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ディセプティコン・ゼロ-7


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極めて微細な金属粉が後方へと射出され、先端の弾頭部が発射される。
安定翼を展開、ロケットモーターに点火したそれは標的との距離を一瞬にして0に詰め、その尾部へと喰らい付いた。
秒速8リーグもの高速・高圧のメタルジェットは一瞬にして垂直尾翼を貫通し、遂にはその反対に位置するヘリにとっての致命的弱点―――――テールローターをも喰い千切る。
結果、ブラックアウトは一瞬にして安定性を失い、空中にて横回転を始めた。

「きゃ……! な、何! 何なの!?」
「か、回転してる! 回転してるぞ!」
「掴まれ! おい、青い娘っ子! 身体を引っ込めろ!」
「……!」
「だ、だめ! 放り出される!」

突然の衝撃と横回転による強大な遠心力の中、4人は半ばパニック状態へと陥る。
更に悪い事に、銃座から身を乗り出していたタバサが機外へと放り出されそうになっており、それを防ぐべく小さな身体を掴むキュルケの腕もまた、限界が近いという有様だった。
常ならばこの高さから放り出されたとして、大した問題ではないだろう。
彼女はメイジであり、フライなりレビテーションなり唱えれば、無事地上へと降下できる筈なのだから。
しかし今、彼女の手に在るべき杖は衝撃によって床へと転がり、更に遠心力によってタバサから離れてゆく。
この状態で外部に放り出されれば、地面に叩き付けられるか、木の枝に串刺しにされるか。
いずれにしても無残な結果となる事は避けられない。


「……っ!」
「タバサッ!」

そして遂に、キュルケの手がタバサから離れた。
タバサの小柄な身体は、巨大な力によって機外へと引き摺り出されてゆく。
しかし。

「な……!?」
「デルフ!?」

それは機外へと身を乗り出し、タバサの腕を掴んだデルフによって阻止された。
驚愕する2人を余所に、デルフは一気にタバサを機内へ引き込むと、自身は反動で空中へと投げ出される。
飛び込む様に機内へと戻ったタバサを受け止めたキュルケは、床へと倒れ込みつつもデルフの名を叫んだ。

「デルフッ! ルイズ! デルフが、デルフが外にっ!」
「見たわっ! でもどうしようも……!」

その時、ブラックアウトの回転が幾分緩やかとなった。
何とか姿勢を持ち直したらしいと安堵するルイズだったが、直ぐにそれが遅過ぎた事を知る。



既に暗い森の表層が、眼前にまで迫っていた。






煙を噴き出し、奇妙な音と共に回転しながら墜ち行く鉄塊を眺めつつ、フーケは用済みとなったパンツァーファウスト3を放り捨てる。
形状から予測した通り1発きりの使い捨てであった事、それを撃ってしまった事への僅かな執着は在ったものの、知り得る限り最悪の追跡者を排除出来たという事実に、直ぐにそれらの感情を切り捨てた。
そして『火竜の息吹』を拾い上げると、弾倉を丸ごと半回転させて排莢を行い、続いてローブの内から取り出した弾薬を1発1発慎重に装填してゆく。
計6発の装填を終え弾倉を戻したその時、森の奥から響いた轟音に彼女は顔を上げた。

「墜ちたか」

あの不気味な重低音が途絶えた。
それだけでも、圧し掛かっていた重圧感が霧散してゆく。
遠方より響くあの音を聴き続けるのは、精神的にどうにも宜しくない。
それにしても。

「大したもんだね」

自身の手に在る異形の銃へと目をやり、フーケは感嘆と畏怖の溜息を吐く。



『MGL140』。
6連発型の軍用グレネードランチャー。
それが『火竜の息吹』の正体であった。



こんな恐ろしい銃を、一体全体何処の誰が創り出したというのか。
連発が可能な上、着弾点で爆発を起こす銃など。
長々しい詠唱を経て発動する魔法など、これの前では稚児にも等しい。
これが平民に行き渡れば―――――


