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宵闇の使い魔 第捌話

私には関係の無いイベントだと思っていた《フリッグの舞踏会》―――
あいつとは如何するんだろうか。
あまり騒ぐタイプではないのは間違いないけど。
仕方が無い。私が踊ってあげるしかないわね。


宵闇の使い魔
第捌話:万媚


学院長室で事の顛末を聞いたオスマンは、フーケ自身を捕えられなかった事を惜しみながらも、
「まぁ、なんにせよ――良く《破壊の杖》を取り戻してくれた」
といって、一人一人の頭を撫でた。
勿論、虎蔵は別だが。
ルイズは「もう使えなくなってしまいましたけど――」と申し訳無さそうにしていたのだが、コルベールが彼女をフォローした。
「もしこれがフーケに使われでもしていたら、魔法学院の面子が潰れる所ではなく、大変な責任問題になっていたでしょう。フーケに使われなかっただけでも十分な結果です」
「たしかに、アレが一発あればちょっとしたフネ程度なら落ちかねませんものね」
その威力を間近で見たキュルケが肩を竦める。
オスマンはそれに頷くと、
「君たちの《シュヴァリエ》の爵位申請を出しておいた。ミス・タバサには《精霊勲章》を。フーケは取り逃がしてしまったのは事実であるから、確実に受理されるとは限らんが――その場合でも学院からの褒美は保障しよう」
と告げる。
それを聞いたルイズとキュルケは顔を輝かせた。

――完全に隠蔽すると思ったがな――
虎蔵はそんなことを重いながら、オスマンの言葉を聴きく。
まぁ、あそこまで派手に盗まれてしまったのだから、潔く認めた上で奪還した功績をアピールするのが得策といったところだろうが。

「あッ――あの、オールド・オスマン―――トラゾウには何もないのですか?」
ルイズが相変わらず壁際に突っ立って、退屈そうにしている虎蔵をちらりと見る。
ゴーレムの拳から逃れられたのも、《破壊の杖》を使うことが出来たのも彼のお陰なのだ。
オスマンもこれまでの話から彼の功績が一番であるということは理解していたが――
「残念ながら、彼は貴族ではないからのう」
と、立派な白髭を撫でながら言う。
それにはルイズだけでなくキュルケやタバサも残念そうな顔をするが、
「金くれ、金。危険手当みたいなもんだ。金ならそう面倒な記録も残らんのだろ?ついでに秘書のねーちゃんにも出したれや」
虎蔵自身はあっけらかんと言ってのけた。
彼にしてみれば、称号など貰った所で厠の紙程度の役にも立たないのだから、その方がよっぽどありがたい。
地獄の沙汰も何とやらと言うくらいなのだ。
「ふむ。それくらいなら、ま、良いじゃろう。ミス・ロングビル、君もそれで良いかね?」
「私は特に何もしてないのですけど――」
オスマンが鷹揚に頷き、ロングビルにも問う。
彼女は少し困ったように頷いた。
オスマンはそれに「では近いうちに用意させよう」と答えると、パンパンと手を打つ。
「さて、今宵は《フリッグの舞踏会》じゃ。この通り《破壊の杖》も戻ってきたことであるし、予定通り執り行うぞ。今日の主役は君たちじゃからな。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのだぞ」
オスマンに言われれば、三人は丁寧に礼をしてドアに向かった。
だが、虎蔵は壁際に立ったままだ。
ルイズがそれに気付き振り返るが、彼は「先に行ってな」と手を振った。
オスマンと話でもあるようだ。
恐らくは彼の故郷の武器であるらしい《破壊の杖》についてだろう。


「ふむ――で、何か話でもあるのかね?ミス・ヴァリエールの使い魔よ」
「あるにはあるが――そっちからで構わんぜ」
オスマンはドアが閉まるのを確認すると虎蔵を促すが、虎蔵は肩を竦めて答える。
「どうせその方が話が早い。違うか?」
と、互いを牽制するように睨み合う二人だったが―――
「ふぅ、まあその通りであろうな―――では、ミス・ロングビル。君は――」
オスマンがため息をついて頷いた。
そしてロングビルに退室を促そうとするが、
「秘書のねーちゃんも居て良いと思うぜ。ルイズ達にだって後で話すことだからな」
「ふむ。まぁ、学院側にも事情を知ったものが数人は必要か――では此処に居たまえ」
虎蔵に言われて考え直すと、ロングビルにも同席を許可した。

