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ゼロのしもべ第3部-15

 しばらく気を失っていたアンリエッタは、自分の名前を呼ぶ声で息を吹き返した。
 ルイズが心配そうに自分を覗きこんでいる。
 雨は止んでいた。辺りの草は濡れ、ひんやりとした空気に包まれている。先ほどの激しい戦闘がまるで嘘のようだ。
 だが嘘ではない証拠に隣にはウェールズのなきがらが横たわっている。離れたところには、クロムウェルの躯が転がっている。
 少し目を凝らせば周囲には枯れ果てた草や、めくれ上がった地面、根こそぎ引き抜かれた巨木が散乱している。
 そのクロムウェルの躯の傍に落ちている鐘が一つ。
 命の鐘。
 ウェールズの贋物を作り出したあらゆる生命を操るという鐘だ。クロムウェルはとうとうこの鐘に命を食い尽くされたのである。
 アンリエッタにはそういった理屈はわからない。ただ、全ての夢がうたかたの泡の如く消え去り、あるべき姿へ戻っていったことを感じていた。
「わたくし、なんてことをしてしまったのかしら。」
「目が覚めましたか?」
 冷たいような、悲しいような声でアンリエッタに問うルイズ。だが、声に怒りの色はなく、むしろ淡々としていた。
「なんと言ってあなたに謝ればいいの?わたしのために傷ついた人々に、なんと言って許しを乞えばいいの?」
「今の陛下がなすべきことは」
 アンリエッタの声を打ち消すように、涼しげな声が割って入る。
「許しを乞うことではございますまい。」
 しなりとした中年の男、孔明であった。
「今、陛下がなすべきことは、後悔でも懺悔でも謝罪でもございませぬぞ。」
「右丞相!?」
 その姿を見て、アンリエッタが思わず恥じ入り縮こまる。だが、孔明は首を振る。
「そのように自らのおろかさに引篭もることでも、目をふさぐことでもありませぬぞ。」
 そして荒野となった周囲を指し示した。
「よくお考えくださいませ。なにが起きたのか。なぜ、このようなことが起きたのかを。」

 命の鐘がふわりと浮かび上がる。
 そして水の精霊の入ったビンの中へと入り、しっかりと抱きかかえられる。
「これでよい。死という概念のない我ならば、この鐘を触ることができる。」
 鐘を愛しげに撫でる水の精霊。
「この鐘に悪気はないのだ。単なるものたちよ、許してやって欲しい。命の鐘は使うものによりその性質を悪にも善にも変えるのだ。
善き心の持ち主が使えば、善きものとして働き。悪しき心の持ち主ならば、悪しきものとして力を振るう。命の鐘はただ従うだけにすぎぬのだ。」
「あるときは、正義の味方。あるときは、悪魔の手先。」
 バビル2世の呟きに頷く水の精霊。その表情は寂しげで、切ない。
「その通りだ、単なるものよ。ゆえに天才悪魔と我は呼ぶのだ。使い方によっては、どうにでもなるのでな。」
 下を向いていた精霊が、やがてなにかを決心したように顔をあげた。
 そしてバビル2世の目を、じっと見る。
「願いがある。単なるものよ。」
 ポセイドンのほうを、一瞬横目で見た。
「我を…我を鐘と共に元の場所へ運んで欲しい。」
「えっ!?」
 目をぱちぱちさせるバビル2世。
「でも、あなたはポセイドンを…」
「気が変わったのだ。」
 鐘を懐に抱き、再び顔を伏せる水の精霊。
「この鐘は我が保管せねばいかぬ定めだということだ。見よ、辺りを。草木枯れ、虫の声一つなく、鳥獣恐れ姿を現さぬ。自然の摂理に逆らいて死者は甦り、そのために幾人かが命を失う。水は生命、生命は水。水の精霊たる我にとっては拷問にも等しい。」
 改めてバビル2世を見る水の精霊。
「この事態を引き起こしたのは、すべて我の不徳のいたすところであり、命の鐘によるものだ。我が永遠に水の底に鎮めておかねば、世の摂理は保たれぬ。」
「ふーむ。」


