毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だ。
穴を掘れば、それだけ村が広がる。村長は喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。
ミミズのために掘るのかって?
それも違うよ。
ミミズのために掘るのかって?
それも違うよ。
「あ」
何かが爪にあたる固い感触がして、俺は掘る手を止めた。ごそごそと周りの土をどかす。
「これは……」
出てきたのは、ぼんやりと緑色の光を放つ、小さなドリルだった……。
『モグラよドリルで天を突け!』
ギーシュに召喚されてからも、俺の仕事は毎日穴堀りだ。
穴を掘って鉱石を探す。時々だけど、宝石を見つけることもある。ギーシュは喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。
故郷の村を出てからもやってることは変わらない。
穴を掘って鉱石を探す。時々だけど、宝石を見つけることもある。ギーシュは喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。
故郷の村を出てからもやってることは変わらない。
そう――変わったのは名前ぐらいだ。
ヴェルダンデ。ギーシュの付けた俺の新しい名前だ。元の名はもう使わない。故郷の村においてきたから。
ヴェルダンデ。ギーシュの付けた俺の新しい名前だ。元の名はもう使わない。故郷の村においてきたから。
(今日は収穫なしか……)
ボコ、と頭を出したところは、魔法学院の中庭だった。穴掘りから急に地上に出てきて、太陽の眩しい光に目がくらむ。
と、誰かが俺を覗き込んでいた。
と、誰かが俺を覗き込んでいた。
「また穴掘り? よくまあ飽きないわね」
「……ルイズ?」
「む……なれなれしいわよ、あんた、使い魔でしょ?」
「君の使い魔じゃないよ」
「……ルイズ?」
「む……なれなれしいわよ、あんた、使い魔でしょ?」
「君の使い魔じゃないよ」
穴から体を抜く。モールの姿のほうが掘りやすいんだけど、ギーシュはいつも人間の姿でいろって言う。
たぶん、自分が韻獣を召喚したことを見せびらかしたいんだろう。
そして……一番そのことを気にしてるのが、このルイズだった。
たぶん、自分が韻獣を召喚したことを見せびらかしたいんだろう。
そして……一番そのことを気にしてるのが、このルイズだった。
「ギーシュなんかの使い魔が、まさか『変化』を使える韻獣とはね……アンタ、それ何持ってんの? ちょっと貸しなさいよ、ホラ」
「あ……」
「あ……」
俺が首に下げていたドリルを、ひょいとルイズが取り上げる。
ルイズの背は俺よりちょっと高いぐらい。ふてくされたような顔でドリルをいじくっている。
ルイズの背は俺よりちょっと高いぐらい。ふてくされたような顔でドリルをいじくっている。
「ふーん……大きいネジかしら? なんか光ってる……ま、どーでもいいわ、こんなの。……いいこと、韻獣で『変化』の魔法が使えるからって調子に乗らないのよ?
まったく、なんでギーシュの使い魔が韻獣で、私の呼び出したのは平民なのよ……! 『アイツ』またどっか行って……!」
まったく、なんでギーシュの使い魔が韻獣で、私の呼び出したのは平民なのよ……! 『アイツ』またどっか行って……!」
ふんと鼻を鳴らして、ルイズ・フランソワーズは行ってしまった。ルイズがポイと投げ捨てたドリルを、俺はそっと拾い上げた。
なんだか、ひどく落ち込む。
そのドリルは、故郷の村で掘り出して以来、ずっと俺の宝物だった。結局、俺にとっては宝物でも、人にとってはゴミみたいなものなんだろう。
そのドリルは、故郷の村で掘り出して以来、ずっと俺の宝物だった。結局、俺にとっては宝物でも、人にとってはゴミみたいなものなんだろう。
「はあ……」
トボトボと歩いて……俯いていた俺は前に人がいるのに気がつかなかった。
俺の頭が、相手の腹あたりにぶつかる。俺は慌てて顔を上げた。
俺の頭が、相手の腹あたりにぶつかる。俺は慌てて顔を上げた。
「上向いて歩け、ヴェルダンデ」
「あ……カミナ」
「あ……カミナ」
「カミナじゃねえ、アニキってよべ!」
カミナはニヤッと笑うと、鋭く尖った真っ赤なメガネを、クイと持ち上げて見せた。