「さて、まぁ――お主の事だ。聞かれることは解っているとは思うのでな。端的に問う」
そういって一度黙り、重厚な机に肘を突いて目を閉じる。
次に目を開いたときには、その年に似合わぬ迫力、威圧感を宿している。
ロングビルとコルベールはそれに息を呑んだ。
「お主、何者じゃ」

「見慣れぬ服装、異常な身体能力、魔法も使わずに何も無い所から武器を取りだす業――そして何より、《破壊の杖》の使用方法を知っているということ」
オスマン以外の二人も小さく頷いた。
そう、ただの平民ではないことは勿論、仮にメイジだったとしても何から何まで――
「異質なのだ。本音を言えば、私は《土くれ》などよりよっぽど君の事を警戒していたのだよ」
そういってため息をつくと、ゆっくりと椅子の背凭れに身体を戻した。
虎蔵はそれを聞くと「随分と正直なこったな」と笑う。
「あんた、異世界って信じるか?」
「異世界――じゃと?」
「そのまんま、此処とは違う世界って事だがね。俺は其処の人間で、その《破壊の杖》もその世界ではかなり量産されている。パンツァーファウスト言うてな」

虎蔵の説明を聞くと、オスマンはふむと声を漏らして白髭を撫でながら考え込み、ロングビルとコルベールは話の壮大さ――というよりも、荒唐無稽さに顔を見合わせている。
暫くするとオスマンはため息をつき、ゆっくりと話し始めた。

「《破壊の杖》以外にも我々の知る歴史の中で作られたとは考えにくい物が、世界には幾つかあってな。なるほど、異世界から漂着した物であると言うのならば頷ける」
「ほう――」
虎蔵は何か思う所でもあったのか、僅かに目を細めて頷く。
「それに、《破壊の杖》も――そう、30年も昔の事になるか。森の中を散策していた私は、ワイバーンに教われてな。そこを助けてくれた人物の持ち物じゃった」
「そいつは?」
「死んでしまったよ。その時既に重症でな――今際の際に「帰りたい、帰りたい」と言っていたのはそういう事だったのか――」
遠い目をして語るオスマンに、誰も声をかけずに静かに時が流れる。
暫くすると、オスマンはため息をついて、
「まぁ、その時使った《破壊の杖》の一本を彼の墓に、そしてもう一本は形見として宝物庫に――という事じゃ。年寄りの長話をしてしまったが、なに、お主が異世界から呼ばれたと言うことは信じよう」
と告げる。
「しかし、その世界ではお主のような実力が普通なのかのう?」
「いや、大抵はこっちの平民と似たようなもんだ。極稀に突き抜けちまってのが居るって位だな」
もっとも、その突き抜け具合が半端無いのだが――そこはまだ告げる必要は無いだろう。
「なるほど――確かに彼は、持っていた物以外は普通の人間じゃったな――まぁ、私が聞きたいのはこのくらいだが、おぬしからも何かあるのじゃろ?」


「ああ、そだ。これだよ、これ」
虎蔵はすっかり忘れていた、といった様子で彼らに左手を見せる。
使い魔のルーンだ。
「なにやらこれが付けられてから、随分と身体の調子が良くてな。困ることでもないんだが、気になるといえば気になるんでね」
「ガンダールヴの印――ありとあらゆる《武器》を使いこなしたという伝説の使い魔の印です」
その疑問には、最初にそのルーンに気付いた人物であるコルベールが答えた。
恐らく、今まで使ったことのない武器でも扱えるようになっているとの事だが、それ確かめる機会はあまり無さそうだ。
だが、調子の良さはこのルーンによる物だろう。
もしかしたら、デルフの言っていた《使い手》というのも関係がある可能性はある。
――気が向いたら聞いてみるか――
「なるほど―――しっかし、なんで俺がそんなご大層な物になってんだかなあ」
「残念ながらなんとも―――異世界から来たということと関連がある可能性はありますが」
ぷらぷらと左手を振る虎蔵にコルベールが答えると、
「自分の理解の及ばん所で色々起こるってのは、なんともシャキッとせんね」
彼はそういって肩を竦めるのだった。


