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へっぽこ冒険者と虚無の魔法使い 第2話(後編)

第2話「決闘!なんでも撲殺団」(後編)

連れて行かれた先は厨房だった。
数百人からなる大勢の料理を一度に作るためか、非常に広い。
イリーナとヒースがいても邪魔にならないだけのスペースは十分に確保されている。
二人は出されたシチューを食べた、それはもう一杯食べた。
イリーナは三度もおかわりしたほどだ。
「ごちそうさまでした。ああ、本日の糧を与えてくださったことをファリス様とシエスタさん、厨房の方々に感謝いたします」
「うむ、中々美味だったぞ」
「いえ、お腹空いたらいつでもいらしてください。私たちが食べているものでよかったら、お出ししますから」
腹いっぱいに食べ、満足げな二人にシエスタは微笑む。
「……シエスタさん、今私は物凄い感激しています。何か手伝えることはありませんか?
今朝も助けてもらいましたからお礼させてください!」
「俺様も少しばかり手伝ってやらんことも無いぞ」
イリーナがシエスタの手を握り、詰め寄る。ヒースは相変わらず尊大だ。
そんな二人にシエスタは微笑み。
「なら、デザートを配るのを手伝ってくださいな」


一抱えもある大きな銀のトレイに、デザートのケーキがいくつも並んでいる。
イリーナとヒースは、そのトレイを持ち、シエスタが一つ一つ丁寧に貴族たちに配っていく。
そうしてケーキも残り少なくなった頃、事件は起きたというか起こってしまったというか。
「なあギーシュ! お前、いま誰と付き合ってるんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
茶色い髪から僅かに覗いたイリーナの耳が、ぴくり、と動いたような気がした。
ギーシュと呼ばれた少年は、一言で言えば気障だ。
どこか芝居がかった動作で級友たちに言葉を返す。
「付き合う? 僕にそのような女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
イリーナは色恋沙汰に興味があるため、聞き耳に集中していた。
それが悲劇と言うか喜劇を生むこととなろうとは、海のリ○クですら見抜けなかっただろう。
端的に言えばイリーナは転んだ。
ギーシュのポケットから硝子の小瓶が転がり落ちたのにイリーナは気付かなかった。
それをただ踏み割るだけならば大丈夫だった。
イリーナが別のことに気を取られていなければ、転ぶこともなかっただろう。
しかしイリーナは聞き耳に集中し、運悪く踏み割ることも無く、硝子の小瓶で滑って転んだ。
さて、イリーナはケーキが乗った銀のトレイを持っている。そんな状態で転べばどうなるか……?
答えは一つ。
イリーナは結果として、ギーシュの頭にそぉい! とばかりにケーキを叩き付けることとなった。
辺りに沈黙が漂い、一瞬の間をおいて爆笑が広がる。
「な、何をしてくれるんだ君は!」
「ごごごごご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
流石に怒るギーシュと平謝りなイリーナを、ヒースは何やってるんだか、という目で見つめる。
「貴族の頭にケーキを叩き付ける給仕なんて始めて聞いたぞ!? どうしてくれる!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 何か踏んじゃってそれで転んじゃって……あの、その、兎に角ごめんなさい!」
ぺこぺこ凄い勢いでイリーナは頭を下げる。
そこでふと、ギーシュはポケットの中にあるはずの小瓶がなくなっていることに気付いた。
慌てて当たりを見回すと、意外と近くに落ちていたため急いで拾いポケットへ仕舞いなおす。
だが、目敏いギーシュの友人たちが一瞬だが見えた小瓶の出所について語り始める。
「今の香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないか?」
「そうだ! あの鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつをギーシュ、お前が慌てて拾ったということは……つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」
たった一瞬見ただけで正解を当てた友人たちの推察力の高さに、ギーシュは自分の失敗を思い知った。
あんな慌てて拾わなければ、答えに行き当たられることもなかったというのに。
「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」
ギーシュが何とか弁明しようとしたとき、後ろのテーブルに座っていた栗色の髪をした可愛らしい少女が立ち上がり、ギーシュに近づいた。
「ギーシュ様……」
突然、ボロボロと涙を流し始める。
「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解してるんだ、ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」
言葉を言い切る前に、ギーシュの頬をケティと呼ばれた少女の平手が打つ。
「その香水を慌てて拾ったのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」
ギーシュがケーキ塗れの頬を摩る。
イリーナがその呆気に取られていると、今度は遠くの席から一人の少女が立ち上がった。
かつかつかつとギーシュに歩み寄ってくる。
「も、モンモランシー、誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」
何とか冷静な態度を取ろうとしているが、誰がどう見ても、今のギーシュは動揺していた。
モンモランシーは無言でワインの瓶を掴み、ギーシュの頭の上でそれを逆さにした。
ケーキ塗れの頭がワインで綺麗にされていく。
「うそつき!」
そう一言だけ怒鳴り、去っていった。
辺りに沈黙が流れる。
友人たちも流石に囃し立てず、イリーナはどうすればいいか分からず固まっていた。
ギーシュがハンカチでゆっくりと顔拭いた。
そしてやれやれ、と言わんばかりに芝居がかった仕草をしつつ口を開く。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ……それはそうと、君」
「は、はい?」
