あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Chapter 1 『召喚!夢見る新学期』

どう
――男は黒衣を身にまとい、フードで顔を覆い、暗闇の中を滑るように飛んでいた。
どう
風が泣いている。黒い風が、今も泣いている。
憎き敵を打ち倒しても、なお晴れることの無いどんよりとした雲が男の世界を覆っている。
彼が求めるは、彼の愛するただ一人の姉。それを取り戻すための、術。
多くの時代を旅し、数多の出会いと別れを超えても尚、求めるものの欠片に触れただけであった。
どどう
黒い風が、何かに叩き付けられるような音を立てて、泣くのをやめる。

「…何?」
険しき山の頂の近く。せり出した岩の先端に、あまりにも場違いな鏡が浮かんでいる。
男の声の中に僅かな動揺があるのを知るものは誰もいない。
「この鏡から感じる感覚…バカな…タイムゲート…?」
男は瞑目して暫く思考した後、鏡に触れた。暗澹とした空に浮かぶ鏡に何かを見たのだ。
すさまじいエネルギーの流れ!強いて言うならば、滝を無理やり突き破らされるような感覚。
そして、ある世界のある時代。かつて魔王と呼ばれた男は、そこから消失した。



「あ~~~~! もう! 何で成功しないのよッ!」
失敗の回数が2桁を超えた頃、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールはそう叫んだ。

「所詮はゼロのルイズ」
「諦めるんだヌゥ」
「召喚にすら至ってないじゃないか」

外野から口々に突込みが入る。それに対して、ルイズと呼ばれた少女は苛立ち混じりに再試行した。
詠唱し、声高に求めるものを叫ぶ。純粋な願望。それはまるで、神に祈りをささげる信徒のような。

「何処かにいる私の下僕よ…私は心より汝を求め、訴える。我が導きに答えなさい!」

爆発を彼女自身も覚悟していたのか自然と身構える。野次馬と化した生徒は、距離を置いて見物だ。
しかし――果たして、というべきか。爆発は起こらず、地面に赤黒い穴が開いた。
そこから浮かび上がるのは顔のよく見えない黒衣の男。
「……召喚、できた」
ルイズの魔法が初めて成功した瞬間であった。

預言者…魔王…その前は、ジャキ。そう呼ばれていた男は、幾許かの困惑をせざるを得なかった。
ゲートのようなものに飛び込んだ先で、黒衣の集団に囲まれているのだ。
だが敵意はほぼ感じられず、どちらかといえば好奇の視線にのようだった。
遠くには城、上には青い空。空気は穏やかであり、技術的にはA.D.600と大差ないように思えた。

「…ルイズ、『サモン・サーヴァント』で黒ずくめの男なんて呼び出してどうするんだ?」
誰かがそういうと、次々と周囲の生徒が笑い始めた。そして、大半の生徒が笑う。
数少ない人々…例えば中年の男だったり、青い髪の小柄な少女…は、その正反対の反応を示していたが。

「ちょっと間違えただけよ! …その身なり…貴族? 平民には見えないけど」
この魔王を知らないというのか、と言おうと思ったが、時代を旅した以上、その程度の事では動じなかった。
確かにA.D.600に近いようではあるが、実際にその年代にいるとは限らないのだ、と認識した。
「ミスタ・コルベール!」
彼女が名前を呼ぶと、野次馬の中から1人の中年の男性が現れた。
大きな杖を持ち、真っ黒なローブに身を包んでいる。その表情は、明らかなこちらへの警戒心。
この集団の統率者であることは明らかだった。魔王は男の強さを感じた。男は魔王への強さを感じた。
数少ない敵意に近いものを、この男は向けてくる。この男は、私が存在する問題点を感じている。
「ミス・ルイズ。そこから離れなさい。今すぐに」
「あの! 召喚のやり直しを――え?」
召喚と彼女は言った。だとすれば、儀式を行って然るべく何かを呼び出したことになる。
それにしては魔法陣が見当たらないな、と振り向けば、ゲートは完全に消失していた。
「クッ、ゲートが消えた…」
「え、え、ゲート? 貴方は私の召喚で…」