 たしかに水の精霊のいうとおりだろう。生命を自由自在に操る力など、人間世界には危険だといえる。不要、と言っても良い。
 人はやがて死ぬからこそ今日という日を懸命に生き、死後に後ろ指を刺されぬようにするのだ。それがなくなれば、皆好き勝手し放題だ。
 そしてこのように、悪さをしでかす人間もいるだろう。
 だが、一つ問題がある。
「もう一度、それを盗んで悪用しようとする人間がいるかもしれないということだ。」
 今回は運良く奪還することができた。しかし、次も上手く行くと誰が言えるだろうか。次からは今回の失敗を教訓に、奪われぬ方法を模索して攻めてくるだろう。
 そうなれば奪還どころの話ではなく、場合によってはこちらの命も危うい。
「ふむ。」
 考え込むバビル2世。水の精霊が確実に鐘を守り続けるよい方法はないか、必死に考える。
 こういうときに孔明がいれば相談できるのだが。あいにく孔明はまだアンリエッタ王女と会話中のはずだ。しかたがない。早急に結論を出さず、孔明の手があくまで待つとするか。
「すこし、ゆっくり考えてみたほうがいいんじゃないか?」と言いかけるバビル2世。だが、即座に背後から、
「いえいえ。その必要はございませんでしょう。」
 自分の言葉を否定する言葉に、ぎょっとうしろを向く。そこには優しげな笑みを浮かべた男がいた。背後には王女、そしてルイズ。
「陛下、ごらんください。服は破れ、皮膚は裂け、体中あざだらけでございます。これ全て陛下の過ちの結果…」
 おお、と手で顔を覆うアンリエッタ。だがそれを孔明は許さず、腕を掴んで引き剥がす。
「ええい。まだ現実を見ぬといわれるか!よく御覧なされ!これが軽挙が引き起こしたものなのですぞ!幸いにも犠牲は出ずにすみましたが、それでも皆傷つき倒れているのです!」
 大きく喝を与える孔明。ルイズが思わず抗議の声をあげようとするが、孔明にそれを止められる。
「よいですか。これはすべて王女の中の甘えがひきおこしたことなのですぞ。」
「……甘えが…」
「左様。恋に生きたい、王女ではなく責任を持たぬ姫のままでいたい。そういう甘えが、このものたちを傷つけたのです。」
「ですが、わたしは望んで王女になったのでは…」
「だまられい!」
 孔明が、身体のどこにそんな力が潜んでいるのかと思うような声で一喝した。
「ならば平民は望んで平民として生まれたというのか! ロバはロバと生まれを選んだとおっしゃるのか! 人は父母を選ぶことはできぬ!それ即ち運命なり!
 世には母より生を賜れども、貧しいがために間引かれ、土中に埋められしものがいる。戦で国を追われ、流浪の身となりしものがいる。五体満足ならず、迫害されるものがいる。
 彼らが望んで王となれるだろうか? いや、なれない。なれぬが皆懸命に自分に与えられた職務を、運命を全うしようとあがいている。にもかかわらず、王族という恵まれた身に生まれ、何不自由なく育ち、身に病なき陛下が「望んで王女になったのではない」とは……。言語道断笑止千万! いったいどの口でおっしゃるです!」
 孔明の怒声を受けて、アンリエッタはボロボロ涙を流しながら地面にへたれこむ。
「その……その通りです。なんという、なんという愚かなのでしょう…私は。たしかに私は逃げていました。王女になどなりたくない、ではなく私はすでに王女なのです。そのような愚痴をこぼす前に、王女としての責務を果たすべきなのえす。」
 おいおいと地面につっぷし、号泣をはじめるアンリエッタ。
「ウェールズさま…」
 そしてヨタヨタと、よつんばいでウェールズのなきがらへと近寄る。
「わたしは甘うございました。まだ、子供だったのです。だからあなたとの甘い日々に、心を狂わせてしまったのです。ですが、わたしはもうすでにこの国の王女なのです。あなたとの逢瀬の日々を思い返す前に、わたしにはするべきことがあるのです。」