ケーキを叩きつけたことを怒られると、イリーナは思った。
事実イリーナのミスであるのだからその怒りは甘んじて受けるべきであり、覚悟を決めていると、
どうにも事態は違う方向へ展開することとなった。
「君が転んでケーキを僕に叩き付けたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
イリーナは一瞬、目の前の少年が言うことが理解できなかった。
だがそれも一瞬のことですぐに何を言ってるか把握し、思わず呆れた声が口から漏れでた。
「いえ、あの、二股掛けていた貴方が悪いと思うのですけど……」
はっきり言ってケーキを叩き付けたことと二股がばれたこと、その因果関係を証明することは困難だろう。
ギーシュの友人たちが笑い声を上げる。
「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」
そういわれたギーシュの顔に、赤みが差す。
「いいかい? 君が小瓶に気付き、僕にケーキを叩きつけなければこんなことにはならなかったんだ。給仕をするのならば足元に気をつけるのは当然だろう」
「あの、その……確かに足元に気をつけなかった私が悪いのは事実ですけど。それでしたら小瓶に気付いたとき拾わなければよかったのでは? 後、私は給仕では無いです」
「そうだぞギーシュ! 無理矢理な責任転嫁をするつもりか!」
またもギーシュの友人の間で笑いが起きた。
苦々しい顔をしていたギーシュはイリーナの顔を見やり、ふと気付いた。
「ああ、君は……確かゼロのルイズが召喚した平民か。平民に期待した僕が馬鹿だった、所詮無能のメイジは使い魔も無能か。ケーキのことはもういい、さっさと行きたまえ」
そう言ってギーシュは手をひらひらとさせる。
イリーナはカチンと来た。
自分が馬鹿にされるのは構わない、しかしルイズを馬鹿にされたことは、許せなかった。
魔法成功率ほぼ0%、だからゼロのルイズ。
このことはルイズにどれだけの負担をかけていることだろうか。
ルイズだって好きで失敗しているわけではないのだ、好きで魔法が使えないわけではないのだ。
それはあの空を飛ぶ級友たちを見つめていた悔しそうな顔を、錬金を失敗し罰として掃除を命じられたときの悔しそうな顔を見れば分かる。
神官として人としてまだまだ未熟な自分ですら分かるのだ。その心情は如何ほどなものか。
「訂正してください、私を馬鹿にするのは構いませんが、ルイズさんは無能なんかじゃありません!」
イリーナがテーブルをドンっ、と叩く。料理が跳ね上がり、衝撃で転がり落ちたワインの瓶が地面に落て割れる。
「……訂正はしないよ。事実を言って何が悪い」
「訂正してください!」
にらみ合いとなり、いつしか囃し立てていた周りの友人たちも小柄なイリーナから発せられる迫力に口を噤んだ。
「なるほど……どうやら貴族に対する礼を知らないと見える。よかろう、君に貴族への礼儀と言うものを教えてやる。腹ごなしにも丁度良い」
胸の薔薇を手に取り、口にくわえながらギーシュは立ち上がった。
「そんなことより、ルイズさんを馬鹿にしたことを訂正してください!」
「そんなに訂正して欲しかったら僕に勝つことだね。そうすれば直接ミス・ヴァリエールに謝っても構わないよ。まぁ、そんなことゼロのルイズの使い魔の君に出来れば、の話だがね」
ギーシュがせせら笑う。ここに来て、イリーナは沸点を超えた。純真で天真爛漫な、彼女らしくない思考が頭を埋め尽くす。
「……分かりました、場所はどこですか?」
「貴族の食卓を平民の血で汚すわけにはいかない。ヴェストリ広場で待つ、残りのケーキを配り終えたら来たまえ」
そう言ってギーシュは去っていき、周りの友人たちは楽しそうな顔をしながらその後を追う。
そのうち一人は残った、見張り役だろう。にやにやとイリーナのことを見ている。
「い、イリーナさん、貴女殺されちゃう……貴族を本気で怒らせるなんて……」
「シエスタさん? ……あの、大丈夫ですか?」
肩を抱き、カタカタと震えるシエスタを、少しだけ頭が冷えたイリーナが声を掛けると走り去っていってしまった。
去っていくシエスタを呆然と見ていたイリーナに、ルイズが駆け寄ってきた。
「あんた! 何してんのよ!見てたわよ!」
「あ、ルイズさん」
「あ、じゃなーい! 何勝手に決闘の約束してるの!? あんたも側にいたのなら止めなさいよ!」
「だって、ルイズさんが馬鹿にされたからつい……」
「いや、止めようと思ってたんだがタイミングがなぁ」
イリーナがしゅん、と落ち込み、ヒースがトレイを持ったまま片手でぽりぽりと頬を掻く。
ルイズはため息を吐いて、肩を落す。
「勝手に決闘起こされる主人の身にもなりなさいよ……そりゃ、私が馬鹿にされたのを怒ってくれたのは嬉しいけど……勝てる算段でもあるの? あいつ、見た目はあんなのでドットだけど、結構強いわよ」
もし、イリーナがただの平民なら、ルイズはここで謝ることを提案していただろう。
しかしイリーナはただの平民ではなく、違う大陸の魔法を使える。
どういうものか、まだこの目でみていないどころか聞いてもいないが、それは確かだ。
目の前の少女が嘘を吐くとは思えない、それがまだ出会ってから一日程度しか経っていないがルイズが出した結論だった。
「はい! まだまだ若輩者ですが戦いには自信があります!!」
イリーナはそう元気良く答え、ルイズはヒースに顔を向ける。
ヒースは肩をすくめ、好きにやらせてやってくれ、と言っているようだった。
ルイズは思案する。はっきりと言えばこの決闘は止めたい。
しかしイリーナが言って聞くような性格でないことも把握している。
となればやらせるしかない、この少女は一ヶ月御飯抜き、と言っても間違いなく決闘に赴くだろうから。
そして考えてみれば、使い魔としての実力を知る良い機会でもある。
イリーナは使い魔としての役目、主人の目や耳となるが出来ない。
秘薬等の探索もだ、まぁこれはヒースが現物を見せてもらい場所を教えればとってこられる、と言っていたが。
最後の一つ、最も重要な主の護衛。
ルイズがイリーナに期待していることはこれだ。
他の幻獣や動物と違い、見た目では強さほどが分からないのだから、そういった意味ではギーシュは丁度良い試金石なのではないだろうか?
勝てばよし、負けて危険なことになりそうになれば止めに入ればいいのだ。
「…………良いわ、好きになさい。ただし、私の使い魔として挑むのなら、負けは許さない。いいわね?」
「はい!」
こうして、イリーナ対ギーシュという決闘が執り行われることとなった。