風が吹いた。そこに吹く風は黒い風ではなかった。
ふわり
フードが風により、そっと取り払われる。
その明かされた風貌を見て、その場にいる人間すべてが沈黙した。
「エルフだ!」
誰かが震える声で叫んだ。そこから恐怖は伝染する。1人が声を出して遠ざかると、後は蜘蛛の子が散る様。
だが動かない者もいた。例えばルイズ。例えばコルベール。あるいは、腰が抜けたり足がすくんだ者――。
魔王には疑問が山のようにあった。その問いかけに答える人が必要であった。
目の前の少女よりは、男のほうが適任であることは、感じる魔力からも明らかである。
「――ここは、どこだ?」
「ト、トリステイン魔法学園!」
少女が叫ぶようにそう言うと、男もそれを肯定するように頷いた。
「魔法? 馬鹿な、魔法は既に失われた力。太古の時代に存在した心の力だ。」
今度は男の顔が困惑に満ちた。何を言っているのかわからない、と表情で語っている。

このような状況下でありながら、ルイズは混乱の中にも喜びを感じていた。
魔法が成功したということ、それから、エルフ(正確にはそう見えるだけだが)が現れたこと。
これだけでも、彼女の今までの人生の中でも指折りに入るような素晴らしい出来事だった。
混乱と精神高揚が引き起こす突発的行動。何度もシミュレートしたが故に、半ば条件反射で、彼女は言った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

「(――詠唱!)」
とっさに彼女の方向に向き直り魔法を放とうとする魔王。だが顔をつかまれ、そのまま唇を奪われる。
反撃すべく距離をとり詠唱を開始するが、魔力の制御に困難をきたしていた。右手に耐え難い激痛が走ったのだ。
「ぐ……き…さま…」
「だ、大丈夫! 『使い魔のルーン』が刻まれてるだけよ! すぐに終わるから安心して。」
右手を押さえて苦痛を堪える。視界の隅に捕らえた男は、どうしたらいいのか決めかねているようだった。
その様はどことなくビネガーと呼ばれた(元)部下を彷彿とさせる。
途切れ行く意識の中で、よくわからないことを口走るマヨネーと、慌てるビネガーを見た気がした。
もちろん気のせいであったと思い知るのは、それから半刻後のことだ。


――次に意識を取り戻したとき最初に目に飛び込んできたのは、あの桃色の髪だった。
そのまま上体を起こして、次に立ち上がる。何の異常も無い。むしろ疲れがとれたくらいである。
所持品もそのままだ。生憎と鎌は失われてしまったが、魔力も衰えてないのならば特に不自由は無いだろう。

「質問がある」
「何y…な、なんでしょう…?」

ビクッとする目の前の娘に何点か質問をした。正直なところ、怒りよりも混乱のほうが大きい。
目の前の娘を殺して立ち去るには、現状、あまりにも情報が少なすぎた。

「――つまり、ここは異世界で、お前がゲートを作り、私を使い魔として召喚したというわけか」
「そうよ。だから貴方には私の使い魔になって欲しいのよ!というか、なったの!」

ダメカナ?といわんばかりの視線を飛ばしてくるので、ダメ、と答える代わりに顔をしかめる。
軽く落ち込んでいるようだが同情する気には全くならなかった。
取り立てて深い恨みを感じるわけでもなく、至って冷静である。
常識というものがいかに頼りないか、この男は時を越えて戦ってきた経験から知っていた。
ついでに、目の前の少女の態度が明らかに対等な者を見る目になっている事も知っていた。
だが咎めるつもりは無い。そんなことは大事の前の小事。些細なことである。

「使い魔のフリならしても構わない。この面妖な紋章も、ゲートの事も気になるからな」
「??よくわからないけど、とにかくいいのね?」

姉を蘇らせる方法を目指して幾星霜を越えてきた男にとって、この機会は願っても無い変化だった。
神を信じたことは無いが、それでもこの巡り合わせには感謝していた。
たとえルーンの影響が無くとも協労的に振舞うだろう。敵対する理由は、ほぼ皆無なのだ。