 ウェールズのなきがらに、ハンカチをかけてすっくとアンリエッタが立ち上がる。
「さようなら、かつての愛しい方……本当に、愛していました。ですが、もう思い返すことはないでしょう。いえ、思い返しませぬ…。」
 遺体に背を向け、涙一つなく。
「誓いましょう。いま、この場で。ウェールズさまを忘れることを。そして、他の誰かを愛することを…。」

「……ふられちゃったみたいよ?」
 目の前で恋愛集結宣言をされ、燃え尽きて真っ白になっている残月に、意地悪くいうキュルケ。
「でもまぁ、あのメイドにちょっかいだしてるみたいだし、自業自得でいいんじゃないかしら?ねえ、皇太子様」
 その一言一言にダメージを受ける残月。
「……ライフ残量、おそらく1。」
 そんな残月の様子を観察し、冷静に分析するタバサ。バレバレのバレバレだ。
「き、きみたちが何を言っているのか私にはわからない……」
 よろよろと残月が立ち上がる。
「わ、私の名は白昼の残月。ウェールズ皇太子ではない。だが…もし、私がウェールズ皇太子ならば……。新しい人生を歩み始めたアンリエッタを祝福するだろう。……でもやっぱりもったいないなぁ、とも思うだろうが。」
 正直な残月であった。
「あら、意外と正直ね。そういう男、嫌いじゃないわよ。もっとも、恋人に嘘をつく男はゴメンだけどね。」
 そんなキュルケをじろじろと見て、残月が
「そうか。だが、私もケバい女は範囲外だ。」
 ふっふふ、と腕を組んで言う。
「あら、そう。うーん、なんだか女王様にあなたの正体をばらしてみたくなったわね。」
「と言うのは冗談ですよ。いやー、あなたのようなお美しい方といっしょにいられて光栄です。」
 ころっと態度の変わる残月。手もみまでしている。そんな残月の様子に冷たい視線を浴びせてタバサが一言。
「……馬鹿ばっか」
 それは別のキャラだ、タバサ!

「と、ところで孔明」
 やっと我に返ったバビル2世が孔明の袖を引っ張る。
「その必要はない、というのはどういう意味だ?なにか秘策があるのか?」
 おやおや、と孔明が振り返る。
「秘策、というほどのものではありませぬが……。お2人も考え自体は頭の片隅にあるのではないですかな?」
 うふふ、となんともいえぬ笑みを浮かべる孔明。背中にさぶいぼが立ちそうな、というのか。本能的に危険を感じる笑みだ。
「水の精霊殿が命の鐘を持ちつつ、バビル2世さまの傍にいればよいのではないですか?」
「……その、孔明。」
「それができれば苦労はいらぬではないか!」
 2人の抗議を華麗にかわす孔明。
「いえいえ、簡単なことではないですか。私の記憶がたしかなら、水の精霊は全にして個。個にして全。違いますかな?」
「いや、相違ない。」
「千切れていても、繋がっていても、その意思は一つ。つまり、今のその身体が二つになっても、共に水の精霊ということ。」
「それも正しい。たとえ100に分かれようと、そのいずれもが我である。」
「では、お聞きしましょう。二つに分かれたとして、片割れを命の鐘に分け与えることは可能ではないですか?」
「??」
「はい?」
 思わず素っ頓狂な声をあげるバビル2世と精霊。
「すまぬ、いまいち意味が理解できぬ……。その、我をどうする気なのじゃ?」
 おやおやと苦笑する孔明。
「そのままの意味ですよ。水の精霊の一部を、命の鐘に分け与えて欲しいと言うだけなのです。」
「ちょ、ちょっと待て、孔明。」
 あわててバビル2世が口を挟む。
「そんなことが可能なわけがないだろう。だいたい、そんなことをして何になるんだ。いったい何を考えている。」
「いえ、充分可能なのですよ。単純に言えば、水の精霊の身体の一部を、命の鐘の支配下に置かせる、ということなのですから。」
「しかし、そんなことが可能ならいままでに水の精霊がやっているはずだ。違うか?」
「その疑問はおっしゃるとおり。ですが、答えは簡単明瞭。それをするための材料とエネルギーがなかったのですよ。」
「材料?」
 頭の上に疑問符を浮かべるバビル2世。
「そう材料です。水の精霊と、命の鐘を完全に分断する触媒。すなわち人間の肉体です。そしてエネルギーとは生命のこと。ですが」
 チラッと視線だけを一瞬クロムウェルの死体へ向ける孔明。
「いま、その触媒となる死体は存在している。あとは命の鐘が、水の精霊の肉体を支配下に置くだけの力があるかどうかですが、それは問題ないでしょう。触媒が息絶えたため、命の鐘は沈黙したにすぎませぬ。すなわち吸い取った生命力自体はまだ残っていることでしょう。」

