あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mr.0の使い魔 第八話

 馬車の上で、ルイズは現状に頭を抱えていた。馬を操るロングビルが
御者の席に座っているのは、まあ仕方ない。
 問題は、荷台に座るメンバーの配置である。まずルイズが右側後方。
ルイズの対面、左側後方にギーシュ。ギーシュの隣がクロコダイルで、
さらにその隣にタバサ。クロコダイルの対面にはキュルケ。要するに。

「なんでわたしの隣があんたなのよ」
「他に席がないんだから仕方ないじゃない」

 仇敵ツェルプストーと隣同士なのである。


 Mr.0の使い魔
  ―エピソード・オブ・ハルケギニア―

     第八話


 荷台右側が険悪な雰囲気で包まれているのとは対照的に、左側はそれ
なりに穏やかであった。

「……」
「……」
(ま、間が持たない)

 黙りこくった男と少女に、一人の少年が胃を痛めている現状を平穏と
言えれば、の話であるが。クロコダイルとタバサは、馬車に乗り込んで
から一言も口をきいていない。主人と親友がいがみ合っているのとは正
反対である。
 が、特に仲違いしているから会話をしないのではない。タバサは元々
無口であり、今は必要がないから喋らないだけ。一方のクロコダイルは、
じっと目を閉じて何事かを考えているようだった。一度考え事を遮って
殺されかけた経験を持つだけに、ギーシュは迂闊に声をかけられない。
いつもの無駄に高いテンションとは大違いである。

(い、急いでください、ミス・ロングビル! お願いだから!)

 対面の険悪なムードと側面の重圧に挟まれて、ギーシュの胃は馬車を
降りるまで延々と苛まれ続けた。


 森に入って少し進んだところで、一行は馬車から徒歩に切り替えた。
馬の嘶きや車輪の音で気づかれては元も子もないからだが、草木をかき
分け獣道を進んでいくのは、慣れない人間にとってはなかなかの重労働
である。その中で大人二人はともかく、華奢なタバサが息切れ一つ起こ
さないのは、他の三人にはかなり意外な出来事だった。

「見えましたわ」

 先頭で立ち止まったロングビルの声に、ルイズ達の表情が険しくなる。
森の中にぽっかり開いた空き地に、みすぼらしい小屋があった。茂みに
身を隠して様子を伺うが、人が出てくる気配はない。

「あそこか」
「わたくしが、周囲の偵察を行います。その間に、皆さんで小屋の方を調べていただけますか」
「ふむ。まぁ、順当だろう」
「では、また後ほど」

 そそくさとロングビルはその場を離れた。遠ざかる背中を眺めていた
クロコダイルは、彼女の姿が森に消えると、視線を傍らに並ぶルイズ達
に向ける。ルイズ、ギーシュ、タバサと順に移動し、最後のキュルケで
視線を固定した。

「さて、これからあの小屋を調べる訳だが……ミス・ツェルプストー」
「何かしら、ミスタ」
「行動するにあたって、我々が最も注意すべき事は何だと思う」
「敵の迎撃、あるいは仕掛けられた罠でしょう」
「結構」

 満足したように頷くクロコダイルを見て、キュルケは少し腹が立った。
どうもこの男、自分を試しているらしい。力を信用されていないという
事実は、彼女のプライドをいたく傷つけたのだ。
 キュルケの様子を気にもせず、クロコダイルは続いてタバサを見る。

「ならば、ミス・タバサ」
「何」
「今から我々がとるべき行動は」
「陽動を兼ねた囮役での偵察。あの中にフーケがいるかを確認する」

 もう一度頷いたクロコダイルは、ギーシュとルイズを見比べる。体を
強張らせた二人を交互に揺れていた視線が、ルイズで止まった。

「ミス・ヴァリエール」
「な、何よ」
「囮に求められる能力は何だね」
「……受けるダメージに耐えられる頑丈さ。
 もしくは攻撃を避けられる敏捷性。あと、敵の注意を引きつけるだけの姿形かしら」
「結構だ。それらを踏まえた上で、ミスタ・グラモ――ん?」

