あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 05


「たーみねーたー……?」
「マシーンの事だ」 

 ルイズが首をかしげて言うと、ターミネーターはまた感情の無い声に戻って答えを返した。
 ターミネーターはこうしている間にも、内蔵されたあらゆるセンサーで回りに散開している数々の熱や電磁波を捕らえ、
 この一風変わった建物の内部構造を順々に把握している。
 彼の画面表示器の右半分には、既に建物の大まかな見取り図が作成されていた。 

「ましーん……?」

 当然そんな事など知る由も無いルイズは、男の口から次々と生まれる聞いた事の無い言葉に耳を傾け、
 ただぼうっとした顔つきでターミネーターの顔を見上げている。

「機械の事だ」

 ターミネーターのプロセッサーは言葉を逆算し、より原始的な言い回しをした。 
 ここまで言葉を簡潔にして、ようやくルイズは『ターミネーター』が何なのかを程度に理解したらしく、
 ああ、と口を開くとしばしの間肩を揺らし、ターミネーターをじろりと下から睨みあげた。

 一方、ターミネーターは建物内部の地図をせっせと完成させ、それを直にメモリ・バンクに重要データとして保存した。
 下から物凄い形相で睨まれているが、彼はどんな事に対しても恐怖という感情を持たないし、何に対しても恐れも抱かない(わからない)ため
 なぜ己の主がこうまで怒りを露にしているのか、超高度なCPUでいくら計算してもエラーばかりで理由は全く解らなかった。 

「……あんたねぇ! いくら私が未熟者だからってバカにするのも大概にしなさいよっ!! 
 機械? ましーん? たーみねーたー? なに真面目な顔して大嘘ついてんの? バッカじゃない!?」

 雷が落ちたようにルイズの怒りが爆発した。
 マシンガンさながらの勢いと連射性を持つ金切り声が、部屋を突き破り建物中に木霊する。

「…………」

 ターミネーターは押し黙った。
 彼は思考プログラムを集中させ、このような場合での対処法を嘗て――1994年――の経験と組み合わせて、
 何百通りと見つかった中からより効果ありそうなものをいくつか割り出した。
 さらに、割り出したいくつかの例を細かく、メリットデメリットを予測しながら綿密に計算していく。  
 このケース、要は新しい主――『ルイズ』に自分の存在を納得させればいいわけだと彼は理解していた。
 結果としてターミネーターが導き出したシナリオは、92%の確立でルイズに自分の言い分が通用する事が予測された。
 ターミネーターは無言で踵を返し、ごちゃごちゃと物が置き散らかっているルイズの机に手を伸ばした。

ただでさえ小さい机は大男のターミネーターが目の前に立つと、まるでままごとに使うおもちゃのように見える。
 ルイズは始めこそ、彼を止めようと体にしがみついたのだがまるで人とは思えない力の彼には抵抗むなしく
 ずるずると引きずられてしまい、彼が机の前に立ったときには諦めの表情を浮かべてベッドに腰掛けた。
 積み上げられた本が太い腕に乱暴になぎ払われ、床へと落とされるとゴトリと重い音をたてて次々に沈黙した。
 あまりの衝撃によって吹き飛ばされたペンがころころとルイズの足元まで転がっている。
 ルイズはターミネーターの暴挙を黙って見届けていた。
 悔しい話だが、この使い魔は自分の力じゃ止められっこないことは召喚した直後に思い知っている。
 かといって、ルイズが何も感じていないかと言えばそうではない。使い魔に対する怒りと、“ある種の挫折感”のようなものが小さい胸の中で渦巻き、表情ににじみ出ていた。
 ターミネーターが振り返った。左手に、何か細長いものを握り締めている。
 ルイズは何だろう? と首を傾け、ターミネーターの左手を覗き込んだ。と、それと全く同じタイミングでターミネーターは左手を振り上げ、

「うひゃ!?」

 突然目の前に動いた腕に驚き、反動でベッドに転がり込んだ。
 ターミネーターはその体勢のまま大股でルイズに近づくと、逆手に握る“それ”を見せ付けるように眼前に差し出した。

 ――ナイフだった。

 おぼろげな光に反射して輝く、握りに色鮮やかなちっちゃい羽根の付いた刃渡り数サントのポケットナイフ。
 可愛らしい外見に一目惚れて買ったのだが、案外使いどころが少なくて長い事ホコリをかぶっていた物だったため、
 思い出すのに数瞬の時を要した。