ヴェストリ広場にイリーナたちがついた頃にはどこからか集まったのか、大勢の野次馬で溢れていた。
閉鎖された学院内では生徒たちは娯楽に飢えている。そんな中、起こったこの決闘騒ぎは彼らの好奇心を満たすのに十分すぎる出来事だった。
「諸君! 決闘だ!」
ギーシュが手にした薔薇の造花を掲げると、広場から歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘をするぞ! 相手はルイズの平民だ!」
「イリーナ・フォウリーっていうちゃんとした名前があるんですが……」
そんなイリーナの呟きは、ギーシュが腕が降ることで巻き起こる歓声にかき消された。
そうして、今気付いたかのようにギーシュはイリーナのほうへ顔を向ける。
二人は広場の中央へ立ち、にらみ合った。
「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」
「私が勝ったらルイズさんに謝る、忘れないでくださいね」
「無論だ、グラモン家の家訓は『命を惜しむな、名を惜しめ』。一度約束をしたことを違えるのは名を貶めることだ。この命に掛けて忘れないと誓うよ。ああ、それと。決闘のルールを知らないであろう君に説明しよう。ルールは簡単だ、どちらかが杖を落すか降参するか、それだけさ。君の場合は杖は無いから降参するまでだがね」
そういうとギーシュは、薔薇の造花を振るう。
すると一枚の花びらが舞い……甲冑を着た女戦士の形をした、人形へ変化した。
「パペットゴーレム!」
イリーナが叫ぶ。ヒースが作る、ストーン・サーバントやボーン・サーバントと材質は違うが、間違いなく同種のものだった。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?ああそうそう、言い忘れていた。僕の二つ名は青銅、青銅のギーシュだ。従って、この青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ」
ギーシュはそう告げると、青銅のゴーレムが走り出し、イリーナの顔に吸い込まれるように拳を繰り出した。