魔王は限界を感じていた。個人の力のみでは到達することの叶わない領域がある。
何かを成し遂げる為には何かを諦めねばならない。クロノと呼ばれた少年が仲間を助けたように。
サイラスと呼ばれた騎士が従者グレンを助けたように、姉が自分を助けたように、だ。
時の卵、あるいは蘇生を可能にする『何か』、そして復讐の為に魔王と呼ばれる存在になったのだ。

「手段と目的を間違えるような真似はしない…こんな世界だからこそ、手に入るものもあるだろう」
「そう…これからよろしくしてあげるわ!ご主人様としてね!」
「……。」

ルイズは内心で万歳三唱していた。実力の程は知らないが、強そうなエルフが使い魔となったのだ。
魔法も成功した。『ゼロ』と呼ばれなくなる日も近いだろう。今日を記念日にしようと思ったほどである。
使い魔は主の鏡である。使い魔を見て2年生は今後の属性を決め、より能力を高めていくのだ。
自覚は無いにせよ彼は彼女の才能に見合った使い魔であった。その男が使う魔法もまた、虚無であるが故に。

「――ところで、使い魔は何の為にいる?」
「ゑ゛」

エルフ相手にどう説明したものかと頭を抱えるルイズであった。
遠くのおばけより近くの先住魔法である。



「…呼んだ、ということは目的があって呼んだのだろう」
「ま、まあそうよね」

ここはトリステイン学院のルイズの部屋。だが、彼女に安らぎが訪れることは無い。
目の前には得体の知れない男。ローブに身を包んでいるが、どう見てもエルフ。
故に彼女はどうしたものか困っていた。仔細を説明すれば怒ることくらいは想像ができるからだ。

「いや、ええと…」
「どうした」
「…わかったわ。覚悟を決めた!」

――単なる状況説明だと思えばいい。
そう自分に言い聞かせて彼女は使い魔の役目を丁寧に説明することに決めた。

「…って訳で、主の耳となり、目となってもらうのよ」
「できてないようだが」
「う…まあ、エルフだからかもね…次に、私が望むものを見つけてきてもらうのよ。文字通り『使い』ね」
「わざわざ使い魔を呼ばなくても何とかできるだろう」
「ま、まあそうだけど…普通の使い魔なら、面倒な採集とか人間じゃいけないような場所にも行けるから…」

ふむ、と魔王は唸る。この時になり、自分の出現はあくまで予定外であり、本来は『そういうもの』を
呼び出すのだと理解したからである。道理で言いにくい素振りを見せるのだと納得もした。

「最後に…これが一番重要な役目ね。『主を守ること』。これに尽きるわ」
「ガードか」
「そ。その能力で主人を敵から守るのが一般的な使い魔の存在意義ね」
「わかった」
「エルフじゃなければ掃除洗濯、その他雑用でも押し付けようと思ったけど…」
「断る」
「そうよね…まあ、なんていうか、そんなところよ。いけない、もうこんな時間。道理で眠いわけだわ」

ルイズは欠伸をかみ殺していた。時間を考えればなるほど、確かにもう眠る時間だ。
魔王がきびすを返すと、ルイズは大変なことを失念していたことに気づき、慌てた。

「あ、寝床…」
「かまわん、外で寝る。」
「え」

この魔王、野宿には慣れているので躊躇いは無かった。
それに調べたいこともあった。つまり、ゲートの痕跡である。

館を離れ、滑るように移動して昼間に呼び出された場所の前まで辿り着く。
そこには何箇所かの抉れた地面以外には、何も存在しなかった。

「完全に消えている…」

むしろ、その方が自然なのだと考える魔王は、残念に思うと同時に安心もしていた。
それは繋がり続ける必要性…つまりラヴォスの存在…を否定している証明なのだ。
冷静な思考の末、魔王はこれから成すべきことを纏めると、そのまま樹にもたれかかり、寝た。

魔王は夢を見た。全てが停止した世界の中で、幼い自分は姉へと駆け寄っていく。
忌々しいラヴォスの前で、サラは女神像のように虚空を見つめてじっと立っているだけだった。
走る。走る。どれだけ走っても、その場所まで辿り着けない。
辿り着けない。そして、抗えぬうねりの中に放り込まれ、時の彼方へ飛ばされる。
そこで目が覚めた。黎明の森の中で一人。そのまま体を動かして全身をほぐすと、校舎に向かった。

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