「……ッ」

其処まで考え、フーケはその想像を打ち払う。
自分の知った事ではない。
ただ、どれだけの値で売れるか。
それだけが問題だ。
それに、どうせ買うのは貴族。
これが平民の手に渡る事など無い。

「……一応、確認しとくかね」

余計な考えを払い除ける様に呟き、フーケはゴーレムの脚を鉄塊が墜ちた方角へと向ける。
念の為、鉄塊に乗っていたメイジ達の死体を確認しておこうと考えたのだ。
木々を踏み潰しつつ、ゴーレムは墜落地点へと近付いてゆく。
しかし。

「くあッ!」

突然の砲撃が、その進行を阻む。
体勢を崩したゴーレムの上、フーケは森の一画を睨み、鬼気迫る形相で叫んだ。

「しつこい蟲だね……いいさ、ならお前からだよ!」



走り出したゴーレムに、3発の砲弾が襲い掛かる。
巨人と蠍の闘いは、第二幕へと突入した。






「……う…」

数十本もの木々を薙ぎ倒し、半ば地面に埋もれる形で不時着したブラックアウトの中、ルイズは闇の淵から意識を拾い上げた。
計器へと打ち付けた額からは一筋の血が流れ、身体の節々が悲鳴を上げる。
呻き声に背後を振り返れば、カーゴルームへと転げ落ちたギーシュが身を起こすところだった。
その隣では意識を失ったキュルケに、タバサが治癒魔法を掛けている。
その表情には、何時に無く必死さが浮かんでいた。

「ギーシュ……無事?」
「何とかね……ミス・タバサ、ミス・ツェルプストーは?」
「怪我が酷い……私を、庇ったから」

何処か震える様な声にキュルケを見れば、その白い服に赤黒い染みが浮かんでいるではないか。
思わず息を呑む2人。
その耳に、聴き慣れた砲撃音が飛び込む。
ルイズがはっとした様に顔を上げ、コックピットの外へと視線を向けた。

「まさか……スコルポノック?」
「馬鹿な! あの蠍はフーケに……」
「間違いないわ、スコルポノックの砲撃よ!」


言うや否や、ルイズはコックピットから這い出し、カーゴルームへと飛び込むとタバサに声を掛ける。

「ちょっと!」
「……」

治療の邪魔とばかりに、ルイズの声を無視するタバサ。
しかしルイズはそれを気にも留めず、続く言葉を発した。

「キュルケをお願い」
「……!」
「私はスコルポノックの所に行く。治療が済んだら、ブラックアウトから離れて。フーケはきっと、私達の死体を確認しに来るわ」

そう言って気遣う様な視線でキュルケを一瞥した後、ルイズは機外へと飛び出して行く。
ギーシュはそんなルイズを引き止めようとしたが、一瞬の差で彼女が外へと駆け出すと、苛立たしげに頭を一掻きして後を追った。
去り際に、こんな言葉を残して。

「ああもう! 僕にこんな泥臭い役は似合わないというのに!」



そんな彼等の後姿を呆然と見送った後、タバサは珍しく―――――本当に珍しく小さな笑みを浮かべ、キュルケの治療に戻ったのだった。






「いい加減くたばりな!」

ゴーレムの蹴りが繰り出された瞬間、スコルポノックは間一髪で地中へと潜りそれを躱す。
敵の姿を見失ったフーケはゴーレムを旋回させて周囲を見渡すものの、次の瞬間には背後からの攻撃によってゴーレムの右足を抉られていた。

「くそ、忌々しい!」

MGLを握り締めたまま、フーケは毒づく。
こうも派手に動き回られては、撃ったところで無駄弾にしかならない。
ならばゴーレムで叩き潰そうと敵の接近に備えても、ほんの一瞬しか姿を見せない相手に動きの鈍いゴーレムでは対応し切れないのだ。
結果として手負いの蟲1匹に、こうまで梃子摺る羽目となっている。