ギーシュは焦っていた。
彼はフェミニストだ、例え平民であれ女性に手をあげるのは躊躇う。
決闘で傷つけるなど持っての他だ。
そのため、ワルキューレで寸止めを何度か行ない、実力を思い知らせて降参させるつもりだった。
そう、降参させるはずだったのだが……。
目の前で繰り広げられている光景はなんだ?
小柄な少女が、素手で青銅で出来たゴーレムを当たり前のように殴り、攻撃を危なげなく避わし、当然のごとく受け止め、造作も無く蹴り飛ばす。
しかも六体同時に相手にしていると言うのにだ。
……最初に寸止め目的で殴りかかった一体は、眼前でその拳を受け止められた。その光景に、誰もが目を疑った。
青銅製の人間大のゴーレムとは言えその力は凄まじい。少なくとも小柄な少女が止められるような力では決して無い。
さらに驚くべきことは拳を受け止めたまま、その少女がゴーレムを素手で殴り飛ばしたことだ。
吹き飛んだゴーレムの殴られた部分は、見事に拳の形にへこんでいた。
その後の戦いは一方的だった。
殴り、避け、投げ、踏み潰す。
一分もしないうちにワルキューレは見るも無残なスクラップと化したのだ。
そうして、ギーシュが慌てて残る六体のワルキューレを作り出し、けし掛けたが……それすらも圧倒し始めている。
ギャラリーは皆同じ表情だ。
何かお化けでも目撃したかのような、信じられない顔をしている。
一名ほど、当然だと言わんばかりに不遜な表情をしている男もいたが。
ギーシュは焦っていた。
このままでは素手の少女に負けるという事実に。


オールド・オスマン。
トリステイン魔法学院の学院長にして偉大なメイジである。
齢百歳とも三百歳とも称される彼は、今一人の教師から説明を受けていた。
ガンダールヴ。始祖ブリミルが使役したとされる使い魔のうちの一つ。
そのルーンが、先日行われた使い魔召喚儀式のおいて一人の生徒が召喚し、契約した平民らしき少女に浮かび上がったと言うのだ。
そしてその少女はガンダールヴの再来であると、オールド・オスマンに説明をしていた教師、コルベールは自らの推測を告げた。
「ふぅむ……確かにルーンが同じじゃ。ルーンが同じということは、ただの平民らしきその少女は、ガンダールヴになった、ということになるんかの?」
「どうしましょう」
「どうしましょう、といわれてもの。あーミスタ・コンベア君、とはいえルーンが同じと言うだけで決め付けるのは、流石に早計すぎやせんかね」
「コルベールです。まぁ確かにそれもそうですが」
そう会話をしていると、ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
「私です、オールド・オスマン」
若い女性の声がドア越しに響いた。
ミス・ロングビル、オールド・オスマンの秘書を務める物静かな才女であり自身も優秀なメイジである。
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師もいましたが、生徒たちに邪魔をされ、止められないようです」
「全く、暇も持て余した貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」
はぁ、とため息をつき、面倒くさそうにオールド・オスマンは尋ねる。
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か。親父の色の道では剛のものじゃったが、息子も輪を掛けて女好きじゃ。おおかた、女の子の取り合いじゃろ。相手は誰じゃ?」
「それが……メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少女のようです」
オールド・オスマンとコルベールは顔を見合わせた、同時にコルベールの頭部が輝きオールド・オスマンは眩しそうに目を細める。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが」
一瞬思案するふりをし、オールド・オスマンは口を開く。
「アホか。たかが子供の喧嘩を止めるために秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「分かりました」
扉から気配が消え、足音が遠ざかる。
「オールド・オスマン」
「うむ」
オールド・オスマンはコルベールに促され杖を振るった。
壁に掛かった大きな鏡がヴェストリ広場の様子を写し、一瞬で消えた。
「は?」
間抜けなオールド・オスマンの声が、学院長室に虚しく響いた。


