あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るいずととら第三章-6


朝――。

「ルイズ……ルイズ……起きてるの?」

先ほどからキュルケがどんどんとルイズの部屋のドアを叩いていた。
早朝にタルブの村に向かって出発する予定であったのに、集合場所にはルイズの姿がなかった。出発の仕度にでも手間取っているのかと、キュルケはルイズの部屋まで様子を見に来たのである。

「ルイズ、出発の準備はできたのー? もう……開けるわよ、ルイズ!」

部屋の中からの返事はない。やれやれとキュルケは溜息をついた。起こしてくれる使い魔がいないから、まだ寝ているというのだろうか?

(まったく、しょうのない子ねえ……)

内心ルイズに呆れながら杖を取り出すと、キュルケはアンロックの呪文を唱えた。ドアの鍵がカチリと音を立ててはずれる。
バタンと大きな音を立てて、キュルケは荒っぽくドアを開いた。

「ルイズ! いいかげんに起きてさっさと――!」

――出発の準備を、と言いかけたキュルケは、それっきり凍りついた。

(いない――)

ルイズの姿が見当たらない。
キュルケは慌てて部屋を見回したが、窓が開いて侵入者があった様子もない。窓はしっかりと施錠されていた。もちろん、壁や床に穴など開いているはずもない。
それなのに……ルイズの姿は部屋のどこにもなかった。キュルケの顔はさあっと青ざめたが、はっと我にかえると、慌ててタバサたちに知らせに走った。

まるで、時間の隙間に飲み込まれたように……
ルイズ・フランソワーズは忽然と消えていたのである。


ごぉぉおぉおぉおおう……

不吉な風が焔を巻き上げ唸りをあげた。ルイズは呆然と立ち尽くす。ただただ目の前の光景に動くことができなかった。

(どこ……かしら。ここ……)

辺り一面が焔に包まれていた。
動くもの全てを焼き尽くした巨大な白い幻獣が、空を飛び歓喜の雄叫びを上げる。白い顔に亀裂が走るように笑みが浮かんだ。

おぎゃあぁああぁあ……

白面の者の咆哮が唸りを上げる風となって、ルイズの体を走りぬけた。圧倒的に巨大な存在の前に、ルイズは体の震えが止まらなかった。
満足そうな笑みを浮かべた白面が天空に飛び去ると、後に残されたのは、かつて20万人が暮らした都の残骸だけだった。

(私、どうしてこんなところにいるんだろう……? さっきまで自分の部屋のベッドで寝ていたはずなのに……)

ルイズは痺れたままの頭でぼんやりと考えていた。また、いつもの夢だろうか。肩のない男、シャガクシャの出てくる夢……

『いいえ、ルイズ……これは夢ではありません。ここは、あなたの住む世界から遥かに遠い場所……
 そして、あなたの生きる時間より、遥かに昔の時です……それでも、全て本当に起こった事――』

突然後ろから声をかけられ、はっとルイズは振り返った。そこに立っていたのは――いや、浮いていたというべきだろうか――、白く美しい女だった。
薄い衣をまとい、長い髪を結い上げた女は、まるで幻のようにふわふわと宙を漂っていた。
ルイズの目が驚きに丸く開かれる。
似ている――その女の姿は、これまでルイズが何度も目にしたものの姿に似ていた。

(この女の人は似ているんだわ……とらが――変化した姿に……)

「あ、あなたは誰……? ここはどこなの、一体なんで私を……」

ルイズの口からこぼれた疑問に、女はその瞳に深い悲しみの色を湛え、そっと微笑んで見せた。
そして深く頭を下げる。

『許してくれとはいえません――それでも、私はあなたを選ばざるをえなかった。あなたがあの妖怪を使い魔として召喚すると知った時から……
 あなたを利用するために、時をくぐりここに来るしかなかったのです。白面の者を、完全に打ち滅ぼすために――』
「ちょ、ちょっと待ってください! なんのことなの!? ど、どうして私がとらを召喚したことが関係あるのよ……? ちゃんと説明して!」

白い女はコクリと頷く。

『全て教えましょう。私はそのためにあなたに会ったのですから……。これより、少し時を順に辿ります。あなたの来た時へと――
 頼みます……時逆、時順――!』
『ははあー! お役目さまーっ!』