「いい気になるんじゃないよ……」

しかしそこは土くれのフーケ。
彼女の脳裏には既に、スコルポノックを確実に始末する方法が描かれていた。
そして既に、その為の下準備は済んでいる。
後は敵の突撃を待つばかりとなったフーケだったが、ここでスコルポノックが彼女の予想を上回る行動に出た。

「……? 何をやって……」

最後の攻撃から既に2分近くが経過しているにも拘らず、スコルポノックからの追撃が無い。
どうやら地下で何かをしている様だが、何を企んでいるのか。
そう訝しみ、ゴーレムに1歩を踏み出させたフーケは、突然の浮遊感に襲われた。
慌ててゴーレムの頭にしがみ付きその足元を見やると、彼女は血相を変えて叫ぶ。


「……やってくれたね!」

視線の先、ゴーレムの足元では十数メイルの範囲に及ぶ地面が陥没し、その脚を半ばまで呑み込んでいた。
スコルポノックはゴーレム直下の地中を荒らし回り、人為的に地盤沈下を引き起こしたのだ。
脚を大量の土砂に埋め尽くされたゴーレムは動く事すらままならず、更に無防備なその背を砲弾によって吹き飛ばされる。
慌てて振り返ったフーケの視界は、遥か数十メイル後方で地中へと潜行するスコルポノックの姿を捉えた。

「くっ……」

余程深く潜っているのか、土柱すら立ちはしない。
目視出来る位置にまで浮上してくるのは、攻撃の数秒前だ。
しかしそれから行動したとしても、ゴーレムの反応速度では迎撃出来ない。
何より脚を封じられた今、ゴーレムは振り返る事すら出来ないのだ。
後はスコルポノックの為すがまま、決着の時を待つばかり―――――



「……残念だったね、蠍野郎」



一瞬だった。
ほんの一瞬で、脚を固定されたゴーレムの前後が入れ替わった。
土で構成されたゴーレムにとって、前後の概念などというものは『一応』付加されているに過ぎない。
一瞬の判断が生死を分ける戦闘中にそれを入れ替える事など、本来は在り得ない事だ。
しかし敵が何時、どの方向から攻撃を仕掛けるのかを事前に知り得ているならば、それを為すだけの十分な余裕が生まれる。
敵が背後からやってくる事は分かっていたし、攻撃の瞬間についても既に手は打っておいた。




何時の間にか、ゴーレムを中心とした周囲20メイル内の地面が、細かく黒い粒に覆われている。
砂鉄だ。
その変化は地面の表層だけでなく地中にも及び、周囲はさながら砂鉄の溜め池と化している。
これこそがフーケの講じた手、接近するスコルポノックを探知する為の策であった。
硬い地面ならばともかく、砂鉄ならば振動で容易に波紋が出来る。
フーケはその上、右腕が使えない所為かスコルポノックの動きが幾分遅くなっている事を、その鋭い観察眼で見抜いていた。

そして地表の一画、前後を入れ替えたゴーレムの正面に、此方へと一直線に向かう波紋が現れた、次の瞬間。



「捕まえたよ、化け物」



地中より飛び出したスコルポノックは、ゴーレムの豪腕によって捕らえられていた。

「随分と梃子摺らせてくれたじゃないか、ええ?」

金属の軋む嫌な音を立てながら、スコルポノックの外骨格が歪んでゆく。
その左腕がフーケへと向けられた。
しかし。

「無駄な事するんじゃないよ!」

砲弾を発射するより早く、その腕はゴーレムによってあらぬ方向へと捻じ曲げられていた。
周囲にスコルポノックの上げる、けたたましい警戒音が鳴り響く。
同時に、フーケが軽く舌打ちした。