 そしてあらためて2人に向き直り、交互に顔を見ながら、
「もしこれが成功すれば、命の鐘の所持者は水の精霊ということになります。ゆえに性質は善、我らに仇なすことはないでしょう。うまくいけばあの恐るべき力を我らが手にすることすら可能なはず…・さらに水の精霊は、常にポセイドン様の傍にいることができます。 一石二鳥とはまさにこのことではございませぬか?」
「ちょ、ちょっと待て、孔明。」
 何度も汗を拭くバビル2世。ハンカチ王子も真っ青のふきっぷりだ。
「そんなに上手く行くのか?だいたい、水の精霊が身体の一部を切り離されるのを承知するはずが…」
「よし、やろう。」
 やる気満々で答える水の精霊。鼻息も荒い。いや、鼻の穴ないけど。思わずバビル2世がこけてしまう。
「我が愛しきかたの傍にいることができる…。なんという幸運。そのためには半身を失うなど問題ではない!」
 恋は盲目というが…。もはや水精霊の恋という病は膏盲に入ったらしい。
「さあ、やろう。すぐにやろう。こういうことは急いでやったほうが良い。」
 むふーむふーとやる気満々な水の精霊。今までどこにいたのか、突然現われた赤い鎧の男が、ビンを転がしてクロムウェルの死体のところまで運んでいく。
「……しまった!突っ込むタイミングを逃した。」
 あっというまに水の精霊が運ばれていったため、呆然としていたバビル2世は一人取り残される形となった。
 いそいで後を追おうとするバビル2世。だが、その背に
「「バビル2世さま。」」
 と2つの野太い声をかけてくるものがあった。
 振り返ると、そこには地球監視者を名乗る男達がいたのだ。

 地面に膝をつき、頭を下げる地球監視者たち。
 おもわず後ずさりするバビル2世。こんな濃い男達に、跪かれれば大抵の人間が同じようなリアクションをするだろう。
「きみたちはたしか地球監視者だったね。さきほどはありがとう。」
 バビル2世は精一杯の作り笑いをする。助けてもらった以上、嫌な顔をするわけにもいかない。
 はっ、と改めて深々と頭を下げる監視者たち。困惑するバビル2世。
「その、なぜそんなに馬鹿丁寧なんですか?ぼくにはあなたたちにそこまでしていただく理由が思い浮かびません。」
 そういえば孔明がなにかしでかしたようなことを2人が口走っていたな、と思い出す。何を一体しでかしたのだ。
「我ら2人を、バビル2世さまの配下に加えていただきたい。」
「……えっ!?」
 何を言ってるんだお前は?とつい問い返すバビル2世。
「無礼は重々承知。ですが、我々には他に選択肢がないのです。」
 No.1の言葉にNo.3が頷く。
「我々の最初の目的は、この世界から元の世界に帰還し、マーズを殺し地球を爆破することでした。」
「ですが、わしらが狂っていると判断したマーズは実は正常に近く、逆に我々のほうが狂っていると言うではないですか。」
 そういえば孔明がそんなことを言っていたな、と思い出す。たしかバビル1世と、彼らを作った宇宙人は同盟関係にある星の出身で互いに攻撃が不能なように協定を結んであると言う話だ。
「つまり我々はとんでもない失敗をするところだったのです。」
「その失敗はマーズの手により未然に防がれました。ですが、その罪は消えることはないでしょう。」
「我々は罰を受けねばならない。それが人の手により生まれてきたものの定めなのです。」
「ちょ、ちょっと待ってください。」2人を静止するバビル2世。
「そんな罰なんて必要ないじゃないですか。2人が助けてくれたおかげで、ぼくたちはこうして無事だったのです。むしろ感謝したいぐらいです。」
 ありがたいお言葉、と頭を下げたままNo.1が言う。どうも何を言っても恐縮するらしい。
「ですが、それで消える罪ではないのです。我ら2人は製造者から受け取った命令を遂行できなかった欠陥品。人造人間にすれば、これ以上の恥はございませぬ。」
「わ、わかった。わかった。」
 まったくもう、と困り果てるバビル2世。
「なら、その罪はぼくたちを助けてくれたことで帳消しにしようじゃないか。きみたちがきてくれなければ、ぼくたちは死んでいたかもしれない。それでいいじゃないか。いわば恩赦だ。ぼくがきみたちの製造者の同盟相手ならば、その意思は製造者と同じということじゃないか。つまり製造者が、きみたちに罪はないと宣告したと同じということだ。そういうことで、2人とも罪は帳消し。あとは自由に生きるべきだ。」


