あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

へっぽこ冒険者と虚無の魔法使い 第2話(前編)

第2話「決闘!なんでも撲殺団」(前編)

イリーナ・フォウリーの朝は早い。
日の出と共に目を覚まし、準備もそこそこに早朝トレーニングに出かけるのが日課だ。
「……知らない天井です」
イリーナは暫しボーっと天井を眺め、昨日、別大陸に召喚されたのだと思い出す。
意識をはっきりさせると、朝のお祈りを始める。
お祈りが終わると、イリーナはベッドですやすやと寝息を立てている主を見やる。
昨夜指示された洗濯をするために脱ぎ散らかされた服と下着を纏め、両手に抱える。
「……そういえば、洗濯場はどこ?」
ルイズを起し、尋ねようかと考えるが、気持ち良さそうに寝息を立てているのを起こすのは忍びなく、イリーナは部屋の外へ出た。
廊下にはマントを被り眠るヒースがいたが、洗濯するのは下着も混じった女物だ。
手伝わせるわけにもいかず、そのまま寝かせておき、イリーナは洗濯場を探し始めた。

洗濯場はあっさりと見つかった。
井戸の側にあるだろうと当たりをつけたのが、見事的中したのだ。
先客として、メイド服を着た黒髪の少女が大量のシーツを洗っていた。
「おはようございます! すみませんが、洗濯板と桶をお借りしたいです」
イリーナがメイドの少女に元気に挨拶をする。
「あ、おはようございます。板と桶でしたらそちらにありますよ」
「ありがとうございます」
メイドの少女に微笑まれ、桶と板を持ち、井戸の水を汲み上げ、イリーナは洗濯を開始する。
ビリッ「あっ」バリッ「ああっ」ブチッ「あああっ!」
イリーナ・フォウリーは怪力である。
力が有り余って様々なものを壊し、皿洗いしようものなら大半を割ってしまうほどだ。
端的に言えば繊細な作業が大の苦手だったりする。
そんな彼女が服を洗えば破ってしまうのは、コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実と言えよう。
「ど、どうしよう……怒られる、よね?」
「その……私が代わりにやりましょうか?」
その破壊劇を横目に見ていたメイドが、イリーナに声を掛ける。
微妙に顔が引き攣っているのはご愛嬌。
「え、あの、その……いいんですか?お仕事まだ一杯残ってるみたいですし」
「構いませんよ、困ったときはお互い様ですから」
服は盛大に破れ、残っているのは下着だけだ。
大した労力ではないとメイドの少女が下着を受け取り、洗い始める。
「うう、ありがとうございます。私、昔からこういう作業はどうも苦手で……」
「誰にでも得手不得手はありますし、そのうち慣れますよ。はい、終わりました。干す場所はあちらです」
洗い終わった下着をイリーナに渡し、メイドは少し離れた場所を指差す。
「本当にありがとうございます。そういえば、自己紹介がまだでした。私はイリーナ・フォウリーと申します、先日ルイズさんに召喚されたものです」
イリーナが深々と頭を下げ、丁寧にお辞儀する。
「ああ、ではあなたがミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
イリーナに自己紹介をされ、メイドはぽんっと手を打つ。
「知ってるんですか?」
「はい。なんでも召喚の儀式で平民を呼び出したと、噂になっていましたわ。
 あ、申し遅れました、私はこの学院でご奉公させていただいているシエスタと申します」
シエスタがにっこりと微笑み、答える。
「それと……洗濯物があるのなら、私に申し付けてください。毎朝ここでシーツを洗ってますから、そのついでです」
「で、でも、シエスタさん、流石にそこまでは悪いと思います」
「大丈夫ですよ、多少洗濯物が増えても対して手間は変わりませんし。それに、正直あの洗濯を見た後ですと……」
そこまでしてもらうわけには、というイリーナに対し、見ていられない、とシエスタは返す。
「……でしたら、よろしくお願いします。あの、でも一方的に手伝ってもらうのも悪いですし、何か手伝えることはありませんか?」