「ところで―――帰る方法はあるのですか?」
それまで黙って話を聞くに留めていたロングビルが口を挟むが、その問いにはオスマンもコルベールもすぐには答えられなかった。
「一度呼び出した使い魔を送喚した事はないし、するという事態は想定されて居ない」
「そもそも人間を召喚したことが初めてですからな」
二人がそう答えれば、ロングビルは「そうですか――」とだけ答えたのだが、
彼女に何度かアピールを試みているコルベールには少し違って見えでもしたのか、
「あーいえ、しかしですね。召喚が出来て、送喚が出来ないということは無いと思うのですよ。私は。ですから時間をかけて研究すれば―――そもそも召喚のプロセスというのは―――」
と自らの薀蓄を語りだしたのだが、
「あー、そいつは――帰り方については気にせんでええよ。知り合いに、あんたらとは毛色の違う魔法使いが居てね。そのうち向こうから呼び戻されんだろうから」
と虎蔵に遮られてしまう。
しかし、その内容はロングビルに自分の知識をアピールできなかった事よりも衝撃的だったようで、オスマン共々驚きをあらわにした。
「自ら狙って異世界からの召喚が可能な者までおるのか!?」
「なんとも恐ろしい世界ですな――」

実際のところ、虎蔵にはその魔法使い――麻倉美津里にそれが可能であるか、可能であったとしてするかどうかはわからないのだが―――
「そうならなかったとしても、ま、別にたいして問題はないしな。どうしても帰らにゃならん理由も無い」
と肩を竦める。
それを聞いたオスマンはははっと楽しげに笑って、
「なるほどなるほど。確かに、それも悪くは無いじゃろう。住めば都というしな。なんなら嫁さんも探してやるぞ?」
と言ってくる。
虎蔵は「そいつは結構」と肩を竦めて、割と本気で拒否したのだった。


数時間後。
《アルヴィーズの食堂》の上にあるホールは大いに賑わいを見せていた。
着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。
虎蔵はバルコニーの枠にもたれては、のんびりとウイスキーを味わっていた。
何処から《破壊の杖》奪還に虎蔵が大いに貢献したことを聞きつけたマルトーが持ってきた最高級の物だ。

「ま、娯楽が少ねえもんなあ――」

虎蔵の視線の先で、誰も彼もが今宵を謳歌している。
キュルケは何人もの男子生徒からのダンスの誘いを捌くのに手一杯になっている。
タバサはあの小さい体の何処に入っているのかという勢いで只管に料理を食べている。
そのテーブルに何往復もして料理を運んでいるメイドはシエスタのようだ。大変そうだが、生き生きとした表情をしている。
モンモランシーがギーシュの腕をがっちりと掴んでは、他の女を口説きに行かないようにキープしているのも見えた。
他にも名前も知らない生徒が、教師がこの《フリッグの舞踏会》を楽しんでいた。

此処で一緒に踊ったカップルは結ばれるという逸話だか噂だかがあるらしく、各所で恋の華が咲いたり散ったりしている。
だがそこで、ホールの一部がざわついた。

グラスにウイスキーを注ぎながらちらりと視線を向ける。
そこには、幾人もの教師の誘いを断りながら――中にはコルベールもいたようだが――こちらへと向かってくるロングビルがいた。
黒を貴重としたシンプルなドレスだが、深めのスリットに大胆に開いた背中から覗く素肌が艶かしい。
ドレスの生地を押し上げる双丘も十分すぎる程に男の視線をひきつける。
総じて"良い女"、であった。

更に数人の生徒や教師からの誘いを断って、ロングビルはようやくバルコニーにたどり着いた。
流石に彼女が虎蔵の前で足を止めてしまえば、誘いの言葉が聞こえてくることは無くなった。
「もてもてやな」
虎蔵がからかうように笑うと、彼女は近くには誰も居ないことを確認した上で、
「こまったものよ。馬鹿ばっかりでね。誰も彼もだまされて――」
とロングビルとフーケの間くらいの調子で答える。
「またぶっちゃけたな―――諦めたのか?」
「諦めるも何も、無くなってしまったものは盗めないわよ」
虎蔵が僅かに呆れたように言うと、彼女も肩を竦める仕草をして見せた。