ルイズは後ずさり、怯えた目でターミネーターの顔を見た。
 貴族に刃物を突きつけているというのに、相変わらずの無表情を貫いている。
 ターミネーターは右手首まで掛かっていた革ジャンをすごい力で無理やりたくし上げた。
 袖がぶちぶちっと悲鳴を上げ、ターミネーターの筋骨隆々とした丸太のように太い腕が堂々と露出する。
 途中、彼はルイズに冷たい一瞥を送り、ちゃんと自分のことを見ているか確かめるとすぐに視線を腕へと送った。
 そして、強くナイフを握る左手を右腕に添え、またルイズの目を覗いた。

 二度目に目が合った瞬間、ルイズの顔から自然と血の気が引いた。
 無意識的にか目に力が入り、大きく広がった瞳は揺れ、眼球が血走る寸前まで見開かれる。 
 ルイズはこの使い魔がなそうとしている事がわかってしまったのだ。この予想には、確信を持ってイエスと首を触れると。 
 力の抜けた両の手が口をふさぎ、それでもうまく呼吸が出来た。嬉しい誤算だ、意外なほどに心が落ち着いているのはもっと嬉しい誤算。

 ルイズの頭には次にこの使い魔が行う事が何度もシュミレーションされていた。
 自身の腕を何の躊躇い無く傷つける使い魔、血が噴出し、生臭い紅が部屋を汚す。しかし、シュミレーション上の自分は全く意に介せず、
 言葉も無く使い魔が皮を切り捨てたことで血まみれになった腕を、黙って見つめている。
 そして場面が切り替わり、いつしか目先に映るのは、今朝方夢で見た銀色の骨だけになった使い魔の、騒然たる姿なのだ。 
 「バカげている」、「夢の見すぎ」と自身を罵倒しながらも、なぜかその夢に高い信憑性を感じている自分が本当に解らなかった。 


 ターミネーターはナイフを順手に持ち替え、とうとう右腕に刃を付きたてようとしてした。


「ちょっと~ルイズ? 遅刻するわ……よ…………」

 忌々しい声が能天気に扉を開け、そして固まった。
 ルイズは目に血走らせたまま開かれた扉へと顔を向け、能天気な声の主を確認すると一筋の冷や汗を垂らした。 
 木製の扉に片手で寄りかかるようにして呆然と立ち尽くしているのは、紛れも無くルイズの天敵。
 今一番会いたくない人間であっただろうツェルプストー家の貴族、『キュルケ』だった。
 そのキュルケは扉を開いたままルイズと同じく目を開き、瞳を点にして息も忘れるほどカチカチに凍り付いている。

「あ、あールイズ。ほら、さ、ひ……人にはいろんな趣味や性癖があることはわかるの、うん、私はわかってるの……
 だけどさ……、ね? 一応朝だしさ。そういうちょっと素で過激な奴は夜のお楽しみと……」 

 間接の堅い人形のようにギクシャク動きながら、独り言のように必死で呟くキュルケ。目は点のままだし、
 どこか声が上ずっている。……早い話、ドン引きしているのである。
 どうやらこの状況、普通人よりやや煩悩の強い彼女には、ルイズが命令で無理やり使い魔に自らの腕を切らせ、
 それを見て悦に到っているようにマジで見えたようだ。
 まぁ彼女自身、確かに彼の体は貴族には無い逞しさと、それにしては女に無いセクシーさを兼ね備えていると診ていたので
 女性のいけない部分を刺激するには十分過ぎるステータスを兼ね備えていると思っていたけれど、
 まさか『あの』ルイズが早くもそっちの部分に目覚めてしまうとは、とてもとても考えが及ばなかった。
 このときばかりはヴァリエール家に対するキュルケ(ツェルプストー家)の流石の余裕も、微塵も無く消し飛んでしまっていた。 

「じ、じゃあ私行くから……」

 目を点にしたまますっと扉を閉めようとしたキュルケを、

「ち、ちょっとまちなさァァ―――――――イ!!」

 ルイズの、トリステイン中に響くんじゃなかろうかという決死の大声が呼び止めた。



「…………」

 ちなみに、蚊帳の外に追い出されたターミネーターは、
 右腕にナイフを突き刺すほんの寸前で律儀に動きを止めていた。


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