「それなら、向こうに洗う前のシーツが置いてあるので持って来てください。かなり量があるので気をつけてくださいね」
「はい!」
そういってイリーナは元気そうに走って行く。
この後、普通なら数度に小分けして運ぶ量を一度に運び、シエスタを驚かせるのだが割愛する。

シエスタの洗濯の手伝い、さらに軽めの早朝トレーニング――片手腕立て伏せ両方百回、スクワット三百回、腹筋二百回――を済まし戻る頃には、ちらほらと生徒たちの姿も目撃されるようになっていた。
特に起こせ、という指示も無く、そもそも朝食や授業などの時間がいつなのか分からないイリーナは、まぁいいか、と考え部屋に戻ろうとすると、奇妙な光景に出くわした。
廊下でルイズと赤毛の女が口論をしている、その側には大きなトカゲらしき生き物に噛まれているヒースがいた。
イリーナはそのトカゲをかつてあちこちを旅していた父から聞いた、ジャイアントリザードだと推測し、ヒースを助けようとしたが、すぐにやめた。
何せ「ははは~こいつぅ~、おイタがすぎるぞぉ~」と物凄い楽しそうなのだ。
動物好きのヒースの悪癖だ、明らかに噛まれて血も出ているのだが本人は気にした様子も無い。
「事情はよく分かりませんが喧嘩はいけませーん!」
ヒースを放って置いても問題は無いと判断し、口論を続けている二人にイリーナは割って入る。
「あんた……ご主人様を起こさないで朝っぱらからどこ行ってたのよ!」
口論を中断し、ルイズは割って入ったイリーナに詰め寄った。
「どこって、洗濯と早朝トレーニングです。あと起こせって言われませんでしたし……」
「うっ……と、兎に角! 朝は私より先に起きて起こすこと! いいわね!」
ルイズは痛いところを突かれ、言葉に詰まり、声を荒げ誤魔化す。
「ふぅん……こっちがあなたの使い魔?」
「そうよ、何か文句でもあるの、キュルケ」
キュルケと呼ばれた赤毛の女がイリーナを見やり、突然笑い出す。
「あっはっは! 本当に平民を呼び出して使い魔にしたのね! 凄いじゃない、流石ゼロのルイズね」
普段のルイズならば、ここで怒り出すのだが、今日のルイズは違った。
「っは、笑いたければ笑っていればいいわ。私の使い魔はあんたのサラマンダーと違って見た目通りじゃないんだから」
魔法が使える使い魔、この他に類を見ない事実がルイズの自尊心を満たしていた。
そうなれば嘲笑も勘違いした発言として聞き流すことも、容易であった。
「へぇ……見た目通りじゃない、ね。まぁいいわ、それはおいおい見せてもらうとして、あんまりのんびりしてると朝食に遅れるわよ。
 ほら、フレイム、いつまでもそんなの噛んでないで行くわよ」
普段と違うルイズに少したじろぐも、キュルケはニヤニヤしながら軽い足取りで廊下を歩いていき、フレイムもその後に続く。
そんな一人と一匹を見送り、血を流しているヒースを介抱していたイリーナはルイズにあれは誰? という視線を向けた。
「キュルケよ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。嫌味な女、覚えなくても良いわよ」
「はぁ……ところでゼロって何ですか?」
「単なる二つ名よ、そんなことよりさっさと行くわよ、遅れたら御飯抜きだからね!」
御飯抜きという言葉に慌てて二人は歩き出した。



アルヴィーズの食堂は広い。
生徒と教員皆一同に会し食事を取るのだから必然的にその広さは凄いものになる。
絢爛な飾り付けがされ、皿の一枚、ナイフの一本に至るまで高級品で埋め尽くされている。
料理も非常に豪華で、それをみたイリーナが思わず涎を垂らしそうになったのも仕方ないと言えよう。
「驚いた?」
「はい、驚きました。凄い美味しそうです」
「うむ、俺様にこそ相応しい豪勢な食事だ」
ふふん、と自慢げなルイズに、ちょっとずれた反応を二人がしたのは、良くも悪くも二人はやはり庶民なのだろう。
そんな二人を尻目にこの食堂の名前の由来、貴族としての教育を受ける場でもあるなどの説明をルイズは続ける。
ヒースはその説明を半ば聞き流し、イリーナに至っては料理に目を奪われ聞いてすら居ない。