「くそっ! コイツ、何て硬さだい!」


忌々しげにスコルポノックを睨み据えると、更にゴーレムの腕に力を込める。
しかし軋みこそ上がるものの、それ以上の変化は無い。
左腕にしても捻じ切るつもりだったのだが、関節の一部を破壊するに止まっている。
しかし冷静に考えてみれば、鉄に錬金したゴーレムの蹴りを入れた際には、明らかな損傷を負っていた。
事実、6本在った脚の内、1本は根元から折れ飛んでいる。
ならば。

「……叩き潰すッ!」

右腕1本でスコルポノックを鷲掴みにし、頭上へと振り上げる。
その高さ、実に地上から40メイル。
そして渾身の力を込め、空気の壁を切り裂いて右腕が振り下ろされた。
ぞっとする様な振動と轟音が空気中を走り、金属の破片が四方へと飛び散る。
既に砂鉄は分厚い鉄の層と化しており、其処にはスコルポノックの為だけに用意された『処刑台』が出来上がっていた。
衝撃を逃がす事も出来ず、膨大な運動エネルギーの全てを受け止めたスコルポノックは、既にその機能の6割を停止している。
しかしフーケにはそれを知る由も無く、知ったとして其処で納得するほど甘い人物でもなかった。



両の拳を鉄へと錬金し、それを処刑台上のスコルポノックへと振り下ろす。
蟲を潰した際にも似た音が上がるが、それに構わず反対の拳を打ち下ろした。
今度は、何かが折れる鈍い音が響く。
更にもう1発、頭上にまで振り被った拳を打ち下ろそうとして―――――



「……薔薇?」



視界の隅に、薔薇の花弁が舞った。






ルイズ達がゴーレムの側へと辿り着いた時、スコルポノックはゴーレムの頭上へと振り上げられ、今にも地面へと叩き付けられようとしていた。
その光景に怒りの叫びを上げようとするルイズをギーシュが慌てて抑え、地を揺るがす振動の中を潜り抜ける様にして射程距離まで近付く。
そしてゴーレムの背後へと回り込み、スコルポノックに止めを刺そうと躍起になっているフーケの後姿が目に入ったところで、ギーシュが薔薇の造花を振るった。
それと同時に吹き上がった薔薇の花弁は、ゴーレムの胸部より下、その至る所に纏わり付く。
直後、それに気付いたフーケが此方へと振り返るが、既にルイズの呪文は発動段階に入っていた。

「錬金!」

瞬間、花弁の1枚が爆発し、ゴーレムの表面が僅かながら抉られる。
ルイズは1度に止まらず、繰り返し繰り返し『錬金』を唱え続けた。

「錬金! 錬金! 錬金! 錬金ッ!」

ゴーレムに纏わり付いた無数の花弁が次々に爆発を起こし、徐々にその巨大な体躯を削り取ってゆく。
度重なる大規模な錬金の為、フーケにはそれを修復するだけの精神力が残されていない。
このままゴーレムを微塵にするかとも思える攻勢だが、実のところそれは目晦ましに過ぎなかった。
本命は、フーケの背後からゴーレムをよじ登る、1体のワルキューレ。
フーケの居る高さまで花弁が届かなかった為、自力でゴーレムの巨躯を這い上がっているのだ。


「このッ、ガキどもが!」

フーケの悪態が聞こえる。
それはルイズの心に、ある種の余裕を与えた。
実力的には此方の遥か上を行く土くれのフーケを、自分が、自分達が追い詰めているという、興奮と安堵。
それは同時にギーシュの心にも去来し、胸裏に燻っていたささやかな不安を払い除ける。
しかし、それが裏目に出た。



油断と若干の焦りによるものか、ワルキューレの動きが幾分隠密性を欠いたものとなり、その動きがフーケの目に留まったのだ。
彼女は瞬時に2人の思惑を見抜き、その思考を冷たい怒りで満たした。

「嘗めるんじゃないよッ!」

ゴーレムの腕がワルキューレを払い、その足元でぴくりとも動かなくなったスコルポノックの尾を掴む。
フーケは木の陰から此方を覗くルイズとギーシュの姿を確認すると、獰猛な笑みを浮かべて声を発した。