 我ながら名案を出せたと少し満足げなバビル2世。だが、監視者は首をうなだれたままである。
「どうした?」
 その態度にバビル2世が疑問符を浮かべる。
「ありがたいお言葉です。しかし、我々は人工人間。」
「与えられた命令を忠実に実行するための存在でしかなく、自由意志というものは存在しないのです。」
「バビル2世さまは、いま創造者と同じとおっしゃいました。」
「ならば願いがあります。ぜひ、新たな命令を我ら2人に与えていただきたい。」
 思わず頭を抱えるバビル2世。途中から不吉な予感がしていたが、まさかこうなるとは。
「命令なんてなにもないですよ。」
「ないというならば、ぜひ配下に加えていただきたい。我ら2人にとっては、もはや命令系統はバビル2世さましか残されていないのです。我々は命令を聞くことを第一とする以上、それがもっとも安心できるのです。」
「人助けと思い、どうか承知していただきたい。」
「む、むう……」
 あごに手を当てて考え込むバビル2世。たぶん頭の上に黒いぐちゃぐちゃが書き込まれているはずだ。
『どうしたものか。今後ヨミと戦う以上、得がたい人材であることは間違いない。だが、問題はぼくがよくてもルイズがどう言うかだ。これ以上部屋に住人が増えれば、癇癪を起こす回数も激増するだろう。だが、それさえなければこちらからぜひ協力を願い出たいような話だ…。』
 しばしの思案の後、2人に向きかえって。
「衣食住の世話はできないが、それでもいいですか?」
「おお、それでは!」
「我らに異議はありませぬ!」
 今にも小躍りしそうな2人。そんなに嬉しいのか。
「ならばよいでしょう。ぜひ力を貸していただきたい。」
 おお、とパッと2人の表情が明るくなる。
「それで、ええっと。名前は…?」
「名前などございませぬ。」
「我らに名前など不要でしたゆえ。」
「しかしそれじゃあ不便だな。」
 なにか便宜上の呼び名はなかったのか?と問うバビル2世。
「我々は六神体の部品の一部と言う扱いであったため、便宜上の名もありませんでした。」
「あえていうならば、六神体の名前こそが我らの名前と言えるかもしれません。たとえばわしはウラヌスを操るがゆえ、ウラヌスと呼ばれていましたが。」
 老人が答えた。
「六神体、というのはたしか君たちに与えられた兵器のことだったな。しかし、あまり兵器の名前をつけるというのも気分がいいものではないな。他に何かなかったのかい?」
「他にですか?ふむぅ。」
 腕を組んで目を閉じる地球監視者2名。
「そういえば、わたしは人類に紛れ込んで活動するとき、アルベルトという偽名を何度か用いたことがありますが。」
「アルベルト?」
 思わず問い返すバビル2世。
「そう言われればわしも何度かカワラザキなる偽名で情報収集にあたったことがある。たしかあれは太平洋戦争中のことだったな。」
「こちらはフランスとプロシアとの戦争のときです。ナチスが台頭したときも、アルベルトという偽名で探りを入れたことがあります。」
「ウラヌス、よりはカワラザキやアルベルトのほうがしっくりくるな。」
 よし、と手をうつバビル2世。
「ならとりあえずアルベルトとカワラザキと名乗ってくれ。気に入らなければ神体の名前に戻してくれてもいい。」
「我々にとっては名前などどうでもよいことです。」
 アルベルト、と名づけられた監視者が言う。
「左様。カワラザキであろうが、ウラヌスであろうが、大きな違いはありませぬ。」
「どうも調子が狂うな。」
 ぽりぽりとバビル2世が頭を掻く。
「でもまあ、文句がないならいいんだ。今度ともよろしく頼む。」
 ははっと礼をとって、2人が答えた。