 満足そうに笑ったクロコダイルは残るギーシュに呼びかけたのだが、
言葉をかけた先には誰もいなかった。いつの間にやら、ギーシュの姿が
その場から消えていたのである。

「あそこ」

 いち早く見つけたタバサの声に、他の三人が振り向いた。長い杖が指
すのは小屋の入り口。そこで薔薇を構えるギーシュ・ド・グラモンその
人である。
 場の空気も読まずに、ギーシュは高らかに名乗りを上げた。

「我こそは、グラモン家が末子、ギーシュ・ド・グラモン!
 『土くれ』のフーケ、観念しておとなしく出てこい! さもないと――」

 さぁっと振られた薔薇の花びらが舞い落ちて、青白い光を放つ。瞬く
間に七体の青銅人形が生み出され、槍を構えて小屋を取り囲んだ。

「僕のワルキューレ達の洗礼を受けることになるぞ!」


「……何やってんだ、あいつは」

 苦虫をまとめて十匹ほど噛み潰した表情で、クロコダイルは呟いた。
まるで決闘でもするように真正面から盗賊に挑む馬鹿は初めて――いや、
あの『麦わら』も似たような思考の持ち主だったから、二人目だ。そも
そもあんな【錬金】の魔法があるのなら、術者は茂みに隠れて人形だけ
送り込めばよかったのではないか。
 ルイズやキュルケもだいたい似たような顔をしていた。タバサはいつ
もと同じ無表情だったが、それでも一言だけ、内心を口に出した。

「馬鹿」

 ともあれ、これでギーシュが本人の意図とは関係なしに囮となった。
そうなると、肝心なのは彼の実力である。相手が巨大なゴーレムを操る
ほどの腕前である以上、半端な技量では囮にすらならない。実際どの程
度なのか、クロコダイルがルイズに聞いたところ、返答は大仰なため息
だった。

「あれがギーシュの全力よ」
「何だと?」
「だから、全力を使って召喚できるのがあの七体。
 他の魔法は唱えられないし、破壊されても補充はできないの」

 ますますもって頭の痛い話である。仮にあそこに並ぶゴーレムが全滅
した場合、以後ギーシュは足手まとい確定なのである。戦場で、優秀な
敵と同じくらい厄介なのは無能な味方。どこの世界でもそれは同じだ。

(仕方ねェ。せめて死ぬ前に囮の役には立ってくれよ)


 師と仰ぐ人物にあっさり見切りをつけられたとも知らずに、小屋の前
に立つギーシュは内心で悦に入っていた。彼の思い描く未来予想図では、
恐れをなしたフーケが慌てて飛び出して許しを請う、という非常に都合
の良い展開がなされている。もしも歯向かうようなら、小屋を包囲した
ワルキューレで袋叩きにすればいい。

 が。
 待てども待てども、何かが起きる気配はない。
 五秒が経ち、十秒が経ち……一分を過ぎる頃には、ギーシュだけでは
なく後方のルイズとキュルケも怪訝な顔をした。

「変ね。あれだけ騒いだのに、仕掛けてこないわ」
「中にはいないんじゃない?」

 キュルケがそう呟いたと同時に、隣のタバサが立ち上がった。タバサ
は一直線に玄関に向かうと、扉を開け放ってずかずかと踏み込んで行く。
声をかける暇もなかったキュルケは、友人の姿が視界から消えたところ
でようやく我に返った。

「た、タバサ! あの子ったら……あたし達も行くわよ、ヴァリエール!」
「言われなくても! クロコダイル、あんたは外を見張ってなさい!」
「おう、行ってこい」

 一目散に駆け出した二人の少女は、呆然とするギーシュの横を疾風の
ように駆け抜けた。目を瞬かせるギーシュだったが、その肩に厳つい掌
が置かれた事で我に返る。振り返った先にいたのは、引きつった笑みを
浮かべるクロコダイルだった。

「師匠! 見ていただけましたか、ぼくの勇姿「この馬鹿ヤロウ!」おぶッ!?」

 脳天に叩き込まれた拳骨で、呆気なく昏倒するギーシュ。それに連動
するように、ワルキューレ達も次々に倒れてばらばらに分解した。術者
が意識を失った場合、操られるゴーレムがどうなるのか、そのいい見本
である。足手まといを増やしてまで得るべき情報だったのかは微妙だが。