「兎に角、このアルヴィーズの食堂には本当ならあんたたちみたいな平民は一生入れないの。
 そこを入れるよう取り計らった私に感謝してよね。ほら、椅子引いて」
豪勢な料理に顔が向きながら、器用にイリーナは椅子を引く。
引かれた椅子に座り、当然とばかりに礼の一つもルイズは言わないが、二人にはそれを気にする様子は無い。
「凄いですヒース兄さん!朝からこれならお昼や晩御飯は……ああ、涎が」
「朝食でこれだ、昼や夜は恐らくグレートでワンダホーなものが待っていることだろう」
そう言って二人はルイズの両隣に座ろうとする。と、そこでルイズから待ったが入った。
「ちょっと、あんたらの席はそこじゃないわ。そこ」
イリーナとヒースの視線が同時にルイズの指差すところへ動く。
「床ですね、ヒース兄さん」
「ああ、床だなイリーナ。俺様の目には床にテーブルにある料理とは比べ物にならないほど、
貧相な食事があるように見えるが」
「私も見えます、幻覚魔法でしょうか?」
その会話を聞いていたルイズはため息を吐く。
「あのね、本来使い魔は外で食べるの。あんたたちは私の計らいで床、食べ物も人間用。感謝しなさいよ?」


イリーナとヒースは当初よりちょっと豪勢になった料理を頬張っている。
あの後「こんな貧相な食事は断固として抗議する! つか足りんわぁ!!」とまずヒースが咆えた。
そしてイリーナが半泣きになって周囲の目線を集めたため、ルイズが慌てて自分の食事の一部を分け与える、ということで決着がついた。
始祖ブリミルへの祈りの声が唱和する中、一人だけファリスに祈るイリーナにルイズは怪訝な目を向けたが、違う大陸から来たということを思い出し、追求はしなかった。
「ヒース兄さん、足りません」
「ほれ、俺様の鳥肉をやろう。感謝するんだぞ」
ヒースはフォークに刺した鳥肉をイリーナの前に差し出す。
するとイリーナは躊躇い無くそれに齧りつき、咀嚼する。
「おいしー、ありがとうございます、ヒース兄さん」
「はっはっは、崇めろ崇めろ、もっと感謝しろ」
そのやり取りをルイズは横目で見やり、仲良いなぁと思いつつ、故郷の優しいほうの姉を思い出していた。


朝食が終わると授業が始まる。
それがトリステイン魔法学院における時間の流れだ。
教室に入り、ヒースは中を見回す。今朝出会ったキュルケが男子たちに囲まれ、ちやほやされている。
じゃれ合ったフレイムは椅子の下で昼寝を決め込んでいた。
その他にもフクロウや窓から教室を覗く巨大な蛇、猫やカラスなど統一性の無い生き物がぞろぞろといる。
人間の上半身にタコの下半身を持つものはヒースの知識がスキュラの同類と告げ、六歩足のトカゲはバジリスクの同類とも告げた。
「似てるようで微妙に違うのがまぁうじゃうじゃと…」
杖を片手にヒースはぼやく。
使い魔たちは害は無いと分かってるとは言え、あの手合いを相手にしてきた職業柄、あまり落ち着ける雰囲気ではない。
ついでに自分たちを見てくすくすと笑う生徒たちにも良い気分はしないと、ヒースは思った。
自分は慣れているが妹分はこの手の嘲笑には疎いのだから。
その嘲笑に気付いているのかいないのか、ルイズは機嫌良さそうに席に付き、ヒースもその隣に座ろうとしたところで、イリーナが硬直しているのに気付く。
「おい、イリーナ。どうした?」
「あ、あ、あ、あれ……」
そう言ってイリーナが指差す先をヒースとルイズは目線で追う。
するとそこには一匹の巨大な目玉がどういう原理かぷかぷかと飛んでいた。
「バグベアーじゃない。何、あんたああいうの苦手なの?」
空中に浮かぶ巨大な目玉は慣れないものならば、生理的嫌悪感を感じても仕方が無い、とルイズは考えたがヒースがそれを否定する。
「アー、確かにイリーナはあれは苦手だな、うん。だが安心しろ、今のお前は鎧も剣も無いし、あれはお前めがけて光線を撃って来ることも無い」
ヒースがイリーナの頭を撫でる。イリーナは半泣きだ。
一体過去にバグベアーで何があったのか疑問に思ったルイズだが、扉が開き先生が入ってくるとその疑問を考える暇がなくなった。
ルイズは当たり前のように席に座る二人に、メイジ用の席だ、と言いそうになったが、この二人がメイジだということを思い出し黙った。