 そんなことをしていると、視界の端にこちらへ歩いてくる孔明の姿が飛び込んできた。うしろに小太りの男を連れている。
『まさか、命の鐘というのはあれか?』
 直感的にそう悟るバビル2世。いや、間違いないだろう。どう考えても他にありえない。
 「孔明」と手を挙げると、はじめから承知であったかのように静かに微笑み頷いた。
「バビル2世さま。水の精霊により、命の鐘に生命を分け与える作業は成功しました。」
 予想は見事に的中した。宝くじとかならともかく、あまり当たっても嬉しくない的中だ。
「彼がそうなのか?」
 背後に控える、小太りの男を指すバビル2世。目は赤く、瞳がギラギラ輝いている。顔が丸ければ、身体も丸い。おまけに服装は、
「……中国人なのか?」
 ゆったりとしたどう見ても中国の伝統的民族服としか思えないものを着ている。そう考えるのも無理はない。というか自然である。
「いえいえ。とんでもございません。」
 ただの偶然ですよ、と孔明。実に怪しい。
「便宜上、名を十常寺と名づけました。といっても、お好きなように呼ばれればよろしいかと。」
「いや、十常寺でいいだろう。」
 もうなんでもいいよ、とすごく投げやりなバビル2世。
「それよりも、アンリエッタさまとルイズは?」
 ルイズには話をしておかなければならないと思い、周囲を探す。しかいs、姿も影も見えない。よく見ると、タバサにキュルケ、残月、さらにはセルバンテスまでいない。一体どこに行ったのだろう。すごくオッサン密度が高くて息が詰まりそうだ。
「皆さん、ウェールズさまを葬るためにラグドリアン湖に向かわれました。」
「葬るって……残月もついて行ってか?」

 ラグドリアンの湖畔。ウェールズの身体が湖にそっと浮かべられた。
 アンリエッタが小さく杖を振り、ルーンを唱える。湖水が動き、遺体がゆっくりと水に運ばれ、沖へ沈んでいく。
 水はどこまでも透明で、ウェールズの死体がはっきりと見えた。
 アンリエッタはその姿が見えなくなっても、そこに立ち尽くした。
 しかし、涙はこぼさない。その顔には、国を担うものとしての重責と、責任感が強い意思となってはっきりと現われていた。