「俺……兄弟いないから。それに、カミナは人間で、俺はグレートモールじゃないか」
「そーいうことじゃねえ。魂のブラザー、ソウルの兄弟ってことじゃねえか! ブスな女が何言おうと気にすんなァ。お前にコイツは似合ってるぜ!」
「ブスな女って……ルイズはカミナのご主人なのに」
「そーいうことじゃねえ。魂のブラザー、ソウルの兄弟ってことじゃねえか! ブスな女が何言おうと気にすんなァ。お前にコイツは似合ってるぜ!」
「ブスな女って……ルイズはカミナのご主人なのに」
そう、カミナは人間で、しかも使い魔だ。普通、使い魔になるのは動物や幻獣。グレートモールもそうだ。でも、人間が召喚されるなんて前代未聞らしい。
さっきの女がルイズ、カミナを呼び出した本人だった。
さっきの女がルイズ、カミナを呼び出した本人だった。
「ヴェルダンデ、ドリルはお前の魂だよ」
そう言うと、カミナはどこか懐かしそうな顔で笑って見せた。
カミナは変な人間だ。
俺は銀色の円盤をくぐってギーシュに召喚され、契約を済ませた。春の使い魔召喚の儀式だった……ってことは後から知った。
次々と幻獣が召喚される中、最後に召喚されたのがカミナだった。
俺は銀色の円盤をくぐってギーシュに召喚され、契約を済ませた。春の使い魔召喚の儀式だった……ってことは後から知った。
次々と幻獣が召喚される中、最後に召喚されたのがカミナだった。
中庭に響いた爆発と轟音に、俺は飛び上がった。
煙がおさまっていく、その中心地に召喚されたカミナは、まるでズタボロの死体みたいだった。
周りの生徒たちがざわつく中、震えるルイズが何を考えていたのか……今の俺にはわかる気がする。
周りの生徒たちがざわつく中、震えるルイズが何を考えていたのか……今の俺にはわかる気がする。
たぶん、ルイズは迷ってたんだ。
カミナは、どうみても人間の平民だった。それも瀕死の。
カミナが死ねば召喚したことはチャラになる。
ルイズはもう一度召喚しようと思えばできたんだ。カミナを見殺しにすれば。でも――
カミナが死ねば召喚したことはチャラになる。
ルイズはもう一度召喚しようと思えばできたんだ。カミナを見殺しにすれば。でも――
「……お前を……信じろ……シモン。……お前の信じる……お前を……」
たぶん……そこにいない誰かに向かって、カミナは呟いたんだと思う。
その言葉を聞いたとき、ルイズの中で何かが吹っ切れたみたいだった。
その言葉を聞いたとき、ルイズの中で何かが吹っ切れたみたいだった。
「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え我の使い魔となせっ!」
舌を噛むような長い呪文を一言で言い切ると、ぎゅっとカミナを抱きしめて、ためらいもなくルイズはキスをした。
しんと静まり返る生徒たちを、ルイズはきっと振り返る。
しんと静まり返る生徒たちを、ルイズはきっと振り返る。
「誰か、水系統は手を貸して! 後でお礼はするわ、早く彼を治療してあげて!」
そう――ルイズは叫んだんだ。
「――なのに、ブスって言い方はないよ、カミナ。命を助けてもらったんじゃないか」
「まぁな。お前が……あんまりシモンのやつに似てるから、ルイズにごちゃごちゃ言われてるの見ると、ついな」
「まぁな。お前が……あんまりシモンのやつに似てるから、ルイズにごちゃごちゃ言われてるの見ると、ついな」
俺とカミナは学院の壁にもたれてよく話をする。
笑うカミナの顔は、どこか寂しそうな……それでも俺に似てるって言う『シモン』の話を、カミナは俺に繰り返し語ってくれた。
笑うカミナの顔は、どこか寂しそうな……それでも俺に似てるって言う『シモン』の話を、カミナは俺に繰り返し語ってくれた。
『シモン』。
どんなときでも諦めない。いつだってまっすぐで、天まで突き抜けるようなドリルを魂に持った、元の世界でのカミナの相棒――。
どんなときでも諦めない。いつだってまっすぐで、天まで突き抜けるようなドリルを魂に持った、元の世界でのカミナの相棒――。
話を聞くたびに、俺はちょっと落ち込む。カミナは、俺と『シモン』が似てるって言う。俺の持ってるドリルと同じドリルを持っていたとも。
でも、きっと似てるのは外見とドリルだけなんだ……って思う。俺には、穴を掘るしか能がないから。