例えメイジでも使い魔なのだから床に座らせてもいいのだが、先生が入ってきた今口論になることは避けたい。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」
シュヴルーズと名乗った教師は微笑みながら口を開き、一人だけ変わった使い魔を呼び出した生徒に気付いた。
「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね? ミス・ヴァリエール」
すると教室中がどっと笑いに包まれた。
「ゼロのルイズ! 召喚に失敗したからといってそこらへんの平民連れてくるなよ!」
一人の男子生徒がそうルイズをからかうが、ルイズは鼻で笑い返す。
「あら、あんたの貧相なフクロウより私の使い魔のほうがずっと上よ。かぜっぴきのマリコルヌ?」
ルイズがそうせせら笑うと、マリコルヌと呼ばれた少年は激昂した様子で机を叩き、立ち上がる。
「誰がかぜっぴきだ! 僕は風上のマリコルヌだ! 風邪なんて引いてないぞ! ゼロのルイズ!」
「ゼロゼロうるさいわ! あんたのガラガラ声は、まるで風邪引いたみたいなのよ!!」
ルイズも立ち上がり、睨みあいになる様子をイリーナとヒースがぽかーんと眺めていると、シュヴルーズが手にした小ぶりの杖を振った。
するとルイズとマリコルヌは突然すとん、と自らの意思に逆らうかのように席に座る。
「ミス・ヴァリエール、ミスタ・グランドプレ。みっともない口論はおやめなさい。 お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。分かりましたか?」
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきは中傷ですけど、ルイズのゼロは事実です」
教室のあちこちからくすくすと笑い声が漏れる。
シュヴルーズはため息を吐くと、杖を振るう。
するとくすくすと笑い声を漏らしている生徒たちの口に、どこからともなく現れた赤土の粘土が押し付けられた。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
そうシュヴルーズが厳しく言い放つと教室の笑い声はぴたっと止んだ。
「では、授業を始めます」
ごほん、と咳払いをし、シュヴルーズは杖を振るうと教壇の上にいくつかの石ころが現れた。
「私の二つ名は赤土。赤土のシュヴルーズです。
 『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。
 魔法の四大系統はもちろんご存知ですね?ミス・タバサ」
タバサと呼ばれた青い髪の少女は、読んでいた本からちらりと目を上げると、口を開いた。
「『風』『火』『水』『土』」
余分な言葉が一切無いあまりにも簡潔な言葉に、シュヴルーズは少し顔を引き攣らせつつも頷いた。

その後行われた説明は、ヒースにとって大変有意義なものだった。
この世界の魔法は四大魔術に近いもので構成されているということ。
今は失われてはいるが『虚無』という伝説の系統が存在すること。
魔法が広く深く、生活に関わっているということ。
どれも貴重な情報だった。
特にシュヴルーズが石ころを短い呪文と僅かな動作。
それだけで金属へ変じさせたのはイリーナだけでなくヒースをも驚愕させた。
「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
「違います、ただの真鍮です。ゴールドを錬金出来るのはスクウェアクラスのメイジだけです。
私はただの……トライアングルですから」
キラキラと光る金属に目の色を変えたキュルケが身を乗り出し尋ね、否定され、少し恥ずかしそうにしていた。
聞きなれない単語を聞いたヒースが眉を顰め、ルイズを突付く。
「なぁ、トライアングルとかスクウェアってのはなんだ?」
「何って、系統を足せる数のことに決まってるじゃない。それでメイジのレベルが決まるの。
あんたもメイジでしょう、知らないわけが……ああそうか、あんたら違う大陸から来たんだっけ?