「もう少し役に立つかと思ったんだがなぁ」

 青く晴れ渡った空を見上げながら、クロコダイルはため息をついた。


 一方のルイズとキュルケは、中にフーケがいない事に安堵するととも
に、僅かばかりの落胆を感じていた。小屋そのものは使われなくなって
大分経つようで、生活している痕跡がまるでない。フーケのアジトでは
なく、一時的な保管場所、もしくは追っ手の目を欺く為の偽装だったの
だろう。そう考えると、奪われた【破壊神の槌】も、既にどこか遠くへ
持ち去られた後かもしれない。

「結局、わたし達は無駄足だったって事かしら」
「なぁんだ、つまんない」
「待って」

 任務失敗と娯楽消失、それぞれの理由で肩を落とすルイズとキュルケ
の元に、タバサが部屋の奥から大きなケースを運んできた。一抱え以上
あるケースに目を奪われる二人の前で、留め金が外され、蓋が開く。
 中に入っていたのは、これまた異様に大きなトンカチ。人間の頭ほど
もある先端部分は、側面をなめし革で、両端を鉄板で覆ってある。中央
に、長さ1.5メイルほどの木製の柄が突き刺さっていた。その形状は
まさしく――。

「「【破壊神の槌】!?」」
「そう」


「それにしても、こんな大きなものよく持って来れたわね」

 【破壊神の槌】が見つかってご満悦のルイズとは対照的に、キュルケ
は怪訝な顔をした。このやたらと大きな槌は、それなりに鍛えた人間で
なければ振り回すどころか持ち運ぶのも難しそうだ。
 タバサが実は筋肉ムキムキの女傑(アマゾネス)でした、というのも
何か違う気がする。というか、それはキュルケのみならず非常にイヤな
想像である。
 そんな事を考えながら親友が抱えるケースに手を伸ばし――槌を持ち
上げて、キュルケは顔を顰めた。

「何コレ、随分軽いじゃない」
「え?」
「あんたも持ってみなさいよ。ほら」
「わわッ!?」

 無造作に放り投げられた槌。慌てて受け取ったルイズも、即座に眉根
を寄せた。片手で楽々と持ち上げられるほど軽いのだ。木製のケースと
比べても、重量は大差ないのではないだろうか。

「もしかして、偽物?」
「わざわざ偽物を残す必要はないと思うけど」

 二人して額を突き合わせていると、横で眺めていたタバサがぽそりと
呟いた。手にした長い杖で指したのは、先端部の側面に刻まれた文字の
ようなもの。

「それ」

 ハルケギニアで使われている書体とはまるで異なるそれは、あくまで
文字“のようなもの”であり、この場の三人とも読む事はできない。が、
【破壊神の槌】との仰々しい名前からして、何らかのマジックアイテム
であるのは間違いないだろう。それに刻んである謎の文字ともなれば、
特別な効果を持っていてもおかしくない。

「これが槌を軽くしてるのかしら」
「何かの魔法のルーンで、振り回したらすごい魔法が炸裂するとか」
「本体はハリボテで、この文字みたいなのが名前の由来ってこと?」

 ルイズの疑問に、キュルケは肩をすくめて答えた。結局二人とも本当
のところはわからないのである。知識は人一倍豊富なタバサも、これに
ついては首を横に振った。

「とりあえず【破壊神の槌】は取り戻せたみたいだし、いいじゃない」
「そうね。フーケがいないのは残念だけど……あら?」

 既にこの小屋には用はない。そう思って外へ出ようと一歩を踏み出し
たルイズは、靴越しに伝わる柔らかい感触に視線を下げた。床板とは異
なる、茶色くて柔らかい物体を踏みつけている。

「土!?」

 慌てて飛び退くルイズ。同じく危険を感じたキュルケとタバサと共に
寄り添う中、床だけでなく壁や天井も、ぼろぼろの“土くれ”に変わって
崩れ始めた。


   ...TO BE CONTINUED

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