようにもなった気がする。

「ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔から変わっていたけれど、相変わらずなのね」
ため息交じりで呆れた様子のアンリエッタ。
嫌味にも聞こえるが、口調や表情は柔らかい。
外面は兎も角、根は悪くは無いのかもしれない。
「好きでこうなった訳じゃありません―――けど、実力は保障します。
 火竜山脈のサラマンダーよりも、ウインドドラゴンの幼生体よりも、"土くれ"のフーケのゴーレムよりも、です」
ルイズもそこだけは譲れないのか、力強く言い切った。
アンリエッタはそれに頷くと「良い使い魔を呼び出したようですね」と微笑んだ。

「で、どうするよ。こんな時間に、そんな格好で一人尋ねてきたんだ。昔話だけって事はないだろ?」
虎蔵はソファーにゆったりと座ったまま声をかけた。
ルイズは「姫殿下になんて態度を取ってるのよ!」と顔を赤くするが、
アンリエッタは多少気を害した様子を見せながらも表情と雰囲気を切り替えた。
真面目な話のようだ。
「構いません、ルイズ・フランソワーズ。確かに彼の言うとおり。私は昔話だけをしに来たわけではありません。
 そして使い魔さん、貴方も同席なさい。主と使い魔は一心同体。これから話すことは、貴方にも関係することになります」

要約すると話はこうだ。
アルビオンという国でクーデターが起こり、どうやら成功しそうであるらしい。
クーデターが成功した場合、その国とトリステインはほぼ確実に敵対するが、現在のトリステインの軍事力では対抗できない。
そこで、彼女がゲルマニアの王と政略結婚をすることになった。
だが、その政略結婚を行うに当たって致命的な障害になりえる手紙をアルビオンの皇太子が持っており、
クーデターが成功する前にそれを返してもらわねばならない。
しかし彼女の臣下、トリステインの貴族たちを当てにするのは、アルビオンのクーデター派と内通している可能性が否定できず、リスクが高い。
そこで彼女は信用できる人物としてルイズを頼りに来た、と。

「このような"お願い"をすることは、本当に恥ずかしいと、情けないと思っています、ルイズ。
 貴女の友情を利用しようとしているのです。軽蔑してくださっても構いません」
寂しげな様子で目を伏せるアンリエッタ。
ルイズはゲルマニアに嫁ぐという話が出たところでこそ憤慨していたが、今は何も言うことが出来ない。
「そしてこの"お願い"を成功させたとしても、公に褒美を与えることは出来ないでしょう。
 またしても貴女に何の称号も与える身とは出来ないのです。
 ですが―――ですが国のために、国民のためにはどうしてもあの手紙を安全に、確実に返して貰わなければならないのです」
《破壊の杖》奪還時の《シュヴァリエ》授与の申請が却下されたことは既に聞いている。
ルイズは複雑そうな表情で虎蔵を見た。
気持ちとしては引き受けたいのだろう。
そんな様子が見て取れる。
だとすれば、虎蔵が取る反応はフーケの時と同じだが、
「クーデターの――戦争の真っ只中に乗り込むんだ。それなりの覚悟はあんだな?」
とだけは告げた。
大規模な戦闘に巻き込まれれば、虎蔵といえども絶対に守りきれるとも限らない。
そして、戦争という狂気を目の当たりにする可能性もあるのだ。
ルイズは彼に頷いた。
―――本当に覚悟があるとは思えんが、まあ良いか――
虎蔵はルイズを見てそう思うが、わざわざこの場で口にすることもあるまい、と口を噤んだ。
ルイズはそのお願いを引き受けるためにアンリエッタの前に跪こうとしたが、それはアンリエッタ自身によって止められる。
「これは命令ではありません、ルイズ。友達へのお願いなのです。
こんな酷いお願いをする私を、まだ友達だと思ってくれるのならばですが――」
「はい、姫様。お引き受けいたしますわ。友達の、それだけの決意を含んだ頼みごとですもの」
ルイズは立ち上がり、アンリエッタの手を両手で包み込んで、
「私とトラゾウに任せてください」
と微笑んだ。

虎蔵はそれを見るとソファーへと立ち上がり、ドアへと向かうと、
「さて、と―――んじゃ後は―――こいつ如何するよ」
と言って行き成りドアをあける。
すると、「うわぁっ!?」と情けない悲鳴を上げて倒れこんで来たのは、
虎蔵に敗れて以来プレイボーイとしてのなりがすっかり身を潜めた《青銅》のギーシュであった。





「此処までで結構です」
アンリエッタは足を止め、振り返る。
あの後ギーシュへ事の説明を終え、ルイズの命で虎蔵が送っている最中だ。
虎蔵がへいへいと適当な様子で答えると、やはりムッとした様子だが、ふぅっとため息をついて口を開いた。
「使い魔さん。いえ――トラゾウで良かったかしら?ルイズは根は優しいのですが、
 魔法が使えずに苛められていた事もあって少し素直ではない所があります。
 ですが、そのルイズが貴方に決定を委ねるかのような視線を送って居たということは、
 よほど深い絆で結ばれているのでしょうね。
 少し、羨ましく思います。私には、其処までの忠臣がおりませんもの」
虎蔵はさよか、肩を竦めて先を促す。
彼女の身分であれば、色々と思う所もあるのだろう。
「ですから、改めて王女としてではなく、ただのアンリエッタとしてお願い致します。ルイズを守ってあげてください」
アンリエッタが真剣な表情で告げると、虎蔵はぽんぽんと頭を撫でては、「そいつが使い魔の仕事だからな」と言って踵を返すのだった。

「本当に不思議な使い魔だこと。時と場合によっては不敬罪だわ――」
アンリエッタの呟きだけが廊下に残った。

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