「人形遊びってのはね……」

そしてゴーレムは、腰だめに構えた剣を最上段から打ち下ろす様な動きで―――――

「こうやるのさッ!」

スコルポノックの巨体を、2人の上へと叩き付けた。



直後、舞い上がる土煙と木の破片の中から高速で離脱を図る、2体の青銅人形。
その腕に抱えられた、金と桃色の髪。
それらをMGLのサイト越しに確認したフーケは、躊躇無くトリガーを引いた。






ブラックアウトは損傷の度合いを確認しつつ、スコルポノックから転送されるデータに焦燥を募らせていた。

フーケが地球の兵装を所持し、尚且つその使用法を会得しているとは、完全に予想外だった。
スコルポノックが行動不可なまでに破壊され、更には自身までもが撃墜されるなど、全くの想定外。
やはりこの世界は、通常の戦力判断を用いるには奇抜な点が多過ぎる。

そしてスコルポノックより齎された新たな情報に、ブラックアウトは決断を迫られる事となる。
その情報とはルイズがMGLの着弾によって負傷し、現在動く事の出来ない状態に在るとの内容であった。

最早一刻の猶予も無い。
余り好ましくはないが、自身が救援に向かうべきか?

ブラックアウトは自らの機内へと意識を向け、擬似視界に2体の人間を映し出す。
それは、自らの主が同胞と呼ぶ存在。
内1名は未だ治療中らしく、動かせる状態ではない様だ。

此処で自身が変形すれば、機内の2名は間違い無く死ぬ。
急激に様相を変える過程で、周囲の構造物に呑まれ、押し潰され、或いは引き裂かれ。
肉片すら残さぬ程に細分化されるだろう。
人間が2名ばかり死んだところで別段どうという事も無いが、主の協力者ともいえる人物の損失は避けたい。
かといってこのままでは、その主が殺害されてしまう。
……最早、選択の余地は無い。




その瞬間、展開していたメインローターブレードが折り畳まれる。
更にローター軸が一段上へと跳ね上がり、続いて吸気口のカバーが90度回転。
その音にタバサが上を向いた瞬間、機内外の全てが変貌を始めた。





40mmグレネード弾の炸裂によって抉られた地面の側、ルイズは本日2度目の失神から目覚めた。
全身が先程とは比べ物にならぬ程の悲鳴を上げ、最早一歩も動けぬと声高に主張する。
何とか周囲へと視線を廻らせば、血濡れで転がるギーシュの姿が目に入った。
思わず声を上げようとするも、喉を突いて出たのは血の臭いが混じる咳だけ。
地面へと突っ伏し、苦しげに咳を繰り返すルイズを、黒々とした影が覆う。

「うっ……げ…ふっ……!」
「おやおや、惜しかったねぇ。もう少しで土くれのフーケ捕獲! ってところだったのにさ」

楽しげな声に何とか上を見れば、巨大なゴーレムの肩から此方を見下ろすフーケの姿。
悔しさに噛み締めたルイズの唇から、一筋の血が流れる。

「あっはっはっは! 良い顔だねぇ、ぞくぞくするよ! ゼロのルイズ、奮戦するも力及ばず、此処に散るってね!」

狂った様に笑うフーケ。
しかし突然その声が止むと、フーケは真剣な顔でルイズを見下ろしつつ、幾分優しい声を発した。


「……でも、ほんと大したもんだったよ、あんた達は。力も、心意気も。貴族がこんな連中ばかりだったなら、私も……」

その口振りに、呆然とするルイズ。
フーケははっとした様に軽く頭を振り、憂いに満ちた表情を消し去る。

「……まあ、どっちみち此処で死ぬ連中には関係無いか。さようなら、『本物の貴族』さん。貴女達の事、忘れないわ」

その言葉と同時に、ゴーレムがゆっくりと腕を振り被った。
ルイズの心に絶望と怒り、そして悔しさが滲み、目には涙が浮かぶ。



此処で死ぬのか。
やっと周囲を見返す事が出来たのに。
自分を認めてくれる人達が居て、素直に口には出来ないけど、友人だと思える人達も出来たのに。
こんな所でキュルケ達も救えぬまま、ゴーレムに潰されて果てるのか。