 アルビオン大陸にサウスゴータという地方がある。
 その地方に、それこそ名をシティオブサウスゴータという街がある。そこから港町ロサイスまで続く街道は、サウスゴータ地方の主要街道である。
 普段は商人がせわしく行き来して大陸の品物を運び、農夫が歩き、軍人が隊列を組んで行進している。そんな道だ。
 そんな街道から離れた森の中。そこにひっそりとちいさな村がある。
 ウエストウッド村。
 地図にも載っていないような、小さな村だ。世間から忘れられたような、と表現するのがピッタリだろう。小さなわらぶき屋根の家が十軒あまり寄り添うように建つ村だ。
 子供が多い村らしく、明るい笑い声が絶えない。いるだけで心が弾むと言うか、太陽のようなはずんだ声が、そこら中からしている。
 その中からとりわけ嬉しそうな声が聞こえてくる民家がある。
「それじゃあマチルダ姉さんはしばらくここにいられるのね?」
 美しい金髪をした少女が弾むような声で問う。絹のように細く繊細な金色の髪。透けるような肌の色。華奢な身体。まるでこの世の芸術品の粋といった趣の少女である。
 声は甘く、清らかで。セイレーンの歌声もかくやという雰囲気だ。
「ああ。しばらくこっちに用があってね。それでしばらくティファニアのところで骨休めでも、って思ったのさ。」
 うれしい、と少女が抱きつく。むにゅ、とマチルダなる女性の胸に、巨大な何かが押し付けられる。
「こ、こら、ティファニア!苦しい…し、なんというか、悲しくなる。」
「あ、ごめんなさい……つい、嬉しくって…」
 あわててティファニアと呼ばれた少女が離れる。その胸で、巨大な何ごとかがゆれる。
「いや、いいんだけどさ。こっちも嬉しいのは同じだからね。」
 ティファニアの頭を撫でるマチルダ。緑色の髪をした、理知的な女性だ。どこかで見たような気がしないこともない。
 ふにゃっと柔らかい笑みを浮かべていたティファニア。それを優しい目で見ていたマチルダの表情が一瞬険しくなり、すぐに元に戻る。
「ティファニア、せっかくだから今日はあたしが料理を作ってあげよう。なに、きにすることはない。娘に料理を作るのは、親なら当たり前だろう?」
「マチルダ姉さんはわたしの親じゃないわ。」
「親みたいなもんだよ。だって、小さなときからずっと知っているんだもんね。」
 そういって無理矢理表に出て行くマチルダ。手にはしっかりと杖を握り、左手には摘んだ山菜を入れる籠を持っている。

 少し歩くと、ごつごつと岩が露出した場所に出る。周囲にはたしかに山菜もあるが雑草もおい茂っていて、とても山菜取りをするような場所ではない。
「さて、と。いつまで隠れているんだい?」
 なにもない空間を見つめていうマチルダ。籠を地面に置き、杖で地面を叩きながら、空間をじっと見る。
「それだけ殺気をとばしておいて、人違いでしたっていうのかい?それともナンパでもしようっていうのかい?」
 その言葉を受けて、空間が揺らめく。そこにあった紙がめくれ上がるようにして、中年の男が姿を現した。
「どう考えても茶を飲みにきたって面じゃないわね。」
「マチルダ・オブ・サウスゴータだな。」
 短く、問う。低い声の男だ。ピンク色の服を着ているせいで非常に目立つ。おかしなことは、ひとつ。陽炎のように現われたにもかかわらず杖を持っていない。
 メイジではないというのだろうか。いや、メイジでなければあのように、魔法のようなことはできないはずだ。
 だが、魔法にあんな技術があっただろうか。魔法を使ったのでないとすれば、この男は何者か。
「別名、土くれのフーケ。」
 その名前を聞いて、フーケの表情が険しくなる。
「へえ。どこで調べたのか知らないけど、よく知ってるね。そうさ、フーケってのは私のことさ。」
 フーケはすぐに、おそらく自分を殺しにきた刺客だろうと当たりをつけた。散々貴族をコケにしてきたのだ。殺される身の覚えは充分ある。
 さらには禁制の品物を持っいた貴族の手による口封じかもしれない。いずれにしろ、心当たりは数多い。
「誰に頼まれたのか知らないけど、この土くれのフーケと真っ向から戦おうっていうのかい?」
「誰にも頼まれてなどいない。」
 冷たく言い返す男。
「これはわしの個人的な復讐だ。たとえ本人でなくとも、あの男の娘であれば充分。」
 怪訝そうな顔をするマチルダ、ことフーケ。
「意味がわからないね。うちは王家に潰されちまったから、恨みがあるやつがいれそのときにどうにかしてきたはずだからねぇ。」
「その通りだ。だが、王家に潰されたおかげで、長い間きさまらの消息がわからなかったのだ。おそらく貴様らは、自分達が殺した平民のことなど何一つ覚えてはいまい。」
 淡々とした口調で言う。懐から銅銭を取り出し手のひらに包む。その手を滑らせると銅銭が集まって剣のようになったではないか。
「わしの名は混世魔王樊瑞。かつて貴様の父親に、ぼろくずのように父親を殺された男だ。」

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