「は?」
同じタイミングで同じ言葉を発するものが一人。ヒースである。
彼の脳裏に突然豊かな白髭を蓄えた老人の顔が浮かんだのだ。
“カウンター・センス”。探知に属する魔法を掛けられた場合、その魔法を打ち消し、探ったものが誰か知らせてくれる魔法だ。
一度掛けておけば眠っても発動するまで効果が維持される。
ヒースは以前、これを使わなかったために使い魔を失い、自らも生死の境を彷徨って以来、常に使っておくのを心がけていた。
それが発動したのだ。
「どうしたのよ、突然間抜けな声上げて」
「いや……なぁ、立派な白髭蓄えて髪の毛全部白髪なセクハラを恒常的にしてそうな爺さん知らんか?」
ルイズに話しかけられ、ヒースは先ほど脳裏に浮かんだ年寄りの容姿を説明する。
「……オールド・オスマンのこと? この学院の学院長だけど、あんた何で知ってるの?」
「いや、ならいい……遠見の類か」
勝手に納得し、ぼそりと何かを言った後黙ったヒースにルイズは不審気な顔を見せるが、気にしたところでしょうがないので視線を自らの使い魔へ向けた。
勝負は、佳境へと入っていた。
ギーシュが作り出したゴーレムも既に残り四体になっており、その四体もところどころへこんだり捻じ曲がっていたりボロボロだ。
一方イリーナも流石に無傷とは行かず、手足に痛々しげな青アザが出来ているが、本人は指して気にした様子も無く戦っている。
ここまでくれば誰の目にも明らかだ。
ギーシュは負け、平民が勝つ、しかも素手で。
「僕が負ける? 素手の平民に? ……冗談じゃない! 僕はメイジだ! 誇り高き名門グラモンの末弟! 負けるわけには、いかない!」
ギーシュはそう叫ぶと、一度ワルキューレを下がらせた。
皆が皆、何をするのかと思っていると、ギーシュは杖である薔薇の造花を振るい、四つの武器を作り出した。
大剣、斧矛、長槍、大槌。いずれも普通の人間ではとても持てそうに無い、大きなものだ。
ギーシュはそれをワルキューレに持たせ、再度突撃を命じる。
「いけ! ワルキューレ! 押しつぶせぇぇぇ!!」
命じられたワルキューレが防御を無視し、最後の突撃を敢行する。
すでにまともにやっては勝ち目は無いと悟ったギーシュが、捨て身の一撃に出たのだ。
「むっ……ならば!」
そんな突撃に、イリーナはあえて自分から打って出た。
大剣を持ったワルキューレへ自ら突っ込み、剣が振るわれる前に素早く柄を掴む。
そしてワルキューレの腹へ足を掛け、手袋に隠れた左手のルーンが光り、腕ごと大剣を奪い取った。
「なっ!? だが僕の勝ちだ!!」
ギーシュの顔が驚愕に包まるも、無理矢理武器を奪ったイリーナの体勢は崩れている。
残る三体のワルキューレが武器を叩き込み、終わる。
誰もがそう思った、次の瞬間。風がギーシュを打ちつけた。
崩れた無理な体勢から振るわれたイリーナの一撃は、残る三体のワルキューレを文字通り粉砕し、振るった剣圧が10メイルは離れたギーシュに届いたのだ。
腰が抜け、地面に尻から座るギーシュ。誰もが、目を見開いてた。
この戦いを見ていた風上のマリコルヌはのちにこう語る。
「見えなかったよ。離れて見てた僕でさえ剣を振ったと思ったらゴーレムが砕け散ってた、って認識なんだ。
近くで見てたギーシュなんて何が起こったのかわからなかったんじゃないかな?」と。
ちなみに同じくヒースも唖然とした顔をしており、何より一番驚いているのは振るったイリーナ本人のようだった。
今までの自分ではありえない、圧倒的な剣速と威力。
あまりの威力に振るった青銅の大剣がゴーレム同様粉砕されている。
「え、えーっと……兎に角! 貴方のパペットゴーレムは全て倒しました! まだ何か手があるのなら立って下さい! 無いのならば!」
イリーナが折れた大剣をギーシュへ突きつける。するとギーシュは今、その事実に気がついたかのように辺りを見回し。
「ま、参った……」
敗北を認めた。
ヴェストリ広場はおろか、学院中へ聞こえるのではないかと言うほどの歓声が巻き起こる。
「ギーシュが負けたぞ! 何だあの最後の一撃!」
「いや、それよりも素手で圧倒してたことのほうがすげぇ!」
「ばっか! 最後の一振りのほうがすげぇよ!」
見物をしていた野次馬たちの間から、次々とイリーナを称える声が上がる。
その賞賛を受ける少女は実に照れくさそうだ。
折れた大剣を片手に顔を赤らめ、もじもじとしている。
「な、大丈夫だったろ?」
「大丈夫だったけど……何なのよあの子。本当に人間?」
「時々俺も疑いそうになるが、間違いなく人間でカテゴリー女……のはずだ」
ルイズの質問に、自信なさ気にヒースが答える。
彼の中で少しばかりイリーナという妹分の種族定義が揺れているようだ。
そんな中、未だに腰を抜かしているギーシュにイリーナが駆け寄る。
「さ、約束ですよ。ルイズさんに謝ってください」
「あ、ああ……」
イリーナに引きずり起こされ、手を握られたままルイズの前に引きずられる。
その僅かな間にギーシュは考えていた。
この少女は何者なんだろう?
何故昨日出会ったばかりで、それも無理矢理つれてきた相手のためにここまでするのだろうか? と。
結局その答えは出るまえに、ギーシュはルイズの前に立つこととなった。
桃色の髪の少女の瞳が、ギーシュを見つめる。
「あ、いや、その、なんだね……ルイズ、馬鹿にしてすまなかった。このギーシュ・ド・グラモン、今までの非礼を詫びよう」
ギーシュは頭を深く下げ、謝罪の言葉を口にした。
「あー……そこまでしなくていいわよ。謝ってくれたなら、それでいいわ」
ルイズはどこかバツが悪そうに頬を掻き、今回の騒動を巻き起こした自らの使い魔を見つめた。
あの天真爛漫で穢れを知らなさそうな少女は、ギーシュが謝ったのを見たら満足したのか、今は観衆にポージングで答えている。
「ルイズ、彼女は何者なんだい? この僕のワルキューレを素手で倒して……最後は何が起こったのかさっぱりだった」
「そんなのこっちが聞きたいわよ」
ギーシュの質問に、ルイズは口を尖らせる。
魔法を使えるから大丈夫だろう、と送り込んだら魔法を一切使わず素手で勝ったあの少女。
その無茶苦茶っぷりに正体を知っていたら逆に教えて欲しいのはルイズだった。
「ん、なんだ。あいつが何者か知りたいのか。ならばこの俺様が教えてやろう! あいつの名はイリーナ・フォウリー! 俺様の妹分にしてファリスの猛女と呼ばれるカテゴリー一応女だ!」
「誰が一応ですか! ヒース兄さん!!」
「ちょ! まてイリーナ! やめろ! お前に本気で殴られたら俺様死ぬ! マジ死ぬ! いやー! やめ……ウギャー!!」
ヴェストリ広場に、悲鳴と共に笑いが木霊した。