ルイズの眼前で遂に、無慈悲な土くれの豪腕が振り下ろされた。






この夜に限って言えば、幸運は常にフーケと共に在った。



成型炸薬弾頭としての機能を呼び起こし、カウンターマスによる被害を避け、空中を高速移動する目標への砲撃を成し遂げ、その構造的弱点をピンポイントで撃ち抜いた。
その全てが彼女にとって初めての経験であるにも拘らず、最小のリスクで最大の戦果を上げている。
更には40mmグレネード弾をローブの下に大量に仕込んでいたにも拘らず、幾度もの衝撃で暴発する事も無かった。
今の彼女には、幸運の女神が付いているといっても過言ではない。



そしてこの瞬間もまた、幸運の女神はフーケに微笑んだ。




「……?」

ゴーレムの腕を振り下ろそうとした瞬間、フーケは熱い液体が手に掛かるのを感じた。
不思議に思い目を落とした彼女は、その液体は自身の喉元から噴き出している事に気付く。
それが掛かった手を月明かりに翳してみれば、鮮烈な赤が目に飛び込んだ。
湯気を立てるそれをまじまじと見詰め、フーケはその正体を知る。



これは、血だ。



フーケは幸運だった。
自身も知らぬ内に、最も恐るべき存在から逃れたのだから。
悪夢の具現する瞬間を、その目で見ずに済んだのだから。



僅かな、ほんの僅かな苦しみで。
鋼鉄の悪夢からの、逃避を成し遂げたのだから。



「はひ……が……ッ!」

パニックと共に呼吸を乱し、必死に酸素を取り込もうと口の開閉を繰り返す。
しかし大量の血液に邪魔された気道は十分な酸素を取り込む事が出来ず、くぐもった水音を洩らすに止まった。
それでも最後の気力を振り絞り、己の喉を掻き切った者の正体を見極めようともがく様は、流石土くれとまで呼ばれた盗賊の凄みか。
しかしその望みは叶う事無く、終幕は呆気無いほど簡単に訪れた。

「寝てな」
「ぎッ」

腹部への強烈な衝撃に、フーケは意識を失う。
最後に彼女の目に入ったのは、青く光る小さな6つの星だった。






腕を振り上げた体勢のまま崩れ行くゴーレムに、ルイズ、そして目覚めたギーシュは呆然とした表情を隠せずにいた。
つい先程まで勝ち誇った声を上げていたフーケの姿は既に無く、本当の意味での土くれと化した巨人の残骸のみが眼前に残る。
結局何が起こったのか解らないまま、ルイズはギーシュへと声を掛けた。