あれ?……ということはあんたら系統魔法以外の魔法を使うの?まさか先住魔法?」
昨日は考える前に眠くなり、今朝は思い至らなかったが、始祖ブリミルは六千年前ハルケギニアに降り立って系統魔法をこの地の人々に伝えたのだ。
お互い全く知らない違う大陸ならば、系統魔法を知らなくともおかしくはない。
そして系統魔法以外の魔法と言えばルイズには先住魔法しか思い浮かばなかった。
「その先住魔法ってのが何なのかは知らんが、ハルケギニアの魔法とは毛色が違うのは事実だな。
で、系統魔法とかいうのを詳しく教えやがってください」
「ヒース兄さん、人に何かを尋ねるときはもっと丁寧にしないと駄目ですよ。
ハーフェン導師みたいに皆が温厚なわけじゃないんですから」
ヒースの丁寧なのか無礼なのか分からない微妙な言葉にイリーナが口を挟む。
ルイズは顔を少し引き攣らせながら、この僅かな付き合いの間にヒースの性格が分かってきて、一々突っ込んでいてはキリが無いと悟った。
ちなみにどっちにしろ授業中なので怒るわけにもいかない。
「あー、例えばね?『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、更に強力な呪文となるの」
「ほぅほぅ」
「『火』『土』のように、二系統を足せるのがラインメイジ。シュヴルーズ先生みたいに、『土』『土』『火』って三つ足せるのがトライアングルメイジ。先生方は皆トライアングルメイジよ。それでここまで言えば分かるだろうけど、四つ足せるのがスクウェアメイジ。これは滅多にいないわ」
「同じ系統二つ足す意味は?強化か?」
「そうよ、さっきシュヴルーズ先生も言ってたけどゴールドを作るには『土』『土』『土』『土』と足さないと駄目だからスクウェアじゃないと無理なのよ」
小声で説明をするルイズの言葉に、ふんふんと頷くヒース。
普段はふざけていても、魔術師ギルドに特待生として招かれるほどの頭脳だ。
たった一度の説明で系統魔法について理解を深めていた。
ちなみに隣で一緒に聞いていたイリーナは頭から煙を吹いて机に突っ伏している。
「なるほどな、俺様の優秀な灰色の脳味噌で理解したぞ。それでお前はいくつ足せるんだ?」
ルイズが先ほどまでの饒舌が鳴りを潜め、押し黙る。
そんな風に会話をしていると、流石に気付かれ、シュヴリーズに見咎められた。
「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい」
「は、はい! すみません……」
また周囲からくすくす笑いが漏れる。シュヴリーズがちらりと視線を動かすと、慌てて生徒たちは口を閉じる。
「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう。ここにある石ころを、何でも構いません。望む金属に錬金してごらんなさい」
「え? わたし?」
ルイズは困ったかのように指をもじもじさせ、立ち上がらない。
ヒースがその様子を不審に思っていると、キュルケがおずおずと手をあげた。
「あの、先生。危険ですからやめておいたほうが……」
「危険? 何故ですか?」
ただの錬金の授業で何の危険があるのか。シュヴルーズの目はそう語っていた。
「先生はルイズを教えるの初めてですよね?」
「ええ、ですが彼女は勤勉で大変な努力家と聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。周囲の目など気にせずやってみてください、失敗は誰にでもあります。失敗を恐れ、恥ずかしがっていては何も出来ませんよ?」