その様子を映していた、遠見の鏡が効果を失い、ただの鏡となる。
一部始終……六体相手の乱戦となったあたりから見ていた二人は、顔を見合わせた。
「オールド・オスマン、あの平民、勝ってしまいましたが……」
「うむ」
「ギーシュ・ド・グラモンは一番レベルの低いドットメイジですが、それでもただの平民に一対一で遅れをとるとは思えません。
 素手で青銅のゴーレムを圧倒したのあの強さ、そして最後のあの動き! あんな平民見たことが無い! やはり彼女はガンダールヴ!!」
「うぅむむ……」
オールド・オスマンは唸る、長生きをして大抵の物事には動じない彼は、珍しく動揺していた。
「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」
「それには及ばん」
一言で、コルベールの意見を圧殺した。
「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇ったガンダールヴ!」
「戦争好きの王室連中にそんなもん渡すわけにはいかん、と言っておるのじゃよ。ミスタ・コルベール。この件は私が預かる、他言無用じゃ。無論、本人にもじゃ」
「は、はい! かしこまりました」
オールド・オスマンはそう告げると水パイプを口にした。
「のう、ミスタ・コルベール。最初、広場を映した際に遠見の鏡が突然消えたのは、なんでじゃろうな?」
「は? ……単なる操作ミスじゃないでしょうか?」
抜けた意見をほざくコルベールを無視し、オールド・オスマンはガンダールヴの少女ではなく、彼女と共に召喚されたメイジらしき青年のことを思い浮かべていた。