「ねえ」
「何だい」
「何が起こったの」
「さあ」
「何よ、解らなかったの」
「今起きたところなんだ。寧ろ僕が説明して貰いたい」

不毛な会話を続ける2人に、奇妙な形の影が覆い被さってきたのは、その時だった。

「うわ!」
「きゃ! 何!? 何なのこれ!?」
「おいおい、コレって呼び方は酷くねーか? 娘っ子」

鉄の壁に反響した様な奇妙な声に動きを止めたルイズは、自身に覆い被さるローブを払い除けて目前の異形へと吼える。

「デルフ! アンタ、何処行ってたの!」
「おお、デルフ! 無事だったかい!」
「たりめーだ坊ちゃん。俺様があの程度の高さから落ちたくれーでくたばるかってんだ」

腰らしき部位へと手を当てて胸を張るデルフ。
その身体には所々傷が付いているものの、深刻な損傷は皆無の様だ。

「で、一体全体何やってんだオメーらは?」
「見て解んないの? フーケのゴーレムが崩れちゃったのよ、いきなり!」
「ゴーレムが?」
「そうよ!」
「ふーん」

状況を説明するルイズだったが、デルフの気の無い返事にその眉が釣り上がる。


「ふーん、って……アンタ、状況が解ってんの!? 逃げられたのよ、フーケに!」
「そうだ……『火竜の息吹』も持ち逃げされたようだし……嗚呼、どうしよう……」

各々好き勝手に騒ぎつつ、派手に錯乱する2人。
その姿に、先程の戦闘中に見せた気迫や威厳は微塵も存在しない。
その様子を暫くの間、面白そうに見詰めていたデルフだったが、唐突にある物を手に言葉を発した。



「『火竜の息吹』ってのは、これか?」



その言葉に、揃って静まり返った2人が振り返った先には、回収目標である『火竜の息吹』、そして『破壊の槍』が握られていた。
驚愕に目を見開き凍り付いたギーシュを余所に、一足先に再起動を果たしたルイズは、更にもう1つの目標について尋ねる。

「……フーケは?」

デルフは返答の代わりに、ルイズの横を指した。






「……ヒッ!?」





果たして其処に在ったのは、身体の前面を血に染め倒れ伏す、『土くれのフーケ』の憐れな成れの果て。
ルイズは反射的に後ずさろうとするが、痛め付けられた身体は思う様には動かず、地面へと転がる羽目となった。
そして震える手でフーケを指しつつ、同じく震える声でデルフに問う。

「こ、これ……」
「油断してたんだなぁ、簡単だったぜ。まさかワルキューレと同じとこを上ってくるとは思わなかったんだろ」
「ここ、殺したの……?」

返す声は、何処と無く褪めていた。

「一応生きてるぜ。直ぐに治癒魔法を掛けりゃ助かるかもな」

その言葉に、何とか立ち上がったギーシュが、怪我を感じさせない動きで森の奥へと走り出す。
その背を呆然と見送った後、ルイズは未だ震える声でデルフへと声を投げ掛けた。

「アンタ……意外と容赦無いのね……」

その言葉にデルフは声を上げて笑い、月明かりに浮かぶ刃を見せ付けながら言い放つ。





「たりめーだ。俺は剣だぜ? 敵を殺るのが俺の仕事さね」





月明かりに青く浮かび上がる刀身は、酷く冷たい光を放っていた。






「大丈夫?」
「ええ……ごめんなさい、心配掛けて……」
「いい。助かって何より」

傷の癒えたキュルケと共に、タバサはブラックアウトの機外へと歩み出た。
血を流し過ぎた為かふらつくキュルケの手を取り、ルイズ達が向かった方向へと歩き出す。

「静かね……」
「決着が付いた。たぶん2人の勝ち」
「どうして?」
「フーケが勝ったのなら、今頃私達も死んでる」
「成る程」

そう言って足を進めるタバサだったが、脳裏では別の事を考えていた。



(さっき使い魔の内部に居た時、確かに周りの壁が動いた)

立ち止まり、背後へと振り返る。
不思議そうに此方を見るキュルケにも構わず、タバサは苛烈な視線でブラックアウトを見据えた。

(気のせいかと思ったけど、違う。あの使い魔には、まだ何かが隠されている)

「ねえ、タバサ……どうかしたの?」
「……何でもない」

そうとだけ言って、再び足を進めるタバサ。
前方からは、彼女の名を呼ぶギーシュの声が響く。

(何時かは解る筈……何時かは……)

そしてもし。
もしその正体が、大切な友人―――――『友人達』を傷付ける様なものであれば。





(叩き潰す)





密かな決意と共に、タバサは走り出す。
そんな彼女の後方で、ブラックアウトは只々沈黙を守っていた。





『破壊の槍』―――――『Panzerfaust 3』及び、『火竜の息吹』―――――『MGL140』、回収。
『土くれのフーケ』―――――背後よりデルフに喉を掻き切られ、意識不明の重態ながらも生存、確保。



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