バルコニーには誰もやってこない。
二人の雰囲気――色っぽい物でもなければ深刻そうなものでもない、独特の雰囲気に気後れするのかもしれない。
ロングビルは彼と同じように枠を背にして「何時から?」とだけ問いかける。
「夜に会ったときかね―――それに翌朝のもタイミングが良すぎるし、パッと見だと解らんが、ただの秘書がんなに引き締まった身体してるのも変だしな」
「――最後のは兎も角、もっとじっくりとやるべきだったか―――」
虎蔵の言葉を聞くと、はぁっと深いため息をついた。
もっとも、ルイズの魔法による皹が修復される前に実行したかったのだから、仕方が無い所もあるのだが。


「それで、如何するんだい?」
「つーと?」
「惚けないでほしいもんだね―――」
「怒んなよ―――しかしまぁ、どうしたもんかな」
ロングビルにすれば最も警戒していたことをどうでも良さそうに答えられて、ムッとした表情を見せる。
虎蔵はその表情を見るとニヤニヤと笑って、
「いやいや、実際本当にどうでも良いんだよ。貴族でも学院生徒でもなけりゃ、この世界のもんでもないんだからな」
「―――そう言う割には、最後には随分と煽られた気がするけど」
「面白かったもんでな」
と言い切った。嘘をついている様子は無い。
ロングビルは僅かに頬を引きつらせながら、ぐっと手を握る。
殴りたくて仕方が無い。
だがそれすらも虎蔵はニヤニヤと笑って眺める。
―――なんて性質の悪い!―――
ロングビルは思わず口に出しかけるが、ぐっと堪えた。
オスマンのセクハラもだが、この男と正面から向き合うのも胃を悪くしそうだ。
ふぅ、と大きくため息をついて気を取り直すと、
「まぁ、その辺りは良いんだけどね―――私としては余計な借りを作っておきたく無いんだよ」
「貸しを作ったつもりは無いが、まぁその気は分からんではないな」
「じゃあ何とかしておくれよ」
そう言って虎蔵の手からグラスを奪い、一口。

虎蔵が腕を組んで「うーむ」と考えていると、先程学院長室で《破壊の杖》――パンツァーファウストの来歴を聞いたときに僅かに気になったことを思い出した。
そう、この世界に来ているのが自分だけではない可能性である。
別に重火器やらなんやらが来る分には一向に構わないが―――
「そうだな―――ちょいと頼みがあるんだが、今此処で話す事でもないんでね。後で話しに行くわ。部屋は?」
虎蔵がそういうと、ロングビルは自室の場所を伝えて「―――一応、人に見られるのはよしておくれよ。変な噂が立っても困るからね」と言ってグラスを空けた。

その時、ホールの中からおぉと歓声が聞こえた。
視線を向ければ、ホワイトのパーティードレスに身を包んだルイズが注目されている。
胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていて、隣のロングビルとは見事に対照的だった。
ロングビルはそれを見ると、「お姫様が来たみたいだね―――それじゃまた」と言って去っていった。

ロングビル同様、やはり幾つもの誘いを断りながら虎蔵の前へとやってきたルイズは、ややムッとした様子でロングビルの後姿を眺めてから彼へ声をかけた。
「お楽しみみたいね。邪魔しちゃったかしら」
刺々しい。
虎蔵は軽く肩を竦めて「別に。ちょっとした世間話だ」と答える。
そして「そういうお前こそ、随分と誘われてたじゃないか」と言ってからかおうとするのだが、
ルイズはその言葉を「五月蝿いわね。別にどうだって良いのよ、あんなの」とバッサリ斬って捨てると、彼に向けてすっと手を差し伸べた。
「でも、折角だから―――踊ってあげても、よくってよ」
目をそらして、僅かに浮かぶ照れを何とか隠そうとしながら言う。
虎蔵は思わずニヤニヤ笑いを浮かべてしまいながら「へいへい、お供するさ」と言って手を取った。


二人がバルコニーからホール入ってくるとすで楽師達によって音楽が奏でられていた。
ルイズは虎蔵の手を引いてフロアに飛び込み、音楽にあわせて優雅にステップを踏み始める。
虎蔵も見よう見まねでそれにあわせる。

「今日は色々と助けられたわね―――その、ありがとう」
ルイズは踊りながら、視線を合わせないようにしながらぼそぼそと感謝の言葉をつげた。
虎蔵は――なんとも素直になれん奴だな――と思ったのだが、
「それが使い魔の仕事なんだろ?」
といって笑うのだった。

しかし、後にこの虎蔵の言葉が、彼女の心に深く突き刺さってくることになる――――

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