女の言葉とともに、さっと妖怪が姿を現した。驚くルイズの周りの地面が、ぱあと光を放ちだす。

「時逆、時順! い、一体あなたたちは……」
『いくぞう。ルイズ嬢ちゃん。お前さんはこれから見るべきものを見なくてはなあ……』
『言ったろう? お前さんの部屋でなあ。迎えにきたのさぁ――』
「迎えにって、どこに――きゃあっ!!」

キン――! と鋭い音が響き、ルイズは思わず目を閉じた。
そして、恐る恐る目を開いたとき……ルイズの体はふわふわと空中に浮かんでいる。だが、ルイズはそんなことに気がつかない。ただ目の前の光景に目を奪われていた。

おぎゃあぁあああぁぁああ!!!

(白面――!)

眼下には、双眸から血を流し、断末魔の叫びを上げる白い魔物。
槍をかまえた長い黒髪の影――まるで獣のようなその姿は、しかし、目を凝らしてみれば人間であった。
そして――金色の毛を血に染め、強靭な拳を振るう、雷の化身がそこに戦っている――

(あれは――間違いない! とら……とらが戦っているんだわ!)

とら――! と、思わず使い魔に向かって叫ぼうとするルイズを、白い女がそっと止めた。はっと振り返るルイズに、白い女は首を振る。

『あなたの声は聞こえません……。でも、お分かりでしょうか。これがあなたが選ばれた理由です。あなたの使い魔は、この世界で白面を打ち倒し決着をつけた者の一人なのです。
 これが、この世界で白面の者が滅ぼされた最後の戦――』

(ぜ、全然わかんないわよ……)

まるで全て夢のように感じる。しかし、これは現実なのだ。ルイズはぶるぶると頭をふる。白面が崩れ落ち光となって消えていき……光の粉を散らすように風が吹く。
白い女がそっとルイズに囁く。

『――ですが、これが始まりでした。あなたの世界にとっては』
「え――」

――再びルイズの周りが光りだした。いつのまにか時逆と時順がそばに浮かんでいる。

『ここから先はお前さんの世界のことさぁ……ルイズお嬢ちゃんよう』
『さぁて、場所を移動するぞぅ……お前さんの生きる時代より、六千年昔のハルケギニアへ……!』

「ろ、六千年前って……まさか――きゃあああああ!」

次の瞬間には、ルイズは消えていた。もし……時間を移動するのが一瞬遅かったら、ルイズは自分の使い魔が消滅するのを見たことだろう。


(なんだろうな……さっきのあれァ……ニンゲンのムスメみてぇだったが)

宙に消えていく妖怪は、ぼんやりとそう思った。自分の相棒が……うしおが泣き叫ぶ声が聞こえる。
やっぱり、うしおの奴は人間だ、と妖怪は笑った。獣は涙を流さないものだ……

(まあいいさな。くくっ……ハラァ、いっぱいになったもんなァ……)

妖怪になってからこれまでの永劫のような時間で……初めてとらは満たされた気がした。

次の瞬間――妖怪は消えていた。


不吉な流星が夜空を走った。うしおととらが白面と戦ったのとは、遥かに遠い時と場所で……

その時――誰も知るものはいなかったのだ。人間も妖怪も、あるいは獣の槍さえも。
最後の戦いで砕かれた白面の体の破片が、銀色の光に飲み込まれて消えたことを……。その鏡面のような光が異界に通じていることを……。
そして、異世界に生まれた一人の赤ん坊に流星が飛び込み、その赤子は白面の欠片を体に宿してしまったことを、誰一人知る者はいなかったのだ。


ごぉおおぉぉおおおう……

ハルケギニアの大地に風が吹いた。
おびただしい婢妖の群れが、はるか東方から黒い雲となって飛んでいく。目指すはタルブの村――

――壊せ、壊せ……白面の御方の御為に……!
――いるぞ、いるぞ……白面の御方にあだなすモノが……!

おぞましく蠢く黒い婢妖の群れ……不吉な風が唸りをあげた。


新着情報

取得中です。