シュヴルーズがルイズに優しく語りかける。するとルイズは意を決したのか無言で立ち上がった。
「ルイズ、駄目、お願いだからやめて……」
キュルケが顔を蒼白にし、ルイズを止めようとする。
しかしルイズは無言で教室の前まで歩いて行き、シュヴリーズの前で宣言をした。
「やります」
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、心の中に強く思い浮かべるのです。何も難しい金属を思い浮かべる必要はありませんよ、最初は銅や鉛でも構わないのです」
柔和な笑みでシュヴリーズはルイズに笑いかけ、それを受けたルイズはこくりと頷き、手にした杖を振り上げる。
「そ、総員退避ー!」
「ヴァリエールだ! ゼロのルイズだ! 逃げろー!!」
「俺、この授業が終わったらあの子に告白するんだ……」
何事か口走り慌てて机の下に隠れる生徒たち。
その様子を見ていたイリーナとヒースは一瞬唖然とするが、狩人としての訓練を積んだヒースの第六感が危険を告げ、イリーナを引きずり倒し他の生徒同様机の下に隠れる。
そして次の瞬間、第六感が正しかったことを爆音でヒースは理解した。
爆音と爆風で驚いた使い魔たちがパニックを起こす。
ある使い魔は驚いてガラスを突き破り外へ飛び出し、ある使い魔はその突き破られた窓から入ってきた巨大な蛇に丸呑みにされ、ある使い魔はところ構わず怪光線を放つ。
「ああ、ラッキー! 俺のラッキーが喰われたぁ!」
「衛生兵!衛生兵はいないのかー!?」
「目がぁ、目がぁぁぁぁぁ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図というのを、簡易的に再現したら今の教室がぴったりだろう。
「なにやら、凄いことになっているな。錬金というのは爆発するものなのか?」
「明らかに失敗だと思います、ヒース兄さん」
イリーナとヒースが机の下から顔を覗かせ、惨状を目の当たりにして呟く。
爆心地であるルイズの目の前は、机が粉々に砕け、爆風をモロに浴びたのかシュヴルーズが煤まみれで倒れ、痙攣していた。意識は無いようだ。
同じく倒れていたルイズは意識があるようで立ち上がったが、実に無残な格好だった。
煤だらけで真っ黒な上、服の所々が破れ、下着まで見えている。
ルイズは無事だったハンカチを取り出し、顔の煤をふき取ると教室を見回し、口を開いた。
「ちょっと失敗したみたいね」
てへっ、とでも言いたげな口調だったためか、もしくはそんなことは関係なく生徒たちがルイズに次々と罵声を浴びせる。
「どこがちょっとだゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率、殆どゼロじゃないか!」
「失礼ね! 昨日二回成功したわよ!」
「今まで失敗した回数考えろー!」
そのやり取りを聞き、二人は『ゼロ』の意味を深く理解するのだった。


教室を目茶目茶にしたルイズには当然のごとく罰が下った。片付けである。
片付けにおいて魔法の使用を禁止されることについては、ルイズにとって罰とは言えなかったがそれでも罰には違いない。
シュヴルーズは二時間後には目を覚まし、授業を再開しルイズを励ましたが、その日、錬金の授業が行われることはなかった。
なお、片付けはイリーナがほぼ一人でやることとなった。
ルイズは使い魔がいるのだから任せるのが当然といい、ヒースは力仕事はお前の仕事だ、と言って碌に働かないのだ。