でも、きっと似てるのは外見とドリルだけなんだ……って思う。俺には、穴を掘るしか能がないから。
「あーら、ダーリン。また『シモン』の話? 嫉妬しちゃうわ」
後ろから声をかけられて、俺とカミナが振り返る。
そこに立っていた燃えてるみたいに赤い髪のナイスバディの女は、にこりと微笑み、するりとカミナの隣に座った。
そこに立っていた燃えてるみたいに赤い髪のナイスバディの女は、にこりと微笑み、するりとカミナの隣に座った。
「キュルケか」
「そ。ねえ、カミナ。お昼でもご一緒しない? ヴェルダンデとばっかりお話してないで」
「カミナ……俺行くよ。お邪魔そうだし――ぐえ!」
「そ。ねえ、カミナ。お昼でもご一緒しない? ヴェルダンデとばっかりお話してないで」
「カミナ……俺行くよ。お邪魔そうだし――ぐえ!」
立ち上がりかけた俺を、カミナの腕が引っつかんだ。
「おうおうおうおう、何いってやがる。ヴェルダンデは俺の弟分、新グレン団の団員だ! それをおいて女と飯を食いにいくなんざ、このカミナ様のやることじゃねえよ」
「あらま。やれやれ……相変わらず嘘が下手ねぇ、カミナ」
「あらま。やれやれ……相変わらず嘘が下手ねぇ、カミナ」
な、なにが嘘だ! と上ずった声で目をそらすカミナに、ずい、とキュルケが身を乗り出す。
「元の世界の女だかなんだか知らないけど、律儀なもんねぇ。ま、あたしは諦めないわよダーリン。恋は障害が多いほど燃え上がるんだもの!」
じゃあねー、と手を振るキュルケ。カミナはふう、と溜息をつく。
「キュルケがきらいなの? 胸の大きい女は穴につっかえるから嫌だとか?」
「いーや、俺様の好みにはストライクなんだが……ヨーコに殺されちまうからなぁ」
「いーや、俺様の好みにはストライクなんだが……ヨーコに殺されちまうからなぁ」
はあ、とうなだれるカミナに、思わず俺は噴出した。カミナもつられて笑い出し、俺たちは二人で腹を抱えて笑った。
こんな風に、俺の毎日は続く。
相変わらずキュルケはカミナの尻を追いかけているし、ルイズはと言えば、俺ともよく話すようになった。
「普段、カミナとどんな話をしてるのか聞きたくて」だって。最初の高慢な態度は徐々に消えて、よく笑うようになった。
「普段、カミナとどんな話をしてるのか聞きたくて」だって。最初の高慢な態度は徐々に消えて、よく笑うようになった。
俺もキュルケもルイズも――いつのまにかカミナのことが大好きになってたんだ。
「あれ?」
爪が固い何かにぶつかる。俺は周りの土をどけていく。
出てきたものに、驚いて俺は目を丸くした。
出てきたものに、驚いて俺は目を丸くした。
「これは……」
『それ』の閉じた目が、ぼんやりと緑の光を放っている。
ペンダントに下げたドリルが、ウォン、ウォンと音を立てて光った。まるで、自分の仲間に再会して喜んでるみたいに。
俺は慌てて穴を掘って地上に向かった。真っ先に知らせたい人がいるから。
悪いけどギーシュは二番目だ。いい主人だけどね。
ペンダントに下げたドリルが、ウォン、ウォンと音を立てて光った。まるで、自分の仲間に再会して喜んでるみたいに。
俺は慌てて穴を掘って地上に向かった。真っ先に知らせたい人がいるから。
悪いけどギーシュは二番目だ。いい主人だけどね。
俺は地上に飛び出した。
「アニキ――! 見せたいものがあるんだ!」
「おう、どうしたヴェルダンデ。一体なんだ? 見せたいものって」
「おう、どうしたヴェルダンデ。一体なんだ? 見せたいものって」
「顔だよ!――すっごいでっかい顔!」
「なにぃっ! ガンメンか!?」
「なにぃっ! ガンメンか!?」
俺はヴェルダンデ――穴掘りヴェルダンデだ。
毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だった。その巨大な『顔』を掘り当てるまでは。
――穴ばっかり掘って、退屈じゃなかったかって?
毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だった。その巨大な『顔』を掘り当てるまでは。
――穴ばっかり掘って、退屈じゃなかったかって?
それは違うよ。
「行こうアニキ――!」
「おうよ、ヴェルダンデ!」
「おうよ、ヴェルダンデ!」
――そう。宝物を掘り当てることだってあるんだ。
おわり
(『天元突破グレンラガン』よりカミナ)