ガンダールヴの紋章
知名度=18
魔力付与者=「始祖」ブリミル
形状=左手の甲に現れる紋章
基本取引価格=売買不可能
魔力=手にした武器の使い方が分かる

この紋章を刻まれたものは手に取ったあらゆる武器の扱い方を瞬時に理解し、使いこなすことが出来ます。
これにより一時的にファイター技能5レベルもしくは現在のファイター技能レベル+2となり、いずれか高いほうを適用します。
また武器を手に取ると強力なフル・ポテンシャルが掛かり器用度、敏捷度、筋力が+12されます。
同時に、「身体能力」に属する魔法の影響を受けなくなります。
また感情を非常に高ぶらせることにより上昇する能力値が+12ではなく+18、+24になることもあります。
同様に低めの場合+6になる事もあります。その際の基準はGMで判断してください。
ただし紋章の発動は人間の肉体に負担をもたらします。
そのため、紋章を発動させての戦闘では1ラウンドごとに能力上昇値を目標値にした生命抵抗力ロールを行い、失敗した場合は打撃力0の打撃力ロールの結果に追加ダメージ0を加えたダメージを受けます。
これは冒険者レベルを含むあらゆる減点が不可能で、クリティカルは発生しません。
紋章の発動をやめた次のラウンドも、生命抵抗力ロールは行ってください。
その場合はファイター技能の一時上昇による生命抵抗力の上昇が含まれないことに注意してください。
これら以外にもガンダールヴの紋章には知られざる魔力が秘められていると考えられています。
洗脳とか。

ワルキューレ
モンスターレベル=4
知名度=12(ただしトリステイン魔法学院二年生は必ず知っている)
敏捷度=12 移動速度=14
出現数=単独~七体 出現頻度=ギーシュ次第
知能=命令を聞く 反応=命令による
攻撃点=腕:12(5) 打撃点=9
    武器:12(5)打撃点=10
回避点=12(5)   防御点=7
生命点/抵抗値=14/12(5)
精神点/抵抗値=―/12(5)
特殊能力=精神的な攻撃は無効
     毒、病気に冒されない
棲息地=ギーシュが作った場所
言語=なし
知覚=擬似

ワルキューレはギーシュの杖の花びらによって作られた青銅製のパペットゴーレムです。
武装が可能で単純な作業と戦闘を行うことが出来ます。


ジャイアントリザード:2mぐらいのでっかいトカゲ、かなり獰猛。皮膚を赤くして尻尾に炎を灯せばフレイムにそっくり
スキュラ:美しい女性の上半身に、六本の大蛇と十二本のタコの触手が生えた魔獣。上半身だけで男誘って水に引きずり込んで食べる
バジリスク:石化の視線と毒の血液をもった魔獣。アレクラストではでっかい
パペットゴーレム:簡易的に作られたゴーレムのこと
ストーンサーバント:石ころから作られたパペットゴーレム。動きは鈍重だがパワーは凄まじい
ボーンサーバント:骨から作られたパペットゴーレム。力はあまりないがかなり複雑な命令が可能で細やかな作業に適している
カウンターセンス:古代語魔法。探知に属する魔法をかけられたらそいつの顔が脳裏をよぎる。遠見のような特定の人物をみるようなものでなくても範囲に入ってしまえば発動する


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