しかし重い机や新しいガラスの運び込みはイリーナにとって苦ではなく、元々掃除も嫌いではない。ただ力余って壊してしまうことがあるだけだ。
幸いガラスのはめ込みだけは割られたら面倒だから、とヒースが担当した。
ルイズはしぶしぶ机の煤をふき取っていた。
そうして何だかんだで掃除が終わった頃にはもう昼休み前で、三人は慌てて食堂に向かう。
その間、ルイズは不機嫌そうに黙っていて、ヒースは特に何も言わないのだから、イリーナが慌ててフォローする。
「だ、誰にでも失敗はありますよ。私もよく失敗はしますし、ヒース兄さんだっていつも眠りの雲を失敗してばかりですし」
「イリーナ」
ヒースがイリーナを止める。その顔は、普段のおちゃらけだ雰囲気が無く珍しく真剣だ。
「……あんたは何も言わないの?」
性格からして、からかってくると思っていたのにも関わらず、何も言わないヒースに疑念を持ったのか、ルイズがヒースを横目に見た。
そんなルイズの問いかけにヒースは、あーとかうーとかんーとか少し悩むそぶりを見せた後、口を開く。
「同情して欲しいのか?それとも素直になじって欲しいのか?どっちにしろ、今のお前は何言われたところで、悪いほうにしか取れんだろ」
それだけ言うと、ヒースは口を閉じた。重い空気が流れ、イリーナがおろおろと視線を二人の間で行き来させている。
「……さい」
「あ?」
「うるさいって言ったのよ!何よ、分かったようなこと言って!平民のくせに!あんたもよ!二人ともお昼ごはん抜き!!」
ルイズはそう叫ぶと、振り返りもせず走り去った。
「……ヒース兄さん、その、少し正直に言いすぎなんじゃありませんか?」
非難が篭った視線でイリーナはヒースを見つめ、呟く。ヒースは頭をガリガリと掻き、ため息を吐いた。
「正直を美徳とするファリスの神官らしくないぞ、イリーナ。ああいうやつには下手な同情や慰めは逆効果だ、暫くすれば頭も冷えるだろ」
イリーナが押し黙る。顔を伏せ、何事か暫く考えた後、顔を上げ言葉を発する。
「御飯、どうしましょう」
「あ」
今度はヒースが押し黙る番だった。


「お腹空きましたね、ヒース兄さん」
「ああ、腹が減ったな、イリーナ」
アルヴィーズの食堂前でヒースとイリーナは仲良くお腹を鳴らしていた。
それなりに体格の良いヒースと、燃費最悪なイリーナだ、若いことも相まって一食抜くとかなり辛い。
「こうなりゃ狩りにでも出かけるか? 確か近くに森があるの昨日見たぞ」
「それなら雌鹿がいいです、ヒース兄さん」
だがそこは旅慣れた熟練の冒険者+狩人だ。
御飯が無いのなら狩ってくればいいじゃない、とばかりに狩りの相談をし始める二人。
弓矢が無いことに気付くのは一体いつごろだろうか。
「あの……どうなさいました?」
捨てる神あれば拾う神あり。
そんな二人に救いの女神が降臨したのは、それは運命が定めたことなのだろう。
「シエスタさん?」
振り向けた先には、大きな銀のトレイを持ったシエスタが心配そうに立っていた。
「……やぁお嬢さ――ぐふぉ!」
イリーナはナンパしようとするヒースのわき腹に肘鉄を叩き込みつつにこやかに対応した。
「それがその……ルイズさんにお昼御飯抜かされちゃいまして」
たはは、と笑いながらイリーナはお腹を押さえる。
可愛らしい音がイリーナの腹部から盛大に鳴った。
ちなみにヒースは痛みに悶えお腹を押さえている。
「それは……こちらへいらしてください。賄いですけど、お出しする事が出来ますから」
この提案に、飛びつかない二人ではなかった。



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